性転換

『エルフになって~』更新報告と短編SSの試作品【改々々】

 ←なんとなく思いついた短編TS小説の試作品 →短編SSの試作とか【改】
エルフになって~の最新話第九幕  『そう、ヒトの心は容易に変質するものだ。1000年も経てば尚更ね』を更新しますた。徐々に徐々に、伏線を仕込んでいきます。次回の更新はまだまだ未定です。

そして性転換短編SSがけっこう進んだので晒します。(10/10、ほんの少しだけ更新。更新スピードを上げたい)。







エロゲのヒロインになって主人公を攻略する話


「なあ、タツヒコ。お前ってエロゲーの主人公みたいだよな」
「えろげぇ?なんだそりゃ?」

私立瑞穂学園の高校生活も二年目に達した頃、俺はこの世に『エロゲー』というゲームジャンルがあることを知った。
例えば現実には存在しない学園とかファンタジックな異世界などの架空世界を舞台にして、主人公と様々な関係にある|女の子《ヒロイン》たちと様々なイベントを経験しながら最適な選択肢を吟味し、攻略したいヒロインとの親交を深めて恋仲になることを目的としたパソコン用のアダルトゲームのことらしい。
高校に進学して初日に意気投合した学友にして悪友のフジノリは、文武両道な美男子なのにそういったオタク知識にやけに詳しかった。黙っていればモテるだろうに、口を開けばオタクな会話が次々と溢れ出すから女子がまるで寄り付かないという残念な奴だ。
そんな残念な男に言わせれば、俺はまるで“エロゲの主人公”そのものなのだという。

「お前な、今の自分の境遇がどんなに素晴らしい幸福に満ち溢れていることか少しは自覚した方がいいぞ?我が学園のアイドルを独り占めに出来るその圧倒的優位な立場を欲しがっている者は数知れないというのに……!」
「学園のアイドルぅ?……ああ、楓のことか」
「それだ!そうやって簡単に呼び捨てにできることがすでに奇跡なんだ!
学園のアイドルはお隣さんで昔からの幼馴染み!頭が良くて可愛くて世話焼きで家庭的で清楚で優しくて気立てが良くて、なのに男っ気はお前以外に全然見られない!こんな夢のようなシチュエーションがリアルにあるなんて信じられんッ!!」
「そんなに良いものとは思わないけどな。毎朝、枕元まで起こしに来られる身にもなれよ。鬱陶しくて仕方がないぜ?」
「ぶっぎゃああ――――!!何その勝ち組宣言!!全校生徒を代表して訴えてやる―――っ!!」
「本気で泣くなよ、みっともねえな!」

|アイツ《・・・》の存在が自慢になるなんてことも、フジノリに言われるまでは気付きもしなかった。
“アイツ”―――|朝香《あさか》 |楓《かえで》は、俺の幼馴染みだ。物心ついた時には一緒に公園を駆けずり回ったりオママゴトをしたりしていた。家が隣同士で、お互いの両親も昔からの友人ということもあり、家族ぐるみの付き合いをしている。学校でもクラスは毎年同じという腐れ縁だったから、楓が隣にいることは当然だと思っていた。

(それを口に出すとホントに訴訟を起こしそうな勢いだし、黙っておくか)

机に突っ伏して嗚咽を漏らす悪友から言わせれば、楓は“遥かに遠く高い断崖絶壁の頂上に咲いている一輪の花”らしい。要は高嶺の花だと言いたいんだろう。
たしかに、楓は常に学年トップの成績を維持するくらい頭がいいし、アイドル事務所やモデルスカウトが自宅に押しかけるほどの美少女だし、生徒会の副生徒会長に選ばれるほどの品行方正な性格をしている。傍から見れば疑いようもなく完璧な美少女に違いない。
先述したエロゲーのヒロインには様々なバリエーションがあるが、一番オーソドックスなものは『幼馴染み』なのだそうだ。美少女の幼馴染みに毎朝起こされて、親が旅行に出かけている時は晩ご飯を作りに来たりするという日常は、なるほど確かにフジノリから聞いたエロゲーの主人公の生活そのもののようである。

(まあ、現実はゲームみたいに甘くないってことだよな)

窓の外で赤く輝く放課後の夕日を眺めながら内心でボソリと愚痴る。周囲からどれほど羨望の眼差しで見られても、当の俺はそうは思えない。なぜなら、俺が楓のことを異性として意識しても、楓は俺のことを異性の男とは認識しないからだ。アイツにとって夜月タツヒコとは、双子の兄妹に近い存在なのだ。下手をすれば家族よりも長い時間を過ごしているのだから、そうなるのは当然といえば当然ではあるが。
とは言え、そのような思春期真っ只中の悶々とした感情を抱いていてもアイツが生徒会の会議を終わらせてくるのをちゃんと待ってやっている俺は、実はかなり律儀な人間に違いない。

「タツヒコ、|奥さん《・・・》がお勤めから帰ってきたぞ。出迎えてやれよ!」
「だから奥さんじゃねえよ!お前らもいい加減慣れろ!」
「あはは、|夜月《やづき》君照れてる~」

ゲラゲラと囃し立ててくるクラスメイトの連中に一括する。このやりとりも物心ついた時から繰り返されてきたことだが、最近顔ぶれが変わったせいで気恥ずかしさに顔が赤くなってしまう。二年生に進級してクラスメイトが一新したせいだ。こんなことならアイツともクラスが別になればよかったのに、どうして今年も一緒なんだ。

「俺は先に帰る!じゃあな、フジノリ!」
「ま、待てよ!俺にも楓ちゃんとキャッキャウフフな会話をさせろよ!俺にも匂いを嗅がせろよ!俺にもクンカクンカさせろよ!頼むよタツヒコ君、いやタツヒコ様!!」
「俺をヘンタイのように言うな!アイツの匂いなんぞ嗅いどらん!一人で帰りやがれ!」
「りっぐすッ!?」

ゾンビのように足元に縋りついてくるフジノリを蹴り飛ばし、机から鞄を剥ぎとって足早に教室の扉に向かう。アイツが入ってくるとまた俺が野次馬の辱めにあってしまう。そうなる前に合流してさっさと帰路につこう。
扉の取っ手に手を掛けようと急いで腕を伸ばし―――しかし、無情にも扉は向こうから開け放たれた。

「お待たせ、タッちゃん!一緒に帰ろっ!」

目と鼻の先―――それこそほんの少し顎を突き出せば唇が触れてしまいそうなほど近くで、楓の満面の笑みが花咲く。

「――ぁ、――」



……綺麗になった、と思う。

以前から可愛い容貌ではあったけど、そこにはまだ子供っぽさが残っていた。身体のシルエットも同年代の男子と大して変わらなかったし、そもそも赤ん坊だった頃から隣にいたのだから成長したのかしていないのかも気付かなかった。かくいう俺も、つい最近までは楓のことを明確に女と意識してはいなかった。

でも、高校生になってから、楓は急に大人びた。輪郭や目鼻立ちからはあどけなさが消えて、身体つきも女性特有のふくよかでメリハリのきいた描線を描くようになった。いつの間に覚えたのか化粧もするようになって、唇には薄いルージュまで引いている。
色気づく、という言葉は適切じゃない。そう、本当に……|綺麗になった《・・・・・・》んだ。

何より、これはいつも一番近くにいる俺にしか気付くことが出来ない変化だろうが―――

「タッちゃん?ボーっとしちゃって、どうしたの?」
「わ、こらっ」

きょとんと小鳥のように首を傾げた楓が歩を進める。野次馬から好奇の悲鳴が上がるのも気にせず、息がかかるほど近くまで一気に距離が詰められる。楓の動きに合わせて艶やかな桜色の長髪がふわりと風を孕んで靡く。

「……っ」

途端、甘やかな空気が鼻腔を吹き抜けて、頭の中をいっぱいに満たした。春花のような甘美な香気が思考をとろけさせ、我知らずクラリと立ち眩みを引き起こす。
そう、|匂い《・・》だ。何か特別な香水でもつけるようになったのか、それとも楓自身が纏っていたものが変わったのかは定かではない。だけど確実に、楓の匂いは変わった。たちの悪いことに、とても良い方に。フジノリが嗅ぎたいと言うのもわかる気がする。

「ぅぅぅ……見せつけやがって、見せつけやがってぇ……。吐き気を催す邪悪とはまさにお前のことだタツヒコぉ!ウヒャヒャヒャヒャ!」
「ええい、四足歩行でワシャワシャ近づくな!キモいんだよ!」
「ぎぶそんッ!?」

関節があと10個くらい増えないと出来ないような人間離れした動作で床を這ってくるフジノリに後ろ蹴りを見舞ってやる。この学園のスカートは膝上までしかない。下から見上げればすぐに|中《・》が見えてしまう。だというのに楓がちっとも警戒感を抱かないせいで、俺が余計な気を回さなければならない。

「へ、へへ……いい蹴りだったぜ……お前なら、世界を狙え……ガハッ!」
「あはは。フジノリ君、相変わらずタッちゃんと仲いいね」
「これが仲がいいように見えるお前の神経を疑うよ」

容貌は日に日に綺麗になっていくのに、中身は相変わらずおっとりしていて無防備だ。いつも嫋やかな微笑みを浮かべていて、誰に対しても優しく接する。子供の頃から少しも変わらない。三つ子の魂百まで、とは昔の人間も的を射たことを言うものだ。

「ったく。ほら、帰るぞ」
「うんっ!」

普通、女ってのは美人になればなるほど恥じらいとか周囲への警戒心とかも高まると思うのだが、コイツには当てはまらない。だから今も、平気で自分の手を俺の手に絡めたり出来るのだ。

「楓ちゃん、今日も夜月君と手を繋ぐの?」
「えへへ。だって私、タッちゃんのこと好きだもん」
「んなっ!?ば、バカ!いいから早く帰るぞ!!」

誤解を招く発言を引き金にして女子たちの黄色い声と男子たちの怨嗟の声に火がつく寸前、俺は楓の手を引っ張って廊下に飛び出す。直後、キャアキャアという甲高い声と「うぉのれタツヒコぉおお」という血を吐くような怒号が後方で爆発した。後者の怒号はほとんどフジノリの声だった。

「バカ!いつもいつも、なんで誤解されるようなこと人前で言うんだよお前は!」
「ふえ?でも、私がタッちゃんのことを好きなのはホントだよ?」
「あのなぁ。お前の“好き”ってのは、つまりその、特別な“好き”じゃないだろ!」
「“好き”は“好き”だよ。私はタッちゃんが好きだよ!お父さんやお母さんやタッちゃんのおじさんとおばさんくらい好きだよ!」
「だから―――いや、いい。もういい。わかったから連呼しないでくれ。恥ずかしいから。それと、他の奴らには好きだなんて軽々しく言うなよ。心配だから」
「うん、わかった。タッちゃんだけにしか言わないよ」
「………」

ほら、これだ。こんな奴だから俺が護ってやらなければいけなくなるんだ。
物心がついた時には、楓はすでにこんな性格をしていた。表裏がなくて自分の感情に真っ直ぐで、勉強は出来るくせに脳天気で、おまけに超がつくほどのお人好し。誰彼からも可愛いと持て囃され、近所の爺さん婆さんたちは聖女だの神童だのと崇め出す始末だ。そんな絶滅危惧種のような奴だから、当然邪な考えを抱いて近づいてくる奴らもいる。だから俺も、物心がついた頃にはいつも楓の手を握っていた。幼い頃の思い出といえば、楓が危なっかしいことをする度に大慌てで火消しをして回った苦い記憶しかない。
チラと隣に横目を流す。俺より拳一つほど低い位置にある頭を楽しそうに左右に揺すりながら鼻歌を歌う楓は、俺の悩みなどこれっっっっぽっっっっちも慮りもしないに違いない。どうしてこんな“温室育ちのお嬢様”に育ってしまったのだろう。
……もしかして、俺がずっと手を繋いで護ってやっていたから、本人に警戒心が芽生えなかったのだろうか。だとすると、こんな性格になってしまったのは俺の責任ということになるのか?

「ふぇ?なぁに、タッちゃん。私の顔に何かついてるの?」
「い、いや、別に。相変わらずのアホ面だなと思ってただけだ」
「ひどーい!」

ぷぅ、とハムスターのように両頬を膨らませる。陶器みたいな純白の頬はふっくらとしていて、まるで出来立ての大福のようだ。そこらの女子が同じことをしても計算された芝居にしか映らないが、楓がすれば愛嬌たっぷりの仕草になる。媚を含まない自然体を平気で他人に晒すのはコイツの悪い癖だ。いつも見慣れている俺でさえドキリと胸を高鳴らせてしまうのに、初めて見た人間なら一瞬で恋に落ちてしまう。こうして俺が傍にいてやらないと一分一回の告白ラッシュが始まるに違いない。

「……でも、何時までもこのままってわけにもいかないよな」

如何に危なっかしいからと言って、死ぬまで楓の傍にいるわけにもいかない。お姫様と騎士じゃあるまいし、何時かはそれぞれ別の人生を歩まないといけなくなる。こいつと、け、け、結婚をするというのなら話は別だが―――果たして楓がそこまで考えているかと言えば、とても怪しいと言わざるをえない。ある日突然、「タッちゃん、私カレシができたの!一番最初にタッちゃんに紹介してあげるね!」「はっはっは、よろしくタツヒコ君!今日からボクが楓さんを護るから君はもうお払い箱だよ!」などと平気な顔で男を連れてきても何らおかしくはない。
そうなるのは寂しいし、楓が他の男に持っていかれると思うと歯痒さも覚える。でも、何時かはそういう日が来る。それは仕方のないことだ。楓が俺に向ける“好き”は、血の繋がった家族に向ける“好き”と同じだ。きっと近い将来、もっと大きくて熱い“好き”を別の男に差し出す日が来るだろう。そうして心も身体も信頼する男に預けて、一緒になって、結婚して、身篭って、母親になるんだ。

「……そのためには、俺の存在は邪魔かもしれないな」
「タッちゃん?さっきから独り言呟いて、どうしたの?」

不思議そうに眉根を潜めた楓が視界にひょいと飛び込んでくる。その可愛らしい仕草も、俺が傍から離れなかったせいで子供っぽさが抜けなかったのだと思うと心苦しくなる。
そろそろ潮時なのかもしれない。親離れならぬ、幼馴染み離れだ。お互い後数年も経てば大人になるのだし、楓に至ってはとっくに結婚ができる年齢に達している。もう、お隣さんの男友だちが未練たらしくお節介を焼き続ける必要はない。

「あの、さ。ちょっと、話があるんだけど、」
「ふぇ?」

意を決して、口を開く。往来のど真ん中だけど、こういうのは勢いが大事だ。何時まで経っても引きずるのは俺にとっても楓にとっても良くない。
ハッキリと告げよう。「これから少し距離をおこう。その方がお互いの将来のためだ。お前も俺から離れて、自意識を持った方がいい」、と。「これからも良い友だちでいよう。困ったら相談に乗ろう」、と。でも、どういう風に言ってやるのが一番いいだろうか。とりあえず、大事なことから告げていくべきか。

「もう、やめにしないか。俺たちの、こういう関係」
「――――――え?」

途端、楓の瞳から色が消え失せ、愕然と口を開く。言い方を間違えただろうか。いや、これでいい。ちょっと強めに言った方がいいこともある。コイツの場合はかなり鈍いんだし、明確に言わないと「またまた、タッちゃんったら冗談言っちゃってぇ」と受け流されてしまうのがオチだ。
中途半端な笑顔のまま固まった楓にしっかりと向き合い、双眸をじっと見つめる。

「そろそろハッキリさせておこう。俺は、お前とこれからもずっとこうやってベタベタするつもりはない」
「―――そだ」
「もう高2になったんだし、そのうち進路も考え始めないといけない。お前も俺から独り立ちするべきだと思う。これからは、お互いの将来をそれぞれ考えてだな、」
「そんなの、嘘だ」
「……楓?」

低く呻くようなその声が楓の口から発せられたものだと、最初はわからなかった。普段のおっとりとした口調とはかけ離れた切羽詰まった呟きにギョッと驚く俺の目の前で、楓の肌から血の気がみるみる引いていく。細い手から滑り落ちた鞄が足元でドサリと音を立て、周囲の視線を集める。

「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。わ、私、何か悪いことした?もしかして、フラグを見落とした?選択肢を間違えた?どうして、そんな、こんなのゲームになかった。それじゃあ、それじゃあワタシは、オレは―――」

ワナワナと震える唇から苦しげな呟きが零れ、頬を伝った涙と一緒に床に落ちる。自分自身の存在を確かめるように、そうしなければ自分自身があやふやになってしまうかのように、己の両肩を強く掻き抱く。

「か、楓?大丈夫か?」

不安気に声をかけるが、反応はない。間近に近づいて顔を覗き込むが、死体のように開ききった瞳孔に俺は映っていない。過呼吸のように荒い息を吐いて身を震わせる様子は明らかに尋常じゃない。もしかしたら俺は―――取り返しのつかないことをしてしまったのだろうか。
狼狽してどうすることも出来なくなった無力な俺の前で、楓はただただ孤独に震えて泣き続けていた。






昔、トラウマを刻みつけられた漫画がある。
未来から来たロボットの秘密道具で絵本の世界に入ったはいいものの、出入りするための道具を落としてしまって絵本の中に閉じ込められる、という話だ。子どもながらに恐ろしさを覚えて、その晩は寝付けなかった。
それが現実になって降りかかるとわかっていれば、その日は寝ずに神様仏様にお祈りを捧げていたのに。

今の俺の状況に比べれば、その漫画の方が何倍もマシだ。主人公には助けに来てくれる頼もしいロボットの友人がいたし、何より、その主人公はちゃんと|生き帰る世界《・・・・・・》があるのだから。そう、助けの手を差し伸べる救世主もおらず、すでに自分が死んでいることを理解している俺とは天と地ほどの差だ。
前世、と呼べるものかは定かではないが、俺にはもう一つの人生の記憶があった。男として生まれて、平凡に生きて、いつの間にかオタク趣味に傾倒して、普通の容姿と普通の成績でダラダラと大学まで進学して、何気なく帰り道を歩いていたら後方から車に突っ込まれて死んだ男の記憶だ。恐竜が巨大な黒板を爪でひっかいたようなブレーキ音が今も耳にハッキリとこびり付いている。
物心がついたある日、俺は突然その記憶を取り戻した。カサブタのような薄い皮膜を一気に剥がしたみたいに、中に詰まっていた思い出したくないモノが溢れだして頭の中で爆発した。こんな記憶はいらなかった。一生思い出したくなかった。だって、その記憶によれば、俺が二度目の生を受けたこの世界は|作り物《・・・》の虚構だったからだ。
この街の名前も、両親の名前も、自分の名前も、幼馴染みとの関係も、何度も目にしたことのある|設定《・・》だった。前の人生で俺が夢中になったアダルトゲームのキャラクター設定そのままだったからだ。
同じ世界で二度目の人生を授かったのなら、好意的に捉えることもできただろう。「自分にはこの世で成し遂げなければならない宿命があるに違いない」と天から授けられた運命を信じ、何らかの理想や目的を掲げてガムシャラに突き進むこともできただろう。だけど、最初から誰かが作った虚構にしか過ぎないとわかっている世界で、どうして本気で生きることができるだろうか?己が主人公だったなら、まだ幾ばくかの救いはあった。例え虚構の世界であっても、主役として立ち回れるのならば少しは楽しみようがある。何せ、俺は何度も|主 人 公《プレイヤー》の視点で何度もこの世界を堪能したことがあるのだから。全てのフラグやキャラクターの設定を知り尽くしていれば、まさしく神の視点を得たに等しい。
だけど―――よりにもよって俺が新しく授かった人生は、朝香楓という|女の子《ヒロイン》だった。
この世界は、不遇の最期を遂げた俺に神様が用意してくれた第二の人生などではなかった。主役はちゃんと別に存在していて、俺はただ主役に|攻略されるため《・・・・・・・》に用意された脇役に過ぎなかった。その事実に気付いた時、俺は絶望に打ちのめされて家の中に塞ぎ込んだ。自分に課せられた虚しい運命に諦めて、生きる目的を見失っていた。
そんな俺を引き上げてくれたのは、よりにもよってその|主役《・・》だった。

「なにしてんだよ、かえで。きょう、公園にいく約束わすれたのかよ」
「……夜月、タツヒコ……」
「なによびすてにしてんだよ、かえでのくせに。ほら、ボケっとしてないで、さっさといくぞ。今日こそ砂場にオレのでっかい城をつくるんだ。完成したら、かえでもいっしょに住まわせてやるよ」

その時、ぐいと目の前に差し出された手は、とても大きかった。このニセモノだらけの世界の中で、その手だけは本物であるかのように思えた。当然だ。この世界は全て、コイツのために創られた。タツヒコという柱を中心にして創られた、タツヒコのための世界だ。

そうだ、常に世界の中心の傍にいれば、道を見失わずに済む―――。

「……うん、ごめんね、タッちゃん。私もおてつだいするよ。だから、いっしょに住まわせて。ずっといっしょにいて」

目の前の手を握って、俺は空虚な笑みを貼りつけた。
この瞬間から、俺の|朝香《・・》 |楓を演じる《・・・・・》日々が始まった。

幸いにも、朝香楓はメインヒロインであり、もっとも攻略しやすいキャラクターに位置づけられていた。プレイヤーが他のヒロインに靡くような選択を複数回選べば攻略対象は変化するが、特に何もしなければ自動的にメインヒロインのトゥルーエンドルートに入るようになっていた。トゥルーエンドになれば、主人公は朝香楓と結ばれ、結婚し、幸せな家庭を築いてエンディングロールとなる。つまり、タツヒコの意識を俺に向け続けてさえいれば、少なくとも人並みの幸せは確実に手に入れることが出来るのだ。男と結ばれることに最初は嫌悪感を感じた。だけど、生きる目的を見出だせず、けれども自殺する勇気もない俺に贅沢は言えなかった。この世界がニセモノで、自分も周りの人間も全てが用意された脇役だと知っている俺には、唯一本物のタツヒコの近くにいることが精神の平穏を保つ術だった。
そのために、俺は影で懸命に努力をした。タツヒコの心を俺に繋ぎ止めておくために、必死で演技をした。常に寄り添って、時には懸命に世話を焼き、時には保護欲を掻き立て、「朝香楓にはお前が必要不可欠なのだ」とアピールし続けた。






(再びタツヒコ視点)



「嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。わ、私、何か悪いことした?もしかして、フラグを見落とした?選択肢を間違えた?どうして、そんな、これじゃゲームと違う。それじゃあ、それじゃあワタシは、オレは―――」
「か、楓?大丈夫か?」

ガタガタと全身を痙攣させて苦しげに脂汗を浮かべる様子はこの16年間で一度だって見たことがない。
……いや、たった一度だけ覚えがある。幼稚園に上がる前、俺たちに自我が芽生えてまだ間もない頃、何の前触れもなく楓が突然塞ぎこんだことがあった。何を言っても反応しない無気力な楓に、オジサンとオバサンはひどく不安がっていた。今にも自殺しそうな楓の表情は鮮烈に記憶に刻み込まれている。その時は、見るに見かねた俺が手を取って無理やり外に連れ出して元気づけてやって解決した。遊んでいる内に楓の状態も元に戻ったから、そんなことは今の今まですっかり忘れていた。だけど今回は、あの時よりも遥かに重症に見える。

「嫌だ、一人になるのは嫌だ、嫌だよ、嫌だ」
「おい、楓?一人にするなんて言ってないだろ?いったいどうしたんだよ。そんな顔して泣くなんてお前らしくないって。なあ、聞いてるか?」

俺の言葉が耳に入っていないのか、眦から零れ落ちる涙は止まらない。凍えたようにガチガチと歯を鳴らしながら背を丸めて嗚咽を漏らすばかりだ。虚ろな瞳は、まるで押し寄せる孤独と寒さに押し潰される雪山の遭難者のようだ。副生徒会長が突然見せる奇行に学友たちが面食らって立ち止まる。「お前が泣かせたのか」という非難の視線が突き刺さるが、俺にだって原因はわからない。
楓の豹変と周囲の人だかりの視線にたじろぎながらも、とりあえず泣き止ませようと華奢な肩におずおずと手を伸ばす。瞬間、俯いていた桜色の髪が跳ね上がり、伸ばした手を思い切り掴まれた。いつもの楓からは想像もつかない乱暴な動作に動転する間もなく、ぐいと腕を引き寄せられてたたらを踏む。

「教えて、直すから!」
「は?直すって、お前なに言って、」
「私に悪いところがあったんでしょ?気に入らないところがあったんでしょ?だから、私のことが嫌いになったんだよね?ねえ、教えて。なにが悪かったのか教えて。直すから。全部、全部全部全部、|今ままでみたいに《・・・・・・・》すぐに直してみせるからっ!!」
「……ッ」

まるで命乞いをするかのように震える双眸に見上げられ、俺はようやく、自分が取り返しのつかないことを言ってしまったのだと理解した。異性として意識していたのは俺だけだと思っていた。楓は俺の存在は空気のようにしか思っておらず、依存などしていないと思い込んでいた。だけど、本当に鈍かったのは俺の方だった。
捨てられた犬の瞳に俺の顔が映り込む。いや、この瞳には常に俺しか映っていなかった。コイツはずっと―――俺が楓を想うより遥かに以前から、俺だけを見ていたのだ。
(ここから仮の流れ)


「もしかして、好きな子ができたの?だから私が邪魔になったの?」

タツヒコ、この言葉にカチンとくる。怒鳴りつける。楓、ビクリと後ずさる。タツヒコの後ろにツインテールの後輩らしき女の子を見つける。

「あはは、やっぱり」

楓、突然走り去る。

ツインテールの女の子
「先輩と会うのはまだずっと先です。さっさと追いかけたほうがいいですよ。ああ、そうそう。とりあえず、あの幼馴染さんに『ヒロインが全員揃うまでは停戦する』と伝えてください。きっと落ち着きますから」
「……?あ、ああ、わかった。」


追いかける。意外に足が速い。夕暮れ、昔遊んだ公園のブランコに虚ろな表情で腰掛けている。

ここから楓視点に移行↓

(楓視点)










タツヒコの背後に、ヒロインの一人が現れる。楓、早とちりする。






~現在、ここまで~
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~ Comment ~

 

なろうの名前がw作者の名前がw
いや、不覚にも笑いました。
そして、この短編も面白くなってきましたね。
つか、コメント欄が異常に盛り上がっていて「えっ!?主さんの言ってることがわからない(?_?)」と思ってましたが、今回のラストで謎が解けました。
……つか頑張ったよね、中の人。もし、自分なら女言葉、しかも天然系を五分も話したら憤死する自信がありますよ(笑)

 

乙女ゲーの攻略可能対象が一人だけのパターンみたいなもの?
うん、面白い。
天然を装ってるとか知ってる側からしたら面白いの一言 wwwww。
なんだっけ?外堀系ヒロインだったかな?逃げ場はないぜ主人公!!って感じです
タツヒコ君も満更じゃないようだし、後はいかに劇的に想いを分からせるかですね
ライバルが出てきての嫉妬から暴発とか、
ポロッと溢したりとか、
すれ違いからのとか、夢一杯ですね。
ベタなのもいいですが、斬新な展開なんかないかなぁ。お見合い行ったら相手は・・・とか?
なんかあった気がするんだよなぁ。

NoTitle 

>名無しさん
誰にもツッコまれなかったらどうしようかと思ってましたwwwありがとうございますwwwww
この幼馴染みTS娘は僕がいつも書いてるようなハッチャケた性格をしていなくて、中身はそれなりにシビアでマジメです。自分が虚構の世界の存在になってしまったと自覚していて、その世界の中でどう立ち回ればいいかがわからなくて、結局原作通りに振る舞うことしか出来ず、心のなかは不安でいっぱいになっています。不安だからこそ、原作に忠実なキャラを演じることで自分を保っている、という設定です。その辺の切羽詰まった苦しさをもっと表現できたらいいなと思います。

>悦さん
>乙女ゲーの攻略可能対象が一人だけのパターン
なるほど、言い得て妙ですな。
スレ違いから段々関係が気まずくなってきて……というシチュエーションは大好物なので、それをやってみようかなと思います。

追加分 

なにこれ、半端なく重いんですけど(;・∀・)
道を失った主人公が見つけた道が楓を演じる道だとは・・・神の視点から見たことがある世界を現実としては見れなかった。正常な人間の反応ですね。
生きていくには一歩引いた目線から見るか、全て忘れる若しくは受け入れるしかないんでしょうが、どれも辛い道です。

秘密の共有を図れば楽にはなるでしょうから、是非ともキヨヒコ君には 頑張ってもらいたい。

NoTitle 

更新お疲れ様です。
読者からしたら両想い?なのが分かっているのでニヤニヤする展開ですが、本人たちにとってはすごくシリアスですね。
一歩間違うと「誠○ね!」とか「中に誰もいませんよ…?」とかになりそう(笑)
現在変態なだけの悪友が楓を慰めたり相談に乗ったりで株が上がりそうな予感。
次回の更新も楽しみに待っています。

NoTitle 

>悦さん
今回のTS主人公も、当初はエルフと同じようなハイテンションキャラにしようかと考えていましたが、いつもいつも代わり映えのないキャラクターを書いていても面白みがないなと考えて軌道修正してみました。ゲームの世界に入ったはいいものの、自分が主人公ではなく、主役を引き立てる脇役に過ぎないと知ってしまった人間がどんな行動を取るのか。似た境遇に陥ったキャラクターに、『ブリジットのいう名の少女』に登場する『ピノッキオ』がいましたので、彼を参考にしてみました。彼は結局、自分が憑依したキャラクターに成りきることで平穏を得ることにしました。それが普通の人間の選択ではないのかな、と僕も考えて、今回のTS主人公の方向性を定めました。何が言いたいかというと、やっぱり『ブリジットという名の少女』は偉大だなあってことですよ!
秘密の共有をするかしないかについては、今尚考え中です。さてどうするか……。

>ふぉるてっしもさん
読者がキャラクターの目線になって物語を楽しめる作品というのを書くのが僕が苦手なもので……。こうなったら読者の視点だからこそ楽しめる作品を追求しようか、と最近では開き直ってますwwwでもヤンデレENDは怖いので描きません((((;'Д`))))ガクブル
悪友を役立てるという発想はなかったです。コイツも濃いキャラなので、何かしら使ってみたいですね!

NoTitle 

原作キャラへの憑依とかトリップってそういう始めから決められている設定って奴に悩まされることになりますよね、キャラも作者も。
でも結局自分が何者か、何者になりたいかは自分で決めるしかないんですよね。
何者でもない自分へ不安を感じたり、相違や反発に悩んだり、だけど苦しみの無い人生なんてなんとつまらないことか。
結果が解っているだって? それが不安にならない理由かね?
不安とは自分の自信の無さだ。結果へ辿り着くにはフラグも選択肢も必要ない。
常に自らの進む道へ挑み、問い掛けてこそ人生だ!

永遠の命題、女子は何故怒るとあんなに怖いのか? それを追い続けるように……!

NoTitle 

>上条信者さん
>永遠の命題、女子は何故怒るとあんなに怖いのか?
男の遺伝子に女性への畏敬の念は埋め込まれているんですよ、きっとwww

自分が何者かを決めるのは自分……。なるほど、良いことを聞きました。短編を書き進める上で参考になりそうです。ありがとうございます!!

 

楓にはタツヒコ君と幸せになって欲しいけど、そうするとタツヒコ君を好きなほかのTSヒロインが……ちっ!ブリジットの呪いで『TSヒロインの不幸アレルギー』になってしまった! 楓ちゃんとタツヒコ君を純粋に応援できない。
他のTSヒロインの存在で話がかなり面白くなりそうだけど自分で言っといてなんだが他ヒロインが邪魔だwww

 

楓がある意味自分の武器とも言える神様視点を他のヒロインも持っていると知ったら落ち着くどころか逆に
疑心暗鬼から人間不振になりそうだwはっ!?まさかそこまで狙っていたのかあのツインテールめ恐ろしい娘!w

NoTitle 

>さんさん
ブリジットの呪いは恐ろしいですなwww作者のH&Kさんはホントに罪深い御人ですwwwww
TSヒロインは不幸の涙も似合うけど、やっぱりハッピーエンドが一番ですよね。他のTSヒロインにも何かしらの救いがあるようなエンドにしたいです。ツインテールの中の人は、見た目と違ってかなりサバサバしてるようにします。楓とタツヒコの後輩にあたりますが、実は中の人は楓よりも年上という設定です。我ながら面白いアイディアだと思います。

NoTitle 

初めまして。以前から楽しく読ませていただいております。

ヒロインとタツヒコの関係ってヒロイン側からすると幼児と親の関係っぽいな、と思いました。あとは、TSとか転生系の設定は楓だけの方がタツヒコと楓のお話がすっきりするなと感じます。
ツインテールなあの子は単純に楓とタツヒコの関係を応援してる娘ってだけで十分なような。…いや、TSさせたからにはそれ故の葛藤とか描かなかったらTSの意味がないってだけですけど。

まあそれはそれとして日曜のアイアンマン2は面白かったですね!アヴェンジャーズを見てから見たかったので実にいいタイミングでした。もっとアメコミ映画テレビでやらないかなー。

長文失礼しました。毎度楽しませてもらってます。

NoTitle 

>sisiさん
コメントありがとうございますっ!!
「虚構の世界に脇役として放り込まれた人間が、自分の精神を保つためにその世界の中心である主役に依存する」、という思いつきを形にしてみました。たしかに、親にベッタリな子どものようです。親離れをしてから初めて、本当に対等な関係になれるのでしょう。最終的にはそういう関係にもっていけるようにしようと考えてます。
他のTSヒロインに関しては、一話だけで終わる短編SSということで、それほど深く掘り下げないでいこうと考えてます。葛藤を描くのは楓だけでいいかな、なんて。

>アイアンマン2
アイアンマンは最高!!異論は認めない!!
特にスーツケース型のマーク5スーツには衝撃を受けました。弱かったけど、あの変身シーンは最高に格好良かったです。来年のアイアンマン3が楽しみです。でも3でアイアンマンシリーズは幕を閉じるらしいし……ちょっぴり悲しいです。
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