白銀の討ち手

己の妄想をネットという広大な海へ送り出すことに若干躊躇いつつも実行してみるブログ。現在は『白銀の討ち手』という灼眼のシャナの二次小説をarcadiaさんにて執筆中。

【ブリジットという名の少女】 Her name is Charis!! 一覧まとめ 【三次創作】 

Her name is Charis! !

 漫画『ガンスリンガー・ガール』の二次創作小説『ブリジットという名の少女』の三次創作でございます。今までまとめを作ってなかったので、続きが完成間近なこのタイミングで一覧をまとめた記事を作成しました。余裕がある時に作っておかないと。
 この拙作は、僕が『ブリジットという名の少女』を読んで深く感銘を受けた結果、ただただ「ブリジットを救いたい!」という情念に突き動かされてハイテンションのままに書いたものです。事後承諾にはなりましたが、作者様であるH&Kさんには許可も頂けました。その懐の広さに感謝です。ああ、H&Kさん。貴方と直にあっていっぱいお話をお伺いしたいです……。
 偉大なるH&Kの作品には完成度もストーリーも伏線も何もかもが遠く及ばないですが、もしも、ブリジットの物語にIFの世界を望まれる方がおられましたら、読んで頂ければ幸いです。鬱クラッシャーとTS娘の融合作品、ぜひご堪能くだしあ!






<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1
外伝 後編その2
外伝 後編その3
外伝 後編その4

<名状しがたいオマケ的な何か>

ちょっとしたコネタ
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ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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第四次聖杯戦争にセイバーが召喚されました 最新話 試作 

二次創作




ぱっか~~~~ん。



人の口から発したような間の抜けた金属音が港湾区画に甲高く響き渡った。次いで、ガッチャン!と大柄の鎧武者が尻餅をついたような重い音が低く響く。
事実そうであった。

「―――――……!? ……!?」

尻餅をついたまま、鎧武者―――漆黒の騎士が、自身に何が起こったのかわからず左右に首を回す。酩酊したように視野がクラクラとして定まらないのは、直前に喰らった脳天への一撃のせいだろう。気づけば|目庇《まびさし》に遮られていた視界が広まっており、|兜《ヘルム》の喪失をぼんやりと悟らせたが、狂化した彼にはそれ以上思考を巡らせることはできなかった。
不意に、目の前に何者かが颯爽と歩み出る。忘我のまま見上げれば、晴天のような戦装束と磨きぬかれた鎧を纏う少女騎士。右手に伝説の聖剣エクスカリバーを携えた彼女こそ、金髪麗しき騎士王に―――彼の主君に他ならない。
その泰然として誇りに満ちた姿にこそ、彼の|狂気《いかり》は無性に掻き立てられる。

「……Arrrthurr……!!」

 自分でも的はずれな憤怒だとわかっていた。しかし、それを振り返り自制する理性は失われている。元より手綱のない制御不能の感情が胸の内で猛り狂い、顔面に夜叉の如く滲み出るその刹那、


「待たせたな|《・・・・・》。|迎えに来たぞ《・・・・・・・》、|我が盟友《サー・ランスロット》」


―――それはまるで、道に迷ってしまった友人を苦笑しながら迎えに来たような―――

そんな、理屈抜きの親愛を湛えた微笑みを前に、狂気は跡形もなく霧散した。






時はほんの少し遡り、冬木市海浜公園、港湾区画にて。

今宵の星は、夜空ではなく地上で輝いていた。その|御剣《みつるぎ》から赫奕と放たれる無尽蔵の星の輝きに比すれば、遠い星雲などことごとく掠れてしまう。
 騎士の栄光。騎士の誉れ。騎士の象徴。あまねく騎士たちの頂点に立つ|王《・》が、今まさに天を差して力強く掲げる美しき宝剣こそ、世に名高き|世界最強の聖剣《エクスカリバー》に他ならない。

「Arrr――――thurr――――……!!」

だからこそに、漆黒の騎士は憎む。聖剣を掲げる王ではなく、聖剣により始まった運命そのものを憎む。失ってしまった栄光を悔やみ、傷つけてしまった人々を悔やみ、そして絶対の忠節を誓った主君への裏切りを悔やむ。
せめて主君が怒りに身を燃やして彼を手に掛けてくれれば、まだ救いがあった。敬愛する主君の正当な怒りによって己の行為を断罪されて逝けるのなら、臣下としての救いがあった。しかし、理想の王たる主君は彼以上に悩み苦しんでしまった。儚い矮躯を震わせながら、どうにかして己の妻と忠臣を護ろうと呻吟に悶え苦しんだ。挙句の果てに、彼の裏切りによって崩壊を始めた王国のために身命を賭し、|最後の戦場《カムラン》で短すぎる生涯を閉じた。事切れるその時まで不忠の騎士を責めることなく、理想の体現者は志半ばにして永久の眠りについた。殺めたばかりの息子の遺骸を前に、血に染まる丘で無念を噛みしめて非業の最期を遂げた。まだ寿命の半分も使い尽くしてはいなかったろうに。王国はまだ聖王を必要としていたのに。
全てを台無しにしてしまった。今までの努力も犠牲も、何もかも全てが水泡に帰した。彼の裏切りのせいで。

違う。違う、違う、違う!!!!
こんなはずではなかった。こんなことを望んでなどいなかった。皆、最善だと思ったことを必死にやっただけだ。誰も彼も、恋した女を、在るべき秩序を、|騎士《おとこ》の矜持を、主君への忠誠を、ただただ命がけで果たそうと全てを投げ打っただけだ。その結末が最悪のモノと至ったのなら、それは―――それは、|運命そのものが《・・・・・・・》|間違っていたから《・・・・・・・・》|に違いない《・・・・・》。
そうして、彼は運命を呪う|狂戦士《バーサーカー》となった。運命の起点となった聖剣を憎み、それを抜き放った主君の運命を憎んだ。

嗚呼、我が王よ。儚くて偉大なブリテンの勇者よ。どうしてそんな|剣《モノ》を手に取ってしまったのですか。どんなに陰惨な時代でもいい。どんなに乱れた国でもいい。あんな皮肉で悲惨な終焉を迎えることに比べれば、我ら円卓の邂逅に何の意味があったのか。
騎士になどならなければよかった。王になどなってくださらねばよかった。貴方とも、彼らとも、彼女とも、最初から出会わなければよかった。そうであればどんなに救われたことか。我らが伝説の始まりを|無かったこと《・・・・・・》に出来れば、どれほどの魂が救われることだろう。

―――そうだ、ソレを、そのキラビヤカな剣を叩き折ればどうだ。そうして忌々しい伝説を微塵に砕いてやれば、運命の出発点もまた消えてくれるのではないか。

そうだ。そうすれば、きっと、俺の裏切りも、彼女の涙も、主君も忠臣も王国も、全てが最初から無かったことに出来るのだ。きっと皆が救われるに違いない。望むに違いない。喜んでくれるに違いない。ああ、ならば―――|為さぬわけには《・・・・・・・》|いかない《・・・・》。

もはや有るか無しかもわからぬ思考の中、彼が狙い定めたのは他ならぬ|彼の主君《セイバー》だった。否、主君の姿をした運命そのものだった。今の彼にとって、運命を覆す試みだけがたったひとつの贖罪の術であり救済の道だった。

呪われた運命よ、いざ刮目せよ。呪われた騎士の|狂気《いかり》を目に焼き付けて砕け散れ―――!!

 |大兜《フルヘルム》の目庇の下、血走った眼光がギロリとセイバーを凝視する。次の瞬間、|鉄靴《ソルレット》がアスファルトを激しく踏み砕き、乱舞する狂槍が目にも留まらぬ速さとなって大気を切り刻む。剣閃は視認可能領域を超えてストロボのような瞬きへ加速する。彼は狂戦士と成り果てても尚衰えぬ精確な体捌きで地を踏みしめ、凄まじい勢いで間合いを詰めていく。最強騎士の神業に狂化ステータスの膂力増強が相乗された結果であった。如何なる達人ですら防御も回避も叶わない圧倒的な剣撃の嵐がセイバーに迫る。

「逃げてッ、セイバ―!! いくら貴女でも、これは……!!」

 カマイタチすら発生させる恐るべき攻撃に、気を動転させたアイリスフィールが身を乗り出して訴える。だが、セイバーは動かない。煌々と輝く剣を片腕のみで振り上げたまま、襲い来る風圧など意にも介さずピクリとも動じない。

「セイバー、何を……!?」
「あ奴、死ぬ気か―――!?」
「む―――?」

 ランサー、ライダー、そしてアーチャーまでもがセイバーの真意を図りあぐねて瞠目する。誰がどう見ても絶体絶命の状況だ。漆黒の凶刃はすでに彼女の眼前だ。直ちに宝具を開放するなりしなければ切り抜けられない窮地に違いない。

 だというのに、彼女は何故、|微笑み《・・・》を浮かべているのか―――?

 困惑するそれぞれの反応を置き去りに、宝具化した鉄塊が大きく弧を描いて振りかぶられる。狙い澄ましたるはヒト型全ての急所、すなわち脳を擁する頭蓋だ。王冠に飾られた金髪の頭頂部目掛け、今、限界まで引き絞られた筋肉が音を立てて解き放たれる。

「Arrrrrrrrrrthurrrrrrrrrrrrrrr!!!」

 咆哮を迸らせ、電光石火の一撃が振り下ろされる。音速の壁を真っ二つに叩き割り、ねじ切られた大気が断末魔の悲鳴を上げる。膨張する衝撃波すら置き去りにした音速の槍の切っ先が金髪に触れる。
 もはや何をしても間に合うまい。ある者は見るに堪えかねて両手で視界を覆い、ある者は息を呑んで目をかっ開き、ある者は興ざめに踵を返しかける。
 そして、




ぱっか~~~ん。




 その音が響いたのだった。




「どうした、|湖の騎士《ランスロット・デュラック》。円卓最強と名を馳せた貴方ともあろう者が、ずいぶんと鈍いではないか。ははあ、さては大方、坊主になって隠居してから修練を怠っていたのであろう? そんな体たらくでは、キャメロットで貴方との手合わせを今か今かと待っているガラハッドやガウェインを失望させてしまうぞ」

 そのセイバーの口ぶりは、一切の誹謗を含まない爽やかなものだった。互いに勝手知ったる真の友と心得ているが故に深い部分にまで踏み込めているに違いなかった。しかも、相手は“湖の騎士”――――|ランスロット《・・・・・・・・》だというではないか。周囲の者たちはセイバーが口にした二つ名でバーサーカーの真名を理解して驚いたが、それが|アーサー王《セイバー》の死のキッカケを作った裏切りの騎士の名だと知るに至ってさらに驚愕した。マスターにすら見透せない幻影を纏ったバーサーカーの正体をひと目で看破した挙句、不忠者にこうも親しげに話してみせるセイバーの洞察力と度量の大きさに、驚愕を通り越して呆れもした。


刃の嵐の中をまっすぐにすり抜け、吸い込まれるように兜の頂点を強打した。


男が奮|《た》つ
ぱっか~~~~ん。



まるで人の口から発したような間の抜けた金属音が港湾区画に甲高く響き渡った。次いで、ガッチャン!と大柄の鎧武者が尻餅をついたような重い音が低く響く。
事実そうであった。

「―――――……!? ……!?」

尻餅をついたまま、鎧武者―――漆黒の騎士が、自身に何が起こったのかわからず左右に首を回す。酩酊したように視野がクラクラとして定まらないのは、直前に喰らった脳天への一撃のせいだろう。気づけば|目庇《まびさし》に遮られていた視界が広まっており、兜の喪失をぼんやりと悟らせたが、狂化した彼にはそれ以上思考を巡らせることは不可能だった。
不意に、目の前に何者かが颯爽と歩み出る。忘我のまま見上げれば、晴天のような戦装束と磨きぬかれた鎧の少女騎士。右手に伝説の聖剣エクスカリバーを携えた彼女こそ、金髪麗しい騎士王に―――彼の主君に他ならない。その泰然とした姿にこそ、彼の|狂気《いかり》は無性に掻き立てられる。

「……Arrrthurr……!!」

 自分でも的はずれな憤怒だとわかっていた。しかし、それを振り返り自制する理性は失われている。制御不能の感情が胸の内で猛り狂い、顔面に夜叉の如く滲み出るその刹那、


「待たせたな|《・・・・・》。|迎えに来たぞ《・・・・・・・》、|我が盟友《サー・ランスロット》」


まるで、道に迷っていた友人を苦笑しながら迎えに来たような―――
そんな、理屈抜きの親愛を湛えた微笑みを前に、狂気は跡形もなく霧散した。






数秒前。
冬木市海浜公園、港湾区画にて。

今宵の星は、夜空ではなく地上で輝いていた。その|御剣《みつるぎ》から赫奕と放たれる無尽蔵の星の輝きに比すれば、遠い星雲などことごとく掠れてしまう。
 騎士の栄光。騎士の誉れ。騎士の象徴。あまねく騎士たちの頂点に立つ|王《・》が今まさに力強く掲げるその宝剣こそ、世に名高き|世界最強の聖剣《エクスカリバー》に他ならない。

「Arrr――――thurr――――……!!」

だからこそ、漆黒の騎士は憎む。聖剣を掲げる王その人ではなく、聖剣により始まった運命そのものを憎む。失ってしまった栄光を悔やみ、傷つけてしまった人々を悔やみ、そして絶対の忠節を誓った主君への裏切りを悔やむ。
せめて主君が怒りに身を燃やして彼を手に掛けてくれれば、まだ救いがあった。敬愛する主君の正当な怒りによって己の行為を断罪されて逝けるのなら、臣下としての救いがあった。しかし、理想の王たる主君は彼以上に悩み苦しんでしまった。儚い矮躯を震わせながら、どうにかして己の妻と忠臣を護ろうと呻吟に悶え苦しんだ。挙句の果てに、彼の裏切りによって崩壊を始めた王国のために身命を賭し、|最後の戦場《カムラン》で短すぎる生涯を閉じた。事切れるその時まで不忠の騎士を責めることなく、理想の体現者は志半ばにして永久の眠りについた。殺めたばかりの息子の遺骸を前に、血に染まる丘で無念を噛みしめて非業の最期を遂げた。まだ寿命の半分も使い尽くしてはいなかったろうに。王国はまだ聖王を必要としていたのに。全てを台無しにしてしまった。今までの努力も犠牲も、何もかも全てが水泡に帰した。彼の裏切りのせいで。

違う。違う、違う、違う。
こんなはずではなかった。こんなことを望んでなどいなかった。皆、最善だと思ったことを必死にやっただけだ。誰も彼も、恋した女を、在るべき秩序を、|騎士《おとこ》の矜持を、主君への忠誠を、ただただ命がけで果たそうと全てを投げ打っただけだ。その結末が最悪のモノと至ったのなら、それは―――それは、|運命そのものが《・・・・・・・》|間違っていたから《・・・・・・・・》|に違いない《・・・・・》。
そうして、彼は運命を呪う|狂戦士《バーサーカー》となった。運命の起点となった聖剣を憎み、それを抜き放った主君の運命を憎んだ。

嗚呼、我が王よ。儚くて偉大なブリテンの勇者よ。どうしてそんな|剣《モノ》を手に取ってしまったのですか。どんなに陰惨な時代でもいい。どんなに乱れた国でもいい。あんな皮肉で悲惨な終焉を迎えることに比べれば、我らの邂逅に何の意味があったのか。騎士になどならなければよかった。王になど為って下さらねばよかった。貴方とも、彼らとも、彼女とも、最初から出会わなければよかった。我らが伝説の始まりを|無かったこと《・・・・・・》に出来れば、どれほど救われることだろう。
―――そうだ、ソレを、そのキラビヤカな剣を叩き折ればどうだ。そうして忌々しい伝説を微塵に砕いてやれば、運命の出発点もまた消えてくれるのではないか。
そうだ。そうすれば、きっと、俺の裏切りも、彼女の涙も、主君も忠臣も王国も、全てが最初から無かったことに出来るのだ。きっと皆が救われるに違いない。望むに違いない。喜んでくれるに違いない。ああ、ならば―――|為さぬわけには《・・・・・・・》|いかない《・・・・》。
もはや有るか無しかもわからぬ思考の中、彼が狙い定めたのは他ならぬ|彼の主君《セイバー》だった。否、主君の姿をした“運命”だった。今の彼にとって、運命を覆す試みだけがたったひとつの贖罪の術であり救済の道だった。

呪われた運命よ、いざ刮目せよ。呪われた騎士の|狂気《いかり》を目に焼き付けて砕け散れ―――!!

 兜の目庇の下、血走った眼光がギロリとセイバーを凝視する。次の瞬間、|鉄靴《ソルレット》がアスファルトを激しく踏み砕き、乱舞する狂槍が目にも留まらぬ速さとなって大気を切り刻む。剣閃は視認可能領域を超えてストロボのような瞬きへ加速する。彼は狂戦士と成り果てても尚衰えぬ精確な体捌きで地を踏みしめ、凄まじい勢いで間合いを詰めていく。最強騎士の神業に狂化ステータスの膂力増強が相乗された結果であった。如何なる達人ですら防御も回避も叶わない圧倒的な剣撃の嵐がセイバーに迫る。

「逃げてッ、セイバ―!! いくら貴女でも、これは……!!」

 カマイタチすら発生させる恐るべき攻撃に、気を動転させたアイリスフィールが身を乗り出して訴える。だが、セイバーは動かない。煌々と輝く剣を片腕のみで振り上げたまま、襲い来る風圧など意にも介さずピクリとも動じない。

「セイバー、何を……!?」
「あ奴、死ぬ気か―――!?」
「む―――?」

 ランサー、ライダー、そしてアーチャーまでもがセイバーの真意を図りあぐねて瞠目する。誰がどう見ても絶体絶命の状況だ。漆黒の凶刃はすでに彼女の眼前だ。直ちに宝具を開放するなりしなければ切り抜けられない窮地に違いない。

 だというのに、彼女は何故、|微笑み《・・・》を浮かべているのか―――?

 困惑するそれぞれの反応を置き去りに、宝具化した鉄塊が大きく弧を描いて振りかぶられる。狙い澄ましたるはヒト型全ての急所、すなわち脳を擁する頭蓋だ。王冠に飾られた金髪の頭頂部目掛け、今、限界まで引き絞られた筋肉が音を立てて解き放たれる。

「Arrrrrrrrrrthurrrrrrrrrrrrrrr!!!」

 咆哮を迸らせ、電光石火の一撃が振り下ろされる。音速の壁を真っ二つに叩き割り、ねじ切られた大気が断末魔の悲鳴を上げる。膨張する衝撃波すら置き去りにした音速の槍の切っ先が金髪に触れる。
 もはや何をしても間に合うまい。ある者は見るに堪えかねて両手で視界を覆い、ある者は息を呑んで目をかっ開き、ある者は興ざめに踵を返しかける。
 そして、




ぱっか~~~ん。




 その音が響いたのだった。




「どうした、|湖の騎士《ランスロット・デュラック》。円卓最強と名を馳せた貴方ともあろう者が、ずいぶんと鈍いではないか。ははあ、さては大方、坊主になって隠居してから修練を怠っていたのであろう? そんな体たらくでは、キャメロットで貴方との手合わせを今か今かと待っているガラハッドやガウェインを失望させてしまうぞ」

 そのセイバーの口ぶりは、一切の誹謗を含まない爽やかなものだった。互いに勝手知ったる真の友と心得ているが故に深い部分にまで踏み込めているに違いなかった。しかも相手は“湖の騎士”――――|ランスロット《・・・・・・・・》だというではないか。周囲の者たちはセイバーが口にした二つ名でバーサーカーの真名を理解して驚いたが、それが|アーサー王《セイバー》の死のキッカケを作った裏切りの騎士の名だと知るに至ってさらに驚愕した。マスターにすら見透せない幻影を纏ったバーサーカーの正体をひと目で看破した挙句、自らと王国の死因となった不忠者にこうも親しげに話してみせるセイバーの洞察力と度量の大きさに、驚愕を通り越して呆れもした。
 真名で呼ばれたバーサーカーは、しかし応えない。応えられない。どんな顔をして|面≪おもて≫を上げればいいのか。狂化していても尚忘れることの出来ない悔恨に苛まれ、黒の騎士は地に沈み込むように力を失い、


「|許す≪・・≫」


 その言葉に、いとも簡単に救い上げられた。
意外な―――自分には絶対に与えられることはないと諦めて、だけでも心のどこかで欲していたその言葉に、黒い騎士は弾かれたようにハッと顔を上げた。
そこにいるのは、生前にだって見たことのない爽やかで純粋な微笑み。まるで父のように、母のように、何もかもを受け入れて包み込んでくれる、かつて自分が崇拝し、心身を預けた存在だった。

「全て許す。お前の不貞も、裏切りも、仲間殺しも、何もかも」

 嘘偽りない口調と表情で、セイバーは尚も微笑み続ける。到底許されるはずのない重罪を口にしながら、あたかも子どもがしでかした瑣末な悪戯を笑い飛ばすように、軽い足取りで黒い騎士に向けて歩む。騎士が呻き、見開かれた目が激しく問う。「なぜ」、と。

「もはや誰も怒ってはいないからだ」

 だが、私は殺してしまった。傷つけてしまった。私を慕ってくれていた騎士たちを、戦場を共にした仲間たちを。

(途中)

俺のエルフが、チート魔術師で美少女で、そして元男な件について。(最新話 試作。ほぼ完成。今日明日には投稿します) 

性転換

タダ見さん、ありがとう……。




その5 エルフとの変化


 18歳になろうかという年の初め。普通ならもうガキとは言えなくなる年頃に、俺は自分自身、とりわけ内心と体質に特別な変化が生じていることに気付いた。キッカケは、囚われた女僧侶を黒魔術師から救い出す際の戦いだった。

 深夜、|四回戦目≪・・・・≫に差し掛かろうとしていたところに女僧侶の使い魔が突然窓から飛び込んできた。人語を話す猫の使い魔は、“黒衣のエルフ”を頼りに、黒魔術師に捕えられた主人の救出を求めてきた。女僧侶を屋敷の牢に閉じ込めているというその黒魔術師は、優秀な女魔術師を攫っては自身の種を植え付け、魔術師同士の子を孕ませて血筋を強化しようと企む変態ジジイだった。その上、囚えられた女は、子どもを生むことが出来なくなると殺されて食われてしまうという。王国の治世が主要都市以外に及ばなくなってからは残虐な事件も珍しくなくなってきたとはいえ、あまりにひどい話だ。それに、相手の気持ちも考えずに犯すとは男の風上にも置けない悪漢に他ならない。俺が拳を握りしめて義憤に燃えると、俺に組み伏せられたまま荒い呼吸をしていたアキリヤが、まるで「お前が言うな」とでも言うような、じとっと半開きの目で睨め上げてきた。俺が「なんだよ」と問うと、何か言いたげに唇を尖らせたものの大きな溜息をついて首を振った。訝しげに思ったが、アキリヤも元は同じ男だからきっと共感してくれたのだろうと疑問を呑み込んだ。
 女僧侶には何度も世話になったし、一族と離れて身寄りのないアキリヤ(女僧侶にはそう説明した)を妹のように気にかけ、アキリヤも姉のように慕っていた。危機を見過ごすことは出来なかった。
 使い魔によると、女僧侶が孕ませられる儀式は満月の夜に執り行われるという。即ち当日の晩だった。黒魔術師の屋敷は、早馬を一日駆けさせれば間に合うか間に合わないかという場所にあった。時間が無いと、俺はアキリヤと荷物を抱えて宿を飛び出し、下袴だけの姿で馬宿に繋がれていた速そうな馬に飛び乗った。「まだ下着しか着てない!」と嫌がるアキリヤを「そんなこと言ってる場合か」と無理やり引っ張り上げて跨がらせ、馬の尻にムチを打つ。深夜で誰にも見られてないんだから気にするなと言ったが、彼女は「そういう問題じゃない」と唇を尖らせて揺れる馬上で懸命に服に袖を通していた(アキリヤは貞操についてやけに煩く、人前に肌を晒すことを嫌がった。前の世界では常識だったそうだ)。

 ……黒魔術師については、正直こうして書き記すことどころか思い出すことすら不快だ。奴は、今まで戦ってきた敵の中では三本の指に入るほど陰湿で、胸糞悪い奴だった。男どころか人間としても風上に置けない、卑劣な魔術師だった。奴から見て“優秀でない”と判断した己の子供を黒魔術で死霊≪グール≫化させたり、生きながらに腐食の呪いをかけて|歩く使者≪ゾンビ≫にして、そいつらに襲わせてきた。中にはまだ意識が少し残っていて苦痛に膿の涙を流し掠れた声で母を求める幼子のゾンビもいて、アキリヤは口を押さえて蒼白になっていた。詠唱に集中できなければ魔法は使えないし、屋敷の地下牢には女僧侶がいる。彼女の魔法は今は使えない。何より、彼女の手をこんなことのために汚させたく無かった。彼女には純粋なままでいてほしかった。「ごめんな、ごめんな」と大粒の涙を流すアキリヤを背に護りながら、俺は怒りに突き動かされて屋敷の暗い廊下をまっすぐ地下へとに斬り込んでいった。
 石の廊下は、空気をゴクリと飲み込めそうなくらいに湿度が高く、不快だったことを鮮明に覚えている。鼻がもげるような腐臭が充満して、息をすることさえ苦しかった。腐食の呪いのせいで、一閃ごとに剣の刀身にサビが回ってきた。敵が敵だけに殺意も鈍って全力が出せない。オークやトロルの姿をしていればどんなによかったか。切れ味を腕力で補うも、なにせ数が多すぎた。幅も狭く、剣を振り回す空間も少ない。松明の明かりが頼りなく、数歩先の暗闇が見透せない。とにかく戦いづらかった。200体ほど斬ったあたりで疲労が蓄積した腕が重くなり、剣を握る手に力が入らなくなっていた。それこそが黒魔術師の罠だった。

「鴨が葱を背負ってくるとはこのことだな、筋肉ばかりの若造が!」

 突然、黒魔術の火球が廊下の遙か先から迫ってきた。怒りで突出していたところを狙われた。黒紫の炎に照らしあげられた黒魔術師の邪悪な笑みを見て、しまったと後悔した。墨のようにどす黒い炎が渦を巻いて迫り、生命の危機に肌が泡立つ。喰らえば確実に死ぬ。おそらく、死よりひどい苦痛を味わいながら。しかしそこは狭い一直線の廊下だった。俺がよければ後ろのアキリヤが犠牲になる。その結論に思い当たった瞬間、俺は打算も計算もなくその場に仁王立ちした。避けようという選択肢すら頭に浮かぶことはなかった。背後で何事か叫ぶアキリヤに首だけで振り返り、安心させようとニッと笑う。彼女のことになると、俺は迷いを捨てて強くなれる。目の前まで迫った火球に気合一閃、雄叫びと共に剣を叩き付けた。しかし、見る間に刀身が腐り、赤錆の砂と化して炎に吹き散らされる。
 次の瞬間、全身が黒い炎に呑みこまれた。衝撃が胸を打ち、身体が後方に倒れていく。直撃された顎が激しく揺れ、朦朧として立っていられない。呪いが全身を駆け巡り、体表に吸収されたようにすっと消えた。不思議と苦痛は感じなかった。太刀打ちできない呪いとはそういうものかもしれないと思った。
 やけにゆっくりとした意識の中で、脳裏を過ったのは走馬灯ではなく、必死の形相で俺に駆け寄ってくるアキリヤのことだった。俺が死んで、残された彼女はどうなるのだろう。アキリヤは強い。なにせ“黒衣のエルフ”様だ。この世界についてもかなり詳しくなった。きっと遜色なく生きていけるだろう。|生きていくだけなら≪・・・・・・・≫できるはずだ。
 しかし、想像の中の彼女は少しも幸せそうではなかった。一人孤独に、かつての暗い森で悲しげに俯いている。アキリヤにはそんな顔はしてほしくない。幸せになってほしい。だが、そこで俺の思考は行き止まった。彼女の幸せとは、そもそも何だ? 俺はそのために、何をしてやれてる……?

 靄のように頭に立ち込めた疑問は、倒れる身体を受け止めた柔らかな感触に遮られた。石畳に後頭部を打ち付ける寸前でアキリヤが俺を抱きとめてくれたのだ。朦朧として見上げる中、彼女の顔から血の気が引き、唇までも青く染まっていく。それはまるで、出会った時の、絶望に沈む顔。「嘘だ、嘘だ」と現実を否定し、|頭《かぶり》を振るアキリヤが俺の頭を胸にかき抱く。「エルフに孕ませた子はさぞや優秀だろう」。黒魔術師の下卑た高笑いが廊下に響く。そして、俺は、

「……痛くねえ」

 むくっと、その場に起き上がった。
 アキリヤと黒魔術師が唖然として絶句する間、俺は腕をぶんぶんと振って自身の調子を確かめてみる。なぜだかちっとも痛くも痒くもなかった。どうやら顎を強く揺らされたことで少しフラついただけらしい。そんなものは気合いで何とかなるものだった。
 勝ち誇っていた黒魔術師が態度を一変させて焦燥の奇声を発した。それを聞いて、これが奴の想定外の事態だということがわかった。「なぜだ」と金切り声を引き連れた炎の連弾が飛んでくるが、胴体にドスンドスンと重い衝撃が走るだけで一向に身体に不調をきたす気配はこなかった。背丈が倍のオークに思い切りぶん殴られたような、|その程度≪・・・・≫の、踏ん張れば堪えられる痛みだった。首を傾げながら観察すると、呪いは身体に染み込んでいるのではなく、皮一枚のところで浄化されているように見えた。身体の表面を薄い泡の皮膜が覆って、その上を炎が滑っていくような感覚だった。人肌のような、優しくて温かい何かが俺を包んで護ってくれている。先程までの疲労すら嘘のようになくなり、むしろ力の漲りが湯水のように滾々と溢れてくる。アキリヤはもう触れてないのに、まるでまだ彼女の胸元に抱き込まれているような温もりを首筋に感じる。
 試しに、そのまま一歩二歩と踏み出してみる。黒魔術師の動揺がさらに大きくなるだけでどんなに近付いても俺の心身に呪いの効果は現れない。気づけば、黒魔術師の顔はすぐ目の前にあった。拳を振りおろせば届くくらい、目の前に。

「ば、馬鹿な。儂の呪いが効かんなど、竜か貴様は」

 ガチガチと歯を鳴らしながら呻いたが、当時はその意味はわからなかった。わかっていても、怒りに身を任せてわかろうとしなかったろう。やせ細った黒魔術師を壁際まで追い詰め、胸倉を掴んで引きずり上げる。ひどく汗だくになって息切れしていた。魔力切れらしく、もう呪いは放てないらしかった。

「り、竜の剣士よ。む、無抵抗の者を殺せるのか? もはや戦うことも出来ぬ、このようなか弱い老爺を?」

 急に媚びるような目つきになった黒魔術師が問いかける。今さらになってどの口がホザきやがる。足元に転がる数多の子どもたちの死体が視界に写った。目も眩むような怒りが頭をいっぱいにした。身体がカッと芯まで熱くなり、血が出るほど握り締めた拳を頭上に振り上げる。しかし、思いがけない声がそれを止めた。

「頼む、カル。|オレの代わり《・・・・・・》に、そいつを、殺してくれ」

 背後から、静かな、でも決然とした声がした。彼女と出会ってから聞いたこともない、怒りと悲しみに冷えた声だった。彼女は、殺人の代行を俺に頼んだ。あんなに人殺しを嫌っていたのに。今まで一度だって、そんなことを頼んできたことはなかったのに。
 俺は振り返らず、黒魔術師の両の目をじっと射抜いたまま、頷きを持って応えた。

「わかった。俺たちで、こいつを殺そう」

 老人が鳥のような悲鳴をあげて、悲鳴をあげられなくなった。断末魔が最期の喘ぎになって、それでも俺は拳を振り下ろした。アキリヤも止めなかった。彼女の頑なな視線を背中に感じながら、俺は拳に骨が食い込むのも構わず殴り続けた。彼女を純粋なままいさせてやれなかった。その不甲斐なさ、情けなさを噛み締め、何度も、何度も、原型がなくなるまで、壁を抉っていると気がつくまで、殴り続けた。

 使い魔が探すまでもなく、女僧侶はすぐに見つかった。地下室へ降りるとすぐ、「アンタのモノなんか入れさせてやるもんか、噛み千切ってやる」と威勢のある咆哮が聞こえてきたからだ。廊を開けて俺たちが現れると一転して笑みを零し饒舌になりかけたが、夥しい返り血を滴らせる俺と俯いたままのアキリヤを見て何があったのかを察し、普段は多い口数をずっと少なくした。
 
 アキリヤが屋敷を燃やすために炎熱魔法を唱えている間、俺は女僧侶に事の顛末と、自分を呪いから護った不可思議な現象について説明し、何か知らないかと尋ねた。女僧侶は心底驚いた顔をして、俺を上から下までじろじろ観察すると腕を組んでしばし左上に目線を放り投げて記憶の沼の底を漁り出した。2、3分ほどして、思い当たる節があったというように再び俺に「まさか」というような目を向けた。が、いつまでたっても口を開かない。いかにも含むものがあるという態度に変えて、そのまま腕を組んでいる。堪え性のない俺が「黙ってないで教えろよ」と口を尖らせると、女僧侶はまるで駄目な子供に呆れるようにあからさまなため息をついて「この王国一の幸せ者め」とボヤいてはぐらかした。「アンタに教えると調子づくだけだから教えてやらない。あの娘の苦労が増えるのが目に見えるわ」の一点張りだ。「助けてやったのになんだよそれは」―――などと恩着せがましいことはさすがに口にしないまでも、少し腹が立った。
 尚も食い下がろうとする俺を、女僧侶は「そんなことより」と強い語気で遮ってきた。

「アンタたち、何歳になったの?」

 突然の質問に面食らった俺は、再三聞こうとしていた質問を吹き飛ばされて、愚直に宙を見ながら指を折る。

「あーっと……たしか、18だ。たぶんアキリヤも」
「もうそんなに経つのね。ねえ、カル。18歳なら、もう十分落ち着いていい年齢よ。そうでしょう?」

 父さんが隣村に住む母さんを娶ったのも18歳だったと知っていた。だから否定はしなかったが、なぜ急にそんな話を始めたのかわからず、目を白黒させて聞き入ることしか出来なかった。

「旅もいいけれど、いつまでも続けられるわけじゃない。それよりも、大事な人と結ばれて、どこかの村で小さな家と畑を持って、子ども作って、一家で耕して……。あちこち転々としてる私が言える義理じゃない。でも、だからこそ、素敵なことだとわかる。とても幸福で、冒険並みに難しい身の振り方よ。私はそう思うし、きっとあの娘もそう思う」

 そこで台詞を切って、いつに無い真剣な目線を俺から屋敷に向ける。爆発ではない、死者を送るための厳かな炎が屋敷を|焚《く》べる前で、アキリヤは幼子のゾンビを抱き締めていた。細肩が漣のように揺れ、ゾンビの顔にポタポタと雫が滴る。
 ふと、幼子の唇が震え、ゆっくりと言葉を発した。唇の動きで、「ありがとう、おかあさん」と告げたことがわかった。その表情は、遠目から見ても安らかだった。俺と女僧侶が顔を反らしたくなる苦しさに苛まれる中、アキリヤは幼子に何事か囁き、まるで本当の母のように腐った頭皮を優しく撫でてやった。呪いから解放された幼子はもう反応しなかったが、彼女は背を引くつかせながら髪を撫で付けてずっと抱きしめてやっていた。その仕草に、俺はかつての自分の母親を思い出した。まだ元気だった頃、暖炉の前で、小さかった俺を胸元に抱いて子守唄を聞かせてくれた母さん。その姿と重なり、切なさで目頭がジンと熱くなった。

「……あの娘は女の子よ、カル」

 真面目な声と表情を貼り付けた、目線はアキリヤに向けたまま、女僧侶は押し殺したような声を絞り出す。

「例え、私に隠してる秘密があっても、男の子みたいな話し方をしても、あの娘は正真正銘の女の子よ。この時代には珍しく人の痛みがわかるほど優しくて、あんたなんかにはもったいないほど最高に可愛くて、旅を続けるにはあまりに情深すぎて傷つきやすい、年相応の女の子よ」

 女僧侶が何を言いたいのか、察しの悪い俺にはよく分からなかった。それでも年上なりに大事な教訓を伝えようとしているのだと本能で理解して、黙ってその言葉を胸に刻んでいった。だけど、視線はずっとアキリヤを見詰めていた。
 燃える屋敷を背景に、アキリヤが泣いている。熱風に晒されて銀髪と黒衣がはためいても、幼子を抱えて悲しげに震えている。その背中は、初めて出会った時から変わらず、小さいままに見えた。彼女は、あの時から、何が変わったのだろう。何を変えてやれたのだろう。

「幸せにしてあげなさい、カル」

 その言葉にハッとさせられ、俺は女僧侶の横顔を見やった。俺一人では辿り着けない、大事な本質を突かれた気がした。明確な答えを求める俺とは視線を交えず、女僧侶は湿り気を帯びてきた声音で続ける。

「あの娘を幸せにしてあげるのよ。大事な人と結ばれて、暖かい我が家で、家族に囲まれながら穏やかな夕日を迎える。そんな、人並みで、至上の幸せを、あの娘にあげるのよ。それがきっと、あの娘と今まで連れ添ってきたアンタに課せられた、御神の|運命《さだめ》よ」

 「私が言ってる意味、わかるわよね」。付け足されたその言葉に、「もうガキじゃないんだから」という意味が込められている気がして、俺は思わずムッとして「わかってるさ」と返した。硬化した俺の態度を見て「本当にわかってるの」とさらに念押ししようとする気配を、視線を反らして遮る。本当は何もわかっていないのに。今なら理解できる。女僧侶は不安を煽ろうとしたのではなく、背中を押そうとしてくれていたことを。だが、ガキはガキ扱いされるのを嫌がり、ムキになるものだ。真意を感じ取るには知恵も余裕も足りなかった。それに、女僧侶もまだ19歳だった。心の内を正確に伝えて、受け取るには、お互いに若かった。
 アキリヤがゆらと立ち上がり、おぼつかない足取りで燃える屋敷に向かう。そうして、幼子の遺体をそっと炎の中に下ろした。幼子は炎に包まれ、穏やかに燃えていく。無念に死んでいった幼子たちが灰となって天に昇る様を、彼女はじっと空を仰いで見送った。幼子たちの魂が、神の御元で本当の母に出逢えるように祈りながら。

 もしも、あの遺体が俺だったなら―――?
 
 不意に、縁起でもない考えが脳裏に泡立って、今まで感じたことのないゾッとした悪寒が背筋を貫いた。事実、そうなりかけた。呪いを防いだ奇妙な現象に護られなければ、俺もああなっていた。いや、もっともっと悪い結末に堕ちていた。俺の死体はゾンビとして利用され、アキリヤは無理やり孕ませられて、意思に反した出産を強いられて、やがて殺されて食われていた。そうなった時に彼女が塗れる苦痛と汚辱を想像して、全身に汗が噴き出る。


『嘘だ、嘘だ』


 目の鼻の先で絶望に淀んでいくアキリヤの瞳が脳裏にまざまざと蘇る。このまま旅を続けていけば、やがてまた同じ目に遭うかもしれない。その時、また奇跡が起きて助かるとは限らない。心のなかで目を瞑っても、一度顔を出した悪夢と悪寒は消え去ってくれなかった。俺にとって何よりも恐ろしい恐怖は、自分が傷つくことでも死ぬことでもなく、彼女が傷つき、死ぬことだ。

 アキリヤが、元は違う世界の人間で、男だったということを知っているのは俺だけだ。だから、俺はアキリヤを同い年の男友だちの延長のように捉えていた。男の俺と同じように考え、同じように感じていると。だけど、女僧侶の言うとおりだ。アキリヤは、女だ。あの背中を見てみろ。肉体はもう、美しくて華奢な、立派な女そのものだ。俺は彼女よりもそのことをよく知っているはずじゃないか。だったら、内面も―――もしかしたら、もう女になっているのかもしれないと考えるのは、自然なことだ。考え方も、感じ方も、女のそれに変わっているのかもしれない。成仏していく幼子をまるで本物の母親がするように慈しむ姿は母性が滲んでいて、尚更にそう思った。
 俺と同じように、アキリヤも二人っきりのどこ行くともない旅を楽しんでくれていると思っていた。何の疑いもなく思い込んでいた。でも、違うのだとしたら? 彼女の願いは違って、俺がむりやり付き合わせてしまっているのだとしたら? 最初に助けてやったという“弱み”に漬け込んで、とんでもなく独り善がりな行為にアキリヤを巻き込んでいるのだけだとしたら?
 まるで地面がなくなったかのような心もとない不安が沸き立ってきて、無性に怖くなった。女僧侶が、最近治安がさらに悪化しているとか、“黒衣のエルフ”の噂が王の耳に届いたらしいとか忠告してくれたが、正直上の空だった。どうしようもない不安が心に爪を立て、思考が纏まらなかった。


 翌日、女僧侶を最寄りの聖神教会に送り届け、俺たちは心身の疲れを癒すこともせずに次の街へ発った。特に打ち合わせたわけではないが、どちらから言い出すでもなく、旅支度を始めた。焼け落ちた屋敷から一秒でも早く離れたかったし、離してやりたかった。
 その日の夜、川沿いに山を登り、水源に近い上流に差し掛かった時のことだ。無言だったアキリヤが突然「止まって」と俺の腕を引っ張った。その視線の先の川辺では、数え切れないほどの旭光虫が発光して一面を七色に染めていた。透き通る水面に映り込む無数の煌めきは、まるで銀色の天の川のようだった。山奥育ちの|自然児≪俺≫には見慣れてしまった風景の一つは―――だけど、別の世界から来たエルフにとっては、思わず足を止めて見入るほどの絶景だった。
 彼女はまるでセイレーンに誘われるように馬から滑り降り、靴を脱いで素足になると、そのまま冷たい清流に踝まで浸した。旭光虫が珍しい客人を歓迎してさらに光を増し、銀の長髪が神秘的に輝く。幾重もの光の膜が彼女を中心にして風のように舞う。教会のガラス窓で似たようなのを見たことがある。たしか―――女神、だった。

「オレがいた世界より、ずっと綺麗だ」

 星が流れる川で、光の中心に佇む彼女がそう囁いた。女神が美しいと感じるのなら、それは間違いなく、最高に美しい光景なのだろう。最悪な思いをしても、それでもこっちの世界は美しいのだと……美しいお前に相応しい、お前が留まるだけの価値がある世界だと、伝えたかった。でも、俺にはそんな回りくどく難しいことを伝える頭は無かった。
 だから俺は、見惚れるアキリヤの傍にそっと寄り添い、彼女が見飽きるまでずっと付き合ってやった。

 この女を幸せにしてやりたい。今まで一緒にいてくれた彼女に報いたい。それは自分の義務だと、心に決めた。でも、アキリヤにとっての幸せとは何なのだろうか? 旅を続けることなのか、どこかに落ち着いて誰かと一緒に安らかな日々を送ることなのか。もしそうなら……そこにいるべきは俺なのだろうか? 
 その時から、俺の頭はその厄介な疑問に悩まされることになる。今思えば、腹を決めてしまえば答えは手の届くところにあった。だというのに、ガキの俺はずいぶんと遠回りをしてしまった。一生、頭の上がらない恥ずかしくて情けのない思い出だ。

『俺のエルフが、チート魔術師で美少女で、そして元男な件について。 』を投稿しました。 

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 タイトル通りです。まずはハーメルンさんに投稿させて頂きました。『俺のエルフが、チート魔術師で美少女で、そして元男な件について。』
 近々、最終話まで完成したら小説家になろうさんにも投稿しようかと考えていますが、マイページを見なくなってはや数年が経つため、なんだか顔を出しにくいという自業自得なジレンマに陥っています。誰も見てない、誰も気にしてない、自意識過剰だ、大丈夫だ。そう自分を納得させようとするんですが、でも怖くて顔を出せない……。つくづく臆病者ですね。自分がどんな評価をされてるのか、知りたいような、知りたくないような。書きたいものを書ければいいという建前と、でも誰かに評価して欲しいんだという本音のジレンマ。つくづく偏屈者ですね。ていうか、この小説のエッチ加減が、ノクターンレベルなのか否かの判断がつかないので悩みます。いっそのこと、ハーメルンさんだけの投稿でもいいかも……と逃げたり。

 さてさて、今作については、紙面上でほぼ完成しているのですが、パソコンに入力する時間が現在限られているので進みはボチボチです。本日31日の夜に、また4話目を更新できるか出来ないか、という感じです。パソコン様の調子もよくないので上書き保存とドロップボックスへの保存連打の日々です。早くボーナス来い!!

 とにかく。この小説は、自分が書きたいと思った、ある意味僕が思うTS小説の一つの局地を目指して書いているものです。『エルフになって勇者と一緒に魔王を倒しに行くお話』で書きたいと思っていたけど、そちらではキャラが合わないので書けないなと悩んでいたネタを注ぎ込みました。さて、どこまで通用するのか、誰の共感を得られるのかは正直不安です。自己満足で終わるかもしれません。まあ、その時はその時ということで、後で自分で読み返してニヤニヤできればいいかな、と思ってます。でも、願わくは、誰かの心にビビッと電気を流すことができれば嬉しいですね。ではでは、おやすみなさい。皆様よい夢を。

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どもども。主(ぬし)です。駄文書きです。趣味は映画と小説とニコニコ動画です。灼眼のシャナやFate/zeroのSSなどを書いてます。小説の小ネタや、短編SS、映画のレビューやちょっとした雑記などを掲載していこうと思います。

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