性転換

『エルフになって』冒頭部試作改

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たくさんの人からアイディアを貰える、とても幸せものなこの作品。忘れないようにとアイディアを固めていったら、いつの間にかけっこう書き進んでます。せっかくバーサーカーを書かないといけないんだけど、義務感に襲われて執筆すると面白いものが書けないので今はただ書くことだけは止めないようにして頑張ります。


 妖精がエルフの傍から姿を消してしばらく、俺はエルフと二人きりで皇宮に向け馬を走らせていた。狭い悪路が続く平民街だが、エルフを伴って貴族街を通れば立ち待ち衆目に囲まれて身動きが取れなくなるだろうことを考えれば、夜らしく人気のないこちらの方が遥かに早く皇宮へ到着できる。貴族街は街灯のために油を惜しみなく燃やしているから、深夜でも通りから人の通りが絶えることはないのだ。
皇宮へ馳せ参じるのは、まだ幼かった頃に父に連れられて現皇帝の誕生祝典に参加した時と、3年前に騎士団入団式に並んで以来だ。一度目は貴族として、二度目は平民として、三度目は勇者として皇宮に立ち入るというのだから、人生は何があるかわからない。

皇帝陛下を直に前にして醜態を晒さないように、大昔に家庭教師に習った宮廷作法を必死に手繰り寄せる。貴族の一員として、俺も|あの日《・・・》まではいっぱしの貴族教育を受けてきた。今は亡き我が父パイク・アールハントは実直という言葉から生まれたような人物で、次代のアールハント子爵家を担う嫡男の教育に手を抜くことはしなかった。その教育の甲斐あって、領地と爵位を失って平民の身に落ちても修学は怠らなかった。少なくともそこらの貴族の坊ちゃんには負ける気がしない。本もたくさん読んだし、知性には人並み以上の自信がある。

しかし、このエルフに質問攻めにされていると、その自負も段々と薄れてしまう。

「では、この世界の一日は24時間ということですね。時間や重量などの単位ほとんどが私の世界と一致しているのですが、この理由を知っていますか?」
「1000年前に皇帝府が単位の基準を統一する詔勅を公布しました。それまで、我がセシアーヌでは単位は今のように厳格に定められていなかったそうです。もしかしたら、その基準の策定にあたって先代のエルフ様が関わっていたのかもしれません」
「なるほど……。では、次はこの世界の種族や魔法についてなのですが、」

会話を交わす中でわかってきたのは、このエルフの教養がそこらの貴族より遥かに洗練されているということだ。この世界に順応するために必要な知識が何であるかを心得ており、それらを貪欲に吸収し、直ぐ様消化して己のものにしていく。驕るつもりは毛頭ないが、俺以外の騎士では相手にならなかったに違いない。かつて父から「二言三言だけ言葉を交わせば、その家の格は容易に知れる」と聞いたことがあるが、それに則ればエルフの世界の文化水準も容易に推し量ることが出来る。

「魔法を使えるのは亜人類だけなのですね。先ほどあなたが言っていた“魔族”という括りとは何が違うのですか?」
「魔力の生成は亜人類の血によってしか為せません。知り合いの魔術師に言わせれば、魔力とは精神の波の|飛沫《・・》のようなものだそうで、その飛沫を力として体外に変換することが出来るのは精神面に重きを置いた生物である亜人類だけです。我々人間には逆立ちしたって出来ません。その知り合いに言わせれば、人間は、その、バランスに優れた種族なのだとか」
「脳筋、と言われたのではないですか?」
「……仰る通りです。話をお戻ししますが、先ほど申し上げましたように、魔力とは精神の波です。その波は、時として外部の影響を強く受けることがあります。強風が吹けば簡単に荒れてしまいます。そして、この世界には邪悪な思念という強風が吹く場所が多々あります」
「よくわかりました。その強風に吹かれた結果、亜人類は理性を失って魔族に堕ちてしまうのですね」
「はい。一度そうなってしまえば、理性を取り戻すことは不可能といって良いでしょう。大昔に皇家付きの医療魔術師が魔族の回復に取り組んだことがあるそうですが、逆にその魔術師も魔族に取り込まれてしまったそうです。精神の波は容易に伝播します」

背中に押し付けられた双球を介して、エルフがこくこくと頷く気配がする。俺の拙い説明で彼女をどこまで満足させることが出来たか、少し不安だ。

「恐ろしいことに、魔王はその波を自在に操り、自らの配下とした魔族に己の魔力を分け与えて強くすることが出来るのだそうです。まるで御身の御業をそのまま負の面に反転させたような―――跳びます、お気をつけを」
「ひゃわわっ」

前方の路地に、浮浪者が横たわって眠っていた。狭く長い一本道だ。左右どちらにも回避する余裕は出来ないし、引き返していると時間がかかる。飛び越えるしか無い。
戒告に従って前もってエルフに知らせると、手綱を引いて馬を跳躍させる。エルフに触れている恩恵のおかげか、筋骨たくましい軍馬がまるで競走馬のように蹄を鳴らして高く飛び上がる。そのまま軽快に着地するとその勢いを殺すことなく駆け進む。心なしか、この馬も調子が良いようだ。エルフの為す御業はあらゆる生命に活力を与えるのだからそれも当然なのだが、実感していればそれが如何に破格の能力であるかが身に染みて理解できる。

とは言え、肝心のエルフ本人が男の背中にしがみついてビクビクと震え上がっているのでは説得力も薄まってしまうのだが。

「エルフ様、もう少し速度を落としましょうか?お顔色が優れぬようですが……」
「い、いえ。私は平気です。乗馬にはもう慣れました。もっと凄い乗り物にだって乗ったこともあるのです。これくらい、怖くも何ともありません」

などと言うものの、これでもかと腰を強く掻き抱かれていては信じろという方が無理だ。チラと密かに後ろを覗えば、エルフは眦に涙を浮かべて「ふひゅー、ふひゅー」と何度も深呼吸をしていた。
まだ顔を合わせてから数時間しか経っていないが、このエルフの性格を少しずつ把握出来てきた気がする。凛とした涼しい美貌そのままに冷静沈着なのかと思いきや、ふとした拍子に子供っぽさが溢れる。つまり、年頃の少女と変わらず、意地っ張りで負けず嫌いなのだ。
気付かれないようにこっそりと唇の端を上げ、馬の速度をゆっくりと落とす。
“伝説の救世主”という大層な肩書きに圧倒されて過度に緊張していたが、そんな心配は無用だった。目当ての男以外には取り付く島も見せない貴族の女に比べれば、きゅっと唇を噛んで乗馬の恐怖を我慢するこのエルフの方が遥かに親しみを感じさせる。

「……怖がる私を見るのはそんなに面白いですか」
「い、いえ」

エルフの察知能力を甘く見ていた。頬を緩ませる気配に気付いた彼女がジロリと睨め上げてくる。年頃の少女が同じ仕草をすれば微笑ましいのだろうが、生憎と彼女は普通の少女ではない。斧を振り上げるオーガもかくやと思わせる眼光に、無意識にゴクリと息を呑む。

なぜなら、その怒りに細められた銀の双眸もまた――――神がかり的に美しかったからだ。

「御身があまりに見目麗しいので、つい―――あ、」

失言することを“口を滑らせる”とよく例えるが、言い得て妙だ。滑るように無意識に漏れた言葉に誰よりも驚いたのは、目を見開いたエルフよりむしろ俺自身だった。こんな好色家のような軽口を叩いたことなどなかったのに、どうして今この時に舌禍を招くようなことを口にしてしまうのか。
取り繕おうと慌てて口を開くが、エルフが視線を外して俯く方が早かった。抱きついていた身体を引き剥がし、俺から間を空ける。

「……あなたがそんな遊び人だとは知りませんでした」
「ご、誤解です!婦女子を靡かせるために甘言を弄したことなどありません!先の発言は、ただ御身の美質に当てられてしまっただけで、だからその……。とにかく、私は遊び人ではありません」
「でしょうね。とても似合わない発言でした」

それきり、エルフは俯いたまま黙りこくってしまった。「こんな女たらしは勇者失格だ」と思われてしまったのだろうか。騎士にあるまじき浅はかな発言だった。これではクアムの野郎と変わらない。見限られても文句は言えないが、まさかこんなくだらないことで勇者の称号を手放すことになるとは―――

「……初めて、です」

ポツリ、とエルフが小さく囁いた。その台詞が意図するところがわからずにキョトンとしていると、再びエルフが呟く。

「私の容貌を褒めたのは、貴方が初めてです」
「まさか!」
「本当です。これまで私に、み、見目麗しいなどと言ってくる者は、いませんでした」

見れば、エルフの純白の頬がほんのりと朱色に染まっていた。ピンと尖った特徴的な耳は先端まで真っ赤に火照っている。それでようやく、このエルフが俯いて俺から身を離した理由がわかった。やはり、彼女は年頃の少女と変わらない。
エルフの世界はセシアーヌに比して全てが優っていると思っていたが、劣っている点もあるらしい。少なくとも俺は、本当に美しいものが何なのかをわきまえている。

「御身の世界の人間は皆見る目がありません」
「わ、私の容貌など可もなく不可もないといったところです。私には貴方の方がよほど美男子に思えます」
「過分なお言葉、恐れ入ります」
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~ Comment ~

 

エルフが可愛い(笑)
エルフの中の人がどんな奴かを知っている。
容貌を褒められた時のエルフの心情も大体予想が付く。
でも可愛い(笑)

執筆に関してですが、汝の為したいように為すがよい(笑)
プロというわけではありませんし、あくまで私たち読者は読ませてもらっている立場です。
主様のやりたいようにやった結果、狂喜しているわけですし、全然問題ありません。

話すごく変わって、自分で言っておいてなんですが、「主様」って言い方なんかエロく感じる(笑)
その手の物語の読み過ぎなんだろうか…。
設定上ないとは思うけど、エルフがカークに「主様」って言っているところを妄想しました(笑)
次回の更新も楽しみに待っています。

・∀・ 

フハァ
こりゃイイ。中身が残念な男とは思えないほどの異世界補正だ。エルフさんが乙女に見えるwww。
最後の追加された部分の御陰で説明が入ってても全然気にならないです。
時に主殿、エルフさんには名前は付けないので?流石に、今代、先代では締まりがないような。


エルフの名前は秘匿するもの・・・というのもアリかな?
神の名を語るべからずみたいな設定。

名前には力が宿るといいますし、名前を知ってると優先的に加護を得られるとか妄想してしまった。コレなら他の連中と格差化が図れる。
好い作品を見るとついつい妄想が、長文スミマセン。

 

エルフが可愛いっすね~。
残念な男、筆頭のオイラなら。
美しさを褒められたら、勇者を弄りまくりますね~。
うん、そう考えるとオイラよりいい奴だね。エルフは(笑)

 

>ふぉるてっしもさん
汝の欲することを為せ、ですね。なんという大導師マスターテリオン。魂よ、ルルイエに満ちよ!
少し前は、「どうして面白いと言って貰えないんだろう?どうすればもっと評価されるんだろう?」と悩んで飢えていたのに、今は沢山の人から感想や催促のお言葉を頂けて、手と時間が足りない状態になっています。とても幸せで、贅沢な話です。少し前の僕が今の僕の状況を知れば、きっと殴りかかってくるでしょうねwww
なるべく読者の人たちのご期待に添えるように頑張っていきます。これが僕に出来る唯一の自己表現であると思っていますので、全力を注ぎます。どうか、お付き合いくだせえ><

>悦さん
説明がくどくなってはいないかと心配でしたが、気にならないと言ってもらえて安心しました。ありがとうございます!
エルフさんの名前は、この第六話にて付けます。「自分が勇者で大丈夫なのか?」と不安に思うカークを勇気づけるために、「お前だけはタメ口で話していいぞ。名前で呼んでいいぞ」と言ってやるイベントです。名前はすでに決まっていて、「トゥ」にする予定です。英語の2(トゥ)から取りました。本来の名前はセシアーヌでは発音がとても難しい、ということにします。
明日には第六話の試作版が出来て、修正した後になろうさんにうpすることになるやもしれません。頑張ります!!

 

>名無しさん
可愛いキャラクターを作るのは苦労します。言動がキャピキャピとしていて、語尾も「~だにゃん♪」とかで、容姿や服装も萌え要素の塊みたいなキャラクターはあざとすぎて苦手です。そういう見た目だけの可愛さではなくて、ふとした時にチラリと見せる初々しさとか、いじらしさとか、誰にも言えない悩みとか、子供っぽさとか、そういう何気ない仕草なんかで可愛らしさを表現していきたいです。この書き方については、「ブリジットという名の少女」のブリジットがとても参考になりましたね。
このエルフさんはアッケラカンとした性格ですが、悪い奴ではありません。「ヒャーリス」という僕の他の作品に登場する主人公の原型になったキャラクターなので、性格がとても似通っています。今はそれが僕にとっての悩みです。どうにかして区別化を計って、僕にとっても読者にとってもマンネリ化することを避けたいと思います。

職場で見直すようの続き 

「わ、私の容貌など可もなく不可もないといったところです。私には貴方の方がよほど美男子に思えます」
「私がですか?」

俺がエルフより美男子とは、なんと高く買われたものだ。確かに、母親の面影が垣間見えるとは養父母によく言われる。幼馴染の貴族の娘にも格好良いと持て囃されたこともあった。しかし、俺は母親似の顔は頼りなさげであまり好きではないし、幼馴染も身分が堕ちた途端に素っ気ない態度をとるようになったことからして、単なるお世辞だったのだろう。そんな俺を男前だと讃えるとは、先ほど思った通りエルフの世界とセシアーヌでは人の美しさへの価値観に差異があるようだ。

「過分なお言葉、恐れ入ります。しかしそうであるのなら、大隊長閣下を拝見されれば私などを勇者に任命したことを公開されるやもしれません。閣下は見目好さだけは天下一品ですから」

クアム・ベレ・ガーガルランドという男は、まさにガーガルランド家に生まれべくして生まれた生粋の貴族だ。麗女のような美人面に常に微笑を貼り付け、肉体を美しく整えるための鍛錬と贅沢な食事によって得た見掛けだけの筋肉は計算しつくされた黄金比を描いている。その甘い顔貌には、どんな面食いの女もイチコロだ。
もっともそれは、「何を馬鹿なことを」と呆れ顔を浮かべるこのエルフの少女を除いての話だが。

「私は顔の良し悪しで勇者を選んだりはしません」
「はい、存じております」

予想通りの答えに苦笑する。

あ、甘い… 

なんて甘い空間を作るカナ?
さっき、食べたあんぱんが
反芻してきたかと思いました…

ギャップがイイですね!
エルフがカワイイです(^_^)ww

 

>職場で見直す
……∑( ̄口 ̄)
日曜日なのに仕事ですか(>_<)
無理しないでくださいませ~m(_ _)m

 

>凪さん
読んでる人がニヤニヤ(・∀・)出来るような、そんな掛け合いが書ければ良いなと思います。
エルフの中の人が段々女の子っぽくなっていく過程を描きたいのですが、それが難しそうです。どんな変化を描けばいいのか……。記憶を引き継いだまま赤ん坊から女の子に転生したというのならまだ楽なんですが、途中からの場合はまた悩みます。挑戦のしがいがありますな!

>名無しさん
僕の仕事は定期的なお休みの日が決まっていないもので……。でも、よく行く映画館のメンズデーが金曜日なので、金曜にお休みを戴くことが多いです。とても助かります。

職場で見直すようの続きの続き 

試作版はまだ出来ないです。ううむ、難しい。



「私は顔の良し悪しで勇者を選んだりはしません」
「はい、存じております」

予想通りの答えに苦笑する。このエルフは逸するということを知らない。突然見知らぬ男から世界を救ってくれと懇願されれば、普通なら混乱するだろう。だというのに、彼女はそれを何の躊躇いもなく使命として受け入れてみせ、その遂行に適任として俺を勇者に選んでくれた。

その真っ直ぐな気性は心強くもあり―――また、危なっかしくもある。

エルフを連れてきた以上、クアムとの顔合わせは防ぎようがない。彼女の性格からして、歯に衣を着せぬ物言いで奴をばっさりと切り捨てるのは簡単に予想できる。
自分が勇者として認められなかったと知った奴が何をやらかすか……。あの美人面が剥がれ落ちるのは間違いない。剣試合の時もそうだった。あの時は俺の勝利を無効とすることで勘弁されたが、今度ばかりはそうはいくまい。取り巻きも巻き込んで騒ぎ立てるに決まっている。
クアムが不適格だとエルフに進言したのは俺自身だし、それ自体に後悔はない。しかし、自分の行いがどれほどの代償を払うものであったのかを顧みれば、激しい憂慮を感じずにはいられない。

間際まで迫った皇宮の裏門を見上げ、もうすぐこの中で響き渡るであろう貴族たちの激しい怒声を想像して苦笑が消え去る。
魔王軍と戦う前に、まずは同じ人間から救世主を護らなければならないとは、皮肉極まる話だ。襲い掛かってくるのが魔族の牙であれば剣で切り伏せてやることが出来るのに、圧倒的な権力に対してはそうもいかない。
果たして俺は、政治の手からも彼女を護ることが出来るのだろうか。彼女は後にも先にも勇者は俺一人だと言ってくれたが、果たして俺はその多大な期待に応えることが出来るのか。

「カーク、どうしました?馬が止まっています」
「あ……」

ハッとして面を上げれば、景色が止まっていた。無意識に手綱を引いていたらしい。怖気づいた心に引きずられて身体が勝手に馬の歩みを止めたのだ。白くなるほどに固く握っていた手を開く。手のひらは、爪が食い込んだ血と汗でじっとりと濡れていた。
無様な醜態をエルフに晒してはなるまいと、気付かれないような仕草で手のひらを拭う。革服に擦りつけたせいで傷口が痛んだが、気にしてはいられない。

「な、何でもありません。さあ、皇宮へ急ぎ―――」
「いいえ、ダメです」
「えっ?」

予想外の返答に反射的に振り返る。驚く俺の目を見透かすようにじっと見詰め、エルフが口を開く。

「☓☓☓☓」
「は?な、何と仰ったのです?」

おそらくこれは、湖で聞いたエルフ語なのだろう。相変わらず何を言ったのかまったく聞き取れない。なぜこの時に、突然エルフ語で話しかけてきたのか。
呆気に取られる俺に小さくため息をつくと、しばし虚空を睨んで何事かを考え出す。

「……案の定、私の名前もこちらの世界では発音が難しいようですね」
「お、御身の御尊名ですか!?」
「ええ。まさか、私の名前が“エルフ”などと思っていたのですか?」
「いえ、その、」
「思っていたのですね。エルフとは種族の名称で、私にもちゃんと名前があります」

先代エルフの名前は現在には伝えられていない。子供の頃に親しんでいた勇者とエルフのお伽話でもエルフは“エルフ”のままだったから、てっきり名前も同じなのかと思い込んでいた。
名前を間違えていた気まずさに冷や汗を流していると、エルフが再び嘆息して馬から降りる。エルフを見下ろしては不敬になると慌てて後を追って降り、そのまま傅こうと腰を折かけ、

「跪くのはやめなさい。真に勇者であろうという気概があるのなら、私に跪いてはいけません」

鋭い声に動きを止められた。
伝説の救世主に敬意を払うのは当然のことではないのか。勇者なら跪くな、とはいったいどういうことなのか。
中途半端に腰を折った奇妙な姿勢で唖然とする俺に、エルフがそっと手を差し出す。そのまま俺の手を握ると、自分の胸に抱き寄せた。ギョッとする間もなく、俺の目の前で温かい柔肉に手がふにゅと埋まる。その心地良さに手のひらの痛みなど跡形もなく吹っ飛ぶ。

「私の名前は“トゥ”です」
「……トゥ?」
「私の世界で“二番”を示す言葉です。今度から、私のことはそのように呼んでください」

風変わりな響きだが、不思議な魅力も感じる。なるほど、この美少女にはトゥという神秘的な名前がよく似合っている。本当の名前が聞き取れないというのは些か残念だが、尊名を知るなど恐れ多いだろう。「承知致しました」と脊髄反射で片膝を突こうとするが、今度は手を掴まれて乱暴に阻止される。

「跪いてはダメだと言ったでしょう。それと、その畏まった物言いも辞めて下さい。とても息苦しいです。どうか、普通通りに話して下さい」
「し、しかし―――」
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