白銀の討ち手

己の妄想をネットという広大な海へ送り出すことに若干躊躇いつつも実行してみるブログ。現在は『白銀の討ち手』という灼眼のシャナの二次小説をarcadiaさんにて執筆中。

【ブリジットという名の少女】 Her name is Charis!! 一覧まとめ 【三次創作】 

Her name is Charis! !

 漫画『ガンスリンガー・ガール』の二次創作小説『ブリジットという名の少女』の三次創作でございます。今までまとめを作ってなかったので、続きが完成間近なこのタイミングで一覧をまとめた記事を作成しました。余裕がある時に作っておかないと。
 この拙作は、僕が『ブリジットという名の少女』を読んで深く感銘を受けた結果、ただただ「ブリジットを救いたい!」という情念に突き動かされてハイテンションのままに書いたものです。事後承諾にはなりましたが、作者様であるH&Kさんには許可も頂けました。その懐の広さに感謝です。ああ、H&Kさん。貴方と直にあっていっぱいお話をお伺いしたいです……。
 偉大なるH&Kの作品には完成度もストーリーも伏線も何もかもが遠く及ばないですが、もしも、ブリジットの物語にIFの世界を望まれる方がおられましたら、読んで頂ければ幸いです。鬱クラッシャーとTS娘の融合作品、ぜひご堪能くだしあ!






<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1
外伝 後編その2
外伝 後編その3
外伝 後編その4

<名状しがたいオマケ的な何か>

ちょっとしたコネタ
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ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ試作 

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前書きメモ。思いついた。あとでまとめる。

ウェイバー、ライダーの小ネタ。大塚明夫をネタに。
「待たせたな」。
「勃起がとまらん」。
「それ違う方の大塚明夫だから~違うから~はああ~!」



以下本編。最後で悩む。大幅カットしてしまうか悩んででも納得させてしまうか。



‡切嗣おじさんサイド‡

 早朝。夜明け前の霜が降り落ちる、冬木市深山町。
その一角に佇む武家屋敷の小さな土蔵で、壮年の男が一人、凍てつく寒さに身を晒している。吐息を暗闇に白く染めた男は、覚悟を決めるように深く息を吸うと久方ぶりの“呪文”を唱える。
 
「|固有時制御《Time alter》―――|2倍《double》―――ぅぐ、がッ!?」
 
 転瞬、肉を深く裂くような激痛が四肢を走り狂い、男はうめき声をあげてその場に膝をついた。爪がマニキュアを塗りつけたように紅く濁り、皮膚との隙間から鮮血が噴き出す。毛細血管の破裂という懐かしい痛みを努めて平静に受け止め、男は歯を食いしばって自身の現状を分析する。体内時間を改竄する魔術は術者の肉体と魔術回路に多大なる負荷をかける。そして、無茶に無茶を重ねた彼のそれらはもう|最低限《ダブルアクセル》の固有時制御魔術にすら耐えられない。結果は、最悪だ。
 
「―――僕は、無力だ……」
 
 か細い悔恨の呟きが暗闇に溶けて消える。
 わかっていたはずだった。10年前の|アインツベルン本城《・・・・・・・・・》|での激戦《・・・・》は、まさに一世一代を掛けた死闘であった。投入し得る全ての技術と装備と人脈を結集し、男にとって前代未聞となる|6倍速《hexa axel》魔術の行使まで行ったドイツでの一夜の戦いはまさに熾烈を極めた。城内外に仕掛けておいた強力な爆弾が次々と誘爆する中、切り札たる起源弾の残弾を全て使いきり、自殺に等しい魔術を行使し続けた。全ては、立ち塞がるアインツベルンの首魁、アハト翁を打倒し、囚われている愛娘を奪還するために。
 実際、彼は目的を達成した段階ですでに絶命一歩手前であった。血まみれの肉体は出血していない箇所を数える方が簡単だった。頭蓋の内側に大量の血が溜まり、意識を圧迫した。口、鼻、耳から信じられない量の血液が溢れだし、血管も神経もミキサーにかけたように裁ち切れ、骨肉はあらゆる箇所が粉砕し、魔術回路に至っては完全に断線して使い物にならなくなった。同行した師匠と妻と弟子による必死の治癒がなければ今頃は地獄の釜で極悪人の先人たちと共に茹でられていたに違いない。
 既のところで死の淵から生還し、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした妻と娘を傷だらけの腕で強く抱き締めて、男は思った。「これでよかったのだ」と。世界を救う正義の味方にはなれなかったが、愛する者たちの|救世主《ヒーロー》にはなれた。ここから先は愛する者のために、静かな生活を送ると誓った。
 

そんなささやかな願いすら、|運命《Fate》は残酷に踏み躙る。
 

 10年前、男のサーヴァントと|とある英霊《・・・・・》が聖杯を破壊したことで、聖杯戦争の歴史は終焉を迎えたはずだった。しかし今、60年周期という慣例すら破って復活した聖杯は異例の早さで第五次聖杯戦争を開始しようとしている。迫り来る戦争を前に、男の心を支配するのは恐怖だけだ。妻子との幸福の日常を、幸福の源である愛娘を失う恐怖が男の心を日に日に黒く蝕んでいた。
 娘は、魔術師であり人間である男とホムンクルスの妻との間に生まれた奇跡の自然児だった。造り物ではない立派な魂を有しながら、同時にアハト翁の手による史上最高の特別なホムンクルスでもある娘の小さな心臓は、『小聖杯』という聖杯の力の受け皿たる機能を有している。第五次聖杯戦争が始まれば、娘は自分の意志とは関係なく小聖杯の役割を押し付けられ、やがて“器”と化して自我もろとも消滅する。悪辣な陣営があれば、有利を得るためにまず聖杯の器を確保しようと娘を誘拐するだろう。肉体を不要と判断すれば心臓のみ引きずり出して殺害するかもしれない。
 娘は、同年代に比べてずっと小さい。アハト爺による本格的な調整を受ける寸前に奪還し、その後の治療の成果もあり、寿命に関しては普通の人間とほぼ遜色はない。しかし、その成長は周りに比べて緩慢を極めた。そんな儚くて華奢な娘が苦しまされながら殺される光景を想像してしまい、途方もない嗚咽感に喉を滅多刺しにされる。その瞳から光が消えていく様子など絶対に見たくない。それだけは断じて避けなければならない。命をかけて護ってやらなければならない。
 ……しかし、もはや阻止できる力は微塵も残されていない。肉体は未だ傷が癒えず体力は衰え、魔術回路は回復の兆しすら見られなかった。今の彼がうらぶれた身体を引きずって死に物狂いで戦ったとしても、その戦闘力は全盛期の精彩など望むべくもない。それは彼の妻や師や弟子も同じであった。例え、|侍女《メイド》たちの力を合したとしてもサーヴァント一体にすら太刀打ち出来まい。

「肝心な時に何も出来なくて、なにがヒーローだ」
 
 掠れた声で胸元を探り、常にそこにある銀色の輝きを指先に確かめる。純銀の飾りナイフは、|彼女《・・》との尊い思い出。曙光が降り注ぐ在りし日に彼女と交わした“正義の誓い”の象徴だった。
 
「君の言うとおり、恋をしたよ。結婚して、子供を授かった。娘のことを心の底から愛している。だけど―――だけど、僕はハッピーエンドを迎えられそうにない」
 
 力なく項垂れた男の頬を悔し涙が伝い落ちる。正義の味方を目指した男が、命をかけて子を護らねばならない父親が、娘の危機を前にしてただ手をこまねくことしか出来ない。男として、父として、これほどの恥辱があるものか。握りしめるナイフが皮膚に食い込んで鋭い痛みを発する。心の痛みの、何万分の一にもならない痛みだった。愛娘が味わうだろう苦痛の、何億分の一にもならない痛みだった。

「僕は、どうすれば、いいんだ」

 身の内側で、悔しい、悔しいと泣き叫ぶ声が聞こえる。行き場のない怒りと屈辱に頭がどうにかなりそうだった。愛する者への罪悪感と非力な己への呵責が心身を内側からズタズタに切り裂く。あらゆる負の感情を抱えきれなくなり、男は土下座するようにして地に額をこすり付ける。顔面を醜く歪め、激しく嗚咽し、落涙する。彼は発狂寸前だった。
 そして、今まで他者に助けを請うことのなかった男の口から、助けを求める喘ぎが、遂に喉を割って滲み出る。
 
「頼む、教えてくれ、シャーレイ! 僕はどうすればいいんだ! あの日のように、あの時のように、僕を導いてくれ! 僕を―――イリヤを、助けてくれ……!!」
 
 
 
 

 
「|どうもしなくていいのよ《・・・・・・・・・・・》、|ケリィ《・・・》」
 
 

 
 
 
 ドクン。
 撞木で突かれた鐘のように心臓が大きく震えた。肋骨がバクバクと収縮し、瞳孔がカッと開き、呼吸がクッと喉元で止まる。|そこにいる《・・・・・》という直感に背中が鳥肌にざわめき、首筋と耳たぶが炙られるように熱くなる。20年と言わず聞いていなかった軽やかな声音は、しかし一度足りとも忘れたことはない。心が折れかけた時、何度も思い出して勇気をもらったその凛々しい声を忘れることなど出来はしない。
 
心臓が痛いほど早鐘を打つ中、男はゆっくりと背後を振り返る。
淡い月光に型どられた土蔵の戸口に、|彼女《・・》はそっと立っていた。
 腰まで伸びた艶やかな黒髪、シミひとつ無い|白純《しらずみ》の肌、朱く底光る涼し気な双眸、かつては自分より4歳年上|だった《・・・》、今や不死となった少女―――。
 
「……シャー、レイ?」
「ええ。久しぶり。元気そうで何より。ちょっと見ない内にだいぶ老けちゃったわね」
 
 開いた口の塞がらない男の問いかけに、アリマゴ島で接していた時と何ら変わらない気安さで、|濃緑《オリーブ》色のジャケットに身を包む少女―――シャーレイは応えた。「原作より長生き出来てよかったわ」と語る台詞はまるで生まれた時から日本人だったかのような流暢な日本語で、ケリィと呼ばれた男は内容の意味不明さと共にしばし自分の正気を疑った。しかし、悩みや迷いを是として受け止めてくれる姉のような母のような嫋やかな微笑みは思い出の中の少女と変わらず、潰れかけていた背中から少しずつ重石を取り去ってくれる。立ち上がるだけの余力を授かり、男は震える足でシャーレイに向き合う。
 幻覚かもしれないと疑念を投げかける理性を、それでもいいと振り払う。義母を救い、歪みかけていた自分の性根を正してくれた彼女なら、例え幻覚であっても打開策を授けてくれるという確信があった。
 先の少女の言葉を咀嚼した男―――元“魔術師殺し”の衛宮 切嗣が再び問う。

「“どうもしなくていい”だって? シャーレイ、どうもしなくていいわけがないんだ。また戦争が始まるんだ。君は知らないだろうが、聖杯戦争という魔術師同士の殺し合いがこの地で始まろうとしている。前回の戦争に僕は参加して、かろうじて生き残った。だけど、僕にはもう今回の戦争を戦いぬく力は残されていない。何とか戦争を止めようとしているが、聖堂教会も魔術協会も役には立たない。|あの男《・・・》―――間桐 雁夜ですら止められないんだ。間違いなく戦争は始まってしまうだろう。このままでは、僕の娘が、イリヤが戦いに巻き込まれてしまう!!」
 
 血の滲む声に喉を震わせながら、切嗣は少女に迫り訴える。両肩を荒々しく掴まれても、勢い余った爪が細肩に食い込んでも、少女は口を挟まず、目尻に優しさを湛えて切嗣の視線を己の瞳に迎え入れる。
 
「イリヤには戦ってほしくない。もう何にも利用されてほしくない。傷ついて欲しくない。静かに……ただ静かに生きて欲しいんだ。護ってやりたいんだ。僕らとは違う、人並みの平穏な幸せを与えてやりたいんだ。そのためには、何か手を打たないと取り返しがつかなくなる。何でもいい、どんな手段でもいい、僕に出来ることがあるのなら何でもする。何か、何か手を打たないといけないんだ。だけど……だけど、今の僕はどうしようもないくらい、無力なんだ……!!」
 
 洪水のように一気に流れ出た切嗣の|言葉《ひめい》を、少女は静かに受け止めた。「なるほど、なるほど」とささやかに膨らむ胸の前で腕を組み、あたかも深刻に考え込んでいるかのように瞑った目の上で眉根を寄せてふむふむと数度頷く。頷いて、小さく鼻で嘆息する。
 
「ねえ、|切嗣《・・》。一つ聞いていいかしら?」
 
 一転して冷静な口調となったシャーレイがスッと切れ長の眼を開く。不思議な引力を放つ朱い瞳が星のように瞬き、思わず息を呑んだ切嗣の双眼をまっすぐに見据える。

「ニチアサヒーロータイムはちゃんとチェックしてるかしら?」
「は……? あ、ああ。してる、けど」

――― 正義の味方自称するんのならニチアサヒーロータイムの鑑賞は義務だろうがクソガキ ―――

 正義の誓いを建てた日、強かな拳とともに受け取ったハチャメチャな言いつけを切嗣は律儀に守っていた。色彩賑やかな戦隊ヒーローから重厚感あるメタルヒーローまで、目を通していないものはない。一瞬、意識が現実から乖離し、遠い記憶に立ち戻る。朝焼けの下で強かな一撃を喰らったあの瞬間に。目を瞑っていないのに、まるで今まさに目の前で起きている出来事であるかのように眼球の裏に再生される。グォンとシャーレイの腕が渦を巻いて振りかぶられて、放たれた握り拳がスローモーションのようにゆっくりと顔面に迫ってくる。艶めく黒髪が龍の尾の如く視界を流れ、真っ赤な眼光が宙に鋭い光跡を描く。
 そうそう、まるで|こんな風《・・・》に、―――

「|だったらいい加減に察しなさい《ライダー》|クソガキ《パーンチ》!!!!」
「グロ゛エ゛ッッ!!」

 幻覚ではなかった。現実の痛みが左頬を強烈に打ち付け、切嗣の肉体は美しいほどに見事な回転を描きながら宙を軽やかに舞った。死徒の腕力を腰の捻りで増幅させたパンチは以前よりさらに磨きがかかっていた。そのまま天井の梁に勢い良く跳ね返り、スライムのようにべチャリとひどい音を立てて床に突っ伏す。なまじ身体が衰えていただけにかなり効く。だが、懐かしい。首根っこをひっつかまれ、絶望の沼から無理やり引きずり出されて陽の光の下に放り出されたようだ。

「だから、どうもしなくていいって言ってるのよ。文字通りそのままの意味。手出し無用よ。いつまでベタベタしてるつもり? そろそろ|子離れ《・・・》しなさい」
「こ、子離れ……?」

 思いもがけない世俗的な言葉に面食らいながらフラフラと半身を起こす。その胸を、シャーレイは年長者然とした表情でツンと突っついた。そこにあるのは誓いのナイフだ。
 
「いいこと、切嗣。貴方は確かによく戦った。破滅に至るはずだった物語を変えてみせた。貴方は紛れもなく|英雄《ヒーロー》よ。でも、|一つ前《・・・》のヒーローなの」

 否定ではない、心から労をねぎらう口調と表情に、切嗣は反感を抱くことなく素直な心持ちで耳を澄ます。

「ヒーローってのはね、しぶとくて諦めが悪くなくちゃいけない。でも、引き際もしっかりと心得ているものなのよ。最終回でバッチリ決めて一年間の役目を終えたら、その背中を子どもたちに魅せ付けながら次の世代にかっこ良くバトンタ~ッチ。いつまでも前のヒーローが出しゃばったって、後に続く者の邪魔になるだけよ」
「―――イリヤが、|正義の味方《ぼくのゆめ》を引き継ぐと?」
 
 特撮ヒーローを例にした言葉の真意を切嗣は瞬時に悟った。シャーレイは飲み込みの早い生徒を称えるように「成長したじゃない」と満足気に微笑み、続いて問いかける。
 
「ねえ、切嗣。イリヤが貴方に願ったことがあったのかしら? “可哀想な私を助けて。お城のお姫様のように私を護って”と、貴方に泣いて縋ったことが、一度でもあった?」

 その問い掛けに、無意識的に記憶の棚が開け放たれる。だが、全ての棚を覗き込むより前に結果はすぐにわかった。

「……いいや、無い。そう、無かった。ただの一度だって、あの娘が僕らに助けを求めることは無かった」

 娘の口から“助けて”という台詞が発せられた試しが無いことを、切嗣はこの時に初めて気がついた。蝶よ花よと寵愛しようとする両親やメイドたちに反し、矮躯の少女は誰よりも強く気高くあろうと振る舞った。どんなに痛い時だって、どんなにつらい時だって、唇を噛み、小さな拳を握りしめ、細身を精一杯に膨らませて、まるで自分がこの世界を守護する盾となるかのように不条理と恐怖に真っ向から楯突いていた。
 呆然と首を振って答えた切嗣を、確信の色をした瞳がまっすぐに見つめる。

「|イリヤは強いわ《・・・・・・・》。私は知ってる。私にはよくわかる」
 
 楽観し、口先だけで語っているのではない。
 いつ、どこで見ていたのかはわからない。しかし、シャーレイはイリヤをよく知っている。切嗣と同じくらいに、もしかしたら切嗣以上に、|イリヤスフィール《・・・・・・・・》|という在り様《・・・・・・》を理解している。熟知した上で、未来を任せるに足る者だと認めている。

「しかも、|この世界のイリヤ《・・・・・・・・》は尚さらに強い。あの娘は一人ぼっちじゃなかった。両親が、家族が一緒にいた。ずっと貴方たちの背中を見て、貴方たちの愛情を一身に受けて成長してきた。ただ強いだけでなく、その強さの使い方を心得ている。真の強者のあるべき姿を承知している。それは貴方が一番よくわかっているはず」

 この問いかけには、切嗣は即座に頷いた。そのように願い育てた自覚があった。誇り高い愛娘は、父の志しと母の優しさを小さな身体いっぱいに秘めている。清廉な魂は濁りのない正義の炎に燃え盛っている。厳格な正邪の観念、道義を貫く意地と勇気を兼ね備えている。困難に対しては真っ向から挑まなければ気が済まない性格で、事実、一度だって背を向けたことはない。
 頭の中に立ち籠めていた靄が薄れて、ぼんやりと何かが見えてくる。シャーレイが導こうとする先に待つ答えに指先がもう触れている。それは銀色の髪だった。成長期特有の、妻に似て、妻のものではない銀細工のように美しい長髪。
 未だ膝をついていた切嗣の手を取ってそっと立ち上がらせ、シャーレイが霧を払う。

「貴方は何もしなくていいの。何のことはない、ただ|巣立ち《・・・》の時が来ただけ。それだけのことと考えなさいな。巣立ちする小鳥を背中に回す親鳥なんかいないわ。すべきは背中を押してあげること。満足に飛び立てるだけの全てを、すでに貴方たちはあの娘に与えた。知恵も、力も、そしてもっとも大事な心も。今にも飛び立つ我が子を前にして、親が見るべきは今現在の子どもの姿じゃない。|今までとこれからの姿《・・・・・・・・・・》を見なくちゃいけないわ」

 冷えていた指先に心地よい人肌の温もりを感じる。洋上で頭を撫でてくれた時と変わらない、同じ人間の体温だ。死徒になっても変わることのない、優しい女の温もりだ。

「思い出しなさい、これまでのイリヤを。想像しなさい、これからのイリヤを。それは、成長を誰よりも身近で見守ってきた親にしか出来ないことよ」

 パチっと、何かが弾ける音を立てて切嗣の脳裏に映像が結ばれた。一時も目を離さなかった我が子の道程がそこに次々と浮かんでいく。それらは熱い風となって額を吹き抜けて、その時その時に味わった五感までもをありありと描写する。


 生まれて初めて目を開けた娘の、穢れを知らぬ無垢な瞳、心の鼓膜を揺らす産声。


 汗だくの妻からそっと渡されてこの手に抱いた時の、他の何にも例えられない愛おしさ、尊さ。


 腕の中で眠りにたゆたう生命の奇跡の、その儚くも強かな命の重さに溢れ出した涙で、前が見えなかった。


 父に肩車をされて胡桃拾いに夢中になる楽しげな笑い声、視界の左右で揺れる細い太もも、熱い体温。


 幽閉の身から助け出され、泣きながらこちらに駆け寄ってくる娘の、希望と喜びに満ち溢れた涙と笑顔。


 満ち足りた平穏を力いっぱいに甘受し、しかし、それを当然の権利と思わず一際気高くあろうとする雄姿。

 
 底知れぬ知性の光と雄々しい勇敢さでもって、今だ悪の潜む世界に敢然と対峙する、生硬くも力強い娘の瞳。


 そして、それらが一つに結実する未来の可能性―――不屈の闘志と若き気炎を滾らせて敢然と悪に立ち向かうは、“正義の味方”の煌めく背中。かつて父が目指していた理想の到達点。

 
 天をどよもす大勢の鬨の声を一身に受けて、拳を高々と突き上げて応える、凛々しき勇者の背中。その姿を瞼の裏に想像しただけで、武者震いに似た高揚感が身体の奥から火山のようにせり登ってくる。込み上げる激情に、心の奥底にある|本当の瞼《・・・・》がカッと目を覚ます。

「故郷の島で、貴方が私に言おうとしてくれた決意を、夜明けの海で私に誓ってくれた夢を、あの娘は完璧に受け継いでいる。熱い熱い正義の心を、持っている。貴方たちが信じてあげなくて、いったい他の誰が信じるというの。あの娘が求めているのは、他の誰でもない、貴方たちの信頼だというのに」

 言葉一つ一つが胸に沁み入り、そこを占領していた懸念を霧散させていく。そうして最後に残っていた不安も、コツンと胸を小突く拳で呆気なく霧散した。 

「さあ、主役交代よ、切嗣。|一つ前《ZERO》の物語はもう終わり。次代の主人公を―――自分の娘を信じてあげなさい」

 夜明けが訪れた。シャーレイが率いられた白光の軍勢が世界から闇を追い払っていく。土蔵の窓から清浄な光がまっすぐ差し込み、スポットライトのように切嗣に降り注いだ。
 あれだけの鬱屈が、すでに跡形もなくなっていた。“そうだったのか”という納得感がストンと胸に落ちて、すっぽりと型にはまったような感覚だった。
 シャーレイの言う通りだ。自分は何を護ろうとしていたのか。何を見ていたのか。必死に護ろうとしていたちっぽけな幼子など、とっくにいないというのに。まだまだ幼いと思っていた。いや、思おうとしていたのかもしれない。娘にはまだ父の庇護が必要なのだと思い込みたかったのかもしれない。まともな父親を知らない自分たちは、子どもにどう接すればいいのか、どう導けばいいのか、常に暗中模索の状態だった。だが、やっとわかった。本当に必要なのは庇護ではないのだと。その考えに至って一抹の寂しさは覚えど、誇りのほうが何倍も勝った。
 ついこの間まで赤ん坊だった娘は、当の昔に、親が気付くよりずっと早くに、加護の手から颯爽と降り立っていた。そして、成長した自らの足で世界に立ち向かい、人生を切り開く覚悟を決めて歩み始めている。常世に蔓延る悪意を身を持って知り、“それでも”と闇を振り払う勇気を備え、光を胸に力強く前を向いている。
 珠のように大切にされたいなど、彼女は望んでいない。常に手を繋いで導いてやる必要など無い。親が子どもに与えられる最大の贈り物は、他の何物でもない、“期待”なのだ。「お前ならできる」「お前にしか出来ない」と、己の人生を見守ってきた存在からの全幅の信頼なのだ。
 シャーレイが言わんとすることを切嗣は完璧に理解した。迷いは消え、やるべきことはすでに見えた。不安も懸念も払拭された心の奥で、消えかけていた燃えさしが再び火の粉を舞い上げて真っ赤な炎へと復活する。これは“バトン”だ。自分がすべきことは、このバトンを信頼できる次の走者に、より良い形で譲り渡すことなのだ。心の中でバトンを掴めば、燃え盛る情熱が皮膚の下から噴き出してきて、現実の拳にも力が宿る。淀んでいた瞳が、かつての夢を語る少年の覇気を取り戻す。

「―――ああ、そうだな。僕はイリヤを、皆の想いの結晶を信じよう。もちろん、そこにはシャーレイ、君の想いも」

 我が子こそ世界に渦巻く不幸の連鎖を断ち切るに相応しい『真の正義の味方』なのだと、全身全霊を持って信じよう。彼女に必要なのは、後ろ髪を引く家族の不安などではない。そっと背中を押す家族の笑顔こそが必要なのだ。きっとそれが、彼女の力を何倍にも強くする。
 シャーレイは何も言葉を発さなかった。それが彼女の答えであり、“正解”を意味していた。背後から包み込む清浄な朝日に輪郭を溶かしながら、シャーレイは満面に喜色を讃え続ける。世界を一新させる圧倒的な光量が視野を染めて、切嗣は眩しさに思わず手で目を覆う。

「その|御守り《ナイフ》、もう返す必要ないわ。貴方は誓いを護ってくれた。それは貴方に───いいえ、貴方の娘にあげる。私からイリヤへのプレゼントよ」
「わかった。ありがとう。君のことを―――最高の僕の姉のことを、イリヤにも伝えるよ」

 くすっと、微笑が聞こえた。まるで微睡みから覚めるようにシャーレイの気配が遠ざかっていく。次に目を開ければ彼女はもうそこにはいないのだろう。それでもいいと思えた。前回同様、寂寥感はまったく無かった。たとえ目に見えなくとも、彼女は常に自分たちを見守ってくれているのだから。
 希望を灯す朝焼けを全身に浴びて、泥のように固着していた苦悩の澱が残らず溶けていく。最後に、切嗣は光に向かって何気なく問いかける。

「なあ、君はこれから、どこへ行くんだ?」

 一秒ごとに輝きを増す光の中から、弾むような声が溌剌と応える。

「もう一つの我が家へ、もう一人の主人公を導きに」
 
 その声は吹き零れるほどの歓喜に満ち満ちて、シャーレイの人生が今どんなに充実しているかを万の言葉より如実に表していた。そんな彼女が導くという“もう一人の主人公”について気にはなったが、不安は微塵もない。きっとイリヤの良いライバルになる。お互いを高め合える|好敵手《とも》となる。そんな胸を躍らせる期待すら胸のうちに生じていた。
 そして―――気配は唐突に消えた。まるで全てが幻覚であったかのように静寂が戻る。網膜が光量に打ち勝ったところで、視界を覆っていた手をゆったりとした動きで降ろす。




「……おはようございます、旦那様」


 果たして、そこには|女たち《・・・》の影があった。彼の屋敷に住み込みで働く|侍女《メイド》たちだ。アインツベルンに従うホムンクルスとして一度は敵対したものの、切嗣の妻に説得され、娘の救出に一役買ってくれた。そして今では、使用人という枠を超えて、こうして共に暮らす家族となっている。

「旦那様、イリヤお嬢様が、“話したいことがあるので全員に集まって欲しい”と仰せです。とても大事なお話と仰られておりました」
「……イリヤ、とっても真剣な顔してた」

 そんな彼女たちが、人形そのものに鮮やかな容貌を憂いに沈め、視線を俯かせている。あらゆる感情が滑り落ちてしまいそうな撫で肩はいつもの彼女たちらしくない。|侵入者《シャーレイ》を察知したからにしては様子に合点がいかないし、切嗣はその暗然とした表情の理由に心当たりがあった。まるでほんの数分前の自分を見ているかのようだったからだ。二人の内、一際責任感の強いメイドが震えそうになる声を必死に抑えて訴える。

「間違いなく、私たちが危惧していた聖杯戦争への参加の件かと思われます。やはり……やはり、例えイリヤお嬢様が抵抗なされようとも、今すぐ無理矢理にでも冬木市から逃がすべきでは―――って、だ、旦那様!? そのお顔は!?」
「キリツグ、鼻血が出てるっ」

 意を決して主人に面を向けた途端、喧しい声で狼狽える。たしかに今の切嗣の顔にはひどい青あざがスタンプのように残り、鼻孔からはたら~りと鼻血が一筋垂れている。傍目から見れば悪質な追い剥ぎにあった中年被害者そのものだ。「敵襲ですか」と狼狽えてハルバードすらどこからか持ち出してきたメイドたちを切嗣は柔らかく手で制す。

「いいんだ。セラ、リズ」
「で、ですが……!」
「これは勲章さ。僕の目を覚まさせてくれた。今の僕には心地良いものなんだ」

 頬をふっと緩め、痣を隠すことなく微笑みかける。その安らかな顔つきと声音に、メイドたちは一瞬言葉を失った。矜持に満ち溢れた父親の顔がそこにあったからだ。芯の通った男らしい声は、未だかつて聞いたこともないほどの自信に裏打ちされている。

「イリヤの話を聞こう」

 穏やかな瞳が湛えるのは、己のみが寄って立つための頑なな自負と茨のような責任感ではなく、肉親に全幅の信用を寄せる心からの安堵だ。それは血縁のある親を知らぬはずのホムンクルスですら胸を打たれるほど堂に入って、父親然としていた。

「───畏まりました」
「───うん、わかった」

 憂鬱の衣を脱ぎ捨てて一切の曇りの晴れた主人の表情に、メイドたちは食い下がることなくそれ以上の追求をやめて丁寧な傅きを返す。優秀な彼女たちは、主人が現状を打破する天啓を授かったことを明確に理解できた。
 活気を取り戻した細胞の一つ一つに突き動かされ、切嗣は力を込めて一歩を踏み出す。

「僕たちは皆、まともな親を知らない。親が子供をどうやって導けばいいのかわからない。だからこそ、どうやってイリヤを守ってやるかを悩み続けていた。だが、そもそも|それが過ち《・・・・・》だったんだ。守ってやろうだなんて烏滸がましいことだったんだ。そう、僕らは、|主役は誰か《・・・・・》をすっかり忘れてしまっていた」

 開け放たれた扉に立ち、曙光を全身に浴びる。皮膚一面が希望に熱くなる。太陽光に熱せられたのではない。身の内に誕生した炎に茹だっているのだ。湧き上がる満面の笑みを天に魅せつけ、切嗣は雄々しく紡ぐ。運命よ、見ているがいい。

「主役は僕らじゃない。イリヤだ。僕たちのイリヤなんだ。僕たちが全身全霊を掛けて育ててきた、この世の何者にも負けない、僕たちの皆の娘だ。僕らが負うべき役割は、船をその場に留まらせる鬱陶しい錨じゃない。船出のために帆を推す追い風なんだ」

 その言葉に、メイドたちがハッとして顔を上げた。色白だった頬が火照り、表情から苦悩と絶望が蒸発していく。意思とは離れて拳が勝手に握りしめられる。造り物の彼女たちにもわかった。目の前の男が、どこに出しても恥ずかしくない、立派な父親としてここに大成したことを。彼女たちのもっとも大事な少女を預けるに値する導き手となれたことを。

「旦那様がそう仰るのであれば」
「キリツグ、いい顔してる。とってもいい顔」

 首だけで振り返り、自身を信任してくれたメイドたちに微笑みを向ける。

 不意に、切嗣は立ち止まる。視界の隅に、見知った人影を見つけたからだ。湿気が滞留する土蔵の隅、忘れ去られたような暗がりに、その複数の人影が浮かんでいる。見紛うこともない。それらは自分自身の影だった。未来という光を浴びて映し出された、切嗣の人生の影。

アリマゴ島で地獄を目にし、実の父を手に掛けた幼い子ども。
数多の修羅場をくぐり抜け、殺し屋として育てられた、澱んだ目の少年。
魔術師を殺すためだけに生き、師であり母でもある人を殺そうとまでした冷たい目の青年。
暗黒の呪いに侵されたせいで、実年齢より遥かに老けて見える、弱りきった痩身和服の病人。
セイギを求める過程で己の正体すら見失い、人ならざるモノに成り果てた|歪んだ英雄の霊《アサシン》。

過去、そして辿るかもしれなかった可能性。それら全てが、泥沼のような暗闇の内から切嗣をじっと見ていた。


そして、彼ら全員が───|満面の笑み《・・・・・》を浮かべていた。


 肩を抱き合い、歯を覗かせて、各々が最高の笑顔を魅せていた。日に焼けた手を大きく振り、痩せコケた頬を緩ませ、赤いフードの下で涙を流していた。それらはきっと幻覚なのだろう。その証拠に、人影たちは安心したように一様に切嗣に頷くと、霧のように姿を消した。だが、切嗣は確信した。自分は今、衛宮切嗣という存在の前に並ぶ無数に枝分かれした可能性の中から、もっとも最善の未来を掴み取ったのだと。彼らはきっとそれを伝えに来たのだ。彼らが望み、手に入れらなかった|救済の道《ストーリー》を進んだ切嗣を、その選択を祝福してくれたのだ。

「───答えは得た?」

包み込むような優しい声に、切嗣は今一度正面を向く。希望に輝く曙光の中に、最愛の妻は美しく佇んでいた。

「ああ、答えは得た。もう大丈夫だ」


抱き寄せる。
ふくよかな生身の感触。



それより、セラ。僕のコレクションから、至急持ってきてほしいブルーレイボックスがある。

そのエリカ、猟犬につき(後編の後編)の試作 

二次創作

それから、全てのことが一瞬のうちに起こった。

床で誰かのカップが砕け、紅い紅茶が飛び散る。

尊敬する隊長が叫ぶ。

 

 巨大な風船が眼前で破裂し、衝撃音に体全体を包み込まれる。思わず本能が防御のために肉体を丸めようとするのを鉄の理性で封じ込めるも、大激震の連続に、オレンジペコは抗う術なくただ翻弄されるしかなかった。踏ん張りが利かず、か細い手足が玩具のように振り乱される。まるで崖を転がり落ちているかのようだ。腿の上にあったラップトップが跳ね上がり、天井にぶつかって砕け散る。手に握っていたカップはいつのまにかなくなっていた。必死にかみ合わせた奥歯が痛みの熱を持ち、思考を寸断する。理性が恐怖にラッピングされていくのを感じる。「損傷発生」と怒鳴ったのは誰だったのか。車内のリベットが弾けとび、噴き出したオイルが床の紅茶と混ざってどす黒い血の色を為す。

 オレンジペコの能力は決して愚鈍ではない。衝撃と着弾音から至近弾が100を超えたことをかろうじて残った理性が冷静に確認している。それが問題だった。100発が目と鼻の先に打ち込まれながら一発たりとも被弾していないことが問題だった。無論、これらの砲弾が命中したとしてもチャーチルの頑強な正面装甲はいともたやすく弾き返してくれるだろう。『そんなことはお見通しだ』とでも言うような、何かを狙った砲弾の雨が、その意図が、オレンジペコにはあまりに不可解に過ぎた。

 この状況下でそれを看破できるのは、マイクを掴んで声を張り上げる金髪の隊長の他には無い。この人に対処できないものは無い。この人の指示に従えば勝利できる。オレンジペコは全幅の信頼を寄せる指導者に救いを求める視線を向けた。


その神の彫像のように白い頬を、汗が伝い落ちた。


「全速力で前進を───、いいえ、違う! 間に合わない! 後退よ! 全速後退ッ!!」

 

 間に合わない?何に間に合わないのか?

ダージリンにしか見えていない何かが迫ってきている。


「イエス、マム!全速後退!」


 自分たちが何かに追い立てられていることを悟った操縦主が困惑しながらも指示に従う。遅れて随伴する二両のチャーチルも車軸を戦慄かせて急後退へ転ずる。多量の泥が巻き上がり、乗員の動揺を体現するように巨体が遠心力に振れる。なんとか前進速度を殺しきったその目の前に、ダージリンにしか見えていなかった答えが姿を現し、メキメキと音を立てて倒れ伏した。反射的にバイザー(のぞき窓)に目を押し当てたオレンジペコは、しかと目撃しているのに、自分の目が信用できなかった。

 自失して硬直したオレンジペコに代わり、同じくスコープで前方を視認していたアッサムが度肝を抜かれて叫ぶ。


「木が、たくさんの木が、道を塞いでいきますわ!」


 オレンジペコは真っ白になった心の中で呆然と頷いた。そうとしか報告しようが無い。一本道を挟むように屹立していた木たちが、次々と根元から折れて道を塞いでいく。モーゼの海割りの逆バージョンだ。直径だけでオレンジペコの身長を超えそうな杉の巨木が悲鳴を上げながら大地に傅いていく。まるで、巨大なドミノ崩しのよう───。



『今しがた通りすがりざまに不思議な木を見ただけですの。大きな木の根本だけごっそり削られて、今にも折れそうになっていて―――』

『な、なんだかおっきなドミノみたいですわねっ!? 指先でちょんと押したら今にも倒れそう―――』


 ああ、そうか。そうだったのか。

 胸中に詰まっていた謎がストンと落ちて、息苦しさが唐突に消えた。大木が額を地面に叩きつける激震が遠のいて聞こえる。ラップトップを調べる必要も無く、オレンジペコは状況を察するに至った。足と臀部から脳髄へと這い上がってくる振動によって、他者より秀でた才能を持つオレンジペコは、自分たちの置かれている窮地を俯瞰して把握できてしまった。


(書き書き中)





勝利は同じ人間のうえに永久にとどまらず。

ホメロス 「イリアス」


イギリスはすべての戦いに敗れるであろう、最後の一戦を除いては。ウィンストン・チャーチル (演説-1941)

【小説】異世界の聖女四人が人類を護るためにオーク軍勢の前に立ちはだかるも、実は全員、前世が歴戦の仮面ライダーだったので、「変身!」の雄叫びとともに元の姿に戻ってオークどもをずたずたに蹴散らす話。【書いたよ】 

未分類

 その世界では、人類はもはや絶滅寸前だった。
 全人類合わせてもわずかに数千人。曇天の下、朽ち果てる寸前の城を守るのは、満身創痍でない者の方が少ない騎士たち。その数は数百にも至らない。必死の形相で彼らが対するは、見るに堪えない醜悪な様相のオークの軍勢。濁った肌色の肉体は筋肉の塊で、その上から申し訳程度の鎧をつけている。その鎧も、もとは討ち取った騎士の死体から剥ぎ取ってきたもので、彼らにとっては戦利品の意味合いしかない。豚のような鼻頭からおぞましい腐臭を放ち、ハエのたかる分厚い唇でこれ見よがしに舌なめずりをしてみせる。オークたちの数は見えるだけでも数万。彼らにとって、人間は適度に柔らかい性処理の道具であり、調理すれば余るところのない食料でしかない。そして、彼らに乱獲と絶滅を危惧する理性はない。人類は絶滅の崖っぷちにいた。

「誇り高き騎士たちよ! ここで踏ん張らねば、妻や娘が、親が、友が、オーク共の餌食にされてしまう! なんとしても防ぐのだ! なんとしても!!」

 騎士たちを率いる若き騎士団長が、なけなしの力を振り絞って仲間を鼓舞する。しかし、降りしきる雨に打ち据えられた騎士たちから応じる声はない。当然だった。自殺を図らないだけ、まだ勇気があると褒め称えられるべき状況だ。団長はぐっと内臍を噛み、塊根に胸中に涙を流した。中程で折れてしまった愛剣には、人類に伝わる伝説の女神が刻まれている。しかし、そんなものは伝説だった。誰の助けも来ない。人類の歴史はここで終わる。ただただ、悔しかった。

「全軍、攻撃開始。降伏など認めるな。人間は全部、犯すか、食べろ」

 オークの中でも一際巨体のオーク・キングが怨霊のような低音で命令を発する。もちろん、命令を受ける以前より、オークたちにはそのことしか頭にない。鉄や岩を削り出しただけの粗末で堅牢な盾と剣を引きずり、オークの軍勢が包囲の輪を狭め始める。騎士たちのボロボロの剣先がガクガクと恐怖に震える。

「ここまでか……」

 騎士団長が諦めに俯いた、その時だった。





「なんだぁ、貴様らは!? どこから現れた!?」




 オークの尖兵隊長のギョッとした声に、騎士団長はハッとして顔を上げる。そこには、四人の細い背中があった。若い女の、白くて美しい背中。目と鼻の先に突如出現した女の匂いに、騎士団長は思わず声を上げて尻もちをついてしまった。それに気づいた一人、赤いドレスを身にまとった女が優雅な動きで振り返る。それは、この世のものとは思えないほどに美しい、まさに女神だった。ドレスは自ら発光し、風もないのに羽のように宙を凪いでいる。青の女神、緑の女神、黄の女神、それぞれが際立って美しく、まるで別次元の生命であるかのように凛とした空気を纏っていた。

「ま、さか……貴女がたは……女神、様……?」

 騎士団長は反射的に、己の剣を彼女の前に飾した。そこに刻まれた、伝説の女神の姿と、目の前の女たちの姿を見比べた。とてもよく似ている。決然とした強い意志を示す横顔が、厳しい目つきで周囲をぐるりと見渡す。そして、全ての状況を察し、四人互いの顔を見て険しく頷いた。ドレスに包まれた華奢な指が怒りに握りしめられ、ギリリときつい音をたてる。女神たちは怒っていた。

「なんだ、女ども。どこから来たかは知らんが、美味そうではないか」

 女の匂いに釣られて、オーク・キングが軍勢を掻き分けて前に進み出てきた。女神に対する非礼な物言いに騎士団長は頭に血が上る感覚を抱いたが、目の前にさっと出された腕に制止された。見上げれば、赤の女神が微笑んでいる。

「よく頑張りましたね。もう、大丈夫です」

 なんの根拠も見いだせないのに、騎士団長はその言葉に心から安心して、脱力した。いや、彼女の存在自体が根拠なのだ。そう思わせるほどの貫禄と説得力が、女神たちにはあった。

「何が大丈夫なのだ? これだけの軍勢を前に、たかが女神風情が何ができる。女神など、とうに全員犯し尽くして、子を百人は産ませてから殺してやったわ」

 しかし、愚かなオーク・キングには、まだわからなかった。多少、距離があったせいかもしれない。それまでに、各地で人間を守っていた女神や精霊を狩り尽くした実績があったからかもしれない。彼女たちの美しい容姿に酔いしれてしまっていたからかもしれない。理由がどうであっても、結果的に、彼は絶対的に愚かな選択をした。攻撃を続行する、という選択を。そんなことは絶対にしてはならない。無残に刈り取った命を嘲笑い、護るべき無垢な人々を背にしたその者たちに戦いを挑むなど、絶対に。

「……だ、そうですよ」
「……ええ」

 ズアッ!!と、彼女たちのドレスが一際大きく舞った。まるで火山の近くにいるような熱風を皮膚に感じ、騎士団長の頬を汗が伝い落ちる。これは闘気だ。体内で燃える義憤が毛穴から噴き出し、現実の大気に作用して周囲の空気を蜃気楼のように揺らめかせたのだ。

「私たちには、何も特別な力などありません」

黄の女神。

「私たちは、最初は、ただ一人の無力な人間に過ぎませんでした」

青の女神。

「でも、護りたかった。大切な人たちを、一人でも多く救いたかった。そのために出来ることはなんでもやった」

緑の女神。

「そうして、私たちはこの拳を手に入れた。特別でもなんでもない。大切な人を護りたいという願いを叶えるために。叶えられなかった人たちの分も背負うために」

赤の女神。
横並びに立ちはだかった女神たちが、同時に、静かに瞼を下ろす。瞼の裏に映るのは、彼らがかつて守り抜いた者の笑顔。守れなかった者の涙。それら全てを力に変換し、彼女たちは再び目を開く。開かれたその口から迸ったのは、








 以前はビルディングをなしていた瓦礫の中に、男たちが四肢を投げ出して横たわっていた。
男たちは、ついに平和を勝ち取った。この世を手中に収めんとする悪の組織を撃滅し、恒久的な平和をこの世にもたらした。男たちは四人だった。たった四人だった。史上最強の四人だった。だが、もうその生命は風前の灯だった。その仮面は砕け、スカーフは破れ、愛機のエンジンは燃え尽きていた。それでも彼らは、瓦礫に身体を預け、青空を見上げながら満足げに微笑んでいる。後悔することは死ぬほどある。でも、これでよかったのだ、と。
 人々のために燃やし続けた魂が、ついにその炎を絶やそうとする、まさにその瞬間、彼らに天からの声が降り注いだ。

「褒美……?」

 天の声は、褒美を授ける、と言った。争いと戦い続けた彼らに、争いのない、満ち足りた世界で、幸福に包まれた新しい人生を送らせてやる、と。それら戦士たちが手に入れようとしてあがいた理想の世界だった。

「……だ、そうだぞ」
「……ああ」

 戦士たちは一度だけ互いの顔を見て、笑みを交わし、すぐにこう返した。

「では、今はまだ争いの絶えない、不幸な人々の元へ、我々を送ってほしい」

 天の声は大層困惑して「なぜ」と問うた。戦士たちは即答した。

「それが、俺たちだからさ」

黄の戦士。

「どんなに傷つき、どんなに苦しもうと、俺たちは戦う」

緑の戦士。

「そこに悪がある限り。そこに、人々の涙がある限り、俺たちは何度でも立ち上がる」

青の戦士。

「そうとも。それが───俺たち、××××××××だからだ」

 天の声は、それ以上何も言うことはなかった。誇り高い己の子らを熱い眼差しで見つめ、彼らの願いを叶えた。たった一つだけの計らいをして。せめて、争いとはもっとも遠い、美しい姿として転生させたのだ。

 その、誇り高き彼らの名前は。









「「「「 変身ッッッ!!!!! 」」」」

 ザン!!と空気を切り裂き、ズドン!!と大地を踏み鳴らし、四人の女神が高らかに吠えた。
 それぞれの予備動作は、演舞というには攻撃的で、殺陣というには見事に過ぎた。何千回と繰り返された動きに合わせ、風が唸り、拳がギチギチと革のような音を立てる。渦を巻いていた曇天が怯えたように震え、雨がピタリと止んだ。
 次の瞬間、女神たちの下腹部に眩い光が集中し、ベルトの形に結集する。腰留めとはまったく異なる、赤、青、緑、黄のベルト。炎や風をモチーフにした刻印がギラリと輝き、その内部に秘めたパワーを今か今かと漲らせている。刹那、そのパワーが炎となり、洪水となり、竜巻となり、雷撃となり、女神たちの全身を包み込んだ。

 騎士団長は見た。彼女たちの背中が倍以上に膨らみ、その首から鮮やかなスカーフがたなびくのを。
 騎士たちは見た。その光景を、永遠に忘れることはなかった。彼女たちを包み込んでいたエネルギー流が曇天に風穴を開け、降り注ぐ陽光の柱に照らされた、四人の戦士の背中を。
 オーク・キングは見た。仮面の戦士の背後に、ここではない別の世界の人々の姿を。人々は、戦士たちが守ってきた命。戦士たちに守る理由を、力を与えてきた、無辜の人々。その数は───万や億で数えられるものではなかった。それほどの人々を護りきって、護り抜いて、それでもなお戦いをやめない戦士が、四人もいる。
 オーク・キングは、今さらになって、己の選択を疑った。手遅れだった。

「行くぞぉッッ!!」
「「「 応ッッ!! 」」」

 戦士たちが地を蹴って前進を開始する。この世界のどの種族よりも速かった。キュクロプスですら小石のごとく吹き飛ばすだろう。竜ですら怯えるだろう。ぬかるんだ地面を意にも介さず、一歩一歩でクレーターを穿つほどの勢いで突進してくる。戦士たちは、示し合わせたわけでもないのに均等に分散し、四方の軍勢に突入を図る。
 正面のオーク・キングの軍勢には、赤いスカーフの戦士が対した。あまりに速すぎる。さっきまで百歩以上の距離が開いていたのに、もう剣が届く先にいる。突進に無理やり押しのけられる風が悲鳴を上げ、吹きすさぶ突風に煽られて木々が捻れ、岩ほどもある削りだしの盾が勝手に持ち上がる。戦士の仮面はもう目の前。昆虫を模した仮面の双眸は抑えきれない憤怒に真っ赤に燃えていて、オークたちの背中を怖気が走り狂った。

「ぼ───防御態勢を───」

 近づきすぎていた。彼も、彼の軍勢も、すでに余さず間合いの中にいた。少なくともオークの尖兵隊長は、その拳が触れた瞬間には肉片となって蒸発し、絶命していた。ライダーパンチ、その技名を耳にしたのは、慌てて身を伏せたオーク・キングのみだった。それが、耳にした最後の音だった。竜の息吹など足元にも及ばない圧倒的な熱量と破壊力が、分厚い筋肉も鎧も剣も盾も、何もかもを一緒くたに裁断して吹き飛ばした。オーク・キングの自慢の鎧もマントも塵と消え、体毛は焦げ付き、鼓膜はいくつかの内蔵と同時に破裂した。小岩ほどもあった巨体が落ち葉のように投げ出され、泥に塗れる。
 微かに残った視力で彼が見たのは、かつて人類を滅ぼしかけた軍勢が、たった四人の戦士を前に、蹴散らされていく壮絶な光景だった。

「お前たちは───何者だ───?」

 絶命する寸前の問いかけに、赤の戦士が振り返り、堂々と応えた。




「仮面ライダー。人々の希望の結晶だ」





・赤の女神アストレア(仮面ライダーアストレア)
 赤いスカーフをたなびかせる、炎の仮面ライダー。四人の中ではもっとも戦士としての歴が長く、リーダーとして率いる。ライダーパンチの威力は全ライダー中、もっとも強力。

・青の女神イシュタル(仮面ライダーイシュタル)
 青のスカーフをたなびかせる、水の仮面ライダー。アストレアとは良いライバル関係にある。俊敏さと攻撃技術に長け、一体多数の戦闘を得意とする。

・緑の女神エオス(仮面ライダーエオス)
 緑のスカーフをたなびかせる、緑の仮面ライダー。飛翔能力を有しており、連続ライダーキックを必殺技とし、特に空中戦では敵なし。

・黄の女神バウト(仮面ライダーバウト)
 黄のスカーフをたなびかせる、黄の仮面ライダー。全ての攻撃に雷撃が付加され、自身への攻撃に対してもカウンターの雷撃を自動防御として放つ。

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どもども。主(ぬし)です。駄文書きです。趣味は映画と小説とニコニコ動画です。灼眼のシャナやFate/zeroのSSなどを書いてます。小説の小ネタや、短編SS、映画のレビューやちょっとした雑記などを掲載していこうと思います。

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