性転換

エルフになって勇者と一緒に魔王を倒しに行く話 ※リメイク版

 ←エルフになって勇者と一緒に魔王を倒しに行く話4 6/18 微妙にリメイク →※後で消す
指摘してもらった箇所や後から思いついたアイディアを元に、一話から三話までをリメイクしてみた。たまには前の作品をリメイクするのも気晴らしになるし、楽しい。



第一幕 「ガッシ!ボカッ!」アタシは死んだ。スイーツ(笑)



『頑張ってね』
「……ほわい?」

通勤通学ラッシュでごった返しの駅のホームはいつも通りに見えて、いつも通りじゃなかった。席に座りたいがために早起きして最前列に立ったのもいつも通りでないと言えばそうなのだが、すぐ後ろから初対面の女に突然エールを送られたことの方がよっぽど非日常的だ。
唖然として振り返った俺に、透き通るような涼やかな声の女が微笑みを返してきた。スーツと学生服に囲まれた中、その女だけが見るからにファンタジーなひらひらした服を着ている。人種は白人っぽい。顔立ちは芸術的なまでに整っていて、美少女なんて言葉じゃ足りないほどだ。
だけど一番不思議なのは、こんな異常そのものの人間が混じっているのに、周りの人間は誰も驚いたり見つめたりしないことだ。それどころか、一人だけ反応を示している俺にばかり奇異の視線を向けてくる。
なんなんだ、この激しいアウェー感は!?もしかしてドッキリか何かか?
ちょっともーやめてくれよー!髪型とかボサボサなんだけど!ドッキリ仕掛けるのなら前に言ってもらわないと困るよ!!
目を白黒させてキョロキョロと慌てふためく俺に、唐突に女が「ごめんなさい」と頭を下げた。曇った表情もまた美麗で、思わずドキリと胸が震えた。

『私たちは、結局アイツに負けた。ううん、戦いを諦めた。やがて必ず訪れる災厄から顔を背け、目の前の幸せに飛びついた。だって、私はもうあの人から離れられなくなっていたから。あの人と離れるくらいなら1000年も後のことなんてどうでもいいって思ってた。
でも、そのせいでまたたくさんの人たちが死んでしまう。悲しい思いをしてしまう。だから、お願い。あなたはどうか、私の辿った過ちを繰り返さないで。アイツに負けないで』
「えっ?えっ?さっぱりワケワカメなんですけど!?いったいどういう―――」


――― くっくっくっ、君に決めた!


「こ、今度は頭の中で声が!?まさか俺はスタンド攻撃を受けているのか!?」

脳みその真ん中で風船がいきなり膨張したみたいに、低い声が頭蓋骨をぶわんと圧迫した。
衝撃で頭が揺さぶられて視界が右に左に激しくブレる。三半規管が機能を停止したせいで身体のバランスが一瞬で崩れて足元も覚束なくなる。
ま、間違いない!承太郎、気をつけろ!スタンド攻撃を受けているぞッ!!

『アイツに見つかった。もう時間がない。私が教えられることも少ない。アイツの言葉には気をつけて。絶対に信用してはダメ。アイツには悪意はない。だからこそ、とても恐ろしい。
それと……いつも近くにいてくれる人を大切に想ってあげて。最初は抵抗あるかも知れないけど、いつか必ず、あなたにとって大事な人になるから。“俺”はそうだった』
「なに、を、言って―――」

女が遠ざかる。駅のホームも、驚く群衆も、響く悲鳴も、全てが遠ざかる。
背中に冷たく硬い感触がぶつかるのを感じる。ぶっとい鉄と、ゴツゴツした石の感触。
ぷぁあん、と間抜けな音を引き連れて、塊のような風圧が真横から叩きつけられる。
巨大な何かがすぐ近くまで迫っている。これに当たれば死ぬ。きっともう避けられない。

避けるのを諦めて女を見上げる。悲しそうに、悔しそうに、唇を噛み締める女の銀髪が、風に舞ってキラキラと煌めく。浮き上がった長髪の下には、異常に尖った耳があった。
あれは、まるで―――

「エル

そこから次は紡ぐことが出来なかった。俺は電車に轢かれて、一秒にも満たない時間で木っ端微塵になって死んでしまったのだから。
運に恵まれていたわけでもなく、不幸だったわけでもない。金持ちでもなく、頭脳明晰でもなく、イケメンでもなく、スポーツ万能でもない。でも、貧乏でもなく、ド低脳でもなく、ブサ男でもなく、運動音痴でもなかった。生まれる時代が違ったとか豪語できるほどの才能も持っていない。

思い返してみれば、実に中途半端で平々凡々な人生だった。

だから……もしも次の人生があるのなら、その時は思いっきり贅沢に謳歌してみたいものだ。





「カーク・アールハント、ご喚問に応じて参上仕りました」
「うむ」

首都西地区の騎士団を纏める中隊長は、こちらに目を向けることもせずに兜の飾りを磨いていた。希少な動物から採れる油を絹布に浸し、まるで子どもを慈しむように磨きこんでいる。これでは、「中隊長は鎧の輝きで敵を倒す腹積もりだ」という噂が流れるのも致し方ないだろう。
溜め息を吐いて退出したかったが、こんな役立たずでも上官であることに変わりはない。というより、貴族のボンボンで構成された騎士団ではこいつのような肩書きだけの似非騎士は珍しくない。いちいち憤慨していたらキリがないのだ。
直立不動のまましばらくじっと待っていると、兜を磨き終わって満足した中隊長がじろりと俺に目を向けた。意地の悪い、典型的なムカつく貴族の笑顔だ。

「おい、低級騎士。貴様に特別な探索任務を与えよう。今すぐに、『聖禁森』に出立しろ」
「は?『聖禁森』ですか?しかし、あそこは聖地として封印されているはずでは……」

聖禁森とは、ある伝説の始まりの聖地として封印されている森のことだ。周囲を高い塀で覆った森は、騎士団の許しがなければ入ることは出来ない。探索もされていないため、広大な森の中がどうなっているかは誰にもわからない。首都の近くにありながら人智の侵入が許されない、特別な場所だ。
もちろん、幼い頃から伝説を子守唄がわりに聞いていた身としては実際に入ってみたいという興味はある。しかし、今は森の探索などしている場合ではない。騎士は全員が大遠征を間近に控えているのに、なぜいきなり探索など言い出すのか。
不審に眉を顰める俺に、中隊長は嘲笑うようにふんと鼻を鳴らす。

「如何にも。本来なら貴様のような平民出身の賤民が立ち入って良い場所ではない。しかし、皇帝府からの勅令なのだ。我ら騎士団の討伐軍に加わる名誉には遥かに劣るだろうが、正式な任務には違いない」
「こ、皇帝府から!?」

皇帝府とは、皇帝の御意を得てそれを下々に伝えるための皇帝直属の意思決定機関だ。そこが特定の低級騎士に命令を下すなど、本来ならありえないことだ。

「先日、御前会議が行われたのは知っているな?その場において、エルフ教徒のズモス大臣らが、何をトチ狂ったのか与太話を陛下に上申したのだ。騎士団は名誉ある大遠征の準備に忙しく、どこの貴族家もそんなくだらぬ用事のために人出を出せない。陛下もそれを汲んで下さったのだろう。平民出身の貴様が、その与太話の証明者に選ばれたというわけだ」

くつくつと低く喉を鳴らし、中隊長が机の引き出しから何かを取り出す。それは丸められた命令書だった。最上質の紙と皇家の紋様が、それが皇帝符が発布したものだと示している。
低級騎士が受け取るには恐れ多いそれを手渡され、思わず手が震える。

「まあ、読んでみるがいいさ。しっかり任務に励めよ、『使者』さん?」

言われるがままに封を開けて目を通す。次の瞬間、自分の目が信用できずに目頭をぐいと揉んだ。もう一度読んでみるが、内容が変わることはない。
そこに書いてあったのは、信じられない命令だった。

「伝説のエルフを連れてこい、だって―――!?」





「あー、これは間違いなくエルフだな」

波一つない鏡のような湖面に映るのは、異常にでっかい銀色の月と、鬱蒼とした葉葉の影と、エルフ―――つまり俺の顔だった。

しかし、美少女になったもんだ。原型がどこにもないじゃないか。目と鼻と口のパーツの数と位置が同じなだけで、造形がまるで違う。前の俺の顔が、小学生が夏休み最終日に鼻くそほじりながら片手で作った粘土細工だとしたら、今の俺は国宝級の超一流造形師が絶命する間際に完成させた至高の芸術品、といったところか。
シミ一つない病的なまでに真っ白な肌、繊細な銀細工のような長髪、もはや手の加えようもない可憐な容貌、しなやかな体躯は完璧な黄金比を体現している。何分見続けても飽きることがない。
つーか、人種からしてまったく違う。俺は日本人そのものの平凡な顔立ちだったが、今ではすっかり白人っぽくなってしまった。唯一どちらとも違う点は、

「うっわ、耳すげー尖ってるし。本物だよこれ」

耳だ。耳輪の部分が後ろに向かってぴんと突き出している。ファンタジー映画やゲームで見たエルフそのまんまだ。その上、背中に流れる髪はうっすらと発光して輝いている。光ファイバーで出来てんのか?と疑って調べてみたが、手触りがめっちゃ気持ちよかった以外は普通の髪の毛だった。
他にも身体中をできる限り調べてみたが、下の毛も銀色だったということ以外は人間と同じ作りをしていた。宇宙人とか妖怪とかその類ではなさそうだ。
よーするに、俺はエルフになったのだ!なんかもうそれでいいや!

「はて、俺はエルフに転生するようなイベントに遭遇したっけか?」

そういえば、何か大きくて速いものにぶつかった記憶がある。その時の記憶が霧がかったようにボヤけていて定かではないのだが、多分あの時に俺は死んだのだ。あれがキッカケになったのだろう。しかし、どうしてエルフになったのかはまったく検討もつかない。気付いたら森の湖のほとりにぼーっと突っ立っていたのだ。
あ、そういえば、声を聞いた気がするぞ。アンプがぶっ壊れそうなくらい低い声で、「くっくっくっ、君に決めた!」とかわけのわからん台詞が。
んー。ま、いくら考えても仕方がないか。死んじまったら死んじまったで、今はこの身体を楽しもうじゃないか!

ええじゃないかええじゃないかと身に纏っていたワンピース?を脱ぐ。細かいところは気にしないのが俺のいいところなのだ。どんな状況も楽しんでみせるのが真の男の余裕ってもんだ。今は女だが気にしちゃダメ!
丈長のワンピースらしき純白の服は、ぺらっぺらに薄いくせにやけに生地がしっかりしてて脱ぎにくかった。ナイロンみたいに肌触りが良くて脆そうだが、多少力を込めても破れそうな気配はない。エルフ専用装備かなんかか? 今気付いたが、この服も微妙に発光してるし。

服を脱ぎ捨て、同じく純白のブラジャーとパンツもその上に放る。人生で初めて女物の生下着をまじまじと見られることに興奮する反面、自分の下着にハァハァしている自分が無性に気持ち悪くなったので視線を外す。

「さ、気を取り直して、水浴び水浴びっと!」

目の前には謀ったように美しく澄んだ湖が広がっている。これは水浴びフラグってことに違いない。真っ裸になって自分の美貌を再確認しなさい、という天の粋な謀らいだ。

一歩、湖に足を進める。湖水のひんやりとした突っ張るような感覚が形のいい指先からふくら脛を伝って太ももをふるふると震わせる。おおう、すげーエロい。
身体を冷温に馴染ませながらゆっくりと水に身体を浸けていく。はぅ、と思わず唇から漏れた声が超絶的に色っぽい。
腰のあたりまで浸かったところで動きを止めて湖面を見る。
再び鏡に戻った湖面には、女神が映っていた。
きゅっと引き締まった腰のくびれ、水蜜桃のように瑞々しいおっぱい、柔らかそうな華奢な撫で肩、見るからにスベスベしてそうな鎖骨、柳のように細い首……。やばい、自分で自分に惚れそうになってきた。

ん?なんか向こうから光が近づいてきたぞ。ホタルにしては強い光だな。しかもでけえ。よーく見たら、なんか人間みたいな形してやがる。リカちゃん人形くらいのサイズだ……。
うおっ!これティンカーベルじゃね!?妖精さんじゃねえか!透明な羽根も生えてるし!可愛いし!
妖精さんおっすおっす!初めまして!


「くっくっくっ……」


……アンプがぶっ壊れそうな低い笑い声。おい、まさか。

「私だ」
「お前だったのか」

じゃねーよ!!何言わせてんだよ!!

「君に決めて正解だったな。これからおもしろくなりそうだY☆」
「何一人でニヤニヤしてんだ!その声、お前だろ!俺をエルフにしてこんなとこに連れてきたのは!」

腹黒そうな笑みを浮かべたティンカーベルがひらひらと俺の目の前まで近づく。

「いかにも、全て私が行ったことだ。自己紹介が遅れたが、私は“神”だ。君の世界と、この世界―――“セシアーヌ”を管理している。
今回君にこちらの世界に来てもらったのには重要な理由があるのだ。だが、まあ、」
「なんだよ?」
「その話は第一村人から聞くといい」

はあ?何言ってんだこの厨二神は。いいからさっさと説明汁――――


(ガサッ)


「っ!?」

尖った耳は伊達じゃないようだ。後方で、茂みを揺らす生き物の気配を察知する。大きさはちょうど人間くらいだ。
その人間から、何やらぞわぞわとした嫌な感情が向けられている気がする。覗きか!?ゆ、許さん……絶対に許さんぞ虫けらめ!じわじわとなぶり殺しにしてくれる!
不意を突かれた焦りと、無意識に掴んだ湖底の石ころが投擲にちょうどいい大きさだったため、音のした方向に振り返りざまに力いっぱいぶん投げる。
うおっ、すげえ豪速球!160は出たんじゃないか!?エルフの運動神経マジぱねえ!


「くッ!?」(キンッ!)


ぇえええええええええええええええええ!?なんか剣で弾かれたみたいなんですけど!?なにそれこわい!!どういう鍛え方したらそんなこと出来んの!?

察知されたことに気付いた人間?がざざざっと茂みをかき分けて急速に近づく。足疾っ!やばいまずい怖い!
無駄だともわかりつつも再び湖底に手を突っ込んで石を掴み上げ、

「待て!待ってくれ!襲いに来たんじゃない!俺の話を聞いてくれ!俺には、いや世界には貴女が必要なんだ!」

飛び出してきた男の必死の叫びに動きを止めた。


――――え?告白?


第二幕 ファンタジー世界も大変だ



『幸せな日々を送っていた人々の前に、魔王は突然現れました。魔王は強くて恐ろしくて、人々をとても苦しめました。
王様は、強くて優しい若者を勇者に選びます。
しかし、魔王を倒すためには長い長い冒険をしなければなりません。
疲れ果てている勇者が湖で休んでいると、勇者の前にとても美しい女の子が現れました。
“エルフ”という特別な力を持った女の子は、勇者と共に魔王を倒すことを約束しました。
エルフの助けを得た勇者は、多くの危機を乗り越え、冒険を成し遂げることができました。
二人は魔王を倒し、人々は再び平和で豊かな毎日を過ごせるようになったのです。
めでたし、めでたし。』

セシアーヌの民ならば知らない者などいない伝説。
1000年前に起きた、魔王による人類殲滅の企てと、セシアーヌの魔界化を食い止めた勇者とエルフの話だ。寿命が長いことで知られるドワーフ族の最長老がさらに4倍は長生きでもしないと生き証人になれないくらい大昔の話だが、各地に伝わる遺跡や言い伝えが伝説を裏付けている。

「“使者”の前にも現れてくれるといいんだがな」

立ち止まり、荒い息の中で自嘲気味に漏らした台詞はどこにも跳ね返らずに暗い森へ吸い込まれていった。
ここは『聖禁森』。かつて1000年前、勇者がエルフに遭ったとされる湖がある広大な森だ。いつもは禁断の聖地として完全に封鎖されている。なぜその森で騎士団の一員である俺が半日も駆けずり回っているかというと、“エルフに遭う必要がある”からだ。

つまり、魔王が復活したのだ。

どうして倒したはずの魔王が蘇ったのか、前回の魔王とは別物なのか、などの疑問を解消させる暇は与えられなかった。
1000年もの間ぬるま湯に浸っていた人類は、久方ぶりの強大な外敵に対してあまりに無防備だった。城壁は建築材にされ商店となり、武器は溶かされて調理器具になり、戦士という言葉はとうの昔に忘れ去られていた。そんな人類が異形の化け物を従えた魔王軍の侵攻を跳ね除けることなど不可能だった。
魔王軍は1000年かけてじわじわと広がった人類の勢力図をあっという間に削りとった。今、人類に残されたのは、首都タルトスとその力が及ぶほんの僅かな周囲の都市のみだ。切り立つ巨大山脈のうねりに四方を囲まれた巨大な天然の要塞は、今のところ魔王軍の侵入を許してはいない。しかし、それも時間の問題だろう。

「こんなことをしている暇はないというのに……」

休憩は終わりだ。乱れた呼吸を整え終えると、いるかいないかもわからないエルフを求めて軍馬も立ち入れぬ鬱蒼とした森をひたすら中央に突き進む。

エルフ―――その種族名以外、どこから来たのか、仲間がいるのか、どんな文化を持っているのか、そもそも実在したのかも一切不明の謎めいた存在。
伝説によると、

・ 誰もが見惚れる見目麗しい容姿をしており、髪は銀色、肌は粉雪色、耳は尖っている。
・ 自然との親和性が非常に高い。森や湖といった自然に接している限り、大地のマナを糧にすることができるため、飢えることも死ぬこともなく、寿命も長い。エルフを介して近くにいる人間の自然治癒力も高められる。また、動物や妖精との会話や使役も可能。
・対魔力に優れ、神性も高い。魔族にとっての天敵。
・視力・聴力といった察知能力に長け、運動能力も人間とは比べものにならない。
・独自の言語・文化・思想を持ち、人類の及ばない膨大な知識を有する。

などといった反則めいた特徴があるらしい。
これら全てが本当なら、たしかに勇者が魔王を倒すことが出来たことも頷けるだろう。「エルフは人のために神が遣わされた救世主」「エルフこそが女神」というエルフ教徒たちの説も納得できる。

だが俺はというと、エルフの伝説をあまり信じてはいなかった。
元小貴族とはいえ、平民の身に落ちれば貴族集団の騎士団への入隊は限りなく難しい。鍛えに鍛えた剣の腕だけで騎士団の小隊長にまでのし上がるには、それなりに現実的な思考をしなければならなかった。
そうやって培われてきた経験が、エルフの伝説は眉唾ものだと訴えている。『困っていると、反則のような能力をたくさん持った美少女が助けてくれました』なんてのは、後から付け加えられた都合のいいお伽話だと考えるのは当然だ。エルフ教徒以外の人間はみんな同じ考えだろう。誰もが信じているのなら、使者ではなく“本物の勇者様”を寄越したはずだ。

本物の勇者様は今頃、出征式の予行演習で大忙しだろうな。
心中でそう吐き捨て、本物の勇者―――騎士団大隊長、サー・クアム・ガーガルランドの嫌味な顔を想像の中でぶん殴る。

皇家と同じ血統の大貴族ガーガルランド家を背景に持ち、財力と名声で騎士団の大隊長の座を“買い取った”男。来週末より始まる魔王討伐の大遠征には騎士団全員となけなしの魔術師団を引き連れて進軍する予定だ。
元々、首都の防衛のための中規模戦力でしかない騎士団のどこにそんな余裕があるというのか。
そもそも、貴族の次男三男の寄せ集めにしか過ぎない今の騎士団は連帯意識など皆無だ。一人ひとりの剣の腕は並以上でも、まともな集団模擬戦闘はほとんどしたことがない。そんな烏合の衆が、巨大な魔王軍に斬り込んで果たして勝算はあるのか?
1000年前に勇者が単独で行動したのは、魔王軍との正面衝突を避け、ピンポイントで敵の中枢を討つという戦術を選んだからではないのか。
あの男にはそれすらもわからない。いや、わかっていても実行できない。単騎で敵陣地に乗り込む勇気などカケラも持ってはいないからだ。1000年前の勇者がクアムを見れば、きっと一刀の元に切り捨てるだろう。1000万ソータム賭けてもいい。

……本当にエルフがいたとして、彼女に今の人類を救ってくれと心から頼み込めるだろうか。勇者について説明を求められたら、俺はどう取り繕えばいいんだ。
考えれば考えるほど憂鬱になってくる。もうこのまま引き返して、エルフはいなかったと報告してやろうか。しかし、引き返しても来週末には無謀な出征が待っている。俺みたいな平民出身の騎士は真っ先に突っ込まされて八つ裂きにされるのがオチだ。魔族から人々を護るために騎士団に入隊したのに、そんな結末では犬死に等しい。
戻ってもろくな最後にならないのなら、せめてこの静かな森で野垂れ死ぬのも悪くないか……。

くそっ、疲労のせいで考えがいちいち後ろ向きになってしまう。もっと携帯食料と水を持ってくるべきだった。せめて馬に乗れればよかったのだが―――

「……ん?」

頭を振ってネガティブな思考を振り払っていると、その揺れる視界に小さな光が入った。ひらひらと蝶のように舞いながらも意思を持って宙を飛んでいる。目を凝らせば、その後ろ姿は小さな人間にも見えた。
本でしか見たことないが、あれは―――妖精?


エルフは妖精と会話し、使役する。


高揚の波が疲労を押し流すのを知覚した。半信半疑な感情を引きずりながらも、身体はたった今見つけた希望に向かって突き進む。前を塞ぐ木々を腕を振り乱して掻き分ける。
さっきまで黙りこくっていた直感が進め進めと煽っている。第六感がこの先に“いる”と叫んでいる。

視線の先で、光が消えた。見失ったのではない。より大きな銀色の輝きに打ち消されたのだ。月光を反射して淡く光る湖面。その湖にあって、自ら鮮烈な輝きを放つ銀色に。

「×××!××!」

聞いたこともない言葉が聞こえた。セシアーヌには一つの言語しかない。ドワーフ族やハイゴブリン族といった亜人類が使用する方言が何種類かあるくらいだ。


エルフは独自の言語を持つ。


まさか、まさか、まさか!

心臓がドクンドクンと痛いくらいに高鳴る。肩を上下させるほどに息苦しかったが、それすら意識の外に追いやられた。ゆっくりと歩を進める。視界を遮っていた最後の葉をそっと払う。


「―――、―――」


息を、呑んだ。

何もかもが美しかった。宝石そのものだった。所作一つ一つが絵画のようだった。
腰まで伸びた純銀色の長髪。
向こうが透けるような純白の肌。
長い睫毛の下で瞬く、涼しそうな銀の双眸。
すうっと流れるような鼻梁。
きゅっと結ばれた淡い桜色の唇。

高貴さと気品に満ちた絶世の美少女が、俺の目の前にいた。

欲しい、と思ってしまった。平民出身とはいえ俺も騎士の端くれだ。規律や規範は人一倍持っているつもりだった。少女を目にして欲を浮かべるなどあってはならないことだった。
だが、抑えられなかった。抑える気すらも起きなかった。
肉欲、支配欲、独占欲。欲と名のつく感情が後から後から溢れ出し、身震いを起こさせる。

もっと見たい。近くに行きたい。

無意識に突き出した腕が邪魔な茂みを掴み、


(ガサッ)


「××っ!?」

――――っ!!しまった!俺は何をしているんだ!

ハッと見れば、エルフが流れるような動作で湖に手を突っ込み、振り向きざまに石を投擲してきた。咄嗟に抜刀してそれを弾くことが出来たのは、ほとんど偶然だった。

「くっ!?」(キンッ!)

なんて俊敏さだ!亜人族にだってこれほどの動きは出来ない!
痺れる腕を下げれば、エルフが再び石を投擲しようと振りかぶっていた。次を防げる自信はなかった。
剣を放り捨てて傷つける意思がないことを示し、飛び出す。

「待て!待ってくれ!襲いに来たんじゃない!俺の話を聞いてくれ!俺には、いや世界には貴女が必要なんだ!」




第三幕 第一村人との遭遇




拝啓、お母さま。突然茂みから飛び出してきた見るからにリア充っぽい細マッチョさんが、なんか必死そうに話しかけてきてます。とりあえず爆発しろと言うべきでしょうか?

なんだか無性にムカつくので、こいつは村人Aとでも呼ぼう。
顔立ちは、まあまあ整っている方だろう。黒髪黒目で、肌色は若干浅黒い。何より目立つのはその装備だ。革の服と金属の鎧と西洋剣のハッピーセットなんて、まさにファンタジー装備そのまんまじゃん。どこのコスプレ会場から来たの?って感じだ。
俺がじ~っと観察していると、村人Aは頼みもしないのに勝手にべらべらとこの世界の設定を話し始めた。マジでNPCだったのかこいつは。

んで、その説明によると設定はこうだ。

① 自分は無害である。
② 現在魔王が絶賛侵略中で人類涙目。
③ 大昔にエルフが勇者と一緒に魔王を倒してくれたというありがたい言い伝えがある。
④ エルフはスンバラシイチート能力をたんまり持ってる伝説のスーパーエルフ人。
⑤ ぜひぜひ勇者と一緒に魔王討伐にご協力くだしあ><

なんかすっげーめんどくさそうなんですけど……。
そうそう。この村人Aの話を聞いててわかったことだが、俺はどうもこっちの世界の言葉が理解できるみたいだ。日本語とはまるで違うが、なーんとなく言ってることはわかる。二ヶ国語操れる奴はこんな感覚なのかもしれん。これは便利だ。

しかし、「勇者と一緒に魔王退治」か。嫌だなぁ。エルフ様は崇め奉られる存在だそうだし、王宮とかでチヤホヤされながらワクワクドキドキセレブライフを満喫しときたい。前世?では若くしてあの世行きしちゃったんだし、せっかくの新しい人生は幸せの絶頂を味わいたい。つーか、そういう厄介事は現地人が何とかすればいいじゃない!

「あなた方は軍隊などをお持ちではないのですか?」

……(・3・)アルェー?
俺はたしかに「あんたら軍隊とか持ってねーの?」と言ったはずなんだが……。どうもこっちの世界の言葉を使おうとすると拙いというかお固い感じになってしまうみたいだ。ま、いいか。内容が変わるわけじゃないしね。

「っ!」

俺の質問に村人Aはぎくり!とわかりやすーい反応をしてくれた。

「騎士団は、あります。しかし、現状を打破できる戦力かと問われれば……」

なるほど。頼りにはなりませんってわけね。嬉しいご報告どうも!これで俺のセレブライフ計画がパーだ。俺を崇め奉ってくれるのは人間だけみたいだから、その人間がみんな殺されてしまうと意味が無い。
いやいや、でも待ってくれよ。ろくな戦力もないのに、エルフ一人が颯爽と降臨した程度で事態が好転するのかよ?んなわけねーだろ常識的に考えて!

「共に討伐を行う勇者に素質があれば問題はないぞ。前回も勇者とエルフの二人のみで割りとスムーズに魔王を倒せたしな。魔王軍は魔王さえ倒せば散り散りになる」

と、ハスキーボイスのティンカーベルが隣でなんか言ってます。
これもさっき気付いたんだが、この妖精(神)の言ってる言葉は村人Aには言葉として認識されないらしい。エルフは妖精と話せるって設定はこういうことなのか。

しかし、こいつの言ってることはたしかに正論ではある。騎士団とやらが頼りにならんのなら、むしろ勇者とこっそり魔王んとこに忍び込んで寝首掻けばいいかもしれん。前回もそれで何とかなったと神さま本人が言ってるわけだし。

「……神さまがなんとかすればいいんじゃねーの?」
「いくら神でも、直接の介入は出来ないんだよ。ご都合主義というやつだ」

何とも役立たずな神さまだことで。
魔王にこっそり近づくとしても、かなり優秀な勇者じゃないと不安だ。俺(エルフ)の能力は基本サポートだ。スパロボの精神コマンドみたいなことしかできない。ボスボロットにいくら『必中』とか『熱血』掛けたってほとんど意味が無いことと同じで、弱い勇者だと大して効果はない。逆に、勇者が優秀であればあるほど俺の精神コマンドの効果も高くなり、俺の生存率=セレブ生活実現率も高くなるってわけだ!
そうなると当然気になるのは、

「それで、あなたが勇者なのですか?」
「っ! い、いえ、私は、ただの使者、です」

お前じゃないのかよ!だったら、すげえ剣さばきとかするなよ!紛らわしい!

「では、私を勇者の元へ案内してください」
「この世界を助けてくださるのですか!?」

今更何いってんだコイツは。そうしないと俺のセレブ計画がなくなるんだっつーの!

「当然です。さあ、早く」
「ありがとうございます!ただちに王都に―――あ、うわ、え、エルフ様!?」

ああ?なんだこいつさっきからしどろもどろになるは顔を真っ赤にして目を背けるは―――あ、しまった。俺まだ裸だ。

「すいませんが、少し、後ろを向いていてもらえますか?」
「は、はい!」

今更になって顔が熱くなってきた。真っ裸で「当然です(キリッ」とか恥ずかしすぎだろ常考……。エルフ様マジ痴女!とか思われてるんだろうか。あー、恥ずかし。さっさと服着よ。

「くっくっくっ。今回もおもしろいものが見れそうな気がするY☆」

うるせー!世界が大ピンチだってのに、ずいぶん軽い神さまだな!
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~ Comment ~

 

導入部が加わったことにより唐突感は消えたのかな?
私は唐突さも楽しめる口だから問題有りませんでしたが(´・ω・`)

先代エルフとの交信というのは良いアイディアだと思います。
妖精さんは相変わらず怖いね。善意からくる害ほど質が悪い物はない(`・ω・´)キリッ
カークは現状は可哀相ですが、今後を考えると・・・・・・うん、爆発しろ。
異性に対する無防備さ+美少女とか羨ましすぎるな。交代できるなら私の初めてを捧げてやってもいい。

ともあれリメイクお疲れさまでした。

面白れ~! 

う~む、面白い。これからの展開も読んでてかなり期待してしまいます。これからも頑張ってくださいませ~!

 

おお、なんだか洗練された感じがするな!主様の妄想の集大成と言うのが解る気がする・・・。
妖精さんはQB並に邪悪ww

主人公の、熱さも適度にちりばめられて、なんだか今度のエルフは一人前に生きてるなって感じがしました。

ありがとうございました!

 

>悦さん
リメイク前は世界設定やらの説明が不足していたように思えたので、シーンを増やしてみました。それとなく世界観や物語の雰囲気を導入部に据えてクッションのようになればいいかな、と。唐突感は消えてしまいましたが、それらをストーリーの新鮮さでカバー出来ればいいなと思います。
先代エルフとの接触は、自分でも後々に利用できる良いアイディアだったと思います。最終回とかのフラグに使えたらいいなぁ、なんて漠然と考えとります。
この作品は最終回のアイディアも何を描きたいかという目的も決まっていないため、迷走する不安が常につきまとっています。早めに決めておきたいです。

>名無しさん
コメントありがとうございます!!
ファンタジー小説は大抵が長期化してしまうため、この作品を手がけるのは大変な苦労を伴いそうです。じっくりゆっくり書いて、ある程度方向性が見えてきたらなろうさんかarcadiaさんに投稿させて頂こうと思います。何時になるかはわかりませんが……。
オリジナルを手がけるのは本当に久しぶりなので、ちょっと不安です。

>お揚げ中毒者さん
お目に叶ったようで、ホっとしております。主人公が新しい世界に全力でぶつかっていく様子を描けたらいいなと思います。この飄々とした性格のチートエルフに、どうやって挫折や苦悩を味わわせるかが現在の悩みどころです。あと、妖精さんの本性もジワジワと出していきたいです。この作品はけっこう苦労しそうです。うむむ。

 

俺がそうだった。
これは名言。マジで思った

 

>アンディさん
嬉しいこと言ってくれるじゃないの!
先代エルフのその台詞は何となく思いついたものですが、自分でも気に入っています。この一文で、先代エルフもTS娘さんだったことがわかるし、先代エルフの境遇とか性格とかにも想像が膨らみます。こういう良い思い付きが湯水のようにもっと湧いてくればいいのに。
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