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白銀の討ち手

己の妄想をネットという広大な海へ送り出すことに若干躊躇いつつも実行してみるブログ。現在は『白銀の討ち手』という灼眼のシャナの二次小説をarcadiaさんにて執筆中。

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【ブリジットという名の少女】 Her name is Charis!! 一覧まとめ 【三次創作】 

Her name is Charis! !

 漫画『ガンスリンガー・ガール』の二次創作小説『ブリジットという名の少女』の三次創作でございます。今までまとめを作ってなかったので、続きが完成間近なこのタイミングで一覧をまとめた記事を作成しました。余裕がある時に作っておかないと。
 この拙作は、僕が『ブリジットという名の少女』を読んで深く感銘を受けた結果、ただただ「ブリジットを救いたい!」という情念に突き動かされてハイテンションのままに書いたものです。事後承諾にはなりましたが、作者様であるH&Kさんには許可も頂けました。その懐の広さに感謝です。ああ、H&Kさん。貴方と直にあっていっぱいお話をお伺いしたいです……。
 偉大なるH&Kの作品には完成度もストーリーも伏線も何もかもが遠く及ばないですが、もしも、ブリジットの物語にIFの世界を望まれる方がおられましたら、読んで頂ければ幸いです。鬱クラッシャーとTS娘の融合作品、ぜひご堪能くだしあ!






<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1
外伝 後編その2
外伝 後編その3
外伝 後編その4

<名状しがたいオマケ的な何か>

ちょっとしたコネタ
ヒャーリスプロフィール
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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アルペジオ二次創作試作(Depth 4) 

未分類

タイトルままです。これもキリがついたところで投稿したひ。


『―――ワたシノ艦長。ツイニ手に入レた。わタしを使ッテくれル人。私ノため二一緒に沈んデクれるヒト……』







 覚醒した直後、夢の温もりを塗り潰すように鼓膜に滑りこんできた|女《・》の声は、救われない霊魂の慟哭のようだった。冷たく掠れた呻きが喉輪をじわりと締め付け、全身の毛がゾッと総毛立つ。強烈な悪寒が生命の危機を訴え、俺は横たわっていた半身を勢いよく引き起こした。
 見開いた目に最初に飛び込んできたのは、一面の暗闇だった。深海の底に落ち込んでしまったかのような、広がりを感じさせないずっしりと凍てついた|常闇《とこやみ》が俺を閉じ込めていた。

「ここは、どこだ……?」

 反響した声と四方から迫る圧迫感から、そこが8メートル四方ほどの機械的な空間だと見做した。滑らかで硬質な床面からは一定のピッチを刻む機関の振動が伝わり、ここが|何か《・・》の内部なのだろうことを容易に想像させたが、目を凝らして全貌を掴もうとすれども光源といえば壁面でわずかに点滅する電子機器の発光のみ。鼻奥をつんと刺激するのは精密機器が吐き出すオゾン臭だろう。ひと気をまったく感じさせない密室は、人間の生存を想定していないサーバールームのようだ。機械のみが居心地良く居座れるよう造られた空間は身を切るほどに冷えきっていて、吐息が目前を乳白色に濁らせる。

「……つっ!」

 深く呼吸をして、喉の粘膜が火傷でひりついた。肺が膨らむ度に全身が打ち身をしたようにキリキリと痛む。胸中に滞留していた空気はわずかに焦げ臭い。視界の下で、胸ポケットに引っかかっていたジャンパーがざっと滑り落ちた。未だ意識が弛緩して朦朧とする中、額に手を当てて最後の記憶を懸命に手繰り寄せる。
 俺はたしか、霧の漂流艦の情報を盗み聞き、目黒基地から脱走して、|霧の潜水艦《イ405》に辿り着き、海軍の護衛艦に襲撃され、魚雷が着弾し、金色の光を見て、懐かしい夢で昔の友だちに導かれて、そして―――。

「―――|アイツ《・・・》は……アイツは、どこだ……!?」

 記憶が戻った途端、気に掛かったのは自身のことではなく|アイツ《・・・》の安否だった。しかし、慌てて胸元をまさぐっても、アイツ―――『イ405』のメンタルモデルの姿は無かった。抱きしめて守っていたはずなのに、ここにあるのは裾の焦げたジャンパーだけだ。まさか全て妄想だったのかと両手で手繰り寄せれば、微かに布に残る温もりと甘い残り香をハッキリと知覚して拳を握りしめる。夢じゃない。“霧”とは思えないほどに人間っぽくて、無邪気で、寂しげな少女は、確かにこの腕の中にいたのだ。
 少女の存在を確信できた歓喜と、今彼女が腕の中にいない喪失感が身体の内奥で渦を巻き、全身がカッと熱くなる。自身が置かれている状況を知るよりも、今はあの少女を再び胸にかき抱いて安堵を得たいという感情が勝った。

「おい、イ405! どこにいるんだ!? 無事か!?」

 衝動的にあげた声は四方の分厚い壁に冷たく阻まれる。まさか最後の魚雷攻撃で吹き飛んだのか。俺は、あの少女を護ってやれなかったのか。
 少女の最期を想像しようとして心が激しく首を振る。不安で胸の内側が灼けつくようだ。俺は明らかにあのメンタルモデルを失うことを恐れている。“霧”の潜水艦ではなく、そのメンタルモデルである少女と会えなくなることを全身全霊で拒んでいる。当初はただ現状を変革する“力”を欲していただけだったのに、気づけば俺はそれ以上のものを見つけて、そしてこの手から失くしたことを悔やんでいる。己の異常を理性が反芻するも、それを無視して少女に呼びかける。

「お前が沈む時は俺も一緒だって、言っただろうが! 頼む、応えろ、イ405!!」



「―――|私《・》はここにいるわ、|艦長《・・》」



 その少女は、まるで闇の中から滲み出るように現れた。
 すらりと伸びた四肢はどこも欠けていない。艶やかな肌にも傷一つ見られない。流麗な銀髪を背に流し、純白の裸体は宝石そのもの。姿形は寸分違わず同じに見える。―――だが、|違う《・・》。
 「無事だったか」と綻びそうになった唇を険に引き締め、猜疑の目で睨む。塗り潰したような闇の下、目元を陰らせた少女は、先までの生命力に満ち溢れた雰囲気とは一変して無機質な冷気を纏っていた。別人―――いや、それ以上の差異を感じる。人間と|そうでないもの《・・・・・・・》のような。少女を見つけた喜びと本能が叫ぶ悲鳴が伯仲し、板挟みになった思考が肉体を硬直させる。
 唐突に、陶器のようにのっぺりと白い顔の下半分に、|ニイッ《・・・》と三日月形の亀裂が走る。それが“笑み”なのだと理解するのに数秒を要した。強烈な違和感が胸の内でじくじくと疼き、拒絶心となって喉を震わせる。

「お前は、誰だ」

俺を“艦長”と呼んだ少女が底昏い音吐で応える。

「イ405。あなたの|艦《ふね》よ」

 「ここは私の|艦内《なか》」。声を恍惚に蕩けさせながら、肉付きの薄い下腹部を愛おしそうに両手で擦る。秘部の真上、痩身にうっすらと骨盤が浮き出るそこは、人間の女なら膣と子宮が宿る場所だ。

「ああ―――、なんて心地が良いの! |艦内《なか》に他人を入れることが、人間を|装備《・・》することがこんなに気持ちがいいことなんて知らなかった! ずるい、ずるいわ、イ401! こんな感覚を独り占めにしてただなんて……!」

 身悶えして矯正を迸らせた少女が闇を引きずって近づいてくる。ひたひたと這い寄る足音が、媚びるような淫らな声音が、鼓膜を突き抜けて脳髄に怪しく舌を這わせてくる。思わずゴクリと唾を飲み下し、その微かな音を聞き逃さなかった少女の双眸がうっとりと愉悦に歪む。己の欲情に直截過ぎるその表情に、俺の内側で違和感が倍加する。こんな目をする奴ではなかった。たしかに自分の感情に正直だったが、慎みも持ち合わせていた。

|これこそが《・・・・・》“|霧《・》”|なのか《・・・》。

 あまりの激変に愕然として言葉を失う。友よ、これのどこが“助けを求めて泣いている”んことになるんだ。
 純粋な少女の姿は、他者とコミュニケーションをするための単なる|意識体《マイク》だったのか。人間の戦術を真似るためのただの|道具《ツール》だったのか。先ほどまでの爛漫とした仕草は、馬鹿な人間を騙して捕えるための|疑似餌《まやかし》に過ぎなかったのか。“霧”本来の姿とはこんなにも一途でおぞましいなのか。
 騙されたと憤懣を覚える一方、どうしてもあの眩い少女が紛い物だったとは思えず、思いたくなく、その願望を込めて再度問う。

「答えろ、『イ405』。さっきまでのお前と、今のお前、どっちが本当の『イ405』なんだ?」
「|さっき《・・・》……? |どちら《・・・》……? 変なことを言うのね、艦長。私は私だけよ? 今この瞬間、貴方を手に入れた|私だけ《・・・》がイ405よ? 他の誰にも渡したりしないわ」

 とろんと熱に侵された瞳で不思議そうに首を傾げる。恋人の他愛ない嘘に付き合うような微笑はとても芝居をしているようには見えず、思考に無視できないザラつきを挟んだ。先ほどまでの記憶や、自身の不調―――もう一人の自分を把握できていないらしかった。



―――どうもオレ、イ401と戦って一回沈められたらしいんだ。その時に混ざっちゃったみたいでさ―――



 少女の台詞が閃光のように脳裏を突き抜け、ハッとした閃きが額で弾ける。もしや、その際に負った深刻なダメージはメンタルモデルの人格構造にまで影響したのではないだろうか、と。言わば二重人格障害のように、爛漫な少女も、幽鬼のような女も、どちらも『イ405』なのだ。大昔の安直なドラマのように、どちらかの人格が表に出ている時はもう一方の人格が眠りについているのだ。そう考えれば、この別人のような変貌にも説明がつく。
 現象を説明できる理由がわかれば、その正否はともかく虚勢を張れるようになるのが人間というもので、張っていた緊張が少しずつ解れていくのを知覚する。

「コインの裏表、みたいなもんか」
「……? ふふ、おかしな艦長。人間の言動って本当に予想がつかない。場当たり的で、意地汚くて、生臭い。それに私は沈められた。ふふ、とっても面白いわ」

 “もう一人のイ405”は俺の足元に膝をつくや、雄を誘う女豹のように腰をくねらせながら手を伸ばしてくる。胸や尻を惜しげも無く晒す身ごなしは下品なストリップショーだ。自身の“女”を安売りするような蠱惑的な腰使いに、透明だった処女湖が濁っていく不快感が募る。“最初のイ405”―――|アイツ《・・・》の印象が清々しすぎて、大きすぎるギャップに心が抵抗を示している。しかし、“霧”を使いこなすためには慣れなければならない。おそらく、あの千早 群像も、きっとこの不気味な接触を乗り越えて『イ401』を支配したのだろうから。
 嫌がる肉体が腰を引こうとするのをグッと耐え、青白い手を頬で受け止める。血の通いを感じさせない冷たい指が、細枝のような華奢さからは想像もつかない乱暴な力加減で頬や顎をざわざわと這いまわる。その間も、“もう一人のイ405”の双眸は真正面から俺の眼球を覗き込んで一ミリも外れない。“目は口ほどにものを言う”と言われるが、光のない一対の黒目からは何の感情も読み取れない。まるで足元にぽっかりと空いた底無し穴だ。人間でないとわかっているとはいえ、一度とてまばたきもしないのも不気味だ。アイツはもっと自然にパチパチと目をしばたかせて愛嬌があったし、頬に触れる手つきだって人間の脆さをちゃんと心得ていて優しかった。

「とっても温かい。|これ《・・》が私と一緒に沈んでくれる。ああ、そレなら、きっともウ寂しくナイわ。もう寒くナくなルワ」

 少女らしい声にザラツイたノイズが混じったように聞こえた。未だ鼓膜が回復していないのか……いや、それは後でいい。
 逸れようとした思考を切り替える。少なくとも、この“もう一人のイ405”にあからさまな敵意は無さそうだ。おどろおどろしい雰囲気を纏ってはいるものの、素直に艦内に招き入れたり、自分から俺を艦長と呼んだりと従順そうではある。ダメージを負っていないことからして、日本統制海軍の護衛艦からも無事に逃げ果せたのだろう。「裏だろうが表だろうがコインはコイン、“霧”の潜水艦であることに変わりはない」。そう自分に言い聞かせるも、姿形が同じだからこそ余計に寂しさが募っていく。せっかく友から譲り受けた|あの名前《・・・・》も、今の『イ405』に相応しいとは思えなかった。あの眩い笑顔にこそ似合う名前なのに。「もうお前とは会えないのか?」。思わず零しそうになった声が喉に引っかかる。
 いよいよ耐えられなくなった|精神《こころ》が顔を背けさせようと身じろぎし、万力のように頬を挟む手に阻まれた。こちらの心情を慮ることのない少女が無遠慮に顔を近づけてくる。ちょっと顎を突き出せば唇が触れてしまうほどの近さは、しかし、アイツを模した蝋人形と向き合っているような不誠実で不快な気持ちしか浮かばなかった。やめさせようと、改めて視線を正面に見据え、

「う……ッ!?」

 目の前まで迫ったその双眸を目の当たりにして、一瞬のうちにギクリと身体が強張った。

───|まるで死体だ《・・・・・・》。

 ドロリとどす黒く濁った眼球が、海岸に打ち捨てられた死者のそれだった。俺を見ているようで、俺を見ていない。生者の足にすがりつく色を隠さない昏い目が、危うげに緩んだ口もとが、良くない予感をひしひしと湧き立たせる。

『ソう―――暗クて冷たい世界デモ、貴方と一緒ナラきッと退屈しなイ。もうアドミらりてィ・こードなンて関係ない! 人間モ、霧も、誰も彼も|水 底《みなそこ》沈めてしマエば、ずっと寂シクなンてナいもノ!!』
「お、お前はいったい―――くッ!?」

 転瞬。バチンと風船の破裂に似た音を立てて、正面に眩い閃光が灯った。眼神経を突き刺す痛みに耐えて光源を見やれば、3メートル四方のホログラム・パネルが暗闇にぽっかりと大口を開けていた。何か画像を表示させようと色彩を微細に変化させていくパネルが光を溢れさせ、闇を押し広げて空間の全容を照らしだす。最低限の機器類が効率的に配され、空間を俯瞰できる位置には無骨なシートが一つだけ備えられている。護衛艦の艦橋とCICを混ぜ合わせたような構造―――まさに潜水艦の司令室そのものだった。
 自分の現在地を知った俺は、ホログラム・パネルに映し出された惨状を目にして驚きを上書きさせられた。

「ご、護衛艦が……!」

 それはまさに、弄ばれながら追いかけられる弱った獲物だった。勇壮だっただろう堅牢な艦影はもはや跡形もない。艦橋構造物はズタボロに切り裂かれ、舷装甲はほとんどが焼け焦げている。後部甲板は火の手が上がり、自動消火装置すらも赤く舐めて溶かそうとしている。ワイングラスのように優美だった艦尾には、今しがた貫かれたのだろう巨大な穴が開き、高温で真っ赤に熱せられた断面が海水を蒸発させて白煙をあげていた。間違いなく、こちらの艦から放たれた熱線兵器による傷跡だ。艦尾を斜め下にまっすぐに貫いた弾痕を見るに、おそらく機関部の半損で済んだはずだ。優秀なダメージコントロールでなんとか奔ってはいるが、片肺となればもう限界に違いない。艦橋部に目をやれば、ガラスは残らず砕け散り、淡い火花も散っている。怪我人どころか、死人すら出ていてもおかしくはない。悲惨な様子からは乗員の恐怖と苦痛の叫びすら聞こえてきそうで、俺は思わず目を逸らしたい衝動に駆られた。
 そんな俺の心境など気にもとめず、“もう一人のイ405”は大きく腕を広げて歓喜に声を震わせる。


『さア、早ク命令シテ、艦長。|アレ《・・》を沈メろッて、命令しテ!』
「なんだと……!? お前、俺に仲間を殺せっていうのか!?」

 虚無の目が不思議なモノを前にしたようにキョトンと丸くなる。可愛げな仕草なのに、ゾッとする狂気しか覚えない。本来なら眼がある場所にぽっかりと穴が開いて、向こう側の“見えてはいけない”世界が覗いているようだ。いや、そっちの世界から覗き込まれているのか。その穴から今にも無数の手が這い出して引きずり込まれる想像を浮かべ、全身の毛が逆立ち、人間に残された動物の勘が後頭部で金切り声をあげる。 


「力が欲しカッタんでしョう? 世界を壊ス力が欲しかッタンでしょウ? 私が与エテアげる。全部壊シて、殺しまショう。あナタハただ座って、“殺セ”と命令するだけデイい。私と一緒にいイテクレルだけでいい」

 再び熱線が照射された。ホログラム・パネルが白光に閃いたのも一瞬、次の瞬間には護衛艦の右舷装甲が大きくえぐれていた。装甲をまるでケーキスポンジのようになめらかにすくい取り、そのまま艦正面の海面を穿って水蒸気爆発を引き起こす。巨大な泡となって盛り上がった海面が限界まで膨れ上がり、ズドンと空気を震わせて破裂する。被弾の衝撃と至近からの大波に、片足の護衛艦は踏ん張りきれず、木の葉のように海面で体を振った。明らかに致命傷を避けて攻撃している。そのあからさまで卑劣な手の掛け方に、全身がざわざわと怒りでささくれ立つ。
 コイツは、この世に未練を残して死んだ亡霊だ。この亡霊は、生者を死の縁に叩き込むに飽き足らず、極限まで怯えさせ、苦痛に顔面を歪ませて尊厳を損なわせてから命を奪うつもりだ。
 |これ《・・》は俺が求めている少女ではない。こんな振る舞いはアイツの姿でしてほしくない。こんな戦い方は、俺たちに相応しくない。この亡霊は、一秒ごとにアイツを穢し、侮辱している。健気で爛漫な少女の顔が脳裏をチラつくたびに怒りが倍加し、知らず拳に力が籠もる。張り裂けんばかりの憤怒が目の前に人外に対する恐怖を刻々と塗り潰す。そんな俺の心境の変化など察しようともしない亡霊が、「ねえ、早ク命令を」と急かしてさらに顔を近づけてくる。唇と唇が触れ合うか触れ合わないかの寸前で、俺は|アイツの名前《・・・・・・》を紡いだ。

 
「ニコ、だ」
「───は?」
 
 ここで初めて、俺の精神の滾りに気付いた亡霊が動きを止めて俺を見た。その奈落の瞳に焦燥が垣間見えたのは見間違えじゃない。コイツは亡霊、存在のおぼろげなカケラだ。


(続く)
 

輝けケアキュア☆紫陽花の季節(後編試作) 

未分類

『輝けケアキュア☆紫陽花の季節(中編)』を投稿しました!後編完成まであと少し!キュンキュンするような小説にできるように頑張るぞいっ!!



(前書き部分)
 いつだっただろう。アパートに帰ってきた青年が、「ただいま」と声を投げかけてきた。いつもの底抜けな明るさとは一変して、まるでイタズラを働いた幼子が親の顔色を窺うような、おずおずとして小さな声だった。ルキナは、下目遣いになっていく青年の様子に訝しさを覚えながら、かと言って特に何も考えることもせず、「……おかえり」とぶっきらぼうに返した。
 たったそれだけなのに、青年は、それがこの上ない幸運なことのように背後に虹を咲かせる勢いで微笑んだ。どうしてそんなに大袈裟な反応をするのか、その時のルキナにはわからなかった。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
 後になって、誰かと「ただいま」「おかえり」の会話を交わしたのがとてもとても久しぶりだったことに気がついた。そして、青年にとってはきっと初めての出来事だったのだろうと、察しがついた。
 そしてその日からずっと、小さな「ただいま」とぶっきらぼうな「おかえり」は繰り返された。
(終わり)


 また数日も経つと、ルキナの容態は安定して、手助けがなくとも一通りのことを一人で出来るようになった。すると青年は、早朝と夕方と深夜に出かけるようになった。中古で買ったというオンボロの自転車に乗って急いでどこかへ行って、しばらくしたらまた帰ってくる。新聞配達や、その他のバイトを掛け持ちしているらしかった。それでも仕事の合間を縫ってはルキナの様子を気にかけて一時的に帰ってくるし、夜に帰宅すれば炊事洗濯をしながらルキナの世話をして、絵のスケッチをいくつか描いたりしていた。一体いつ寝ているのか、ルキナには謎だった。そして、どんな時でも、青年はニコニコと満面の笑みを携えていた。寝る前に、青年は古本屋で買ってきたらしい使い古しの参考書に何ごとか書き込んでいた。何をしているのか尋ねたルキナに、青年は「教師になるための勉強をしてるんだ」と説明した。

「美術教師をしながら、子どもに絵の楽しさを教えて、自分の絵も描いて、コンクールに出展して、賞を獲りたい。そうして、子どもたちにまた絵を描くことの素晴らしさを教えてあげたい。美術教師、いいだろう? 僕にとってはこの上ない天職だと思うんだ」

 今、青年がやっていることは、控えめに言っても並大抵の努力ではない。おそろしく大変に違いないのに、はにかみながら夢を語る青年は、そんなことなど苦にも思っていないかのようだった。実際、青年にとっては本当に苦じゃないのだろう。どんな時も、青年は心から楽しそうだった。誇らしげに、嬉しげに、「絶対に実現するんだ」と意気込む青年の顔を、ルキナは直視できなかった。夢を語る青年を疎ましく思ったからではない。そんな青年を|疎ましいと《・・・・・》|思わなくなった《・・・・・・・》自分自身を認めたくなかったからだった。少し前の自分なら、きっとどんな汚いことをしてでも青年の夢を挫けさせようと性根の曲がった嫌がらせの一つや二つを実行していただろう。しかし今は、とてもそんな気にはなれなかった。青年の悲しそうな顔を想像すると、それだけで胸が罪の意識で締め付けられた。誰に対してだって、罪の意識なんか芽生えなかったはずなのに。何故、自分の心理がそんな反応をするのか、ルキナは理解できなかった。微かに残っていた少年だった頃の|性意識《ほんのう》|が、自分の今の性を自覚することにまだ抵抗を示していた。
 そんな自身の内面の変化から目を背けるように、ある日ついに、ルキナは青年に強い口調で問う。

「どうして、私を|匿う《・・》の?」

 青年の顔面が見る間に凍りついた。青年はあまりテレビを見ない。だけど、このご時世だ。ルキナは、自分の映像が街頭テレビで流されるのを何度も観た。ほとんど、ケアキュアたちを足蹴にして甲高く高笑いする映像だった。それを見上げる大衆の反応は、すべてルキナへの悪態だった。人々を護る正義のケアキュアたちに対して、散々な嫌がらせや妨害をしてきたルキナの悪名は知れ渡っている。青年だって、彼女の容姿は知っているはずだ。だからこそ、青年は倒れたルキナを病院に連れて行かなかった。常識的にはそうすべきはずなのに、警察などに突き出したりもせず、それどころか常に薄手のカーテンを閉めて外からルキナの姿を見咎められないようにしていたのだ。当然尋ねるはずの名前を今まで問い質さなかったのは、彼女がルキナであることを知っていたからに違いない。そもそも、テレビを見ようとしなかったのも、ルキナが映ることをわかっていたからかもしれない。明らかに、青年はルキナの正体に見当がついていて、世間から匿おうとしていた。ルキナも、当初からその疑問を脳裏に過ぎらせていた。「本当にロリコン野郎で、欲望を満たす目的のために誘拐されたのかもしれない」とも考えたが、自暴自棄になっていた彼女は「どうにでもなれ」とやさぐれていた。だが、青年の人柄に触れ、予想していた青年の目的が不明瞭になっていくに連れて、ルキナの混乱は増すばかりだった。汚れた欲望のままにメチャクチャにされていた方が、まだ納得ができていた。

「なんで、そんなに優しくするの? 私が誰なのか、何をしてきたのか、アンタだってわかってるくせに」

 言ってしまって、知らず、汗ばんだ両の手がシーツをぎりと握り締めていた。鉄面皮で冷静を装っても、ルキナの心中は今まで経験したことのない感情の渦でムチャクチャに波立っていた。親からの否定の言葉なんて聞き飽きた。殴られる痛みも平気になった。社会からの否定も慣れっこだ。否定したければすればいい。嫌いたければ嫌うがいい、と。───だが、目の前の青年からは否定されたくなかった。その矛盾がルキナの胸の内を竜巻となって荒らしていた。
 青年は、なんと言えばいいかと言葉を選ぶように逡巡していた。その間にも、ルキナの脳内では青年が何度も口汚く彼女を罵り、部屋から追い出す最悪の想像が再生されていた。意識せず、下唇を強く噛み締める。青年から否定される想像を浮かべる度に、腹底は冷え、今まで感じたこともない恐怖感が足先から這い上がってくる。そんなことになれば、もうきっと立ち直れない。正体のわからない恐怖感に、ルキナは初めて“怯え”を感じた。
 青年は「自分でも笑っちゃうような理由なんだけど」と前置きして、頬を指先で掻く。やがてその口がゆっくりとスローモーションのように開かれる。優しい彼は決して自分を追い出すことはしないと青年を信じる一方で、今までの自分の悪行が脳裏に蘇り、『都合のいいことを言うな』ともう一方の摩れた自分がせせら笑う。次に発せられる台詞を座して待つことに堪えきれず、ルキナは思わず腰を上げてこの部屋から逃げ出しそうになり、

「君の絵を、描いてみたかったんだ」
「……は、あ?」

 予想外すぎる回答に、脱力してペタンとその場に座り込んだ。安心してポカンとしたルキナの表情を呆れだと早とちりした青年は「取り繕っても仕方ない」と苦笑しつつ後ろ頭を掻く。

「僕は画家志望だ。芸術家の端くれさ。こういう人種には世間のことはよくわからないし、あんまり興味もない。君の正体や、君の行いも、君がどう思われているかも、僕は気にならない。ただ僕は、初めて君を目にした時、こう思ったんだ」

 言って、青年はルキナの紫色の前髪を指先でそっと搔き上げる。そこに顕わになった少女を、本当に美しいものを見つめる陶酔の表情で見つめる。

「“ああ、紫陽花のようなこの娘を描いてみたい”って」

 まっすぐな言葉と、瞳が放つ熱っぽい輝きに、ルキナは急にそわそわとした気恥ずかしさを感じてさっと目を逸らす。どうして、たった今、目を逸らしたのだろう。どうして、「出て行け」と言われなかったことにこんなにも安心を覚えているんだろう。どうして、青年から求められることをこんなにも嬉しく思うのだろう。自分が青年にとって必要だとわかったことで、どうしてこんなに満ち足りたような気持ちが膨らむのだろう。わけもわからず勝手に高鳴り始めた心臓の動悸を抑え込むように胸の前で腕を組み、尖らせた唇でなんとか答えを紡ぐ。

「……べつに、いいけど」

 ルキナのぶっきらぼうな答えに、青年は心の底からの笑みを浮かべて喜びを示した。「ああ、よかった。嫌われたらどうしようかと思ってた」。
 「それはこっちのセリフ」という声が胸の内から喉のすぐ下まで湧き上がってきて、それを抑え込むためにルキナは全身全霊の力を使わなければならなかった。腹の中でたくさんの蝶々が飛び回っているようなそわそわとした落ち着かなさから逃げるように、ルキナはガバリとその場に立ち上がると長髪を閃かせて風呂場へ歩みだした。

「お風呂、入ってくるから。絵は、その後で描いて」
「あ、ああ。わかった」

 変にたどたどしくなってしまった台詞に、さらに気恥ずかしさを覚える。これ以上青年に見つめられていたら、自分が自分でなくなってしまうという焦燥感があった。目には見えないけど確かにそこに横たわっている一線をもう少しで超えてしまいそうな予感がした。その線を踏み越えてしまったら、その線を認識してしまったら、きっと自分はもう元に戻れなくなる。心のどこかでは、その線がなんであるかと、線を超える意味をすでに理解して、自分の性別を自覚し始めている自分がいる。その自分自身を、この奇妙な下っ腹の火照りとともに洗い流さなくてはいけない。早急に、絶対に。
 ふと、青年が背後から付いてくる気配に気づいて、足を止めて背中越しにジロリと睨んだ。

「なに」
「え、なにって、いつも君がせがむように洗ってあげようかと……」

 青年に下心はなかった。あったとしても、欲望の獣は鋼の知性でなんとか封じ込めていた。ルキナの求めに応じて目隠しをして身体を洗っていただけで、悪気もなく、罪もない。むしろ被害者の側だ。だが、今のルキナは、なぜか青年と風呂に入るのを嫌だと思った。当然のように一緒に入ろうとしている青年に対し、今まで訪れなかった正体不明の苛立ちが眉根を機嫌悪そうにギュッと寄せさせた。青年に裸を見られたくないという羞恥心が、少女としての経験が欠如した思考回路を通って不快感へと変換され、そのまま青年へとぶつけられた。

「ロリコン。変態教師」
「ええっ!? そんな、理不尽な───」

 ショックを受けて立ち止まった青年を脱衣所から押し退け、ルキナは扉をピシャリと締めた。まるで思春期の娘が父親と風呂に入ることを拒否するような一幕だった。ルキナの“裸を見られたくない”という意識の変化は、まさしく青年を異性として認識しているが故の|年頃の少女として《・・・・・・・・》当たり前の反応だった。ルキナは、この日を境にして、自分と青年を異性だと無意識の内に認識していた。
 ところで、その日の風呂は、ルキナにとって恍惚の癒やしではなく苦難の場となった。シャンプーの適切な量がわからず、闇雲にベチャベチャと塗りつけて乱暴に擦ったため、風呂場も髪も非常に悲惨なことになった。自分自身で髪を洗うことがこんなに大変だとは思ってもいなかった。ガシガシと雑な扱いを受けた髪は、キューティクルの艷やかな輝きを失い、見るも無残なスチールウールと化してしまった。それを見た青年は、ルキナよりも深く残念がった。「なんてもったいないことを」と嘆くと、いつもより強気になってルキナの肩を掴み、髪は今後も自分に洗わせて欲しいと詰め寄った。不意に近づいてきた青年に赤らんだ頬を悟られないように顔を逸らしながら、ルキナは渋々了承した。

 そして、ルキナを|描《えが》く準備が整った。青年は穏やかな晴れの昼を選んだ。窓辺から余計な物をすべて取り除け、涼し気な風邪になびく白いカーテンのみを背景に、ルキナを小さな椅子に腰掛けさせた。モナリザのように身体の中心線を正面から少し斜めにして、下腹部を守るようにへその下でそっと手を重ねるという女性的な印象のポーズを取らせた。

不本意

孤独


(途中。以下はツイッターでの原案まま。これから改訂)







しかし画家志望の夢を諦めず、ひたすら努力していた。傷が回復すると絵のモデルになってくれとせがまれた。渋々承諾して完成した作品を見て、青年は最高傑作が出来たと飛び上がって喜んだ。その絵は確かに良く出来ていた。TS魔法少女は、忘れていた感情を思い出し、小さく微笑んだ。

TS魔法少女と、それを拾った画家志望の青年の奇妙な共同生活が一ヶ月ほど続いたある日、青年が自分の絵を売り込みに出掛けた。TS魔法少女は青年の部屋にいて、「自分は何をしているのだろう。何をしてきたのだろう」と自問しながら膝を丸めていた。すると、窓の外、街の方から悲鳴と爆発が聞こえた。


魔法の気配に心身が反応し、慌ててテレビを付ける。テロップが流れ、『青年画家が魔人に人質にとられた』という速報を目にした瞬間、TS魔法少女は自分でもわからない衝動に駆られて玄関を飛び出した。石を踏んだ裸足に血が滲み、息が苦しくなり、喉が掠れて肺が痛んでも、TS魔法少女は走り続けた。


現場には魔法少女達がすでに駆けつけていたが、人質のために派手に戦えず、苦戦していた。しかも魔人は画家から夢のエネルギーを吸い取って力を増していた。青年の手から一枚の絵が滑り落ち、広がる。そこに描かれた少女の見知った顔に魔法少女達は驚く。その背後から、「待て!」と大きな声が響いた。

振り返ると、ブカブカのTシャツを羽織った悪の魔法少女が荒い息を吐きながら魔人を睨みつけていた。握った両手は怒りに震えている。魔人は嘲笑う。「俺に歯向かうのか。それもいいが、そうするともう元には戻れないぞ」。TS魔法少女は、一瞬足りとも迷わず、「キャハハハ」と心からの嘲笑を迸らせる。



「その人の夢に──私の大切な人の夢に比べれば、そんなこと、くっだらな~い!」。嘲笑うような口調に涙を浮かべ、覚悟を決めた少女が腕を高く掲げる。目も眩む紫色の輝きが柱となって彼女を包み、次の瞬間、かつて他者の努力と理想を全否定していた魔法少女が、他者を救うために立ちはだかっていた。

それでも苦戦するTS魔法少女。魔人と契約したため、同じ属性の攻撃では効果的な打撃は与えられない。歯噛みする背中に、複数の手が添えられる。振り返れば、正義の魔法少女達の頼もしい笑顔。「誰かの夢を護りたいと願うのなら、貴方はもう正義の魔法少女よ!」。

「私が──?」。次の瞬間、TS魔法少女の装束が眩い輝きを放ち、ウェディングドレスのような豊かな装飾が花開く。それは、正義の魔法少女にしか与えられないパワーアップフォーム。「これで五人揃った!」。正義の魔法少女達に混じり、横並びになる。
(途中)




失うものなんて自分には無い。だから、怖いものも無い。でも、今は、何かを失うことに恐れ、心から怯えている。その理由には、きっと手を伸ばせば簡単に届く。でも、伸ばす勇気がない。正体を知ってしまえばもう戻れなくなるという本能的な直感が、“何か”を───誰かを直視することを拒んでいた。




夢を持たない私でも、誰かの夢は守れる。守ってみせる。

導火線に火がついたような笑み

誰かの夢を護りたいという願い

アンタだってテレビくらい見てるはず。だったら、私が誰なのか、知ってるんでしょう?


私に夢なんかない

捨てばち

あなたのために生きていきたい

握ったままの手じゃ、なにも掴めないよ

耳鳴り

連撃

奇跡

君と出会えた




気がかり
姿を見せない
心配
敵の心配
でも……

名乗り
口上



すがりつく

「私の絵を、完成させて」
「……何を、言って、るんだい? もう、この絵は、完成、してるじゃないか……そう、もう終わって……」
「いいえ、してないわ。ねえ、お願い、私を見て。今の実物(わたし)を見て」

無気力に弛緩していた表情筋が見る見る引き締まる。その瞳いっぱいに映り込むのは、花嫁姿のルキナだ。

「───まだまだ、完成にはほど遠いな」
「ええ、ほど遠いわ」



 ふと覚醒し、重いまぶたをゆっくり持ち上げてみる。ぼんやりと曖昧な視界に、硬い床で何度も寝返りを打ちながらも苦労して眠る青年が映り込んだ。

【8/28改訂】輝けケアキュア☆紫陽花の季節(中編)【書いてて楽しい!頑張るぞ!】 

未分類

タイトルままです。少し長くなってきたので、前編後編に分けてハーメルンさんに投稿しました。書いてて楽しい。プリキュア、ちゃんと見たことないけど、参考資料として見てみるとけっこう面白い。




 気がついたら、ルキナは青年の小さなアパートのベッドで眠っていた。きちんと整理されて清潔感はあるが、それを差し引いても狭くて古い部屋だった。薄い壁板の向こうからは、まだ激しく降りしきる雨音が聞こえてくる。半身を起こそうとしたが、肉体は鉛のように無反応だった。にぶい感覚を頼って自身の様子を調べてみると、ぼろぼろの服は脱がされ、代わりに青年のシャツを着せられているようだった。洗濯したばかりの洗剤の匂いが清々しい。気を失っている間に、温かいお湯に浸したタオルで身体を隅々まで拭かれたのだろう。全身が火照っていて、なのに風呂に入った後のようなさっぱりした清々しさも感じる。肘や膝の擦り傷は包帯や絆創膏で丁寧に処置されていた。血が巡り始めた頭でボンヤリと部屋を見回すと、青年はこちらを直視せず、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてそっぽを向いていた。直視できない理由があるようだった。なにか、見てはいけないものを仕方なく見てしまったかのような。その理由に、中身が少年であるルキナはすぐに思い至った。

「……ロリコン」
「ち、ちがっ!? だ、だって、濡れた服を脱がさなきゃ風邪ひいただろうし、だ、だいぶ汚れてたし、怪我もしてたしっ!? どうしても目で見なきゃ出来ないことだし、自分でやってもらおうにも君は目を覚ましてくれないし! ていうか、そもそも年の差がありすぎるかし───ていうか、君、気がついたのかい!?」

 飛び上がってバタバタと否定し始めた青年の様子に、ルキナは口角に力を込めて意地の悪い笑みを形作ってみせた。それでも、青年のこちらを窺う目が気の毒そうに沈むのを見て、自分がどんな無様な様をしているのかは想像できた。きっと、同情と哀れみを誘うような悲壮な相貌をしているに違いなかった。そう考えると、自嘲の笑みだけはちゃんと浮かべることが出来た。青年の目はますます沈んだ。なぜ、そんなに悲しそうな顔をするのか。まるで自分のことのように。ルキナには到底理解が及ばなかったが、やがて訪れた疲労による冷たい眠気に疑問は押し流された。
 
 次に目が覚めても、ルキナは放り出されてはいなかった。彼女は相変わらず青年のベッドを占領して寝かされていた。てっきり愛想を尽かされて元の公園に捨てられると思っていたのに。半目を開けて青年の姿を探すと、彼はちょうどルキナの膝の包帯を取り替えようとしていた。彼女の白く肉付きのいい太ももの付け根、何も穿いていないむき出しの|そこ《・・》を見ないように目線を天井で泳がせながら、わたわたと不器用な手付きで。

「……ロリコン」
「だあっ!? だ、だから違うって! 子どものくせに、な、なんてことを言うんだ! ていうか、起きたなら起きたって言ってくれよ!」

 青年の慌てふためく様子が滑稽だった。ルキナはくつくつと低く笑った。またやってやろうと思いながら、ルキナは再び眠気の波に身を晒した。今度の眠気は、不思議とそれほど冷たいとは思わなかった。
 青年は、なぜかルキナの面倒を見始めた。立ち上がることすら補助を必要とするルキナに付きっきりとなり、甲斐甲斐しく世話をし、介抱をした。ルキナは抵抗しなかった。「ノライヌを拾ったのなら、拾い主の好きにすればいい」。そんな捨て鉢の心境で、ルキナは無気力に青年の親切を受け入れた。それに、青年が作るお粥は、味は薄いが、また食ってもいいと思えるほどには美味かった。誰かの手料理は久しぶりだった。

 3日ほどして、ルキナがしばらく目を覚ましていられるほどに体力が回復すると、青年はルキナの素性を問い質すことはせず、逆にルキナの気を紛らわせるかのように自身の身の上を話し始めた。ルキナは、青年もまた、親の愛情を受けて不自由なく育てられた者だろうと勝手に思い込んでいた。だから、こうして他人に親切に出来るのだろうと。だが、青年は孤児だった。捨て子で両親を知らず、孤児院で育ち、里親を転々とし、自立してからは画家になる夢を追いかけて独学で絵を学びながら大成を目指しているという。
 青年は自分の生い立ちを、さも悔いなどないというように、楽しそうに言い聞かせた。意外な事実に、ルキナは目を見張ってあらためて部屋を見回した。整頓されているのは、質素にしなければ生きていけないからだった。青年が必死に働いてなんとか現在の生計を立てているに違いないことは、まだ子どものルキナにも察することが出来た。そこに、満足に動くことも出来ないノライヌを背負い込む余裕なんて、ないはずだ。
 だというのに、青年はそんな負担はおくびにも出さず、ルキナを楽しませようと自分の絵画を見せた。自信作から失敗作まで、包み隠さず、作品ごとのエピソードも添えて。特に花をモチーフにして描くことを青年は得意としているようだ。ルキナは芸術の醜美について目が肥えていないのでそれがどんなレベルなのか判断がつかなかったが、思わず「本物みたい」と声を漏らすほどに、青年の腕は巧かった。青年は、その一言だけでとても喜んだ。まるで、好きな女の子から容姿を褒めてもらえた少年のように、ウキウキして舞い上がっていた。ルキナはそんな青年の反応に首を傾げながら、油絵の具で丹念に描かれた紫陽花の絵をじっと見ていた。ろくに手入れされていない花壇の物陰で今にも消え入りそうなのに、ぐっと踏ん張って色鮮やかな花を咲かせる、健気な紫陽花。絵画全体がひどく濡れてしまっていて台無しになっているが、それでも描いた人間の優しさまで透かし見えるような、不思議と目が離せない魅力があった。青年は、そんなルキナの横顔を眺めて、満足そうに頷いた。

「それは、君を拾った日に完成したんだ」

 記憶を辿り、初めて会った時に青年がなにか四角い荷物を持っていたことを思い出す。ルキナを傘で覆う際に、水たまりに放り出していた。だから、こんなふうに台無しになったのだ。とてもキレイな絵なのに、自分のせいで。嫌味の一つでも言われるのかと予想し、なぜか「青年から嫌われるのはイヤだ」と我知らずぎゅっと唇を結んで身構えたルキナに対し、青年は正反対のことを告げた。

「きっと、運命だな。もっと素敵で美人な紫陽花に出会うための布石だったんだ。うん、そうに違いない。うん」

 青年は、やはり満足そうに頷いていたが、自分が口にしたことが存外こそばゆく、片手では足りないほど年齢の離れた少女に対して使うセリフではなかったことにハッと気がついて、とても照れくさそうにはにかんだ。ルキナといえば、学が足りず、そもそも中身が少年なので、青年の歯が浮くような遠回しの台詞についてはちっとも心に響かなかった。むしろ、青年に怒られなかったことへの安堵感で胸中はいっぱいになっていた。ルキナが青年の言葉の真意に察しがついていない様子に、青年は残念そうな、ホッとしたような、形容しがたい表情を滲ませた。

 さらに数日後、ふとルキナは夜中に覚醒し、重いまぶたを持ち上げてみた。ぼんやりと曖昧な視界に、硬い床で何度も寝返りを打ちながらも苦労して眠る青年が映り込んだ。自分のベッドを他人に明け渡したせいで、青年は腰の後ろをトントンと叩かなければいけなくなっていた。どうして、そこまで他人に尽くせるのか? 青年と自分は境遇的には似通っているはずなのに、生き様にこうも違いが生じてしまっているのは何故なのか? ルキナには理解できなかった。
 
 拾われて一週間もした頃、青年はルキナを自室の風呂に入れた。安アパートらしく極めて狭いが、よく掃除されてカビ臭さも無い。その代わり、そこらじゅうにアクリル絵の具と油絵の具のカケラが飛び散ってこびりついた、奇妙な色彩の風呂場だった。「ビー玉を敷いた金魚鉢みたい」。心に浮かんだままにそう比喩したルキナに、青年はポンと感心の手を叩いて「君はセンスがいいね」と褒めた。称賛に慣れていないルキナは、己の頬が思わず熱を帯びたことに驚き、それを青年に見られないようにそっぽを向いた。

「……ねえ、身体、洗ってよ」
「へ?……へぇえっ!?」

 幼い少年が照れ隠しをするような尖った口調で、ルキナはシャツを気怠げに脱いで一糸まとわぬ背中を青年に見せつける。色素の薄い肌は消えてしまいそうなほどに純白で、艷やかな髪が背中をはらりと撫でる様子は年齢を超えた人外の色気を匂い立たせていた。我知らず、青年はグビリと喉を上下させる。

「腕にまだ力が入らないの。洗ってよ。ロリコンじゃないんだから、平気でしょ」
「も、も、もちろん、違う。でで、でも、だからって年頃の女の子がそんな、だ、大体、今ちゃんと腕を動かせてたし、」

 背後でワタワタと慌てふためく青年を無視してプラスチックの風呂椅子に座ると、ルキナは無言のまま、正面の鏡越しに青年の真っ赤な顔をじろりと睨め上げた。教師を目指す青年はそれでも誘惑に負けず鉄の意志を示し、モゴモゴと口元をうごめかせて果敢に抵抗した。が、「ねえ、寒いんだけど」という小さくも鋭い抗議に諦観し、肉体が萎むような大きな溜め息を吐き出すと上下の裾を捲った。青年に肌を晒すことを、ルキナは恥ずかしいとは思わなかった。もともと、ケアキュアと戦う時以外、少女の姿で生活をしていたことがなかった彼女は、女としての性を自覚してはいなかったし、青年のことを年上の同性としか意識していなかった。

「誰かを洗うのなんか初めてなんだ。痛くしても怒らないでくれよ」

 肌を密着させるほど狭い風呂場に、大人びた低めの男の声が反響する。青年の声は角がなく優しい響きで、耳心地がよかった。青年は、成長途中の少女の繊細な肌を傷つけないように、とてもとても丁寧にルキナの身体を洗った。誰かに身体を洗ってもらうなんて、赤ん坊の頃以来に違いない。物心がついてからはきっと初めてだった。それに、さすが芸術家志望というべきか、青年の手付きは非常に器用だった。頭皮から髪先までシャンプーを馴染ませた指で丹念に梳かされ、背中や首筋、細い腕、手の指一本一本から指の股まで、ボディソープのたっぷりと染み込んだタオルでゆっくり優しく擦られる。ゾクゾクするくらいくすぐったいが、安心感を得られるほど温かくて、なにより想像していたより何倍も何十倍も気持ちがよかった。包み込まれるような快適さに、ルキナはやがてうつらうつらと頭を揺らし、ついに青年の胸に後ろ頭を預けて眠りに落ちた。青年はぎょっと驚いたが、ルキナの恍惚とした幸せそうな寝顔を見て、起こすことをやめた。「警戒心のなくなった拾われ犬みたいだな」。そう胸中に呟くと、自身の服がぐっしょりと濡れることも厭わず、洗うことを再開した。

「……なあ、起きてくれ。前は自分で洗ってくれないか」

 だが、背中を洗い終えていざ身体の前面を洗う時になると、頭を抱えて悩んだ。肩を揺らしても、未だ体力が回復していないルキナが目を覚ます気配は一向に見えなかったからだ。しばし常識と倫理感と戦った末、タオルで目隠しをして、|特に気をつけ《・・・・・・》|ねばならない《・・・・・・》|箇所《・・》は極めて極めて慎重に洗うという苦渋の結論に落ち着き、震える手で洗い続けた。

「僕はロリコンじゃない。僕はロリコンじゃない……」
「───ん、ぁ、ぁっ……」
「……! 僕はロリコンじゃない。僕はロリコンじゃない。僕はロリコンじゃない……!!」

 寝息に交じる、敏感な部分を刺激されて滲む喘ぎ声。子どもから大人の女になろうとしている未成熟な少女特有の危うい魅力が、青年の理性をサンドバッグのように殴り倒そうとしていた。激しい誘惑の殴打に理性をダウンされないように、青年はお経を唱えるようにブツブツと己に暗示をかけ続けなければならなかった。紅色に上気した頬が青年の肩に擦り付けられ、青年の手の動きに合わせて薄く開いた唇から甘い吐息が漏れる。青年の指先がひときわ敏感な先端部を掠るにつれて、長いまつ毛がピクピクと震え、湯雫を弾く。時折、青年の指先が固くなった敏感な突起部を誤って掠ってしまうと、細木のように華奢な腰がくねくねとよじれ、形の良い細顎がくんっと跳ねて扇情的な首筋と鎖骨が濡れ光る。目隠しの隙間から覗くそれらから意識を切り離すため、青年は数十回もの悟りの境地を垣間見ることになった。
 目を覚ましたルキナは、自らが眠らされたベッドにもたれ掛かってゲッソリと疲弊している青年を見つけた。座禅など組んでみれば、そのまま即身仏にでもなってしまいそうだ。昇天寸前の様子に不思議そうに小首をかしげ、胸の片隅にほんのちょっぴり、罪悪感を覚えた。そして、他人に対して罪悪感を覚えた自分自身に驚いた。

「……ねえ、気持ちよかったから、明日もやって」
「ええっ!?」

 飛び上がって頭を抱える青年の様子に、ルキナは「キヒヒ」と白い歯を晒してほくそ笑んだ。罪の意識はほんのちょっぴり覚えたが、風呂の心地よさの方が勝った。それに、青年をからかうのは純粋に楽しかった。誰かをおちょくって笑うのは、本当に本当に久しぶりだった。親しい誰かと触れ合うことがほとんどなかったルキナにとって、青年とのやり取りは、冷えていた心を温めてくれるものだった。

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どもども。主(ぬし)です。駄文書きです。趣味は映画と小説とニコニコ動画です。灼眼のシャナやFate/zeroのSSなどを書いてます。小説の小ネタや、短編SS、映画のレビューやちょっとした雑記などを掲載していこうと思います。

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