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Her name is Charis! !

Her name is Charis!! 外伝 前編

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今回はブランクサイドです。



♂ブランクサイド♂


「お、俺が運転すんのかよ!?」
「当然でしょう?国際運転免許を持っていて、なおかつ普通に車を運転できるのは少尉だけなんですから。ヒャーリス号を類人猿の手に委ねるのは私だって甚だ不本意なのです。むしろ少尉はこのスーパーカーを運転できることを光栄に思うべきです」
「だからって、いきなりこんなロードレースカーを運転できるわけねーだろ!メッチャクチャに改造しやがって!!」
「では、リヒャルド様に運転していただくのですか?」
「あー、自分で言うのもなんだけど僕の運転はお勧めしない。頼むよ、ブランク」

両肩を上げて開き直った戦友は、いつの間にか俺の隣からヒャーリスの隣へと立ち位置を変えていた。リヒャルドの奴はヒャーリスにゾッコンで、担当官のくせに義体をろくに叱りつけることも出来ないくらいに重症だ。ヒャーリスのやることなす事全てを受け入れてしまうから、結局こっちに皺寄せが来る。そして今回は、改造されたアウディの運転を夜までに完全にこなせるようにしろというムチャぶりをされたわけだ。
二対一になってしまった構図に、ぬぐぐと呻く。

「今夜のカタラーニ博士の移送では社会福祉公社の追撃が予想される。最悪、夜のローマでカーチェイスが起こることもあり得るんだ。もちろん、BNDから腕利きの運転手を引き抜いて来てもいいが、僕は彼らをあまり信用してない。そして、誰よりも君の腕を信頼している。駄目か、“副隊長”?」

―――副隊長。
懐かしい響きに思わず喉がグッと詰まる。ほんの数年前までは聞き慣れた呼び名だったはずなのに、今では遥かに遠い過去の名前のように感じる。
見れば、ヒャーリスが不思議そうに首を傾げて俺とリヒャルドの顔を見比べていた。そういえば、こいつは知らないのだ。
まだ、リヒャルドが俺の上官で、俺がその副官だった頃の話を。



MEMORY OF GORILLA



オンボロの大型トラックに偽装した兵員輸送車の中で、すし詰めになったKSKの精鋭兵士たちが揺られている。どいつもこいつも戦意を高揚させているのがハッキリとわかる。黒いバラクラバで顔面を隠していても、燃える双眸が「やってやる」と雄弁に物語っているからだ。

ここにいる全員の目には一人のターゲットしか映っていない。イタリア出身の極悪テロリスト―――ジャコモ・ダンテだ。

1年前、アルカイダグループから支援を受けたネオ・ナチのテロリストが女子供を含むドイツ人6名を爆殺するテロ事件が起きた。数ヶ月後、アルカイダとネオ・ナチとの間の橋渡し役を務め、両組織を煽ってテロを実行させたのが稀代の凶悪犯罪者、ジャコモ・ダンテであることが発覚した。その後、事態を重く見たドイツ連邦政府はテロ抑止と報復のために陸軍特殊作戦師団『KSK』の投入を決定。まずは国内のネオ・ナチ系テロリストの掃討から始まり、次に米軍特殊部隊との協力作戦による国外アルカイダ組織の壊滅を秘密裏に行った。そして最後の締めを飾る作戦こそ、ラスト・ターゲット―――ジャコモ・ダンテ討伐作戦だ。オーストリアのド田舎、ブルゲンラントに潜伏しているジャコモをぶち殺すためにKSKの精鋭20人がこうして目的地に向かっている。
前者2つの作戦を見事に成功させているだけに隊員たちの士気は最高潮で、一人を除く全員が作戦の成功を信じている。
その心配性な一人の男こそ、我が戦友にして上官、栄えある討伐部隊の隊長である、リヒャルド・ウェーバー上級准尉殿だ。

「ブランク准尉、今回の作戦だけど、なんだか嫌な予感がするんだ」
「まーだ言ってるんですかい。ちゃんと教会には行ったんでしょ?」
「ああ、行ったよ。作戦の成功もしっかり神に祈った。だけど……安心できないんだ。ジャコモ・ダンテという存在にはうすら寒いものを感じる」

リヒャルド上級准尉は熱心なキリスト教徒だ。カトリックだかプロテスタントだかは忘れたが、粗雑な育ち方をした俺とは真逆のエリートコースを歩んできたこの男は、作戦の前には必ず教会でカミサマに祈りを捧げる。命を奪うことへの懺悔と仲間の無事を祈って精神の安定を得る、というのが目的なのだそうだが、いつまでも不安そうに床を睨んでいる様子を見るに、今回ばかりは効果がなかったようだ。

「バカ言いなさんな、隊長さんよ。相手はたった一人ですぜ?たった一人、オーストリアのど田舎でのんびりお休み中と来たもんだ。楽勝ですよ」
「油断は禁物だぞ、准尉。一ヶ月前のイタリアのクローチェ事件のことを聞いたか?幾重にも秘匿されたはずの検事の移動情報を看破して爆殺したそうだ。家族もろとも、な。それをやってのけたのがジャコモ・ダンテだ。きっと恐ろしい相手に違いない」
「よくわかりましたよ。なら、そいつらの―――クローチェ検事たちの仇もとってやらねえといけねえ」

俺の台詞に同調した隊員たちが「その通りだ」と拳をきつく握り締める。クローチェ事件のことは先日にニュースで知ったばかりだ。検事とその夫人、娘、息子の婚約者が乗った車が吹き飛ばされて全員が死亡したテロ事件だ。息子は軍人だったらしい。
婚約者を殺された悲しみと憎しみは、同じ軍人だからこそより強く共感できる。人並み以上に力のある軍人だからこそ、「もしも自分がその場にいたら救えたかもしれない」と己を責めてしまう。きっと、その息子は今頃、怒りと悲しみに身を焼かれるような痛みを感じているだろう。その無念を晴らすのだ。俺たちKSKが。

「……ああ、そうだな。ジャコモ・ダンテは間違いなく悪だ。野放しにすればこれからも大勢の人間を殺す。そうなる前に止めなくてはいけない」
「そう来なくっちゃ。そうと決まれば、早くこの任務を終わらせて故郷に帰りましょうや。
ところで、上級准尉殿。新しい女の宛てはもう出来たんですかい?」

作戦前に神経が過敏になりすぎるのはよくない。話題を逸らす意図も込めておどけて質問してみると、リヒャルドが一瞬で顔を顰めた。意図は成功したようだが、どうやら恋の戦況は芳しくないらしい。

「いいや、ダメだ。やっぱり女性とは少しも長続きしないんだ。もう自分に自信が持てなくなってきたよ」
「そりゃ、アンタがクソマジメで几帳面すぎんですよ。なあ、曹長?」
「ヘンデル准尉の言う通りですよ。隊長と釣り合える女なんて、帝政ドイツ時代の貴族のご令嬢くらいなもんです!」
「そ、曹長!それはあんまりじゃないのか!?」

どっとと沸き起こった笑い声に、リヒャルドがガクリと肩を落とす。その肩に隣の一等軍曹が「頑張ってくださいよ」と手を置いてやる。だが俺は知っている。その一等軍曹が、リヒャルドが女と何ヶ月持つかで仲間内で賭けをして見事にタダ酒にありついたことを。
上官をダシにして賭けをするなんざ不敬極まりない話だが、それも親近感あってのことだ。“自分に厳しく部下に優しい”と模範的な士官で知られるリヒャルドは部下や同僚からの信頼も厚い。かくいう俺も、最初はいけ好かないエリートだと敬遠していたが、いつの間にか背中を預けられる戦友になってしまった。

「はあ、やっぱり性格だよなぁ。でもこればっかりはなかなか直らないんだよ」

リヒャルドは顔も頭も性格も家柄も良いくせに、なぜか一人の女と長続きしないことでKSKでは有名だった。原因は明らかにそのマジメ過ぎる性格だ。同じドイツ人から見ても異常なまでに硬派なリヒャルドは、交際する女からしてみれば息苦しい相手なのだろう。玉の輿を狙った女が近づいてきては嫌気を差されて去っていく、という流れももはや珍しくない。

「あー、そうさなあ。いっそのこと、逆に考えてみるのもいいんじゃねえんですかい?」
「逆?どういうことだ?」
「上級准尉殿と波長の合いそうな落ち着いた女と付き合うからダメだったんだ。だったら今度は逆の女を狙えばいいって話ですよ。粗野でアホっぽくて落ち着きのない女と付き合ってみるのはどうです?案外、上手くいくかもしれない」
「他人事だと思って適当なことを言うなよ。もう僕も26歳になった。四捨五入すれば30だ。わりと本気で悩んでいるんだ。憂鬱だよ」
「こっちだってわりとマジに考えてやったんですがね、隊長さんよ。アンタは大層な世話焼きだろうから、ヤンチャな妹みたいな、少し歳の離れた女とくっついた方がバランスがとれていいと思うんだ」
「僕は一人っ子だから妹というものがイマイチ想像つかないが、そんなものなのか?」
「そんなもんですぜ。むっちゃくちゃにテンションばかり高くて、手を握ってやらないとどこまでも突っ走っちまいそうなジャジャ馬娘がお似合いだ」
「そこまで茶目っ気があるのも考えものだけど、参考にしてみよう。バランスか、なるほどなぁ」

そう言って顎に手を当てて熟考する。何事にも真剣に取り組むのがリヒャルドの良いところだが、そういうところが女には息苦しく映って愛想を尽かされるのだろう。まあ、それは言ってやるまい。俺なりの心遣いというやつだ。

『着いたぞ。目標が潜伏する住居まで1キロだ。ここからは徒歩で近づいてくれ』

運転手の押し殺した報告と共に、トラックが速度を漸減させて路肩に移動する。さっきまでリラックスしていた隊員たちの表情が一斉に引き締まり、流れるような動作で装備のバックルを身体に締め付けていく。

「お喋りはここまでだ。全員、気を引き締めて掛かれ。我が部隊のモットーは?」
「「「「「Facit Omnia Voluntas(意志が決め手)!!!」」」」」
「よし、作戦開始!降車せよ!」

リヒャルドの鋭い指示に従って、G8アサルトライフルを担いだ隊員たちが蛇のようにスルスルと荷台から降車していく。車のヘッドライトを見たターゲットが警戒するのを防ぐためにここから先は徒歩で接近する。幸い、ここら一帯は農園地帯で身を隠す場所は豊富にある。接近は容易に思えた。容易に思えるからこそ、リヒャルドは心配しているようだが。

「ジャコモ・ダンテがなぜこんな襲撃されやすい場所に潜伏する?身を隠して襲撃しやすいということは、待ち伏せや逃走も容易だということだ。何かあるとは思わないか、副隊長?」

作戦行動中は、リヒャルドは必ず俺を役職名で呼ぶ。線引きをすることで隊員たちの精神に張りを持たせようとしているのだ。俺もそれに習うようにしている。

「隊長の考えすぎだと思いたいですがね」
「僕もそう思いたい」

それきり、会話は途切れた。ザザザ、と茂みを掻き分ける音だけが鼓膜をなぞる。
この時の俺は、任務は楽勝に終わると思っていた。悪人の額に風穴を開けて、全員無傷で早々に帰投できると思い込んでいた。
結局、その予想は全てが裏切られることになる。
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~ Comment ~

悲劇の匂いがプンプンしやがる 

匂う、こいつぁ特上の惨劇の匂いだ。
血と硝煙の臭い、痛みに呻き虚ろな瞳は絶望を物語ってやがる。
こういうスパイスの後には、コテコテの甘ったるいチョコレートケーキって相場が決まってるぜ!

それではまた。

 

求めていたブリジットの三次創作を読み終わったと思ったら、1話増えていた。
なにが起きたかわからなくていいから、ブリジットが救われる話を見せてくれぇぇぇ!

 

MEMORY OF GORILLA( )
どうしてシリアスっぽいシーンでそういうことやっちゃうんですかぁ!?

NoTitle 

>上条信者さん
たまにはシリアスも入れないとね!頭の悪いSSばっかり書いていたら、『ブリジットという名の少女』の作者のH&Kさんに「君はじつに馬鹿だなあ(#^ω^)ビキビキ」とか言われかねないからね!!

>わたるさん
妄想渦巻く魔空空間に飛び込んでしまったんだね!我が城へようこそ!!
ブリジットを救おう!エルザを救おう!ユーリもピノッキオも、みんなみんな救おう!!大丈夫、H&K神の許可は頂いているのだ!好き勝手に暴れまわって、最高のハッピーエンドを迎えようぜ!!

>名無しさん
すまない。どんなにシリアスな箇所でも合間合間に変な要素を入れないと死んでしまう病気なんだ。本当にすまない。

NoTitle 

なんかシリアスが始まってた(笑
公式チートのジャコモ相手にリヒャルドくんたちがどう立ち向かうのかとても気になります。
ブリジットですら勝てた、とは言えない相手ですし。

これからもお体に気をつけて頑張ってください。

NoTitle 

>H&Kさん
おお、神!!
ガンスリ世界は元々シリアスなものですから。ヒャーリスが異常なだけでwww
この後、リヒャルドとブランクはひどい目に遭い、二人してグッタリして、そして我が問題児と出会います。それまでの思い出をブランクの視点で語って、物語に深みを作れたらなあ、なんて考えております。
お互い、健康に気を使いながら頑張りましょうね!!

NoTitle 

楽しく読ませてもらっておりますハイ。
シリアスの爆砕ブリと締めるところちゃんと締めてるトコ、すばらしいです。
バーサーカー共々楽しみにしております。

出来れば記事にタグを付けるか、話数リストをトップから辿れるどっかに置いてて欲しい…
次の話を追うのが辛いっす…
そろそろ理想郷…は今はなんか変なの沸いてるからなぁ。色々と難しい。

NoTitle 

>伊藤用さん
コメントどうもです!!目次ページを作りたいのですが作り方がわからなくて……。記事の頭に数字を入れたりして、追いやすくしてみます。Arcadiaさんには『せっかくバーサーカー』を完結させてから投稿させていただくと決めているので、まだまだしばらくはこのままブログで更新していくつもりです。

NoTitle 

FC2ではタグではなくカテゴリなんですね。
カテゴリのリストが5つづつしか表示されないトコがどうにかなればだいぶマシになるんではないかと思う次第・・・!
FC2使ったこと無いんでどの辺弄れば良いのかはあっしにも分かりませぬ。
申し訳ない。

NoTitle 

>伊藤用さん
いえいえ、滅相もないです。FC2は奥が深いので、もしかしたらもっといい方法があるのかもしれません。それを見つけるのが先か、ヒャーリスをArcadiaさんに持っていくのが先かはわかりませんが……。

NoTitle 

いつの間にか更新キテタ!!
にじファンが大変なことになっていたから、この頃確認し忘れてました。スミマセンっ!!

シリアス臭がプンプンするぜ~、この作品からこの臭いがここまでするなんて思ってもいなかったです。

NoTitle 

>森羅さん
コメントどうもです!!いつもありがとうございます!!><
森羅さんもHaloのSSを描くために頑張っていたのに、大変なことになりましたね……。にじファンさんの大切さを、今さら思い知りました。

リヒャルドとブランクとジャコモ・ダンテの因縁を描いていれば、後々の展開がやりやすくなるのです。たまにはシリアスでピシっと引き締めておいたほうがいいですしね。
大丈夫、ヒャーリスが出てくればすぐに引き締めるもクソもなくなっちゃうから!!
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