Her name is Charis! !
Her name is Charis!! 第二部 外伝 その3
“眠り姫”―――。
知らぬ者などいない、古い御伽話のヒロイン。呪いで100年の眠りに堕とされた不遇のお姫様。イバラに覆われた城で王子様の救いを待ち続ける、可哀想な乙女。
だが、この施設でそうあだ名された少女は、誰からもその覚醒を望まれていなかった。長い黒髪と包帯だらけの身体を簡素なベッドに横たわらせ、点滴と電極という名のイバラを巻きつけられたその少女は、大人たちの呪いに穢され、恐ろしい化け物に変えられていたからだ。
大人たちは恐れた。その少女が目覚めた時、果たして彼女にどう向き合えばいいのか。「どうして私を化け物にしたの」と真っ白に塗り固められた瞳に問われた時、きっと誰もが自分の良心に殺される。復讐心や出世欲といった独り善がりの理由でこの実験に参加した人間ほど、自らの“罪”を突きつけられれば正気でいられる自信はなかった。だから、皆少女の覚醒を望まなかった。表面上は計画の成功を歌いながら、その薄皮一枚隔てた下では「起きてくれるな」と願っていた。
このまま目を覚ますことなく、上層部が義体の研究を断念して命を繋ぐ点滴と電極が切られるその日まで、自分の境遇を知る由もなくただ眠り続けてくれればいい。せめて幸せな夢を見ながら、汚い大人の世界に産まれ落ちることなく最期を迎えてほしい。誰もがそう想っていた。
その願いを込めて、いつしか少女は“眠り姫”と名付けられた。誰にも目覚めを望まれない眠り姫。起きない方がずっと幸せな眠り姫。黒目黒髪の見目麗しい、眠り姫。
「ぅうおっしゃああああ!!! やったるでええええええええ!!! 待ってろよブリジットぉおおおおおおおお!!!」
誰が予想できたのか。悲劇の眠り姫が、いつの間にか“長靴をはいた猫”と入れ替わっていたことに。ケラケラと好き勝手に振る舞っているように見えて、抜け目なく周囲の人々に幸せを与える、小生意気だけどなぜか憎めない不思議な雌猫。
眠り姫だと思って目覚めさせた王子様は、その正体に大いに面食らいながらも、雌猫に相応しい名前を与えることにした。
『Heuristik(ヒャリスティクス)』―――試行錯誤を繰り返してやがて答えにたどり着く―――という心理学用語から着想を得た名前。
その名を、『ヒャーリス』という。
MEMORY OF GORILLA
「待ちかねたぞ、ゲルマンの犬ども」
コメカミに銃口を突きつけられているにも関わらず、その男は大らかに歓迎の言葉を“ドイツ語”で謳ってみせた。
フル装備の男たちが突然窓を割って突入してきたら、普通の人間は驚愕で動けなくなる。しかも今回は、二つに分かれても時間差攻撃だ。この作戦は、2隊が挟撃することであたかも規模の大きな部隊であるかのように見せかけ、さらに相手の判断力を麻痺させる効果もある。襲撃された人間は、戦闘訓練を受けた人間ほど迎撃よりも逃走を真っ先に考える。退路に走ることで頭をいっぱいにさせておいて、一瞬遅れてその退路を完全に絶てば、どんなに冷静な兵士でも一時的なパニック状態に陥る。室内空間の制圧に適したオーソドックスな手法だ。テロリスト・キャンプで軍人気取りになったネオ・ナチの雑魚どもも、宗教狂いのイラクの過激派どもも、極限まで訓練された精鋭の時間差強襲に動転し、ろくな抵抗もできずに拘束・射殺されていった。
だというのに、この男は―――ジャコモ・ダンテは、今、完璧な余裕を纏って俺たちを睥睨していやがる。
「ふ、副隊長、コイツ今ドイツ語を……!」
「落ち着け」
部下が漏らした掠れ声を細めた声で制する。俺自身が驚愕に顔を引きつらせているのに、その制止に効果があるのかは怪しかったが。
俺たちはリヒャルドの命令に従って、突入してから一切のドイツ語を発していない。顔だってバラクラバで覆い隠していて見えない。機密レベルが高い作戦故に、所属を示す腕章の類は最初から一切身につけていないし、携行している武器の類だって世界中の軍隊で採用されているものだ。ジャコモの側頭部に押し付けているグロックに至っては、メーカーはこの国(オーストリア)だ。どれを見たって、俺たちがドイツ人だと見抜ける理由にはならない。
ハッタリだと鋼鉄の意思で動揺を抑えつけ、背中を膨らませるようにどっしりと構える。こんなもの、俺たちの混乱を誘うために必死こいたジャコモ・ダンテが絞り出した苦し紛れの誤魔化しに過ぎない。そんなくだらない嘘に天下のKSKが振り回されてどうする。滞留し始めた不安の澱を吹き飛ばすのも、ゴツイ副隊長の仕事だ。
ジャコモ・ダンテの正体ここに見たり、だ。危機的状況に陥る度に口から出任せで生き延びて、いつの間にか噂の影だけが本人の何倍にも膨れ上がっただけの小物に過ぎない。
ガツっと、こめかみにグロックを一際強く良く押し当て、引き金を軽く絞る。こうやって「無駄口をやめろ」と行動で示せば、それまで息巻いていたテロリストも小さく息を飲んで押し黙る。殺そうとしてるのは俺たちで、今にも殺されようとしてるのはジャコモの方だ。単純に考えれば、どちらが捕食者の側から一目瞭然だ。俺たちがビビる理由はどこにもない。
腹に力を込めて一歩踏み込み、迷いを殺す。こんな上っ面だけのテロリスト、銃把(グリップ)でガツンと一発ぶん殴ってやれば途端に泣き喚いてひれ伏すに違いない。本当にやってやろうかと凄みを効かせて厳しい眼差しを向ける俺に、ジャコモが海中の鮫のようなゆっくりと不気味な動きで正眼を傾ける。ドロドロとマグマのように煮え滾る眼光と間近で視線が交差する。
「いいや、違うな、“KSK(ドイツ陸軍特殊戦団)”ども。俺が殺す側で、お前たちが殺される側だ」
「なッ!?」
「なに……!?」
流暢な―――生まれも育ちもドイツの俺ですら驚くほどに自然なドイツ語で、こいつは昏く嘲笑った。俺たちがドイツ人だと知っているどころか所属まで見抜きやがった。コイツは本当に、俺たち(KSK)が来ることを最初から予見していたというのか。こいつは他人の心を読み取れるとでも言うのか。
今度こそ動揺を隠し通せず、我知らず摺り足で後退する。緊張に張り詰めた筋肉が勝手に俺の身体を仰け反らせたのだ。見れば、リヒャルドも驚愕を殺しきれずに両肩を跳ね上げていた。隊長の心の乱れが波紋のように伝播して背後の部下たちまでもがギクリと身体を硬直させる。
目を見開いて言葉を失った俺の目をジャコモのギラつく目が覗きこむ。
「下手に動くなよ、KSKの精鋭諸君。動けばお前たちの命も、彼らの命もない。もちろん、この子どもの命も」
「て、てめえ、いったい、」
俺が絞り出した疑問に答えず、ジャコモは子どもの頭を撫でながらくつくつと喉を鳴らす。拳銃を突きつけているのは此方側なのに、追い詰めているという確信が得られない。むしろ、逆に追い詰められている恐怖感を感じる。武器も手にしていないジャコモこそが俺たちの額に見えない銃口を突きつけているような感覚に襲われる。ありえない異常事態に、鍛え上げた第六感がざわざわと危機を訴える。「周りをよく見ろ」と金切り声で訴えている。
「どうなってやがる……」
第六感に従って部屋を見渡してみる。ありえないのは、ジャコモの態度だけじゃない。―――ジャコモとついさっきまで談笑をしている“ように見えていた”家族が、身動ぎ一つしていない。
一般人なら、黒尽くめの武装集団に襲撃を受ければ恐怖で動転する。立ち上がるなり、地面に伏せるなり、腰を抜かすなり、何かしらの行動に出るはずだ。だが、この若い夫婦は顔面を恐怖に凍りつかせたまま椅子から立ち上がろうとすらしない。滴り落ちる多量の汗が床に塩の水たまりを作っている。唯一、ジャコモの腕の中に抱かれる4~5歳の男の子だけが襲撃に驚いてポカンと口を開けて放心している。額に玉のような汗を浮かべながら身体を椅子に貼り付けた両親の目線だけが、心配そうに我が子の動きを追っている。
「た、隊長ッ! つ、机の下を!!」
「こ、これは……!?」
「お、おい、こいつはまさか……!!」
銃口を油断なく突きつけながら慌てて視線を下げる。ジャコモと夫婦が腰掛ける長机の底一面に、おびただしい数の何かがくっついていた。木製の洒落た机には到底似合わない無骨な四角い箱が隙間なく備え付けられている。無色無地の味気ない拳大の箱は軍人だからこそ見覚えがありすぎて、血管を流れる血が全て冷水と入れ替わったような怖気が全身を走り狂う。
それらから伸びたコードは、机の脚を沿うようにして巧妙に隠されたまま夫婦が座る椅子の下部まで繋がっていた。歩兵科時代に爆発物の専門課程をクリアしたテオドール二等軍曹がその構造を確かめて「うっ!?」と低く呻き、バラクラバを介してもわかるほどの怒りの形相でジャコモをギッと睨みつける。
「どうした、テオドール! こいつはなんだ!?」
「隊長さん方、こいつはブービートラップです! この夫婦の椅子には圧力センサーが仕掛けてある! 繋がってんのは……この芳香剤に似た甘い臭い……間違いなくジニトロトルエンですよ!」
「それでは、これが全部―――Sprengkörper DM12(C4プラスチック爆弾)ということか!?」
全員の精神が大きく揺さぶられ、平静の箍が外れた。抑えきれなかった呻き声が幾つも漏れ出て、それに合わせて銃口が激しくブレる。俺たちはまるで襲撃を受けた雑魚のように、完全に動揺してしまっていた。
ジャコモに抱かれた子ども、動きたくとも動けない夫婦、彼らの動きを見張る圧力センサー、隠されたC4爆弾―――。この時点になってようやく、俺たちは悪魔(ジャコモ)が仕掛けた邪悪な罠に気付いてしまった。
「良いところまで当てているが、残念ながらC4ではない。各組織の余り物のC2とC3の寄せ集めだ。C4を買う金を出せるほど今回の雇い主は懐に余裕がなくてな、なけなしのC4はとっておきのモノに仕掛けてある。だが、残り物の寄せ集めでも、お前たちを吹き飛ばすには十分だ」
この状況全てが―――俺たち(KSK)を誘い込み、全滅させるための罠だったのだ。
「お前たちはイラクで殺し過ぎた。ネオ・ナチを追い込み過ぎた。なけなしの金を振り絞って俺を雇わないといけないくらいに、な」
「くっ……!?」
キョロキョロと不思議そうに首を回す子どもを抱いたまま、ジャコモがすっくと立ち上がる。夫婦が短く悲鳴をあげたが、それ以上動けなかった。おそらくは椅子から立ち上がれば爆弾のスイッチが入ると教えられているのだろう。
トラップが一般人に仕掛けられ、その威力が家を吹っ飛ばせるほどのものだと知ってしまった今、俺が突きつける銃はただの飾りにすぎない。ジャコモは俺が撃てないことを知っている。こうなってしまっては誰もこいつに手出しできない。もしもこいつを撃った瞬間、どこかに隠し持った爆弾のスイッチを押されたら、俺たちも、一般人の親子も、全員が跡形もなく吹き飛ぶからだ。
最初から罠だった。ジャコモがここに潜んでいるという情報も、最初の家が無人だったのも、わざわざ外から発見されやすい窓辺に座っていたのも、子どもを抱くことで狙撃を躊躇わせて突入という選択肢を与えたのも、全てコイツが用意したお膳立てだったのだ。こいつはわざと自分が狙われるような情報を流し、どこかから俺たちKSKが襲撃するという情報を盗み出し、手ぐすね引いてここで待ち構えていたのだ。
「全員、弾倉を抜いて武器を床に置け。腕を頭の上で交差させ、そのまま壁に背中をつけろ。お前たちが獲物相手にやってきたことだ。よく覚えているだろう?」
コイツの手の平の上でいいように踊らされていたことに、怒りで身体を引き裂かれそうな激痛を覚える。少なくとも俺がリヒャルドに突入を勧めなければ、この汚い手の平から脱することは出来たのだ。こうなった大きな原因は間違いなくこの無様な俺にある。
「……全員、言う通りにするんだ」
リヒャルドが力なく命じる。隊長の命令で、隊員たちが次々と己の牙や爪を捨てていく。足元に弾丸を失ったメインウェポンとサイドアームが転がる。眼前でジャコモにフンと嘲笑われ、神経がブチブチと千切れる音を立てる。
「この、卑怯者め……! てめえこそ、テロリストの雇われ犬じゃねえか! 稀代のテロリスト様も成り下がったもんだな!?」
「俺は“雇われてやった”だけだ。闘争の引き金を引くには金がかかる。人間はどうしても一歩を踏み出すのに躊躇する生き物だからな。背を押すのも大変だ。高い買い物をするために汗を流して働くのは当然のことだ」
「一端の口効いてんじゃねえぞ、クソッタレの気狂い野郎! どう言い繕ったって、しょせんテメェはテロリストの使いっ走りか捨て駒に過ぎねえんだよ!!」
「よせ、副隊長! 刺激するな!」
リヒャルドの厳しい声も鼓膜より奥に入ってはこなかった。額をぶつける勢いで息巻く俺を真正面から見据えたジャコモが再び嗤う。俺の罵倒を意にも介していないようだ。自分はニンゲンを達観したと心底思い込んでいるような、常人とは違うナニカが見えているかのような、高みから下々を見下ろす“先導者”の顔だ。
「何をするにも飼い主に許可を求め、結局その飼い主に裏切られて死ぬことになるお前たちが、どうして臆面もなくそんな台詞を言えたものか。闘争の本質に近い素質を持ちながら盲信という首輪で自分を縛り付け、己の首を締め殺す哀れな犬だ、お前たちは」
「……!?」
「実に惜しい」と呟くジャコモの台詞はこの事態の確信に迫るような内容だった。だが、極度の緊張状態に陥った俺たちでは到底理解に及ばない。理解できるのは、この隊でもっとも冷静沈着で優れた士官だけだ。
「―――情報はNATOから漏れたんだな」
静かに放たれたリヒャルドの核心を突く台詞に、ジャコモが「ほう」と頷く。リヒャルドなら、この絶体絶命の状況においても冷静な思考を行えるに違いない。何か打開策を見出すのも、きっとこの男にしか出来ない。その場の全員の期待を背中に受けながら、リヒャルドがジャコモと面と向かって対峙する。
「少しは賢しい犬が紛れているな。お前が隊長か」
「貴様に褒められてもちっとも嬉しくない。お前の協力者はNATOに―――米軍に、しかも在欧米軍ではなくペンタゴン(米軍本部)にいるな、クソッタレのジャコモ・ダンテ?」
「……賢しいな。ターリバーンの奴らが焦るのも頷ける」
「簡単なことだ。ドイツが軍隊を動かすには、お前が言うところの“飼い主”、つまりNATO(北大西洋条約機構)の許可がいる。突っ込んで言ってしまえば、NATO主導国のアメリカの許可だ。今回の極秘作戦はNATOを経由せずに直接ペンタゴンに話を通した。ドイツとペンタゴンは極秘の直通回線で繋がれ、如何なる傍受も通用しないよう隔離されている。だが、話を通した先のペンタゴンにスパイがいれば意味が無い。お前のように“闘争を求める”バカ野郎がいてしまえば情報は筒抜けにされてしまう。例えば、“引退後に軍需企業の支援で選挙に打って出る予定の米軍高官”とか、な」
頭の回転が鈍い俺にもようやくわかってきた。ジャコモに情報を売り渡した裏切り者の正体が見えてきた。
軍需複合体は、争いがなければ商品を買って貰えない。平和な世界に武器兵器は必要とされないからだ。軍隊は、争いがなければ予算を増やして貰えない。平和な世界に大きな軍隊は必要とされないからだ。需要と供給において思惑が一致する両者が己の利益に“安定した緊張状態”を求め、そのために紛争を望むテロリストに情報を流したのだ。
ジャコモの切れ味の鋭い視線がさらに鋭く細められる。
「馬鹿者であることは俺も同意しよう。奴らが望む闘争とは、兵器を売り込むための適度な緊張状態に過ぎない。闘争と名のつくだけのつまらん紛い物だ。真の闘争―――ヒトとヒトが抜身の刃となってぶつかり合い、殺し合う世界でしか、ヒトがその本質を剥き出しにして生来の輝きを放つことは無い。今回は互いに利用できると踏んだから利用してやった。それだけだ」
さもくだらなそうに言い捨てる様子に薄ら寒さを感じてゾッとする。こいつは本気で戦争を望んでいる。国と国と、軍人と軍人とではなく、世界中の個人同士が血を流しあって殺し合うことを望んでいる。それこそが正しい世界だと信じこんで、それを実行するだけの頭脳を、力を、コネクションを、狂気を備えてしまっている。
“コイツは、ここで殺さなくてはならない! こんな危険な奴を野に放ってはならない!例え自らの命と刺し違えてでも殺さなくてはならない!”
今この瞬間、隊員全員がそう決意した。ギリリと握る手に力が籠もる。何時でも奴の命を絶つ準備は出来ている。そして、全員の視線がジャコモの腕の中に―――幼い少年に集まった。少年は、自分に集中する視線の意味を理解できずに無垢な顔を傾げている。
「―――親子を離してやれ、ジャコモ・ダンテ。彼らは無関係だ。解放しろ。目的は僕たちだけのはずだ」
敵と刺し違える覚悟は出来ている。大事な時に己の命を惜しむような腰抜けなら最初からKSKに志願しない。だが、一般人を―――何も知らない親子を、まだ恋もしたことのないような子どもを戦いに巻き込む覚悟は誰も持ってはいない。KSKには冷徹な奴はいても非情な奴はいない。
リヒャルドが一歩踏み込んで「離してやれ」と説得する。相手に人情があれば交渉の余地はある。だが跳ね返ってきたのは、壁に走った罅のような人間性を欠いた嗜虐的な笑みだった。
「ダメだ。一般人をここで殺すことも俺の目的だからな」
「なんだと!?」
「考えてもみろ。オーストリアで戦闘による多数の死傷者が出た。それを行ったのはドイツ軍の特殊部隊で、被害者は何の非もない幸せな親子だ。公になろうとなかろうと、オーストリアとドイツの間に決定的な亀裂が生じるのは火を見るより明らかだ。アメリカはドイツの勝手な派兵行為だと切り捨てるだろう。ヨーロッパ諸国はドイツの暴走だと断じて怒り狂い、フランスはNATOを糾弾して距離を置く。ドイツはテロリストを討伐するためだったと反発するが、他国に軍隊を送り込んだ事実が消えることはない。EUに属する強国たちは強硬な姿勢を取り続け、やがて連携を失い、均衡は失われ、ヨーロッパは大きな闘争の渦となる。
ユーロ(ヨーロッパ共同体)構想など所詮は“まやかし”だ。死力を尽くして互いを殺しあっていた半世紀前の方がよっぽどヨーロッパ(西洋列強国)らしい」
底の見えない瞳の中で、“悪の情熱”がドロドロと煮えたぎっていた。こいつはこの世の“膿み”だ。武力による抑止力によってギリギリの均衡を保っているこの歪んだ世界から染み出してきた、腐敗物の塊だ。
自分を抱く大人が狂気の産物であることを察した子どもが恐怖にガクガクと震え出す。
「ここで貴様らKSKを徹底的に叩きのめすことで依頼主の仕事もこなし、同時に俺の目的も達成できる。ヨーロッパはイタリアに続いてもう一つ大きな火種を抱えることになるだろう。俺は世界中にそうした紛争の火種を作ってきた。“導火線”を買う金も手に入った。後は火を付けるだけだ」
「―――本当に、狂ってるのか」
「いいや、俺こそがヒトの本来の姿だ。調味料がなければモノを食えない今の人間の味覚が狂っているように、お前たちこそが狂ってしまっているのだ。それを俺が正す。本当のニンゲンだった頃に戻してやる。それだけのことだ」
リヒャルドが絶句して押し黙る。同じ言語を使っているだけで、意思が通じることは絶対にない。言語ではないもっと根幹の部分で、コイツ(ジャコモ)は俺たちと大きく異なっている。そこらのテロリストなど、コイツに比べればガキの遊びだ。身勝手な利権やエゴ、復讐心や意固地で勢い任せに武器を手に取るような連中とは根本から違う。コイツは生まれた時から生粋のテロリスト(破壊者)なのだ。自分が何者であるのかも、人間が何者であるべきなのかも決めつけてしまって、それを遂行するための無慈悲な貫徹力を、決して鈍らない指向性を、最初から身につけてしまっている。真の狂人とは、きっとこういうモノなのだ。己が“違う”ことを受け入れ、狂っているのは自分ではなく世界の方なのだと確信している。そして、一番最悪なのは、この狂人が世の中の正しいことと間違っていることを覆す力に容易に手が届いてしまうことだ。
くつくつとジャコモが耳障りな“音”で嗤う。鼓膜にベッタリと焼き付きそうな、およそ化け物じみた嘲笑だ。狂人の声とは、こんなにも常人の神経を強く逆撫でるものなのか。こんな奴を好き勝手にのさばらせている自分が情けなくて悔しくて、頭がどうにかなってしまいそうだ。
―――いや、この間合いなら、ジャコモの首をへし折れるかもしれない。
取っ組み合いになれば子どもに怪我をさせるだろう。子どもを盾にされるかもしれないし、爆弾のスイッチをどこかくに隠し持っていれば押されるかもしれない。だが、こいつは今、間合いの中にいる。一歩駆け出せば届く場所に座っている。この状況で目の前の男を絞め殺す術は思いつくだけでも20はある。KSKでもっとも戦闘体術に優れた俺なら、やってできないことは……!
「やめておけ、デカブツ。俺は爆弾のスイッチは持っていない。持っているのは“別の者”だ。―――おい、アシク」
「―――はい」
「「……!?」」
その声は、俺の背後―――割られた窓の外から聞こえた。俺たちがついさっき通ってきた暗闇から、姿のない何者かが声を発したのだ。気配はあるのに姿のない、若く理知的な男の声だ。まさか、本当に幽霊だとでも言うのか。
狐につままれたように唖然とする俺たちの前に、声の主がゆっくりと歩んでくる。やがて窓辺まで近づいてライトの下に顔を見せた時、俺はどうしてその男が見えなかったのかを理解した。
「“黒人(ブラック)”、だったのか……!!」
その男は、ネグロイド特有の星のない夜のような黒い肌をしていた。純粋な中東の血を思わせるくぼんだ眼孔と高い鼻梁。ジャケットもアーミーパンツも濃暗色で統一されている。これなら夜闇に完全に紛れることが出来る。
ギョッとする俺たちに、“アシク”と呼ばれた若い男が腕を伸ばす。そこには、ラジコンのコントローラーのような仰々しい機械が握られている。それが何であるかは状況を考えれば明らかだ。
「お前たちの肌はバラクラバで隠していても暗闇にハッキリと浮いていたよ。ホワイト(白人)」
あの時、サーモを使っていれば、コイツに気付いていたのに……!!
またしても俺の失敗だ。あの時、俺は心の隅っこで、リヒャルドに不安を与えたくないという冷静でない考えを抱いてしまった。リヒャルドのためじゃない。サーモを使うために分隊との合流に遅れが生じれば、当然隊長に報告を入れなければならなくなる。作戦決行への不安材料しかない現状で、さらに「敵が潜んでいるかもしれない」という報告を受ければ、リヒャルドが遂に作戦の中止を言い出すかもしれないという焦りがあったからだ。
本部の命令を拒んで帰投すれば、どうしたって評価は地に落ちる。ネオナチやイラクでの作戦成功のおかげで昇進間違いなしだというのに、こんなところでそれをふいにしたくはなかった。己の野心と無責任な戦意で前が見えなくなっていた俺は、踏まなければならない順序を踏まず、冷静さを欠いた行動を取ってしまった。その結果が、万事休すの現状だ。
「Scheiße(チクショウ……)!!」
身震いして呻くが、手も足も出ない。爆弾のスイッチは、俺の間合いの外にいる黒人―――アシクというらしい―――が手にしている。睨みつけるしか術がない俺たちを流し見てフンと鼻を一つ鳴らし、如何にも余裕たっぷりの緩慢な動作でジャコモが立ち上がる。腕には子どもを抱いたままだ。ジャコモの正体に気付いた少年が身体を引き剥がそうと暴れどもジャコモはビクともしない。一見すると細身のようだが、引き締められた筋肉には恐るべき膂力が詰め込まれているらしい。果たして俺が飛びかかっていても取り押さえることが出来たか怪しく思えるほどだ。
「ゲルマンの犬ども、わかっているな? お前たちが少しでも動けば、この男がスイッチを押す。お前たちは死に、この子供も俺が殺す。お前たちが大人しく爆死したのを確認すれば、子供は開放してやろう。
行くぞ、アシク」
「……はい」
「乗り気ではないか。だが、ジャコモ・ダンテになりたいのなら避けては通れない道だ。貴様の祖国愛とやらが本物であればこの程度のことは受け入れてみせろ。これから行くイタリアでは“もっと大きい爆弾”を任せることになるんだからな」
「……理解して、います」
出口に向かうジャコモの背中をアシクがおずおずと追う。戸惑いの台詞にも、縛り付けられた夫婦に向けられた暗い一瞥にも、良心の呵責が残っているのがハッキリと感じ取れた。この黒人の若者は、なぜ冷酷なテロリストと行動を共にしているかはわからないが、ジャコモとは違って無関係の人間を巻き込むことにまだ抵抗を残している。己に正しさがあるのか疑い、行動を迷っている。コイツなら、爆弾のスイッチを押さないかもしれない。押すにしたって、数秒くらいは躊躇うかもしれない。その隙を突くことができれば、爆弾のスイッチを奪って形勢を逆転させることも出来る。
それに―――奥の手を持ってるのは、ジャコモだけじゃない。
ジャコモの背中が夜の常闇に溶け、後には子どもが必死に親を呼ぶ金切り声だけが響く。その後に続くアシクがちらちらと背後のこちらの様子を―――子どもの叫び声に涙する良心の悲痛な顔を窺いながら同じく出口を後にする。爆弾のリモコンスイッチに指をかけたままなのは、俺たちが足元の銃器に手を伸ばした瞬間にボタンを押すためだ。圧倒的な優位に立っているのに、指は震え、表情は強張っている。どうしてこんな奴に奥の手のスイッチを預けたのかはわからないが、ジャコモの失策であるのは明らかだ。
リヒャルドと目が合い、どちらからともなく頷く。アシクの姿も遠くなり、足音が遠ざかっていく。爆風から逃れる十分な距離を取るために奴らが爆弾のスイッチを押すまで、まだ数秒の余地があるだろう。数秒もあれば、KSK特別仕様のG22スナイパーライフルは1キロ先の目標だって撃ち抜ける。
頭の後ろで手を組んだまま、リヒャルドの口元が小さく蠢く。無線回線を通して、500メートル後方に待機させている“鷹”に向けた指令が俺を含めた他の隊員のインカムにも分けられる。
「ロルフ、ヨハン、まさか聞き逃したりはしていないな?」
『私たちが優れてるのは目だけじゃないんですよ、隊長。あなたが無線を入れっぱなしにしてくれてたおかげでバッチリと聞いてました。大ピンチみたいですね』
『俺たちの出番ってわけだ』
リヒャルドが潜めた声をインカムに吹き込めば、観測手を務めるロルフ先任上等曹長と狙撃手を務めるヨハン一等軍曹の軽口が返ってくる。表面上は明るく装っているが、ぎちぎちに張り詰めた声から二人の緊張も頂点に達していることがわかる。
「曹長、そこから二人は狙えるか?」
『ええ、なんとか。暗いし遠いし風は吹いてるしターゲットは常に動いてるしで狙いにくいことこの上ないですが、まだその家からの光源のおかげで敵さんの姿はスコープに映ってる。殺れますよ。ヨハンの.338ラプナマグナム弾ならギリギリ届くはずです』
やっと舞い込んできた吉報に少しだけ肩が下がる。ジャコモがアシクという隠し球を持っていたように、こちらも万が一のために狙撃手をハックアップとして準備している。ロルフとヨハンのコンビはNATO軍でも右に出る者はいない狙撃手だ。
だが、どんなに優れたスナイパーにも、不可能はある。
俺が口端を引き上げて今すぐにでも飛び出せるように身構えた矢先、ヨハンのゾッとするような低く硬い声が鼓膜に滑りこんできた。
『だけど、撃てるのはどちらか一人だけだ』
転瞬、ゴクリと喉が大きく隆起する。瞳孔が限界までかっ開き、一気に水分を失った喉が鋭い痛みを発する。ツバなんてこれっぽっちも出ないのに、喉を鳴らさずにはいられなかった。
何のことはない簡単な図式だ。オリンピッククラスの腕前を持つヨハンでも、同時に二人のターゲットを狙うことは出来ない。いくら優秀なシュミット&ベンター社製のテレスコープだろうが暗黒を見通すほどの性能はない。一方を撃てば、もう一方は分厚い暗闇に身を隠して完全にロストしてしまう。チャンスは一発のみで、殺せるのはどちらか一方だけだ。
ジャコモを撃てば、アシクは爆弾のスイッチを押す。俺たちは跡形もなく吹き飛び、何の非もない夫婦も巻き込まれる。
アシクを撃てば、ジャコモに逃げられる。冷酷なあの男は躊躇なく子どもを殺すだろう。
どちらを捨て、どちらを得るか。わかりやすくて、これ以上ないほどに残酷な選択だ。
「どちらか一方だけ……!?」
『俺だってこんな酷なことは言いたくないですが、出来ないもんは出来ないんですよ。俺には決められない。アンタたちが決めてください、隊長さん方』
『ヨハンの言ってることは本当です。早く決断してください。できれば5秒以内に。それを過ぎたらどちらにも当てられる自信はない。撃つのはジャコモですか、黒人ですか。ほら、早く、早く! こんなこと言ってる間にも奴らは離れていってるんです! 頼むから、我々を“何もしなかった腰抜け”なんかにはさせないでくれ!!』
「ッ……!」
血の滲むような苦しげな声だった。それを聞いたリヒャルドの瞼が瞬き、俺たち一人一人の顔をじっと見詰める。
自分たちを犠牲にして平和を無に帰するテロリストが世に放たれるのを阻止するのか、部下たちの命を優先して子どもを見殺しにするのか、恐ろしい選択の瀬戸際で板挟みになっている。
「た、ターゲットは―――ターゲット、は―――……」
普段のリヒャルドからは想像もつかない掠れ声。そのザラザラとしわがれた声が次に紡ぐ命令で、俺たちの命運が決まる。他者に己の命を預けている明確な実感に襲われ、心臓が早鐘を打ち、ドクドクと騒がしい音が身体の中で跳ねまわる。アドレナリンが大量に分泌され、一秒が一時間に思えるほどに感覚が引き伸ばされる。
『死にたくない。帰りたい』。『無駄死には嫌だ』。『妻子に会いたい』。『ジャコモをぶっ殺したい』。『どうしてこんな目に』。
時計の針の音が聞こえてくるような沈黙に押し潰されながら、その場にいる全員の想念を浴びたリヒャルドの瞳が激しく揺れ動く。責任の重さに堪えかねて、屈強なはずのエリートの膝がガクガクと打ち震えている。発狂する寸前の如く鬱血して血走った目が、決断を迫られるリヒャルドの苦悩を、苦痛を物語っている。
「ターゲット、は……」
ふっ、ふっ、と太い息吹に合わせてリヒャルドの肩が上下する。肺の収縮に合わせて震えていた声が、一秒ごとに収まっていく。刻一刻と時間は過ぎていく。もう4秒が過ぎた。決断の時だ。
全員の顔を静かに見回した青い目が、最後に俺を見る。微かに濡れて曇ったその目が「すまない」と俺に告げていた。覚悟を決めたリヒャルドが、毅然と背筋を伸ばしてスッと確かに息を吸った。リヒャルドのことはよくわかっている。お固い性格で、敬虔なキリスト教徒で、世界平和を願う理想主義者。
俺は、リヒャルドが何を捨てるつもりなのか、何を得ようとしているのかを理解した。
「命じる、曹長。ターゲットは、前を歩く、ジャ―――」
「ヨハン、後ろの黒人を撃て!!!」
理解して、それを拒絶した。
上官の命令を押しのけて怒鳴った俺に、ギョッと目を見開いたリヒャルドが制止の声を上げようとする。それに押し被せるように全身を声にして怒鳴る。
「なにしてる、撃て!!」
『Jawohl!!(り、了解!)』
即座に轟く、山中一帯を包むこむような烈しい発砲音。有効射程1500メートルのラプナマグナム弾が500メートルの距離をコンマ数秒で跨ぎ、音の壁を切り裂いて目標に着弾する。悪条件が重なったせいで、弾丸はアシクの命を奪うことは出来なかった。しかし強力無比の攻撃力はアシクの握っていたリモコンスイッチを粉々に粉砕し、地面に撒き散らせた。「ぐあっ!」と獣のような悲鳴と共にパッと鮮血が飛び散り、アシクが二の腕に走った裂傷を抑えてしゃがみ込む。
オォン、と狼の遠吠えのような残響の尾を引いて銃声が夜の空気に吸い込まれる。その音が消え入るより先に、それをカモフラージュにして床を蹴った俺はジャコモを追いかけて外に飛び出していた。
「副隊長、何を―――!?」
「これで爆弾は無効化された! 子どもを殺す前にジャコモをぶっ殺しちまえば全部解決だろうがよ! 隊長たちはその夫婦を頼んだ!」
今まで一度だって蔑ろにしたことのない命令を無視した気まずさから逃げるようにリヒャルドから顔を逸らし、駆ける。この軍人失格な失態も、ジャコモを捉えれば相殺できる。
むざむざ殺されてたまるか。殺されるがままに死んでたまるか。奴の手の平の上で無様に死に絶えるだなんて冗談じゃない。エリートばかりのKSKに腕っ節だけで選ばれて、士官としての花道が開けた。昇進を重ねる度に家族の喜ぶ顔が嬉しかった。目にしたこともないような美味い飯を食わせてやる度に母親と弟妹が泣いて喜ぶのが何より幸せだった。貧乏なままマフィアにでもなって虚しく終えるはずだった生涯にようやく“英雄”という光が差したんだ。こんなところで“尊い犠牲”になるなんてゴメンだ。映画みたいに無茶を押し通して、ヒーローになって見せる。慎重過ぎる上官を尻目に仲間も民間人も見事に助けて、極悪人を叩きのめしてぶっ殺し、祖国で栄誉を讃えられる。俺にはそれが出来るんだ。
背後から何事か叫ぶ子どもの両親の絶叫が投げかけられたが、もはやかかずらわってはいられなかった。今までの失点を取り返したいという切迫感とジャコモへの憎しみが胸の内で炎のように昂ぶり、車輪と化した脚で無我夢中に走った。不明瞭なゾワゾワとした違和感を振り切るように、何かに追い立てられるように、道すがらでうずくまるアシクなど気にもとめずに一目散にジャコモに追いすがる。
―――意外にも、ジャコモにはあっさりと追いついた。
爆風から遠ざかるために逃げ走っているかと思いきや、ゆっくりとした足取りで悠然と前方を歩いていた。あの凶悪な銃声が聞こえなかったはずがない。アシクの悲鳴が聞こえなかったはずがない。アシクが撃たれた拍子に爆弾のスイッチを押していたら爆発に巻き込まれていたかもしれない。だというのに、この男はただ静かに暗闇の中を歩いていた。ライトも点けず、光源を目指すでもなく、まるで暗闇こそ自分の領域であるかのように闇を突き進むその背中に同じヒトが纏うものではない不穏な臭いを感じてウッと息が詰まる。
こんなにあっさりと爆弾を無効化されるなんて、この男らしくない。逆転されたのに即座に行動しないなんて、この男らしくない。
何かがおかしい、やめた方がいい、と怖気づいた声が後頭部でチラつき、すぐさま俺らしくない女々しい声を頭を振って追い出す。
集中しろ、ブランク・ヘンデル。足を止めるな。気を強く持て。もう爆弾はないんだ。せめて気迫くらいは負けるな。そのまま勢いを殺すな。タックルをかまして背骨を叩き折ってやりたいが、子どもが人質にされているから気を使わないといけない。全体重を掛けて跳びかかり、動揺を突いて子どもを引き剥がそう。そうしてマウントを取れば、体重で勝るこっちが――――
「―――くく、やはり所詮は狗だな。追いかけて噛み付くしか能がない!」
「なに……!?」
冷たい突風のような声が前方から押し寄せ、腹に風穴を開けて吹き抜けた。中身のない気迫ではその圧力に対抗できず、蹴躓いたように足が止まる。
なんだ、その口ぶりは。まるでこうなることを予見していたかのような台詞は、なんなんだ……!?
心臓がドクドクと逸る。言い知れぬ不安に目を見張る中、ジャコモが大きな挙動でぶわんと翻り、視界を大きく遮る影を俺の胸に投げ込んできた。振りかぶった腕で弾き返そうと身構え、瞬時に思いとどまって受け止める。それは恐怖で顔を引き攣らせた少年だった。反射的に広げた腕に抱いたものの、思いもよらぬ重さにズシリと腰が軋む。涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだが、間違いなくジャコモに連れ去られた子どもだった。ジャコモにとって、身の安全を保証するための大事な人質のはずの子どもだ。
困惑しきってジャコモを睨む。闇の中で、愉悦に嗤うジャコモ・ダンテの白目が異様に浮き立っている。
わけが分からなかった。好戦的な目つきからは降伏する意思は見られない。逃げるテロリストがのんびり歩くなんてことも、人質を投げて渡すなんてことも聞いたことがない。見た目の体格に比べて異常に重い少年の体重や、少年から漂うキツい芳香剤のような体臭もあってさらに混乱する。
だが本能は「好都合だ」と断じてギリと肉体を張り詰めさせる。人質を投げ出したなら、もう遠慮はいらない。こちとら年がら年中訓練に任務にと励んでいるんだ。クソッタレ野郎一人くらい、一方的に殴り殺せる。
少々乱暴に子どもを地面に放り出す。小さく上がった悲鳴を意識の外に追いやり、下半身に思い切り力を込める。筋肉の爆発を利用して飛びかかる直前、ジャコモがポケットから鈍銀に光る何かを取り出した。銃かと思って身を固くしたのも束の間、それがオイル・ライターであることに気付いて疑念に眉を寄せる。
「他者に命を預け、命令のために忠義の死を受け入れる? そんなことは“犬”のすることだ。人間とは抗うものだ。己の命を崇高な犠牲とするより、己の命こそを優先して牙を剥くものだ。その獣じみた闘争本能こそヒトの本質だ。だがな、デカブツ。一つ大事なことを教えてやろう」
ライターの蓋が開くと、本来なら回転ドラムがあるはずの部分に小さなでっぱりが埋め込まれていた。ジャコモの指がゆっくりとでっぱりの上に置かれる。目線まで持ち上げられたライターの向こうで、ジャコモの顔面に三日月のような亀裂が走る。
瞬間、ライターから爆炎のような“殺気”が迸った。目に見えない殺気は宙空で巨大な竜の形となり、鎌首をもたげて燃える双眸で俺を睥睨する。あのライターは、恐ろしい怪物を擁した檻だった。攻撃を忘れさせるほどのプレッシャーに見下されて身動きが取れない俺をあざ笑い、ジャコモがライターのでっぱり―――“スイッチ”に親指を掛けた。
「“二兎追うものは一兎をも得ず”、だ。覚えておけよ、駄犬」
「――――!!!」
カチッと小さな音を立てて、“本物のスイッチ”が押し込まれた。自分の行動が予測されていたことへの憤怒や羞恥は種の時点で消え去り、その結果がもたらす惨状を予測してひたすらに冷たい怖気が総身を走り狂う。後悔の念が脳を駆けずり回るより速い竜がぐんと真っ直ぐに背後の家へと解き放たれる。身体を振り乱してリヒャルドの名を叫ぶが、電気信号と化した殺気が夜闇を切り裂いて猪突する方が遥かに速かった。
「ブランク! その子どもには―――」
振り返った先で、リヒャルドと数人が武器を手にこちらに走り寄るのが見えた。残りの部下はどうにかして夫婦を助けようとまだ家の中に留まっていた。ちょうど爆弾が仕掛けられたテーブルを中心に集中している。リヒャルドたちの頭上を竜が飛び越え、テーブルに―――大量のC3爆弾に食らいつく光景を幻視する。
世界が、破裂した。
地上に太陽が生まれいでる。膨張した火球が家を飲み込んだかと思いきや、光とも風ともつかない爆光が炸裂し、感覚全てを圧倒した。肌を焼く熱と鼓膜を叩く音が思考そのものを揺さぶる。爆風が壁となって迫り、戦闘服の表面をジリと焼いて通り過ぎていった。
「―――嘘、だろ―――」
これが爆発だと頭では理解しているのに、そこから先の神経が働かない。眩しさに眼前に翳した手指の間で、リヒャルドたちが灼熱する炎に呑み込まれるのを見てしまったからだ。
熱風に焼かれる身体は熱いのに、内側はゾッとするほどの虚無に冷えていた。あの爆発だ。しかもほとんどの隊員が爆弾の近くにいた。耳元のインカムに触れるが、助けを求める声すら聞こえない。耳障りな雑音しか聞こえないのは、故障したからか、このざわめく雑音が死んだ霊魂の怨嗟だからか。何人死んだ、と心の底で呟いた言葉が膨れ上がり、虫食いのように心を蝕んでいく。
不意に、くつくつと喉を鳴らす嗤い声が鼓膜に這い寄ってきた。断ち切られた思考を何とか繋ぎ合わせてそちらに身体を向ければ、全ての元凶である男が―――“怪人”ジャコモ・ダンテが白髪を風に波打たせながら俺を嘲笑っていた。
爆弾のスイッチは、最初からジャコモが持っていた。アシクが持っていた仰々しいスイッチは最初から囮だった。
見透かされていた。俺がジャコモを撃たせないことを、自分の死を許容出来ないことを見抜かれていた。試され、弄ばれ、奴の思い通りに動き、自滅した。勇気を持ってジャコモの手の平の上から脱しようとした親友であり上官でもある男の意思を足蹴にし、最悪の結末を呼び寄せてしまった。
自分の過ちの重さに耐え切れず、枝が折れるように地に膝をつく。土を叩く音が遠い。腹の内側が氷のように寒い。赦しを請おうにも、相手は皆死んだ。俺が殺してしまったからだ。自分の命可愛さに飛び出した俺を除いて、皆爆発に呑み込まれてしまった―――。
「喜べ、デカブツ。お前は自分自身の意思を貫いた。貴様はあの男たちの中で誰よりも“ヒト”らしい」
「俺が、人間らしい……?」
「そうだ。ヒトとは本来、そうあるべきだ。
なあ、デカブツ。いつからヒトは他人ばかり気にするようになったんだ? いつから己の意思よりも他者の意思を優先するようになったんだ? いつから他者との関係の中にあってこそようやく自己を見いだせる弱くて儚い生き物に成り果てたんだ?」
はらはらと舞い散る火花を包まれながら、この時ばかりは心底悲しそうに心の芯から嘆く。
「ヒトは己の弱さを許容し、他者と繋がることに慣れてしまった。他人との繋がりの中でしか己の形を削り出せなくなってしまった。“社会”という馴れ合いのぬるま湯に浸りきってしまった。自分たちが作ったはずの社会は巨大になりすぎ、粘度の高いタールとなってヒトを蝕み、雁字搦めにし、個々人の意思すらも満足に貫けないくだらない重荷となってしまっている。ヒトは“社会の維持”こそ己の生きる道とばかりに盲信し、一個の生命として世界に抗うことを忘れ、羊のように群れて、互いに依存しあい、生命力を失い、堕落に落ち続けている。現状維持しか頭にない生物に未来があると思うか? あるはずがない! 停滞を維持するだけならただのマシンにでも出来る。獣の方が遥かに能動的だ。
本来のヒトとは、ヒトという生命とは、己自身の意思を貫くために他者を押しのけ、弱者を踏み潰し、強者に食い掛かる、もっと純粋で貪欲なものであるべきだ。常に闘争を追い求める、血の通った滾る生命であるべきだ。いや、かつて過去ではそうあったはずなのだ!」
眼球を爛々とギラつかせて雄弁を振るうジャコモは、心の底から己のセイギを信じていた。同じ人間を人間と思わず、自身をより高格の存在と、純粋なヒトと認識している。こいつには何を言っても無駄だし、俺には何かを言える資格はない。俺に出来るのは、これ以上ジャコモの思い通りにさせないようにささやかな抵抗をすることだけだ。
「……そうだろうな。しょせん、貴様も慣れ合いを良しとするヒト未満の男か。見た目通りのゴリラ(ヒトモドキ)だ」
ズルズルと身体を引きずってその場にへたり込む子どもの元へ近づく。せめてこの子どもだけでも助けなければ、死んだ奴らに顔向けできない。氷のように思えるジャコモの憐れみを無視して腕を掴めば、放心していた少年がビクリと肩を跳ね上げた。
視界の隅で、ジャコモが一歩、二歩と後ろ足に遠ざかる。見過ごしてくれるわけではないだろう。その耳まで裂けるような笑みは、俺たちを見逃すつもりはないという冷酷な意思を如実に顕している。
「巻き込んじまって悪かった。お前だけは守る。心配すんな。俺の後ろに隠れてろ」
「ぅ、うん……」
背に庇おうと少年の腕を引っ張る。奇妙に重い少年を背後に回し、未だ冷たく嗤うジャコモと対峙するように身構え、
「……?」
はたと、背にやった指先にゴツゴツとした違和感を感じて動きを止めた。細身の少年の腹部が、異常に固かった。まるで腹に何かを巻きつけているかのような膨らみを服の下に感じて眉を顰める。焦げ臭い周囲の空気に混じって芳香剤に似た甘い臭いが鼻を突く。
……そういえば、家から飛び出す時、この子の両親が何かを叫んでいなかったか。リヒャルドは最後に何かを伝えようとしていなかったか。「その子どもには」と言いかけていなかったか。
なぜか解放された人質。
見た目より重い少年の体重。
腹部に巻きつけられたゴツゴツとした何か。
芳香剤に似た甘い臭い―――ジルニトロエンの臭い。
ジルニトロエンを多用した高性能爆弾―――Sprengkörper DM12(C4プラスチック爆弾)。
―――なけなしのC4はとっておきのモノに仕掛けてある―――
ジャコモが何気なく口走ったその台詞が錯聴となって耳元で囁かれた。
断片的だった情報が繋がり、悍ましい想像となって脳裏に結実した瞬間、今も尚自分がジャコモの手の平の上にいるのだと理解した。
おのずとジャコモに視線が吸い寄せられる。嬲る意思を隠さない双眼が、再び掲げられたライター型のスイッチをニヤニヤと見つめていた。ゾッとする怖気を通り越し、頭の中が真っ白に塗り込められる。全身が粟立ち、束の間を置いて力が抜けていく。何かしなければとは思うものの、もはや間に合わないという諦観に引きずられて身体が動かない。
心臓の鼓動が分刻みに聞こえるほどに引き伸ばされた静寂の中で、ジャコモの指がライターのスイッチに乗せられる。ゆっくりと首だけで振り返り、少年の怯える瞳を見詰める。最期に「すまない」と言うべく口を開く。一人で逝かせはしない。共に逝くには罪深すぎるかもしれないが、寂しい思いをするよりはマシだろう。
背後からカチリと小さな音が伝わる。次の瞬間には魂ごと吹き飛ばす爆発を覚悟してそっと目を閉じ、
「Du Doof(大バカ野郎ッ)!!」
「ッ!!??」
聞き慣れた声の、聞きなれない罵倒。耳朶を打った大喝と共に横合いから伸びてきた腕が俺の首根っこを掴み、力の限り後方にぶん投げる。唐突に喉輪が締まって息が詰まるが、俺を子どもから引き剥がした男の正体を見て完全に呼吸が止まる。
「リヒャルド―――!?」
それは、親友であり上官でもある男―――つい先ほど焔の波に呑み込まれたと思っていたリヒャルド・ウェーバーだった。戦闘服は焦げ茶色に焼かれ、強化プラスチック(ERP)製の装備やヘルメットもひどく損傷している。爆発の余波に呑まれた証左だ。あんな至近距離で炎に呑まれてそれだけの傷で済んだなんて奇跡だ。そんな奇跡によって命を繋ぐことが出来たにも関わらず、負傷を捺して俺たちの元に駆けつけたのか。
この日初めて度肝を抜かれたジャコモが白い顔で爆弾のスイッチを押しこむ。殺意の意思が再び竜の形を得て子どもに襲いかかる様子が硬膜の裏側に映り込んだ。絶望的な視界の中で、竜を払いのけるように血の滲んだ肉体を振り乱したリヒャルドが俺と少年の間に壁となって立ち塞がる。その必死の形相で、リヒャルドがせっかく助かった命を無駄にしようとしていることを察した。
やめろ、俺にそんな価値はない。助かるべきはお前の方なんだ。
腹底が落ち込むような感覚に意識を叩かれ、必死に伸ばした手がリヒャルドの腕を掴む。
「リ―――!」
視界を白い光が塗りこめた。
見えない巨人の手の平に弾かれたような凄まじい衝撃が身体を突き抜ける。そのまま巨大な顎に噛みしだかれ、抵抗する間もなく力任せに吹き飛ばされた。
噛み締めた奥歯が砕かれ、骨身が音を立てて折られ、肉は引き千切られ、眼球は圧迫され、耳朶が穿たれ、肺が握り潰される。せめて意識だけでも繋ぎ止めなければという細やかな踏ん張りすら、荒れ狂う激痛には敵わない。死神の息吹を全身に浴びて、身体よりも心の痛みを味わいながら俺は意識を失った。
黒く長い髪、純白のドレス。
光に満ちた世界で、女神が優しく囁く。
――――貴方は“必要”よ、ブランク・ヘンデル。今は生き恥を晒しなさい。今の貴方ではジャコモに勝てない。私ですら命がけでようやく倒せたんですもの。今は堪えなさい。これから紡がれる新しい“救済の物語”にこそ、貴方が生きて戦う価値がある。私の物語を覆すために、“あの娘”を手伝ってあげなさい。
……ああ、そうそう。甘やかし過ぎはよくないから、時々には「食べ過ぎだクソガキ」と叱ってあげなさいね―――
いったいどれほど気絶していたのか。醜くも生き延びた俺を叩き起こしたのは、けたたましい風切り音を立てて降下してくる軍用ヘリだった。ヘリが差す真っ白なライトが夜闇を切り裂いて周囲の視界を鮮明にする。だけど俺は、目の前の光景全てを、手に握っている“モノ”を、受け入れることができなかった。……それは、リヒャルドの腕だった。“腕だけ”のリヒャルドだった。本物のリヒャルドは全身を余すところなく食いちぎられ、背中を抉られ、血溜まりの中に沈んでいた。辺り一面に、つい先程まで少年だったはずの血肉が散らばり、俺の全身にもへばり付いていた。赤く濁った小さな眼球が足元に転がり、じっと俺を睨め上げている。
俺は、自分がしでかした大罪を受け止めきれず、ただ延々と忘我しているしかなかった。
正規軍という“爪”をNATOに奪われたドイツ連邦が己の意思を示す“牙”として設立した、最後にして最強の戦力、特殊作戦旅団(KSK)。
旅団を構成するコマンド中隊傘下、第一地上制圧小隊からテロリスト掃討のために極秘裏に選抜されたのは、選りすぐりの精鋭たちだった。600人を超えるKSK隊員において精鋭中の精鋭である12人の特別編成チームを率いるのは、行くゆくは幹部の椅子を約束された男、リヒャルド・ウェーバー上級准尉だった。
この部隊は世に出ることのない様々な作戦に参加し、多くの戦果を上げた。
その最後の戦績は、前代未聞のものだった。
戦死者6名、重傷者3名。
生存者、わずか4名。
標的『ジャコモ・ダンテ』、ロスト。
KSK創立以来初となるこの大失態は、長期行軍訓練中の転落事故というラッピングをされて世に流された。訓練中の痛ましい事故としてほんの一時だけテレビを騒がせ、幾つもの噂が芽生えては陰謀論の仲間入りをして靄のようにたち消えていった。シュヴァルツヴァルト山地の深い谷底が俺たちの墓場となり、仰々しい石碑が建てられ、多くの花束が供えられた。そこに眠る戦士などいないのに、寒々しいほどに滑稽な様子だった。
最後の爆発から少しして、黒塗りの輸送ヘリが俺たちを回収した。最初の爆発の直後、狙撃手のロルフとヨハンが本部に救援要請を飛ばし、在欧米軍が救出に馳せたのだ。アメリカの全面支援の元、俺たちは祖国へ帰還を遂げることができた。無事に帰還できた者の方が圧倒的に少ない。五体満足で帰れたのは俺を含めた3人だけだ。俺を庇ったリヒャルドは右腕をゴッソリと失い、身体中を爆風に打ち付けられ、背中の肉を炭化させられる重症を負った。
事件の後、特別編成チームは解散し、俺たちは互いに連絡を取ることを禁じられた。生き残った者たちとの接触は厳しく制限され、電話番号も実家の住所も強制的に変更された。隊員たちがどこの州の病院にいるのかも知らされず、一言も言葉を交わす機会を得られなかった。情報保全の為の措置だったが、誰にも詫びることを許されない状況は苦痛に他ならない。誰にも責められない状況ももっと苦痛だった。
軍法会議は開かれなかった。国外・国内からの追求を避けるために、俺たちが行ってきた作戦どころか特別編成チームが存在した記録すら抹消され、“無かったこと”になった。昇進が予定されていた者は呆気無く昇進が決定し、階級を上げられ、各地に転属になった。体の良い口封じであることは明らかだった。しばらくして俺も少尉に昇任した。真新しい階級章がやけに安っぽく見えた。
ジャコモの欧州関係に亀裂を走らせるという思惑は、表面上は回避された。ペンタゴン内部に意図的にジャコモへ情報を漏らした高官がいることをリヒャルドが見破ったため、アメリカが積極的に火消しに動いたのだ。オーストリア当局の捜査の目を掻い潜り、現場は老朽化したガスボンベの爆発事故の工作が施され、ジャコモの企みに利用された平凡な家族は交通事故による死亡として地方新聞の一面を飾るのみに終わった。世間はオーストリアの田舎で繰り広げられた惨劇を知らず、昨日と変わらない今日を漫然と過ごしている。
だが、それはあくまで表面上だけだ。永世中立国であるオーストリアはスパイ天国でもある。アメリカの力を使っても完璧な情報統制が行えるはずもなく、各国は朧気ながらも今回のKSKの訓練事故とオーストリアで起きた爆発事故に因果関係があることを察した。水面下では激しい応酬と探りあいが行われ、EU内でのドイツの立場に陰りが見え始めた。ドイツ軍の首輪を握るNATOはその締め付けを強め、国防費の削減はおろか全てのドイツ軍の作戦行動を―――KSKの極秘行動についても厳しく制限するようになった。
そして、俺たちの祖国は、最後に残されたなけなしの牙さえも己の意志で振り下ろすことが出来なくなった。身を護る爪も牙も飼い主に握られた今、この国は限りなく無力で無様な野良犬と成り果てた。
未だ病院で治療を受けるリヒャルドがKSKから脱退する意思を示したことを人づてに聞いたのと、俺が上官にKSKからの脱退を願い出たのは、まったく同時期だった。どこかの国から盗みとってきたという最新の医療技術によって失った体の部位を取り戻したリヒャルドは驚異的な速度で回復し、兵士としての復帰も夢でなかったらしい。しかし、あいつは上官の勧めを頑なに拒否し、どこかの施設の事務方に転属願いを出したそうだ。そこにどんな思いが働いたかは容易に推し量ることが出来た。あいつも俺も、重みに堪えられなかったのだ。
散らかったままの俺のオフィスに“雌狐”が現れたのは、それから三年後のことだった。
「あなたが、“蛮勇”ブランク・ヘンデル少尉ね?」
出し抜けに特大の皮肉を突きつけてきたソイツは、美貌の女士官だった。階級章は陸軍少尉。詰め襟の厚い軍服の上からでもわかる抜群のスタイルを引っさげて、その女は冷たい目で俺を見据えていた。俺を“蛮勇”と呼ぶからにはあの作戦の失態を知っているということだ。興味本位で“教官”の過去を聞き出しにきたわけではないらしい。何より、下士官出身者を見下すエリートの目に本能的な嫌悪感を感じる。俺は警戒心を剥き出しにしてその女をぎりと睨めつけた。
「……誰だ、アンタ」
「不躾ね。まあ、いいわ。
私はヨハンナ・メンデルスゾーン少尉。総監部 第6全軍幕僚部にて、シューマン大佐付きの秘書官をしているわ。今日は大佐から貴方への極秘指令を伝えに来たの。……この汚い部屋には盗聴の心配はしなくてよさそうね」
「ケッ、しがない教官の日常音を聞きたがる変態なんざ―――待て、総監部(Führungsstab)だと?」
総監部―――ドイツ連邦国防省 陸軍指揮 幕僚監部。約22万人の兵力を要するドイツ連邦軍を束ねる最高幕僚機関だ。7つある組織によって構成され、その内の一つである第6全軍は連邦軍の変革を模索し、新兵器の開発や実験を担っている。現場一辺倒だった俺には一生縁がないと思っていた部署だ。しかも“極秘”とは、ますますもって怪しい。
「中央のお偉いさんの秘書様が、地方の教官風情に極秘指令とは何事だ? 訓練を受けたいならやめとけ。俺のシゴキにはお前もその大佐さんもついてこれない」
あの作戦失敗から3年が経ち、俺はフレンドルフの郊外にある特殊作戦訓練センターに飛ばされ、近接格闘の教官をしていた。次から次にやってくる新兵を鍛えては送り出してまた鍛えるという忙しい日々は俺を無心にさせてくれた。物足りなさは常に感じていたし、まだ第一線で現役を張れる体力はあったが、仲間を失った後悔を引きずったまま戻れるほど戦場は甘くない。何より、失敗が上層部の記憶に新しい間は転属願いも一蹴されるだけだ。現場に復帰するには時間の癒やしが必要だった。
机に肩肘を立てたまま皮肉を返した俺に、メンデルスゾーン少尉はフッと侮蔑の笑みを溢す。
「安心なさい。あなたの教官としての努力なんて、近い将来には何の意味もなくなるわ」
「どういう意味だ」
「そのままの意味よ。訓練も教育も意味をなくす時代が来るわ。いいえ、すぐそこまで来ている。もうすぐ世界の主流となるでしょう。我が国もその波に乗り遅れないがために、シューマン大佐は尽力なされている。“新しい兵士”の創造のために、誰かさんたちの失態のせいで地に落ちた祖国の力を取り戻すために、着々と準備を整えている。それと……あなたの上官だったリヒャルド・ウェーバー少尉もこの計画に参加しているわ」
人の過去を蔑ろにする憎たらしい物言いに思わず歯噛みするが、台詞の内容の方が気になった。新しい兵士などというSFチックな話もそうだが、久しぶりに聞いた元・上官の名前に勝手に背筋が反り、半身がギクリと持ち上がる。俺の反応が予想通りだったのだろう。メンデルスゾーンは目尻を釣り上げて嘲笑った。
「リヒャルドが? あいつ、復帰したのか?」
「ええ。ウェーバー少尉は“担当官”として実験に参加するわ。行くゆくは少尉が“実験体”―――“義体”の管理をすることになる。人工の肉体と必要な知識を脳にあらかじめインプットした理想の極秘人造兵器よ。だけど、万が一に備えて義体を保護し、暴走した際にはそれを抑えつけるバックアップの管理者も必要だと大佐はお考えになられたの」
「それが俺だっていうのか? その得体のしれないターミネーターモドキのお守りをやれと?」
「そう。ウェーバー少尉は、負傷は完治してもKSK時代のような戦闘力は残ってない。だけど貴方は違う。怪力はさらに増し、戦闘センスも磨きがかかってる。今すぐ現場復帰しても遜色なく戦える。さっき新兵たちの立ち話を聞いたわよ。“白いゴリラ”ですって」
クスクス、と嘲りを隠さずにスカウト・ウーマンが笑う。なぜかその嘲笑こそがこの雌狐にもっとも似合っている表情だと思った。自分がなんと呼ばれているかは知っていても、この女に言われると無性に神経に触る。
「……どうして俺なんだ」
「さっき言ったでしょう? 義体は強力な兵器よ。それを抑えつけるためには特殊部隊で活躍しているような最強クラスの兵士が適任よ。でもこの計画は極秘だから、おおっぴらに特殊部隊から引き抜いてくるわけにはいかないの」
後は言わなくてもわかるわね?と告げる目に見下され、俺は押し黙った。どこからそういう情報を探してくるのかは知らないが、シューマン大佐とやらは俺に白羽の矢を立てたらしい。
「田舎の訓練センターなんかで燻ぶっていても昇進は望めないわ。周りはむさ苦しい半人前の兵士ばかり。栄転なんてありえない。給料も安いまま。家族により豊かな生活をさせてあげることも出来ない。溌剌とした若い兵士の背中を立ち止まって見てるだけ。せっかく鍛え上げた世界最高クラスの肉体は歳とともに老いていき、やがて無用の長物になる。教官としても役に立たなくなった時、貴方に何が残るの?」
一言一言が図星だった。漠然としていた危機感が他人に口にされたことでハッキリと浮き上がってくる。「何が残るか」だって? きっと何も残りはしない。今のパワーとスピードを維持するのもおそらくはあと数年が限界だ。
「……その義体とやらのお守りを引き受ければ、それは変わるのか?」
「変えられるわ。大佐はそれだけの力をお持ちのお方よ。実験が成功すれば、義体が量産されて兵士の代わりを務めるまでの間だけ、貴方に活躍の機会が与えられる。好きな部隊で戦えるわよ」
「いちいち癇に障る言い方しか出来ねえのか。……いいぜ、乗った。」
老いには勝てない。聞こえていた音は聞こえなくなり、見えていたものは見えなくなり、飛び越えていたものは飛び越えられなくなり、反応できていたことに反応できなくなっていく。状況は切迫している。今の俺にはチャンスが必要だった。復帰するチャンスも、リヒャルドに謝るチャンスも。
それから数週間後。
俺は、眠り姫と、その目覚めを待つ悲しい王子様を見つけた。
<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編
<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】
<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1
外伝 後編その2
<名状しがたいオマケ的な何か>
ちょっとしたコネタ
ヒャーリスプロフィール
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
知らぬ者などいない、古い御伽話のヒロイン。呪いで100年の眠りに堕とされた不遇のお姫様。イバラに覆われた城で王子様の救いを待ち続ける、可哀想な乙女。
だが、この施設でそうあだ名された少女は、誰からもその覚醒を望まれていなかった。長い黒髪と包帯だらけの身体を簡素なベッドに横たわらせ、点滴と電極という名のイバラを巻きつけられたその少女は、大人たちの呪いに穢され、恐ろしい化け物に変えられていたからだ。
大人たちは恐れた。その少女が目覚めた時、果たして彼女にどう向き合えばいいのか。「どうして私を化け物にしたの」と真っ白に塗り固められた瞳に問われた時、きっと誰もが自分の良心に殺される。復讐心や出世欲といった独り善がりの理由でこの実験に参加した人間ほど、自らの“罪”を突きつけられれば正気でいられる自信はなかった。だから、皆少女の覚醒を望まなかった。表面上は計画の成功を歌いながら、その薄皮一枚隔てた下では「起きてくれるな」と願っていた。
このまま目を覚ますことなく、上層部が義体の研究を断念して命を繋ぐ点滴と電極が切られるその日まで、自分の境遇を知る由もなくただ眠り続けてくれればいい。せめて幸せな夢を見ながら、汚い大人の世界に産まれ落ちることなく最期を迎えてほしい。誰もがそう想っていた。
その願いを込めて、いつしか少女は“眠り姫”と名付けられた。誰にも目覚めを望まれない眠り姫。起きない方がずっと幸せな眠り姫。黒目黒髪の見目麗しい、眠り姫。
「ぅうおっしゃああああ!!! やったるでええええええええ!!! 待ってろよブリジットぉおおおおおおおお!!!」
誰が予想できたのか。悲劇の眠り姫が、いつの間にか“長靴をはいた猫”と入れ替わっていたことに。ケラケラと好き勝手に振る舞っているように見えて、抜け目なく周囲の人々に幸せを与える、小生意気だけどなぜか憎めない不思議な雌猫。
眠り姫だと思って目覚めさせた王子様は、その正体に大いに面食らいながらも、雌猫に相応しい名前を与えることにした。
『Heuristik(ヒャリスティクス)』―――試行錯誤を繰り返してやがて答えにたどり着く―――という心理学用語から着想を得た名前。
MEMORY OF GORILLA
「待ちかねたぞ、ゲルマンの犬ども」
コメカミに銃口を突きつけられているにも関わらず、その男は大らかに歓迎の言葉を“ドイツ語”で謳ってみせた。
フル装備の男たちが突然窓を割って突入してきたら、普通の人間は驚愕で動けなくなる。しかも今回は、二つに分かれても時間差攻撃だ。この作戦は、2隊が挟撃することであたかも規模の大きな部隊であるかのように見せかけ、さらに相手の判断力を麻痺させる効果もある。襲撃された人間は、戦闘訓練を受けた人間ほど迎撃よりも逃走を真っ先に考える。退路に走ることで頭をいっぱいにさせておいて、一瞬遅れてその退路を完全に絶てば、どんなに冷静な兵士でも一時的なパニック状態に陥る。室内空間の制圧に適したオーソドックスな手法だ。テロリスト・キャンプで軍人気取りになったネオ・ナチの雑魚どもも、宗教狂いのイラクの過激派どもも、極限まで訓練された精鋭の時間差強襲に動転し、ろくな抵抗もできずに拘束・射殺されていった。
だというのに、この男は―――ジャコモ・ダンテは、今、完璧な余裕を纏って俺たちを睥睨していやがる。
「ふ、副隊長、コイツ今ドイツ語を……!」
「落ち着け」
部下が漏らした掠れ声を細めた声で制する。俺自身が驚愕に顔を引きつらせているのに、その制止に効果があるのかは怪しかったが。
俺たちはリヒャルドの命令に従って、突入してから一切のドイツ語を発していない。顔だってバラクラバで覆い隠していて見えない。機密レベルが高い作戦故に、所属を示す腕章の類は最初から一切身につけていないし、携行している武器の類だって世界中の軍隊で採用されているものだ。ジャコモの側頭部に押し付けているグロックに至っては、メーカーはこの国(オーストリア)だ。どれを見たって、俺たちがドイツ人だと見抜ける理由にはならない。
ハッタリだと鋼鉄の意思で動揺を抑えつけ、背中を膨らませるようにどっしりと構える。こんなもの、俺たちの混乱を誘うために必死こいたジャコモ・ダンテが絞り出した苦し紛れの誤魔化しに過ぎない。そんなくだらない嘘に天下のKSKが振り回されてどうする。滞留し始めた不安の澱を吹き飛ばすのも、ゴツイ副隊長の仕事だ。
ジャコモ・ダンテの正体ここに見たり、だ。危機的状況に陥る度に口から出任せで生き延びて、いつの間にか噂の影だけが本人の何倍にも膨れ上がっただけの小物に過ぎない。
ガツっと、こめかみにグロックを一際強く良く押し当て、引き金を軽く絞る。こうやって「無駄口をやめろ」と行動で示せば、それまで息巻いていたテロリストも小さく息を飲んで押し黙る。殺そうとしてるのは俺たちで、今にも殺されようとしてるのはジャコモの方だ。単純に考えれば、どちらが捕食者の側から一目瞭然だ。俺たちがビビる理由はどこにもない。
腹に力を込めて一歩踏み込み、迷いを殺す。こんな上っ面だけのテロリスト、銃把(グリップ)でガツンと一発ぶん殴ってやれば途端に泣き喚いてひれ伏すに違いない。本当にやってやろうかと凄みを効かせて厳しい眼差しを向ける俺に、ジャコモが海中の鮫のようなゆっくりと不気味な動きで正眼を傾ける。ドロドロとマグマのように煮え滾る眼光と間近で視線が交差する。
「いいや、違うな、“KSK(ドイツ陸軍特殊戦団)”ども。俺が殺す側で、お前たちが殺される側だ」
「なッ!?」
「なに……!?」
流暢な―――生まれも育ちもドイツの俺ですら驚くほどに自然なドイツ語で、こいつは昏く嘲笑った。俺たちがドイツ人だと知っているどころか所属まで見抜きやがった。コイツは本当に、俺たち(KSK)が来ることを最初から予見していたというのか。こいつは他人の心を読み取れるとでも言うのか。
今度こそ動揺を隠し通せず、我知らず摺り足で後退する。緊張に張り詰めた筋肉が勝手に俺の身体を仰け反らせたのだ。見れば、リヒャルドも驚愕を殺しきれずに両肩を跳ね上げていた。隊長の心の乱れが波紋のように伝播して背後の部下たちまでもがギクリと身体を硬直させる。
目を見開いて言葉を失った俺の目をジャコモのギラつく目が覗きこむ。
「下手に動くなよ、KSKの精鋭諸君。動けばお前たちの命も、彼らの命もない。もちろん、この子どもの命も」
「て、てめえ、いったい、」
俺が絞り出した疑問に答えず、ジャコモは子どもの頭を撫でながらくつくつと喉を鳴らす。拳銃を突きつけているのは此方側なのに、追い詰めているという確信が得られない。むしろ、逆に追い詰められている恐怖感を感じる。武器も手にしていないジャコモこそが俺たちの額に見えない銃口を突きつけているような感覚に襲われる。ありえない異常事態に、鍛え上げた第六感がざわざわと危機を訴える。「周りをよく見ろ」と金切り声で訴えている。
「どうなってやがる……」
第六感に従って部屋を見渡してみる。ありえないのは、ジャコモの態度だけじゃない。―――ジャコモとついさっきまで談笑をしている“ように見えていた”家族が、身動ぎ一つしていない。
一般人なら、黒尽くめの武装集団に襲撃を受ければ恐怖で動転する。立ち上がるなり、地面に伏せるなり、腰を抜かすなり、何かしらの行動に出るはずだ。だが、この若い夫婦は顔面を恐怖に凍りつかせたまま椅子から立ち上がろうとすらしない。滴り落ちる多量の汗が床に塩の水たまりを作っている。唯一、ジャコモの腕の中に抱かれる4~5歳の男の子だけが襲撃に驚いてポカンと口を開けて放心している。額に玉のような汗を浮かべながら身体を椅子に貼り付けた両親の目線だけが、心配そうに我が子の動きを追っている。
「た、隊長ッ! つ、机の下を!!」
「こ、これは……!?」
「お、おい、こいつはまさか……!!」
銃口を油断なく突きつけながら慌てて視線を下げる。ジャコモと夫婦が腰掛ける長机の底一面に、おびただしい数の何かがくっついていた。木製の洒落た机には到底似合わない無骨な四角い箱が隙間なく備え付けられている。無色無地の味気ない拳大の箱は軍人だからこそ見覚えがありすぎて、血管を流れる血が全て冷水と入れ替わったような怖気が全身を走り狂う。
それらから伸びたコードは、机の脚を沿うようにして巧妙に隠されたまま夫婦が座る椅子の下部まで繋がっていた。歩兵科時代に爆発物の専門課程をクリアしたテオドール二等軍曹がその構造を確かめて「うっ!?」と低く呻き、バラクラバを介してもわかるほどの怒りの形相でジャコモをギッと睨みつける。
「どうした、テオドール! こいつはなんだ!?」
「隊長さん方、こいつはブービートラップです! この夫婦の椅子には圧力センサーが仕掛けてある! 繋がってんのは……この芳香剤に似た甘い臭い……間違いなくジニトロトルエンですよ!」
「それでは、これが全部―――Sprengkörper DM12(C4プラスチック爆弾)ということか!?」
全員の精神が大きく揺さぶられ、平静の箍が外れた。抑えきれなかった呻き声が幾つも漏れ出て、それに合わせて銃口が激しくブレる。俺たちはまるで襲撃を受けた雑魚のように、完全に動揺してしまっていた。
ジャコモに抱かれた子ども、動きたくとも動けない夫婦、彼らの動きを見張る圧力センサー、隠されたC4爆弾―――。この時点になってようやく、俺たちは悪魔(ジャコモ)が仕掛けた邪悪な罠に気付いてしまった。
「良いところまで当てているが、残念ながらC4ではない。各組織の余り物のC2とC3の寄せ集めだ。C4を買う金を出せるほど今回の雇い主は懐に余裕がなくてな、なけなしのC4はとっておきのモノに仕掛けてある。だが、残り物の寄せ集めでも、お前たちを吹き飛ばすには十分だ」
この状況全てが―――俺たち(KSK)を誘い込み、全滅させるための罠だったのだ。
「お前たちはイラクで殺し過ぎた。ネオ・ナチを追い込み過ぎた。なけなしの金を振り絞って俺を雇わないといけないくらいに、な」
「くっ……!?」
キョロキョロと不思議そうに首を回す子どもを抱いたまま、ジャコモがすっくと立ち上がる。夫婦が短く悲鳴をあげたが、それ以上動けなかった。おそらくは椅子から立ち上がれば爆弾のスイッチが入ると教えられているのだろう。
トラップが一般人に仕掛けられ、その威力が家を吹っ飛ばせるほどのものだと知ってしまった今、俺が突きつける銃はただの飾りにすぎない。ジャコモは俺が撃てないことを知っている。こうなってしまっては誰もこいつに手出しできない。もしもこいつを撃った瞬間、どこかに隠し持った爆弾のスイッチを押されたら、俺たちも、一般人の親子も、全員が跡形もなく吹き飛ぶからだ。
最初から罠だった。ジャコモがここに潜んでいるという情報も、最初の家が無人だったのも、わざわざ外から発見されやすい窓辺に座っていたのも、子どもを抱くことで狙撃を躊躇わせて突入という選択肢を与えたのも、全てコイツが用意したお膳立てだったのだ。こいつはわざと自分が狙われるような情報を流し、どこかから俺たちKSKが襲撃するという情報を盗み出し、手ぐすね引いてここで待ち構えていたのだ。
「全員、弾倉を抜いて武器を床に置け。腕を頭の上で交差させ、そのまま壁に背中をつけろ。お前たちが獲物相手にやってきたことだ。よく覚えているだろう?」
コイツの手の平の上でいいように踊らされていたことに、怒りで身体を引き裂かれそうな激痛を覚える。少なくとも俺がリヒャルドに突入を勧めなければ、この汚い手の平から脱することは出来たのだ。こうなった大きな原因は間違いなくこの無様な俺にある。
「……全員、言う通りにするんだ」
リヒャルドが力なく命じる。隊長の命令で、隊員たちが次々と己の牙や爪を捨てていく。足元に弾丸を失ったメインウェポンとサイドアームが転がる。眼前でジャコモにフンと嘲笑われ、神経がブチブチと千切れる音を立てる。
「この、卑怯者め……! てめえこそ、テロリストの雇われ犬じゃねえか! 稀代のテロリスト様も成り下がったもんだな!?」
「俺は“雇われてやった”だけだ。闘争の引き金を引くには金がかかる。人間はどうしても一歩を踏み出すのに躊躇する生き物だからな。背を押すのも大変だ。高い買い物をするために汗を流して働くのは当然のことだ」
「一端の口効いてんじゃねえぞ、クソッタレの気狂い野郎! どう言い繕ったって、しょせんテメェはテロリストの使いっ走りか捨て駒に過ぎねえんだよ!!」
「よせ、副隊長! 刺激するな!」
リヒャルドの厳しい声も鼓膜より奥に入ってはこなかった。額をぶつける勢いで息巻く俺を真正面から見据えたジャコモが再び嗤う。俺の罵倒を意にも介していないようだ。自分はニンゲンを達観したと心底思い込んでいるような、常人とは違うナニカが見えているかのような、高みから下々を見下ろす“先導者”の顔だ。
「何をするにも飼い主に許可を求め、結局その飼い主に裏切られて死ぬことになるお前たちが、どうして臆面もなくそんな台詞を言えたものか。闘争の本質に近い素質を持ちながら盲信という首輪で自分を縛り付け、己の首を締め殺す哀れな犬だ、お前たちは」
「……!?」
「実に惜しい」と呟くジャコモの台詞はこの事態の確信に迫るような内容だった。だが、極度の緊張状態に陥った俺たちでは到底理解に及ばない。理解できるのは、この隊でもっとも冷静沈着で優れた士官だけだ。
「―――情報はNATOから漏れたんだな」
静かに放たれたリヒャルドの核心を突く台詞に、ジャコモが「ほう」と頷く。リヒャルドなら、この絶体絶命の状況においても冷静な思考を行えるに違いない。何か打開策を見出すのも、きっとこの男にしか出来ない。その場の全員の期待を背中に受けながら、リヒャルドがジャコモと面と向かって対峙する。
「少しは賢しい犬が紛れているな。お前が隊長か」
「貴様に褒められてもちっとも嬉しくない。お前の協力者はNATOに―――米軍に、しかも在欧米軍ではなくペンタゴン(米軍本部)にいるな、クソッタレのジャコモ・ダンテ?」
「……賢しいな。ターリバーンの奴らが焦るのも頷ける」
「簡単なことだ。ドイツが軍隊を動かすには、お前が言うところの“飼い主”、つまりNATO(北大西洋条約機構)の許可がいる。突っ込んで言ってしまえば、NATO主導国のアメリカの許可だ。今回の極秘作戦はNATOを経由せずに直接ペンタゴンに話を通した。ドイツとペンタゴンは極秘の直通回線で繋がれ、如何なる傍受も通用しないよう隔離されている。だが、話を通した先のペンタゴンにスパイがいれば意味が無い。お前のように“闘争を求める”バカ野郎がいてしまえば情報は筒抜けにされてしまう。例えば、“引退後に軍需企業の支援で選挙に打って出る予定の米軍高官”とか、な」
頭の回転が鈍い俺にもようやくわかってきた。ジャコモに情報を売り渡した裏切り者の正体が見えてきた。
軍需複合体は、争いがなければ商品を買って貰えない。平和な世界に武器兵器は必要とされないからだ。軍隊は、争いがなければ予算を増やして貰えない。平和な世界に大きな軍隊は必要とされないからだ。需要と供給において思惑が一致する両者が己の利益に“安定した緊張状態”を求め、そのために紛争を望むテロリストに情報を流したのだ。
ジャコモの切れ味の鋭い視線がさらに鋭く細められる。
「馬鹿者であることは俺も同意しよう。奴らが望む闘争とは、兵器を売り込むための適度な緊張状態に過ぎない。闘争と名のつくだけのつまらん紛い物だ。真の闘争―――ヒトとヒトが抜身の刃となってぶつかり合い、殺し合う世界でしか、ヒトがその本質を剥き出しにして生来の輝きを放つことは無い。今回は互いに利用できると踏んだから利用してやった。それだけだ」
さもくだらなそうに言い捨てる様子に薄ら寒さを感じてゾッとする。こいつは本気で戦争を望んでいる。国と国と、軍人と軍人とではなく、世界中の個人同士が血を流しあって殺し合うことを望んでいる。それこそが正しい世界だと信じこんで、それを実行するだけの頭脳を、力を、コネクションを、狂気を備えてしまっている。
“コイツは、ここで殺さなくてはならない! こんな危険な奴を野に放ってはならない!例え自らの命と刺し違えてでも殺さなくてはならない!”
今この瞬間、隊員全員がそう決意した。ギリリと握る手に力が籠もる。何時でも奴の命を絶つ準備は出来ている。そして、全員の視線がジャコモの腕の中に―――幼い少年に集まった。少年は、自分に集中する視線の意味を理解できずに無垢な顔を傾げている。
「―――親子を離してやれ、ジャコモ・ダンテ。彼らは無関係だ。解放しろ。目的は僕たちだけのはずだ」
敵と刺し違える覚悟は出来ている。大事な時に己の命を惜しむような腰抜けなら最初からKSKに志願しない。だが、一般人を―――何も知らない親子を、まだ恋もしたことのないような子どもを戦いに巻き込む覚悟は誰も持ってはいない。KSKには冷徹な奴はいても非情な奴はいない。
リヒャルドが一歩踏み込んで「離してやれ」と説得する。相手に人情があれば交渉の余地はある。だが跳ね返ってきたのは、壁に走った罅のような人間性を欠いた嗜虐的な笑みだった。
「ダメだ。一般人をここで殺すことも俺の目的だからな」
「なんだと!?」
「考えてもみろ。オーストリアで戦闘による多数の死傷者が出た。それを行ったのはドイツ軍の特殊部隊で、被害者は何の非もない幸せな親子だ。公になろうとなかろうと、オーストリアとドイツの間に決定的な亀裂が生じるのは火を見るより明らかだ。アメリカはドイツの勝手な派兵行為だと切り捨てるだろう。ヨーロッパ諸国はドイツの暴走だと断じて怒り狂い、フランスはNATOを糾弾して距離を置く。ドイツはテロリストを討伐するためだったと反発するが、他国に軍隊を送り込んだ事実が消えることはない。EUに属する強国たちは強硬な姿勢を取り続け、やがて連携を失い、均衡は失われ、ヨーロッパは大きな闘争の渦となる。
ユーロ(ヨーロッパ共同体)構想など所詮は“まやかし”だ。死力を尽くして互いを殺しあっていた半世紀前の方がよっぽどヨーロッパ(西洋列強国)らしい」
底の見えない瞳の中で、“悪の情熱”がドロドロと煮えたぎっていた。こいつはこの世の“膿み”だ。武力による抑止力によってギリギリの均衡を保っているこの歪んだ世界から染み出してきた、腐敗物の塊だ。
自分を抱く大人が狂気の産物であることを察した子どもが恐怖にガクガクと震え出す。
「ここで貴様らKSKを徹底的に叩きのめすことで依頼主の仕事もこなし、同時に俺の目的も達成できる。ヨーロッパはイタリアに続いてもう一つ大きな火種を抱えることになるだろう。俺は世界中にそうした紛争の火種を作ってきた。“導火線”を買う金も手に入った。後は火を付けるだけだ」
「―――本当に、狂ってるのか」
「いいや、俺こそがヒトの本来の姿だ。調味料がなければモノを食えない今の人間の味覚が狂っているように、お前たちこそが狂ってしまっているのだ。それを俺が正す。本当のニンゲンだった頃に戻してやる。それだけのことだ」
リヒャルドが絶句して押し黙る。同じ言語を使っているだけで、意思が通じることは絶対にない。言語ではないもっと根幹の部分で、コイツ(ジャコモ)は俺たちと大きく異なっている。そこらのテロリストなど、コイツに比べればガキの遊びだ。身勝手な利権やエゴ、復讐心や意固地で勢い任せに武器を手に取るような連中とは根本から違う。コイツは生まれた時から生粋のテロリスト(破壊者)なのだ。自分が何者であるのかも、人間が何者であるべきなのかも決めつけてしまって、それを遂行するための無慈悲な貫徹力を、決して鈍らない指向性を、最初から身につけてしまっている。真の狂人とは、きっとこういうモノなのだ。己が“違う”ことを受け入れ、狂っているのは自分ではなく世界の方なのだと確信している。そして、一番最悪なのは、この狂人が世の中の正しいことと間違っていることを覆す力に容易に手が届いてしまうことだ。
くつくつとジャコモが耳障りな“音”で嗤う。鼓膜にベッタリと焼き付きそうな、およそ化け物じみた嘲笑だ。狂人の声とは、こんなにも常人の神経を強く逆撫でるものなのか。こんな奴を好き勝手にのさばらせている自分が情けなくて悔しくて、頭がどうにかなってしまいそうだ。
―――いや、この間合いなら、ジャコモの首をへし折れるかもしれない。
取っ組み合いになれば子どもに怪我をさせるだろう。子どもを盾にされるかもしれないし、爆弾のスイッチをどこかくに隠し持っていれば押されるかもしれない。だが、こいつは今、間合いの中にいる。一歩駆け出せば届く場所に座っている。この状況で目の前の男を絞め殺す術は思いつくだけでも20はある。KSKでもっとも戦闘体術に優れた俺なら、やってできないことは……!
「やめておけ、デカブツ。俺は爆弾のスイッチは持っていない。持っているのは“別の者”だ。―――おい、アシク」
「―――はい」
「「……!?」」
その声は、俺の背後―――割られた窓の外から聞こえた。俺たちがついさっき通ってきた暗闇から、姿のない何者かが声を発したのだ。気配はあるのに姿のない、若く理知的な男の声だ。まさか、本当に幽霊だとでも言うのか。
狐につままれたように唖然とする俺たちの前に、声の主がゆっくりと歩んでくる。やがて窓辺まで近づいてライトの下に顔を見せた時、俺はどうしてその男が見えなかったのかを理解した。
「“黒人(ブラック)”、だったのか……!!」
その男は、ネグロイド特有の星のない夜のような黒い肌をしていた。純粋な中東の血を思わせるくぼんだ眼孔と高い鼻梁。ジャケットもアーミーパンツも濃暗色で統一されている。これなら夜闇に完全に紛れることが出来る。
ギョッとする俺たちに、“アシク”と呼ばれた若い男が腕を伸ばす。そこには、ラジコンのコントローラーのような仰々しい機械が握られている。それが何であるかは状況を考えれば明らかだ。
「お前たちの肌はバラクラバで隠していても暗闇にハッキリと浮いていたよ。ホワイト(白人)」
あの時、サーモを使っていれば、コイツに気付いていたのに……!!
またしても俺の失敗だ。あの時、俺は心の隅っこで、リヒャルドに不安を与えたくないという冷静でない考えを抱いてしまった。リヒャルドのためじゃない。サーモを使うために分隊との合流に遅れが生じれば、当然隊長に報告を入れなければならなくなる。作戦決行への不安材料しかない現状で、さらに「敵が潜んでいるかもしれない」という報告を受ければ、リヒャルドが遂に作戦の中止を言い出すかもしれないという焦りがあったからだ。
本部の命令を拒んで帰投すれば、どうしたって評価は地に落ちる。ネオナチやイラクでの作戦成功のおかげで昇進間違いなしだというのに、こんなところでそれをふいにしたくはなかった。己の野心と無責任な戦意で前が見えなくなっていた俺は、踏まなければならない順序を踏まず、冷静さを欠いた行動を取ってしまった。その結果が、万事休すの現状だ。
「Scheiße(チクショウ……)!!」
身震いして呻くが、手も足も出ない。爆弾のスイッチは、俺の間合いの外にいる黒人―――アシクというらしい―――が手にしている。睨みつけるしか術がない俺たちを流し見てフンと鼻を一つ鳴らし、如何にも余裕たっぷりの緩慢な動作でジャコモが立ち上がる。腕には子どもを抱いたままだ。ジャコモの正体に気付いた少年が身体を引き剥がそうと暴れどもジャコモはビクともしない。一見すると細身のようだが、引き締められた筋肉には恐るべき膂力が詰め込まれているらしい。果たして俺が飛びかかっていても取り押さえることが出来たか怪しく思えるほどだ。
「ゲルマンの犬ども、わかっているな? お前たちが少しでも動けば、この男がスイッチを押す。お前たちは死に、この子供も俺が殺す。お前たちが大人しく爆死したのを確認すれば、子供は開放してやろう。
行くぞ、アシク」
「……はい」
「乗り気ではないか。だが、ジャコモ・ダンテになりたいのなら避けては通れない道だ。貴様の祖国愛とやらが本物であればこの程度のことは受け入れてみせろ。これから行くイタリアでは“もっと大きい爆弾”を任せることになるんだからな」
「……理解して、います」
出口に向かうジャコモの背中をアシクがおずおずと追う。戸惑いの台詞にも、縛り付けられた夫婦に向けられた暗い一瞥にも、良心の呵責が残っているのがハッキリと感じ取れた。この黒人の若者は、なぜ冷酷なテロリストと行動を共にしているかはわからないが、ジャコモとは違って無関係の人間を巻き込むことにまだ抵抗を残している。己に正しさがあるのか疑い、行動を迷っている。コイツなら、爆弾のスイッチを押さないかもしれない。押すにしたって、数秒くらいは躊躇うかもしれない。その隙を突くことができれば、爆弾のスイッチを奪って形勢を逆転させることも出来る。
それに―――奥の手を持ってるのは、ジャコモだけじゃない。
ジャコモの背中が夜の常闇に溶け、後には子どもが必死に親を呼ぶ金切り声だけが響く。その後に続くアシクがちらちらと背後のこちらの様子を―――子どもの叫び声に涙する良心の悲痛な顔を窺いながら同じく出口を後にする。爆弾のリモコンスイッチに指をかけたままなのは、俺たちが足元の銃器に手を伸ばした瞬間にボタンを押すためだ。圧倒的な優位に立っているのに、指は震え、表情は強張っている。どうしてこんな奴に奥の手のスイッチを預けたのかはわからないが、ジャコモの失策であるのは明らかだ。
リヒャルドと目が合い、どちらからともなく頷く。アシクの姿も遠くなり、足音が遠ざかっていく。爆風から逃れる十分な距離を取るために奴らが爆弾のスイッチを押すまで、まだ数秒の余地があるだろう。数秒もあれば、KSK特別仕様のG22スナイパーライフルは1キロ先の目標だって撃ち抜ける。
頭の後ろで手を組んだまま、リヒャルドの口元が小さく蠢く。無線回線を通して、500メートル後方に待機させている“鷹”に向けた指令が俺を含めた他の隊員のインカムにも分けられる。
「ロルフ、ヨハン、まさか聞き逃したりはしていないな?」
『私たちが優れてるのは目だけじゃないんですよ、隊長。あなたが無線を入れっぱなしにしてくれてたおかげでバッチリと聞いてました。大ピンチみたいですね』
『俺たちの出番ってわけだ』
リヒャルドが潜めた声をインカムに吹き込めば、観測手を務めるロルフ先任上等曹長と狙撃手を務めるヨハン一等軍曹の軽口が返ってくる。表面上は明るく装っているが、ぎちぎちに張り詰めた声から二人の緊張も頂点に達していることがわかる。
「曹長、そこから二人は狙えるか?」
『ええ、なんとか。暗いし遠いし風は吹いてるしターゲットは常に動いてるしで狙いにくいことこの上ないですが、まだその家からの光源のおかげで敵さんの姿はスコープに映ってる。殺れますよ。ヨハンの.338ラプナマグナム弾ならギリギリ届くはずです』
やっと舞い込んできた吉報に少しだけ肩が下がる。ジャコモがアシクという隠し球を持っていたように、こちらも万が一のために狙撃手をハックアップとして準備している。ロルフとヨハンのコンビはNATO軍でも右に出る者はいない狙撃手だ。
だが、どんなに優れたスナイパーにも、不可能はある。
俺が口端を引き上げて今すぐにでも飛び出せるように身構えた矢先、ヨハンのゾッとするような低く硬い声が鼓膜に滑りこんできた。
『だけど、撃てるのはどちらか一人だけだ』
転瞬、ゴクリと喉が大きく隆起する。瞳孔が限界までかっ開き、一気に水分を失った喉が鋭い痛みを発する。ツバなんてこれっぽっちも出ないのに、喉を鳴らさずにはいられなかった。
何のことはない簡単な図式だ。オリンピッククラスの腕前を持つヨハンでも、同時に二人のターゲットを狙うことは出来ない。いくら優秀なシュミット&ベンター社製のテレスコープだろうが暗黒を見通すほどの性能はない。一方を撃てば、もう一方は分厚い暗闇に身を隠して完全にロストしてしまう。チャンスは一発のみで、殺せるのはどちらか一方だけだ。
ジャコモを撃てば、アシクは爆弾のスイッチを押す。俺たちは跡形もなく吹き飛び、何の非もない夫婦も巻き込まれる。
アシクを撃てば、ジャコモに逃げられる。冷酷なあの男は躊躇なく子どもを殺すだろう。
どちらを捨て、どちらを得るか。わかりやすくて、これ以上ないほどに残酷な選択だ。
「どちらか一方だけ……!?」
『俺だってこんな酷なことは言いたくないですが、出来ないもんは出来ないんですよ。俺には決められない。アンタたちが決めてください、隊長さん方』
『ヨハンの言ってることは本当です。早く決断してください。できれば5秒以内に。それを過ぎたらどちらにも当てられる自信はない。撃つのはジャコモですか、黒人ですか。ほら、早く、早く! こんなこと言ってる間にも奴らは離れていってるんです! 頼むから、我々を“何もしなかった腰抜け”なんかにはさせないでくれ!!』
「ッ……!」
血の滲むような苦しげな声だった。それを聞いたリヒャルドの瞼が瞬き、俺たち一人一人の顔をじっと見詰める。
自分たちを犠牲にして平和を無に帰するテロリストが世に放たれるのを阻止するのか、部下たちの命を優先して子どもを見殺しにするのか、恐ろしい選択の瀬戸際で板挟みになっている。
「た、ターゲットは―――ターゲット、は―――……」
普段のリヒャルドからは想像もつかない掠れ声。そのザラザラとしわがれた声が次に紡ぐ命令で、俺たちの命運が決まる。他者に己の命を預けている明確な実感に襲われ、心臓が早鐘を打ち、ドクドクと騒がしい音が身体の中で跳ねまわる。アドレナリンが大量に分泌され、一秒が一時間に思えるほどに感覚が引き伸ばされる。
『死にたくない。帰りたい』。『無駄死には嫌だ』。『妻子に会いたい』。『ジャコモをぶっ殺したい』。『どうしてこんな目に』。
時計の針の音が聞こえてくるような沈黙に押し潰されながら、その場にいる全員の想念を浴びたリヒャルドの瞳が激しく揺れ動く。責任の重さに堪えかねて、屈強なはずのエリートの膝がガクガクと打ち震えている。発狂する寸前の如く鬱血して血走った目が、決断を迫られるリヒャルドの苦悩を、苦痛を物語っている。
「ターゲット、は……」
ふっ、ふっ、と太い息吹に合わせてリヒャルドの肩が上下する。肺の収縮に合わせて震えていた声が、一秒ごとに収まっていく。刻一刻と時間は過ぎていく。もう4秒が過ぎた。決断の時だ。
全員の顔を静かに見回した青い目が、最後に俺を見る。微かに濡れて曇ったその目が「すまない」と俺に告げていた。覚悟を決めたリヒャルドが、毅然と背筋を伸ばしてスッと確かに息を吸った。リヒャルドのことはよくわかっている。お固い性格で、敬虔なキリスト教徒で、世界平和を願う理想主義者。
俺は、リヒャルドが何を捨てるつもりなのか、何を得ようとしているのかを理解した。
「命じる、曹長。ターゲットは、前を歩く、ジャ―――」
「ヨハン、後ろの黒人を撃て!!!」
理解して、それを拒絶した。
上官の命令を押しのけて怒鳴った俺に、ギョッと目を見開いたリヒャルドが制止の声を上げようとする。それに押し被せるように全身を声にして怒鳴る。
「なにしてる、撃て!!」
『Jawohl!!(り、了解!)』
即座に轟く、山中一帯を包むこむような烈しい発砲音。有効射程1500メートルのラプナマグナム弾が500メートルの距離をコンマ数秒で跨ぎ、音の壁を切り裂いて目標に着弾する。悪条件が重なったせいで、弾丸はアシクの命を奪うことは出来なかった。しかし強力無比の攻撃力はアシクの握っていたリモコンスイッチを粉々に粉砕し、地面に撒き散らせた。「ぐあっ!」と獣のような悲鳴と共にパッと鮮血が飛び散り、アシクが二の腕に走った裂傷を抑えてしゃがみ込む。
オォン、と狼の遠吠えのような残響の尾を引いて銃声が夜の空気に吸い込まれる。その音が消え入るより先に、それをカモフラージュにして床を蹴った俺はジャコモを追いかけて外に飛び出していた。
「副隊長、何を―――!?」
「これで爆弾は無効化された! 子どもを殺す前にジャコモをぶっ殺しちまえば全部解決だろうがよ! 隊長たちはその夫婦を頼んだ!」
今まで一度だって蔑ろにしたことのない命令を無視した気まずさから逃げるようにリヒャルドから顔を逸らし、駆ける。この軍人失格な失態も、ジャコモを捉えれば相殺できる。
むざむざ殺されてたまるか。殺されるがままに死んでたまるか。奴の手の平の上で無様に死に絶えるだなんて冗談じゃない。エリートばかりのKSKに腕っ節だけで選ばれて、士官としての花道が開けた。昇進を重ねる度に家族の喜ぶ顔が嬉しかった。目にしたこともないような美味い飯を食わせてやる度に母親と弟妹が泣いて喜ぶのが何より幸せだった。貧乏なままマフィアにでもなって虚しく終えるはずだった生涯にようやく“英雄”という光が差したんだ。こんなところで“尊い犠牲”になるなんてゴメンだ。映画みたいに無茶を押し通して、ヒーローになって見せる。慎重過ぎる上官を尻目に仲間も民間人も見事に助けて、極悪人を叩きのめしてぶっ殺し、祖国で栄誉を讃えられる。俺にはそれが出来るんだ。
背後から何事か叫ぶ子どもの両親の絶叫が投げかけられたが、もはやかかずらわってはいられなかった。今までの失点を取り返したいという切迫感とジャコモへの憎しみが胸の内で炎のように昂ぶり、車輪と化した脚で無我夢中に走った。不明瞭なゾワゾワとした違和感を振り切るように、何かに追い立てられるように、道すがらでうずくまるアシクなど気にもとめずに一目散にジャコモに追いすがる。
―――意外にも、ジャコモにはあっさりと追いついた。
爆風から遠ざかるために逃げ走っているかと思いきや、ゆっくりとした足取りで悠然と前方を歩いていた。あの凶悪な銃声が聞こえなかったはずがない。アシクの悲鳴が聞こえなかったはずがない。アシクが撃たれた拍子に爆弾のスイッチを押していたら爆発に巻き込まれていたかもしれない。だというのに、この男はただ静かに暗闇の中を歩いていた。ライトも点けず、光源を目指すでもなく、まるで暗闇こそ自分の領域であるかのように闇を突き進むその背中に同じヒトが纏うものではない不穏な臭いを感じてウッと息が詰まる。
こんなにあっさりと爆弾を無効化されるなんて、この男らしくない。逆転されたのに即座に行動しないなんて、この男らしくない。
何かがおかしい、やめた方がいい、と怖気づいた声が後頭部でチラつき、すぐさま俺らしくない女々しい声を頭を振って追い出す。
集中しろ、ブランク・ヘンデル。足を止めるな。気を強く持て。もう爆弾はないんだ。せめて気迫くらいは負けるな。そのまま勢いを殺すな。タックルをかまして背骨を叩き折ってやりたいが、子どもが人質にされているから気を使わないといけない。全体重を掛けて跳びかかり、動揺を突いて子どもを引き剥がそう。そうしてマウントを取れば、体重で勝るこっちが――――
「―――くく、やはり所詮は狗だな。追いかけて噛み付くしか能がない!」
「なに……!?」
冷たい突風のような声が前方から押し寄せ、腹に風穴を開けて吹き抜けた。中身のない気迫ではその圧力に対抗できず、蹴躓いたように足が止まる。
なんだ、その口ぶりは。まるでこうなることを予見していたかのような台詞は、なんなんだ……!?
心臓がドクドクと逸る。言い知れぬ不安に目を見張る中、ジャコモが大きな挙動でぶわんと翻り、視界を大きく遮る影を俺の胸に投げ込んできた。振りかぶった腕で弾き返そうと身構え、瞬時に思いとどまって受け止める。それは恐怖で顔を引き攣らせた少年だった。反射的に広げた腕に抱いたものの、思いもよらぬ重さにズシリと腰が軋む。涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだが、間違いなくジャコモに連れ去られた子どもだった。ジャコモにとって、身の安全を保証するための大事な人質のはずの子どもだ。
困惑しきってジャコモを睨む。闇の中で、愉悦に嗤うジャコモ・ダンテの白目が異様に浮き立っている。
わけが分からなかった。好戦的な目つきからは降伏する意思は見られない。逃げるテロリストがのんびり歩くなんてことも、人質を投げて渡すなんてことも聞いたことがない。見た目の体格に比べて異常に重い少年の体重や、少年から漂うキツい芳香剤のような体臭もあってさらに混乱する。
だが本能は「好都合だ」と断じてギリと肉体を張り詰めさせる。人質を投げ出したなら、もう遠慮はいらない。こちとら年がら年中訓練に任務にと励んでいるんだ。クソッタレ野郎一人くらい、一方的に殴り殺せる。
少々乱暴に子どもを地面に放り出す。小さく上がった悲鳴を意識の外に追いやり、下半身に思い切り力を込める。筋肉の爆発を利用して飛びかかる直前、ジャコモがポケットから鈍銀に光る何かを取り出した。銃かと思って身を固くしたのも束の間、それがオイル・ライターであることに気付いて疑念に眉を寄せる。
「他者に命を預け、命令のために忠義の死を受け入れる? そんなことは“犬”のすることだ。人間とは抗うものだ。己の命を崇高な犠牲とするより、己の命こそを優先して牙を剥くものだ。その獣じみた闘争本能こそヒトの本質だ。だがな、デカブツ。一つ大事なことを教えてやろう」
ライターの蓋が開くと、本来なら回転ドラムがあるはずの部分に小さなでっぱりが埋め込まれていた。ジャコモの指がゆっくりとでっぱりの上に置かれる。目線まで持ち上げられたライターの向こうで、ジャコモの顔面に三日月のような亀裂が走る。
瞬間、ライターから爆炎のような“殺気”が迸った。目に見えない殺気は宙空で巨大な竜の形となり、鎌首をもたげて燃える双眸で俺を睥睨する。あのライターは、恐ろしい怪物を擁した檻だった。攻撃を忘れさせるほどのプレッシャーに見下されて身動きが取れない俺をあざ笑い、ジャコモがライターのでっぱり―――“スイッチ”に親指を掛けた。
「“二兎追うものは一兎をも得ず”、だ。覚えておけよ、駄犬」
「――――!!!」
カチッと小さな音を立てて、“本物のスイッチ”が押し込まれた。自分の行動が予測されていたことへの憤怒や羞恥は種の時点で消え去り、その結果がもたらす惨状を予測してひたすらに冷たい怖気が総身を走り狂う。後悔の念が脳を駆けずり回るより速い竜がぐんと真っ直ぐに背後の家へと解き放たれる。身体を振り乱してリヒャルドの名を叫ぶが、電気信号と化した殺気が夜闇を切り裂いて猪突する方が遥かに速かった。
「ブランク! その子どもには―――」
振り返った先で、リヒャルドと数人が武器を手にこちらに走り寄るのが見えた。残りの部下はどうにかして夫婦を助けようとまだ家の中に留まっていた。ちょうど爆弾が仕掛けられたテーブルを中心に集中している。リヒャルドたちの頭上を竜が飛び越え、テーブルに―――大量のC3爆弾に食らいつく光景を幻視する。
世界が、破裂した。
地上に太陽が生まれいでる。膨張した火球が家を飲み込んだかと思いきや、光とも風ともつかない爆光が炸裂し、感覚全てを圧倒した。肌を焼く熱と鼓膜を叩く音が思考そのものを揺さぶる。爆風が壁となって迫り、戦闘服の表面をジリと焼いて通り過ぎていった。
「―――嘘、だろ―――」
これが爆発だと頭では理解しているのに、そこから先の神経が働かない。眩しさに眼前に翳した手指の間で、リヒャルドたちが灼熱する炎に呑み込まれるのを見てしまったからだ。
熱風に焼かれる身体は熱いのに、内側はゾッとするほどの虚無に冷えていた。あの爆発だ。しかもほとんどの隊員が爆弾の近くにいた。耳元のインカムに触れるが、助けを求める声すら聞こえない。耳障りな雑音しか聞こえないのは、故障したからか、このざわめく雑音が死んだ霊魂の怨嗟だからか。何人死んだ、と心の底で呟いた言葉が膨れ上がり、虫食いのように心を蝕んでいく。
不意に、くつくつと喉を鳴らす嗤い声が鼓膜に這い寄ってきた。断ち切られた思考を何とか繋ぎ合わせてそちらに身体を向ければ、全ての元凶である男が―――“怪人”ジャコモ・ダンテが白髪を風に波打たせながら俺を嘲笑っていた。
爆弾のスイッチは、最初からジャコモが持っていた。アシクが持っていた仰々しいスイッチは最初から囮だった。
見透かされていた。俺がジャコモを撃たせないことを、自分の死を許容出来ないことを見抜かれていた。試され、弄ばれ、奴の思い通りに動き、自滅した。勇気を持ってジャコモの手の平の上から脱しようとした親友であり上官でもある男の意思を足蹴にし、最悪の結末を呼び寄せてしまった。
自分の過ちの重さに耐え切れず、枝が折れるように地に膝をつく。土を叩く音が遠い。腹の内側が氷のように寒い。赦しを請おうにも、相手は皆死んだ。俺が殺してしまったからだ。自分の命可愛さに飛び出した俺を除いて、皆爆発に呑み込まれてしまった―――。
「喜べ、デカブツ。お前は自分自身の意思を貫いた。貴様はあの男たちの中で誰よりも“ヒト”らしい」
「俺が、人間らしい……?」
「そうだ。ヒトとは本来、そうあるべきだ。
なあ、デカブツ。いつからヒトは他人ばかり気にするようになったんだ? いつから己の意思よりも他者の意思を優先するようになったんだ? いつから他者との関係の中にあってこそようやく自己を見いだせる弱くて儚い生き物に成り果てたんだ?」
はらはらと舞い散る火花を包まれながら、この時ばかりは心底悲しそうに心の芯から嘆く。
「ヒトは己の弱さを許容し、他者と繋がることに慣れてしまった。他人との繋がりの中でしか己の形を削り出せなくなってしまった。“社会”という馴れ合いのぬるま湯に浸りきってしまった。自分たちが作ったはずの社会は巨大になりすぎ、粘度の高いタールとなってヒトを蝕み、雁字搦めにし、個々人の意思すらも満足に貫けないくだらない重荷となってしまっている。ヒトは“社会の維持”こそ己の生きる道とばかりに盲信し、一個の生命として世界に抗うことを忘れ、羊のように群れて、互いに依存しあい、生命力を失い、堕落に落ち続けている。現状維持しか頭にない生物に未来があると思うか? あるはずがない! 停滞を維持するだけならただのマシンにでも出来る。獣の方が遥かに能動的だ。
本来のヒトとは、ヒトという生命とは、己自身の意思を貫くために他者を押しのけ、弱者を踏み潰し、強者に食い掛かる、もっと純粋で貪欲なものであるべきだ。常に闘争を追い求める、血の通った滾る生命であるべきだ。いや、かつて過去ではそうあったはずなのだ!」
眼球を爛々とギラつかせて雄弁を振るうジャコモは、心の底から己のセイギを信じていた。同じ人間を人間と思わず、自身をより高格の存在と、純粋なヒトと認識している。こいつには何を言っても無駄だし、俺には何かを言える資格はない。俺に出来るのは、これ以上ジャコモの思い通りにさせないようにささやかな抵抗をすることだけだ。
「……そうだろうな。しょせん、貴様も慣れ合いを良しとするヒト未満の男か。見た目通りのゴリラ(ヒトモドキ)だ」
ズルズルと身体を引きずってその場にへたり込む子どもの元へ近づく。せめてこの子どもだけでも助けなければ、死んだ奴らに顔向けできない。氷のように思えるジャコモの憐れみを無視して腕を掴めば、放心していた少年がビクリと肩を跳ね上げた。
視界の隅で、ジャコモが一歩、二歩と後ろ足に遠ざかる。見過ごしてくれるわけではないだろう。その耳まで裂けるような笑みは、俺たちを見逃すつもりはないという冷酷な意思を如実に顕している。
「巻き込んじまって悪かった。お前だけは守る。心配すんな。俺の後ろに隠れてろ」
「ぅ、うん……」
背に庇おうと少年の腕を引っ張る。奇妙に重い少年を背後に回し、未だ冷たく嗤うジャコモと対峙するように身構え、
「……?」
はたと、背にやった指先にゴツゴツとした違和感を感じて動きを止めた。細身の少年の腹部が、異常に固かった。まるで腹に何かを巻きつけているかのような膨らみを服の下に感じて眉を顰める。焦げ臭い周囲の空気に混じって芳香剤に似た甘い臭いが鼻を突く。
……そういえば、家から飛び出す時、この子の両親が何かを叫んでいなかったか。リヒャルドは最後に何かを伝えようとしていなかったか。「その子どもには」と言いかけていなかったか。
なぜか解放された人質。
見た目より重い少年の体重。
腹部に巻きつけられたゴツゴツとした何か。
芳香剤に似た甘い臭い―――ジルニトロエンの臭い。
ジルニトロエンを多用した高性能爆弾―――Sprengkörper DM12(C4プラスチック爆弾)。
―――なけなしのC4はとっておきのモノに仕掛けてある―――
ジャコモが何気なく口走ったその台詞が錯聴となって耳元で囁かれた。
断片的だった情報が繋がり、悍ましい想像となって脳裏に結実した瞬間、今も尚自分がジャコモの手の平の上にいるのだと理解した。
おのずとジャコモに視線が吸い寄せられる。嬲る意思を隠さない双眼が、再び掲げられたライター型のスイッチをニヤニヤと見つめていた。ゾッとする怖気を通り越し、頭の中が真っ白に塗り込められる。全身が粟立ち、束の間を置いて力が抜けていく。何かしなければとは思うものの、もはや間に合わないという諦観に引きずられて身体が動かない。
心臓の鼓動が分刻みに聞こえるほどに引き伸ばされた静寂の中で、ジャコモの指がライターのスイッチに乗せられる。ゆっくりと首だけで振り返り、少年の怯える瞳を見詰める。最期に「すまない」と言うべく口を開く。一人で逝かせはしない。共に逝くには罪深すぎるかもしれないが、寂しい思いをするよりはマシだろう。
背後からカチリと小さな音が伝わる。次の瞬間には魂ごと吹き飛ばす爆発を覚悟してそっと目を閉じ、
「Du Doof(大バカ野郎ッ)!!」
「ッ!!??」
聞き慣れた声の、聞きなれない罵倒。耳朶を打った大喝と共に横合いから伸びてきた腕が俺の首根っこを掴み、力の限り後方にぶん投げる。唐突に喉輪が締まって息が詰まるが、俺を子どもから引き剥がした男の正体を見て完全に呼吸が止まる。
「リヒャルド―――!?」
それは、親友であり上官でもある男―――つい先ほど焔の波に呑み込まれたと思っていたリヒャルド・ウェーバーだった。戦闘服は焦げ茶色に焼かれ、強化プラスチック(ERP)製の装備やヘルメットもひどく損傷している。爆発の余波に呑まれた証左だ。あんな至近距離で炎に呑まれてそれだけの傷で済んだなんて奇跡だ。そんな奇跡によって命を繋ぐことが出来たにも関わらず、負傷を捺して俺たちの元に駆けつけたのか。
この日初めて度肝を抜かれたジャコモが白い顔で爆弾のスイッチを押しこむ。殺意の意思が再び竜の形を得て子どもに襲いかかる様子が硬膜の裏側に映り込んだ。絶望的な視界の中で、竜を払いのけるように血の滲んだ肉体を振り乱したリヒャルドが俺と少年の間に壁となって立ち塞がる。その必死の形相で、リヒャルドがせっかく助かった命を無駄にしようとしていることを察した。
やめろ、俺にそんな価値はない。助かるべきはお前の方なんだ。
腹底が落ち込むような感覚に意識を叩かれ、必死に伸ばした手がリヒャルドの腕を掴む。
「リ―――!」
視界を白い光が塗りこめた。
見えない巨人の手の平に弾かれたような凄まじい衝撃が身体を突き抜ける。そのまま巨大な顎に噛みしだかれ、抵抗する間もなく力任せに吹き飛ばされた。
噛み締めた奥歯が砕かれ、骨身が音を立てて折られ、肉は引き千切られ、眼球は圧迫され、耳朶が穿たれ、肺が握り潰される。せめて意識だけでも繋ぎ止めなければという細やかな踏ん張りすら、荒れ狂う激痛には敵わない。死神の息吹を全身に浴びて、身体よりも心の痛みを味わいながら俺は意識を失った。
黒く長い髪、純白のドレス。
光に満ちた世界で、女神が優しく囁く。
――――貴方は“必要”よ、ブランク・ヘンデル。今は生き恥を晒しなさい。今の貴方ではジャコモに勝てない。私ですら命がけでようやく倒せたんですもの。今は堪えなさい。これから紡がれる新しい“救済の物語”にこそ、貴方が生きて戦う価値がある。私の物語を覆すために、“あの娘”を手伝ってあげなさい。
……ああ、そうそう。甘やかし過ぎはよくないから、時々には「食べ過ぎだクソガキ」と叱ってあげなさいね―――
いったいどれほど気絶していたのか。醜くも生き延びた俺を叩き起こしたのは、けたたましい風切り音を立てて降下してくる軍用ヘリだった。ヘリが差す真っ白なライトが夜闇を切り裂いて周囲の視界を鮮明にする。だけど俺は、目の前の光景全てを、手に握っている“モノ”を、受け入れることができなかった。……それは、リヒャルドの腕だった。“腕だけ”のリヒャルドだった。本物のリヒャルドは全身を余すところなく食いちぎられ、背中を抉られ、血溜まりの中に沈んでいた。辺り一面に、つい先程まで少年だったはずの血肉が散らばり、俺の全身にもへばり付いていた。赤く濁った小さな眼球が足元に転がり、じっと俺を睨め上げている。
俺は、自分がしでかした大罪を受け止めきれず、ただ延々と忘我しているしかなかった。
正規軍という“爪”をNATOに奪われたドイツ連邦が己の意思を示す“牙”として設立した、最後にして最強の戦力、特殊作戦旅団(KSK)。
旅団を構成するコマンド中隊傘下、第一地上制圧小隊からテロリスト掃討のために極秘裏に選抜されたのは、選りすぐりの精鋭たちだった。600人を超えるKSK隊員において精鋭中の精鋭である12人の特別編成チームを率いるのは、行くゆくは幹部の椅子を約束された男、リヒャルド・ウェーバー上級准尉だった。
この部隊は世に出ることのない様々な作戦に参加し、多くの戦果を上げた。
その最後の戦績は、前代未聞のものだった。
戦死者6名、重傷者3名。
生存者、わずか4名。
標的『ジャコモ・ダンテ』、ロスト。
KSK創立以来初となるこの大失態は、長期行軍訓練中の転落事故というラッピングをされて世に流された。訓練中の痛ましい事故としてほんの一時だけテレビを騒がせ、幾つもの噂が芽生えては陰謀論の仲間入りをして靄のようにたち消えていった。シュヴァルツヴァルト山地の深い谷底が俺たちの墓場となり、仰々しい石碑が建てられ、多くの花束が供えられた。そこに眠る戦士などいないのに、寒々しいほどに滑稽な様子だった。
最後の爆発から少しして、黒塗りの輸送ヘリが俺たちを回収した。最初の爆発の直後、狙撃手のロルフとヨハンが本部に救援要請を飛ばし、在欧米軍が救出に馳せたのだ。アメリカの全面支援の元、俺たちは祖国へ帰還を遂げることができた。無事に帰還できた者の方が圧倒的に少ない。五体満足で帰れたのは俺を含めた3人だけだ。俺を庇ったリヒャルドは右腕をゴッソリと失い、身体中を爆風に打ち付けられ、背中の肉を炭化させられる重症を負った。
事件の後、特別編成チームは解散し、俺たちは互いに連絡を取ることを禁じられた。生き残った者たちとの接触は厳しく制限され、電話番号も実家の住所も強制的に変更された。隊員たちがどこの州の病院にいるのかも知らされず、一言も言葉を交わす機会を得られなかった。情報保全の為の措置だったが、誰にも詫びることを許されない状況は苦痛に他ならない。誰にも責められない状況ももっと苦痛だった。
軍法会議は開かれなかった。国外・国内からの追求を避けるために、俺たちが行ってきた作戦どころか特別編成チームが存在した記録すら抹消され、“無かったこと”になった。昇進が予定されていた者は呆気無く昇進が決定し、階級を上げられ、各地に転属になった。体の良い口封じであることは明らかだった。しばらくして俺も少尉に昇任した。真新しい階級章がやけに安っぽく見えた。
ジャコモの欧州関係に亀裂を走らせるという思惑は、表面上は回避された。ペンタゴン内部に意図的にジャコモへ情報を漏らした高官がいることをリヒャルドが見破ったため、アメリカが積極的に火消しに動いたのだ。オーストリア当局の捜査の目を掻い潜り、現場は老朽化したガスボンベの爆発事故の工作が施され、ジャコモの企みに利用された平凡な家族は交通事故による死亡として地方新聞の一面を飾るのみに終わった。世間はオーストリアの田舎で繰り広げられた惨劇を知らず、昨日と変わらない今日を漫然と過ごしている。
だが、それはあくまで表面上だけだ。永世中立国であるオーストリアはスパイ天国でもある。アメリカの力を使っても完璧な情報統制が行えるはずもなく、各国は朧気ながらも今回のKSKの訓練事故とオーストリアで起きた爆発事故に因果関係があることを察した。水面下では激しい応酬と探りあいが行われ、EU内でのドイツの立場に陰りが見え始めた。ドイツ軍の首輪を握るNATOはその締め付けを強め、国防費の削減はおろか全てのドイツ軍の作戦行動を―――KSKの極秘行動についても厳しく制限するようになった。
そして、俺たちの祖国は、最後に残されたなけなしの牙さえも己の意志で振り下ろすことが出来なくなった。身を護る爪も牙も飼い主に握られた今、この国は限りなく無力で無様な野良犬と成り果てた。
未だ病院で治療を受けるリヒャルドがKSKから脱退する意思を示したことを人づてに聞いたのと、俺が上官にKSKからの脱退を願い出たのは、まったく同時期だった。どこかの国から盗みとってきたという最新の医療技術によって失った体の部位を取り戻したリヒャルドは驚異的な速度で回復し、兵士としての復帰も夢でなかったらしい。しかし、あいつは上官の勧めを頑なに拒否し、どこかの施設の事務方に転属願いを出したそうだ。そこにどんな思いが働いたかは容易に推し量ることが出来た。あいつも俺も、重みに堪えられなかったのだ。
散らかったままの俺のオフィスに“雌狐”が現れたのは、それから三年後のことだった。
「あなたが、“蛮勇”ブランク・ヘンデル少尉ね?」
出し抜けに特大の皮肉を突きつけてきたソイツは、美貌の女士官だった。階級章は陸軍少尉。詰め襟の厚い軍服の上からでもわかる抜群のスタイルを引っさげて、その女は冷たい目で俺を見据えていた。俺を“蛮勇”と呼ぶからにはあの作戦の失態を知っているということだ。興味本位で“教官”の過去を聞き出しにきたわけではないらしい。何より、下士官出身者を見下すエリートの目に本能的な嫌悪感を感じる。俺は警戒心を剥き出しにしてその女をぎりと睨めつけた。
「……誰だ、アンタ」
「不躾ね。まあ、いいわ。
私はヨハンナ・メンデルスゾーン少尉。総監部 第6全軍幕僚部にて、シューマン大佐付きの秘書官をしているわ。今日は大佐から貴方への極秘指令を伝えに来たの。……この汚い部屋には盗聴の心配はしなくてよさそうね」
「ケッ、しがない教官の日常音を聞きたがる変態なんざ―――待て、総監部(Führungsstab)だと?」
総監部―――ドイツ連邦国防省 陸軍指揮 幕僚監部。約22万人の兵力を要するドイツ連邦軍を束ねる最高幕僚機関だ。7つある組織によって構成され、その内の一つである第6全軍は連邦軍の変革を模索し、新兵器の開発や実験を担っている。現場一辺倒だった俺には一生縁がないと思っていた部署だ。しかも“極秘”とは、ますますもって怪しい。
「中央のお偉いさんの秘書様が、地方の教官風情に極秘指令とは何事だ? 訓練を受けたいならやめとけ。俺のシゴキにはお前もその大佐さんもついてこれない」
あの作戦失敗から3年が経ち、俺はフレンドルフの郊外にある特殊作戦訓練センターに飛ばされ、近接格闘の教官をしていた。次から次にやってくる新兵を鍛えては送り出してまた鍛えるという忙しい日々は俺を無心にさせてくれた。物足りなさは常に感じていたし、まだ第一線で現役を張れる体力はあったが、仲間を失った後悔を引きずったまま戻れるほど戦場は甘くない。何より、失敗が上層部の記憶に新しい間は転属願いも一蹴されるだけだ。現場に復帰するには時間の癒やしが必要だった。
机に肩肘を立てたまま皮肉を返した俺に、メンデルスゾーン少尉はフッと侮蔑の笑みを溢す。
「安心なさい。あなたの教官としての努力なんて、近い将来には何の意味もなくなるわ」
「どういう意味だ」
「そのままの意味よ。訓練も教育も意味をなくす時代が来るわ。いいえ、すぐそこまで来ている。もうすぐ世界の主流となるでしょう。我が国もその波に乗り遅れないがために、シューマン大佐は尽力なされている。“新しい兵士”の創造のために、誰かさんたちの失態のせいで地に落ちた祖国の力を取り戻すために、着々と準備を整えている。それと……あなたの上官だったリヒャルド・ウェーバー少尉もこの計画に参加しているわ」
人の過去を蔑ろにする憎たらしい物言いに思わず歯噛みするが、台詞の内容の方が気になった。新しい兵士などというSFチックな話もそうだが、久しぶりに聞いた元・上官の名前に勝手に背筋が反り、半身がギクリと持ち上がる。俺の反応が予想通りだったのだろう。メンデルスゾーンは目尻を釣り上げて嘲笑った。
「リヒャルドが? あいつ、復帰したのか?」
「ええ。ウェーバー少尉は“担当官”として実験に参加するわ。行くゆくは少尉が“実験体”―――“義体”の管理をすることになる。人工の肉体と必要な知識を脳にあらかじめインプットした理想の極秘人造兵器よ。だけど、万が一に備えて義体を保護し、暴走した際にはそれを抑えつけるバックアップの管理者も必要だと大佐はお考えになられたの」
「それが俺だっていうのか? その得体のしれないターミネーターモドキのお守りをやれと?」
「そう。ウェーバー少尉は、負傷は完治してもKSK時代のような戦闘力は残ってない。だけど貴方は違う。怪力はさらに増し、戦闘センスも磨きがかかってる。今すぐ現場復帰しても遜色なく戦える。さっき新兵たちの立ち話を聞いたわよ。“白いゴリラ”ですって」
クスクス、と嘲りを隠さずにスカウト・ウーマンが笑う。なぜかその嘲笑こそがこの雌狐にもっとも似合っている表情だと思った。自分がなんと呼ばれているかは知っていても、この女に言われると無性に神経に触る。
「……どうして俺なんだ」
「さっき言ったでしょう? 義体は強力な兵器よ。それを抑えつけるためには特殊部隊で活躍しているような最強クラスの兵士が適任よ。でもこの計画は極秘だから、おおっぴらに特殊部隊から引き抜いてくるわけにはいかないの」
後は言わなくてもわかるわね?と告げる目に見下され、俺は押し黙った。どこからそういう情報を探してくるのかは知らないが、シューマン大佐とやらは俺に白羽の矢を立てたらしい。
「田舎の訓練センターなんかで燻ぶっていても昇進は望めないわ。周りはむさ苦しい半人前の兵士ばかり。栄転なんてありえない。給料も安いまま。家族により豊かな生活をさせてあげることも出来ない。溌剌とした若い兵士の背中を立ち止まって見てるだけ。せっかく鍛え上げた世界最高クラスの肉体は歳とともに老いていき、やがて無用の長物になる。教官としても役に立たなくなった時、貴方に何が残るの?」
一言一言が図星だった。漠然としていた危機感が他人に口にされたことでハッキリと浮き上がってくる。「何が残るか」だって? きっと何も残りはしない。今のパワーとスピードを維持するのもおそらくはあと数年が限界だ。
「……その義体とやらのお守りを引き受ければ、それは変わるのか?」
「変えられるわ。大佐はそれだけの力をお持ちのお方よ。実験が成功すれば、義体が量産されて兵士の代わりを務めるまでの間だけ、貴方に活躍の機会が与えられる。好きな部隊で戦えるわよ」
「いちいち癇に障る言い方しか出来ねえのか。……いいぜ、乗った。」
老いには勝てない。聞こえていた音は聞こえなくなり、見えていたものは見えなくなり、飛び越えていたものは飛び越えられなくなり、反応できていたことに反応できなくなっていく。状況は切迫している。今の俺にはチャンスが必要だった。復帰するチャンスも、リヒャルドに謝るチャンスも。
それから数週間後。
俺は、眠り姫と、その目覚めを待つ悲しい王子様を見つけた。
<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編
<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】
<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編
第三話 前編
第三話 中編その1
第三話 中編その2
第三話 中編その3
第三話・後編その1
外伝 前編
外伝 中編
外伝 後編その1
外伝 後編その2
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~ Comment ~
ふむふむ、そのような結末か……。 相手の土俵の上じゃあどんなに有能でも覆すのは無理ゲーやな。 さて、1つ感じたのがアメリカが最後に介入したとなって、その理由がリヒャルドが背後を見破ったとしてますがそれでは押しが弱いのではと思います。 例えば、件の軍高官がロックフェラー系の軍事産業からの支援でと言う設
ふむふむ、そのような結末か……。
相手の土俵の上じゃあどんなに有能でも覆すのは無理ゲーやな。
さて、1つ感じたのがアメリカが最後に介入したとなって、その理由がリヒャルドが背後を見破ったとしてますがそれでは押しが弱いのではと思います。
例えば、件の軍高官がロックフェラー系の軍事産業からの支援でと言う設定でそれに反発したロスチャイルドが世間に暴露しそうになったからロックフェラーの意向でアメリカが全面介入して揉み消すとかはどうでしょうか?
まあ、一例ですがもっと生臭く根本的な問題で全面介入したと言う方が説明が重くなると思った次第です。
相手の土俵の上じゃあどんなに有能でも覆すのは無理ゲーやな。
さて、1つ感じたのがアメリカが最後に介入したとなって、その理由がリヒャルドが背後を見破ったとしてますがそれでは押しが弱いのではと思います。
例えば、件の軍高官がロックフェラー系の軍事産業からの支援でと言う設定でそれに反発したロスチャイルドが世間に暴露しそうになったからロックフェラーの意向でアメリカが全面介入して揉み消すとかはどうでしょうか?
まあ、一例ですがもっと生臭く根本的な問題で全面介入したと言う方が説明が重くなると思った次第です。
- #1437 ルクレール
- URL
- 2013.11/12 18:20
- ▲EntryTop
NoTitle
> せっかくヒャーリスに憑依したんだからブリジット助けちゃおうぜを応援し隊平隊員さん
なんという素晴らしいお名前!ワタクシ感無量ですよ!!
ゴリラさんの過去は書いている内にだいぶ当初の予定と脱線してきたので、いずれArcadiaさんに持ち込ませて頂く時に一本の筋が通るように直すつもりです。ブログだけでのちまちま更新だからこそ出来るこのいい加減な執筆。それでも読んでくれている人たちがいることが物凄く幸せなんだと思う今日この頃です。
ちなみにブリジットが超絶美少女だというのは僕の大きな妄想が過分に影響しています。僕の中ではブリジットはクールビューティーな美人さんです。作者様であるH&K様から頂いたイメージ画像でも目がスッと流れるような月のような美少女でしたし。
>ルクレールさん
>ですがもっと生臭く根本的な問題で全面介入したと言う方が説明が重くなる
言われてみれば、たしかに軍人一人風情が高官の関与を口にしただけでアメリカ様が動くとは考えづらいです。さすがルクレールさんやでぇ。これも、arcadiaさんに持ち込ませて頂く際にもっと熟考しないといけないところですね。
なんという素晴らしいお名前!ワタクシ感無量ですよ!!
ゴリラさんの過去は書いている内にだいぶ当初の予定と脱線してきたので、いずれArcadiaさんに持ち込ませて頂く時に一本の筋が通るように直すつもりです。ブログだけでのちまちま更新だからこそ出来るこのいい加減な執筆。それでも読んでくれている人たちがいることが物凄く幸せなんだと思う今日この頃です。
ちなみにブリジットが超絶美少女だというのは僕の大きな妄想が過分に影響しています。僕の中ではブリジットはクールビューティーな美人さんです。作者様であるH&K様から頂いたイメージ画像でも目がスッと流れるような月のような美少女でしたし。
>ルクレールさん
>ですがもっと生臭く根本的な問題で全面介入したと言う方が説明が重くなる
言われてみれば、たしかに軍人一人風情が高官の関与を口にしただけでアメリカ様が動くとは考えづらいです。さすがルクレールさんやでぇ。これも、arcadiaさんに持ち込ませて頂く際にもっと熟考しないといけないところですね。
NoTitle
>H&K様から頂いたイメージ画像
なにそれ見たいすごく見たいこれは拝むしかあるめえ
(>人<)神様仏様主様ヘックラー様何卒何卒
PS ちょっとしたお茶目のつもりで作った名前が長すぎて、これは自分KYだったかと心配していたら、ルクレールさんが似たようなことをやらかしてくれたよ。これはフォローしてくれたって解釈(妄想)してもいいよね。なれば感謝するしかあるめえ(―人―)アリガタヤアリガタヤ
なにそれ見たいすごく見たいこれは拝むしかあるめえ
(>人<)神様仏様主様ヘックラー様何卒何卒
PS ちょっとしたお茶目のつもりで作った名前が長すぎて、これは自分KYだったかと心配していたら、ルクレールさんが似たようなことをやらかしてくれたよ。これはフォローしてくれたって解釈(妄想)してもいいよね。なれば感謝するしかあるめえ(―人―)アリガタヤアリガタヤ
- #1441 せっかくヒャーリスry
- URL
- 2013.11/16 20:49
- ▲EntryTop
NoTitle
>せっかくヒャーリスryさん
半年かそれ以上前に、H&K様ご自身で描かれたブリジットのイラストを持っております。メールで送って頂きました。僕の宝物です。ブリジットは、僕の脳内でしか形を持っていなかったキャラクターでした。でも、作者様自身が思い描く、フィルターを通していないブリジットそのものの姿を目にすることが出来て、僕の妄想にさらに形が与えられました。文も書けて絵も描けるなんて、本当に凄いです。H&K様然り、件さん然り、才能ってある人にはあるんですね。いや、努力ですね。
頂いたブリジットの画像を僕が勝手に公開するのは失礼かもと不安に思いますので、H&K様にちょっと問い合わせてみます。でも最近ブリジットもブログも更新されていないから返信して頂けるか不安ですが……。お元気であればいいのですが。
半年かそれ以上前に、H&K様ご自身で描かれたブリジットのイラストを持っております。メールで送って頂きました。僕の宝物です。ブリジットは、僕の脳内でしか形を持っていなかったキャラクターでした。でも、作者様自身が思い描く、フィルターを通していないブリジットそのものの姿を目にすることが出来て、僕の妄想にさらに形が与えられました。文も書けて絵も描けるなんて、本当に凄いです。H&K様然り、件さん然り、才能ってある人にはあるんですね。いや、努力ですね。
頂いたブリジットの画像を僕が勝手に公開するのは失礼かもと不安に思いますので、H&K様にちょっと問い合わせてみます。でも最近ブリジットもブログも更新されていないから返信して頂けるか不安ですが……。お元気であればいいのですが。
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NoTitle
ちょっと途中ゴリラ記憶改竄してね?
そんなにクソガキのお姉さん(Bの人)美人だったか。。。(
怒涛の三連更新だと・・・!?