二次創作

あけましておめでとうございますのご挨拶 & アルペジオ二次創作試作2

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あけましておめでとうございます!!(1月5日)


旧年中はお世話になりました!色々な作品に手を出してはほっぽり出してしまっている現状を打破するために、今年でいくつかの作品にエンディングを迎えさせてやりたい、そんな想いを抱きつつ、新年のご挨拶をさせて頂きます!今年も仕事に趣味に精一杯頑張るぜ! うおお―――っ!!



あ、コメント返信をしないと……。せっかく頂いてるのにさすがに失礼ですよね(´・ω・`)











2週間前
旧・沖ノ鳥島 周辺海域



「この辺りで十分だ! 付き合ってくれて感謝する、軍曹!」
「言われなくたってそうするよ、クソッタレ准尉殿! アンタ、今さら後悔しても遅いぞ! 今までの兵隊人生ぜんぶパアなんだぞ!?」
「|だからいいのさ《・・・・・・・》!!」
「……! イカれてるよ、アンタ! |あの化け物《・・・・・》に殺されても知らねえからな!」
「忠告に感謝する! じゃあな!」

パイロットの怒鳴り声を背に浴びながら、キャビン・スライドドアを開け放った俺は宙空へ力いっぱいに踏み出した。受け止めてくれる大地はない。あるのは太陽の日差しに碧々と煌めく大海原だ。ギリギリまで降下させたとはいえ、海面までは10メートルはある。数秒にも満たない落下時間の中に後悔とやらが付け入る隙は微塵もなかった。
俺の今までの人生は軍隊のためにあったと言っても過言ではない。代々|地に足をつけた《・・・・・・・》軍人を輩出する家系に生まれた宿命として、国への忠誠や滅私奉公を延々と叩きこまれてきた。それ以外の生き方は認められず、物心がついた頃から武人となるべく鍛えられてきた。他人が“誇り”や“名誉”だというそれらは、俺にとって“足枷”であり“呪縛”でしかなかった。何をするにしても一族の名前が付き纏い、どんな才能も努力も掻き消される。後悔と呼べるのは、そんなしがらみに囚われて無為に浪費してしまった今までの人生そのものだ。
今、俺はそれら全てから脱却し、自分の意志で一步を踏み出したのだ。

「―――ぅおおッ!?」

尻穴が窄まる浮遊感に肌を泡立たせたのも束の間、ローターが叩きつける暴風に吹き飛ばされた俺の身体は木の葉のように宙で二転三転し、背中から海に突っ込んだ。巨大な剣山に落ちたかと紛うほどの鋭い痛みが背面を打ち付け、電撃を受けたように全身が痙攣する。どんなに贔屓目に見たって素人同然の無様な着水だ。鍛えていなければ今頃は骨や内臓を損傷していただろう。「こんなことならレンジャーの降下訓練でも盗み見ておけばよかった」と後悔していると、氷水のように冷たい海水が痛覚を麻痺させて痛みをかき消してくれた。この期を逃すまいと四肢をバタつかせて海面から頭を出せば、すでにヘリの後ろ姿は遥か向こうまで遠ざかっていた。ローター音が消えた後は、自身の荒い息と波音以外には何も聞こえない靜寂だけが残る。

「腰抜けめ。いくら怖いからって、上官を放ってトンズラするやつがあるかよ」

とは言え、階級を利用して無理やりここまで運ばせたのは俺だ。おおっぴらに文句は言えないが、その情けない遁走っぷりを見せ付けられては悪態を漏らさずにいられなかった。“霧”のせいで活躍の場が失われたとはいえ、そんな体たらくを晒せば海軍から舐められたって文句は言えない。

「ま、海軍だろうが陸軍だろうが、俺にはもう関係ない」

誰に言うでもなく言い放つ。古巣を貶しているにも関わらず、胸がすくような清々しさを覚える。昨日までなら、こんな台詞を誰かに聞かれようものなら直ぐ様上官に言い付けられ、次の日には家長様からのキツいお説教が待っていただろう。軍のヘリを奪取して海に身を投げたなんて知られれば説教どころか牢屋行きと一族からの勘当のフルセットだ。
だが、もうそんな心配は無用だ。| 海 《ここ》には、俺を縛るものは存在しない。存在するのは、1兆8000億リットルもの海水と、陸地の3倍もの面積を持つ4億平方キロメートルの| 戦 場 《いくさば》。そして、その戦場を縦横無尽に駆け抜けるために必要不可欠な|鉄の愛馬《・・・・》だ。

「……ああ、そうだとも。絶対に俺の|愛馬《もの》にしてやる」

決意の言葉を呟き、背後に浮かぶ|それ《・・》に身体を向ける。
|その潜水艦《・・・・・》は、どこまでも広がる大海原に忽然と浮かんでいた。潜水艦にあるまじき巨体を惜しみなく陽光に晒しながら、霧を纏うでもなく、どこを目指すでもなく、ただただ波に身を任せて太平洋を揺蕩っている。上空から見ただけでも戦艦と見紛うほどの迫力を放っていたが、近づいてみればさらにも増して雄々しく見えた。
ゴクリと緊張の唾を飲み下して不敵に口端を釣り上げ、濃灰色の潜水艦に向かって泳ぎだす。攻撃してくればその時はその時だと開き直っていたが、こちらを殺す気があればヘリが近づいてきた時点で撃ち落とされていたはずだ。クライン・フィールドすら発生させていないということは、この霧の潜水艦には敵意がないということだ。“取るに足らない羽虫如きに手を下す必要はない”と判断されたのかもしれなかったが、どちらにしても俺の決意を折るには足りない。
30メートルほど進んだところで目的の潜水艦に辿り着いた。水を吸った戦闘服が予想以上に重く、肌に張り付いて急激に体温を奪う。怖がっていたわりには命令通りギリギリまで接近させてくれたパイロットを見直しつつ、寒さに荒くなった息を整えながら濃灰色の装甲に手を触れてみる。鋼鉄に似た肌触りだが、不思議な温もりを感じる。

「……損傷は見当たらないな」

そのまま手を滑らせてみるが、窪みどころか傷ひとつ発見できない。報告には“修復中らしき霧の艦艇が漂流している”とあったが、どうやら違うらしい。では、なぜこの潜水艦は無防備なまま何の動きも見せないのか。
謎を明らかにするために、ラッタルを探して前部デッキの方に泳ぐ。雄牛の筋肉のような盛り上がりを魅せる逞しい艦体を見上げれば、この艦の名称なのだろう文字が刻み込まれていた。

「『I-405』―――|イ405《・・・・》、か。こりゃあ、いよいよ俺にも運が回ってきたぜ」

 霧の船は、全てが第二次世界大戦当時の艦船をモデルにしている。この潜水艦も例に漏れず、外見は大戦末期の潜水艦そっくりだ。伊400型ということは、|あの《・・》“|蒼き鋼《・・・》”の同型艦ということになる。唯一、人類に味方をする霧の艦艇『イ401』の同型艦が俺の目の前に現れてくれたことには運命を感じずにはいられなかった。勇ましい外観を見上げ、これを手にするチャンスを得られたことに感無量の想いを噛み締める。
 俺は、陸よりも海への憧れのほうが強かった。埃っぽい地べたを這いつくばるより、戦艦という鋼鉄の獣を指揮して空と海しかない世界を水平線まで爆進する方がずっと格好が良いと思っていた。霧の艦隊の出現によって主戦場が海へと移行して、陸での戦いといえばもっぱら同じ人間とのくだらない小競り合いのみだ。テロリストやデモ隊と相対する日々に生き甲斐を見出そうと努力した時期もあったが、無駄に終わった。特に俺を焦らせたのは、海洋技術総合学院の士官候補生―――千早 群像が、敵であるはずのイ401を操って活躍しているという驚くべき話だった。その話を聞いてから、海への切望は日に日に強くなっていった。しかし、軍部に強力なコネがある実家は転籍など絶対に許さない。俺は、同族相手の小戦に明け暮れてこのまま朽ち果てていく将来に絶望し、現状を打破するキッカケと“力”を求めていた。

そして今日、その艱苦はついに爆発した。海軍技研の連中が血相を変えて話していた“漂流する霧の艦”の話を盗み聞いた瞬間、衝動に身を任せた俺は最低限の荷を|戦 闘 背 嚢《バックパック》に詰め込み、ヘリコプターをパイロットごと強奪してここまで来たのだ。

もう後戻りは出来ない。救助など考えてもいなかったから、無線機の類は持ってこなかった。|コイツ《・・・》に拒絶されればここで惨めに溺れ死ぬしか無い。だが、後悔を抱えながら陸で錆びていくより、今ここで潔くくたばった方が遥かに俺らしくあれると思った。

「戦艦だったら最高だったんだがな。ま、潜水艦にしてはなかなかゴツいカッコしてるし、我慢してやるか―――



「悪かったな、戦艦じゃなくてっ!」



―――なッ!?」

 呆気無く虚を突かれ、ギクリと肩を跳ね上げる。思いがけず声をかけられた程度で驚くほど己を甘やかした訓練は積んでいない。その声が今の状況にまったくそぐわない|少女《・・》のそれだったことに、俺は思考を一瞬だけ停止させてしまった。
興奮のあまり失念してしまっていた。霧の艦艇は、重巡洋艦以上になると『メンタルモデル』と呼ばれるヒト型の意識体を保有する。その意識体は揃って女性の姿を模しているという。イ401もメンタルモデルを保有しているらしいことを考慮すれば、このイ405に同じものが宿っていたとしても不思議はない。
一秒以下の、けれども戦場では命取りになる致命的な油断を経て、腰のホルスターから拳銃を抜き放つ。脳みそが発声源を探るよりも先に脊髄が判断し、銃口がピタリと上方に固定される。
水飛沫を煌めかせる陽の光を背景に、小柄な何者かがデッキ上に仁王立ちしていた。眩しさに目を細め、こちらを見下ろす者とまっすぐに視線を交差させ、


「―――天使、だと?」


 光り輝く翼を背中に広げていれば、それを“天使”と呼ばずして何と言うのだろうか。シャンデリアのように眩い銀翼が風に靡き、今にも大きく羽ばたいて飛び立ちそうだ。向こう側が透けるような純白の裸体は、さながら宗教画に描かれる見目麗しい女神だ。決して膨よかではないが黄金比をなぞるシルエットは十二分に完成された美を司り、引き金を引くことを躊躇わせる神々しさを放っていた。
自身に突きつけられている銃口を恐れずにこちらを静かに見下ろすその姿は超然として、相手がヒトを超越した存在であることを示している。この艦との出会いには運命を感じると思っていたが、まさか本当に神仏から与えられた天啓だとでもいうのか。
 神聖な存在を前にしたことで腕から力が抜け、視界を遮っていた拳銃が緩やかに下がっていく。陽光に馴れて段々と明確化していく視界で、天使がふんと鼻を鳴らす気配がした。なぜだか天の御遣い様はご立腹らしい。次いで降ってくるのは、不機嫌そうに尖った台詞。

「お生憎様、オレは潜水艦です! 戦艦でも天使でもなくて残念でござんした!」
「オレは潜水艦、って……」

 天使は腰に手を当ててムスッと唇を尖らせる。その| 生 《なま》の感情を隠さない仕草は天使というよりそこらの少年少女のもので、俺はようやく自身の認識を改める契機を得た。片手で陽光を遮り、じっと様子を窺う。表情まで判別できるようになったところで、確かに相手が天使ではないことを理解した。天使の翼に見えていたものは、背に流れる銀色の長髪だった。風を孕んで揺らめく髪が陽の光を反射して翼に見えたのだ。
そして、別のことも理解した。少女が、天使でも羨むほどの可憐な美少女で―――自らが裸であることに少しの恥じらいも感じていない、|残念な美少女《メンタルモデル》だということだ。
神秘的な出会いが白昼夢と化して過ぎ去った後には、ムッとした顰めっ面で甲板に仁王立ちする全裸の少女と、胡散臭げに少女を見返す水浸しの俺だけが残った。

「……なんか、スマン」
「わかればいい」

こちらのぞんざいな謝罪を軽く受け入れ、少女型のメンタルモデルはうむと頷く。あまり物事を深く考える性格ではないらしい。真面目に銃口を向けていることが急にバカらしくなり、虚脱感たっぷりの動きで拳銃をホルスターに仕舞う。少女から敵意は感じない。というより、やる気を感じない。メンタルモデルとの接触は、もっと非現実的で、緊張感に張り詰めていて、心臓が破裂するほどに心躍るものだと思っていた。現実は非情である。
だくだくと分泌されていたアドレナリンの泉がげっそりと枯れ果てる。興奮が失われれば、後からやってくるのは今まで脳内麻薬に掻き消されていた肉体の悲鳴だ。ヘリから落ちた時に海面で打ち付けた筋肉が刺すような痛みを訴え、体温が落ちたことで内臓の動きが鈍っていく。命を繋ぐには速やかに海水から脱出しなければならない。鉛のように重くなっていく肉体の異常に冷や汗を流しながら、不敵な笑みだけは崩さずにメンタルモデルに問いかける。

「なあ、甲板に上がっていいか? 話が、したいんだ」

 “霧”が人類との対話に応じた前例は千早 群像が操るイ401を除いて無い。17年前、霧の艦隊が突如出現した時、俺たちは真っ先に平和的解決を図ろうとした。その思い虚しく、人類の代表を乗せた友好の船は容赦無い砲火に晒されて海の藻屑となって現在に至る。今回も……という縁起でもない予感が冷風となって頭をよぎる。いや、そうなっても後悔なんぞは意地でもしない。すでに覚悟は決めたのだから―――!!


「いいよ」


いいらしい。

「ラッタルがすぐそこにあるよ。あ、自力で上がれないなら引っ張ってやろうか?」
「……いや、いい。自分で上がれる」
「ん、わかった」

 先人たちよ、お前たちはいったいどんな対話を試みていたんだ。
あまりの呆気無い成功に、寒さからではない頭痛を覚えてこめかみを抑える。
海軍技研―――統制日本海軍 目黒基地所属 技術研究本部の考察によると、メンタルモデルとは『進化の可能性を探るためのツール』だという。以前の霧は、圧倒的な火力でひたすら目の前の敵を倒すことしか出来ず、戦術という“思考”を持ち得なかった。ヒトと同じ姿形は、ヒトたる所以の“試行錯誤する能力”をシミュレーションし、より多彩な戦い方を実践するための学習装置なのだ。だから、メンタルモデルは画一的な性格はしておらず、どれも多彩な人格形態を取り、霧全体の思考バリエーションを増やそうとしているのだという。その過程で、イ401のように『人類に加勢する』という謎の行動を執るメンタルモデルも現れれば、もっと際立った性格をしているメンタルモデルも存在するだろう、というのが連中が仮定した言い分だ。

「お~、すげー! 本物の人間だ! やっぱり夢じゃないんだ!」
「……いてえよ」

とどのつまり、今こうして興味津々に俺の髪の毛を引っ張る銀髪の少女も、そうした|ぶっとんだ《・・・・・》メンタルモデルの一例なのだろう。
少女は、デッキに座り込んで身体を乾かす俺を何が珍しいのか面白げに観察していた。銀髪を振り乱しながらガキンチョみたいに周囲をくるくると動きまわり、時々指先で戦闘服を摘んでみたり、首筋に鼻を埋めて臭いを嗅いだりしてくる。傷つける気は無いようだから一先ずは安心だが、愛玩動物の扱いを喜ぶ性癖は持っていない。

―――しっかし、綺麗な顔に造ってあるもんだなぁ。

 横顔をツンツンと突っついてくる少女を横目に、胸中で深々と呟く。メンタルモデル相手に“将来を感じさせる”という褒め言葉は適切ではないかもしれないが、もしもこの少女が人間であったなら、あらゆる芸能プロダクションが我先に唾を付けんと激しく競いあっただろう。たまご型の小振りな顔立ちと、完璧に左右対称に整ったパーツ。大きな瞳は艦体と同じ灰色に輝いて、大理石から削りだしたような白い肌は染み一つなく、瑞々しいサクランボ色の唇が目立つ。垢抜けたドレスで着飾ってやれば、どこぞの箱入り娘だと紹介されても違和感なく受け入れられそうだ。

「へーっ! ヘリコプターから落っこちたのにどこも怪我してないのな! アンタ、もしかしてターミネーター? んなわけないか!」

いや、ダメだ。口を閉じさせないとすぐに| 中 身 《アホの子》がバレる。
「ほお」「ふむ」「へえ」と何の感嘆なのかわからない息を鼻先に吹きかけながらペタペタと胸板を撫でられ、さすがに鬱陶しさを感じた俺はその細腕を掴んでグイと力任せに引き寄せる。触れた感触は人間そっくりに滑らかで、羽根のように軽い。香水とは異なる甘やかな匂いを引き連れた少女が「ひゃっ」と短い悲鳴をあげて懐に飛び込み、胸板で「むぎゅ!」と小さな鼻を潰す。

「にゃ、| 何 《にゃに》すんだ! | 痛 《ひた》いだろ、こにょ野蛮人め!」

 良く言えば鈴の音のように澄んだ、悪く言えば跳ねまわるピンポン球のような高い音域の声音が鼓膜を刺す。

「それはこっちの台詞だ。ベタベタと他人様の身体を触りやがって、俺の何がそんなに珍しいんだ?」
「ああ、そのこと? いやさ、この世界の|登場人物《キャラクター》と会ってみたかったんだけど、|こっちから動けない《・・・・・・・・・》もんだからヤキモキしててさ。そしたら、お兄さんが目の前でロープ無しバンジージャンプおっ始めたじゃん? 好きな作品の中に生きてる人間に初めて会えたからすごく嬉しくて、興味が湧いて、つい……。で、でも、何が減るわけでもないし、触れるくらいケチケチしなくたっていいじゃん!」
「霧への畏怖とか敵愾心とかそういうのがガリガリ減ってるわ!」

 不思議な言い回しをされて混乱する。年頃の少女のように見えても、やはり霧の意識体らしくこちらとは考え方の基準や世界の捉え方が違うのだろう。俺の接近を許したのも、ただ単に“人間に接触してみたい”という好奇心故だと考えれば納得がいく。俺自身も理性的な人間ではないとはいえ、ここまで奔放ではない。少なくとも、裸のまま異性と向き合っていれば羞恥心を感じるくらいの自意識は備えているつもりだ。
少女が如何にも不満げに眉をハの字に曲げてああだこうだと抗議の声を上げる。しかし、直視するとその緩やかに膨らんだ双球や瑞々しい太ももが嫌でも目についてしまうので顔を逸らすしか無い。俺より10歳は年下の見た目で、言動もアホの子なのに、なまじ人間離れした優れた容貌をしているからおかしな衝動を胸中に抱かせられる。
抗議を無視してコホンと一つ咳払いし、防水仕様のバックパックからジャンパーを引っ張り出すと、「は~な~せ~よ~!」と胸元で暴れる少女の肩に羽織らせる。突然のことにキョトンと面食らって俺を見上げる瞳は穢れを知らない純真無垢そのもので、悪いことをしているわけでもないのに罪の意識がモヤモヤと芽生えてくる。

「……ええと、気持ちは嬉しいけど、オレは風邪なんか引かないぞ。一応、メンタルモデルなんだから」
「そういう問題じゃない。あのな、お前は知らんだろうが、人間様は“恥じらい”ってのを持ってるんだ。分かるか、恥・じ・ら・い。異性に自分の裸を見られるのは嫌だと感じるし、不用意に異性の裸を見てしまうのも居心地が悪くなるもんなんだ。ちゃんと学習しとけ」
「ば、バカにすんな! それくらい知ってるっつーの! 日本の文化は恥の文化デス!」
「分かるんなら、前を隠せ。見えちまうだろうが。直視できないからやりにくいんだよ。お前、一応は女なんだろ」
「いちいちうるさいな! アンタはオレのおかんか! オレは男女の区別がよくわかんなくなってるから別に気にしないの!」
「ええい、いちいちキンキン頭に響く声出しやがって! 誰がオカンだ誰が! メンタルモデル的には男女の性差なんてのは問題じゃないんだろうが、こっちは激しく気にするんだ! これから|俺のモノ《・・・・》にするんだから、もうちっと常識持ってもらわねえと困るんだよ!」
「え、|俺のモノ《・・・・》って、まさか……」
「あ、」

 熱くなって口が滑ってしまった。何より、この常識に頓着無さそうなメンタルモデルに|そういう知識《・・・・・・》が備わっているとは考えてもみなかった。
少女から立ち昇る警戒の気配に慌てて口を閉じるが、時すでに遅し。白雪色の頬がカアッと紅潮し、八重歯を剥いていた口がキュッと噤まれる。開けっ広げにされていたジャンパーのファスナーを勢い良く締めると、俺が誤解を晴らそうと口端を開く前にその場から後退った。甲板を滑るような機敏な動作や背を丸めてじとりとこちらを威嚇する様子はまるで野良猫だ。このネコは、男に裸を見られてもちっとも気に留めなかったくせに、生々しく扱われると途端に嫌がるようだ。ますますもって奇妙な奴だ。
 耳たぶまで火照った年頃の少女らしい表情を前に「コイツ、こんな顔もするのか」と頭の片隅で驚きつつ、両手を上げて己の無実を示す。霧相手に痴漢の冤罪証明の真似をするとは夢にも思わなかった。

「違う違う違う! お前は誤解してるぞ! そういう意味で言ったんじゃなくてだな!」
「じゃ、じゃ、じゃあ、どういう意味だよ! い、い、言っとくけど、オレにそんな趣味はないからなっ!」
「だから違うっつってんだろ! 俺のモノにするってのは、つまり――――……なんだ、ありゃ」



視界の隅。
青い海原に直線の航跡を引いて、|何か《・・》が音もなくこちらに向かってくるのが見えた。時速にして500キロを遥かに超えているだろう物体が、水面下ギリギリに白い尾を伸ばしながら一直線にこのイ405を狙っている。
| 効力減殺型 超高速推進装置 《スーパーキャビテーションシステム》特有の気泡雷跡。そして、300ノットもの速度。これらが結実させる答えは、一つしか無い。

「……ッ! 伏せろッ!!」
「へ―――― むぐぎゃ~~ッ!?」

後ろ足で甲板を蹴り立て、目を丸くする少女に飛びかかる。爆発音はほぼ同時に炸裂した。
ドーン、と耳を劈く轟音がイ405の艦尾で弾けた。激しい振動が一気に艦首にまで突き抜け、巨大な艦体をシーソーのように押し上げる。爆圧によって生じた熱風が伏せた頭のすぐ真上を通り過ぎる。腕の中に少女を守りながら艦尾の方向に目を向ければ、30メートルはあろうかという極太の水柱が屹立していた。一瞬後、水柱は霧状に霧散し、豪雨となって頭上から降り注ぐ。次いで、嗅ぎ慣れた焦げ臭い炸薬臭が周囲に立ち込めたことで、俺の考えは完全に裏付けされた。

「この独特な火薬の臭い……。マズイな、海軍の奴らが来やがった! おい、速く潜行を―――」
「いって―――ッ!! 誰だ、ひとのお尻を思いっきり引っ叩いた奴は!? 物凄く痛かったぞ!!」

 少女が目尻に涙を浮かべて怒りに吠える。メンタルモデルは自身が司る艦体と感覚が繋がっているようだ。改めてこの女の子が|潜水艦そのもの《メンタルモデル》なのだと思い知り、それならばと問う。

「ありゃあ、海軍の37式魚雷だ! 見ろ、向こうに護衛艦が見える! なあおい、この艦は大丈夫なのか!?」

水平線の向こうから、1隻の艦影が接近していた。近海を巡回する|応急出動艦《ロメオ》が急遽、傷ついた霧の艦にとどめを刺すために差し向けられたのかもしれない。雷跡を辿るに、37式魚雷はあの護衛艦から発射されたのだろう。あの距離から当てるとは腕がいい。
2年前に制式配備が始まったばかりの最新鋭魚雷は、霧との戦闘を念頭に置いて製造された強力な兵器だ。大型化された弾頭部には旧式魚雷の1.6倍に相当する高性能成形炸薬を満載しており、霧の魚雷艇程度であれば直撃弾数発で撃沈できると太鼓判を押されている。その直撃を受けたのだから、この艦もただでは済まない。
 と思いきや、少女から返ってきたのは軽い答えだった。

「だいじょうぶだいじょうぶ。クライン・フィールドがなくても、このくらいならまだ耐えられると思う。けっこうヒリヒリするけど。いてててて……」
「マジかよ……直撃だったんだぞ」

水しぶきが収まったところで慌てて艦体を見回してみるが、たしかに損傷は見られない。もうもうと煙が舞い上がる艦尾は爆発の熱が蒸発しているに過ぎず、海水で冷却されてしまえば濃灰色の装甲が衝撃を完璧に跳ね返していた。鉄壁のバリヤーたるクライン・フィールドがなくともこの潜水艦は最新鋭魚雷の直撃に耐えうるというのか。
驚くべき霧の艦の防御力に目を見張る俺に、横合いから「まあでも」とまたもや軽い声が投げかけられる。

「あと1、2発やられたら、さすがに耐えらんないと思うけどね。クライン・フィールド無いしね。あはははは」
「無いしね~、じゃねえよ! なに呑気に笑ってんだ!? さっさとクライン・フィールドを展開して、回避行動を取るなり潜行するなりしろよ!」
「ああ、それムリ」
「はあ!? なんでだよ!?」
「だってオレ、|この艦動かせないもん《・・・・・・・・・・》」



ドーン、と再び直撃弾。
 今度こそ艦体が大きく軋み、ギシギシと各所から悲鳴を上げる。着弾の衝撃で跳ね上がった身体が甲板に叩きつけられるも、腕の中の少女は守り切った。二度目の強いシャワーを浴びながら、自身の聞き間違えを祈って再度の質問。

「さっき、なんて言った?」
「オレには|この艦は動かせない《・・・・・・・・・》って言った」

 刹那の意識のホワイトアウトを乗り越え、強制再起動。どこか諦めたようにヘラヘラと笑う少女を睨みつける。

「な、なんでだよ!? お前、この潜水艦のメンタルモデルなんだろ!? 自分を動かせない道理があるもんかよ!?」
「確かにその通りなんだけど、動かし方がわからないんだよね。どうもオレ、イ401と戦って一回沈められたらしいんだ。そこから|混ざっちゃった《・・・・・・・》みたいでさ。何とか復活出来たはいいものの混ざった後の混濁が生じてて、艦の制御系にアクセスしようとすると認証エラー起こして拒絶されちゃうんだ。オレ自身を統一させる|何か《・・》がないと動かせないってわけ。ほら、早く逃げないと、お兄さんも一緒に殺されちゃうよ」

 最後に「期待してたんならゴメンね」と付け加えられた小さな謝罪は、志半ばで倒れる悔しさと寂しさに満ちていた。現状に不満を持っているのに、そこから自力で脱出することが出来ずに諦観に悄気げている。この少女は、少し前の俺と同じだった。キッカケを得られずに絶望していた俺と同じだった。
 少女の肩を掴み、感情を込めて強く問いかける。

「お前は、それでいいのか。このまま何も出来ずに沈められて、それでいいのか」

 核心を突かれた少女がぐっと俯く。そうだ、いいはずがない。こんな惨めな終わり方を望む奴なんて、いやしない。

「……イヤだよ。せっかくこの世界に入れたのに、好きなキャラクターにも会えずに散るなんてイヤだ。だけど、動かせないんだ。仕方ないじゃんか」


三度目の爆発。
 推進装置を狙っているらしい魚雷が精確に艦尾にぶち当たり、艦体を大きく横揺れさせる。衝撃に備えていた身体は何とか振動を吸収できたが、ギギギギと鋼鉄が捩れる耳障りな音を聞いてあと一発が限界だと直感で悟る。もう時間がない。覚悟はとうに決めている。直撃弾の痛みに身体を震えさせる少女の細肩を思い切り引き寄せる。

「よく聞け。俺は、ここから動かない。お前が沈む時は俺も一緒だ」
「は、はあ!? どうしてアンタがオレと心中すんの!?」

 大きな双眸がギョッとさらに広がる。察しの悪さに一つため息をつき、灰色の瞳を真っ直ぐに見詰める。鼻先が触れ合うほどの距離に、少女の頬に朱が差す様を可愛らしく思い始めながら、俺は力強く応える。

「―――|俺が《・・》、|お前の艦長だからだ《・・・・・・・・・》」


遂に四発目の魚雷が爆発する熱光を至近に感じながら、俺は少女の瞳が輝くのを見た。









同時刻
統制日本海軍所属|ミサイル護衛艦《DDG》『磯風Ⅲ』 艦橋部



「……やったか?」
「おそらく。至急、CICに確認させます」

水平線上で爆炎が膨れ上がるのを遠目に見つめ、磯風Ⅲの艦長、宮津大佐は部下に気づかれないように生唾を飲み下す。艦長の微かな怯えが艦全体の士気を左右することを彼は長年の経験でよく知っていた。同じようにそれを身に染みて理解している副長の竹中中佐は敢えてそれに気づかぬ振りをすると、艦内電話の送話器を手に取る。

「艦橋からCIC。霧の艦はどうなった?」

大人しく沈んでいてくれよ、という万感の願いを込めて送話器を握りしめる。それは全乗組員の思うところでもあった。如何に手負いの漂流艦とはいえ、霧の艦艇には違いない。宮津や竹中のように過去の戦争を経験している世代は、一発が数十億円にまで昇る高価な最新魚雷を4発立て続けに撃ちこむことも、こちらが無傷のまま霧の艦艇を沈められる僥倖に比べれば遥かに安いものだと考えていた。

『CICから艦橋。4発目の直撃を確認しました。爆発の影響で現在敵艦の状況を確認できません。静になるまでパッシブ・ソナーは使えません』

 直撃したか、と艦橋内に安堵の空気が流れる。一発、二発と当てても沈む気配を見せなかった時には肝を冷やしたが、クライン・フィールドの発生時に検知される電磁波反応がなかったことで攻撃は続行された。敵艦は、クライン・フィールドを発生できない小型の艦艇か、発生装置を損傷した手負いであると判断されたからだ。鉄壁の鎧であるクライン・フィールドさえなければ、人類の装備でもダメージを与えることが可能であることはすでに立証されている。
磯風Ⅲは司令部からの信頼も厚い熟練艦であるだけに、乗組員の練度も高かった。遥か遠方の敵艦に吸い込まれるように魚雷を命中させたのがその証左だ。だからこそ最新鋭の魚雷を優先的に装備させてくれたのだ。自分たちの努力が成果として実ったことを実感し、乗組員たちの表情から緊張の皮が剥げていく。それを慢心だと断じた宮津が「まだだ」と鋭く律する。

「まだ相手が沈んだとわかったわけじゃない。ソーナーはどうだ?」
「CIC、急ぎソーナーで確認しろ」

おそらく同じ安堵感が滞留し始めたであろうCICに竹中の厳しい声が響く。ソーナーに反応がなければ、相手は沈んだということだ。そこで初めて、我々人類は勝利を喜び、司令部に吉報を入れることが出来る。

『CICソーナーより艦橋、少し待って下さい。こちらも爆発の影響なのか、目標を精確に探知できません。ノイズのようなものが発生していて……この艦の機材では……』

 歯切れの悪い報告に、竹中は内心で舌打ちを打つ。熟練艦とは名ばかりで、装備の旧式化は否めない。新技術を搭載した新鋭艦には若手を載せて経験を習得させるのが慣例としてある以上、必然的に脂が乗ったベテランは従来の艦に残ることになり、練度も上がっていく。熟練といえば聞こえはいいが、結局は装備の性能差を人間の経験でどうにかこうにか埋め合わせているに過ぎないのだ。
 帰投したら艦体司令部に改めて改修の依頼を出さなければと脳内のノートに書き加え、竹中は「再度よく探せ」と吹き込もうと送話器に口を近づけ、

『―――ち、違います! ノイズではありません! これは―――クライン・フィールドです!!』
「な、に―――!?」

 艦橋に木霊した悲鳴に、その場にいた全員の視線が水平線の彼方に向けられる。
立ち込めていた爆煙の中に青白い紫電が走り狂うのを|双眼鏡《メガネ》越しに見てしまった宮津は、緊張を押し隠すことを忘れてしまっていた。
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~ Comment ~

 

面白いです

お気に入り作品の作者名を見てみると主さんの作品がかなり多く入ってるのは好みが近いからでしょうかね?(`・ω・´)

更新楽しみにして待ってます

NoTitle 

前後編で終わるとのことですが、これ見る限り、続く感じですかね?
面白いので続き待ってますー

NoTitle 

前編から思ってたけど傍点使いすぎじゃないです?
具体的にはこのパートなら「この艦動かせない」「俺がお前の艦長だからだ」だけで良いんじゃ
乱用すると本当に強調したい部分も他と同じようにさら~っと流しちゃうよ。
まぁ個人的な好みレベルの話なんだけど一応

 

主さんとtsfの好みがほぼ一致している気がする…w

主さんが書く小説を読んでると、他のと比べ次回が凄く気になります。
tsfのジャンルだからでもありますけど、主さんが書くのはとても面白いですよ。
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