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白銀の討ち手

己の妄想をネットという広大な海へ送り出すことに若干躊躇いつつも実行してみるブログ。現在は『白銀の討ち手』という灼眼のシャナの二次小説をarcadiaさんにて執筆中。

【ブリジットという名の少女】 Her name is Charis!! 一覧まとめ 【三次創作】 

Her name is Charis! !

 漫画『ガンスリンガー・ガール』の二次創作小説『ブリジットという名の少女』の三次創作でございます。今までまとめを作ってなかったので、続きが完成間近なこのタイミングで一覧をまとめた記事を作成しました。余裕がある時に作っておかないと。
 この拙作は、僕が『ブリジットという名の少女』を読んで深く感銘を受けた結果、ただただ「ブリジットを救いたい!」という情念に突き動かされてハイテンションのままに書いたものです。事後承諾にはなりましたが、作者様であるH&Kさんには許可も頂けました。その懐の広さに感謝です。ああ、H&Kさん。貴方と直にあっていっぱいお話をお伺いしたいです……。
 偉大なるH&Kの作品には完成度もストーリーも伏線も何もかもが遠く及ばないですが、もしも、ブリジットの物語にIFの世界を望まれる方がおられましたら、読んで頂ければ幸いです。鬱クラッシャーとTS娘の融合作品、ぜひご堪能くだしあ!






<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1
外伝 後編その2
外伝 後編その3
外伝 後編その4

<名状しがたいオマケ的な何か>

ちょっとしたコネタ
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ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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【もうすぐ完成】2-15 ようこそ間桐邸へ 【更新間近!】 

未分類

(前書き)
【1500年ほど前】

ガウェイン「マッシュ、マッシュ、マッシュ。なんでも潰せば食べられマッシュ~♪さあ、聖王の兵士たちよ、栄養たっぷり万能食材のポテトを食べるのです!ポテト、イズ、パワー!パワー、イズ、ポテト!」
兵士「………」
兵士「………」
兵士「……うっす」
ガウェイン「ほらほら、お代わりはまだまだありますよ!おお、陛下、ちょうどいいところに!さあ、アーサー王陛下もどうぞ!」
アルトリア「…‥‥うっす」
ガウェイン「へ、陛下!?」


【現代】

アイリスフィール「セイバー、差し入れの料理を作ってみたの。よかったら食べてくれないかしら?」
セイバー「ええ、もちろん遠慮なく頂きます。いったいどんな料理なんですか?」
アイリスフィール「じゃ~ん!『そのまんまジャガイモ』!電子レンジっていう便利な機械でバターと一緒に温めて完成なの!はいドーン!」
セイバー「………うっす」
アイリスフィール「せ、セイバー!?」

(前書き終わり)



‡切嗣サイド‡

『さあ、衛宮 切嗣! そしてセイバーのサーヴァント! 我が間桐邸に貴方方を招待しよう!!』



 この台詞の意味は、聖杯戦争に参加するマスターとサーヴァントにはまず信じがたいものだ。サーヴァントとは、魔術師にとって、言うなれば“核爆弾”にも等しい切り札だ。人間の手が及ぶべくもない領域の強大な“力”そのものだ。そして、魔術師にとって先祖代々の研究成果を収めた魔術工房を擁する本拠地は、何よりも───時には自分自身の命よりも大事な門外不出の家宝を抱く聖地だ。そこに敵対する魔術師を、しかもサーヴァントを伴っての立ち入りを許すなど、ホワイトハウスの真ん前のポトマック川に敵国の核原潜を招き入れるようなもので、狂気の沙汰といっても過言ではない。
 だが、間桐雁夜はそれを良しとした。衛宮切嗣は、その誘いを試練として受け入れた。

 サイボーグ魔蟲から発せられた大胆不敵な一言が言峰教会に響いた、わずか30分後。突然の協議場所の変更に戸惑う言峰璃正神父の制止を無視して車に飛び乗った切嗣とセイバーは、間桐邸の重厚な鉄製の正門前に混然とした面持ちで立ち尽くしていた。二人とも夜の寒空の下で微動だにしない。決して彼らが怖気づいたわけではない。邸宅の|変貌《・・》に、呆気にとられたのだ。
 優秀な魔術師であると同時に練達の兵士でもある切嗣は、当然、間桐邸について事前にリサーチをしていた。おびただしい数の魔蟲が蔓延る百鬼夜行を絵に描いたような魔の屋敷を、徹底的に、そのおおまかな内部構造までもあらゆる手段を講じて調査していた。しかし、それは無駄だったことが今わかった。聖杯戦争が始まってわずか数日のうちに、この屋敷の印象は180度の転換を迎えていたからだ。

「……切嗣、あれは?」
「……お馬さん、だ」
「……では、あれは?」
「……ゾウさん、だ」

 鬱蒼としていた広大な庭の闇林は、ファンシーな動物園へと変身していた。目も覚めるような明るさの半月の下、誇らしげに生い茂る菩提樹とブナの木は、一流の庭師の職人芸によって実物大の動物を象っている。さわさわと葉々が風に揺れ動く様子は、それぞれの動物の息遣いのようだ。まるで夜のサファリパークに迷い込んだごとき錯覚に目眩がする。塀の外にまで溢れ出していたであろう木の房は高い技術によって丁寧に刈り込まれ、ひょいと何の気なしに塀の外に顔を出したキリンの首そっくりとなって見上げるものを驚かせ、楽しませている。通行人の足を止めさせ、思わず目を輝かせ胸を高鳴らせるような効果と魅力に満ちていた。

(……だが、甘く見るなよ、間桐雁夜。僕の目は誤魔化せないぞ)

 切嗣は訓練の行き届いた目で庭内を注意深く見回した。キリンの目、お馬さんの耳、ゾウさんの鼻。其処此処に、機械的な赤外線の光が透けて見えた。高性能|赤外線監視《インフレア》カメラ、|光探知測距《ライダー》センサー。どれも、切嗣が郊外のアインツベルン城に設置して、ライダーの闖入と同時に破壊され行方不明になったものと同クラスの最新品だった。設計図から抜け出てきたような革新的かつコンパクトなデザインのそれらは、とても民間で手に入るようなものではなく、大国の最重要機密区画に備えられるような最高級品だ。一級品の監視装置群は計算され尽くした角度で持って侵入者を感知しようと目を光らせている。切嗣は、この邸宅の主が自分と同じ知識とコネを持っていることを悟り、彼への評価と脅威度をまた1ランク上げた。

「ッ!切嗣!」
「ああ……わかっている」

 二人の目の前で、突如正門が胸を開いた。隣近所に迷惑をかけない程度の│機械《モーター》音を唸らせ、魔術ではなく機械じかけの門が二人を招じ入れる。この些細なことにも切嗣は驚かされた。大半の魔術師は機械を好まない。間桐家の当主、間桐臓硯のような旧弊の魔術師なら尚更だ。しかし、彼が牛耳っていると思っていた間桐邸にはこの通り立派な機械設備が備わっている。このことから、間桐雁夜の権限は、一族の長である間桐臓硯を上回っている可能性が導き出された。
 思考を高速回転させながらも注意が散漫になることはない。切嗣が見守る中、セイバーがたっぷり1秒かけて周囲をくまなく索敵し、やがて小さい頷きを向けた。「敵意は感じない」と伝えたのだ。目線で了解の意を応え、そのままセイバーを先導させる。バーサーカーを同じ騎士として信頼するセイバーだが、やはりここは敵の陣地。そして背後には主君を護っているとあって、セイバーは緊張の面持ちを隠さなかった。彼女は全方向に対してその警戒能力を全力で張り巡らせながら慎重に一歩ずつ前進する。やがて10歩も歩いたところで、自分たちに向けられる殺気が一つも生じないことを悟った。むしろ、殺気とは正反対の景色がいっぱいに広がっていて、セイバーは思わず「わあ」と子供のような声を漏らして目を輝かせたあと、「来ていいですよ。見たほうがいいですよ」と手をちょいちょいと振って切嗣を誘った。「なにが“わあ”だ。戦争ナメてんのか」。愚痴を飲み込むと同時に喉をゴクリと鳴らし、切嗣はその誘いに応じて、間桐雁夜の領域に一歩足を踏み入れた。

「わあ……」

 一週間前、エージェントを雇って密かに撮らせた写真では、間桐邸はおどろおどろしく、いかにも化け物屋敷のような悪印象の塊だった。年月を経て放置された屋敷は全体的に寂びれて、整然さとは無縁で、人が住んでいるかも怪しい幽霊屋敷のような雰囲気だった。
 だが、今、目の前にそびえる屋敷はそれとはまったく異なる。伸び切って闇のような影を作っていた蔦や茨は綺麗サッパリ取り除かれ、すり減って崩れ落ちた屋根瓦は新しい瓦に葺き替えられている。樹脂製の軽くて丈夫な瓦は、間桐家のシンボルカラーである藍色。磨き上げられた瓦の表面に星空が映り込んでいて、まるで夜空を王冠にしているようだ。長年の風雪によって汚れ果てていた外壁は高圧洗浄機で隅々まで洗われたらしく、建造当初の新築に戻ったかのように清々しい。窓枠の錆やサッシにこびりついたカビまで丹念に磨き除かれて、鋳型から取り出された日そのままのような光沢を放っている。足元では真珠のような白砂利を満遍なく敷き詰めた小道が、純白の天の川のように緩やかに蛇行しながら間桐邸の正面扉へと繋がっている。

「我が首都ログレスのキャメロット城とまでは行きませんが、自然豊かなウェールズのモンマス城に匹敵する邸宅です。あらん限りの贅を尽くした豪邸とは正反対の、なんとも穏やかな構えをしている。まさか東の最果ての国でこのような立派な小城を見るとは思いませんでした」

 小城、まさに小城だ。全体の印象は、まるで草深い森の中心に建てられた手入れの行き届いた小城を連想させた。城を囲う青々とした庭園にはくっきりした月光が降り注ぎ、ふさふさと柔らかそうな芝生を照らしている。星明かりという贅沢な照明を最大限利用するように、箱庭の木々の配置には工夫が凝らされているらしい。豊かな森のミニチュアのような箱庭は、大自然そのままの緑の甘い香りが満ち満ちている。すっと鼻から息を吸い込めば、煌めくほど新鮮で爽やかな空気が肺腑を満たしてくれた。日が落ちる前に刈り込まれたばかりに違いない。青々とした芝生の断面からは、草刈り後の土手で匂うような、瑞々しい緑の匂いが湯気のごとく立ち昇っている。好奇心に背を押されて芝生をそっと踏んでみる。なんとくるぶしまで沈み込んで、その意外なまでの柔らかさと深さにドキリとさせられた。芝生の底には日光の名残がほんのりと漂っていて、手で触れればさぞや心地良いだろう。何より驚かされるのが、その刈り込み技術だ。神業と言って過言はない。広大な庭を埋め尽くす芝生はまるで一枚物の巨大な絨毯のようにきわめて均一に整えられ、ほんのわずかな凹凸も見当たらない。際限ない富を誇るアインツベルンの本城でもここまで精緻に揃えられてはいない。
 意識を宙に向けてみる。鼓膜を揺らす葉擦れの音は耳に優しく、気を抜けば目を閉じ両腕を広げて寛ぎたくなる。聖杯戦争が始まってから……いや、アリマゴ島での事件から安らぐことのなかった精神がマッサージされているかのようだ。思わず脱力して背中から芝生のベッドに寝転がりたくなる衝動がじわりと頭をもたげるのを知覚し、切嗣は内心で自身を厳しくたしなめた。今は戦争中、そしてここは、未だ敵とも味方とも決めかねる相手の陣地なのだ。気を抜いて寝転がるなんてありえない。

「……セイバー、起きろ」
「はっ!?わ、私はいつのまに寝転んで……!?」

 芝生の上で子獅子のように丸まっていたセイバーが驚愕して飛び上がった。ありえない。マジで。
 頬を染めて「いや申し訳ない私としたことが」と後ろ頭を掻くセイバーを尻目に、邸宅のエントランスへの歩を再開する。しかし、セイバーがうたた寝してしまうのも頷ける。それくらい、この場所は居心地がよかった。そうだ、ここにイリヤを連れてこられたら、どんなに喜ぶだろう。寒々しいドイツの森しか知らないあの娘をここに連れてきて、肩車をして、体力の限界まで走り回って遊んでやりたい。切嗣は朗らかな想像によって自然に綻びそうになった唇をあわやというタイミングで引き締めた。ここが未だ敵地ということを危うく忘れかけていたのだ。だが、切嗣にそうさせてしまうほどの見事さは素直に認めるべきだ。
 かつて自分の王国で城に住んでいたセイバーもその感想を抱いたらしく、「ほう」と感嘆のため息を漏らした。この屋敷の激変っぷりは、ただ間桐雁夜の清廉さを表しているだけに留まらない。間桐臓硯の時代が真の終わりを迎えたことの証でもある。間桐雁夜は、屋敷を一新することで|新しい時代の訪れ《・・・・・・・・》を目に見えるように表明しているのだ。

「敵ながらあっぱれ、と言ってよいのではないですか、切嗣」
「ああ……そうだな」

 邸宅のエントランスに繋がる砂利道を歩く二人の低い囁きが、庭園の静かな夜気にやんわりと吸い込まれる。冬の澄んだ空気はきりっと引き締まり、満点の星空の輝きを邪魔することなく庭に降り注がせてくれる。この間桐邸が住宅街のなかで一際高い丘に建っているせいか、他の家の照明が無粋な真似をすることはない。しかも星が近いことで、広い庭は照明いらずなほどに明るい。
 それに、どれほど腕のいい樹木医を雇ったら実現できるのか。この季節にも関わらず、栄養を湛えた太い木々の枝には緑の葉が生い茂り、枯れる気配は微塵もない。その根本では、キリギリスが梢を渡る風の囁きに混じってりーりーと優しげな音色を奏でて、来訪者を歓迎してくれる。切嗣もセイバーも知らないことだが、昆虫の中では珍しい、成虫のまま越冬するクビキリギリスが放し飼いにされていた。さすが、魔蟲を使役する間桐と言うべきか、この屋敷は昆虫全般にとって居心地がいいらしい。庭の一角にある小さな池には清涼な水が満ちて、チラチラと季節外れのホタルの光が浮かんでは消える。ホタルは水質が良くないと生きていけない、と耳にしたことがある切嗣は、よほど手入れが行き届いているのだろう感心した。やはり彼は知らないことだが、冬に成虫となって発光するイリオモテボタルという珍しいホタルだった。楽園のような環境のなか、ホタルたちは樹陰に置かれた一対のウッドチェアを止まり樹代わりにしながら空中で優雅な舞踏会を繰り広げている。その椅子に座って楽しそうに談笑するアイリスフィールとイリヤスフィールの様子を幻視し、切嗣の頬が見てもわからないほどに緩んだ。

「なに笑ってるんです?気持ち悪いですね」
「うるさいな」

 セイバーには気づかれた。照れ隠しで背けた視線の先には、丸太造りの小さな薪小屋がちょこんと鎮座している。邸宅内には暖炉があるらしい。小屋の前には薪雑把が整然とピラミッド型に積み上げられていて、古めかしいが頑丈そうな手押し車が隣で休憩している。

「おお、懐かしい。私の子どもの頃の家にも暖炉があったものです。従兄弟のキルッフとどちらが多く薪割りできるか競い合ったり。あのときは勝負前にキルッフのお茶に下剤代わりのアロエを混ぜてズルをしたものでした。ふふ、故郷のブリテンを思い出しますね。切嗣、勝負しませんか?」
「やらないよ。よくそれで聖剣に選ばれたな」
「私もそう思います」

 だが……たしかに、なんて牧歌的な風景なのだろう。遠い目で過去を懐かしむセイバーに当てられたのか、切嗣も不思議とノスタルジックな気分を味わっていた。薪割りは、アリマゴ島でシャーレイにコツを教えてもらいながら四苦八苦して覚えたものだ。ここは不思議な庭だ。気を抜けば、すぐに緊張がほぐされて、安らかなため息を漏らしてふかふかの芝生に腰を下ろしてしまいそうになる。その効果は絶大であると切嗣も認めざるを得なかった。どこにも敵意など無い。姑息な打算もない。監視装置は外から訪れる侵入者を厳重に見張ってはいるが、いざ庭に入ってみると一切見られている気配はない。ここに満ちているのは、ただひたすらの“優しさ”だけだ。この屋敷は住人の心の有り様を透かして見せていて、間桐雁夜への警戒心を秒を追うごとに削ってくる。
 犬ほどの大きさのムカデに似た魔蟲たちの姿も認められたが、ギクリとしたのは一瞬だった。その怖気のするような姿かたちとは異なり、教育が行き届いているのか振る舞いは非常に大人しく、統率がきっちりと取れている。訪問客に威圧感を与えないように最新の注意を払って身を隠しつつ、監視装置の死角を補うような念のいった配置で屋敷の中と外をしっかと見張っている。よく訓練されたボディガードの一団に守られているようで、脅威を感じるより、むしろ安心感が胸のうちに生じた。機械と魔術を巧みに使い分け、両者の長所と短所を把握し、一方の短所は一方の長所で埋め合わせる。そうすることで完璧な警戒態勢を極めて効率よく実現している。現代でここまで両者を有機的に運用できている魔術師は、世界広しと言えど間桐雁夜以外にはいるまい。切嗣は素直に感心し、「むう」と喉を唸らせた。

「ッ!切嗣!」
「なんだ、セイバー!?」

 玄関扉の直前まで来て、突然、セイバーが毛を逆立てて叫んだ。その声にただならぬ驚きを察知し、身体中の神経がまたたく間に引き締まり、腰のキャリコM950Aマシンピストルの|銃把《グリップ》にさっと手が伸びる。

「いい匂いがします!」
「知るかバーカ!!」

 引き抜いたキャリコを勢いそのままに感情に任せてぶん投げた。くるくるとブーメランの軌跡を描いたキャリコは偶然通りがかった芋虫型の魔蟲の鼻先を強打し、「キュッ!?」と悲鳴をあげさせた。他の魔蟲が「大丈夫?」と気遣うように寄り添うなか、キャリコを拾ったサソリ型の魔蟲が「困りますねお客さま」と言わんばかりの圧を放ちながら切嗣の手にそれを届けた。切嗣はペコリと申し訳無さそうに小さく頭を下げてキャリコを受け取り、そろそろとホルスターに戻す。そして再びセイバーを見やる。

「ッ!切嗣!」
「いい匂いがするんだろ!もういいよ!……あ、する」
「でしょう!?そうでしょう!?」

 鼻をすんすんと訊かせてみれば、セイバーの言が正しかったことがわかる。いい匂いなのだ。セイバーの興奮も頷けるほどに、なんとも食欲を誘う料理の匂いが屋敷から溢れてきている。もう深夜の0時を過ぎたというのに、いや逆に過ぎたからこそ、この“奇妙に小腹が空く時間帯”の腹には香辛料の効いた濃い味付けの匂いがなんとも突き刺さるのだ。精神力ではどうにもならない、肉体に生まれながら備わった食欲本能が胴体を駆けずり回る。



 複雑な彫刻が施された金属製のドアは
豪奢な羽目板
複雑な彫刻が施されたドア
歴史を感じさせる太い梁
くつろぎのなかにも優雅な晩餐の申し分ない雰囲気
非の打ち所のない邸宅


「美食を囲めば、人間は自然と打ち解け合えるものだ」



招じ入れた

「遅い夕食だが、付き合わないか」

自身に満ち溢れた声


(途中)

【すごい作品】『ジャッカルの日』を読んだ感想をどうしても伝えたかった。【永遠の名著】 

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 この作品を読み終わったのはかれこれ二ヶ月前なのだけど、誰かにこの面白さを伝えたかったのです。でもツイッターで書くと長々となりそうだったのでブログに書くことにしました。誰かにこの面白さを伝えられるといいな~。あ、多少のネタバレがあります。しかしながら、どうなるのか結末を知っていたとしても、この作品の面白さは微塵も揺らがないことを保証します。

 まず、この作品はけっこう古い。1971年に出版されました。出版されてからもうすぐ半世紀が経つわけです。でも、まったく古臭さ、時代遅れな感じを受けません。むしろ読み進めるごとに新しい時代を生きる上での教訓めいたものを与えてくれる。作者はフレデリック・フォーサイス。イギリス人の名作家で、この作品は彼の最初の作品です。彼は元空軍人で、後にジャーナリストとなって世界中を取材して回りました。この作品には、彼の軍人としての知識とジャーナリストとしての経験が詰まっています。作品は非常にリアルで、実際に起った史実や、存在した組織、人物が登場します。どこまでが真実で、どこからがフィクションか、わからなくなるほどです。実際、フレデリック・フォーサイス自身も「どこまでが作り話かは内緒」とボヤかしています。作品の出来も相まって、本当に起きた事件の暴露本のようにも思えてしまいます。

 ストーリーは、言ってみれば簡単で、『フランスのシャルル・ド・ゴール大統領を暗殺者“ジャッカル”から守れ』です。これを時系列を追うようにして物語が進んでいきます。僕が感心させられたのは、この“時系列を追っていく”過程の演出です。もう、神がかっています。誠に失礼ながら、大変失礼ながら、多くの方のお怒りを買うことを承知で言いますが、『ラノベとは格が違う』ことをまざまざと思い知らされました。小説を書くことにも技術力がいる、ということを痛感させられました。とてもじゃないですが、僕のようなド素人などフレデリック・フォーサイスの足元にも及ばぬどころか、細胞一片にすら遠く及ばないでしょう。遥かに高みを見せつけられた思いです。さて、皆さんの頭の中には「じゃあ、何がそんなにすごいの?」という当然の疑問が浮かんだと思います。僕のたどたどしい説明でわかっていただけると嬉しいです。

 まず、話は当時の世界情勢から始まります。第二次大戦がようやく終わり、ヨーロッパにも平穏が戻ってきていました。アメリカ、イギリスといった戦勝国は勝利気分を味わいながら、復興に勤しんでいます。そんななか、フランスだけは少し事情が異なりました。フランスは一度ドイツに負け、全領土を奪われ、それを他国の支援を受けて辛うじて取り返しました。海外にあった領地はフランスの敗戦と同時にことごとく独立し、なんとか維持しようとしたアルジェリアも手放さざるを得なくなっていました。フランスだけは、戦勝国のなかでも不安定の極みにありました。特にアルジェリアは、フランス軍人が大勢の死者を出しながら必死に領地として繋いでおこうとしていたために、手放すとなった時の軍人の反発はあまりに大きく、その内部に反政府の反乱組織が出来てしまうほどでした(この組織『OAS』は実際に存在しました)。この反乱組織こそ、暗殺者ジャッカルを雇った側です。一方の暗殺対象は、皆さんご存知、肝っ玉軍人シャルル・ド・ゴール大統領です。フランス人らしい、ひねくれ者で頑固者ですが、これと決めたら誰にも止められない不撓不屈のカリスマ指導者でした。当時、大わらわだったフランスをなんとか一つの国にまとめられるのは彼だけでした。本文中でも言われています。「アメリカは制度が整っている。イギリスは王家が君臨している。指導者を殺されても、国家の分裂を防ぐ機構が備わっている。しかし、フランスにはそれがない。シャルル・ド・ゴールを殺されたら、フランスは致命的なくさびを打たれてしまう」。反乱組織は、シャルル・ド・ゴール大統領さえ殺せばフランス政府がいとも容易く転覆することをよく知っていました。それに乗じてフランスを乗っ取ろうというわけです。そして、作品中でも、史実でも、彼らは何度となく自分たちの手でド・ゴール大統領を暗殺しようとして失敗しています。反乱組織には政府のスパイが多数潜んでいて、行動を起こす前に筒抜けになり、簡単に阻止されてしまうからです。暗殺失敗続きで国外に逃亡せざるを得なくなっていた反乱組織のリーダーは、「もはや後がない」と判断し、海外で活躍する凄腕の暗殺者を雇うことにします。それこそ、ジャッカルでした。ジャッカルは、おそらくイギリス人である、狙撃を得意とする、ということ以外にはまったくの謎の男です。紳士的で抜け目なく、顔面には微笑が刻まれていてもその内には冷酷無比な殺人者が潜んでいます。ジャッカルは、犯罪組織が自分を探していることを容易に察知し、その切羽詰まった状況を熟知した上で、シャルル・ド・ゴール大統領暗殺に50万ドルという破格の報酬を要求します(現在の価値で40億~50億円程度?)。反乱組織のリーダーは驚愕したものの、フランスを手に入れるという目的を果たすために了承します。ジャッカルはイギリスに帰省し、暗殺のための下準備を始めます。反乱組織は資金をかき集めても到底50万ドルに達しないと判断すると、苦肉の策として全国の銀行や宝石店の強盗を始めます。
 ここでようやく、フランス政府は反乱組織が何かを企んでいる、と察知します。この時点で、ジャッカルはすでに計画を立案し終えています。まだインターネットの“イ”の字も存在しておらず、鮮明なカラー写真も珍しく、それどころか電話すら交換手が取り次いでいた時代です。電話を繋ぐにも時間がかかり、国を跨いだ協力関係も薄い時代です。フランス政府は、反乱組織の企みが何なのか、まったくもって掴みあぐねていました。「反乱組織のリーダーたちが国外逃亡するために金を集めているのか?」という楽観視も出てくる始末でした。その間、極めて頭脳に長けたジャッカルはどんどん先行し、フランスへの侵入方法から暗殺用の極めて特殊なライフル、変装用の小道具、逃亡ルートまで着々と整えていきます。この手際の良さは、読んでいて非常に気持ちがよく、まるで自分が一流の暗殺者になったような気にさせられます。一方、フランス政府はここに来て反乱組織のリーダーのボディガードを捉える機会に恵まれました。ボディガードは政府側の非情極まる特殊部隊に、卑劣な罠に誘われて捕らえられてしまい、重症を負っているにもかかわらず目を覆いたくなるような非人道的な拷問を受けた末、死の間際に秘密を漏らします。ここで、フランス政府側も決して清廉潔白な人々の集まりでないことがわかり、ジャッカルの肩を少しだけ持つようになります。さて、この秘密を分析していたフランス政府は、ここに来てようやく、反乱組織が誰かを雇ったことを察知します。全国の銀行や宝石店を襲いに襲ってもまだ足りない額の報酬を払ってまで暗殺してほしい人物は、当時のフランスにはたった一人、シャルル・ド・ゴール大統領しかいませんでした。フランス政府は恐怖のどん底に突き落とされます。暗殺者はとっくの昔に雇われて動き出し、明日にでもド・ゴールを殺すかもしれないのに、彼らはまだ暗殺者の顔も名前も国籍も年齢も知らないからです。反乱組織のリーダーをひっ捕まえて暗殺方法を探ろうという案も出ましたが、そもそも反乱組織すら、ジャッカルから暗殺方法も暗殺の日時も聞かされていませんでした。「いつ、どこで、どうやって大統領を殺すのか」は、ジャッカルしか知らないのです。しかし、自分の暗殺計画を知らされたシャルル・ド・ゴール大統領は、過度な警備を拒絶します。「今の私はフランスの象徴である。フランスの象徴が、外国人暗殺者に怯えて家に引きこもるようなことがあってはならない。秘密裏に処理したまえ」。フランス政府は困りに困り果てます。ですが、事態は動き続けます。ジャッカルはすでに完璧な準備を終えてフランスに入国していたからです。当時、どこから誰が入国したかは、入国者が提出したカードを全国から一箇所に郵送して、その数万枚にも上るカードを人海戦術で一枚ずつチェックしていくというアナログの極み方式でした。しかも、ジャッカルは当然偽名を使っているでしょう。藁の中から針を探すようなもの、それ以上の難度の高い捜査を要求されることになります。事態をこれ以上なく重く見たフランス政府は、フランス警察のなかでもっとも優秀と称される叩き上げの警視を連れてきます。これがルベル警視、遅れて登場した今作のもう一人の主役です。彼の、地に足のついた地道な捜査と、汗臭いほどの執念が、驚異的な追い上げでもってジャッカルに追いすがります。颯爽と優雅に計画を進めていたジャッカルは、物語が進むごとにルベルに追いつかれていき、次第に余裕を失っていきます。まるで読者は、ウサギとカメの競争を俯瞰しているような気分にさせられます。作品の当初ではウサギがはるか先を先行していたのに、いつの間にかカメがその尻尾に食らいつこうとしているのです。ルベル警視は、頭脳と言うよりはむしろ蓄積された経験と人脈でジャッカルの正体を暴いていきます。イギリス人、狙撃手、金髪……限られた情報から、ジャッカルの特徴や行動パターンを割り出し、ついにその本名と正体まで暴いたルベルは、大急ぎで全国の警察官に周知します。
 それでも、ジャッカルはそのずば抜けた要領の良さと一見すると大変人のいい紳士的な振る舞い、あらゆる事態を想定した完璧な準備策、そして時には信じられないような奇策を用いて、読者をも欺きながら、警察の包囲網を次々とかいくぐり、シャルル・ド・ゴール大統領に接近していきます。ルベル警視がその影を踏もうとするたびに、用意周到なジャッカルはするりと逃げて、偽名を使い、変装をし、すんでのところで姿をくらませます。そして、ついに、暗殺の日がやってきます。舞台は、フランスの首都パリ。幾重にも敷いた重厚な警察の検問を飛び越えて、ついにジャッカルは首都に侵入したのです。その日は、シャルル・ド・ゴール大統領が戦争の功労者を称える、大事なイベントの日でした。ド・ゴール大統領は、フランス領土はフランス人が奪い返した、という意思を内外に示さんとして、暗殺者の危険を無視してでも衆目の前に立つことを選んだのです。そして、ジャッカルはその頑なな性格を見抜いていました。それはルベル警視も同じでした。「ジャッカルが大統領を暗殺するのは今日この場所において他ない」。ルベルはそう確信します。そのため、警察と軍隊を総動員して大統領に近づく者には老若男女関係なく厳しい持ち物チェックを行いますが、狙撃用ライフルを持った男など捕まえられません。イベントは粛々と進行し、ついに衆人の歓声があがるなか、シャルル・ド・ゴール大統領が壇上に登場します。ルベル警視は焦ります。暗殺の時が迫っていました。ここで小説の残りページもあとわずか数ページを残すのみです。指先に感じる、残りページの少なさに、読者も思わず焦らされます。「どうなっちゃうの!?どうなっちゃうの!?」、と。
 ここで、一人の青年兵士が、年老いた傷病軍人がパリの自宅に帰る場面に遭遇します。老人は、ボロボロになった軍服を着ており、片足がなく、金属フレームでできた松葉杖でびっこを引きながら、苦労してイベント会場の近くにあるアパートメントの階段を登っていきました。「あんな風にはなりたくないな」と青年兵士はため息をついて警備に戻ります。彼が見送った老軍人の部屋から、シャルル・ド・ゴール大統領がよく見えること、いえ、よく狙えることなど、知りもしないで。
 そして、最後の最後。ルベル警視は、ジャッカルは、相手の顔を初めて見ることになり───。

……という作品でした。自分が、この作品を、本編に登場する当事者としてではなく、物語として楽しめる読者であることに感謝します。読了後、緊張がほぐれて深々とため息を漏らしてしまいました。しかし、最後の最後の、そのまた最後に明かされた衝撃の事実には、ヒヤッとしたものも感じました。なぜなら、ジャッカルの正体は………。そこは、読んでからのお楽しみです。以上!!

【あと3行で完成】2-15 せっかくバーサーカー最新話試作(9/14更新) 【後もう少し!】 

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「友よ。わたしはあなたと共にあらゆる困難な道を歩んだ。
わたしを死後も思い起こし、忘れないでくれ。
わたしがあなたと共に歩み続けたことを。」
彼が夢を見たまさにその日、彼の力は終わりを告げた。
エンキドは横たわる。一日、二日とエンキドは彼の寝台に横たわる。
三日、四日と、彼は寝台に横たわる。
五、六、七日と、八、九、一〇日と、寝台に横たわる。
ギルガメシュは、花嫁のように友の顔を覆い、鷲のように友の周りを旋回し、
その仔を奪われた牝ライオンのように、前に後ろに慌てふためく。
悪鬼のように髪を掻きむしり、祭服を引き裂き投げ捨てる。
ギルガメシュの嘆きの声は止むことがない。
(中略)
お前のため、ウルクの人々を泣かせ、お前のため涙を流させよう。
誇り高い人々をお前のため悲しみで満たそう。
わたしはお前の死後、動物の毛皮をまとって荒野をさまようだろう。
ギルガメシュは、彼の友エンキドのために泣き、荒野をさまよった。
(月本昭男訳 メソポタミア神話 ギルガメシュ叙事詩 『エンキドの死』より抜粋)


『なぜ泣くのだ、エルキドゥよ。│今際《いまわ》の際になって、この│我《オレ》を│盟友《とも》としたことを後悔しているのか』

『違う、違うのだ、我が盟友よ。この僕の亡き後に、誰が君を理解するのだ?誰が君と共に歩むのだ?ギルガメッシュ、これより始まる君の孤独を偲べば、僕は泣かずにはいられないのだ』

『……エルキドゥ……』

『さらばだ、盟友よ、兄弟よ。人類の守護者、誇り高き半神半人の絶対者よ。本当は誰よりも優しく不器用な英雄よ。出来うるなら、僕を失ったあとの君に、新たな友を得る勇気が、湧かんこと、を……』

『待て、行くな。エルキドゥ、行くな!お前の他に友などいらぬ!我の頼みが聞けぬのか!頼む、行くな、我を独りにするな、頼む───……』


 世界の頂点に立つ至高の存在にして、神と人間の│間《あい》の子、ギルガメッシュ。世界最古の王であり、神の血を引く絶対者にも、人には言えない悩みがあった。│誇り《プライド》の塊のようなこの男だからこその悩み。矜持の源、自負心の根源、高貴にして絶対たる己の出自故の、悩み。

 それは、“孤独”だった。世界でただ一人、自分と肩を並べることの出来た友を失った孤独。もはや永遠に、真の理解者を得られることはなくなったという、孤独。神とも寄り添えず、人間とも馴れ合うことの出来ない、半神半人故の孤独。彼は、孤高の王にして、天涯孤独の男だった。

 


‡綺礼サイド‡


「綺礼よ。貴様、友はいるのか? いや、そんな問いかけも無粋だろう。お前などにはおるまいて。ふはん。見るからに根暗そうではないか。│我《オレ》にはいたがな。我には。一人だけど。ふはん。でもいたことには違いないし。ほら、我って少数精鋭派だし?一人だったけど」


 綺礼の返答も聞かず、嘲りに鼻を鳴らしながら聞いてもいないことを早口ムーヴでまくしたてる。長口上を一息で吐き出し終えると、ギルガメッシュは自前の黄金の盃になみなみと注がれた綺礼の高価な酒をぐっと煽り、一気に酒盃を乾してしまった。質素なあずき色の座布団にどっかと胡座をかいて酒をかっ食らう様子に、綺礼の脳裏に“やけ酒”という比喩が浮かんだが、敢えて口には出さなかった。黙したまま、斜交いに座る男の盃にふたたび秘蔵の酒『神殺し(代行者としての給料の6ヵ月分に相当する価値のある日本酒。ボーナスなら1回分)』を注いでやる。


「……そう、│かつて《・・・》は、│いた《・・》のだ」


 とくとくと小気味よい音を立てる酒瓶を、真紅の瞳が物憂げに見つめる。高雅な覇気に満ちてギラついていた真紅の虹彩が、今は落日の夕日のように寂しげに淀んでいた。波打つ黄金細工のようであった金髪は金褐色に色落ちし、あれほどそびやかしていた肩も項垂れ、見るからに自信を喪失している。わずかな│瑕瑾《かきん》もない美顔には拭い難い陰翳が忍び込んでいて、綺礼はその理由に心当たりがあった。



『なあ、アーチャー。貴様、友だち少ないだろう』



 ライダー、セイバーと酒を酌み交わした際、“空気を読む?なにそれ美味しいの?”と言わんばかりのアホ毛貧乳セイバーによって放たれた無遠慮かつ無神経なセリフが彼の胸をざっくりと貫いたのだ。これはギルガメッシュにとって図星も図星だったのだろう。あるいは、もっと切実なトラウマを貫いてしまったのか。


「……そも、│盟友《とも》とは、なんなのだろうな


 この不遜な男には似合わない、砂粒のようなか細い声に驚く。それは綺礼への問いかけなのか。それとも、己への自問なのか。きっと両者だろう。綺礼はこの男についての伝説を暗唱できるほどに頭に叩き込んでいた。彼のただならぬ鬱屈を理解するために、その記憶を引き出し、脳内で諳んじてみる。

 世界最古にして全ての偉大な文明の祖、シュメール王朝。その始まりであるウルク第1王朝を支配した大王。彼こそ、人類最古の英雄譚の一つとされる『ギルガメシュ叙事詩』の主人公、ギルガメッシュ大王その人である。その神性は圧倒的で、あらゆる生命のなかでもっとも神に近い。なぜなら、その完璧な肉体のなかには神と人間が両在しているからだ。その血の3分の2を太陽神と知恵の神から授けられ、人間の│胎《はら》から生まれた、半神半人の賢王。彼は、神々からの恩恵によって最強にして最高の肉体を与えられ、この世に生を受けた時から永遠の王となることを約束されていた。誰よりも、何よりも強く気高い勇者だった。民草の羨望と畏怖、尊敬と畏敬を一身に背負い束ねる、古代世界の栄光と繁栄の象徴。彼の治世は125年もの間、│燧石《すいせき》の如き揺るぎなさを断固として維持し、あとに続く無数の文明の基礎を築いた。間違いなく、彼は比肩しうる者のいない英雄のなかの英雄だ。彼は不撓不屈の勇気でもって、悪意を持って立ち塞がる者たちをなぎ倒し、民草を護り続けた。

 だが、彼の伝説には一つだけ、大きな悲劇の傷が刻まれている。かけがえのないものを失うことの恐怖を植え付け、英雄王の生き様を大きく変質させてしまった傷が、今もこの男を苦しめている。


「……ライダーめの宝具を見て、我は考えてしまった。いや、│羨んで《・・・》しまったのだ」

「解せないな。お前ほどの無限にして最高の財を有する者が、ライダーのいったい何を羨んだのだ?何を欲するようにさせたのだ?」


 “何を”ではなく、“誰を”と問うべきだったのだろう。新たに注がれた酒に口をつけず、盃の│水面《みなも》に映る己の顔をじっと見下ろす。その瞳が潤んでいるように見えるのは錯覚だろうか。そこに内省的な暗い色さえ差し始めたのを見て、綺礼はギョッとした。確実にわかるのは、その瞳に映っているのは自分ではなく、すでに失ってしまった│誰か《・・》の顔ということだ。


「───呼べばどこにだって駆けつけてくれる、友をだ」


 まるで寄る辺をなくした子供のような寂しげな表情と口調で、ギルガメッシュはそう呟いた。その横顔に深い悲しみの気配が広がっていくのを見て、綺礼の心にまで鋭い痛みが走る。世界に名声赫々たる大英雄がこんな表情を見せるなど、信じかねた。

 ギルガメシュ叙事詩に少しでも知識のある者なら、彼の友と呼べた登場人物はただ一人だと断言できる。ギルガメッシュの唯一にして無二の盟友、エルキドゥ。強大なギルガメッシュに対する抑止力として神々が泥から創造した、いわば│神《・》造人間だ。当初、ギルガメッシュは刺客として現れたエルキドゥを敵と認識し、死闘を演じた。烈火のごとき戦いの果てに両者は互いの実力を認め、肝胆相照らす仲となり、厚い友誼を結ぶ。その後、彼らはともに冒険に挑み、背中を合わせて共闘し、数多の強敵を協力して打ち破り、ウルクの民のために力を尽くした。共に生き、共に語らい、共に戦う二人は、正真正銘の親友だった。

 だが、永遠とも思われた熱い友情は、あまりに呆気ない終わりを遂げる。ギルガメッシュに挑戦してきた神の一柱を返り討ちにしたことを、神々は、自分たちに仇なす大罪であると断じた。そして、「二人のうち、どちらかは苦しみの果てに死ぬ」と一方的に告げた。その理不尽な死の病の呪いを受けたのは───エルキドゥだった。



『神どもめ、この卑怯者どもめ。この哀れな泥の男に何の│罪咎《つみとが》があろうか。貴様らが創っておきながら、都合が悪くなれば簡単に溶かすというのか。この我の目の前で、殺すというのか。神に仇なしたのはこの我である。尊大にして愚かなる神々よ、呪うなら我にせよ。呪うのなら、我にせよ───』



 天に吠えたギルガメッシュは最悪の結末を回避しようとあらんかぎりの手を尽くし、必死に看病したが、エルキドゥは日に日に衰弱していった。そして12日後、やせ細り、見るも無残な姿となった友は、ギルガメッシュの腕の中でひっそりと息絶え、泥に還った。その死は、その損失は、その欠落は、ギルガメッシュにはあまりに耐え難いものであった。神話では、その後の彼は極度に“死”を恐れるようになり、遥か彼方まで不死を求める長い旅路へと足を向けたとされる。それが、彼自身の寿命を伸ばすためなのか、神々に殺された親友を取り戻すためだったのかは、もはや遠い過去の歴史に掠れてしまった。目の前の男の感情のひだに触れた綺礼には、どちらが真実か察しが付く気がした。


「見ただろう、ライダーの宝具『│王の軍勢《アイオニオン・ヘタイロイ》』を。“時間も空間も超えて王の召喚に応じる永遠の朋友たち”。無謀な遠征に連れ回され、無念の死を遂げた連中が、それでも王を慕い、死後の霊魂と成り果ててもなお付き従う。何千、何万もの兵士が、誰一人として王を恨むことなく、笑って参集に応じる。しかも、ライダーは刃を向けてきたアサシンすらも友に迎えんとした。そうして奴は、さらに仲間を、│戦友《とも》を増やしていく。呼べばどこにだって駆けつけて、共に剣を並べてくれる友を」


 いつの間に、どこから取り出したのか、その手には黄金の鎖が握られていた。荘厳に輝くそれは最高クラスの対神宝具とひと目で看破できるほどの神々しさを放っている。


「……では、我の友は、どこにいるのだ?」


 それを指先で愛おしげに撫でるギルガメッシュに誇らしげな様子は微塵もない。まるで人混みのなかで両親の姿を見失った子どものような横顔だ。大事な人の形見の品を弄ぶように、光沢放つ神代の金属を優しげに、そして虚しそうに撫でる。千を超す貯蔵数を誇る一級宝具のなかで、それはきっと彼にとって特別極まるものなのだろう。そしておそらくは、その鎖の輝きの向こうに、死の間際の友を幻視しているに違いない。


「我の友は、エルキドゥは、いくら呼んだところで我の前に現れてはくれぬ。この世の全ての宝物を収める我が蔵にも、ただ一つ、友という宝はない。そして二度と、手には入らない。もう、どこにもいない。その事実を見せつけられた気がした」


 そう慨嘆するギルガメッシュの脳裏に、息絶える寸前のエルキドゥの姿が蘇った。死にゆく己ではなく、自分を失うことで一人ぼっちになってしまう友の行く末を案じていた友の最期が。

 彼は孤独なのだ。「寂しい」という思いを口にすることも、それどころか思考の一片に浮かべることも出来ないほどに孤独だったのだ。神の血を引くことを矜持としていたのに、その神は、彼が唯一心を許した友を無残に殺してしまった。彼は神々を憎んだ。怒りに震え、唇から血が滲む。その滲み出た血すらも憎かった。そこには憎き神の因子が含まれていたからだ。神を受け継ぐ己の血統すらも憎み、己の神性すらも拒んだ。今さら到底、神々に迎合することなど出来なかった。しかし、振り返ればそこには無数の人間たちが、彼を崇め奉らんと跪いて、残酷なまでの期待の眼差しを突き刺していた。彼らにとってもまた、ギルガメッシュは神の如き絶対者なのだ。大王陛下、大王陛下。彼を敬う衆愚の声が国中に唱和する。絶対者は、人間のように迷うことも、間違えることも許されない。

 そしてようやく、彼は気付いてしまった。己が、神でもなければ人でもない、どちらに帰属することも許されない、天涯孤独の身となってしまったことを。もはや、彼に│物申《ものもう》してくれる者はいない。慰撫の言葉をくれる者はいない。背中を預けられる者はいない。エルキドゥのような友を得ることなど、金輪際ないのだということに、気が付いてしまったのだ。その時の絶望は如何ほどのものだったのだろう。


「セイバーもそうだ。バーサーカーという同じ騎士と共鳴し、ともに│轡《くつわ》を並べて戦うようになった。奴はこの現世でも友を得たのだ。どいつもこいつも、この我を置いて、宝を増やしていく。この我が持ち得ない宝を簡単そうに得てみせて、満足そうな顔をしてさっさと前に進みおる。我は───我は、それを│羨ましい《・・・・》と思ってしまった」


 その言葉は、悲痛な叫びに裏打ちされているように感じた。綺礼は、この男の苦悩を理解できると思った。心に根を張る不安をわかってやれる気がした。綺礼もまた、この世で唯一であろう己の理解者を───妻を死別で失ったばかりだったからだ。

 クラウディア。己の歪みを受け入れられなかった綺礼を献身的に癒そうとしてくれた、おそらくは綺礼もまた愛を向けていたであろう女。彼女と同じくらいに綺礼が愛を注げる女など、二度と見つかるまい。思い出そうとするたび、胸苦しい思いに苛まれ、輪郭がボヤケてしまう。だが、今は少しずつ思い出せるようになってきた。豊かに波打つ白髪をした儚げな女の姿を、ぼんやりとだが思い出せるようになってきた。もしかしたら、綺礼がこれから先も進み続けるにつれて、│もっと大事な忘れ物《・・・・・・・・・》のことも思い出せるかもしれない。これもきっと、綺礼が己の│魂の形《・・・》を、向かうべき道を見定められたからに違いない。むしろ、思い出し、直視するべきなのだ。自分のなかに存在する壁も乗り越えられない者が、間桐雁夜を乗り越えられるはずがない。


「ずいぶん、らしくないことを言うんだな、ギルガメッシュ。酒が回ったか?」

「ふん、五月蝿いぞ、綺礼の分際で。“ニホンシュ”だったか?『神殺し』とは大層な名前をつけたものではないか。このような下々の安酒が、この我の至尊の味覚に合うなどとはしゃらくさいことを言う。ましてや酔わせることなど出来るものか。───ヒィイック!おっふ」


 明らかな酔っ払いのしゃっくり。色白のせいだろう。鼻頭はサンタクロースのようにほんのり赤くなっている。│芬々《ふんぷん》とした酒の臭気とともに気まずい沈黙が二人の間を過ぎた。やはり、綺礼はそれらに気が付かないふりをして、ギルガメッシュも気が付かれていないふりをした。英雄王との間に不思議な以心伝心が構築されてきた気配を感じていると、「ん!」と黄金の盃が目の前に突き出された。どうやら「注げ」ということらしい。


「この世のすべてを手にした王の口に合ったようでなによりだ。大枚をはたいた甲斐がある」

「気に染まぬわけではない、というに過ぎん。ライダーめの持ってきた安酒より少しはマシという程度だ。うぬぼれるな。フン。『神殺し』なんぞと大仰な名前をつけおって生意気な。誰が殺されてやるものか。フン」


 意気消沈しても倨傲を失わぬ態度に苦笑しつつ、秘蔵の酒を注ぎ足してやる。そして、瓶の底に残っていた僅かな酒を自分の酒盃に注ぐ。最後の一滴が綺礼の盃にピチョンと落ちる。視線を感じて上目遣いでギルガメッシュを盗み見ると、「もうなくなっちゃったの……?」と言わんばかりに悲しげな顔をしていた。こちらが顔を上げる素振りを見せると、シャンと表情を引き締めてそっぽを向いて誤魔化した。


「……綺礼よ。そういう貴様は、存外、我の思っていた向きとは違う方向へ目覚めたようだな。新たに見つけたその魂の在り方はなんとも暑苦しそうではないか。なんぞ、貴様のくだらん神から天啓でも受けたか?」


 言われた綺礼は自分の胸の内側に目を向け、小さな笑みを漏らした。苦悩する他者を見て、これほど穏やかに心を寄り添おうとする己の有り様を見るのは、産まれて初めてだった。他者の苦痛や嘆きを嗜好の糧にしようとしていた邪悪な芽はすでに焼き払われていた。かつて空洞だった胸中に在るのは、“強敵に勝ちたい”という熱意の炎だ。新しい自分を知る喜び、未知の強敵に胸をときめかせる男の本能。これが今の綺礼にとっての“愉悦”だった。立ちはだかる巨大な壁を乗り越えたいという│益荒男《ますらお》の情動が魂を燃やし、今の自分を突き動かす原動力となっている。だからこそ、こうして他者と爽やかに酒を酌み交わすことが出来ているのだ。


「いいや、御神の恩寵ではないさ。私の変化は、神のご意思とはなんら関係ない。自分の意志で決めたことだ。いや、今の私は、私自身にとっての神なのだ。私は、私の魂の形を知った。そして、これからは自分自身の意思で歩むと決めただけのことだ」


 そう言って、『愉悦とは言うなれば魂の│容《かたち》だ』と諭してくれた英雄王に微笑んだ。神職者の神に対する発言としてはすこぶる不遜な台詞だったが、自分でも驚くほどに罪悪感は感じず、とても歯切れのよい口調だった。晴れ渡る青空のような綺礼の表情は、以前とは正反対に清々しく、むしろ人を惹き込むような魅力を備え始めていた。それは今のギルガメッシュには眩しかったのかもしれない。直視を避けてついと顔を背け、盃に唇をつけてちびちびとセーブしながら酒を呑む。


「つい昨日まであれほど己の在り様も識れぬと迷っていたに、生意気なことを言う。なによりつまらん。……だが、ろくでもない神ではなく│己《おの》が意思で選択したというのなら、それもまた是だ。白痴な神どもの言うことなんぞ、ろくなものではない。己の運命は己で決める。ゆめ、そのあり方を忘れんことだ」

「ご忠告痛み入るよ、英雄王どの」


 奇妙なことに、綺礼は、目の前の半神半人の英霊と自分自身に近しいものがあるように感じた。お互い、心を許した相手は世界でただ一人だけ。そして、二人ともその相手を失っている。誰からも理解されることのなくなった、孤独な男たち。ギルガメッシュも本能で二人の共通点を理解しているのだろう。綺礼が敢えて来意を問わなかった理由もそれだった。だからこそ、ギルガメッシュはわざわざ綺礼の部屋に来て、こうして同じ目線に座っても邪険に扱うことなく盃を交わしているに違いなかった。

 綺礼は自分の盃に口を当て、長々と、しかし一気に体内に流し込んだ。胃の腑がカッカと熱くなり、高価な酒をがぶ飲みするという神に仕える身としては到底褒められない行為の背徳感も相まって、得も言われぬ昂揚感が腰のあたりから沸き立ってくる。今ならなんでも出来そうな万能感さえ肉体に充溢してくる。誰かが肩に手を置いて、さすってくれているような安心感が満ちてくる。

 ふと、何故とは無しに、綺礼の心中にある思いつきが結んだ。人類最古の偉大な英雄王への提案にしてはあまりに馬鹿らしい、“提案”と呼ぶのもおこがましいような、子どもじみた│料簡《りょうけん》。この傷心の男に言っていいものかどうか二の足を踏むほどだ。


「……?」


 一瞬、言うのを躊躇おうとした綺礼の視界に、奇妙な幻が写り込んだ。ふと気がつくと、│淡い緑色の長髪《・・・・・・・》│をした美貌の男《・・・・・・・》が、ギルガメッシュの後ろで微笑んでいたのだ。人間離れした美しい容姿をしており、究極的に中性の目鼻立ちを見てもはっきりと男女の区別はつかない。ほんの少し張り出した肩の生硬い曲線から、綺礼はどうやら│男に近しい《・・・・・》ようだと推測した。そのエメラルドグリーンの思慮深い眼差しは絶えずギルガメッシュに注がれている。しかし、しゃっくりを必死に抑えようと頬を膨らませて頑張っているギルガメッシュが背後の男を察知している気配はない。酒を飲み過ぎた弊害の産物なのか。

 綺礼が呆気にとられて燐光を纏う細男を見つめるなか、唐突に男が顔を綺礼に向けた。ハッとするほど魅力的な瞳と視線が交差したのも一瞬、彼の肉薄の美しい唇が小さく動く。「彼を頼んだよ」。謎の男は声もなくそう口にした。その幻影は、一度パチクリと瞼を開け閉めすると次の瞬間には消えていた。くだらない幻覚は、しかし、「きっと自分も酒の魔力に当てられたのだ。酒のせいなら仕方ない」と開き直らせる効果を与えてくれた。幻影に背中を押されるようにして一切の顧慮を捨てた綺礼は、あたかも昔からの知り合いにするような軽い口調で、思いついたばかりの提案をぶつける。


「なあ、ギルガメッシュ。私と友だちになってみないか?

「……友だち、だと?」


 意外にも、英雄王の反応は下賤者からの不遜な物言いへの憤怒ではなかった。相手がそこらの野卑な有象無象であれば、突き放すような一瞥の一つでも喰らわせただろう。普段の彼なら、それこそ視線の一つで殺すことも厭わなかっただろう。だが、今はキョトンと鳩が豆鉄砲を食らったような呆け顔で綺礼を見つめ返している。綺礼はと言えば、自分が告げた唐突な思いつきを酔いと幻影のせいにして、にこやかに話を続ける。


「お前の友は、きっとお前を親友だと見做していたさ。最期の最期まで。私にはわかる。死ぬ前も、死んだ後も、お前を案じているさ。お前は、それほどの価値ある男なのだ」


 ギルガメッシュはパチクリと瞳を開け閉めして、しばし言葉を紡げなかった。それは、綺礼の台詞に胸打たれた以外にも理由があった。綺礼の背後に、│豊かに波打つ白髪《・・・・・・・・》│をした儚げな女《・・・・・・・》の幻影が見えたからだ。片目は眼帯で覆い、手足は柳のようにか細い。見るからに弱々しい姿をしているが、その表情は穏やかで、纏う雰囲気は温和そのものだ。背後の女のことに気付いている様子のない綺礼の肩に優しく手をのせ、慈しみの目で彼を見つめている。不意に、女がギルガメッシュに目を向けた。「この人をお願いします」。色素の薄い唇はたしかにそう動いた。再びまばたきをすると、もう女の姿はそこにはなく、ギルガメッシュの回答を楽しげに待つ綺礼のみが胡座をかいている。奇妙な幻に混乱していると、耳元で、かつての盟友の声が聞こえた気がした。



───僕を失ったあとの君に、新たな友を得る勇気が湧かんことを。



 合点がいったような気がした。「ふん、余計なお世話だ」。そう口中に独りごちると、ギルガメッシュは不敵な笑みを浮かべてみせた。瞳はレッドルビーの清冽な輝きを取り戻し、しゅんと萎れていた金髪は研ぎ直した刀身のように鋭く煌めき、肩は居丈高に持ち上がる。それまでの孤影悄然っぷりが嘘のように凄みのある笑みが眉目秀麗な願望にばっちりと刻まれる。にわかに復活の兆しを見せた不撓不屈の英雄王の姿に、綺礼は待ってましたとばかりにニヤリと相好を崩した。


「度し難いほどの自惚れだぞ、神の│幇間《ほうかん》風情が。この我を│虚仮《こけ》にする気か?自分が誰に対してどれほど不敬なことを言っているのか、理解しているのか?そも、お前のようなちっぽけな人間を盟友に迎えることで、我になんの得があるというのだ?


 死者たちの思惑に背中を押される形になったなどとおくびにも出さず、ギルガメッシュは威迫するような態度をひけらかした。詞の文面はたいそう手厳しいが、その口調も表情も、いかにも綺礼の提案を興じている風で鷹揚としている。彼は綺礼の回答を待ちわびていた。


「ふむ、私を友とする益か。そうだな。それでは一つ、私を友にしない手はない、という証明をしてやろう」


 腐っても、くさくさしていても、英雄王。機嫌を損ねれば、遥かに力の及ばぬ綺礼など一秒と掛からず荼毘の薪と化してしまう。口先だけのおためごかしや、取り入るような媚びた態度が通ずる暗愚でもない。回答を誤れば間違いなく命はない。しかし、そんな焦眉の危機など存在しないかのように、不安の陰りを一切見せず、それどころか口許には微かに状況を楽しむ余裕を浮かべたまま綺礼はひょいと立ち上がり、そのまま屋根裏の収納へ続く脚立を引っ張り出すとそれを昇った。疑わしげに目を窄めるギルガメッシュを尻目に上半身を収納スペースに突っ込んで数秒後、脚立を軋ませて降りてくる。その両手には、それぞれ一升瓶が二本ずつ、合計四本がぶら下がっていた。そのうちの一本を指の力だけで器用に放り投げ、緩やかな放物線を宙に描かせた後にギルガメッシュの手にパシリと収めさせる。そこには、『神殺し・純米大吟醸酒(聖堂教会勤続10年記念。これからも事故災害ゼロでいこう)』の巧みな一筆書きが記されていた。瓶の質も、中身の質も、先ほどまで呑んでいたものを上回って上等そうに思えた。見れば、綺礼の手に残る3本も同じように上等な包装紙に包まれている。『神殺し・麦焼酎』。『神殺し・芋焼酎』。『神殺し・シエル・ザ・カレー風味』。


「聖堂教会を引退した元代行者がこの醸造所を運営していてな。彼にはまあまあ大きな借りがあって、時々こうして特別な酒を分けてくれている」


 その言葉に嘘偽りはなかった。代行者を経て第八秘蹟会に転じた友人は、世界各地を渡り歩くなかで日本酒と出会い、その魅力に取り憑かれると早々に聖堂教会を退職。日本酒の本場、新潟県に移住し、それまで溜め込んでいた給料と膨大な退職一時金を注ぎ込んで老舗醸造所を買い取り、愛する日本酒の真髄を掴もうと日夜努力している。古巣の聖堂教会とも良好な関係を維持し、勤続10年記念品として採用もされている(だいたいの代行者が10年未満で死ぬのでなかなか貰える者はいない)。そして、これらの酒は代行者時代に借りのある綺礼に送られてきた、決して市場に出回ることのないごく少数生産の特注品だったり試供品だったりする(カレー風味は、ある代行者からの強硬な圧力によってむりやり作らされた挙げ句に大量に売れ残ったものである)。

 飲み干して残念がっていた酒が復活した喜びと、綺礼のいかにも他意無さげな悪戯っぽい表情がリンクせず、ギルガメッシュはしばし目を開いてポカンとする。「つまり、お前の目の前にいる男は、こんな男だ」。ギルガメッシュの手に砂色をした伊万里焼の酒杯を握らせ、効果を狙うようにたっぷり一拍間を置いて、古今東西あらゆる場所で友情を育んできた古い伝統を持つ殺し文句を口にする。



「“とびきり美味い酒を隠し持ち、酒の趣味が合う”」



 ギルガメッシュのそれは、まさに破顔一笑と呼ぶに相応しいものだった。それまでに誰にも見せたことのないような───それこそ、心を許した盟友にしか見せたことのないような屈託のない表情を浮かべて、ギルガメッシュは心底から大いに笑った。


 後年、10年が経ち、教会の主となった綺礼に言わせれば、その時のギルガメッシュはカボチャをくり抜いたハロウィンの提灯なみの笑顔を見せたという。そして、10年を経て再び彼の前に胡坐をかくことになった彼の盟友もまた、その時と同じ満面の笑みを浮かべ、照れくさそうにはにかんだ。




‡璃正パパサイド‡


 綺礼の父、言峰璃正は、己の目と耳を疑った。一度も友だちなど呼んだことのない孤高の息子の部屋から漏れてきた男二人の騒ぎ声を訝しんでこっそり様子を見に来てみれば、なんとそこでは息子と英霊がやんややんやと楽しげに酒を呑み交わしていたのだ。床には一升瓶やワイン瓶が転がり、酒のつまみにしたのだろう、おやつカルパスとカムデーの空き箱が散らばっている。


「だーはっはっはっはっはっ!綺礼、綺礼お前、お前それはないだろうっ!腹が、腹が捩れるっ!だははははははっ!!」

「だ、だってな、あの時は仕方なかったのだ!あの機械オンチの時臣師の部屋にまさかエアコンが設置されているとは思わなかったし、床にリモコンが落ちているなんて予想だにしていなかったから、まさか踏んづけることになるとは思ってもみなかったのだ!」

「だからって冷房を最低最強にした状態で黙ってリモコン持って逃げるなどと、お前、それはあんまりだろう!人間性に│悖《もと》るぞ!時臣め、今頃凍死しておるんじゃないか!想像するだけで……くっくっくっくっ!腸捻転になりそうだ!え、え、エルキドゥ助けてくれ!フンババに裸踊りさせたときより笑いが止まらん!」

「ちょっとは悪いと思っているさ!だが、仮にもお前のマスターだろう!時臣師が弱ったりしたら供給される魔力が減るだろうに、少しは心配したらどうだ!」

「はっはっはっ!そんなときはコレよ!この『ルールブレイカー』でちょいっと時臣めを突付いてやればあら不思議、契約はかっきり無しになる。そうすればあの退屈な男ともおさらばよ」

「ほーっ。そりゃ凄い。だが、その後はどうする?マスターを失っては現界に支障をきたすだろう?」

「さあ、どうしたものかな。ああ───そういえば一人、令呪を得たものの相方がおらず、契約からはぐれたサーヴァントを求めているマスターがいたはずだったな」

「そういえば、そうだった。だが果たしてその男、マスターとして英雄王の眼鏡に適うのかどうか」

「問題あるまい。堅物すぎるのが玉に瑕だが、前途はそれなりに有望だ。ゆくゆくは存分に我を愉しませてくれるかもしれん。なにより、まだどこに美味い酒を隠しているかわからん」

「ははは、まだまだ、父の知らないところにさんざん隠してある。祭壇に飾られている十字架の中身をくり抜いてワインを詰め込んだり、キリスト像の背中をキャビネットに改造して隠したり、まだまだあるさ。酒を貯蔵するのにちょうどいい温度なんだ。あと祭壇の銀杯も実は何度か焼酎を呑むのに使った」

「……おまえ、実はけっこう悪質な破戒僧なんじゃないか」


 璃正の頬を感涙がだくだくと伝い落ちた。今まで、自分の在り様を見定められず、それを肉親にも打ち明けられずに孤独に耐えてきた息子に、胸中を開けっぴろげにして話せる友人が出来たのだ。例えそれが英霊だとしても、なんの違いがあろうか。楽しそうに誰かと会話をする息子の姿を見られただけで、父親としてこれほど嬉しいことはない。震える口を抑え、感動の呻きを聞かれないようにして、璃正はひっそりと息子の部屋の前から姿を消した。今夜は、よく眠れそうだ。



……え?十字架とキリスト像を改造したって言わなかった?

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どもども。主(ぬし)です。駄文書きです。趣味は映画と小説とニコニコ動画です。灼眼のシャナやFate/zeroのSSなどを書いてます。小説の小ネタや、短編SS、映画のレビューやちょっとした雑記などを掲載していこうと思います。

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