性転換

復活ッッッ!主復活ッッッ!!&美しい変化~の試作【改々々々々】

 ←殿下は従者の~のオマケとか設定とか →『美しい変化~』の更新報告と、『エヴァンゲリヲンQ』と『007:スカイフォール』と『009 RE:CYBORG』の感想とか
ヒャッハー!試験終わったぜ――――!!
ストレス発散のためにオートバックスやらマンガ倉庫やら映画館やらに行って車の装飾品とか小説とかエヴァンゲリヲンとか楽しんでました!!そしてもちろん小説も書いてます!!現在は「美しい変化を貴方に」の最終回を製作中!!これが終わったら白銀の討ち手にとりかからなくては!!いやあ、自由っていいねえ。自由最高!!
ああ、でも明日は仕事の忘年会が……。めんどくさっ!!



※追記
「007/スカイフォール」見てきたぜー!うーむ、古き良き007と新しい007のテーマが融合していて、面白かったし、これからの007シリーズについても考えさせられた。アストンマーチンボンドカーかっけえwww


※さらに追記
後編めっちゃ長くなってもう9400文字突破しちゃってるぜ……。後編も分割した方がいいかもしれない。あんまり長いと読みにくいし、気合入れて読まないといけないと思われると敬遠されそうで怖いからな~。好き勝手に書いてるこんなダメ作者ですが、「読んでもらいたい」という気持ちは人並みにあったりするのです。


※またまた追記
009 リ:サイボーグを見てきますた。ああ、なんていうか、難しい。さすが攻殻機動隊映画の監督だけあって、テーマが深い。最後はポカンとさせられたけど、こういう映画なんだという説得力もあった。もっと長くみてみたかったなあ。




美しい毎日を貴方と 最終回試作



叶えたい夢があった。



決して有名ではない高校の野球部だったけど、努力に努力を重ねて、遂に甲子園への切符を手に入れた。高校3年間の締めくくりとして相応しい、学校史上10年ぶりの甲子園入りという快挙を果たした。甲子園球場のマウンドで投球をするのは長い間抱いていた夢でもあっただけに、それまでの血の滲むような練習の日々も、どのくらい流したのかわからない汗も涙も、全てが報われたと思った。

「たとえ優勝できなくてもいい。悔いのないように全力を尽くそう。どんな勝利よりも誇り高い最高の敗北を掴み取ろう」

主将が不敵な笑みで語った言葉に、俺たちは力強い頷きを返した。あの瞬間、間違いなく全員の心が一つになっていた。甲子園試合まであと2ヶ月。どんなにハードな練習にも堪えてみせると心に誓った。チームの主力ピッチャーとして、みんなの期待を背負い、不安を払うという覚悟を決めた。弱小だと舐めてかかってくる強豪チームの奴らに吠え面をかかせてみせると自信に満ち溢れていた。

ガツッと、皮の下の硬いモノが砕ける音がした。砕けてはいけないモノが砕けて、それが守っていた大事なモノを潰される感覚が頭蓋を叩き揺らした。手足が急に動かなくなって、次の瞬間には意識もズルリとずり落ちた。

誰かが悪いじゃでもない。練習試合で、俺が全力で投げたボールをバッターが思い切り打ち返して、それがたまたま思いも寄らない軌道を描いて、たまたま俺に向かって飛んできただけだ。その日に被っていたヘルメットがたまたま一番古くて、ボールが当たったところがたまたま一番摩耗していた側頭部で、たまたま当たりどころが悪くて、結果的に半身不随になってしまっただけのことだ。誰かに責任を押し付けることも出来ない。本当にただの|不運《・・》だった。……だからこそ、納得が出来なかった。

結局、最初の試合でチームは敗北した。見事なまでの惨敗だった。手も足も出ていなかった。試合の翌日、主将が俺の病室まで来て頭を下げた。「こんなはずじゃなかった」と。
そう、こんなはずではなかった。今までの努力の日々がこんなに呆気無く無に帰すなんて、想像もしていなかった。あとほんの少しだったのに。夢の実現まで、本当にあと一歩だけのところにまで来ていたのに。
退院した後、自宅療養となった俺はそのまま部屋に引きこもった。目の前で夢を取り上げられて生き甲斐だった野球もできなくなった今、回復しようとする活力が微塵も湧いてこなかった。リハビリには長い時間がかかると医者に言われ、自暴自棄になっていた。
内向的な兄貴のゲームを借りて昼夜問わずのめり込んだ。それまでずっと朝も夜も練習に明け暮れていたから、ゲームに熱中するのは新鮮だった。家庭用ゲーム機のゲームも遊び尽くした頃、兄貴から譲ってもらったノートパソコンの中に削除し忘れたらしいゲームがあるのを見つけた。兄貴が夜中にコッソリとプレイしていた『エロゲー』だった。野球に勤しんでいる間はそういったオタク的なジャンルは敬遠していたが、今となってはどうでもいいことだ。生きる目的も理由も見いだせないヘドロのようなこの虚しい日々を少しでも忘れることが出来るのならと自棄になり、俺も遊んでみることにした。

思いの外、面白かった。パソコンの中にもう一つの世界があるような、そこに別の人生を授かったような面白さに俺は瞬く間に没頭した。涙を誘う純愛のストーリーもあれば、目を背けたくなるような鬼畜めいたストーリーもある。そこには千差万別の世界があり、人生があった。
ゲームを数タイトルほどクリアした頃、俺は一人のキャラクターと出会った。主人公の先輩で、私立瑞穂学園の生徒会長をしている夕緋 薫子だ。誰からも慕われて頼られている人気者の生徒会長は、自分の夢と現実の狭間で悩む主人公を優しく励まし、時には激しく叱咤して背中を押してくれた。当初、夢破れた俺には鬱陶しいだけのキャラクターにしか思えなかった。
だけど、ストーリーが進むに連れて、本当は彼女自身にも叶えたい夢があったことがわかる。「小さなお菓子屋さんを開きたい」というささやかな―――けれど、古くから続く良家の娘としては決して許されない夢が。将来はどこかの良家の跡取り息子と結婚するという運命が決まっている薫子は、自分の願望を諦めて、せめて主人公の夢を実現させる手伝いをしていたのだ。自分が叶えられなかった分、主人公に代わりに叶えてもらおうとしたのだ。

『夢を、諦めないで』

切なげに主人公に語りかけてくる薫子の今にも泣きそうな表情に、俺は心臓を掴まれたようなどうしようもない苦しさを覚えた。膨大な感情が込められたその言葉は、主人公を介して俺に投げかけられたように思えたからだ。
じんわりと心に染みこんでくる言葉を噛み締めながら、俺はしばらくスクリーンに映る薫子の瞳に釘付けになっていた。そうだ、俺は何をやっているんだ。手足をもぎ取られたわけじゃない。まだこの身体にしかと繋がってるじゃないか。「夢を諦めないで」という台詞が頭の中で再生されるたびに、ぐんぐんと活力が湧いてくる。

「……?」

やにわに、痛覚すら感じなかった足先に仄かな熱を感じた。今まで冷たい石だった脚に血が通いだしたような感覚に心臓が高鳴る。胸に背に汗が噴き出るのも無視してグッと脚全体に力を込める。まだ筋肉の落ちていない太ももが俺の気合に応えてぶるぶると震える。ほんのわずかな反応だけど、今はこれだけでも十分だ。この脚が、俺の意思を反映して動くということがわかったんだから。
長い時間をかけて会得した筋肉は簡単に消えることはない。俺はまだ若いし、動けるようになればすぐに回復できるはずだ。今までの血反吐を吐くような練習を思い出せば、ただ歩くだけのリハビリなんて苦にすらならない。たった一度夢が壊れただけで、どうして絶望した気になっていたんだ。
額に浮かんだ汗を拭い、晴れ晴れとした笑顔でもう一度スクリーンに目を向ける。薫子の表情も、気のせいか少しだけ微笑んでいるように見えた。まるで俺の変貌を見ていたかのようだ。

「ありがとよ、薫子先輩!俺、また頑張ってみるッスよ!!」

パソコンに向かって爽やかに笑いかける。エロゲーに向かって語りかけるなんてどうかしているが、背中を叩いてくれた礼くらいはしても然るべきだ。久しぶりに、こんなに気持ちのいい笑顔を浮かべることが出来たのだから。
さあ、そうと決まれば前進あるのみだ。両親も兄貴も留守にしているのは幸いだったかもしれない。みんなが帰ってきたら目が飛び出るくらいの変化を見せてやる。そのために、今から自分なりにリハビリを始めてみよう。あ、でもその前に薫子のルートをコンプしてから―――

「―――ッ!?」

ゾワッと、背筋が泡立つ。人間に備わる動物としての本能が「|揺れるぞ《・・・・》」と悲鳴を上げる。腰から背中に冷たい戦慄が走るが、足先すらまだ満足に動かせない俺には息を呑んで身を固くすることしか出来ない。
怖気を感じてからきっかり一秒後、地面がミシリと低い音を立てて|ズレる《・・・》。家中の柱や梁がギリギリと締め上げられ、上下左右に激しく振動を始める。引き出しやタンスの中身が踊り狂って床に次々と落ちていく。腹底に響く地鳴りと周囲の家々で上がり始めた悲鳴に横っ面を叩かれ、俺はようやく何が起こったのかを悟る。

「――――地震……!?」

それも普通の地震じゃない。今までで感じたこともない途方も無い揺れだ。「この家は保たない」と直感で理解できるくらいに大きな地殻変動が、この地面の真下で起きている。
冗談じゃない。たった今希望を見出したのに、夢を掴もうと再び歩みだしたばかりなのに、それすらも奪われてたまるものか。外に逃げなくてはと必死に腕を振り乱して身体を引きずるが、窓までは遥かに遠い。身体が十全に動いた頃は数歩跨いだだけで庭に飛び出せたのに、今では一メートル進むのにすら息が上がる。まるで地を這うナメクジのようだ。だから、絶望的に|間に合わない《・・・・・・》。
バキバキメキメキ。取り返しの付かない音を立てて柱に亀裂が走り、それが支えていた二階の構造物が豪雨のように落ちてくる。天井を構成していた木材や鉄がたった今まで寝そべっていた布団の上に降り注ぐ。まだ薫子が映るノートパソコンが瓦礫に飲み込まれ、グシャリと無残に圧壊する。崩れていく瓦礫が太い梁をズルリと引きずり出し、その切っ先を傾ける。その先にいるのは、愕然として床に横たわる俺。
ゆっくりと視界に影を落としてくる大きな梁を虚ろに見上げ、ぽつりと呟く。

「諦めなかったのに、どうして、」




自分が潰される感覚は覚えていない。冷たい梁が額に触れた瞬間、意識が途絶えた。気絶したのか即死だったのかは今となってはわからない。苦しまなかったことは喜んでもいいだろう。

「おーい、鈴木ー!ちゃんとキャッチしろよー!」
「ごめ~ん!」

少年の手をすり抜けたボールがコロコロとこちらに転がってくるのを何の気なしに目で追う。開けた空き地でキャッチボールをしている子どもを見ると、前世の自分を重ねてつい立ち止まって見てしまう。野球からは身を遠ざけようとしているのだけれど、染み付いた癖というのは一回死んだ程度では容易に消えてくれないらしい。
足元まで転がってきたボールを慣れた手付きで掬い上げる。試しにフォークボールの握り方を作ってみれば、案外自然に握ることが出来た。全身の筋肉が引き締まり、今すぐでも投球ができるようにじわじわと温まっていくのを感じる。この身体になってからまともにボールを投げたことなんてないのに。肉体ではなく魂に、前世の感覚が染み付いているのだろうか。
握り方を次々に変えてみる。スライダー、スローボール、カットボール、サークルチェンジ。どれも自然に握られたことに自分でも驚く。18年の歳月をかけて習得したピッチングフォームは|女の子になった《・・・・・・・》今も健在らしい。もう|投球《ピッチ》をすることなんてないだろうに、未練がましいというかなんというか……。

「あ、あの、お姉ちゃん。そのボール、ぼくらのなんだけど……」
「えっ?あ、ご、ごめんなさい。ちょっと懐かしくて。はい、返すわ」
「ありがとう。あの、お姉ちゃんも野球してるの?」

ポーッと見惚れる視線に見つめられて小さく苦笑する。男から含みを持った目で見られるのには馴れたけど、まだ10にも届かない子どもから恍惚とした視線を向けられるのは久しぶりだ。小柄な少年の目線と同じ高さまでしゃがんで、ボールを優しく手渡す。年上の女性に触れられたことにドギマギと狼狽える様子が初々しくて、思わず微笑みが溢れる。

「ええ。ずっと昔だけどね。今はもうしてないわ」
「ホントに?でも、ボールの扱い方がすごく上手かったよ。ぼくと全然ちがう……」
「簡単よ。コツさえ掴めばあなたにもすぐに出来るようになるわ。ほら、手を貸してみて」
「う、うん」

頬を染める少年の手に自分の手の平を添えて、ボールをそっと握らせる。人差し指と中指でボールをギュッと挟ませ、手首の関節を傾けさせたままピタリと固定させる。

「そのまま縦にまっすぐ思いっきり投げてみて。ボールを回転させないように意識して」
「うん、わかった。―――やあっ!」

気合の一声とともに、少年が空き地に向かってボールをぶん投げる。ボールは空気を切り裂くように宙をまっすぐ飛んだかと思うと、唐突に重力に引っ張られてカクンと地面に落ちた。もしもバッターの目前でそれが起こっていたなら、あたかもボールが消えたように見えただろう。それを遠目に見ていた少年の友人たちが一瞬の自失の後、「すげー!」と飛び跳ねてはしゃぎ始める。見事なフォークボールだ。思った通り、この少年には才能がある。
自身が放った変化球を信じられずに呆気にとられる少年の肩にそっと手を置く。キャッチボールをする子どもたちの中で、この少年のピッチングは群を抜いて力強かった。鍛えれば、この肩はもっと速くて狡猾な制球ができるようになる。

「少しだけ見てたけど、あなたの肩はとても強いわ。あなたに適した投げ方さえ身につければ、将来はプロになるのも夢じゃない。私が保証する」
「……うん!ありがとう、お姉ちゃん!ぼくがんばってみるよ!」
「ええ、頑張ってね」

ニカッと無邪気な笑顔を咲かせ、仲間のところに元気よく駆けていく。戻った途端、「今のどうやったんだよ!」「おれにも教えろよ!」と一斉に質問攻めにされる。一気に人気ものになった少年は嬉しそうに赤らんだ顔でもみくちゃにされている。
そんな子ども同士の微笑ましいじゃれ合いをしばし微笑みながら眺めた後、ふっと冷たい自嘲を落とす。

「あんな偉そうなこと言う資格、ホントはないんスけどねぇ」

夕緋 薫子の人生を授かったことに気がついたのは、物心がついてしばらくした頃だった。それまでも、良家の令嬢として大事に育てられる日々に言いようのない|ズレ《・・》を感じていた。自分の人生が借り物であるかのような空虚感を心のドコかに抱えていた。
その原因がわかったのは、両親が見ていたテレビをふとした拍子に視界の端に入れた時だ。高校球児たちの特集番組。怪我を乗り越えて試合に復帰しようとする少年がクローズアップされた瞬間、額から後頭部へ突き抜けるように18年分の記憶が蘇った。自分に前世の記憶があること、今の人生が前世でプレイしたゲームの世界であることを悟った。―――悟って、受け入れた。

今さら野球をしようという気にはなれなかった。俺が希望を見出して手を伸ばしても、向こうの方が俺から離れていく。つくづく自分は夢に嫌われているのだと諦念して、夕緋 薫子という女の子として生きていこうと決めた。自分を救ってくれた薫子になれたことに嫌悪感は感じなかったし、今の生活に不満はなかった。美しい容姿、周囲からの信頼、裕福な家庭、優しい両親、多くの友人。これ以上望むことなんて、ない。
憂鬱な気分に引きずられて目を伏せる。ツインテールの“センパイ”の幻が俺をじろりと睨め上げる。「なら、なんでお前はお忍びでバッティングセンターなんかに通うんだよ」、と。

「……だって、やっぱり俺、野球が好きなんスよ」
「どうしたんべや、生徒会長?一人でボソボソ呟いちって、何か悩み事でんあんべ?」

ふと肩越しに振り返れば、俺と同じように帽子とメガネで簡単な変装をしたリンジーがこちらの顔を覗き込んでいた。心配そうに様子を窺う碧眼に自分の顔が映り込む。自分で思う以上にひどい顔をしていた。

「ごめん、何でもないッス。さ、早くイベント発生場所に行きましょ。もう時間がないっスよ。遅れたら天音センパイからキツくどやされるッス」
「そんりゃ怖えっぺ!急がね゛ぇど!」

言葉は際立った方言を帯びているのに、外国人特有の大げさな身振り手振りで慌てふためく。そのミスマッチな様子は相変わらず愉快で、憂鬱顔を奥に引っ込ませてくれた。リンジーはこの世界でもワイオミング州というど田舎で自然とともに育ったらしいから、言動に裏がなくて純真だ。一緒にいても苦にならない。
元気づけられたことにくすりと顔を緩め、頬をペシペシと軽く叩く。いつまでも昔のことを引きずるのはよくない。いい加減に未練を断ち切らないと、夕緋家の長女として情けない。今の|私《・》は頼れる生徒会長なんだから、シャキっとしないと!!

「ウジウジ悩むのは終わり!さあ、楓ちゃんを適度に刺激して、トゥルーエンドに導いてあげるわよ!とびっきり派手な水着を着てやるんだから!」
「オラだづのダイナマイトボデーの出番だべな!頑張んべー!!」

笑顔を交わし、二人同時にショッピングモールに歩を進める。そう、私は夕緋 薫子なのだ。薫子がそうしたように、自分の願いを諦めた分、誰かの願いを叶える手伝いをしてあげよう。自分の望みを叶えようと頑張っている楓ちゃんに私の希望を託して、私の分まで幸せになってもらおう。

「すげー!レーザービームみてーじゃん!」
「鈴木のボールかっけえ!」

空き地ではさっきの少年が見る見る腕を上げて鋭いピッチングを繰り返していた。フォームも回数を経るごとに整ってきているし、バッティングや動作の端々に見える俊敏さも優れている。やっぱり素質があったらしい。私の見る目は正しかった。少年野球のチームにでも所属すればすぐにでもエースを張れるようになる。今から成長が楽しみだ。

「イチロー!俺にも投げ方教えてくれよ!」

……鈴木イチロー?

「まさか、ね」



… … …
… …




よく意外だと驚かれるが、俺は女の子馴れをしていない。「すぐ近くに超絶美少女がいながら何を言いやがる殺すぞ」とフジノリにも言われたが、それは逆だ。その美少女一人しか身近に女の子がいなかったから、他の女の子との付き合いをろくに経験したことがないのだ。同年代の少年たちが異性に興味を持ち始め、試行錯誤を繰り返して女の子との多種多様な接触を重ねる中、俺は腐れ縁のバカ女が常に近くで面倒事を起こしていたからそれどころではなかった。……今思えば、それも俺を自分から離さないための策略だったのだろうが。
とまあ、上記のように不可抗力かつ不幸な経緯があるおかげで、俺はこの歳まで女の子とのデートをした経験が一度もないのだ。「楓ちゃんといつも一緒にいるだろが殺すぞ」と襲いかかってきて俺の反撃の拳で地に沈んだのはこれまたフジノリなのだが、思い返せば楓とデートらしいことをした記憶はない。二人して買い物なんぞに出かけても、男女で一緒の行動を楽しむというよりは保護者として同行するような心持ちで付き合ってやっていた。

だから―――だから、大勢の前でこうして腕を組んで歩くことにドギマギと緊張してしまうのは、致し方のないことなのだ。

「えへへ。楽しいね、タッちゃん」
「ただショッピングモールをそぞろ歩いてるだけだろ。まだ買い物もしてねえよ」
「タッちゃんと一緒に歩くだけで私は楽しいんだよ」

肩にキスをするような勢いで腕に抱きついてくる楓からぐいと目を逸らす。モールの中は空調が整っているはずなのに、顔が火照って仕方がない。右足と右手が同時に前に出そうになるのを無理やり矯正してぎこちなく歩く。なんだか俺だけ軍隊の行進をしているようで格好がつかない。

「うっわ!なにあの娘、マジ可愛いじゃん!」
「ねえねえ、あっちの男の子の方も良くない!?ガッチガチになっちゃって可愛い!」
「ンだよ、コブ付きかよ……」

楓から波紋が広がるように、ざわざわと人だかりが波立つ。周囲からの視線が肌にチクチクと刺さる。楓に向けられるのは憧憬や羨望の眼差しだが、俺には嫉妬の眼光ばかりだ。まるで背中を包丁でザクザクと刺されてる気分で落ち着かない。人ごみの中を歩けばいつもこうなるせいで、デート気分に浸るどころではなかったのだ。しかも最近は色気のようなものまで身に纏い出したから、余計に人目を引くようになった。演技をやめて気兼ねなく自分を曝け出すようになったからかもしれない。

日を負うごとに洗練されていく横顔をこっそり覗き見て、

「―――ぁ―――」
「……?」

出し抜けに、その面差しが微かに曇りを見せた。桃色の髪と同じ色の瞳にスッと悲しげな影が差す。その瞳に映っているものは何かと正面に首を回しかけ、ぐいと腕を引っ張られて強制的に遮られる。二股に別れた目の前の通路を、人垣をかき分けて突然左に突き進む。人の流れに身を任せて目的の店までゆったり寄り添い歩いていたのが、急に楓に引っ張られる形になった。

「タッちゃん、こっち行こう」
「あ、ああ。構わんが、こっちだと遠回りにならないか?」
「いいの。寄りたいところを見つけたから」

珍しく硬い声で言い放ったかと思うと、「あ、ペットショップがあるよ!」とコロリと表情を一変させてそちらに足を向ける。こいつも女の子だから、目に止まった店のウインドウについ意識を奪われることもあるのだろう。男には理解しがたい“ウィンドウショッピング”というやつだ。だけど今の楓は、まるで何かを|避けた《・・・》ように見えた。楓が避けた通路にチラリと目を向ける。騒がしい電子音と若者の賑わいに満ちたそこには、ゲームショップやゲームセンターがズラリと立ち並んでいた。ゲームと楓にどんな接点があっただろうかと記憶の戸棚を探り、ふと気付く。

(……そういえば、楓がゲームで遊んでるのを見たことないな)

俺が家庭用ゲーム機に熱中している時も、その様子を傍らから眺めているだけで参戦しようともしなかった。振り返れば、それはあたかもゲームを|避けていた《・・・・・》かのようだ。

「なあ、もしかしてお前、ゲームに何か思うところでも―――」
「そんなことよりっ!」

強い口調でピシャリと跳ね除けられた。思わず面食らった俺の手を掴んだ楓の表情は、いつか見た笑顔の仮面に似ている気がした。

「ねえ、こっち来て!ワンちゃんがプルプル震えてすっごく可愛いんだよ!」
「お、おう」

ケージの前に連れてこられる。大きなケージの中では、黒い大型犬が隅っこに縮こまって震えていた。「おいでおいで~」と楓が手招きしながら近づくと、筋肉質な胴体を跳ねあげてさらに縮こまる。「クゥン……」と怯えたように喉を鳴らす犬の首輪に『ドーベルマン』と書かれているのを見つけ、俺は小さく鼻を鳴らす。もう一度楓の気色を窺ってみるが、そこにあるのはいつもの踊るような笑顔だった。そもそも、軍用犬すら怯えさせる楓が何かを怖がるなんて考えづらい。俺を殺して自分も後を追うと平気で言い放つような奴なんだから。きっと本当に、立ち寄りたい店があったんだろう。
考えすぎだとさっきまでの不信を切り捨て、楓とドーベルマンの間に割って入る。

「お前は犬猫からは距離を置け。近所の番犬を睨んで気絶させたの忘れたのか」
「あ、あれは、あの子がタッちゃんにしつこく吠えてたのが悪いんだよ!ちょっと怒っただけだもん!」
「知ってるか、あの犬、あれ以来犬小屋から出てこないらしいぞ。お前の眼力は純粋な動物には凶器なんだよ」
「ひどーい!私はみんなとこんなに仲良しなのに!ねえ、猫ちゃん?」
「「「ニ゛ャ―――ッ!!」」」

キャットコーナーにそっと手を伸ばせば、それまで悠々自適に寝転がっていたネコたちが一斉に起き上がってビシリとお座りの形に固まる。俺は経験したことがないが、楓と相対した人間は楓に対して奇妙な迫力のようなものを感じるという。まるで楓の後ろに―――もしくは|中《・》に、|もう一人の誰か《・・・・》がいるような気がするそうだ。人間でさえその気迫に戸惑うのだから、野生本能を持った動物にはより鮮明にその存在が感じられるのだろう。楓の「お手!」という指示に機敏に反応する猫を見て他の客や店員たちが驚愕するのを横目に、俺は再び大きく息を吐いた。



~今のところこんな感じ~
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~ Comment ~

NoTitle 

お疲れさまです。待ってました!
続き楽しみに待ってます!

>きっと将来はプロ野球に選手になれる
プロ野球の選手になれる 、かと

NoTitle 

ところで放置されてるバーサーカーはどうなるのでしょうか・・・。
作品が増えるのも良いのですが、作って放置を繰り返すのは良くないと思います。

 

試験お疲れ様でしたm(_ _)m
執筆活動、頑張ってくださいませ~(^-^)/
うん、野球って面白いよね。俺は才能ないからバスケットに行ったけど(笑)

NoTitle 

> さん
長かったような短かったような試験勉強期間でございました。肩の荷が下りた感じです。誤字報告ありがとうございます!修正しますた!!

> さん
すいません……。自分でも手を出しすぎたと反省してます。もう連載小説はこれ以上増やさないです。他の題材で何か書きたくなっても短編で終わらせます。
これからの予定は、「美しい変化を貴方に」を完結させて、一番長い時間放置している「白銀の討ち手」を更新して、次に「せっかくバーサーカー」、「ヒャーリス」、「エルフになって」の順に更新して、それから「せっかくバーサーカー」を集中的に書いていこうかなと考えてます。「せっかくバーサーカー」が一番ラストに近いところまで進んでいるので。順番は多少入れ替わるかもしれませんが、おおよそこんな感じで更新していきます。出来れば年内に「せっかくバーサーカー」の更新をしたいのですが、年末は多忙になるでしょうからどうなることやら……。なんとか頑張ってみます。せっかく読んでもらっているのに、お待たせしてしまって申し訳ないです。

>名無しさん
執筆頑張ります!ありがとうございます!僕はスポーツにめちゃ疎いので、いちいち調べながら書くのがちょと面倒です。水泳なら得意だったんですが……。でも海は嫌いだったり。怖い!

 

なんというか、魅力的な方ばかりですよね。
前世が報われないのに、他人に優しいその姿。
TSということを忘れて、なんだか胸が熱くなります。
ヤバい、主さんのサブキャラが全員好きになってしまったヽ(゜▽、゜)ノ
>007
私も観てきましたよ~。ポンドカーのカッコ良さは異常ww。
そして、ジョークが冴える冴えるww。
やっぱりボンドはカッコ良いけど、それは良い悪役がいるからだと思います(^-^)/
ホモでマザコンで、ハッカーって(((゜д゜;)))
いや、楽しい時間でした。あんな悪役(ホモでマザコンw)は主さんの小説には出てこないのかな~とか、チラチラ見てみます(笑)

 

試験お疲れ様です!!
自分はまだ試験ラッシュが終わっていないので羨ましいです(^^;

薫子さんにもこんな過去が・・・
楓にはもちろん天音、薫子、リンジーにも幸せになってほしいものです

作品の更新全部楽しみにしてますよ!主さん作品数多いのでがんばってください(・ω′;)
ゆっくりでも待っていますので!

NoTitle 

ひゃっはー! 若干日にちの経った新鮮な記事だー! 試験ラッシュで寝不足のテンションが止まらねー! 廃なテンションで更新をお待ちしてるぜコノヤロー!
後一ヶ月になった今年の内に何作更新できるかデッドヒートだバカやろう!

作品が多くなっちゃうのは仕方ないね。リビドーだもんね。基本自分の欲求を反映した結果が今のサブカルチャーの発展の支柱だもの。
映画は最近借りてくるしか時間の余裕がない……。
だから俺は新作レンタルされるダークナイトライジングを借りるぜ!

NoTitle 

>名無しさん
今作のTSヒロインたちは、前世で報われなかった人間に救いの手が差し伸べられた結果誕生したものだということにしています。だからみんな心が綺麗なのです。彼女たちを選んだ神様についても少しだけ登場させてみようかな、と考えたりしてます。
ホモでマザコンな基地外ハッカーさんはいい意味で際立った敵キャラでしたね!世界征服とか大儲けとか陳腐な目的ではなくて、ただトチ狂った復讐のために己の頭脳と財力の全てを賭けてる。今までの007作品にはないボスでしたね。あんな頭が良くておっそろしいキャラクターを果たして僕が書けるか非常に怪しいです(;´∀`)

>ナコトさん
試験頑張って!もうすぐ大晦日とお正月、年末年始の楽しいお休みが待っていますよ!僕には休みはないですけどね!人員少ねえええええ!!
それぞれのキャラクターにもちょっと焦点を当ててみようかなと思って、天音と薫子に背景を与えてみました。彼女たちには楓とタツヒコと応援する理由がある、ということをこの番外編で描写できればいいかな、と考えてます。
作品数を無闇に増やしてしまった結果、自分で自分の首を思いっきり締め上げておりますが、失踪だけは絶対にしないので着々と、地道に、丁寧に、書き進めていきます。遅筆ですがどうか見捨てないで下しあ><;

>enkidさん
あからさまな寝不足テンションワロタwwwいいから少し眠るんだenkidさんwwwww
実はもう一作、TS小説のアイディアが浮かびはしたのですが、「またこいつ別の小説書き始めやがったよ!」とツッコまれること請け合いなのでメモ帳に書くだけで済ませておくことにしてます。ザ・ワールドさえ使えればもっとたくさん書き進められるのに……。
ダークナイト・ライジング、面白いですよ!ぜひご覧あれ!最後の最後に「おお!だからライジング(日の出)なのか!」と納得できますから!!

NoTitle 

うぽつですー主サマー。お疲れ様でした。自分は現在、学校の課題で首ががががry
おかげでゲームも小説もやる暇がないぉ(泣
まぁほとんど自業自得なので文句のたれようもないので、二日目の徹夜に突入しようとしていますwwww……おわらねぇんだよぉ!!!(泣 ちなみに睡眠時間は授業中に取っている(キリッ
自分もザ・ワールドみたいな時間止める力、手に入らないかなー…

でもザ・ワールドって『自分が『時間より早く動く』ことによって相対的に周りの時間が止まっている』状況らしいですよ。スタープラチナとスタンドのなんやかんやが似ているらしいので、同じ理屈なんじゃなかろうか、と(ジョジョ初心者
ああああああ書きたい!もう何もかもすべて投げ捨てて書きたい!でも投げ捨てたら何にもできなくなる!!
結局頑張るしかないんだお……

なんかすごい愚痴ってしまいましたが、試作作成お疲れ様です。近頃めっきり冷え込んできましたので、お体に気を付けてください。
それではっ!

NoTitle 

>イザナギさん
課題乙です!せっかく徹夜で勉強してるのに授業で眠ってちゃ意味ないんじゃ……!?(゚д゚;)
そういえば第三部のOVAで、ザ・ワールドとスタープラチナが互角の戦いをしてましたね。スタープラチナは最速のスタンドとか聞いたことがあるから、あまりに早すぎて時間が止まったように見えるのかもしれないですね。最後にディオに買ったのは、承太郎の方がディオより速く動けた結果なんでしょうか。うーむ、ジョジョは第四部からしか読んでないのでその辺が不明です。奥が深いなあ。
イザナギさんも、徹夜もいいですけど睡眠もちゃんととって、健康に気をつけてくだせえ!お互い、こつこつと書き進めていきましょうね!!

 

いやいや、スタープラチナが速く動きまくった結果時を止めるんですよww
ザワールドは文字通り、世界を支配する=時止めするんです。
でないと承太郎がザワールドの要領で時止めしたら、その度に寿命短くなりますがな(笑)
DIOは吸血鬼で不老不死やからザワールドの欠点を埋めてるんですよ。
あとDIOが負けたのはタンクローリー爆発して承太郎が死んだと思って余裕ぶっこいてたら時止めの限界が来て、その瞬間承太郎に時止め返しされたからです。(OVA準拠)

もう世界一周していいからさ、相対的に動きが高速になれるメイドインヘヴン欲しい……(´・ω・`)

NoTitle 

>ヤンデルセンさん
なるほど!時を止める欠点の浦島太郎現象も、DIOは不老不死だから止め放題というわけですか!知らなんだ!時止め返しって凄い次元の戦いですな。
しかし、第一部のアニメの頃からOVAまで、DIO様の油断大敵っぷりは変わらないなあwww

NoTitle 

初めまして。
いつもとても楽しく読ませていただいています。

一点気になったところがあり、コメントさせていただきました。
高校野球のピッチャーは、守備中にヘルメットを被らないのではないかと思います。
私も野球は詳しくないので見当はずれな指摘かもしれませんが......

これからも執筆がんばってください!
応援しております。

NoTitle 

> さん
あーっ、たしかに!!ご指摘ありがとうございます!思い返してみれば、たしかにピッチャーはヘルメットつけてないですね!ふう、アブねえアブねえ。このままなろうさんに投稿するところだったぜ……ホントにありがとうございました~(;´∀`)フヒー

NoTitle 

はじめまして。ここ最近のTSF界の雄として大変楽しく読ませて頂いております!

ところで、今回の薫子の前世についてですが、投手がピッチャー返しを頭部に食らったと思しき描写がありますが、野手は守備の際にはヘルメットを被る事はありません。その点が1つ気になりましたので、僭越ながら指摘させて頂きます。

これからも(無理のない程度に)執筆頑張って下さい!

NoTitle 

>sueさん
ご指摘感謝です!!修正しますた!!なろうさんにうpするものはきちんとしたものにしています!!
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