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白銀の討ち手

己の妄想をネットという広大な海へ送り出すことに若干躊躇いつつも実行してみるブログ。現在は『白銀の討ち手』という灼眼のシャナの二次小説をarcadiaさんにて執筆中。

【ブリジットという名の少女】 Her name is Charis!! 一覧まとめ 【三次創作】 

Her name is Charis! !

 漫画『ガンスリンガー・ガール』の二次創作小説『ブリジットという名の少女』の三次創作でございます。今までまとめを作ってなかったので、続きが完成間近なこのタイミングで一覧をまとめた記事を作成しました。余裕がある時に作っておかないと。
 この拙作は、僕が『ブリジットという名の少女』を読んで深く感銘を受けた結果、ただただ「ブリジットを救いたい!」という情念に突き動かされてハイテンションのままに書いたものです。事後承諾にはなりましたが、作者様であるH&Kさんには許可も頂けました。その懐の広さに感謝です。ああ、H&Kさん。貴方と直にあっていっぱいお話をお伺いしたいです……。
 偉大なるH&Kの作品には完成度もストーリーも伏線も何もかもが遠く及ばないですが、もしも、ブリジットの物語にIFの世界を望まれる方がおられましたら、読んで頂ければ幸いです。鬱クラッシャーとTS娘の融合作品、ぜひご堪能くだしあ!






<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1
外伝 後編その2
外伝 後編その3
外伝 後編その4

<名状しがたいオマケ的な何か>

ちょっとしたコネタ
ヒャーリスプロフィール
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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漫画『ブレイクブレイド』の二次創作。タイトルは『Made in America』。 

二次創作

思いついたので書いたよ。ブレイクブレイドは途中で読むのをやめてしまったけど、アニメは全部観たよ。



 熾烈な戦いを経てついにデルフィングは致命的な損傷を受け、もはやライガットの願い虚しく戦える状態ではなくなった。シギュンと言えども、古代技術の結晶であるデルフィングを完全に修理することはできなかった。そこへ、クリシュナ討伐を旗とするアテネス軍が迫る。率いる将軍はゼスその人である。小国クリシュナの保有するゴゥレムは旧式の上に数も200足らず。一方、大国アテネスは最新鋭機多く、その保有数は700を超える。戦闘の練度から言っても勝てる道理はなく、今までの辛勝はただライガットとデルフィングの存在あってこそだった。その幸運も、尽きた。
 絶望に塞ぎ込み、デルフィングを発見した古代遺跡を降りていく主人公ライガット。もしかしたら、都合よくデルフィングがもう一機見つかるかもしれない。しかし、見つかったところでどうだ。相手は大国アテネスで、将軍として立ちはだかるのはあのゼスだ。ゼスの強さ、才覚はよく知っている。デルフィンが完全な状態でも、一国の大軍勢を前にしては太刀打ちは出来ないだろう。そして、ゼスはシギュンの処刑を求めている。降伏すれば、シギュンは殺されてしまう。

「俺は……俺には、何も護れないのか……? うわっ!?」

 不意に足を滑らせて彼は螺旋階段を転げ落ちていく。どこまでもどこまでも、深く深く、地下施設の底まで。砕けた金属片が皮膚に食い込み、切り裂いて、鮮血が撒き散らされる。ようやく行き止まりの壁に背中を打ち付けて激しい痛みに目を瞬いていると、唐突に、理解できない言語の機械音声が金属の壁に木霊した。

『血液採取。Sクラスライセンス保持者の遺伝子情報を確認。封印解除。ようこそ、同盟国預かり品保管区画へ。当機体の運用については統合幕僚監部の許可が必要です』

 何を言っているのかはまったく理解できない。しかし、デルフィングのコックピット内部で聞いた音声にそっくりだった。目を見開いて驚く彼の目の前で、それまで壁の一部だったところに切れ込みが生じ、分厚い扉が静かにスライドした。

「……もう、どうにでもなれ、だ」

 痛む身体を圧して、おずおずと足を踏み入れたライガットの目を、突如強烈な照明の光が潰した。「うっ!?」と思わず手で目を覆うとして、彼は動きを止めた。生物的な怖気が全身を走り狂い、一瞬で喉が干上がった。
 千年の時を経ても一切の損傷が無い巨大な空間に、“それ”は聳え立っていた。デルフィングが11メイル(約9m)だとしたら、その血のように紅い巨躯は20メイルを優に超えているだろう。ライガットは畏怖を覚えながら、勇気を振り絞ってゆっくりと近づいていく。一歩近づくごとにその覆いかぶさるような巨体に圧倒される。その攻撃的かつ鋭角的なフォルムは、デルフィングとは異なる設計思想から生み出されたものに違いない。胴体に比べて頭部は小さめで、一対の目は人と同じだが、鼻と口に当たる部分は鎧兜のように盛り上がり、牙のような意匠が刻まれている。その顔つきは機械(マシーン)というよりどこか生物的で、そして悪魔的だ。マニピュレータの爪は刃のように鋭く、触るだけで肌が斬れそうだ。何より、その背部に装備された巨大な“それ”には呆気に取られる他ない。
 ついに足元まで辿り着いた。象を前にしたアリになった気分だ。不安に膝が笑いそうになる。今にも動き出して踏み潰されるのではないかという錯覚すら覚える。意を決してそっと脚部に触れてみる。瞬間、刺すような金属の冷たさにギクリとして手を引っ込めた。だが、わかった。デルフィングと同じ物質───“金属”で出来ている。だが、このアンダーゴゥレムはただのゴゥレムではない。デルフィングとも違う。そう、デルフィングとは明らかに違う。

 なぜなら、デルフィングは、このゴゥレムのように“鎖で雁字搦めに封印されてはいなかった”からだ。

 直径が人間の胴体ほどもある鎖は幾重にも巨体の上を取り巻き、その重さでゴゥレムを押し潰そうとしているかのようだ。鎖の両端は空間の内壁に深く打ち込まれ、その緊張と決意を物々しく表している。まるで、“これはダメだ”、とこちらに訴えかけてくるように。
 おそらく、古代人はこれを使うことを恐れたに違いない。これが目覚めることを拒否したに違いない。制御できる自身がなかったに違いない。それだけの力を秘めたゴゥレムなのだ。きっと、“国一つ簡単に滅ぼせるくらい”の力を秘めているに、違いない。
 その時、ライガットの心に、いつもは浮かばないだろう冷ややかな考えが過ぎった。

デルフィングは、もう戦えない。 ゼス率いるアテネス軍は、すぐ目の前まで迫っている。 クリシュナの貧弱な防衛軍は、奴らに到底対抗できない。
このままでは、クリシュナを、シギュンを護れない。 力が必要だ。それも並大抵の力じゃない。“国一つ滅ぼせる”ような、強大な力が。

「なぁ、オイ、デカブツ───ここから、出たいか?」
 ライガットの囁きが反響する。彼らしくない淀んだ囁きだった。その暗い波長は、ゴゥレムの聴覚センサーに確かに届いた。呼びかけに呼応して、一対のカメラアイに朧気な炎が灯る。炎は久しぶりの目覚めにほんのちょっぴり驚いて辺りをキョロキョロと見回し、そしてすぐに足元を“見た”。巨大な眼球と目が合ったライガットは、頬に一筋の冷や汗を伝わせ、それを最後の人間らしい感情の吐露として、この世のものとは思えない凄絶な笑みを浮かべた。

「出してやるよ。だから、俺に……ゼスを殺す、力をくれ」

 次々と鎖が弾け飛んだ。絡みついていた鉄の鎖が力任せに引き千切られ、バラバラになって地面に落ちる。強化コンクリートに打ち込まれていた楔が根本から叩き折れ、そこに鋭い爪が音を立てて食い込んだ。己を閉じ込めていた忌々しい空間を完膚無きまで破壊せんと巨大な四肢が振り乱される。古代人の封印は、無駄だった。火を入れられた動力炉が唸りを上げ、背中の“それ”が大きく展開する。魔物のような顔面が上下に割れ、牙が大気を噛み砕いた。自らの覚醒を宣言する巨人の雄叫びが地下施設を、それを包み込む地殻全体を激震させる。壮絶なその光景を、ライガットは満足そうに見上げていた。
 彼は、勝ったのだ。



 三日後。  若く淡麗なその青年は、切り立った広い崖の上から、顔を出した朝焼けに染まりゆくクリシュナを見渡していた。小国クリシュナの朝は、工業が発展していないが故に空気は澄み、爽やかだ。愛機エルテーミス・エレティコスに乗っているとその視点はさらに高く、清浄な大気のおかげで首都の輪郭まで視界に入れられそうだ。だが、あの朝日が昇る東の空の下では、アテネス軍選り抜きの猛者たちが今か今かと攻撃の時を待っている。

「ゼス様」

 呼びかけに応じ、エレティコスを操って機体ごと背後を振り返れば、アテネス軍屈指の精鋭が駆る最新鋭機エルテーミス総勢300機という大軍勢が己の背後に軍用犬のようにぴったりと控えていた。エルテーミスは跳躍力が非常に優れ、防壁を飛び越えることができる。それが300機、高位魔動士とセットでここに揃っている。クリシュナのゴゥレム保有数、そしてその質を遥かに上回る、過剰とも言える戦力だ。しかし、これはライガットとそのアンダーゴゥレムの存在を警戒して故である。ゼスのかつての友は、それくらいに脅威なのだ。

「ゼス様、やはり様子がおかしいのではありませんか。無抵抗にすぎる」
 ゴゥレム同士のすれ違いざま、副官を任せたイオ大佐が疑問を投げかけてきた。その眉根は歪み、明らかに混乱している様子だ。ゼスは優秀な副官の疑念に同意するように重々しく頷きを返した。彼自身も、この静けさを不気味に思い始めていた。主力300機を正面北口から、精鋭中の精鋭で編成された別働隊50機を密かにクリシュナ国東南の険しい山地から時間差で攻めさせてクリシュナ軍を混乱させる作戦だったが、今は逆の立場になっていた。クリシュナへ繋がる街道には幾つもの関所があり、そこには小規模の駐屯地があった。そこで抵抗を受けるなり、伏兵が出現するなりという事態が必ず発生するはずだった。しかし、実際は、クリシュナ正面に至る道はこの崖まで一直線に無人だった。一機のゴゥレムどころか兵士も、関所の職員もいない。まるで、「こっちだ、こっちだ、早く来い」と誘われているように、ゼスたちはここまで到達できてしまった。

「ホズル───クリシュナ9世王に行った降伏の呼びかけについて、応じた様子はあるか?」
「ありません。無視されています。それどころか、国境付近にはクリシュナのゴゥレムの姿も認めらません。完全に無人です。まるで明け渡さんばかりです」

 偵察を終えてやってきた下士官の報告に、ゼスもイオも耳を疑って顔を見合わせた。降伏もしないが抵抗もしないとは、理にかなっていない。本来なら、クリシュナは廃棄場に眠っているゴゥレムすらもを叩き起こして頭数を揃えて主力に対抗せねばならないはずだ。そうでもしないと戦えないのは自明の理だ。だからこそ、そうして全軍がゼス率いる主力の相手に躍起になっている最中に別働隊が強襲し、首都を制圧するという想定だった。これであれば、戦争は早く集結する。それがゼスの考えだった。だが、何かがおかしい。ゼスの背筋を怖気が這い上がってきた。
 その怖気の答えの一端は、遥か東南方向から聞こえてきた爆発音と、必死の形相で走り寄ってきた別の下士官によってもたらされた。

「ほ、報告します! 別働隊、谷間でクリシュナ軍の伏兵と接敵! 伏兵の将はバルド将軍! その数、およそ200! 敵は高方に陣取り、地形的に極めて不利! 完全に囲まれているようです!」
「なんだとぉッ!?」

 イオが目を剥いて動揺した。ゼスもまた、表面は冷静を装いながら、その胃の腑はひっくり返るほどの驚愕に襲われて戦慄いていた。別働隊の動きを見破られていた。険しい山道を踏破するために特別なチューンアップが施されたエルテーミスは迷彩色に塗装されており、主力よりずっと前から進軍を始めてゆっくりとクリシュナまで迫っていた。上空からでも見ない限り発見されるはずはなく、この世界には空を飛べる者などいない。発見される可能性はまずなかった。

「ゼス様、200機というのは、クリシュナの保有するゴゥレム全機です!こんなこと、ありえるのでしょうか!?」

 しかも、その戦力規模は伏兵とは到底呼べない。クリシュナ全軍がその別働隊に対応しているというではないか。如何に別働隊が最新鋭で相手が旧式といえど、4倍の戦力差には勝ち目がない。抵抗はしばし続くだろうが、地形を考えれば極めて不利で、最終的な全滅は免れない。しかし、敵主力を無視して別働隊のみを攻撃するなど、常識外だ。もはやゼスたち主力はクリシュナ正面口の目と鼻の先にいて、国境の低い防壁などエルテーミスの性能の前にはなんの障害にもならない。今から引き返してきても、到底アテネス主力の進軍を妨げるには間に合わない。そんなものは愚策も愚策だ。勇名なバルド将軍ともあろう者がそんな失策を取るなど、ありえない。この前提が成り立つのは、こちらの主力に対抗できる存在がいる場合のみ───。


『俺はここにいるぜ、ゼス』


 エレティコスがその運動性能を示すかのように風を切って振り返った。それに続いてイオの機体、そして全軍が雁首を揃えて向きを一致させる。いつの間に、どこから現れたのだろう。眩しい朝焼けを背に、“将軍殺し”───クリシュナ側の機体名ではデルフィングが、ぽつんと崖の先に佇立していた。だが、そのダメージは凄まじい。右腕は根本から砕け、無い。左足は膝下から下が折れて、添え木のようなものでかろうじて支えている。胴体には幾つもの穴が空き、頭部は顔面の半分が抉れている。立っているだけで精一杯、といった惨状に、ゼスは悲しみすら覚えた。過去との決別のためにライガットとの復讐の一騎打ちを思い描いていた彼は、もはやそれが叶わないことを知り、そして昔の親友の浅はかな考えを看破したつもりになって、呆れの微笑すら浮かべた。

「ライガット。まさか、たった一機で俺たちと戦うつもりじゃないな?」
『いいや。“たった一機”で、戦うつもりさ』

 機械的に増幅されたそのセリフに、イオは「なにを生意気な」と猛った。それに対し、ゼスは違和感を覚えて鼻頭に皺を寄せた。なんだ、この余裕は。ふんぞり返るような勝ち誇った態度は、なんだ。まるでライガットらしくない。違和感を解消させるためにゼスはエレティコスを前進させ、ライガットを追い詰める。今のライガットの機体は一歩動くだけで100の奇跡を必要とする。そんなものに負けるはずがない。

「ライガット、お前が時間稼ぎをしていることはわかっている。別働隊を倒したクリシュナ全軍が戻ってくるのを待っているんだろう。しかし、そうはいかない。別働隊は精鋭中の精鋭で、兵士装備ともに最新鋭かつ重武装だ。クリシュナ総兵力でかかってもそう簡単には駆逐できない。今もまだ戦闘は続いているだろう。ようやく戦闘を終わらせても、クリシュナの端から端まで旧式のゴゥレムでここまで駆けつけるのに何時間かかるか。半日は掛かるだろう。それまで、どう時間稼ぎをするつもりだ? 思い出話に花を咲かせるつもりか?」

 「そうだ、尻尾を巻いて帰っちまいな」。アテネス兵の嘲笑がちらほらと聞こえてきた。彼らにとっても、目下の脅威はアンダーゴーレムの戦力とバルド将軍の計略であり、それらが敵対しないと理解した今、この戦争は一昼夜で片がつくと考えていた。ゼスもそれに同調したい思いだった。そうして、胸中にふつふつとわだかまっていく不安を吹き散らし、一刻も早く安心を得たい思いだった。その期待は、アンダーゴゥレムの細部が見えるほどに接近してしまったせいで、跡形もなく破壊された。

「な───」

 無人、だった。肩口からバッサリと切断された破孔からコックピットが覗いているが、そこには搭乗者の影の形もなかった。慌てて降りて逃げ出した素振りはなかった。それを見逃すようなゼスではない。そもそも、そのコックピットは埃と土に塗れ、誰かが搭乗していた気配もなかった。その証拠にゼスが剣先で小突いてもデルフィングはピクリとも動かず、彫像のように微振動するだけだ。しかし、その頭部からはそこにライガットがいるかのように機械的な音声が発せられる。

『言い忘れてたぜ、ゼス。俺はな、“新しいゴゥレム”に乗り換えたんだ。そっちは伝令機(スピーカー)代わりでしかない』
「“新しいゴゥレム”、だと?」
『ああ、そうだ。おニューだよ』

 不意に、怖気の正体を垣間見た気がした。ライガットのこれほどの余裕、すでに勝っているかのような口調、クリシュナ軍の、まるで“すでにアテネス主力など存在していない”とでも言うかのような態度……。それらが一本の線に繋がり、ある“答え”を導き出そうとする。認めたくない、最悪の答えに。張り詰めていくゼスの緊張をイオは敏感に察知し、その心理の揺れは彼を介して全軍に染み渡っていった。全軍がわけも分からず浮き足立っていく。何かが、おかしい。何かが、“来る”。

『なあ、ゼス。新しい機体にはな、古代世界の色んな情報が残ってたんだ。教えてやろうか?』
「ああ……聞こうじゃないか」

 応じながら、ゼスは全周囲に対して最大限の警戒を行った。剣とプレスガンをそれぞれの手に持ち、即座に対応できるようにエレティコスの腰をぐっと落とす。新しい機体の性能がデルフィングに匹敵するとしても、今の自分とエレティコスなら十分戦える。不意打ちなどに引っかかるものか。

「……?」

 はたと、視界に入った地面の石ころがコロコロと転がっていることに気付いた。それも同一方向ではなく、四方八方バラバラに。そこでようやく大地が振動していることを察した。エレティコスの全天式コックピットのガラスまでもがビリビリと戦慄いている。単なる地震ではない。地面ではなく大気そのものが振動しているのだ。こんな現象は初めての経験だった。ゴゴゴと地響きが音を立て、岩や木々を左右に激しく揺らす。天変地異の前触れのような現象に、さしもの精鋭たちも怖気づく。アテネス軍兵士たちの高まる不安をよそに、ライガットの異様に平然とした声が響く。この現象にちっとも驚かず、むしろ何もかも超越したような落ち着いた声音が、ゼスの不安を煽り立てる。

『なんで古代世界が滅んだのか? それはけっこうどうでもいい理由だった。くだらないことさ。これは捨てておこう。知りたくもないだろうしな。教えてやりたいのは、古代世界にあった“国家”のことだ』
「国家、だと?」
『そうさ。お前の目の前にある、そのゴゥレム───デルフィングって俺たちが呼んでたヤツさ───それを造ったのはな、“ニッポン”って国らしいぜ。変な名前だよな。発音が難しいぜ。この国の言語は俺たちとは違うんだ。でもよ、この変な名前の国、古代世界では上から3番目に強い国だったんだぜ。そりゃあ、ゴゥレムも強いに決まってるよな』
「3番目……?」

 ゼスの脳裏に、今までデルフィングから味わわせられてきた屈辱の記憶が蘇った。部下を討たれ、戦友を討たれ、己も討たれた。ゼスだけではない。アテネス軍は今日まで、雑兵から将軍に至るまで、デルフィングを前にして数え切れないほどの敗北を喫してきたのだ。デルフィングをここまで追いつめられたのは、アテネス軍の100を超えるゴゥレムとその搭乗者の人命、それらに比肩する時間と戦費を費やし、多大なる犠牲を積み重ねた結果であった。軍団一つを丸ごと犠牲にしてようやく追い詰めたと言って過言ではない。それほどの強敵を生み出した国家が、実は“世界で3番目”だったというではないか。
 げに恐ろしきは古代世界の技術力か、とほんの一瞬だけ感心し、そして当然の疑問に行き着いた。行き着いて、恐怖した。ライガットの言わんとしていることを理解できてしまって、顎がわなわなと震えた。これで“世界で3番目”というのなら……それなら……まさか……。

『だよなあ。そうだよなあ、ゼス。これで“世界で3番目”だっていうのなら───“世界で1番強い国が創ったゴゥレム”ってのは、どのくらい強いんだろうなあ。……興味は、ないか?』

 地響きが極限まで高まってきた。ゴゴゴゴゴ、と火山が爆発しているような重低音が腹の底をビリビリと打ち据え、鼓膜を破城槌のように叩く。もはやゴゥレムを直立させていることすら難しくなり、何機ものエルテーミスが華奢なショックアブソーバーを自壊させて崩れ落ちる。「落ち着け」と諌めるイオの声すら掻き消すその轟音は、崖の下から発せられていた。しかし、ただ発せられているのではない。崖からもっとも近い場所にいるゼスにはよく聞き取れた。音の発生源は、“移動”していた。崖の下からまっすぐに、ゼスの眼前に向かってゆっくりと登って来ている。そしてそれは、すぐそこまで迫ってきているのだ。ゼスの心情を滲ませるかのように、エレティコスが怖気づいて2歩3歩と後ずさる。『“これ”を造った国の名前だけどな』。デルフィングのスピーカーがくつくつと陰気に笑った。

『“アメリカ合衆国”、っていうそうだぜ』

 ドン、とひときわ激しい爆音が閃き、崖から何かが飛び出した。目が醒めるほどに強烈な紅が、その巨体に似合わぬ俊敏さと速度であっという間に視界の上方に外れた。かろうじて動体視力が追いついたゼスが真紅の何かを視野に収めようとするも、嵐のような風圧がエレティコスを叩きつけてそれどころではなくなった。プレスガンがマニピュレータから離れて吹き飛ばされる。一瞬で音速を突破した何かが発生させた余波によって、コックピットのガラスに幾つものヒビが走った。思わず近くにあったデルフィングに捕まって転倒を防ぐ。バランスを失いそうになる愛機の手綱を必死に繰りながら、ゼスは驚愕のあまり吐き気を覚えて喉奥を胃液で焼いた。
 まさか、そんなはずはない。この世に、そんなゴゥレムなど、存在するはずが、

「ゼス様───ッッッ!!!!」

 反応できたのは奇跡だった。再現しろと言っても出来まい。ふっと覆いかぶさるように上空から降り注いだ巨大な影を視認してからでは回避できなかっただろう。その0.5秒前にイオの警鐘がなければ無理だったし、極限までアドレナリンに溢れていたゼスの脳が全てをスローモーションのように知覚していなければできない芸当だった。脳が司令を発するより先に手足が動いた。エレティコスの脚部ピストンを壊れるのも顧みず全開にしてその場から飛び退る。ゆっくりと後方に流れていくゼスの視界で、デルフィングが“巨大な脚”に押し潰されていった。かつてアテネスの宿敵とさえ思われていたアンダーゴゥレムが、プレス機に掛けられたかのように平面と化していく。あれほど頑強だった装甲が、信じられないほど強い骨格が、憎々しい顔つきが、金属片となりさがり、油が飛び散り、火を噴き、燃えて、地面に埋める勢いでグシャグシャに叩き潰されていく。代わりにそこに現れたのは、まるで悪鬼のような恐るべきゴゥレムの顔───。
 エレティコスの背中が激しく接地とすると同時にスローモーションの世界は止まった。噛みそうになった舌から血の味がする。喉奥からは胃液の苦味が逆流してきて、それらが混ざった口腔内はおぞましい味覚に満ちる。それでも、マシだった。ゲロを食べるくらい、なんだというんだ。眼前の光景を直視するよりは、よっぽど、マシだ───。

 ゼスの視野には入り切らなかった。あまりに巨大すぎて、頭と“翼”の両端が、完全に視野の外だった。背部に装備された、本体と同じ真紅に染め上げられた飛行パックが轟々と高熱の炎を吐き出し、その背後の景色が蜃気楼のように歪む。そこに見えていたクリシュナ国の様相は蜃気楼の帳に隠れて見えなくなった。それは暗に伝えていた。眼の前のゴゥレムを倒さなければクリシュナには手が届かない、ということを。そして、それが“絶対的に不可能”だということを。
 ゼスは唖然として首を仰いだ。視界いっぱいを満たす血のような真紅色に圧倒された。エレティコスの全高は12メイルだが、眼前のゴゥレムは20メイルはある。質量にすれば2倍なんてものではあるまい。まさしく巨人が全身鎧を着込んだような風体だ。そんな重量級でありながら、このゴゥレムは飛翔できるのだ。世界で唯一、これは空を飛べるゴゥレムに違いない。だから、別働隊の動きを簡単に見破れたのだ。

『俺は、ここにいるぜ、ゼスぅ……』
「ライ、ガット……」

 ライガットの呻くような囁きに呼応するかのように、真紅のゴゥレムがグルルと喉を鳴らすように凶暴な動力音を発した。これだけの質量を空に浮かせるのだから、その動力炉は並々ならぬ出力を秘めているに違いない。デルフィングの燃える残骸を踏みしめ、その両肩はまるで生物であるかのように上下し、駆動に合わせて筋肉のように滑らかに盛り上がる背中は呼吸しているようにすら見える。鋭い爪をカチカチと音を立てて遊ばせ、カメラアイの内部でギョロギョロと蠢く眼球がこちらを睥睨する。明らかに、設計段階からデルフィングとは異なっている。もっと純粋な、自らに仇なす存在を徹底的に破壊たらしめんとする“力”を求めた、巨大かつ強大な国家と国民による狂気の産物だった。
 
「ぁ……ぅ……」

 さしものイオも脂汗にまみれて毛筋を動かすことすら出来ない。300機と300人の兵士たちは震えながら己の運命を呪った。一分前の自分たちの余裕綽々な態度を後悔した。なんとか自分だけでも生き残って家族の元へ帰りたい。彼らは必死に願うが、真紅のゴゥレムはそれすら許さなかった。

『ああ、そうだ。“たった一機”で、戦うつもりさ。“たった一機”で、十分だからだ。お前らは、どうなんだ?』

 今度は、ライガットが嘲笑う番だった。運命はひっくり返ったのだ。勝者と敗者は入れ替わったのだ。そうさせた機体の名は『ベイオウルフ』。メイド・イン・アメリカの戦略機動兵器である。

せっかくバーサーカー最新話試作(更新6/30) 

未分類

(前書き)

ガウェイン「マッシュ、マッシュ、マッシュ。なんでも潰せば食べられマッシュ~♪さあ、聖王の兵士たちよ、栄養たっぷり万能食材のポテトを食べるのです!」
兵士「………」
兵士「………」
兵士「……うっす」
ガウェイン「ほらほら、お代わりはまだまだありますよ!おお、陛下、ちょうどいいところに!さあ、アーサー王陛下もどうぞ!」
アルトリア「…‥‥うっす」

(前書き終わり)



「はふ、はぐ、はふっ!はふっ!」

 頬張る。ただひたすらに頬張る。入らない、ではない。入れる。気道に混入する危険も考えず、がむしゃらに掻っ込む。二本一対の棒───箸というアジアの食器───を器用に使いながら、口腔の容量限界など知らぬとばかりに次から次に大口を開けて眼前の料理を放り込む。そして全身全霊の力をその細い顎にこめて無我夢中で咀嚼する。舌を懸命に動かし、その表面の味蕾を余すところなく働かせ、分析器にかけるが如く、構成する食材の一片に至るまで味わう。前歯、奥歯、犬歯、すべての歯を使って感触を楽しむ。粒のそろった小ぶりの白い歯が裁断機のように音を立ててガッツガッツと噛み合わされる。柔らかいものはホロホロになるくらいにとことんまで柔らかく、硬いものは適度な歯ごたえを感じられるよう絶妙に調理されたそれらを、力を込めて、心を込めて、丁寧に満遍なく味わう。

「おい、セイバー」

 居並ぶ料理皿の上を箸が迷うことはない。それは、彼女が時代も場所も違う遥か極東のマナーを諳んじているからではなく、本能が次の獲物をすでに定め、肉体を真っすぐに突き動かしているからだ。剣を振るうが如く箸を躍らせ、美しい金髪を振り乱し、まるでご馳走を前にしたがんぜない子供のように目を輝かせてもっしゃもっしゃと頬を膨らませる。その様子は金獅子というより、さながらゴールデンハムスターである。ワクワクと心を躍らせながら、目の前の調理法どころか料理名すら知らぬ未知のそれを大きめの一口サイズに切り分ける。サクッと表面の衣が小気味の良い音を立てて割れ、中からほわほわ~っと熱々の湯気が立ち昇る。香辛料、おそらく胡椒をまぶした牛肉と豚肉の匂い。だが、そこに油っぽさは微塵もない。彼女の鋭敏な嗅覚は、瞬時にナツメグの種子の香りを嗅ぎ分けた。これが挽肉の油っぽい臭みを打ち消し、逆にその風味を増幅しているに違いない。さらに、その嗅覚は、赤みを残した肉汁から染み出すタマネギの甘く香ばしい匂いに混じって│葡萄酒<ワイン>特有の芳醇なコクも察知した。

「セイバー、おい、セイバー。僕の声が聞こえないのか」

 なんということだ、どれだけ隠し味を埋め込めば気が済むというのだ。口に運ぶ前からその味を想像してゴクリと喉が鳴る。鼻孔が大きく開き、食欲を誘う塩気、そしてどこか懐かしい、食べたことのある食材の匂いを肺いっぱいに受け入れる。しかし、正体がわからない。なんだ、このワクワク感は。まるで宝探しをしているようではないか。彼女はハッと悟った。これは、彼女の生きた時代と彼女が興した王国の原始的な調理技術では到達し得なかった、│高み<・・>なのだ。言ってみれば、宝だ。好奇心と食欲の権化と化した彼女は、その宝を勢いよく頬張る。

「セイバー!おい!」

 彼女の視界に、一群の白鳩が羽音を響かせて空を舞った。それは幻覚だった。美味という、生命が求める最上級の喜びを知覚した脳があまりの情報量を処理しきれずに見せた、至福の象徴だった。顎を上げ、「ほう」と吐息を漏らして口腔内の熱を冷やす。その切れ長の目尻からつうっと頬を伝い落ちたのは、一筋の涙。その涙は止まることを知らず、清流のようにとうとうと流れ続けた。彼女は、感動していた。外はカリカリ、中はふっくら。言葉で言うのは簡単だろうが、バランスを取るのは至難の業だ。この料理は、それを見事に実現している。まるで職人によって作られた業物のようだ。この一つ一つが、この世に二つと無い至宝なのだ。ふるふると身体を震わせながら、隣に座る己の主人のことなど意識外に放り出して、ひと噛みひと噛みを大切に楽しむ。
 そんな彼女を前に、食卓を隔てて正面にいる男が口端を少しだけ引き攣らせて問いかける。

「……口に合っているようで何よりだよ、セイバー殿。それを食されたことは?」
「いいえ。我が王国ではこのような美食は存在しなかった。バーサーカーのマスター、この素晴らしい料理はなんという名なのですか?」
「僕のことは無視か」
「コロッケ、というものだ」
「“ころっけ”……コロッケという料理なのですか。して、これはどのように作るのですか?」
「ああいいよコロッケだよそうそうコロッケ。どうぞ気が済むまで食べてくれ。僕の分も欲しけりゃやるよ」
「ああ、そうだ。牛肉と豚肉のミンチ肉と玉ねぎ、そしてジャガイモを混ぜて油で揚げたものだ」
「ジャガイモ!!そうか、ジャガイモだったのですね!!」
「はいはいジャガイモジャガイモ。ああ、僕のサーヴァントがこんな食いしん坊だったとは」

 呆れ顔で手を振る主人のことはやはり意識に入らない。彼女の脳裏に浮かんでいるのは、かつての王国での食事風景だ。彼女が王として生きた時代、その食事水準はとても酷かった。今でも酷いが、輪をかけて酷かった。もしもここに未来の赤い弓兵がいたならば、「500人のカウボーイの投げ輪に首を絞め上げられて吐き出したゲロのほうがまだマシだな」、と吐き捨てたに違いない。実際、彼女もそう思い始めていた。この料理に比べれば、かつて自分が食べていた料理など、料理とは呼べない。ゲロだ。ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ。誇り高い王国だという自負は揺るがねど、食事のレベルはライダーやアーチャーの王国の方が上だったに違いない。そもそも、彼女の王国も、その後にそこに発生した国家も、料理に関しては無頓着だった。食材の下処理などしない。臭みを消す?なにそれ。野菜を水に通すなんてこともない。火が通ればよし。味付けは塩のみ。これである。異様に硬く味気ない、むしろ何故か酸っぱいライ麦のパン、肉はそこらの山に放牧している豚や飛んでいた鳩、釣ってから日にちが経過したニシンの塩漬けや燻製、そこらの川から捕まえた亀肉のスープ、そして種類と量と栄養素に乏しいカッスカスの野菜。白パンを食べたいが手に入らない時は見栄を張るためにライ麦パンに石灰を混ぜてこれみよがしに食べたりする始末。特に野菜が育たなかったのには頭を悩ませた。ようやく戦争を終わらせて王国を統一しても、みんな飢えていた。気候風土が極度に痩せていて野菜づくりに適していないのだから仕方がないのだが、まともに育つのは豆と、そしてジャガイモだった。ジャガイモには多くの民の命を救われた。よく育つし、栄養豊富で、その栄養素は加熱に耐えるのでとにかく育てて食べまくった。しかし、食べ過ぎた。もう飽き飽きだった。「マッシュ、マッシュ、なんでも潰せば食べられマッシュ、はいドーン!」、これである。あのポテトゴリラめ、なにが忠臣だ。今まで差し入れといえばポテトばっかりだった。なんだか無性に腹が立ってきたぞ。


(つづく)


輝けケアキュア☆紫陽花の季節 3話を更新しました & 4話試作 

未分類

タイトル通りです。4話も早めに更新すべく頑張ります!




 さらに数日後。内面の著しい変化を除き、ルキナはほぼ完全に回復を遂げた。以前は少年だったルキナからしてみれば、少女そのものの肉体は柔らかくて細くていかにも頼りないものに感じられたが、それでも以前に比べれば格段にマシになった。血色の良くなった頬はほのかにピンクに染まり、白肌はマシュマロのようにしっとりとして張りのある質感を湛えて、体力の復調を主張している。その様子を見て、青年は嬉しそうに頷いた。ルキナを|描《えが》く準備が整ったのだ。

 青年は穏やかな秋晴れの日を選んだ。窓辺から余計な物をすべて取り除き、丁寧にノリを効かせた真っ白なカーテンのみを背景に、ルキナを小さな椅子に腰掛けさせた。そうすると今度は、だらしのない猫背気味の背筋をピンと凛々しく伸ばすように指示した。まるでマネキンをポージングするように、ピタリと足先までくっつけた脚を柳のようにさらりと斜めに流して長い脚を強調させると、青年の絵画雑誌で見た“モナリザ”のように身体の中心線を正面から少し斜めにさせ、最後に臍の下でそっと手を重ねさせた。青年のテキパキした注文に従ってポーズをとってみると、見た目の少女の姿によく似合うものとなっていた。ルキナはその姿勢に言いようのない恥ずかしさを覚えた。「このポーズのままだと本当に女になってしまったみたいだ」とムズムズした不安まで覚え始めて、焦ったルキナは体勢を変えようと身じろぎした。

「動いちゃダメだ。じっとして」

 しかし、青年のいつにない鋭い声に制止され、思わず動きを止めた。ムッとして抗議の視線を送ろうと青年に目を向けた途端、キャンバス越しにこちらを見つめる真剣な目にギョッと気圧され、鋭い八重歯が唇の内側に引っ込んだ。
 青年は、まるで憤怒しているように目を据わらせ、時おり目尻と鼻にギュッと皺を寄せながら、ルキナの髪の毛一本の|そよぎ《・・・》さえ見逃さまいとギラギラした眼差しをぶつけてきた。肉体の表面だけでなく、重く厚い花弁をこじ開けて内面までも如実に描き出そうとするかのようだ。鬼気迫るその様子に、「これが芸術家なのか」とルキナは驚いた。対象の美を、表面上だけではなく本質に至るまで分析し、キャンパスに描き出そうとしている。その無遠慮ですらある目つきは普段の柔らかな雰囲気とは別人のように違って、どこか“男らしさ”すら感じさせた。

「……うん、わかった」

 渋々、というより条件反射のような返事をして、ルキナは再び佇まいを正した。ややもすれば「わかりました」と言ってしまいそうなほど、軽々しく抵抗できない迫力があった。一瞬で終わるはずの記念撮影のポーズを延々とさせられているような感覚に、ルキナは早くも疲れ果てそうになった。

 ……だが、しばらくすると、同じ姿勢を続けることにも慣れてきた。より正確に言えば───|好きになっていた《・・・・・・・》|。
 涼し気な風になびく真っ白なカーテンが背をさわりとなぞる。羽根布団に包み込まれるような秋晴れの陽が暖かい。描画に没入した青年は一言も声を発さず、どちらがモデルかわからないほどに座ったまま、首と手だけを別の生き物であるかのように俊敏に踊らせている。

(なに、この感覚)

 しゅっと鉛筆がキャンバスをなぞるたび、胸の内側に指をねじ込まれるような言いようのないゾクッとした感覚が背筋を走った。甘美な痺れが耳と頬を紅潮させ、そして下半身の熱溜まりにストンと落ちていく。下っ腹の深いところがぐつぐつと熱かった。まるで、スプーンで底をかき混ぜられるカップココアになったみたいだった。身体の奥の奥までカツカツと音を立てて引っ掻き回されるような甘い快楽にクラクラとした目眩すら覚える。意識がぼんやりと遠のき、火照った肉体がとろかされてしまいそうな錯覚に朦朧とする。「もうやめて」と泣き出したいのに、「もっとして欲しい」と懇願する自分がそれを留める。いつの間にか、すでに抵抗など考えられないほどまでルキナは追い詰められていた。

(なにこれ。なにこれ。どうにか、なりそう)

 ルキナは|描かれる《・・・・》|という行為に溺れてしまいそうだった。気付くのが遅かった。|描かれる《・・・・》|とは|支配される《・・・・・》|と同義なのだ、と今になってわかった。その瞬間、自分という肉体も精神も、彼だけのモノにされてしまう。モデルになるということは、つまり、身体も心も他人に差し出し、自由にさせてしまうということなのだ。青年の絵画雑誌で見てきた肖像画のモデルたちも、みんな同じような感覚に溺れていたのだろうか。
 青年の視線と自分の視線が結び合い、潮に流されるように惹き込まれていく。激しい奔流に呑まれ、あっぷあっぷと喘いでいるのに、ルキナはこの状況に熱中していた。青年という濁流が渦を巻いてルキナの華奢な心と体を翻弄する。遠慮もなく内側まで侵入され、覗きこまれ、指先で削るように引っかかれる。節くれだった力強い男の指が何かを探すような手付きでグリグリと内側をまさぐり、探し当てた部分を円を描くような仕草で刺激する。そのたびに、鐘を打つように頭の内側が痺れ、燃える血は逆流し、ジンジンとした昂ぶりが全身の末端まで広がる。それが不快なのかそうでないのか、判断する理性はとっくに押し流されてしまった。
 心と心が絡み、繋がり合い、まぐわっている感覚に押し包まれる。1秒1秒が永遠のようで、その無窮の感覚を青年と共有している気がした。呼吸までも同調しているような一体感が二人の間に流れている。寂しい者同士、お互いの孤独を慰め合っているのでは無い。断じて違う。お互いに求め合っている、お互いに|高め合っている《・・・・・・・》|という根拠のない確信すら、心の晴れ間に垣間見せられた。



「───君は、モデルの才能もあるんだね」



 その一言を掛けられて、ルキナは背後で日が暮れかけていることにようやく気がついた。夢中になっていたのは青年だけでなく、むしろ我を忘れていたのは自分の方だった。そのことに気づいて、ルキナは途端に顔を真っ赤に染めた。分けもわからず手足を振り乱してベッドに飛び込み、「疲れた」と言い放つとそのままシーツを頭からすっぽりと被って青年から隠れた。耳たぶが霜焼けでもしたようにカッカと熱い。顔が赤いのは夕日の反射だと都合よく勘違いしてもらえただろうか。先ほどまで、青年に描かれることにうっとりと陶酔していた自分を思い出し、さらに熱が増す。とてもではないが、今は顔を合わせられない。

「ゴメン、疲れさせちゃったよね。つい描くことに没頭してしまった。普段は花や景色を描いているから、人物画の加減がわからなかったんだ。大丈夫かい?」

 ルキナのベッドダイブを誤解した青年が申し訳なさそうに頬を掻く。こちらの様子を心配そうに伺う視線をシーツ越しに感じる。その雰囲気はさっきまでの芸術家然としたものとは打って変わって優しげで険がない。本当に別人のようだ。どちらが青年の本性なのだろう。両方なのだろうか。

「……だいじょうぶ」

 呂律が回らない舌を懸命に動かす。全身の筋肉が茹で上がって弛緩してしまったようだ。こんな醜態を晒す自分が情けなくなり、チラチラと沸き起こった怒りが青年にも向けられていく。「もう二度とモデルなんてしてやるもんか」。そう言い放ってやるためにルキナはぐっと膝に力を入れて、

「でも、ほら。これを見てくれないか」
「……?」

 誇らしげな青年の声に、シーツから顔を覗かせた。

「こんなに、素敵な女の子を描けたよ」

 それが、たった今描かれたばかりなどということは、何かの冗談だとしか思えなかった。まだ鉛筆を使っただけの下書きのくせに、まるでフェルメールの“真珠の耳飾りの少女”とか、ルノワールの“少女イレーヌ”とか、そういう名作に通じるような目と心を釘付けにして離さない強烈な存在感を放っていた。愛おしそうにそっと微笑み、頬をほんのりと紅色に染めたその絵画は、一目見て、心のうちに“恋する少女”というタイトルを連想させた。それが自分をモデルにして描かれたものだと理解するのに、ルキナはたっぷり数分を要した。

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どもども。主(ぬし)です。駄文書きです。趣味は映画と小説とニコニコ動画です。灼眼のシャナやFate/zeroのSSなどを書いてます。小説の小ネタや、短編SS、映画のレビューやちょっとした雑記などを掲載していこうと思います。

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