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白銀の討ち手

己の妄想をネットという広大な海へ送り出すことに若干躊躇いつつも実行してみるブログ。現在は『白銀の討ち手』という灼眼のシャナの二次小説をarcadiaさんにて執筆中。

【ブリジットという名の少女】 Her name is Charis!! 一覧まとめ 【三次創作】 

Her name is Charis! !

 漫画『ガンスリンガー・ガール』の二次創作小説『ブリジットという名の少女』の三次創作でございます。今までまとめを作ってなかったので、続きが完成間近なこのタイミングで一覧をまとめた記事を作成しました。余裕がある時に作っておかないと。
 この拙作は、僕が『ブリジットという名の少女』を読んで深く感銘を受けた結果、ただただ「ブリジットを救いたい!」という情念に突き動かされてハイテンションのままに書いたものです。事後承諾にはなりましたが、作者様であるH&Kさんには許可も頂けました。その懐の広さに感謝です。ああ、H&Kさん。貴方と直にあっていっぱいお話をお伺いしたいです……。
 偉大なるH&Kの作品には完成度もストーリーも伏線も何もかもが遠く及ばないですが、もしも、ブリジットの物語にIFの世界を望まれる方がおられましたら、読んで頂ければ幸いです。鬱クラッシャーとTS娘の融合作品、ぜひご堪能くだしあ!






<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1
外伝 後編その2
外伝 後編その3
外伝 後編その4

<名状しがたいオマケ的な何か>

ちょっとしたコネタ
ヒャーリスプロフィール
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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【試作】勇者パーティーをクビにされた村人、女騎士になる【後編】 

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「クリスを追い出したって……貴方たち、正気なの!?」

 激情を抑えられず、私は吠えた。両手がぶるぶると怒りに震える。自分の顔が真っ赤に燃えていることを自覚しながら、私は3人に詰め寄る。武闘家と魔法使いが気まずそうに顔を逸らす様子にも苛立ったが、それよりなにより私の怒りに油を注いだのは彼らを率いるリーダーのはずの勇者の態度だった。

「……クリスは、限界だった。君だってわかってただろ。僕らに着いてくるのも限界だったんだ。このままだとクリスは死んでしまう。だから……」
「それはパーティーを自発的に出ていくように仕向けたことの言い訳になりはしないわ。自分も納得させられない答えなんかその辺の犬にでも食べさせなさい。クリスがどれだけこのパーティーのために頑張っていたか、貢献していたか、知らないなんて言わせないわ」

 こんな辛辣な言い草、王立協会の神父が聞いたら卒倒するかもしれない。でも、言わずにはいられなかった。示し合わせていた合流地点に来てみれば、一番会いたかったクリスがいなかった。その理由を尋ねてみると、3人とも言いにくそうに目を泳がせるばかり。嫌な予感がして問い詰めれば、このザマだ。武闘家と魔法使いがクリスをよく思っていないことはわかっていた。この二人は自分の力を過信して増長している節がある。自分が一人でなんでも出来て、不死身であるかのように振る舞っている。自分たちと同じように戦えないクリスを厄介者としか見ていない。でも、ハントはそうではないと信じていた。幼馴染みであり、クリスとは兄弟のような間柄であるハントならクリスのことを理解し、クリスがいてくれるからこそこのパーティーが成り立っていることを自覚していると信頼していた。だけど、それは間違いだった。燃え盛る怒りの感情が失望へと移ろっていく。その変化を感じ取ったのだろうハントの奥歯がギリッと音を立てた。

「じゃ、じゃあ、どう言えばよかったんだよ!“お前はついて行けないから村に帰ってくれ”って、クリスに言えばよかったのか!」
「そうよ」

 私の断言にハントが目を見開き、後ずさる。全然、駄目だ。ハントはこういうところがある。内面が成長できていない。勇者だなんだと持て囃されても、どんなに肉体が強くなっても、ハントの心は幼いままだ。それも当然かも知れない。ハントが戦いだけに集中できるように、クリスが面倒なことを一手に引き受けてくれていたからだ。ハントは気づかないままクリスに依存しきっていた。それこそ、ハントにその自覚がないほどに。誰かに対してそこまで献身的になれるクリスの方が、よっぽど勇者らしい。

「そう伝えるべきだったのよ。クリスは、他でもない貴方がそう言ったならきっと理解してくれたわ。でも、貴方にはそれを告げる勇気がなかった。勇気がないことを隠して、遠回しな言い方でクリスを傷つけた。貴方を支え続けてくれた大事な人を、深く深く傷つけた」

 この、意気地なし。言外に滲ませた非難を正確に受け止めたハントが後悔に俯く。おおかた、魔法使いと武闘家の口車に乗せられたのだろう。いや、乗っかったというべきか。自分でクリスにパーティーを抜けるよう告げる度胸がなかったから、クリスが自分で出ていくように仕向けた。たとえ無自覚にそれを行ったのだとしても、許されることじゃない。それはとてもとても卑怯なことだ。

「……悪かったと、思ってるよ。だからこうして、彼女に魔法で探してもらってるんじゃないか」

 ハントが魔法使いをすがるような目で見る。魔法使いは空中に浮かぶ水晶玉を覗き込んでいた。探したい対象の魔力の流れを追跡する捜索魔法だ。若干16歳にして王国最高学府の王立魔法学院を史上最年少飛び級主席で卒業したという天才は、我関せずという態度で保身を図りながら水晶玉をいじっていた。その不誠実な態度にも苛立ちが募るけど、そこは腐っても主席であって、彼女の捜索魔法は精度も範囲もピカイチだ。すぐにクリスを見つけ出すだろう。そうしたらすぐにクリスを追いかけて、3人に土下座で謝罪させてパーティーに戻ってもらう。このパーティーには、クリスが考えている以上に彼自身が必要不可欠なのだ。我の強いメンバーをまとめながら組織だった行動を可能にできるのはクリスあってこそなのだから。

「───うそ」

 魔法使いの横顔からザアッと血の気が引いた。冷淡だった表情が抜け落ちて、衝撃と悲痛が顔面を埋め尽くす。


(途中)

【試作】勇者パーティーをクビにされた雑用係、女騎士となる【途中】 

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息抜きに書いてみる。





「お願いだ。僕を支えてくれ、ウツメ」

「ああ、タケミ。お前が立派な勇者になれるように、俺がどこまでも付き合ってやる」


 俺たちは、同じ村の出身だった。俺が15歳、タケミが14歳の時、偶然にも村を訪れた高位神官が、夕食のたわむれに俺たちに神託と呼ばれるクラス判定を授けた。神聖書のまっさらなページに運命の言葉が浮き上がる。その結果に、神官は酒酔いも吹き飛んで驚愕した。



───この者こそ、今代の勇者の片翼なり。汝、女の勇者を捜すべし。さすれば魔王を妥当せしめよう。



 なんと、タケミが伝説の『勇者』のクラスを運命づけられていることがわかったのだ。百年に一人現れるか現れないかという、魔族を圧倒できる人類唯一のクラス。しかも、千年間も倒せていない魔王すら倒す可能性を秘めているという。山奥の小さな村は狂ったように湧き立った。14歳の少年を胴上げし、村の誇りだと褒めたたえた。……そう、タケミだけ。俺のクラスはというと、ただの『大工の村人』だった。そんなもの、わざわざクラス判定をされなくてもわかっている。俺の家系は代々大工だったのだから。俺も村に一人しかいない大工職人であり、俺を残して死んだ父親も同じだった。親父は大工仕事の最中に事故で死んだ。爺さんも村に一つしか無い大水車の修理中に死んだらしいし、ひい爺さんは橋を作ってる最中に死んだという。村のために死んだも同然だが、ポツンと小さな墓を見ればとてもじゃないが英雄扱いとは呼べない。貧しい村だから誰かを特別扱いすることが出来なかったのだとしても、15歳の子供を修理だなんだと昼夜関わらず顎でこき使うのは理不尽に過ぎる。こんな村、機会さえあれば出ていきたいと思っていた。だが、選ばれたのはタケミ一人だった。熱狂する村人の渦から弾き出され、俺はいじけそうになった。俺と同じような境遇のタケミとは幼馴染でもあり、歳が一歳下ということで弟のようにも思っていたからだ。いつも俺の後ろについて回っていたタケミが持て囃されていることに嫉妬まで抱いてしまった。だが、そんな俺に手を差し伸べたのは、タケミだった。いや、今思えば、逆に手を挿し伸ばして欲しかったのだろう。アイツは迷子のような表情で、俺を勇者パーティーの最初の一人に選んだ。突然、お前は勇者だと言われて一番混乱していたのは、タケミ自身だったのだ。アイツはまだ子供だった。そして、俺は兄貴であり、家族も同然だった。導いてくれる、支えてくれる者を欲していた。俺は頼られたことが嬉しかった。兄貴分として、タケミをどこまでも支えてやろうと心に誓った。




「アンタ、もうこのパーティーに必要ないわよ」

「ああ。足手まといはおとなしく田舎に帰っちまいな。貴殿もそう思うよな、勇者ウツメ殿!」




 あざ笑う二人の声が遠くに聞こえた気がした。二人は、女勇者を捜す旅の途中で仲間になった魔法使いと武闘家だった。二人とも己のクラスを使いこなしていて、若くて腕が立ち、戦いのセンスは王国騎士の精鋭なみだった。『勇者』であるタケミと同じパーティーに入れば、より多くの魔族を倒し、勇者の片割れを見つけた末には人類の宿敵である魔王をも打倒できると考えて合流してくれたのだ。事実、俺たちは数あるパーティーのなかでも最強と言っても差し支えない実力となった。魔王軍に責められて劣勢の極みだった騎士団に加勢し、全滅寸前の様相から一気に逆転に導いたこともあった。魔王軍四天王の一人を相手にして、倒すまでにはいかないまでも撃退することもできた。そんなことが出来た人間は今までいなかった。村を飛び出して4年。パーティーが四人になって1年。順調に経験値とレベルを上げるパーティーは向かうところ敵なし、飛ぶ鳥を落とす勢いで名を挙げていった。……やはり、俺を除いて。当然だ。『村人』の俺は、本来戦いには向いていない。持って生まれた自分のクラスと違うことをしていても、レベルはなかなか上がらなかった。次第に他のパーティーメンバーとの間には歴然とした力の差が生まれていった。仲間が平気で倒せる魔族にも苦戦し、疲れを知らずに突き進む仲間たちについていくことが出来ずにパーティー全体の行動を遅延させてしまうことも多くなった。最初は歩調を合わせたり慰めてくれていた魔法使いや武闘家も、次第に俺を捨て置いて先に進むようになった。それも仕方がないと弁えた。力不足であることは自分でも痛いほど理解していた。だからこそ、他のメンバーが出来ないことを懸命にやった。補給品の管理、武器防具の手入れ、旅に必要な物資の手配、関係者との協議や折衝。俺が出来ることはなんでもやった。何日徹夜することになろうと、不摂生がたたって吐血を吐こうと、俺は支え続けた。すべては、タケミとの約束を果たすために。



「僕も……そう、思う」



 だからこそ、タケミの漏らしたその呟きを信じることが出来なかった。今までやってきたこと全てを否定されたのだ。目の前が真っ暗になり、気が付けば、俺は一人でフラフラと夜の森を彷徨っていた。アイテムも装備も全て置いてきた。魔法使いから「アンタには過ぎた装備よ」と言われ、放心する俺は反論する気力もなく黙ってその場を後にしたのだ。タケミが引き留めてくれることを願ったが、ついぞ望む声が俺の背中に掛けられることはなかった。降り始めた豪雨が責め苦のように肩を叩きつける。


(どうしてだ、タケミ?)


 心中のタケミに問いかけるが、黙するばかりで答えは返ってこない。たしかに、最近のタケミは俺と話すことを避けるようになっていた。俺も、忙しくなっていくパーティーの活動を支えるために奔走するなかでウツメとまともに会話をする余裕もなくなっていた。以前は「手伝えることはないか」と声をかけてきてくれた。だが、魔法使いと武闘家とともに行動することが多くなるにつれて、俺たちの間には距離感のようなものが生まれてきた。それでも、それは一時的なものに過ぎないと俺は過小評価していた。俺も死に物狂いで頑張っている。そんな俺のことを、みんなも、なによりタケミも認めてくれているのだと自負していた。それが勘違いだったのだと、今日初めてわかった。タケミが時おり見せる申し訳無さそうな表情も、今思えば憐れみのそれだったのか。地面を踏みしめる感触すら遠くに感じる。まるで地面そのものがないような───


「しまった!」


 後悔したときには遅い。パーティーメンバーとの関係も、崖から転げ落ちたときも。松明すら持たずに真夜中の森を歩き進むなど自殺行為だったのだ。雨でぬかるんだ地面に足を滑らせても、自業自得だ。滑り台のような崖の斜面を転がり落ちていきながら頭の片隅では冷たい後悔が募っていた。


「あ、脚が……!」


 ふうふうと肩で息をして激痛をなんとか制御しながら自身の状況を分析する。代々、大工家系として受け継がれてきた頑健な肉体がなければ、とっくに死んでいただろう。反射的に身体を丸めて落ちたことが幸いしたのだろう。それに運もよかった。裂傷や打撲や捻挫ばかりだが、骨が折れたのは片足だけだ。惜しむらくは、運をここで使い果たしてしまったことか。見上げてみると、さっきよりも星が遠く思えた。かなり下に落ちたらしい。「森のなかには“死の谷”がある」と近くの村で聞いたが、失念してしまっていた。よく生き残れたものだと神に感謝しかけたが、どんな御意思で俺を生き残らせたのかその大意を図りかね、祈りの手を止めた。勇者パーティーをクビにされた人間に、神がなにを望むというのか。


「ん?洞窟、か?」


 暗闇に目が慣れてきたところで、目の前に洞窟が口を開けていることが分かった。高さ、横幅ともにせいぜい俺の身長二人分くらいだが、やけに綺麗にくり貫かれていることが気になった。まるで熱したバターナイフでバターを削り取るように滑らかな壁面はいかにも人工的だ。まさか、洞窟自体が人工物なのだろうか。しかもこんな谷の底に。そんなもの聞いたことがない。元大工という技術者としての興味がわいた。それに、負傷したままこんなところにいては、狼といった野生動物や魔族の餌になってしまう。この雨を凌がないと凍え死ぬことにもなる。洞窟のなかの様子を耳をすませて窺ってみるが、物音ひとつしなかった。ひとまず安心すると、折れた足を固定するために手早く応急処置を施す。「魔力の無駄だから」といって俺には回復魔法を施してくれようとしなかった魔法使いのせいでこういった医療の技術を身につけることができたのは、感謝するべきかしないべきか。複雑な気持ちと足を引きずりながら、俺は残った寿命を少しでも伸ばそうと、外敵から身を隠すために洞窟の奥へと進んでいった。


「……こ、こりゃあ……」


 なんて奇妙な巡りあわせなのだろう。目の前に突き立つものを前にして、俺は痛みも忘れて陶然とそれに魅入っていた。洞窟は奥に行けば行くほどより精緻にくり貫かれ、人間の手によるものとは思えないほど精確無比に整えられていた。どのような理屈によるものなのか、壁を埋め尽くす不可思議な苔はエメラルドグリーンの光を煌々と放ち、まるでオーロラが空気中に溶け込んでいるように明るい。音一つしない空間で、ひんやりとした大気は清浄極まり、肺の隅々まで浄化してくれそうだ。そんな神世のごとき場所にあって、それに負けじと神々しい迫力と気品を放ち台座に切っ先を突き立てている剣は、誰であっても言葉を失わずにはいられないほどの神秘的なオーラを纏っていた。


「古代文字、か」


 剣が突き立つ花崗岩の台座には、数百年も前に使われなくなった古代文字が刻まれていた。伝説の武具が眠るという遺跡に入るために懸命に勉強した甲斐が報われ、俺はそれを難なく読むことが出来た。


「“女騎士の剣、ここに|眠らせる《・・・・》。神のお戯れと精霊の加護を受けた世界最強の剣なり。次に此れを握る者よ、汝の新たなる行く末にどうか幸あらんことを”」


 眠らせる?言い回しに疑問が浮かぶが、俺の勉強不足に違いない。とにかく、この剣の出自を少しではあるが知ることが出来た。この世には神によって創られた武具がある。人類はその伝説の武具を喉から手が出るほど欲していたが、王家に伝わっているという伝説の兜以外に見つかったという話は聞いたことがない。だが、ここにあったのだ。古代文字の文面から察するに、かつて女騎士の手にあったのだろう。この洞窟の見事さからして、高名な女騎士が振るっていたに違いない。次にこの剣を振るう者のために、この人知れない洞窟に安置したのだろう。さぞや高潔な魂の持ち主だったに違いない。


「だけど……美しいな……」


 神剣のあまりの美麗さに痛覚は完全に吹き飛んでいた。柄頭にはめ込まれた宝石はダイヤモンドを遥かに超え、まるで天の川を内包しているかのような渦巻く輝きを秘めている。|握り《グリップ》の部分に使われている革は、数百年が経過しているだろうにさっき創られたばかりのように新品同然だ。もしや絶対に劣化しないというドラゴンの革なのか。鍔には目を細めなければ見えないほど精緻な紋様が完璧な左右対称を為して刻まれている。王家御用達の職人でもここまでは掘れまい。だが、それらを合しても剣身の完成度には敵うまい。いったい、どれほどの精錬を行えばこの域に達するのか。考えられないほど薄い刀身は向こう側が透けそうなのに、固い花崗岩に深々と突き立つ様相は強靭そのものだ。俺の技術者としての目は、これが間違いなく神の御業の賜であると断言していた。どれほど高温の炉があろうと、どれほど高品質の石灰石があろうと、人間には創れまい。これが伝説のミスリル金属なのか。歪みも刃こぼれも一切存在しないブレードに顔を近づければ、泉の水面のように俺の顔をそこに映し出す。今までの過労の祟ったしゃれこうべのような顔貌は怪我と泥で汚れて見れたものではない。目の前の聖剣の美しさと比べるべくもない酷さに、思わず鬱屈した笑みが浮かんだ。


「俺がタケミだったら……伝説の勇者だったら、きっとお前を手にとって振るってやれたんだけどな。でも、ここにいるのは『大工の村人』なんだ。しかも、死にかけの。とてもお前に相応しいものじゃない。ごめんな」


 俺はこの谷底で死ぬのだろう。そしてこの剣は再びこの地で眠り続けることになる。そのことに言いようもない情けなさを覚え、剣の前に膝をついてぎゅっと目を瞑った。それをきっかけに、無念の感情が溢れてくる。悔しかった。あんなに尽くしたのに、あんなに努力したのに、あんなに頑張ったのに、クラス適性が無いというだけで切り捨てられるなんて、あんまりじゃないか。ポロポロと涙が溢れてくる。大の男が泣くなんて、俺はどこまで情けないんだ。


「ここから出よう。こんなところに俺の死体があるべきじゃない」


 この剣を握るべき者は他にいる。この神聖な空間は居心地がいいけれど、俺なんかが野垂れ死んで穢すべきではない。服の袖で涙を拭い、立ち上がろうとしてズキリとした激痛に呻く。足が折れていたことを忘れていた。支えになるものを探し、自然な帰結として眼前の剣のグリップを握った。奇妙なほど温かい。手のひらを介して心地よい熱が流れ込んでくるようだった。その感覚に戸惑い、ふっと視線を剣身の鏡に転じて、



女騎士がいた。














「───ハッ!?」


 ガバっと半身を持ち上げる。視界いっぱいに拡がるエメラルドグリーンの世界に、自分が置かれた状況とここまでの境遇が瞬時に思い出される。どうやら気絶していたらしい。立ち上がろうとし、折れた足の激痛によろめいて剣を握ったところまでは覚えている。そう、この手に握っている神剣を。


「倒れたときに引き抜いてしまったのか。申し訳ないことをした」


 ぎゅっと握って、手のひらに吸い付くような革のグリップの感触を確かめる。花崗岩に埋まっていてわからなかったが、剣身は想像よりずっと長かった。しかし、剣そのものの重さは羽のように軽い。左右に振るってみれば、重心は寸分の誤差もなく中心にあることがわかる。これを手にできる者は世界一に幸運だ。

 さあ、いつまでも俺なんかが手にしていていいものではない。台座に返さなくては。俺は諦観の息を吐くと、ひょいといつもの動作で立ち上がる。……二本の足で。


「あ、あれ?足が、治ってる!?な、なぜだ!?」


 一拍置いて、自身に起きたことに気がついてギョッとして飛び上がる。たしかに右足の脛がポッキリと折れていたはずだ。反射的にその足に触れようと手を伸ばす。


「うぎゅっ!?む、胸が邪魔だ!なんだこれは!?」


 腰を曲げて身体を曲げようとしたところで胸と太ももの間にクッションのようなものが挟まれていることに気付いた。ふにゅふにゅとした弾力のあるものが2つある。それに触れようとして、ガツッと硬い感触が指先に走る。いつの間にか、俺は金属の鎧を身にまとっていた。胸部にある膨らみを群青色の鎧が守っている。全身ではなく急所の部分のみを覆う軽鎧のようだ。身につけていることなどわからないほどに軽いが、触ってみるとどんな金属より頑丈そうだ。|籠手《ガントレット》までつけている。刻み込まれた紋様の意匠は神剣そっくりだ。もしや、これもミスリル製なのか。だとすれば物凄い価値になる。だが、いつの間に装着したのだろう。


「む?こ、声がおかしい。声まで軽い。鳥みたいだ」


 あー、あー。音域を高くしたり低くしたりしてみる。どの音域も俺が出せるようなものじゃない。よく通る、まるで女の声だ。喉仏を確かめようとまさぐってみる。そこには何もなく、すべすべとした細い首があるだけだ。混乱に拍車がかかり、頭を抱え込もうと剣を握っていない方の手を頭部に押し付ける。


「わあっ!髪が長くなってる!?」


 洞窟内に可憐な女の声が響く。それが自分が発した声だということは理解できるが、到底納得できない。髪の先端を辿ってみると腰の後ろまで達していた。指先でつまんで眼前に持ち上げると、夏の日差しのように眩い金色だった。俺は短くてボサボサの黒髪だったはずなのに。



(途中)

【試作】蒼き鋼のアルペジオ ―Auferstehung―【もう少しで完成】 

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『わたしの艦長。ツイに手に入れた。わタしを使ッてくれる人。私ノために一緒に沈んでくれるヒト……』



 覚醒した直後、夢の温もりを塗り潰すように鼓膜に滑りこんできた|女《・》の声は、救われない霊魂の慟哭のようだった。冷たく掠れた呻きが喉輪をじわりと締め付け、全身の毛がゾッと総毛立つ。強烈な悪寒が生命の危機を訴え、俺は横たわっていた半身を勢いよく引き起こした。見開いた目に最初に飛び込んできたのは一面の暗闇だった。深海の底に落ち込んでしまったかのような、広がりを感じさせないずっしりと凍てついた|常闇《とこやみ》が俺を閉じ込めていた。

「ここは、どこだ……?」

 反響した声と四方から迫る圧迫感から、そこが8メートル四方ほどの機械的な空間だと経験から見做した。滑らかで硬質な床面からは一定のピッチを刻む機関の振動が伝わり、ここが|何か《・・》の内部なのだろうことを容易に想像させたが、目を凝らして全貌を掴もうとすれども光源といえば壁面でわずかに点滅する電子機器の発光のみ。鼻奥をつんと刺激するのは精密機器が吐き出すオゾン臭だろう。ひと気をまったく感じさせない密室は、人間の生存を想定していないサーバールームのようだ。機械のみが居心地良く居座れるよう造られた空間は身を切るほどに冷えきっていて、吐き出した息が目前を乳白色に濁らせる。

「……つっ!」

 深く呼吸をして、喉の粘膜が火傷でひりついた。肺が膨らむ度に全身が打ち身をしたようにキリキリと痛む。胸中に滞留していた空気はわずかに焦げ臭い。視界の下で、胸ポケットに引っかかっていたジャンパーがざっと滑り落ちた。未だ意識が弛緩して朦朧とする中、額に手を当てて最後の記憶を懸命に手繰り寄せる。俺はたしか、霧の漂流艦の情報を盗み聞き、目黒基地から脱走して、|霧の潜水艦《イ405》に辿り着き、海軍の護衛艦に襲撃され、魚雷が着弾し、金色の光を見て、懐かしい夢で昔の友だちに導かれて、そして―――。

「|アイツ《・・・》は……アイツは、どこだ……!?」

 記憶が戻った途端、気に掛かったのは自身のことではなく|アイツ《・・・》の安否だった。しかし、慌てて胸元をまさぐっても、アイツ―――『イ405』のメンタルモデルの姿は無かった。抱きしめて守っていたはずなのに、ここにあるのは裾の焦げたジャンパーだけだ。まさか全て妄想だったのかと両手で手繰り寄せれば、微かに布に残る温もりと甘い残り香をハッキリと知覚して拳を握りしめる。夢じゃない。“霧”とは思えないほどに人間っぽくて、無邪気で、寂しげな少女は、確かにこの腕の中にいたのだ。
 少女の存在を確信できた歓喜と、今彼女が腕の中にいない喪失感が身体の内奥で渦を巻き、全身がカッと熱くなる。自身が置かれている状況を知るよりも、今はあの少女を再び胸にかき抱いて安堵を得たいという感情が勝った。

「おい、イ405! どこにいるんだ!? 無事か!?」

 衝動的にあげた声は四方の分厚い壁に冷たく阻まれる。まさか最後の魚雷攻撃で吹き飛んだのか。俺は、あの少女を護ってやれなかったのか。少女の最期を想像しようとして心が激しく首を振る。不安で胸の内側が灼けつくようだ。俺は明らかにあのメンタルモデルを失うことを恐れている。“霧”の潜水艦ではなく、そのメンタルモデルである少女と会えなくなることを全身全霊で拒んでいる。当初はただ現状を変革する“力”を欲していただけだったのに、気づけば俺はそれ以上のものを見つけて、そしてこの手から失くしたことを悔やんでいる。己の異常を理性が反芻するも、それを無視して少女に呼びかける。

「お前が沈む時は俺も一緒だって言っただろう!頼む、応えろ、イ405!!」



「―――|私《・》はここにいるわ、|艦長《・・》」



 その少女は、まるで闇の中から滲み出るように現れた。
 すらりと伸びた四肢はどこも欠けていない。艶やかな肌にも傷一つ見られない。流麗な銀髪を背に流し、雪白色の裸体は宝石そのもの。姿形は寸分違わず同じに見える。―――だが、|違う《・・》。
 「無事だったか」と綻びそうになった唇をすかさず険に引き締め、キッと猜疑の目で睨む。塗り潰したような闇の下、目元を陰らせた少女は、先までの生命力に満ち溢れた雰囲気とは一変して無機質な冷気を纏っていた。別人―――いや、それ以上の差異を感じる。例えるなら、人間と|そうでないもの《・・・・・・・》のような。少女を見つけた喜びと本能が叫ぶ悲鳴が伯仲し、板挟みになった思考が肉体を硬直させる。
 唐突に、陶器のようにのっぺりと白い顔の下半分に、|ニイッ《・・・》と三日月形の亀裂が走る。それが“笑み”なのだと理解するのに数秒を要した。強烈な違和感が胸の内でじくじくと疼き、拒絶心となって喉を震わせる。

「お前は、誰だ」

俺を“艦長”と呼んだ少女が底昏い音吐で応える。

「イ405。あなたの|艦《ふね》よ」

 「そしてここは私の|艦内《なか》」。声を恍惚に蕩けさせながら、肉付きの薄い下腹部を愛おしそうに両手で擦る。秘部の真上、痩身にうっすらと骨盤が浮き出るそこは、人間の女なら膣と子宮が宿る場所だ。

「ああ―――、なんて心地が良いの!|艦内《なか》に他人を入れることが、人間を|装備《・・》することがこんなに気持ちがいいことなんて知らなかった!ずるい、ずるいわ、イ401!こんな感覚を独り占めにしてただなんて……!」

 身悶えして矯正を迸らせた少女が闇を引きずって近づいてくる。ひたひたと這い寄る足音が、媚びるような淫らな声音が、鼓膜を突き抜けて脳髄に怪しく舌を這わせてくる。思わずゴクリと唾を飲み下し、その微かな音を聞き逃さなかった少女の双眸がうっとりと愉悦に歪む。己の欲情に直截過ぎるその表情に、俺の内側で違和感が倍加する。こんな目をする奴ではなかった。たしかに自分の感情に正直だったが、慎みも持ち合わせていた。

|これこそが《・・・・・》“|霧《・》”|なのか《・・・》。

 あまりの激変に愕然として言葉を失う。友よ、これのどこが“助けを求めて泣いている”んことになるんだ。
 純粋な少女の姿は、他者とコミュニケーションをするための単なる|意識体《マイク》だったのか。人間の戦術を真似るためのただの|道具《ツール》だったのか。先ほどまでの爛漫とした仕草は、馬鹿な人間を騙して捕えるための|疑似餌《まやかし》に過ぎなかったのか。“霧”本来の姿とはこんなにも一途でおぞましいなのか。
 騙されたと憤懣を覚える一方、どうしてもあの眩い少女が紛い物だったとは思えず、思いたくなく、その願望を込めて再度問う。

「答えろ、『イ405』。さっきまでのお前と、今のお前、どっちが本当の『イ405』なんだ?」
「|さっき《・・・》?|どちら《・・・》?変なことを言うのね、艦長。私は私だけよ?今この瞬間、貴方を手に入れた|私だけ《・・・》がイ405よ?他の誰にも渡したりしないわ」

 とろんと熱に侵された瞳で不思議そうに首を傾げる。恋人の他愛ない嘘に付き合うような微笑はとても芝居をしているようには見えず、思考に無視できないザラつきを挟んだ。先ほどまでの記憶や、自身の不調―――もう一人の自分を把握できていないらしかった。



―――どうもオレ、イ401と戦って一回沈められたらしいんだ。その時に混ざっちゃったみたいでさ―――



 少女の台詞が閃光のように脳裏を突き抜け、ハッとした閃きが額で弾ける。もしや、その際に負った深刻なダメージはメンタルモデルの人格構造にまで影響したのではないだろうか、と。言わば二重人格障害のように、爛漫な少女も、幽鬼のような女も、どちらも『イ405』なのだ。大昔の安直なドラマのように、どちらかの人格が表に出ている時はもう一方の人格が眠りについているのだ。そう考えれば、この別人のような変貌にも説明がつく。
 現象を説明できる理由がわかれば、その正否はともかく虚勢を張れるようになるのが人間というもので、張っていた緊張が少しずつ解れていくのを知覚する。

「コインの裏表、みたいなもんか」
「……?ふふ、おかしな艦長。人間の言動って本当に予想がつかない。場当たり的で、意地汚くて、嫌らしくて、生臭い。それに私は沈められた。ふふ、とってもおもしろいわ」

 “もう一人のイ405”は俺の足元に膝をつくや、雄を誘う女豹のように腰をくねらせながら手を伸ばしてくる。胸や尻を惜しげも無く晒す身ごなしは下品なストリップショーだ。自身の“女”を安売りするような蠱惑的な腰使いに、透明だった処女湖が濁っていく不快感が募る。“最初のイ405”―――|アイツ《・・・》の印象が清々しすぎて、大きすぎるギャップに心が抵抗を示している。しかし、“霧”を使いこなすためには慣れなければならない。おそらく、あの千早 群像も、きっとこの不気味な接触を乗り越えて『イ401』を支配したのだろうから。
 嫌がる肉体が腰を引こうとするのをグッと耐え、青白い手を頬で受け止める。血の通いを感じさせない冷たい指が、細枝のような華奢さからは想像もつかない乱暴な力加減で頬や顎をざわざわと這いまわる。その間も、“もう一人のイ405”の双眸は真正面から俺の眼球を覗き込んで一ミリも外れない。“目は口ほどにものを言う”と言われるが、光のない一対の黒目からは何の感情も読み取れない。まるで足元にぽっかりと空いた底無し穴だ。人間でないとわかっているとはいえ、一度とてまばたきもしないのも不気味だ。アイツはもっと自然にパチパチと目をしばたかせて愛嬌があったし、頬に触れる手つきだって人間の脆さをちゃんと心得ていて優しかった。

「とっても温かい。|これ《・・》が私と一緒に沈んでくれる。ああ、それなら、きっともウ寂しくナイわ。もう寒くナくなルワ」

 少女らしい可憐な声にザラついたノイズが混じったように聞こえた。音響調整をミスしてハウリングが起きたような鼓膜をひっかく不快感に顔を顰める。未だ鼓膜が回復していないのか……いや、それは後でいい。逸れようとした思考を切り替える。少なくとも、この“もう一人のイ405”にあからさまな敵意は無さそうだ。おどろおどろしい雰囲気を纏ってはいるものの、素直に艦内に招き入れたり、自分から俺を艦長と呼んだりと従順そうではある。ダメージを負っていないことからして、日本統制海軍の護衛艦からも無事に逃げ果せたのだろう。

(裏だろうが表だろうがコインはコイン、“霧”の潜水艦であることに変わりはない)

 そう自分に言い聞かせるも、姿形が同じだからこそ余計に寂しさが募っていく。せっかく友から譲り受けた|あの名前《・・・・》も、今の『イ405』に相応しいとは思えなかった。あの眩い笑顔にこそ似合う名前なのに。「もうお前とは会えないのか?」。思わず零しそうになった声が喉に引っかかる。
 いよいよ耐えられなくなった|精神《こころ》が顔を背けさせようと身じろぎし、万力のように頬を挟む手に阻まれた。こちらの心情を慮ることのない少女が無遠慮に顔を近づけてくる。ちょっと顎を突き出せば唇が触れてしまうほどの近さは、しかし、アイツを模した蝋人形と向き合っているような不誠実で不快な気持ちしか浮かばなかった。やめさせようと、改めて視線を正面に見据え、

「う……ッ!?」

 目の前まで迫ったその双眸を目の当たりにして、一瞬のうちにギクリと身体が強張った。

(───|まるで死体だ《・・・・・・》!)

 ドロリとどす黒く濁った眼球が、海岸に打ち捨てられた死者のそれだった。俺を見ているようで、俺を見ていない。血が、骨が、細胞が、未知の恐怖にザワザワと発熱する。胃袋が収縮し、口腔内がまたたく間に干上がる。生者の足にすがりつくどんよりと昏い目が、危うげに緩んだ口もとが、良くない予感をひしひしと湧き立たせる。

『そう―――暗クて冷たい世界でも、貴方と一緒ナラきッと退屈しなイ。もうアドミラりてィ・こードなンて関係ない!人間モ、“霧”も、誰も彼もみんな|水 底《みなそこ》沈めてしマエば、ずっと寂シくなンてない!!』
「お、お前はいったい―――くッ!?」

 転瞬。バチンと風船の破裂に似た音を立てて、正面に眩い閃光が灯った。眼神経を突き刺す痛みに耐えて光源を見やれば、3メートル四方のホログラム・パネルが暗闇にぽっかりと大口を開けていた。何か画像を表示させようと色彩を微細に変化させていくパネルが光を溢れさせ、闇を押し広げて空間の全容を照らしだす。最低限の機器類が効率的に配され、空間を俯瞰できる位置には無骨なシートが一つだけ備えられている。護衛艦の艦橋とCICを混ぜ合わせたような構造―――まさに潜水艦の司令室そのものだった。
 自分の現在地を知った俺は、ホログラム・パネルに映し出された惨状を目にして驚きを上書きさせられた。

「ご、護衛艦が……!」

 それはまさに、弄ばれながら追いかけられる弱った獲物だった。勇壮だっただろう堅牢な艦影はもはや跡形もない。艦橋構造物はズタボロに切り裂かれ、舷装甲はほとんどが焼け焦げている。後部甲板は火の手が上がり、ついさっきまでヘリコプターを構成していたのだろう残骸が散乱している。自動消火装置すらも赤く舐めて溶かそうとする凶暴な火災に数人の|格納庫整備員《ハンガーエイプ》が必死に立ち向かっているが、焼け石に水だ。ワイングラスに似て優美だった艦尾には、今しがた貫かれたのだろう巨大な穴が開き、高温で真っ赤に熱せられた断面が海水を蒸発させて白煙をあげていた。間違いなく、“霧”の兵器───こちらの艦から放たれた熱線兵器による傷跡だ。艦尾を斜め下にまっすぐに貫いた弾痕を見るに、おそらく機関部の半損で済んだはずだ。乗員の優秀なダメージコントロールでなんとか|航行《はし》ってはいるが、片肺となればもう限界に違いない。艦橋部に目をやれば、ガラスは残らず砕け散り、千切れた配電ケーブルから鮮血のような淡い火花が散っている。怪我人どころか、死人すら出ていてもおかしくはない。似ても似つなぬほどに痛めつけられているが、間違いなく|イ405《おれたち》を攻撃してきた日本統合海軍の護衛艦だった。俺が気絶している間に、イ405は彼らに逆襲を加えていたのだ。あまりに高精細なホログラムはまるで肉眼で覗き込んでいるようで、乗員の恐怖と苦痛の叫びすら聞こえてきそうな錯覚に俺は思わず目を逸らしたい衝動に駆られた。
 そんな俺の心境など気にもとめず、“もう一人のイ405”は大きく腕を広げて歓喜に声を震わせる。

『さア、早ク命令して、艦長。|アレ《・・》を沈メろッて、命令して!』
「なんだと!?お前、俺に同じ人間を殺せっていうのか!?」

 虚無の目が不思議なモノを前にしたようにキョトンと丸くなる。可愛げな仕草なのに、ゾッとする狂気しか覚えない。本来なら眼がある場所にぽっかりと穴が開いて、向こう側の“見えてはいけない”世界が覗いているようだ。いや、そっちの世界から覗き込まれているのか。その穴から今にも無数の手が這い出して引きずり込まれる想像を浮かべ、全身の毛が逆立ち、人間に残された動物の勘が後頭部で金切り声をあげる。 

「アレは私たちを沈めよウとした。暗くて寒くて寂シい水底に、また私を蹴り落とソウとした。もう沈むのは絶対にイヤ。私を沈メようとする奴は、みんな殺しシテる!」

 再び熱線が照射された。ホログラム・パネルが白光に焼き付いたのも一瞬、次の瞬間には護衛艦の右舷装甲が大きくえぐれていた。加速化された荷電粒子が30ミリの分厚い装甲表面をケーキスポンジのように容易くすくい取った。さらに熱線はその程度では食い足りないとばかりに艦正面の海面を深々と穿って水蒸気爆発を引き起こす。巨大な泡となって盛り上がった海面が限界まで膨れ上がり、赤い水風船の体を成したかと思いきや、ズドンと空気を震わせて破裂する。爆発の余波が微弱な振動となって俺にも伝わってきて、その映像が今まさにリアルタイムに起きているのだと否応なく理解する。被弾の衝撃と至近からの大波には、いかに強固な護衛艦でも踏ん張りきれず、顎に食らったボクサーのように左右に派手にグラつく。片肺であえぐ護衛艦が崩れかけた煙突から火の粉混じりの煙を吐いて苦しげに喘いでいる。「いい気味」。ホログラムを流し目で見やった“もう一人のイ405”がさも愉快そうに口端を歪めて喉を鳴らした。そのセリフからも、わざと致命傷を避けて攻撃しているのは明らかだ。肉食獣が獲物を不必要にいたぶって遊んでいるに等しい。そのあからさまで卑劣な手の掛け方は俺の流儀とは真反対で、全身の毛がざわと怒りでささくれ立つ。

「欲しかったんでしョう、世界を壊す力が。なら、私が与えてあげる。私が力そのものになってあげる。一緒に、全部壊シて、壊して、殺しましょう。あなたはただ座っているだけデいい。殺せ、全部殺せって言っテくれるダケでいい。私とずっと一緒にいてくれルだけでいい」

 コイツは、この世に未練を残して死んだ亡霊だ。この亡霊は、生者を死の縁に叩き込むに飽き足らず、極限まで怯えさせ、苦痛に顔面を歪ませて尊厳を損なわせてから命を奪うつもりだ。そんな奴と手を組むなんざお断りだ。なにより、|これ《・・》は俺が求めている少女ではない。こんな振る舞いは|アイツ《・・・》の姿でしてほしくない。こんな戦い方は、|俺たち《・・・》に相応しくない。この亡霊は、一秒ごとにアイツを穢し、侮辱している。


───最期にお兄さんと話せて良かった───

───会いに来てくれて嬉しかったよ───

───あの娘が泣いてる。お前の助けを待ってる。早く行ってやれ───


 健気で爛漫な少女の顔が脳裏をチラつくたびに怒りが倍加し、背を押してくれる親友の吠声を思い起こすごとに拳に力が籠もる。張り裂けんばかりの憤怒が目の前に人外に対する恐怖を刻々と塗り潰し、やるべきことを俺に思い出させる。そうだ、何をガキみたいにビビってるんだ。自分の|艦《ふね》一つ満足に御し得ないで、どうやって世界に風穴を開けるんだ!
 こちらの心境の変化など察しようともしない自分本位の亡霊が「ねえ、早ク命令を」と急かしてさらに顔を近づけてくる。唇と唇が触れ合う寸前───俺は、|アイツの名前《・・・・・・》を紡いだ。

 




ワンッ。
耳元で、小型犬の声が弾けた。

ワンッ。
起きろ、とオレを呼んでいるような気がした。

『……なん、だよ。せっかくひとがいい気分で寝てるっていうのに』

 正直に言うと、まったくいい気分なんかじゃなかった。ここは暗くて、寒くて、寂しい。冷たい大波に攫われて、どんどん海底へと引きずり込まれていく。もう自力では上がることは出来ない。諦めて、でも諦めきれなくて、なにか|未練《・・》を残しているような気がして。それでもどうすることも出来ず、オレはじっと目を閉じて、自分が消えるのを待っていた。いや、誰かが助けに来てくれるのを待っているのか。もう、それもわからなくなってしまっていた。
 薄く目を開けて、眼前に両手を掲げて見る。真っ白くてか細い女の子の手指が震えている。力の入らない手で自分を抱きしめれば、頼りない少女の肉体の感触がする。オレの姿形はイ405のメンタルモデルのままだ。だけど、どうしてそうなったのか、段々と思い出せなくなってきていた。『蒼き鋼のアルペジオ』の世界に来てしまったことはなんとなく覚えている。でも、それより前のことも、後のことも、なんだかぼんやりと不定形な記憶になってしまっていた。何分、何時間、何日、こうしているのか。それすらも虚ろになっていた。自分が裏返って、別の何かに取って代わられて、その何かにオレ自身が吸収されようとしている。肉体も、記憶も、感情も、何もかも。もう、自分自身のことすら満足に思い出せない。このままでは、きっと自分は跡形もなく消えてしまう。
 そんな漠然とした直感はあれど、不安や危機感を沸き立たせてくれる気力はすでに事切れたあとだった。それでも、オレはまだここにいる。もはやほとんど思い出せないけど、大切な何かを───大切な|誰か《・・》を忘れたくなくて。自分を必要だと言ってくれた|誰か《・・》のことだけは奪われたくなくて。その誰かへの感情だけは護ろうと、オレはわずかに残った精神力を削りながら、かろうじてここに留まっている。でも、とうに消えてもおかしくないオレを辛うじて引き留めてくれている誰かのことを思い出したくても、思い出せない。それが、寂しい。寂しいよ。迎えに来て。助けに来て。|また《・・》、オレを見つけてよ……。

ワンッ。
なにしてる、さあ、起きろ。そう言われた気がして、オレは渋々意識を覚醒させる。瞼を開けることすら大変な労力を必要とするのに。いざ目を開けてみたら、やっぱり何も変わらなかった。そこにあるのは、押し潰してくるような膨大な海水と墨汁のような闇だけ「ワンッ!」

『わひゃあっ!?なな、なんでこんなとこに柴犬がいるんだ!?』

 間の抜けきった悲鳴をあげて飛び起きる。でも、突然腕のなかにちっこい柴犬が現れたらそうなるのも仕方がないと思う。柴犬は驚いて尻もちをついたオレの薄い胸元に顔を突っ込んで来たかと思うと、そのまま木登りでもするように登ってきて頬をペロペロと舐めてきた。

『あははっ、や、やめろよっ』

 踏み台にされている乳房がくすぐったい。くすぐったいけど、優しくて、温かい。柴犬はオレを元気づけようと一生懸命に顔を舐めてくる。一人ぼっちだったことを忘れさせてくれるほどに乱暴で、人懐っこくて、なんだか放っておけない。

『───あれ?』

 不意に、同じような感情を誰かに対して抱いたことを思い出した。優しくて、暖かくて、乱暴で、人懐っこくて、放っておけない。この『蒼き鋼のアルペジオ』の世界で唯一、オレを必要としてくれる人。その人のことを考えるだけで、耳たぶが火照る。胸の深いところがきゅーっと切なくなり、下半身の奥底がじんわりと熱を持つ。

ワンッ。
アイツが呼んでる。お前を求めてる。早く行ってやれ。そう言われた気がした。


(途中)





「|ニコ《・・》だ」
「───は?」
 
 ようやく俺の精神の滾りに気付いた亡霊が動きを止めてハッと俺を直視した。一対の奈落の眼窩に俺の強烈な怒りの表情が映り込む。そこに焦燥が差し挟まれたように見えたのは絶対に見間違えじゃない。触れる間近まで迫っていた唇がさっと引かれ、悦に浸っていた顔貌に懸念の翳りが生じる。同時に、正体不明のおどろおどろしさにも揺らぎが生じる。

「昔、俺が飼っていた犬の名前だ。俺の親友だ。その名前を、俺が指揮する潜水艦にくれてやる。だが、|お前に《・・・》|じゃ《・》|ない《・・》。お前はイ405じゃない」
「な……なにを言ってルの、艦長?ワタシが……」
「違う。お前は俺が求めるイ405じゃない。たしかに、俺は現状を打破する“力”を求めていた。この鬱屈し、閉塞した世界を破断する“力”を求めていた。だが、それはお前じゃない。俺がともに歩みたいと決めたイ405は、もう他にいる」

 今度は亡霊が恐慌を来たす番となった。先ほどまでの露骨な媚びは消え、顎をぐっと引っ込めてこちらを恨めしげに睨め上げてくる。両の頬に血管のような真紅の光筋が走り、渦巻く不安定な本性を如実に表現する。思い通りにならないことに腹を立て、混乱し、恐怖している。自身の存在の定義が揺らいでいることを自覚して焦っている。そう、コイツはただの亡霊だ。存在のおぼろげな、吹けば消える程度の|カケラ《・・・》でしかない。そんなもの、俺が|再定義し《ぬりかえ》てやる。俺の決意を察したどす黒い双眸がぐわっと見開かれる。その奥底に、既視感のある瑠璃色が垣間見えた。予感めいたものが胸の奥でドクンと脈動する。

「そこにいるんだな、ニコ」

 俺の呼びかけに応えようとするように、瑠璃色はさらに光度を増していく。目の前の亡霊が、己に生じ始めた変化を察知して「やめろ」と憤怒する。歯茎を剥き出しにして自身の肩を掻き抱いてそこに爪を立てる。その醜い抵抗に反比例するように、両頬の光筋は漸減し、淀んでいた瞳に輝きが戻っていく。


(途中)

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どもども。主(ぬし)です。駄文書きです。趣味は映画と小説とニコニコ動画です。灼眼のシャナやFate/zeroのSSなどを書いてます。小説の小ネタや、短編SS、映画のレビューやちょっとした雑記などを掲載していこうと思います。

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