Her name is Charis! !

Her name is Charis!! 第二部 外伝 後編その2試作 & アイアンマンさんとの記念写真

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東京旅行まで、残すところあと4日です。四日後には東京に出発してるのだと思うとwktkが止まりません!
さて、その東京でお会いする予定の森羅さんや久遠さんや件さんから「この田舎者め!」と言われないように、先日、近くのショッピングモールに服を買いに行きました。そこには映画館が隣接してるのですが、そのイベントの一巻で、偶然にもアイアンマンさんとお会いすることが出来ました。これがその記念写真です↓


記念写真(アイアンマン)


ちょうど森羅さんと「アイアンマン3の映画を一緒に観ましょうぜ」とメールしてた時にアイアンマンさんとすれ違ったので、てっきり幻でも見ているのかとビックリしました。こんな偶然もあるんですね。アイアンマンさんは一切喋らない寡黙な御方でしたが、手を振る子どもたちにピースサインをしてくれたりとわりと気さくでした。いい記念になりました。



んでもって、『Her name is Charis!!』の後編の試作品をば。これでようやく半分まで到達しました。リヒャルドとブランクと目覚める前のヒャーリスのお話です。彼らと、ラスボスであるジャコモ・ダンテとの深い因縁を描写できるように頑張ります。





『義体を同じヒトと思うな、ヘンデル少尉』

軍の秘密実験にスカウトされた時、シューマン大佐は俺にそう説いた。
担当官の命令に忠実に従う“犬”。主人の敵を殺す刃となり、主人の身を護る盾となる。命令を完遂するためには自らが深手を負うことも厭わない。己の命よりも主人の命令を優先し、主人の行く手に立ちはだかる敵を人外の力でもって悉く殺し尽くす。そこに人間らしい感情や葛藤が介在する余地はない。“そういう風に造られる”からだ。

『いいか、少尉。“コレ”は人間ではない。ヒトに近いがヒトにあらず、だ。ひと度覚醒すれば、今までの戦争の概念そのものを覆す生体兵器(サイボーグ・ソルジャー)となる』

まるで自慢の宝を愛玩するように少女の頬に手を滑らせながら、大佐は悪魔のような亀裂を顔面に刻んだ。簡素なベッドで眠り続ける黒髪の少女は見た目にはどこかの良家のお嬢様にしか見えず、当初、俺は目の前の男の正気を疑った。だが、秘密実験のミーティングを受ける内に、俺はこの実験に関わるあらゆる人間の正気を疑うようになった。

死にかけの子どもを捕まえてきて、大人の都合のいいように勝手に身体を改造して、脳を弄って、でかい銃を握らせて、「さあ殺せ、さあ死ね」と戦場に放り込む。
半生を注ぎ込み血反吐を吐いてようやく手に入れることのできる戦闘能力が、戦闘技術が、戦闘経験が、たった一晩で小さな身体に無理やり詰め込まれる。
俺たち兵士が護るはずの女子供が、俺たち兵士に取って代わる戦力になる。

そんなもの、悪夢以外の何でもなかった。
それから数晩は眠れなかった。実験への参加を断らなかったことを深く後悔した。まるでたちの悪いSF映画だ。遂にそんな恐ろしい時代が来たのかと、その時代の先陣を切ってしまった人間の罪に―――その人間に含まれる自分の罪に震え上がった。果たして自分がそんなバケモノを抑えることが出来るのかと不安だった。眠る義体を目にするのが怖くて仕方がなかった。叶うのならこのまま永遠に目を覚ましてくれるなと、何度も心の中で願った。


……まあ、要するに何が言いたいかというとだ。
過去の俺の睡眠不足はまったくの無駄であり、隣の助手席で鼻ちょうちんを膨らませて眠りこけている黒髪のクソガキにそんな恐怖を抱いていたことは取り越し苦労以外の何物でもなかったということだ。

「んがが……リヒャルドひゃま、もうピッツァは食べりゃれまひぇん……つ、つぎはタルトが食べたいです……ふひ」
「夢の中でくらい義体らしくしたらどうなんだ。こいつの頭の中には食欲しかねえのかよ」
「ヒャーリスらしくていいじゃないか。せめて夢のなかで満腹になってくれれば、僕の財布へのダメージも少なくて済む」

運転席から距離をおいてすっかり落ち着いたのか、後部座席から窓の外を観察しながらかつての上官が爽やかに笑う。ローマの町並みを楽しむ風を装いながら脳内で作戦のシミュレーションをしているのだろうが、傍目にはドライブを楽しむ若旦那にしか見えない。……とすれば、俺は秘書かもしくは専属運転手ということになるのか?

「いや、君はどちらかというと運転手兼ボディーガードだな」
「人の考えを読むんじゃねえ」
「わかりやすい顰めっ面をしている方が悪いのさ。せっかくのローマなんだ。もっと笑ったほうがいいぞ、ブランク」
「余計なお世話だ」

ケッと悪態を返す俺を見て、また楽しそうに喉を鳴らす。ヒャーリスを手に入れてからというもの、リヒャルドはこういう笑顔をよく浮かべるようになった。溜め込んでいた給料を片っ端から喰われる羽目になっているというのに、よくそんな幸せそうな表情ができるもんだ。恋は網膜なんて言葉はまさに今のリヒャルドのためにある。

「そうだ、運転手君。スペイン広場の近くに来たら下ろしてくれるかな? 僕の連れがぜひ行ってみたいと希望しているんだが」
「Jawohl, Herr der Chef!(了解、ボス!) ったく、」

テルミニ駅を通り過ぎ、豪華なホテルの点在する区画を抜ける。デカい門に護られた建物は、日本国旗が翻っていることからして日本大使館だろう。マフラーから爆音を響かせて前を通過するこちらに守衛が訝しげな目を向けてくる。まさか、この場違いな改造車が元はドイツ大使館の車だとは夢にも思うまい。クソガキがナンバープレートの角度を弄ってほとんど見えないようにしたのが不幸中の幸いだ。変なところで気の回る奴だ。

暗記した地図を頭の中で広げれば、スペイン広場まであと数ブロックだ。この辺りで駐車した方がいいだろう。にしても、イタリア人は道路と駐車場の区別もつかないらしい。路肩に駐車する車ばかりだ。コイツラの利己主義には呆れるが、今はそれに倣わせてもらおう。郷に入れば郷に従え、だ。

「ほら。着いたぜ。あと200メートルも歩けばスペイン広場だ。さっさと若奥様を起こしてデートと洒落こみな」
「ああ、ありがとう。作戦中に観光だなんて、本国に知れたらただじゃすまないな」
「気にすんな。作戦の前に緊張を解しておくのも任務の内だろ。食い意地ばっかのクソガキに少しは女っ気を覚えさせてやれ。
こらクソガキ、さっさと起きろ!」
「んが? ……ぐう、」

大口を開けてイビキをかくクソガキの髪の毛をガシガシと掻き乱す。首が揺れるくらいに乱暴にしたつもりだが、案の定まったく起きる気配はない。一瞬首がゆらと動いたかと思えば、直ぐさま糸が切れたようにカクンとシートに沈むこむ。なんて目覚めの悪い奴だ。義体は担当官に危険が迫った場合に備え、何かあれば真っ先に飛び起きるように設定されていると聞いた記憶があるが、嘘だったらしい。これで我が軍の最新鋭戦闘兵器の端くれだというのだから世も末だ。

「ったく、起きろクソガキ! ご主人さまがスペイン広場を案内してくださるってよ! ありがたく思えよ!」
「んぐが……ふぎ……」

再びグリグリと頭を掴んで激しく揺らしていると、不意に、生意気にも綺麗な眉がぐにっとハの字に歪んだ。
まずい、と反射的に手を引きかけるが、バネのように跳ね上がった黒髪の方が二倍は速かった。

「むがが―――ッ!!」
「いってぇ!! こいつまた噛み付きやがった!!」

虎バサミのような八重歯が手の甲にガブリと食い込んだ。鋭い痛みに慌てて手首を振り乱すが、寝ぼけたまま噛み付いているらしくビクともしない。半開きの虚ろな目にステーキ肉が映り込んでいるように見えてゾッとする。

「クソガキめ、こんな時ばっかり全力出しやがって! リヒャルド、調教はちゃんとしとけって言ったろうが! 噛み癖悪すぎるぞコイツ!」
「慕われてる証拠じゃないか」
「こっちは肉を食い千切られかけてんだよ! ああくそ、いい加減離しやがれクソガキ! またヒャーリス号を削られたいのか!」
「ふが」

格闘すること数十秒、味がしないことに飽きたのか、車を壊すという脅しが効いたのか、意外なほどにあっさりと拷問は終わった。ムニャと唇を子供のように波打たせ、そのまま
再びスヤスヤと眠りに就く。眠りながらも攻撃してくるとは、変なところで高性能な奴だ。
ヒリヒリと真っ赤に腫れた噛み痕を擦る。くっきりと残った歯型が我ながら痛々しい。ナイフ傷の方が箔が付いてまだマシだ。

「ゴリラまずい……食べて損した……ていうかブリジット食べたい……ふひひっ」
「こ、このメスガキめ。噛み付いてきてマズイたぁどういう了見だ」

こめかみに血筋が浮き上がるのを自覚する。誰のために必死になってるんだと腹が立ち、こんな呑気な義体の覚醒を心から恐れていた過去の自分にも無性に腹が立ってくる。憂さ晴らしにゲンコツでもお見舞いしてやろうと拳を握りしめていると、リヒャルドの義手が肩に置かれた。

「彼女の扱いは僕の得意分野さ。任せてくれ」
「ふん、担当官様のお手並み拝見といこう。噛み付かれないように気をつけな。せっかくの義手が木っ端微塵だぜ」
「黙って見てろよ、ゴリラくん」

飼い犬に噛み付かれれば、さしもの過保護なリヒャルドも躾の重要性を考え直すだろう。いい機会だ。……もしかしたら噛み付かれても喜びそうな気もするが。そうなったら、友だちでいることを少し考えなおそう。何はともあれ、ヒャーリスを起こさなければ話が始まらない。俺の馬鹿力で頭を振り回しても起きなかった奴をそう簡単に起こすことが出来るとは思えないが、物は試しだ。
ジェスチャーで「どうぞ」と番を譲る。頷いたリヒャルドが後部座席から身を乗り出してヒャーリスの耳元までそっと顔を近づける。何をする気だ?

組んだ腕の上で怪訝な顔を浮かべる俺の前で、そのままポツリと優しく囁く。

「起きなさい、“眠り姫”。甘くて冷たいジェラートが待ってる」
「――――ジェラート!!」
「うおッ!?」

瞬間、カッと目をかっ開いたクソガキの半身がガバリと跳ね上がる。まるで電撃でも食らったような反応速度は常人離れしていて、思わず驚愕に声が上擦った。目を丸くする俺を意に介さず、ドアを蹴破る勢いで長い黒髪が外に飛び出す。そのままそこに仁王立ちをすると、顔をレーダーのように左右に振りながら「ジェラート!ジェラート!」と呪文を唱え始めた。どうやら、ドイツ軍の義体には説明書にはなかったジェラート発見レーダーが搭載されているようだ。

「……お姫様を起こすのは王子様のキスじゃなくて、甘いデザートってわけか。夢のない話だなオイ」
「はは、彼女らしいだろ?」

「呆れて怒る気も失せたぜ」と両肩を上げた俺に笑みを一つ零し、リヒャルドもクソガキの後を追う。風ぐるまのように首をブンブンと振り続けるヒャーリスの傍らに立ち、ふとこちらを振り返る。

「君は来ないのか? せっかくの名所なんだ、一緒に見ればいい」
「専属運転手ってのは車で待機してるもんだろ。それに、今まで通った経路を頭に叩き込んでおかないとな。俺のこたぁいいから、気兼ねなく二人で見物してこいよ」
「―――悪いな」

俺が気を使ったことを悟ったらしい。照れ笑いに顔を綻ばせ、申し訳なさそうに頬を掻く。義手が駆動音を響かせて金属の指をぎこちなく動かす。
その光景を突きつけられた途端、ギリと肺を握りしめられる重苦しい感覚に苛まれる。罪を犯した不埒者に一生付き纏う十字架―――“罪悪感”だ。己の罪を改めて見せつけられ、後ろめたさに顔を逸らして押し殺した声で呻く。

「よせよ。謝ることはあっても、お前に謝られる道理はない。俺はお前にでかい借りがあるだろ。俺はお前から大事なものをたくさん奪ってきたんだ。栄光も名誉も名声も昇進も父親との関係も―――その腕も」

“あの作戦”の時。
あの時、俺が馬鹿げた助言をしなければ。
早まった行動を取らなければ。
不用意に突っ走らなければ。
そうしていれば、リヒャルドは今頃、ドイツ連邦陸軍のエリートとして世界にその名を知られ、俺たちは優秀なる部下としてNATO軍の頂点に輝かしく君臨していただろう。大切な仲間を失うことも、軍の表道を歩けなくなることも、リヒャルドが腕を失うことも、なかったはずだ。
ヒャーリスが聞いていないと思うと、箍が外れたように次々と慙愧の念が口から溢れてくる。忘れたくても忘れられない、忘れてはいけない自分の罪が腹の底に重りのように溜まっているのを知覚する。

「その上、俺はまたお前から大事なものを奪うところだった。ヒャーリスの機転でどうにかなったからよかったものの、もう少しで俺はお前からあの娘さえも―――」
「許すよ、ブランク」
「―――なに?」

瞠目して視線を持ち上げる。呆然と見上げる俺に、いつもの朗らかな笑顔のリヒャルドが繰り返す。

「許すさ。全て許す。栄光も名誉も名声も昇進も父さんとの関係も、この腕も」
「なぜだ。そんなに簡単に許せることじゃないはずだ」
「悪気があったわけじゃないだろ? 良かれと思ってやったことが全部良い結果に行き着くわけじゃない。そりゃ、ちょっとは恨んださ。腕は引き千切られたし、部下も失った。名誉も消えたし、自暴自棄にもなった。だけど、今は何も含むものはない。君は昔も今も掛け替えの無い戦友だ。
―――何より、」
「ふひゃっ!?」

言いかけ、ひょいとヒャーリスの細い手を取る。いきなり手を握られたヒャーリスが奇天烈な声を上げてビクリと肩を跳ねあげた。
イノシシみたいに勢い任せのくせに変なところで抜けのないこの厄介なクソガキにも、たった1つだけ弱点がある。それは“リヒャルドに手を握られる”ことだ。それをされた途端、こいつは自分のペースを保てなくなって借りてきた猫のように大人しくなるのだ。
弱点を突かれてオドオドと目を泳がせるヒャーリスに愛おしげな一瞥を向け、再び俺の目を見る。

「この通り、ヒャーリスが僕の傍にいる。それで僕は十分だ」

“許す”―――ずっと聞きたかった、聞くのが怖かった言葉。
スッと、身体が軽くなる感覚を覚えた。胸の内に詰まっていた鉛の泥が溶け落ちて、体内に久しぶりの清浄な空気が送り込まれる。

「あ、あの、これはいったい全体どういう状況なんです? 私はなぜ手を握られているのです? そしてなぜゴリラが涙目なんです?」
「手を握っていないとジェラートを探しに飛び出してしまいそうだからだよ。ゴリラは、そうだな、きっとメスゴリラにでもフラレたのさ」
「Say word!?(マジですか!?) あひゃひゃひゃひゃ!! Sickkk!!(サイコー!!)」
「う、うるせえ! さっさと行きやがれ!!」
「Suck on that(ざまぁwww) せめてもの慰めにジェラートでも買ってきてあげますよ―――ふやひっ!?」
「コラ、汚い言葉をあんまり使っちゃダメだと言ったろ」

調子に乗って下品なスラングを連発したヒャーリスの手がぎゅっと強く握られる。その動揺っぷりは見事なもので、背中にピンと逆立つ尻尾まで見えてきそうだ。何時か、手を握ることを「首輪をされてるみたいだ」と例えたことがあったが、まさにその通りだ。上目遣いに恐る恐る主人の顔を覗く仕草など、まるで従順な犬猫だ。

「あ、あの、これをされると調子が狂っちゃうのですが」
「それはよかった。いつも振り回されてるんだし、たまには僕が主導権を握ってみても罰は当たらないさ。それとも、僕と手を握るのは嫌かい?」
「ぅぐぐっ」

昔はもっとお固くて、こんな色男みたいな台詞をスラスラと言える奴じゃなかった。これもヒャーリスと出会った影響かもしれない。
さすがの暴走イノシシも、こっ恥ずかしい台詞を顔色一つ変えずにノタマうご主人さまには勝てないらしい。しばし抵抗を試みようと「むぅう」と唸ったものの、最後にはピンク色に火照った間抜けな頬を隠すようにぷいっと顔を逸らした。緊張して棒のようだった手から力が抜けて、リヒャルドの傍らに引き寄せられるようにおずおずと歩み寄る。

「……リヒャルド様だけですよ。今日だけですよ。特別ですよ」
「ははは。なら、今日この日だけの幸運を精一杯楽しまないとね。おいで、眠り姫。たまには女の子らしく静かに街を観光しよう」
「眠り姫ってなんですか。私はそんなに寝てばっかじゃないですよ! Asshole!(失礼な!)」
「君の昔のあだ名さ。誰かさんたちが妖精の正体に気付く前に付けた、ずっと大昔のね。詳しいことは今度ブランクにでも聞くといい。
それじゃあ、留守番役を頼んだ、“副隊長”」
「……Jawohl(了解). Jawohl Herr Oberstabsfeldwebel.(了解、上級准尉殿)」

小さくそう呟いた俺に満足気に頷くと、今だ恥ずかしそうに俯くヒャーリスの手を引っ張って街中に歩を進める。いつも振り回される立場が逆転したのが嬉しいのだろう。その足取りは今まで見たことがないほど軽かった。つらい過去を背負っているような風は微塵も感じさせない、幸せそうな背中だ。
二人の姿が見えなくなるのをフロントガラス越しに見とめた途端、全身から力が抜けてシートに深々ともたれ掛かる。そのまま身体が萎んでしまいそうな深い息を吐き出す。長い間息をするのを忘れていたような、深い深い息だった。

「おい、聞いてるかよ。役立たずの副隊長さん。てめえのしでかしたヘマ、全部許して貰えるんだとよ」

―――ああ、ちゃんと聞いてたさ。
心の中で、傷だらけの“過去の自分”が満足気に笑うのを聞いた。その声が自分のものとは思えないほどに晴れやかだったせいで、思わずくつくつと喉が鳴り出す。お互いに傷つけあってばかりだった過去の自分と、“あの戦場”に置き去りにしていた嫌な記憶と、ようやく真正面から向き合うことができそうだ。

「なんだ。イタリアも案外悪かねえな」

濁っていた世界が、雲が薄れるように冴え渡っていく。ギュウギュウに詰め込まれて息苦しさしか覚えなかったイタリアの町並みも、リヒャルドの言うような観光も相応しい景色に見えてくる。窮屈な建物の群れもケバケバしい派手な色彩も、雄大な歴史と奥深い芸術を体現していると言える。
澄んだ視界で美しいイタリアの街や雑踏をゆっくりと見渡し、

「―――ヒャーリス?」

不意に、バックミラーに見慣れた少女の姿が映った。このアウディの横をすり抜けるように路地を“後ろから”歩いてくる。ついさっき前方のスペイン広場に歩いて行ったはずなのに、どうして後ろから来るんだ?
もう一度、今度は目を凝らしてサイドミラーを覗きこむ。黒髪、黒目、整った目鼻立ち、スラリと伸びた四肢。確かにあのクソガキだ。だが、あんな黒っぽい落ち着いた服は着ていなかったし、似合わなかった。あんなに大人びた雰囲気を纏えるようなお上品な奴じゃなった。すぐに噛み付いたり、食べ物に食らいついたり、汚いスラングを発射するために常にだらしなく開いている口は、今はきゅっと真っ直ぐに閉じられて無表情を形作っている。その無表情に何故だかゾッとするものを感じて、俺は声をかけるのを躊躇った。
少女は俺を見もせずに車の脇を歩んでいく。隣を歩くのはリヒャルドではない別の男だ。見た目には兄妹のようだが、男から一歩引いてしっかりと付き従う様子はまるでボディガードのようだ。少女は軍人のように規則正しい歩調を保ちながら、自分が精魂込めて改造したアウディなど見向きもせず、息を潜める俺の真横を通り過ぎる。

「……目が、違う」

ほんの少し垣間見ただけで、その真っ黒な双眸に秘められたナニカをはっきりと感じ取れる。この世のあらゆる不条理を噛み締めたような年齢不相応の瞳はまるで奈落のようだ。気配を敏感に察知する訓練を受けた軍人だからこそ、少女から滲み出る張り詰めた意思をまざまざと感じ取ることができる。
外見だけはヒャーリスにそっくりな少女―――――いや、違う!!

「……っ!」

クソッ、どうしてもっと早く思い当たらなかったんだ!
少女の正体に検討がついた瞬間、ギクリと背筋が硬直する。ヒャーリスに似ているんじゃない。ヒャーリス“が”似ているんだ。当然の話だ。なぜなら、ヒャーリスは“あの少女”に似せて造られたんだから。

「ブリジット・フォン・グーテンベルト……!!」









<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1



<名状しがたいオマケ的な何か>

ちょっとしたコネタ
ヒャーリスプロフィール
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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~ Comment ~

NoTitle 

どうも、何か面接落ちたと思ってたら落ちてなかったエンキドです。あ、ケツが爆弾抱え込みました。これ以上メルトダウンすると器具突っ込まれて改造手術するそうです。詳しくはwebで。

まあ、そんなことはさて置き、そういやゴールデンウィークの時期じゃないですか。最近日数間隔がズレまくってましたから、ああ、そういえばってなりましたよ。
アイアンマン3の予告すばらでしたね。パーツバラけても自動装着可能とか何処まで進化するんだあの気を付け飛翔スーツは。
自分も充実した休日になるように、頑張って働きます。だけど世界の危機だけは勘弁な。

ヒャーリスは安心するなぁ。洗脳されてても、選択で“自分”を決めた奴は強いですからねえ。軸がブレなくて安心します、馬鹿だけど。
ブリジットはそこら辺、男か女かで揺れたり、人生で揺れたり、周りの関係で揺れたりして綱渡りでしたし。
ヒャーリスなら、「態々綱渡らなくても飛べばいんじゃね?」、くらいいいそうですよねえ。落ちれば奈落、生きれば対岸って、どんだけ勝負命懸けだよ。アカギか。
ブリジットとまたもニアミスで、邂逅が近付く中、砂糖吐き捨てるようなバカップルはどうするのか。
次回も楽しみです。

NoTitle 

どうもー。
週末に風邪をひいてしまったと思ったら実家からの急な呼び出しで帰ることになり、休み中は全く養生できずにけっきょく月曜日の学校を休むことになってしまったイザナギです。まだ喉がイガイガするし熱っぽい……。
ゴールデンウィークは前半バイト三昧で後半に帰省という予定は立っているのですが、どうなるやら。
というかアベンジャーズと同一の世界観っぽいんでびっくり。コラボ作品は基本的に異世界や『そろって存在できる』足場を作られた世界だったりするので。

おお、前に上げられた部分より少し進んでますね。というか前々から思ってましたが食い意地張りすぎww
誰かに「~~あげるから」とか「~~するぞ」とか言われて起きたことがないので、どんだけ食べ物のことしか考えてないんだと、頭の構造に興味が出てきましたw

主様もお体に気を付けてください。それではっ!

返レス 

>enkidさん
おめでたいこととおめでたくないことが同時に来ちゃいましたね(´∀`;)
辛いものなどの刺激物を食べると治りが遅くなったり、なにより凄く痛むらしいですから、お気をつけて!
アイアンマン3,超楽しみです!ああ、早く観たいなあ!ホント、あのスーツはどこまで進化するんでしょうかね。てか、マーク7スーツの見せ場ってアベンジャーズのラスト何分かしかなかったのに、もう新スーツに変わっちゃうんですね……。ちょっと寂しい。
ヒャーリスの分析、ありがとうございます。作者のはずなのですが、「なるほど!」と思わせられる的確な分析でした。ブレない奴とブレてる奴、言い得て妙です。さすがenkidさんやでぇ。
ブリジットとの出会いはまだ後ですが、先に保護者同士が出会う予定です。この外伝が終わった後の話でそれが描けると考えております。地道に進めていきますので、どうかお楽しみに!!m(_ _)m

>イザナギさん
ゴールデンウィークなのに、大変ですね……。頑張るイザナギさんの姿は必ず誰かが見ていて、イザナギさんの知らないところで評価をしてくれています。誰にも認められていないようで、実は信頼の向上に繋がっているに違いないのです。でも、無茶してぶっ倒れちゃうと元も子もないので、どうかご自愛ください。体調管理には気をつけて。風邪を治すのは安静が一番ですよ。
アイアンマン、アベンジャーズと世界は同じなんですよね。大きなスケールの世界観を矛盾なく描けるのは、さすがハリウッドだなあと思います。
場面としては、今回の更新ではそれほど進んでいませんが、密度をだいぶ濃くしたつもりです。ヒャーリスの反応とかブランクの心理描写とか、自分の中にあった違和感をなくすように弄ってみました。ヒャーリスはいつの間にか食いしん坊キャラになってしまいました。自分でも何時からこうなってしまったのかわかりませんが、「欲望に忠実」という性格を表現するにはいい特徴なのではないかと気に入っています。でもあんまり行き過ぎないようにセーブをしなくては。
イザナギさんもご飯をガツガツ食って精をつけて、風邪を早く治してくださいね!お大事に!!

旅行ですか・・・ 

東京旅行ですか・・・
私はもう全然旅行なんていってませんね。
楽しんできてくださいね。

追伸
パイマンさんがハーメルンで進撃の巨人の小説を書き始めましたよ。

NoTitle 

>だめねこさん
楽しんできました!東京旅行、最高の思い出です!
でも、帰ってきたら溜まっていた仕事があって、しかも急いで仕上げていた仕事に失敗がたくさんあって、こっぴどく怒られてしまいました。僕ってまだまだだガキの域を出てないんだなあと思い知らせました。立派な社会人になるのは大変だ(;´∀`)
ハーメルンさんでパイマンさんが活躍していましたね!頑張ってバーサーカー更新して対抗するべきか!?

NoTitle 

×恋は網膜 ○恋は盲目

NoTitle 

> さん
元ファイルの方を修正しますた!次の更新では直っています。ありがとうございます!!
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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