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白銀の討ち手

己の妄想をネットという広大な海へ送り出すことに若干躊躇いつつも実行してみるブログ。現在は『白銀の討ち手』という灼眼のシャナの二次小説をarcadiaさんにて執筆中。

【ブリジットという名の少女】 Her name is Charis!! 一覧まとめ 【三次創作】 

Her name is Charis! !

 漫画『ガンスリンガー・ガール』の二次創作小説『ブリジットという名の少女』の三次創作でございます。今までまとめを作ってなかったので、続きが完成間近なこのタイミングで一覧をまとめた記事を作成しました。余裕がある時に作っておかないと。
 この拙作は、僕が『ブリジットという名の少女』を読んで深く感銘を受けた結果、ただただ「ブリジットを救いたい!」という情念に突き動かされてハイテンションのままに書いたものです。事後承諾にはなりましたが、作者様であるH&Kさんには許可も頂けました。その懐の広さに感謝です。ああ、H&Kさん。貴方と直にあっていっぱいお話をお伺いしたいです……。
 偉大なるH&Kの作品には完成度もストーリーも伏線も何もかもが遠く及ばないですが、もしも、ブリジットの物語にIFの世界を望まれる方がおられましたら、読んで頂ければ幸いです。鬱クラッシャーとTS娘の融合作品、ぜひご堪能くだしあ!






<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1
外伝 後編その2
外伝 後編その3
外伝 後編その4

<名状しがたいオマケ的な何か>

ちょっとしたコネタ
ヒャーリスプロフィール
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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ゴルゴ悪役令嬢最終話試作 

未分類

もう少しで完成!狙撃について調べるのがちょっと面倒だった。





「王都が、王城が、襲撃───?」


 にわかには信じがたい、受け入れがたい報告に、さしもの騎士団長も何も言えなかった。頭脳は回転を諦めた駒のように動いてくれない。他の誰も、何も言えない。王都が襲われることなど、それこそ建国初期である1000年以上前の魔族との戦争でしか経験のないことだった。ましてや、魔王を討伐した勇者の末裔たる国王の居城に弓引く禁忌に手を出す人間がいるとは、誰も予想していなかった。
 ショックのあまり、血液が間欠泉の如く頭に昇り、王子の側近のほとんどが泡を吹いて卒倒した。王子は椅子を蹴飛ばして反射的に立ち上がったものの、真っ白になった頭では衝撃でバラバラになった思考を繋ぎ止められず、直立不動のまま口をパクパクと開け閉めするだけだった。彼の2倍以上の年月を生きて、そのほとんどを戦場で過ごした騎士団長といえども、ひどい目眩を覚えてたたらを踏まずにはいられなかった。

(全滅?騎士も、衛兵も、傭兵も、全滅?)

 騎士団練兵場には虎の子の騎馬兵を含めて300人は下らない騎士が控えていた。一流の近衛ではないが、精強には違いない|丈夫《じょうふ》たちだ。王城には王城専属の衛兵が100人は詰めているし、衛兵と傭兵の詰め所にも100人が待機している。これらは王国の頭脳であり心臓である王都を護るための全戦力であり、国王直轄の兵力全てだ。体格も体力も装備の質も、どこに出しても恥ずかしくない兵士たちだ。それらが、少し目を離した隙に全滅させられたなど、到底信じることは出来ない。常ならば一笑に付していただろう。……眼下の惨状を見せ付けられていなければ。
 
「え、え、え、エリザベート………よもや、まさか、貴様、まさか、父上を………!?」

 わなわなと全身を震わせる王子の声もまた酷く震えていた。王城が襲われたなら、襲撃者の目標が“誰”なのかは否応なしに想像がつく。それは王城の頂上部におわす御方以外にありえない。自然と全員の視線がエリザベートに吸い寄せられる。覆すことなど到底不可能に思えた戦力差をいとも簡単にひっくり返してみせた少女がすぐそこにいるからだ。全員の胸中に、「この少女ならやりかねない」という共通の確信と畏怖が芽生えていた。
 瞠目する王子に対し、娘の代わりに毅然と応えたのは公爵だ。

「失礼ですが、殿下がなにを仰っているのかわかりかねますな」
「公爵、貴様、俺を|謀《たばか》る気か!?これは王国に対する明確な反乱だぞ!一族郎党、処刑される覚悟はあるのだろうな!?」
「はて、この老骨には一向に話が見えませぬ。それは、|我々が何かした《・・・・・・・》|という証拠《・・・・・》があっての物言いなのでしょうな?」
「は、はああっ!?これだけの大罪をしでかすのだから、当然、大兵が動いたに違いないのだ!それを誰にも見られていないはずがなかろう!そいつらが誰で、どこから来て、どこへ逃げたのかなど、調べればすぐにわかるのだぞ!」
「ほお。|本当にそうですかな《・・・・・・・・・》?」
「は……?」

 あくまで強気な姿勢を崩さない公爵の双眼がいよいよ鋭い光を放った。溜め込んでいた怒りを隠すことを止めた、相手を圧倒する男の目だ。次の瞬間には喉笛に喰らいつく覚悟を決めた|父親《ちちおや》の迫力に気圧され、王子はそれ以上の語を紡げなくなった。公爵の鋭すぎる眼力は、到底、自らが仕える上位者へ向けていいものではなかった。この娘にしてこの父あり、ということか。いや、彼はよく堪えた。王子に娘をひどく侮辱されてなお国王に敬慕と献身を捧げ続けた宰相がついに愚かな上位者を見限ったとしても、おかしくはない。

「君、殿下は下手人の情報を求めてらっしゃる」

 息苦しいほどの沈黙が降り満ちるなか、騎士団長の報告を促す視線を察した少年が肩と胸をふいごのように上下させながら息も絶え絶えに続ける。伏せられた目はいかにも気まずそうで、良い報告が彼の内にないことを如実に現していた。

「も、申し訳ありません。下手人の姿は、消えました。いえ、そもそもハッキリと目にした者がいないのです。下手人がどこから出現したのか、どこへ消えたのか、どんな者どもだったのか、誰もわかりません」
「わ、わからない?君、それは本当か?下手人が何者だったのか、姿形や規模など、それもわからないのか?」
「誓って真実です、騎士団長閣下!決して我々が眠りこけていたわけではありません!食堂で、13時の鐘が鳴ったと思ったら、どこからともなく激しい光と音の塊が一斉に投げ込まれて、目と耳が役に立たなくなって……そして、き、気がついたら、騎士の方々はもう穴だらけになっていて……。下手人の行方を追おうにも、姿形すら見えませんでした。残されたのは騎士叙任前の我々のような未熟な侍従だけです。ど、どうして我々だけ生き残ったのか……」

 “生き残った”のではない。“生き残らされた”のだ。取るに足らない戦力外として、命を奪う価値すらないと捨て置かれたに過ぎない。
 我知らず、騎士団長の目がエリザベートに向けられる。彼女は、この事態がまるで違う次元で起きているのように我関せずと振る舞っている。いや、事実、そうなのだろう。全てが計画通りなのだ。まるで自邸の庭園にいるかの如く完璧にリラックスをして紅茶を嗜んでいる彼女は、たしかに我々とは次元が違うのだ。見ている次元が、思考の次元が、戦法の次元が、違うのだ。
 蝶よ花よと手塩にかけて育てられた箱入り娘のような優美で典雅な金髪の少女が、王国のどてっ腹に巨大な風穴を開けたなどとは信じられない。だが、間違いなくそうなのだ。下手人たちの親玉は目の前の座る少女に違いない。このタイミングで、これだけのことを成し遂げられるのは、世界広しといえどこの公爵令嬢と配下の兵士しかいない。しかし、その真実には未来永劫、決して辿り着くことはないだろう。老公爵の言うとおり、この完全無欠の少女は何一つ証拠を残してはいないだろうからだ。
 王子の言うとおり、大軍を動かしていれば必ずその正体は看破されるはずだ。不審な武装集団が王都に近づけば、それだけで騎士団長である自分の耳に必ず情報が入っているはずだ。船着き場にも馬車の停留広場にも衛兵は目を光らせているし、騎士も街中を巡回している。彼らに見つからずに王都の重要拠点に接近するのは不可能だ。特にそれらの近くでは護身用のショートダガーを帯びているだけで衛兵からきつい臨検を受ける。
 だが、装備と潜伏場所を先に手配しておき、後から少数精鋭の兵士だけを丸腰で入都させれば話は別だ。



『事前に得た情報ですと、エリザベート様は合戦を申し込まれてすぐに平民たちを集めたそうです』
『平民?そいつらを訓練したというのか?たかが1ヶ月で?』
『いえ。それが、まるでこうなることを予測していたかのように、すでに訓練が終了した様子の屈強な男たちが公爵家に参集する様子が目撃されています。全員が、支給されたらしい大きな緑色の|円筒形雑嚢《ダッフルバッグ》を背負っていたと。総数は200名程度だったそうです』



 先ほどの王子と側近の会話が思い出され、現在の事態と糸が繋がる。どうして今の今まで気が付かなかったのか。ここにいる公爵軍の兵士は、多く見繕っても150名程度だ。残りがどこに行ったのか、なぜ考えを巡らせなかったのか。このエリザベートがむざむざ遊兵を作るわけがないだろうに。
 彼女は|準備《・・》していたのだ。こうなることをずっと前から予期していたのだ。だからこそ、周到に、念入りに、徹底的に、備えをしていたに違いない。そうして、王都から近衛騎士が残らず引き抜かれる時を今か今かと待っていたのだ。少人数で、短時間に、徹底的に、完膚無きまでに、立ち直る余力さえ与えない一撃を与えるために。
 |最強戦力《このえきし》の投入を待ち望んでいたのは、王子ではなく、他ならぬエリザベートだったのだ。

「エリザベート令嬢、貴女は───」

 |ここまで《・・・・》するのか?|どこまで《・・・・》するのか?
 その疑問を言葉にすることは出来なかった。答えを聞いてしまうのが恐ろしかったからだ。
 騎士団長は今さらながらに激しく後悔し、額に手をやって呻いた。なんて恐ろしいことになってしまったのだろう。いつの間にか、我々は自分たちの度重なる失敗のせいで崖っぷちに追い立てられていたのだ。悪辣な手口で彼女を罠に嵌めたはずの王子は、実は彼女の手の平の上で道化のように藻掻いていたに過ぎなかったのだ。いや、王子だけではない。王子に逆らうことなく唯々諾々と従ってしまった|周囲の大人《われわれ》もまた、エリザベートにとっては愚者の片棒を担いで自ら死地へ向かう道化でしかなかったのだ。共に地獄の淵に追い詰める愚者の片割れでしかなかったのだ。
 王国は、敵にしてはいけないものを敵にした。獅子身中の虫どころではない。|虫身中の獅子《・・・・・・》だ。王国はその体内に、到底抱えきれない強大な獅子を宿していたのだ。

「き、騎士団長!なにを黙っておられるのですか!?国王陛下が殺されたかもしれないというのに!」

 大きすぎる絶望感に打ち震えるしかない騎士団長の足に突然何かがしがみつく。それは先ほどの少年侍従だった。

「お願いします!至急、近衛騎士の方々を王都にお戻し下さい!近衛騎士の方々さえ戻って頂ければ───」

 少年特有の甲高い声が語尾に至るにつれて先細っていく。皿のように見開かれた彼の眼球に映り込んでいるのは、緑の草原をマーブル模様に染めて流れる騎士たちの血流だ。刈り込まれた黄緑色の平原に、物言わぬ先鋭芸術品となった男たちの|骸《むくろ》が水玉模様のように点々と散らばっている。誰一人として、動く者はいない。

「あ、あの、まさか……もしかして……ぜ、全滅……?」

 震える瞳が周囲の大人たちに否定の言葉を求める。けれど、当の大人たちはそれを認められず、思考停止をして目を伏せることしか出来なかった。自らの師が、古参たちが、歳の近かった新任騎士が、なんの栄光もない戦いで無残に殺された。現実を受け止めるには少年には荷が重すぎ、彼は氷像のように顔面を蒼白にした。
 そんななか、唯一、目の前の現実を認めることを拒めたのは、大人になりきれない|王子《ガキ》だった。

「おい、侍従!貴様、丸腰で何をしに来た!?」
「は、はいっ!?」

 王族に絶対忠誠を誓うよう教育をされている最中の少年侍従が反射的にピンと背中を伸ばして立ち上がる。この事態を収集する気になってくれたかと一秒だけ期待した騎士団長は、フリードリッヒが血走った眼で通信球を掴み上げるのを見て、それが叶わぬ期待であることを思い知った。口角から泡混じりの唾を飛び散らせながら、フリードリッヒが絶叫とともに通信球を地面に叩きつけて粉々に割る。それは王都の騎士団練兵場に繋がる通信球だった。

「見習いとはいえ王国に忠義を尽くすと決めたのなら、武具を手にとってここへ来るのが当然だろう!戦え!生き残った奴らは、侍従だろうと見習いだろうと誰でもいい、全員連れてこい!次期国王である俺が命令する!総攻撃だ!公爵討伐令を公布する!王国に付き従うすべての貴族は兵を挙げよ!証拠など知ったことか!公爵領に攻め込むのだ!命を懸けて撃攘せよ!なにしてる、早く伝えよ!行けッ!行けえ───ッッ!!」
「は、はいッ!承知いたしました!」
「「「な───!?」」」

 さしもの公爵もこれには度肝を抜かれたようだった。まさか、フリードリッヒがここまで常軌を逸して錯乱するとは思ってもいなかったのだろう。だが、それ以上にショックを受けたのは騎士団長自身だった。忠誠を捧げた王族の醜態を見せ付けられると同時に、自ら命令の正悪を考えることなく盲目的に従い、馬に飛び乗って伝令役として破滅の道に馳せ参じようとする若き騎士の背中に失望を覚えたからだ。
 否、そのように彼に教え込んだのは他ならぬ自分たちだ。まだ14歳の子どもなのだ。善悪の区別がつかない従順な彼は、理不尽な命令に従う以外の選択肢はなかった。失望されるべきは彼ではなく、彼ら若者をむざむざ死地に送り込む最悪の事態に向かって舵を切ってしまった我々大人なのだ。忸怩たる思いを振り払った騎士団長が素早い動作で立ち上がり、見る間に小さくなっていく少年と馬の背中に叫ぶ。

「待て!君、待ちなさい!行ってはならん!これは殿下のご乱心だ!戻れ!その命令を撤回する!」
「気でも狂ったか、騎士団長!」

 横合いから胸ぐらをつかんできた王子の胸ぐらを逆に掴み返し、騎士団長はギョッと驚く彼に凄まじい剣幕で詰め寄る。

「それはこちらの台詞です!陛下の安否も不明のまま統帥権を干犯などして、反乱疑義の誹りも免れませんぞ!そもそも、そんなことをすればどれほどの惨事になるか、殿下はこの合戦の結果を見てもまだおわかりにならないのか!」

 力づくでフリードリッヒの頭を丘の下の惨状に向ける。騎士たちの死体が散らばる平原を見せ付けられて、フリードリッヒの首筋が引き攣る。

「このまま|事態《こと》が発展してしまえば公爵家との正式な戦争になるのですぞ!我が王国の最強兵力で勝てなかった相手にひよっ子たちをぶつけて何の意味があるというのです!殿下はこの国を灰燼と化すおつもりか!?そもそも、事の発端は殿下によるエリザベート令嬢への一方的な無礼侮辱でありましょう!ご自分のその尻拭いのためにいったいどれほど犠牲を払えば気が済むというのか!?」
「え、ええい、うるさいッ!うるさいうるさいうるさいッ!!こうなったらもう、全部なかったことにするしかないんだ!それにはもう戦争しか───」

 王子が台詞を言い切ることは出来なかった。騎士団長の拳が彼の横っ面を捉えて思い切り殴りつけたからだ。バキッと嫌な音を立てて王子の鼻の骨が折れ、鮮血の飛沫が飛び散る。前代未聞の不敬な行為に、側近たちにこれまでにない緊張が走る。しかし、堪忍袋の緒が切れた騎士団長が王子と鼻っ柱を突き合わせて大火のように激昂しても、彼らの間に入って制止しようとする者はいなかった。

「いい加減にしろ、小僧!そうすれば我が息子の死もなかったことに出来るのか!?ユーリは帰ってくるのか!?貴様一人の横暴に付き合わせて、あといったい何人の若武者たちを無駄死にさせれば気がすむのだ!!」
「う、うるさい……ちくしょう───うるさいんだよ───俺は他にどうすれば───ちくしょう……!」

 顔面をくしゃくしゃに歪め、ボロボロと涙を流し始めたフリードリッヒの身体から力が抜けていく。ついに地に膝をついて崩れ落ちた彼には、もう抗弁する気力すら残っていなかった。厳しい現実を突き付けられ、子どものように喉をしゃくり上げて惨めに嗚咽する王子の小さな背中を周囲の大人たちは呆然と見つめている。彼を擁護する者も肩を貸して助け起こそうと駆け寄る者も現れなかった。フリードリッヒの求心力は、今まさに当人もろとも地に落ちたのだ。
 鼻血混じりの鼻水と涙をこぼす情けない姿は見る者の胸を打って思わず観衆の涙を誘うほど悲劇的な哀れさだったが、騎士団長には彼のことなど捨て置いてやらねばならないことがあった。腕を振り乱して伝令を指差し、必死に声を張り上げる。

「誰か伝令を止めろ!誰でもいい、追躡するのだ!このままでは戦争になるぞ!魔法でも、弓を射てでも、止めろ!」
「も、もう間に合いません!声も届きませんし、この距離では弓もファイアボールも届きません!よりによってあの馬は騎士団最速の駿馬ですし、なにより、ここに騎兵はおりません!」
「なんだと!?」

 首を左右に回して馬を探す騎士団長に、衛兵が苦しげな顔で望まぬ報告をする。それは事実だった。快速を誇る近衛騎兵の戦馬たちは、乗り手とともに眼下の合戦場で無惨な挽き肉になっている。残ったのは、王族や大臣を乗せた馬車を引っ張るための見た目重視の痩せた馬だけだ。見せ掛けだけの白馬たちは、たとえ牽引ロープを断ち切られて跨がられたとしても、いつもと違う馴れない動作に戸惑うばかりだろう。
 男たちが大音声を揃えて少年侍従に「止まれ」と身振りしながら呼びかけるも、一途な少年は振り返ることもせずに懸命に王都へと去っていく。拳ほどだった背中はついに親指の爪ほどの大きさにしか見えないほど遠のいてしまった。
 王城にて国王の身が害され、意識不明の状態か、万が一にも亡き者とされていた場合、慣習に基づいて自動的にフリードリッヒが国王もしくは国王代理となる。そうなればフリードリッヒの命令が絶対のものとして効力を発するようになる。先回りして命令を撤回しようにも通信球を破壊されたためそれは敵わない。追いつく手段もないとなれば、王子本人が撤回しないかぎり、王礼は覆らずに実行されてしまう。

(王子は───使い物にならない!)

 フリードリッヒに翻意を促そうと考えたが、地べたにうずくまって滂沱する子どもとなった彼にそれが出来るとは思えなかった。そのまま視線を横に滑らせてフリードリッヒが熱心に懸想する平民の娘に目を向ければ、足元に嘔吐したまま何故か石のように硬直して動こうとしない。事態の打開にはどちらも役に立つとは思えなかった。

「ダメだダメだダメだ!あの伝令を王都に行かせてはならん!取り返しのつかないことになるぞ!」

 騎士団長の脳裏は恐怖一色に塗り潰されていた。頭頂部から滝のような汗が流れ落ちてくる。王都への襲撃がエリザベートによって実行されたというたしかな証拠がないまま軍を進めて有力貴族の領地に攻め込んでしまえば、それは王国が先に弓を引いたと同義だ。しかも、よりによって相手は王国最大の貴族であり、名実ともにナンバー2なのだ。歴史に禍根を残す大変な動乱の引き金となることは避けられないうえに、それはエリザベートに正当な防衛の権利を与えることになる。攻め込んできた相手に対して、彼女は遠慮も呵責もすることはないだろう。火に油を注ぐことは避けられない。そうなれば、今日の地獄が何百倍、何千倍にもなって王国全土で再現されることになる。

(勝てるわけがない!犬死にさせに行くようなものだ!)

 3倍の戦力差がありながら最強戦力を完膚無きまで滅ぼし尽くした公爵軍はいまだ実力の底が見えない。どんな訓練を施されているのか。どれほどの練度なのか。何ができて、何ができないのか。そもそも、本当に兵力は200人だけしかいないのか。彼らの武器は鉄筒だけなのか。まだなにか隠しているのではないか。
 こちらは何もわからないのに、向こうはこちらを隅々まで知り尽くしている。そんな相手に、虎の子の近衛騎士団を欠いた王国が矛を交わしても勝てる見込みなど皆無だった。たとえ王国側に与してくれる貴族家が参戦したとしても、結果は変わるまい。万に一つも勝利はなく、無駄死にした死体の山が増えるだけだ。ユーリの後を追う若者が増えるだけだ。
 騎士団長の心中に息子を失った悲哀が去来する。この果てしない永劫の痛みを味わう親を無駄に増やすべきではない。戦争はなんとしても防がなければならない。戦端が開かれる前に、あの伝令を止めることのできる者を探さなければならない。
 慌てふためく騎士団長の視界に、金長髪の輝きが差し込んだ。動転してオロオロとするばかりの周囲の大人たちをよそに、さざ波一つ無い山中の湖面のように落ち着き払って静かに紅茶を嗜んでいる。己を鍛え上げてきた超一流の兵士の風格と、不可能を可能にする絶大な自負心が全身からオーラとなって発奮されている。騎士団長は、裏社会における彼女への評価を思い出した。

曰く、“依頼成功率99パーセント”
曰く、“不可能を可能にする令嬢”

 瞬間、彼は決断した。

「エリザベート公爵令嬢!貴女に|依頼《・・》する!あの伝令を止めてくれ!」

 ギョッと驚く周囲の反応を捨て置いて、騎士団長はいまだ冷徹に黙したまま鷹揚な態度を崩さないエリザベートの傍まで駆け寄ると地べたに両膝と両手をついて喉を震わせる。

「貴女にこのような依頼をすることが筋違いであることは認める。都合のいい話に違いない。だが、これ以上の犠牲はもう誰も望んでいないのだ!報酬は私のあらゆる全てだ!命も、財も、全てくれてやる!だから頼む、止めてくれ!もう、止めてくれ……!」

 騎士団長の悲痛な願いが青空に吸い込まれて霧散していく。エリザベートの影の噂については王子の取り巻きたちも耳にしていた。だが、自分を窮地の陥穽に陥れようとした相手に助けを求めて、手を差し伸べてもらえるとは思えなかった。

「………そのご依頼、たしかに承りましたわ」

 だが、エリザベートはおもむろに立ち上がった。ドレスを颯爽とはためかせ、少年侍従の背中に|体《たい》を振り向ける。無関心の極致だった双眸がザッと強く引き絞られて険しげに小さな人馬のシルエットを睨む。それはまさに了承の意を示していた。騎士団長の渾身の依頼は聞き入れられたのだ。彼女の内でどういう打算が働いたのか定かではないが、とにかく聞き入れてもらえたのだ。大人たちが息を呑み、草原の丘に沈黙が満ちる。

(や、やってくれるか。しかし、)

 依頼を受け入れてもらえたことにわずかに安堵すれど、騎士団長の気が楽観することはない。鉄筒を所持したエリザベートの配下の兵たちは依然として丘下の合戦場に展開しているし、彼女自身は当然のように丸腰だ。もはや信じるほかないが、騎士団長の目にはやはり成功率は少ないように思えた。
 騎士団長がハラハラとして見守るなか、サラマンダーもかくやというエリザベートの鋭い視線がギリギリとキツく引き絞られていく。人間の域を超越した感知能力を備えた目と鼻と耳と肌と経験と直感が、目標との距離と温度と湿度と風速と重力と空気抵抗と|自転慣性力《コリオリ》といった射撃諸元を瞬時に計算しているのだ。目標に対して左足の外側面がざっと地を踏みしめ、肩幅ほどの間隔を開けて右足は支柱のようにぐっと踏ん張る。堂に入った所作は、その動きを何千回、何万回と繰り返していることを如実に示している。だが、相変わらずその手に武器はない。

「エリザベート令嬢、いったいどうやってあの少年を止め───は?」

 |すでにその手には《・・・・・・・・》|鉄筒が握られていた《・・・・・・・・・》。
 騎士団長は自分の眼球の精度を疑った。不意に草むらから鉄筒が|生えてきた《・・・・・》ように見えたのだ。なんの魔法を使ったのか、まるで茂みのなかに透明人間がいるように、鉄筒が|銃把《グリップ》を手前にして恭しく差し出された。エリザベートは視点を目標に固定したまま、腰の後ろに回した手でそれを受け取る。鉄筒は彼女に手に吸い付くようにして、一瞬後には彼女の懐に収まっていた。
 その鉄筒は、他の公爵軍兵士のものとは形も色も明らかに異なる特別仕様だった。大きく、頑丈で、力強く、なにより洗練されていた。誰も知る由もないことだが、それはエリザベート公爵令嬢が前世で愛用していた『|アーマライトM16Gカスタム《G13A3SV》』と瓜二つだった。エリザベートが、ひと刹那、己の胴体ほどもあるその|黒い鉄筒《ブラックライフル》に懐かしげな柔らかい表情を垣間見せた束の間───彼女は鉄筒を立射の姿勢に構えて完璧な照準を整えていた。目にも留まらぬ早さで薬室に弾丸が叩き込まれ、ジャキンと金属敵かつ攻撃的な音色を奏でる。その場の誰も、彼女が照準を終える動作を判別できる動体視力を備えていなかった。人間が、「目のまばたきはどうやってするのだろう」といちいち考えないのと同じように、彼女は鈍重なはずの鉄筒を軽々と持ち上げ、構え、照準をつけ、弾丸を装填し、引き金に指をかける一連の動作をコンマ単位で完了させたのだ。
 通常、ライフルの最適な重量は体重の5.6パーセントであるとされている。体重49キロのエリザベートにとって3700グラムの鉄筒は最適値より1300グラム以上も重すぎることになる。しかし、並々ならぬ魔力によって身体能力を極大に向上させているエリザベートには、まさに肉体の延長であるかのように心地よく感じられた。肉体の延長であるのだから、脳が意識せずとも脊髄が勝手に射撃姿勢を構えられるのだ。
 その場の全員に呼吸することも躊躇われるピリッとした緊張が走った。静まり返る草原に、場違いなほど爽やかな風の音だけが通り過ぎる。気温は16度。湿度は60パーセント。風速は右から4メートル。視界の限界まで広がる草原が海原のようにザアザアと靡いて、波をかき分けるように少年と馬の背中が小さく遠ざかっていく。目標までの距離は500メートル。すうっと、エリザベートが浅く小さく息を吸い込む音がして、止んだ。その結果、彼女の肉体において、振動しているのは凄まじい度胸を秘めてゆっくりと拍動する心臓だけとなった。まるで周りの世界から彼女だけ切り離されてしまったかのように超然としていて、その姿はまさに神のようだった。
 エリザベートが、|先台《フォアグリップ》を支える腕の肘を腰骨にぐっと引きつけ、|銃床《ストック》を肩にぴったりと付けて、頭をほんの少しだけ傾げて長大な|照準器《スコープ》を覗き込む。その玉虫色の瞳がカッとひときわ大きく見開かれたかと思いきや、|引き金《トリガー》に添えられた人差し指にピクリと力がこもる。

(これで……これでいいのか……!?あの少年を犠牲にしていいのか……!?)

 騎士団長は覚悟を決めきれずにいた。少年侍従はただ王子の命令に従っているだけだ。命まで奪われることはしていない。


『どうして我々だけ生き残ったのか───』


 少年の台詞が脳裏に蘇る。思えば、手を下されたのはすべて大人の戦闘員だった。非武装の子どもは含まれていなかった。たしかに容赦はなかったが、情けはあった。生き残ったのではなく、|生き残らされた《・・・・・・・》のでないか。そこから先は、直感だった。

「彼はまだ14歳だ!殺すな!」

 くんっ、と。鉄筒の先端が、わずかに───ほんのわずかに───右に動いたように見えた。
 ズキューン!世界そのものを包み込むような轟音が地平線まで響き渡った。エリザベートの膨大な魔力によって初速995メートルで銃口から解き放たれた重弾丸は、次の瞬間には|音の壁を突破《ソニックブーム》して耳をつんざく大音響を爆発させる。この世に生まれ落ちたばかりの“死”が右回転しながら大気を切り裂いて500メートル先の目標に向かって一途に飛翔していく。
 この世界の重力は前世とまったく変わらない。この場合、500メートル先の目標を狙えば、着弾点は目標の1メートル半ほど下に逸れる。また、風速4メートルの横風を受ければ、500メートル先の着弾点では68センチの|偏差《ズレ》が生じる。この横風は銃口のすぐ先に吹くものだけ考えればいいものではなく、100メートル先、200メートル先の風速も計算する必要がある。加味しなければならない要素はそれだけではない。気温が高くなれば銃身内の腔圧が上昇して弾速が過剰に早くなり、逆も然りとなる。湿度が高ければ空気の密度が小さくなり、弾道落下率が下がる。逆もまた然りだ。さらに、使用する弾丸は当然、一方向にしか回転しないため、必然的に|回転誤差《スピンドリフト》が生じる。ここまで計算したとしても、目標との間に隠れていた小さな沼を見逃していれば、そこから蜃気楼が沸き立って、弾道が歪み、全てが狂う。それほど正確無比な緻密さが求められる狙撃を───エリザベートは、完璧にやってのけた。

悪役令嬢ゴルゴ最新話試作 

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 雷神が天上から鉄槌の怒号を発したというのか。否、怒号は大地から発せられていた。そして、その鉄槌を落とした神は、王子の隣に泰然と座る少女、エリザベートに他ならない。
 轟きが津波のように大地を伝わっていく。見下ろす森の一点から、噴火の如く土くれが巻き上がり、灰色の煙の塔が天をつくように立ち上がる。驚いた鳥の群れが一斉に飛び立って雲霞のごとく一帯の上空を逃げまどい、キイキイと甲高い悲鳴をあげている。無数の翼が乱れるバサバサという音と大気を揺るがす轟音が不気味な|交響曲《シンフォニー》を為す。その場にいる全員が、何が起きたのかは理解できなくても、悪いことが起きたに違いないことは理解出来た。
 一葉に顔を青ざめて重く静まり返る王子たちをよそに、エリザベートの通信球からは戦争のプロフェッショナルの会話が途切れることなく続く。

『こちらデルタ|観測班《スポッター》。敵集団への命中を確認。効果は限定的。続いて|修正射《アジャスト》を要請。諸元を送る。|観目方位角《DIR》、|距離《RNG》、|座標《GRID》、送信』
『フォックストロット|指揮官《シックス》、修正諸元を受領。修正射準備完了、発射まで3、2、1、|発射《ショット》』
『こちらデルタ|観測班《スポッター》。敵集団への命中を確認。手前に30ミル、左へ50メートル修正。|効力射を要請《ファイア・フォー・エフェクト》』
『フォックストロット|指揮官《シックス》、修正諸元を受領。全迫撃砲班、|効力射《FFE》準備完了』
『こちらエコー|射撃統制《ファイアズ》、デルタ|先任下士官《パパ》、|遮蔽物に隠れろ《テイク・カバー》』
『こちらデルタ|先任下士官《パパ》、|了《ログ》』
「こちら|総指揮官《アクチュアル》、|擲弾発射開始《オープンファイア》」

 聞いたこともない言葉ばかりで、何をしようとしているのか検討もつかない。この世界の住人は、“効力射”が正しい射撃諸元を得たあとに行われる本格射撃命令であることを知らない。知らないが、それが無慈悲な攻撃の合図であることは今までのことから嫌でも予想がついた。エリザベートは今、トドメを刺そうとしている。なんの呵責もなく、遠慮もなく。顔も知っているだろうユーリを、極めて無関心に、雑草を切り取るかのような心の籠もらない表情で、この世から消し去ろうとしている。
 森の周囲の茂みから次々と眩しい光が打ち上がった。ほとんど垂直に打ち上げられたそれらは、攻撃魔法のファイアボールだった。とてつもない破壊力が凝縮されたファイアボールが太陽に負けじと激しく燃焼している。それらは個々に違った放物線を空中に描いた。だが、次の瞬間、驚くべきことが起きた。ファイアボールは森のなかのある一点を目掛けて、まるで意思を持っているかのように寄り集まり、落下のタイミングを合わせ始めた。それは極限まで高められた練度による弾着調整の結果だったが、王子たちの目には魔法か奇跡にしか映らなかった。

「ユーリ───」

 たまらずに漏れ出た騎士団長の悲痛な呟きは、稲妻のような爆音にかき消された。
 皿のように見開かれた彼らの目に、再び爆炎が写り込む。今まで誰も見たこともないような、世界を捻じり切ろうとするかのような爆発だった。今度の轟音は度を超えて凄まじく、王子の頭上では天幕の生地がビリビリと振動し、ところどころに音を立てて切れ目が生じた。視界に映る平野全てから鳥たちが弾けるように一斉に飛び去る。DNAレベルで経験したのない大地の大激震に王子の取り巻きたちが腰を抜かして尻もちをつくも、エリザベート側には魔法の障壁が最初から張られていたらしく、風のそよぎすら感じていないようだった。着弾点にあった太い木々がバキバキと音を立てて根本から傾き、先ほどよりも激しい土煙の柱が立ち昇る。数拍も遅れてから突風が殺到してきて、破れた天幕の隙間からはパラパラと土塊が降り落ちてくる。それは衝撃の度合いを連想させ、爆心地にいたユーリたちの末路をも容易に連想させた。



予備の通信球が?

眉をひそめて訝しる

それはつい先日新しい魔術を付与したものだ。なにより私が今朝使って連絡をとったばかりーーー

台詞が尻すぼみになっていく
騎士団長の顔面が見る見る蒼白になり、どっと頭から滝のような汗が流れ落ちる
操り人形のようなぎこちない動きで彼はエリザベートの横顔に顔を向ける

エリザベート公爵令嬢、我が騎士団に、何をした?

エリザベートは何も答えない
しかし背後に立つ公爵の喉が緊張にグビリと上下したことが明確な答えになった

「まさかーー」


「小僧、貴様王子の御前であるぞ!」
「至急、至急の伝令なんだ!通してくれ!」

背後から怒号が飛んできて、追求は乱暴に中断された。エリザベートと公爵を除く全員がそちらを目を転じれば、まだ騎士叙任前の年若い少年が護衛を押しのけて馬から転がり落ちるようにしてこちらに駆け寄ってきていた。その引きつった目からはボロボロと恐怖の涙がこぼれ落ちている。尋常でない何かを直視したに違いないと、誰もが彼の口にする報告に嫌な予感を感じた。
果たして、現実はその予感を遥かに上回って地獄だった。




王都が襲撃されました!騎士団練兵場、全滅!王城付き騎士も衛兵も全滅、衛兵及び傭兵詰め所も全滅です!

応じの側近の何人かが泡を吹いて卒倒した。

全滅?

にわかには信じがたい、受け入れがたい報告に、誰も何も言えない。少年は胸をふいごのように激しく動かしながら息も絶え絶えに続ける。

下手人の姿は消えました。下手人がどこから来たのか、どこへ消えたのか、誰もわかりません。どこからともなく激しい光と音が弾けて、気がついたら騎士の方々が穴だらけになっていて……。調べようにも、下手人を追おうにも、残されたのは騎士叙任前の我々のような侍従だけです。どうして我々だけ生き残ったのか……。

騎士団長の目が我知らずエリザベートに向けられる。下手人の正体はわかるまい。おそらく証拠すら残してはいまい。しかし、指示をしたものはわかる。
なんということだ。ここまでするのか?どこまでするのか?

さすがの彼も絶望に打ち震えるしかなかった。敵にしてはいけないものを敵にしたのだ。獅子身中の虫どころではない。虫身中の獅子だ。王国はその体内に、到底抱えきれない強大な悪魔を宿していたのだ。

お願いします、至急、近衛騎士たちを王都に!近衛騎士の方々さえ戻って頂ければーーー




いったいどこの手の者が。そんなことができる大軍がどこからどうやって

わ、わかりません。下手人の姿を見た者は全員、生きてはおりません。警邏士が城下を探しておりますが、怪しい者は見つかっておりません。

大軍がただ一人として見つからないなどありえない
少人数でやったということか
気づかれることなく
少人数で
短時間で
姿を消す

視線がエリザベートに吸い寄せられる
我関せず
エリザベートの父である公爵は



生き残った奴らは、訓練生でもいい、全員連れてこい!総攻撃だ!公爵領に攻め込ませてやる!行けえッ行けえーーーッッ!!

伝令

ご乱心だ!

気でも狂ったか、騎士団長!
それはこちらの台詞だ!この国を煤塵と化すおつもりか!

伝令を指差す

伝令を止めろ!戦争になるぞ!

依頼だ!あの伝令を殺せ!

スッと立ち上がる。

何もないところから鉄筒が生えてきた。まるで茂みのなかに透明人間がいるように、恭しく差し出された鉄筒はエリザベートの手に吸い付くようにして収まる。
その鉄筒は、他の公爵軍兵士のものとは形が異なっていた。大きく、頑丈で、力強く、なにより洗練されていた。己の胴体ほどもある鉄筒に懐かしいような表情を向けたと思った束の間───彼女は、撃っていた。
 その場の誰も、彼女が銃を構える動作を判別できる動体視力を備えていなかった。人間が、「目のまばたきはどうやってするんだっけ」と
考えることなどないように、彼女は、鉄筒を持ち上げ、構え、照準をつけ、引き金を引く一連の動作をコンマ単位で完了させたのだ。




(途中)

ゴルゴ公爵令嬢最新話試作 

未分類

「女こそ最強なのだ」

 父親の口癖だった。ユーリは、それが大嫌いだった。

「女は強い。身体は早く成長し、精神は早く成熟する。病気に負けず、痛みに屈せず、長生きもする。観察力に長け、思慮深く、大胆で、肝っ玉が座っている。人間としてもっとも完成されている」

 それに対し、幼いユーリはこう反論した。「しかし女は腕力に劣ります」。父親は微笑んでこう諭した。

「だから我々は女を護ってやれるのだ。彼女たちを護ることを許されているのだ。護ることすら出来なくなったら、我らの存在意義はない。騎士道とは、あけすけに言ってみれば、ただ男が女を護るためにあるのだ」

 「お前にもきっとわかる日がくる」。納得しかねて頬をふくらませるユーリの頭を撫でながら、若き日の父親は優しく言った。その後ろではモスコーが春のように穏やかに笑っていた。ユーリには、結局、わからなかった。
 ユーリは強かった。まだ騎士として叙勲される前だというのに、並の騎士では歯が立たないほど強かった。それはひとえに、「力が強いだけでは駄目だ」としつこく諭してくる父親への反発故だった。自ら家を出奔して魔物の森で武者修行を行ったかと思えば、治安の悪い酒場に殴り込みをかけて腕に覚えのある悪漢を半殺しにすることもあった。どんなに強面の用心棒にも一歩も引かずに勝利を勝ち取ってきた。父親に当てつけるような無茶を何度もしでかした。

「女にこんなことが出来るか?たった一人で魔物や悪漢無頼に立ち向かえるか?出来やしない、絶対に。出来るのは男だけだ。俺だけだ」

 ユーリは増長していた。不幸にも、彼は増長が許されるだけの天賦の才を備えていた。さらには戦いの才能だけでなく、容姿端麗という二物をも持っていた。これが良くなかった。彼の周囲の女性は、彼を表面上でしか評価しなかった。ストイックな美人顔の少年はいつの時代も女心を惹く。家柄と容姿という甘い匂いに惹かれて自身に|集《たか》ってくる年増の香水臭い女たちを、ユーリはいつしか嫌悪の対象として見るようになっていった。

「騎士道とは、こんな奴らのためのものなのですか?顔を突き合わせては部屋の隅で誰かの陰口を叩いて悦に浸るような奴らを護ることに、なんの意味があるのですか?俺にはわかりません」

 父親は悩んだ。自慢の息子になるはずだったのに、どこでどうして掛け間違えたのか、強情なまでに捻くれてしまっていた。優しく嗜めるはずだった母親はユーリが物心つくまえに天上に旅立っていたので、母親の代わりをどうしてやればいいのかわからなかった。彼は近衛騎士団の団長として優秀だったが、父親としては未熟だった。
 あまりに頑なな息子を見かねた彼は、自分で諭すことを諦め、ユーリを貴族学校へ編入させることにした。そこには貴族家出身の女子生徒も大勢が通う。成績優秀かつ身辺がしっかりとした者ならば、平民の子も特例で通うことができる。名君として最盛期時の国王の肝いりで作られた貴族学校で視野を広めれば、ユーリの青臭く生硬い性根も次第に治ってくれると期待し、父親はすでに肩の荷が下りたとばかりに安心してさっさと送り出した。
 それに、貴族学校には|あの令嬢《・・・・》も入学する予定だった。10歳の時、背中に近付いてきた幼女趣味の変態司祭をはり倒して危うく殺しかけたという公爵家の少女がいる。噂によると、背後に立たない限りは彼女の逆鱗に触れることはなく、普段は極めて聡明で壮麗な|淑女《レディ》であるらしい。彼女を見れば、女を下に見ようとするユーリの意識も変わるだろう。上には上がいる、と知ることになるだろう。不幸なことに、この選択はもっと良くなかった。

 ユーリは出会ってしまった。決して女に媚びない男───フリードリッヒ王子に。

 彼は女を見下していた。見下したくて仕方がなかった。騎士道など彼の辞書には載っていなかった。「力こそ全てだ」と平然と豪語し、男は女を蹂躙するものだと躊躇いもなく口にしていた。王子もまた、“女”に対してなにかしら敵愾心のような、複雑に捻くれた|悪感情《トラウマ》を抱いていた。
 ユーリとフリードリッヒはまたたく間に友人となった。ユーリは、身分の違いを越えて心根を通わせられる初めての友を見つけられた。フリードリッヒは、腕っぷしの強い脳筋な配下を得られた。認識のズレはあっても、お互いがお互いを必要としていたのは間違いなかった。権威を傘にした傲慢な態度で周囲から辟易される王子の姿も、ユーリから見れば「女に媚びない一人前な姿勢だ」と好感を抱かせるものだった。
 だから、「俺は許嫁と離縁する」と意を決して椅子から立ち上がったフリードリッヒを見ても、「女をやすやすと切り捨てられる立派な男だ」と無責任に褒めて何も知らないままに背中を押した。「も、もう少し様子を見たほうがいいのでは」と青い顔で自重を促す眼鏡の側近を「弱腰な奴だ」と鼻で笑いもした。婚約破棄を突きつけるフリードリッヒの膝がなぜか震えていることにも気が付かなかった。その許嫁という女が誰なのか、どんな人物なのか、世間知らずのユーリには知る由もなかった。エリザベートのことを知ったのは、顔面の約半分を破壊され、併発した感染症による高熱によって生死の境を3度も彷徨った末に、父親が手配した最高級の医者の熱心な治療によってようやく峠を越えたあとのことだった。
 鏡を見たとき、かつての美人顔の少年の面影はなかった。死にかけたことで髪からは健康なメラニンがごっそりと抜け落ち、完璧だった顔面のパーツバランスは子どもの落書きのように歪んで、見るも無残な|醜男《ぶおとこ》を晒していた。|そんなこと《・・・・・》は問題ではなかった。問題なのは、女に敗北したという事実だった。自分が手も足も出なかったという事実だった。
 その日から、ユーリは修羅となった。全身を襲う激痛を物ともせず、騎士団の精鋭である近衛騎士を相手に毎日のように訓練に身を捧げた。あまりに苛烈な修行の様子を心配した父親が縛り付けてでも休息をとらせようとしたが、それを引きちぎってまで彼は己を研ぎ澄ますことを選んだ。復讐の鬼と化した息子が“騎兵合戦”に最前列で参加させてくれと願い出てきたとき、父親は、ただ頷いて願いを叶えてやることしか出来なかった。どこで息子は間違えてしまったのか。その原因は自分ではないのか。父親は手で目を覆って苦しんだ。
 そんな父親の苦悩など、ユーリは知る由もなかった。彼はフリードリッヒとの約束で頭がいっぱいだった。“騎兵合戦で俺が勝利した暁には、エリザベートをお前の好きにしていい”。この約束が果たされた時、ユーリの屈辱は晴らされるのだ。傷の痛みの何百倍も心を蝕む屈辱を帳消しにできるのだ。そのために、ユーリは密かに魔術まで習得した。もともと素質はあったが、剣のほうが性に合っているからと見向きもしなかった魔術を必死に修練し、ファイアボールで敵を火だるまにできるほどまで高めた。ユーリほど優れた剣技の持ち主が魔術まで行使できるというのは前代未聞だった。

「見ていろ、エリザベート!男を舐め腐った売女め!この力でお前の陳腐な公爵軍をなで斬りにして、その顔を恐怖と絶望に歪ませてやる……!!」

 悪鬼のような顔の映る鏡を素手で殴り割る。騎兵合戦前夜、ユーリは気が狂ったような高笑いを響かせていた。騎兵合戦が始まる直前までユーリの気分は絶好調だった。今はもう、違う。

(どういうことだ───こんなはずでは───)

 酸素不足に陥った頭の中では、その二文節のみが繰り返されるばかりだった。視界の両端にいたはずの護衛の近衛騎士はいつの間にかいなくなり、振り乱される自分の両腕だけが映っている。荒い呼吸で木々の間をすり抜けながら、王子軍団長であったユーリは今、|なにか《・・・》から必死で逃げ惑っていた。
 どこから、どうやったのかはわからない。その|なにか《・・・》は、最初に騎士団から20人を排除した。無作為ではなく、明らかに意図して、指揮官や次席指揮官、そして経験豊富な猛者を狙っていた。お節介な|副団長《モスコー》のジイさんが殺され、すぐ隣りにいた団長であるはずの自分が狙われなかったのは腑に落ちないと思いかけたものの、殺されるよりずっとマシだと思い直した。|なにか《・・・》はお飾りの自分ではなく、実質的な指揮をとれる者を真っ先に排除した。強力な先頭集団を、ただの一瞬で烏合の衆にしてしまったのだ。
 激情してはいても、ユーリは自身に将の才がまだ伴っていないことを承知していた。だから、鬱蒼しいほどに心配性の父親から「モスコーをつけてやる。忠言に耳を傾けろ」と言われ、渋々それを了承したのだ。
 その父親は今、王子の背後の観戦席で身を乗り出して驚愕しているに違いない。息子の醜態に目を覆っているに違いない。その様子を想像してしまい、思わず顔がうつむき、足が太ももから重くなる。

「ゆ、ユーリ団長!お待ち下さい、ご指示を、ご指示をくださフパっっ」
「ひいいいっ!?」

 遅くなったユーリにようやく追いつくことができた騎士の顔面が血の霧と化してユーリに降り掛かった。彼の後頭部に無遠慮に侵入した小さな何かが、彼の脳みそのなかで散々暴れまわった末に前頭部に皿ほどの穴を開口して飛び去っていったのだ。ぶらんと垂れ下がった下顎がブランコのように前後に振られたあと、騎士は支えを失った棒のように大地に身体を預けた。永遠に。

「ひぎゃっ!」
「ア゛ッ!」

 背後から、ユーリを追い立てるように誰彼かの最期の悲鳴が散発する。貴族家の紋章が施された分厚い鎧に、直前まで存在しなかった鋸歯状の穴がガパッと開き、大輪の赤い華が咲く。空気中には鉄の臭いが満ち、思わず胃液が逆流しそうになる。

(|なにか《・・・》に、いや、|誰か《・・》に狙われている!しかも待ち伏せだ!)

 遅まきながら、ユーリはようやく事実に気がついた。この森こそ|狩り場《・・・》だったのだ。混乱を抑えるために森に隠れて態勢を立て直そうとすることはやすやすと見抜かれていた。いや、そうするように仕向けられた。自分たちと|相対《あいたい》していた80名の平民兵士の本隊こそ実は囮であり、獲物を追い立てるための狩猟犬であった。本物の|本隊《ハンター》は伏兵として自分たちのすぐ近くにずっと潜んでいたのだ。
 手の甲で血に塗れた顔を拭い、文字通り必死の思いで思考を回転させる。眼前には、雨季には小さな池が出来るのであろう開けた場所がある。囲まれている状況で、焦って平静を見失った兵に出来ることはユーリには一つしか思いつかなかった。

「ぜ、全周防御!あの開けた場所で防衛戦だ!盾持ちは外周を固めろ!急げ、早く、早く!」

 特権を振りかざして、年上だろうとかまわず尻を蹴り上げる。爵位の高い者に従順に従うという貴族の習慣が染み付いた近衛騎士たちは狼狽しながらもその指示に従い、自らを壁と化していく。本来、このような防御陣は救援が駆けつけるまでの時間稼ぎでしかないのだが、もはやここにはそれを指摘できる経験者はいなかった。よろよろと、しかし現時点での彼らには可能な限りの早さで、ユーリを取り囲むように人間の城壁が築かれた。中央にはユーリのみならず、盾を持たない者や負傷した者が肩を寄せ合って、いかにも気息奄々としている。

「こ、これだけか。100人もいないじゃないか」

 ほうきで掃き寄せられたかのように集まった近衛騎士たちは、すでに100名までその数を減じられていた。しかも、その内2割は怪我をしたり、武器をなくしたりして役に立ちそうにもない。

「ゆ、ユーリ団長!どうしましょう!?」

(執筆中……)

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どもども。主(ぬし)です。駄文書きです。趣味は映画と小説とニコニコ動画です。灼眼のシャナやFate/zeroのSSなどを書いてます。小説の小ネタや、短編SS、映画のレビューやちょっとした雑記などを掲載していこうと思います。

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