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Her name is Charis! !

Her name is Charis!! 外伝 中編

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「副隊長ってどういうことなんですか!なんで私には教えてくれないんですか!どうして黙ってるんですか!私だけ除け者なんてひどいんじゃないですか!話して!教えて!さっさと教えろゴリラ!!」
「あ―――!!耳元でギャアギャアうるせえなこのクソガキ!少しは黙ってろ!運転してやる気になっただけありがたいと思え!いつの間にかボンネットにまで変な落書きしてやがって、運転してる俺が恥ずかしいだろうが!!」
「あれは私のキャワユイ顔をイラストにしたものです。落書きなんかじゃありません。
そんなことはいいから早く教えて下さいよ!さもないとニトロを作動させますよ!?」
「んな物騒なものまで積んでやがるのか!?言っとくが俺は絶対に教えないからな!リヒャルドに聞けよ!」
「ケチ!ドケチ!もうバナナはあげませんからね!」
「いらん!そもそもお前から何かを貰ったことなんて一度足りともないけどな!!」

頑として口を閉ざす俺にぷく~っと頬を膨らませ、ヒャーリスはターゲットを後部座席のリヒャルドへ変更した。リヒャルドは助手席から身を乗り出して迫ってくるヒャーリスを「危ないからちゃんと座りなさい」と困り顔で宥めようとしているが、自重という言葉を知らないガキはその程度で引き下がるようなタマじゃない。スカートが捲れるのも構わずに運転席と助手席の間から身体を滑り込ませると、リヒャルドの胸元にしがみ付く。

「リヒャルド様は私に隠し事なんてしませんよね!?ね!?」
「こ、この話はちょっと複雑なんだ。落ち着いたらちゃんと話してあげるから、まずは任務に集中しなさい。いいね?」
「絶対ですよ!絶対ですからね!話してくれないと嫌いになりますからね!」
「も、もちろん話すさ!絶対に話す!」

あーあ、言っちまいやがった。クソガキは自覚してないんだろうが、それはリヒャルドへの殺し文句だ。嫌いになられては困ると慌てふためく“元上官”の情けない姿をバックミラー越しに眺め、俺は密かに鼻で溜め息をついた。
まったく、ジャジャ馬娘がお似合いだとリヒャルドに助言しやがったのはどこのどいつだ?

………ああ、俺だったな。



MEMORY OF GORILLA



「……どう思う、副隊長」
「どう思うって言われても、ねえ。“目標がいない”んじゃあ、俺たちの仕事はない」

目標が潜伏しているという家はすぐに見つかった。なだらかな盆地の中心にひっそりと佇む白塗の質素な家は、天を覆う星空の下でまるで絵本の挿絵のようなメルヘンチックな雰囲気を醸し出している。とても凶悪なテロリストが住んでいいような場所じゃない。
そして、今、その家には本当に誰も住んでいないのだ。

「サーモ(熱映像装置)はどうだ、伍長」
「いいえ、反応はありません。天井裏にも地下にもです。こいつは、本当にハズレですよ」

遮蔽物に身を隠しながら様々な方法で内部の様子を探ったが、人の姿は見当たらない。ドイツ連邦政府技術協力機関(GTZ)の謳い文句を信じるのなら、今回伍長に担がせた新型サーモは2時間前の熱源反応の痕跡をも探知できるはずだ。俺たちの接近に感づいて慌てて逃げ出した、というわけではないらしい。

『隊長、窓から中を見てみましたが、静かなもんです。猫の子一匹いやしない』
「わかった。今度は侵入してみてくれ。油断するな」
『了解です。つっても、この扉、鍵すらかかってない。無用心過ぎやしませんかね』

鍵をかけていないだと?
潜入したチームの報告に、どちらからともなく隊長と目が合う。漆黒のマスクに表情が隠れていても、困惑に潜められた目で何を言いたいかがわかる。

「隊長、BNDの奴らがヘマをやらかしたんじゃないですか?奴ら、イラクでいいとこ見せたからって調子に乗ってやがるんだ」
「あり得るな。少なくともここにジャコモ・ダンテがいないことは確実のようだ。すでに潜伏場所を変えたのか―――」
『隊長さん方、見つけましたよ!そっちの家じゃない!3時の方向、400メートル、丘の上!』
「「!!」」

インカムから飛び込んできた狙撃手の声に促され、意識するより早く身体がそちらを向く。遠く、長閑なワイン畑を見下ろす丘の上に、いつの間にか明かりが灯っていた。あれは民間人が所有する小さな別荘で、ここ数週間はずっと無人だったはずだ。所有者はテロリストとは無縁の地方の銀行員で、ここに接近する前にも別働隊が念入りに確認した。

「どういうことだ、軍曹!何が見える!?」
『持ち主が戻ってきたみたいだ!最悪なタイミングでね!しかもその中に、ジャコモ・ダンテが混じってやがる!小奇麗に変装しちゃいるが、間違いない!
―――ああ、チクショウ!子供連れだ!女もいる!持ち主は家族でやって来てる!』

背筋を氷がなぞり落ちるような寒気に襲われ、無線を耳にしていた全員の息が詰まる。予想されるトラブルの中でも最悪の展開だ。暗殺任務に民間人を―――よりにもよって女子供を巻き込むなど、KSKの創立以来前代未聞だ。作戦に民間人が巻き込まれ可能性が明らかな場合、そもそも作戦行動は許可されない。成功しようが失敗しようが、伴うリスクが大きすぎるからだ。
一気に高まった緊張に目を見張る俺の隣で、リヒャルドが冷静に応信する。

「そのまま監視を続けろ、軍曹。早まった真似はするな」
『したくても出来ませんぜ、隊長。あの野郎、子どもを抱き上げてやがる。これじゃ狙えない。verdammter Schweinehund(クソ忌々しい豚野郎め)……!』

無線越しにも、ヨハン軍曹の苛立ちはよくわかった。そういえば、ヨハンには婚約者がいたはずだ。クローチェ検事の息子の不幸を自分に重ねて、ジャコモ・ダンテに憎しみを感じているのかもしれない。ヨハンを今回の部隊の狙撃担当に選んだのは俺だ。狙撃手には冷静な判断力が必要不可欠だ。人選を間違ったかもしれないと、今更になって不安になってくる。
隊長が「嫌な予感がする」と言っていたのはこの事態のことなのか。楽勝に終わると思っていた作戦に暗雲が立ち込めてきて、思わずゴクリと喉が鳴る。人質の救出作戦なんてのGSG-9(ドイツ連邦警察特殊部隊)の仕事で、俺たちの領分じゃない。
不安と緊張に固まっていた俺の肩を隊長の手が掴む。

「副隊長、作戦本部に衛星通信だ。あの別荘の持ち主の素性とジャコモ・ダンテとの関係をもう一度BNDに確かめさせるんだ。それと、本部にはCIAの職員も同席しているはずだ。そっちにも情報を提供させろと伝えてくれ。あの家族が本当に無関係の民間人なら、今回の作戦はおそらく中止になるはずだ。ジャコモ・ダンテを目の前にして撤退するのは悔しいが、やむを得ない」
「あ、ああ。了解。エミール、聞いてたな?お偉方に電話だ。俺が話す」
「了解です。10秒下さい。すぐ繋げます」
「頼んだ。副隊長と上等兵は後から来てくれ。ハンスとカールも付ける。
残りは僕と共に先に別荘に走るぞ。移動しながら隊を3つの班に分けろ。チームリーダーは僕とユリウスとルドルフが務める。30メートルの距離を置いて三方から取り囲む。軍曹は引き続きその場で待機だ」
「「「「「了解」」」」」

通信兵のエミールがリュック式の超遠距離通信機のアンテナを展開させて手元のノートパッドを操作する。今回の作戦本部は遠くドイツに置かれているため、本部と連絡をする際にはいちいち米軍と共同利用している軍事衛星を経由させる必要がある。
俺が本部と連絡をとる間、隊長が指揮する本隊が別荘を取り囲み、いつ何があっても対処できるようにする。作戦状況が悪い方に急変しても水流をいなすように適切に対処できるのは、さすがエリート士官だ。筋肉バカの俺には真似できない。

「繋がりました、副隊長。ケンプ中佐が状況を聞きたがってます」
「早いな、さすがだ」

門外漢の俺にはさっぱり分からないが、通信機を軍事衛星とリンクさせてさらにそこから本部に繋げて回線を確保するというのは、目を瞑ったままストリングゲーム(あやとり)をするようなものだという。それほどの作業を短時間で出来るエミールは、明らかに優秀な兵士だ。
そうだ、この部隊はKSKのエリート部隊だ。何度も作戦を成功させているし、隊長も隊員も皆優秀だ。間違いなんて起こるはずがない。副隊長の俺が自信を失ってどうするんだ。
作戦現場に女子供がいると本部に報告して、BNDの調査不足を罵って、そして中止命令を受けとろう。今回は刃を引っ込めてやる。ジャコモ・ダンテをぶっ殺すのは奴が一人になった、次の機会だ。今回の暗殺作戦を本部で指揮するケンプ中佐はイラクでBNDの世話になったらしいが、知ったことじゃない。別荘の持ち主が作戦時間に訪れることを察知できなかったBNDの責任は重い。帰ったらBNDの担当者をぶん殴ってやろう。

『こちらは本部のケンプだ。ヘンデル准尉、問題が生じたらしいな』
「はい、中佐。重大な問題です」




この時、俺がもっと強く作戦の中止を進言していれば、あんなことにはならなかったに違いない。もしもの話なんてしても何の得にもならないが……この失敗が俺たちの人生を大きく変えた事実は、悔やんでも悔やみ切れない。
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~ Comment ~

NoTitle 

1ゲットーーーーーーーーーー!!
久しぶりにヒャーリスの愉快なお姿を拝めた気がする。
懐かしい、というにはまだそんなに経ってないけどw

それにしても毎度毎度いいところで区切りますなぁ。私もその区切り技術を習得して読者をヤキモキさせてみたい!
次回も楽しみにしてます。

ついでに、なろうの方で新作投稿してみました。お暇でしたらご覧ください。

NoTitle 

>上条信者さん
こんばんは!コメントありがとうございます!
たまには脇役キャラにも光を当ててやった方が物語がより深く広くなるのではと思いまして、ちょっとヒャーリスはお休みしてます。元気が良過ぎるから少しじっとさせといた方がいいんです。
上条信者さんの新作、読みましたよ!ファンタジー独特の、剣と魔法の世界観、中世文化、奥深い木々の光景などなどが脳裏に浮かぶような秀逸な描写でした。思わず唸ってしまうほどに続きを期待させられる物語です。僕も、続きを期待しておりますよ!!

NoTitle 

クソっ!! 俺が遅れるとは、鈍ったか・・・

それはそうと更新お疲れ様です! やっぱりヒャーリスはかわいいですね。おっさん達の鬱話だけでは気が狂いそうになりますwww

この番外編も次回でお終いかな? 早く本編の投稿を!
Hurry! Hurry!! Hurry!!!

NoTitle 

>森羅さん
おっさんたちの欝な話はもうすぐ終わります!ちょこっとヒャーリスも登場します。本編に戻ったら、さっそく『あの人たち』との遭遇というイベントが待っております。描くのが今から楽しみです!!
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