せっかくバーサーカーry

せっかくバーサーカー最新話試作【改】とアルペジオ最新作試作

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職場で一人がインフルエンザになり、一人が体調を壊して長期療養になった。みんなボロボロでっせ・・・。








20世紀後半―――極東日本の片隅、冬木の地において、『第四次聖杯戦争』の火蓋が切って落とされた。
あらゆる願いをこの世に実現させうる願望機―――『聖杯』を巡り、選ばれた7人の魔術師たちは世に名の知れた『英霊』を己が刃として召喚し、使役する。『| 従 者 《サーヴァント》』と名付けられた英霊たちは、自身を召喚した魔術師を『|主人《マスター》』と認め、その超常的な肉体と技をもって同じサーヴァントと鎬を削り合い、この世に二つとない奇跡の結晶である『宝具』で敵を凌駕する。
サーヴァントは各クラスに割り当てられ、7騎が顕界する。

|剣士《セイバー》
|弓兵《アーチャー》
|槍兵《ランサー》
|騎乗兵《ライダー》
|魔術使い 《キャスター》
|暗殺者《アサシン》
|狂戦士 《バーサーカー》

7人の魔術師と7騎のサーヴァントに対し、聖杯がその尊い褒美を賜らせるのはわずか一人の魔術師と一騎のサーヴァントのみ。従って、各々が願いを手にするためには最後の最後まで互いに殺し合いを続け、陣営が一つになるまで勝利し続けなければならない。
和平の道など最初から想定されていない、殺戮こそが前提の儀式―――それが、この残酷な聖杯戦争の概要である。



さて、最初のサーヴァントの召喚を確認してから幕が開かれた此度の第四次聖杯戦争は、未だ8日目でありながらすでに3体のサーヴァントが脱落していた。ランサー、キャスター、アサシンである。過去の聖杯戦争が二週間足らずの期間で集結したことを考えれば、通常の聖杯戦争の趨勢と変わりない。

しかし―――その戦闘の全てが|たった一人の男《・・・・・・・》の掌の上で操られていたことは、200年を超える戦争の歴史において史上初めてのことであった。

|その若者《・・・・》は、30にも満たない若輩でありながら、老獪かつ神速の手腕によって戦争の趨向を完膚なきまで手球に取っていた。あらゆる戦局に彼の手は伸び、影から支配していたのだ。しかも、彼がお膳立てした戦いは常に清爽な結末が用意されていた。時には決闘の舞台を整えてランサーに本懐を遂げさせ、時には暴走を始めたキャスター陣営に早期に刃を下し、時には胸の炎を失いかけていたアサシンに再び情熱を滾らせた。彼は、苛烈な命のやり取りの内にも“華”があり、“ルール”があることを心得ていた。
さらに特筆すべきは、民間人の犠牲者をまったく生じさせていないことだ。罪のない者は決して巻き込まず、巻き込もうとする陣営は容赦なく罰せられた。彼のサーヴァントはもっとも扱いづらい|狂戦士 《バーサーカー》であったにも関わらず、ただの一度も暴走はせず、その真逆に騎士の如き理性と正義に裏打ちされた振る舞いを貫いている。それがマスターの力と技術によるものであったことは明白である。熟達する毎に人道という概念から遠ざかっていく|魔術師《いきもの》として大成しながら、彼はヒトの道を絶対に踏み外そうとはしなかった。徹頭徹尾、その強大な力の使い方を誤ることは無かった。

「斯く在るべき」と理想の背中を魅せつけながら、どの陣営よりも遥か先を歩む男。

後世にまで語り継がれるその名を、間桐 雁夜という。






聖杯戦争8日目



‡雁夜おじさんサイド‡


「ねえ、桜ちゃん。へ、変じゃないかな、この服? 似合ってるかな?」
「もう、おじさんは本当に心配症なんだから。バーサーカーが頑張ってくれたんだから、もっと自信を持ってもいいんだよ。ねえ、バーサーカー」
「ぐ~るる~ ┐(´∀`)┌」

 やれやれまったく、とでも言いたげに両肩をあげた鎧の大男に「うるさい!」と怒鳴りつけ、もう一度背広の襟元を整える。あと数時間後に迫ったセイバー陣営との協議に望むために無理やり着せられたものだ。バーサーカーの手によって細部まで糊付けされているから乱れる心配はないのだが、高級な背広を着慣れていないだけに心許無いのだ。
「ぐるっぐるっぐるっ」と気味悪く喉を鳴らしながら―――おそらくアレは笑い声なのだろう―――バーサーカーの背中が応接間に消えていくのを横目に確認し、改めて身に纏っているスーツを見下ろす。

(……さすがバーサーカーだな。完璧だ)

藍色の下地に黒のチョークストライプが走るこの上等な背広とスラックスは、元々は兄貴の所有物だった。クローゼットの奥で眠っていたものを桜ちゃんとバーサーカーが探し出し、嫌がる俺を裸に剥いて寸法を調節して再び俺に着せたのだ。ブリオーニ製らしく、光沢のある生地は厚いのに重さを感じさせず、パリっとしているのにしなやかで、身体の輪郭にしっかりとフィットしているのに窮屈さは感じない。通常、高級メーカーのスーツはオーダーメイドで仕立てあげるものだから、別人が着ると着心地が悪い。だというのに、バーサーカーによって修正されたこれらはまるで最初から俺のために作られたかのような着心地で、自然に心まで引き締まるような清々しい感覚すら覚える。協議の場にも十分に相応しい服装だ。
そんな大偉業を片手間に終わらせてみせたバーサーカーの器用さにはもはや驚くまい。宝具化したハサミやらミシンやらでひょいひょいと分解して再び縫い合わせていく作業の工程は職人の域を超えた芸術的な何かだった。悔しいから面と向かって素直に褒めてやらないが、出来栄えは最高だ。馬子にも衣装とはこのことで、背広の出来栄えに関しての心配は微塵もない。心配なのは、|馬子《おれ》の方だ。

(顔がこんなんじゃあ、いくら服の見てくれがよくたって……)

 心中に重く呟き、顔の左半分をなぞる。手触りこそ異常は感じないが、それも慣れによるものかもしれない。だが、そこには間違いなく爛れて醜く崩れた顔面がある。忌むべき妖怪、間桐 臓硯が施した悪夢のような処置によって急造の魔術師となった雁夜は、その反動で肉体の大半を障害に蝕まれることとなっていた。髪の毛は残らず白髪となり、肌も黄ばんで、顔面の左半分が荒れ果てた。身体中の筋肉はゴッソリと削げ落ち、内臓も機能不全となり、身体中ボロボロだ。ゾンビという比喩が的確すぎて、まるで自身のために用意された言葉だと自嘲すら浮かぶ。魔術師であれば、この醜態を一目見ただけで急拵えの欠陥魔術師だと察することが出来るだろう。それではセイバー陣営に足元を見られ、こちらの分が悪くなるだけだ。かと言って協議を無視すれば、バーサーカー陣営には根城から出られない事情があるのだと勘ぐられ、間桐邸を襲撃される可能性が出てくる。そうなれば、桜の身に危険が生じてしまう。それを防ぐためにも“|間桐雁夜の根城《・・・・・・・》|には襲う価値がない《・・・・・・・・・》”と思わせなければならない。

「はぁ……」

せめて仮面か何かで顔を隠すべきかと悩み、自身の顔を忌み嫌い鏡すら見ることの出来ない情けなさに暗い溜息をついていると、不意に隣から桜の呆れ声が投げかけられた。

「ねえ、おじさん。もしかして最近、鏡で自分の顔見てないでしょ」
「え?」

 ムッとした呆れ顔で見上げてくる桜に、雁夜は困惑する。自分の顔におぞましさを覚え始めてから、雁夜は鏡を見ることを意識的にも無意識的にも避けていた。だから、ここ数日は自分の顔を見ていないのだ。不機嫌そうな桜の表情を測りあぐねていると、ふと、桜が自分の顔を真っ直ぐに|直視できている《・・・・・・・》ことにようやく気付いた。

(……そういえば、最近、俺の顔を怖がってない)

聖杯戦争開始前、まだバーサーカーが現れず、二人が臓硯の支配下にあった頃は、廊下で出くわす度に桜は雁夜を見て恐怖に身を竦めていた。闇夜にトイレを目指していた最中、偶然にも同じ目的地を目指して廊下の角からぬうっと出てきた雁夜に遭遇した時など、「ばいおはざーど!」などと叫んでばったりと気絶していたものだ。

「さ、桜ちゃん、おじさんの顔が怖くないのかい?」
「あーっ! やっぱり気付いてなかったんだね! はい、手鏡!」
「え、でも……」
「いいから、鏡を見てみて!」

 痺れを切らした桜が「まったくもう!」と頬を膨らませてずいと鏡を手渡してくる。雁夜にとって、死に絶えて腐っていく顔面は朽ちていく己の命の写しだ。直視する度に確実に近づいてくる“死”の腐臭を感じて悔しさに歯噛みしていた。それを敢えて見てみろという真意がわからず、雁夜は戸惑いながらもムッツリ顔で己を見上げる桜に気圧されて躊躇いがちに小さな手鏡を覗く。
まず緊張に引きつる顔の右半分が映り、ゆっくりとゾンビのような左半分が映り―――醜いはずの、左半分が―――………



「|おじさんの顔《・・・・・・》、|とっくに元に《・・・・・・》|戻ってるんだよ《・・・・・・・》!」








‡バーサーカーサイド‡


さあさあ、やって来ました聖杯戦争8日目! 原作なら今夜に凛ちゃんが冒険に出てトラウマ覚えたり、セイバーとライダーとアーチャーの聖杯問答があるんだけど、この夢のお話ではそうはなってなくて、なんとバーサーカー陣営とセイバー陣営の協議が正午に言峰教会で行われる日になってる! キャスターを倒した陣営に令呪が進呈されるということで、共闘して打ち倒したセイバー陣営とバーサーカー陣営にお呼びがかかったのだ。しかもその席で、セイバー陣営からの大切なお話があるという。原作でも、アーチャー陣営がセイバー陣営を教会に呼び出して共闘を要請していたし、これもその流れなのかもしれない。これもイレギュラーである俺のせいなのだろうか? いやいや、まさかね! 俺ほとんど料理してるだけだし!
 そんでもって、そんな大事なイベントを控えた俺が何をしているのかというと、応接間とご馳走の準備だ。間桐家の応接間は、妖怪爺さんの趣味だったのか、広いくせにどんよりとした監獄みたいな部屋だった。そういうのは雁夜おじさんや桜ちゃんの精神衛生上とっても良くないから、カーテンを前部取っ替えたり、窓辺に物を置かないように家具の配置換えをしたり、壁にパンチして窓を拡張したりしました。もちろん、家の強度を維持するための梁の増強も同時進行です。というわけで、建築士とリフォームスタイリストとインテリアコーディネーターの資格を持つ俺の手に掛かれば陽の光をふんだんに取り入れた暖かな応接間の出来上がりってわけですよ。キャンドルスタイルの照明器具はそのままに、管球の明度を上げて、夜も古風な雰囲気を保ちつつも部屋全体が明るくなるようにしました。鮮やかな藍色のカーテンと絨毯とのグラデーションも完璧です。黒檀のテーブルもマホガニーの椅子も家具用ワックスでピッカピカに磨き上げたから、まるで喜んでいるみたいに輝いてる。最後に、だだっ広いテーブルの上にバロック様式のアンティーク燭台を載せれば……なんということでしょう! 腰を入れて改装した甲斐があって、我ながら完璧な出来栄えだ!
さて、後は昨夜から下拵えしていた料理を完成させなければ。塩漬けにした牛肉がちょうどいい塩梅に引き締まってる頃だろう。

―――などと、余った家具用ワックスで自分の兜も磨きながら応接間の完成度に惚れ惚れしていると、ドタドタと廊下を走る音が近づいてきた。この足音は雁夜おじさんだな。あ、いかんいかん、早く兜を被らなくては。

「バーサーカー、ここか!?」
「ぐる?」

どうしたんだ、そんなに慌てて部屋に飛び込んできて。せっかくの背広がシワだらけになっちゃうぞ。またアイロン掛けしないといけなくなるじゃないか。
息を荒げるおじさんの様子に首を傾げていると、突然頭をガバリを上げてずんずんと俺に歩み寄ってきた。顔をぐいと近づけて、その左半分をビシッと指さす。

「この顔を見てくれ。こいつをどう思う?」
「うごご……ぐるるるる……」

すごく……普通です……ってなに言わせるんだ。
俺の答えで確信を得たらしいおじさんが、それでもまだ信じられないのか自分の顔をベタベタと撫で回す。心配しなくても目と鼻と口以外は何もついていないぞ。採寸するために裸にひん剥いたせいでおかしくなっちゃったのか?

「な、治ってるのか? な、なぜ? お前、何かしたのか!?」

ああ、なるほど。奇行に納得してポンと手を叩く。どうやら今になって、自分の顔が元に戻っていることに気付いたらしい。どんだけ鏡を見てなかったんだか。
その通り! 何を隠そう、それは俺の仕業なのだ!









‡綺麗な綺礼サイド‡


|ヴィルガメシュー《Bilgameš》王


アレキサンダー大王が覇道の旗を立ち上げるよりも遥かに昔、地中海とカスピ海に挟まれた広大な領土を支配する巨大国家が存在した。紀元前9000年前にはすでに芽を見せていたとされるその古代国家こそ、未だ謎多き『古代メソポタミア』である。現代の水準に匹敵し、またある分野においては凌駕しているとすら言われる膨大かつ高度な知識・技術・歴史・文化・政治体系を擁していたかの超文明は、常に一人の“王”の手中にこそ存在を許されていた。かつて、そのシュメール王朝の頂点に着座し、もっとも輝かしいウルク第一王朝時代に満を持して君臨していた伝説の王の名こそ、ヴィルガメシューである。武に長けた前ウルク王ルガンバンダと女神リマトの間に生まれた彼は、その肉体と魂の3分の2に“神”を宿していた。伝承によれば、時には片腕で獅子の首を締め上げ、時には彼を疎んじる神が刺客として放った天の雄牛をも容易く跳ね除けるほどの超人的な男だったという。彼は、その強大なる戦闘力と全身の細胞から溢れ出る|神性《カリスマ》によって最強の王の名を欲しいままにした。赫々たる王の御名は万を超える年月を経ても色褪せることなく歴史に刻みつけられ、その燦然たる栄光と共に未だ多くの人々に恐れ崇められている。

シュメール語で、ヴィルガメシュー。

アッカド語では、|ギルガメッシュ《・・・・・・・》という。









「もうイヤだ。聖杯なんていらない。故郷のメソポタミアに帰りたい」


クッションに顔を埋めてフゴフゴと声をこもらせるその若者が果たして古代メソポタミア王その人だなどと、いったい誰が認めるのだろうか。事情を知る綺礼すらキョトンと目を丸くするほどなのだ。一般人が見ればただのナヨナヨした外人さんである。

「どうした、アーチャー。いつものお前らしくないじゃないか」
「どうしたこうしたもあるか。有象無象共が揃いも揃って|我《オレ》を侮辱するのだぞ。あんなに自慢気に見せ付けやがって……ぅ゛ぅ゛……」

それ以上は声にならなかった。しくしくとクッションを濡らしながら、うつ伏せの格好のままズルズルとソファからずり落ちていく。煌めく金髪が光の尾を引いて、次の瞬間にはセンターテーブルの影にドサリと落ちて見えなくなった。常に何様貴様俺様という態度を崩さず、主成分99.9パーセントが傲岸不遜で構成されているような男をここまで追い詰めた原因に、綺礼は心当たりがあった。

「……そんなに羨ましかったのか、ライダーの|『 王 の 軍 勢 』《アイオニオン・ヘタイロイ》が」

綺礼もまた、ハサンの目を介して視た。死して遺骸も朽ち果てて尚、幾千年の時を経て尚、時空を超越した英霊の座に召し上げられても尚、集結の号あれば必ず王の下へ駆けつける多勢の臣下。一様に童児のような笑顔を浮かべ、再び王と共に戦場を駆ける幸せを噛み締めて鬨の声をあげる古強者の大軍団―――宝具|『 王 の 軍 勢 』《アイオニオン・ヘタイロイ》。彼ら無数の|朋友《とも》に自身と同じ|心象風景《ゆめ》を抱かせて遂には固有結界までも形成させてしまった史上空前の“漢”こそ、ライダー―――真命|アレキサンダー《・・・・・・・》である。同じ男を完膚なきまでに惚れさせるその偉大さは、思わず綺礼の心にもこみ上げる熱を感じさせるほどだった。ランクEXという全英雄中最大最強規模の対軍宝具を見せ付けられ、さしものギルガメッシュも羨ましさに涙しているのかもしれない。

「違う! 宝具が羨ましくて泣いているのでない! この痴れ者め!」

 納得しかけていると、テーブルの影から拳とともに否定の叫びが突き出された。抗議を込めて拳がぶんぶんと左右に振るわれるが、それも束の間、すぐに力を失ってヘナヘナと萎れていく。どちらが痴れ者なのかと問い返されそうなギルガメッシュの様子に、綺礼はさらに目を丸くする。彼が己のサーヴァントを通じて視ていたのは、迫り来るアイオニオン・ヘタイロイに立ち向かい、華々しく討ち死にしたハサンの最期までだ。その先で何があったのかは想像もつかない。ろくでもないことだったのであろうことくらいは想像がつくが。

「では、何がお前をそうさせているのだ」
「……あの小便臭い小娘が、言いおったのだ。|我《おれ》には友がおらん、とな」
「セイバーが?」

 力なく返された応えに片眉を上げる。
セイバー―――ブリテン王国の主、アーサー王。女であることを偽り、その短い生涯を故国のために捧げた無敗の騎士王。彼……いやさ|彼女《・・》が、ギルガメッシュに「貴様には友がいない」と突きつけたという。いったいどのような話の流れでその発言に至ったのかは想像もつかないが、おそらくは何らかの舌戦が繰り広げられたのだろう。実際はセイバーがヘラヘラと余裕ぶっこいた顔で「今の私は気分がいい。私でよければ友だちになってやってもいいぞ」と上から目線に笑いかけた際の発言なのだが、もはやどうでもいいことだ。

「―――その通りなのだ、綺礼」
「……ギルガメッシュ?」

そう。英雄王ギルガメッシュが|弱音《・・》を口にすることに比べれば、如何な大事であっても瑣末極まる雑事に過ぎない。この時、綺礼は総身が引き絞られるような息苦しさを覚えた。それと同時に、心臓を掴まれるような切なさが胸中を支配する。目の前の孤高の王が|生まれて初めて《・・・・・・・》誰かに自身の弱みを曝け出そうとしている気配を感じて、その途方もない重さに心が震えたのだ。











『磯風3』に搭載された新石川島播磨重工業製ターボシャフト・ガスタービンエンジン4基が雄叫びを上げ、8000トンの巨躯を35ノットもの速度で驀進させる。常ならば高騰する燃料費を節約するために巡航速度でしか航行しない護衛艦が、今は主機と補器の全てを全力稼働させ、狂ったように波しぶきをかき立てていた。第一戦速で波を切り裂くその姿は傍から見れば勇壮そのものだが、その実はまったく異なる。乗員の誰も彼も一切の余裕はなく、その表情は緊張と恐怖に強張っていた。
なぜなら―――彼らは今、|追われている《・・・・・・》からだ。

『| 接 触 《INTERCEPT》3秒前―――STANDBY―――| 衝突位置到達 《MARK INTERCEPT》!!』

ズズン、と遥か後方で重い爆発音が響いた。対艦ミサイルの弾頭部に搭載された100キロに達する炸薬が|空中《・・》で紅蓮の大火輪を咲かせ、黒雲の下を一瞬だけ赤く照らした。数秒遅れて、空気の波を伝播した衝撃波が艦橋部をぶわんと叩きつける。

『くそっ! 最後のスーパーハープーン、着弾寸前で信号途絶しました! 全弾、撃墜!』
「全弾だとッ!? 発射した62発が全て撃ち落とされたのか!?」
『間違いありません! 敵艦の機関音、尚も健在! 本艦に向かってきます! 20ノット……40ノット……し、信じられない加速です!!』
「……!」

耳に入る報告は悉く状況の悪化を示すものばかりで、宮津は耳を塞いで現実から逃れたい衝動に襲われた。多數の乗員の命を預かる艦長の重責がそれを辛うじて抑制したが、それで事態が好転するわけもない。眼前のレーダー画面には、80000馬力もの機関出力を誇るはずの『磯風3』の艦尾に今にも食らいつかんとする影がハッキリと表示されている。レーダーアンテナが一回転する度に、両者の間合いはぐんぐんと狭められて行く。地獄の底まで追い掛けてくるような猛追には、感情を持たない“霧”らしからぬ怨念じみた殺気が透けて見えた。

「司令部め、何が“漂流している霧の艦”だ! ふざけやがって!」
「魚雷艇がミサイルを撃ち落とすかよ!?」
「また加速したぞ! 敵は、敵はなんなんだ!?」
「甲板見張り員は敵艦の確認に努めろ! 繰り返す、甲板見張り員は―――」

 怒号が交錯するブリッジは混乱を極めていた。レーダーに映る影の大きさから、彼らは目標を魚雷艇のような小規模艦艇であると推測していた。それ故に新型魚雷での撃破が可能だと判断したのだ。だが、
レーダーが再び後方を策敵し、表示された相対距離が遂に1000メートルに達する。互いを明確に視認できる距離―――水上艦にとっては懐に入られたにも等しい、絶望的な至近距離だ。喉元に迫りきった正体不明の敵を前に、先に恐怖に取り乱したのは宮津ではなく副長の竹中だった。宮津の手から艦内マイクをもぎ取り、青ざめた頬を震わせる。

「砲雷長、ミサイルの次弾装填はまだか!?」
『やってますが、あと2分はかかります!』
「それでは遅すぎる! もっと急げ!」

 眼の色を変えて唾を飛ばす竹中が冷静さを欠いているのは目に見えてわかったが、誰もそのことを非難しようとは思わなかった。唯一の上官である宮津ですら、竹中の狼狽は痛いほど理解できた。現代の護衛艦は、技術の発展と効率の観点から、“一撃必殺”の思想を念頭に置いて設計・建造されている。『磯風3』もその例に漏れず、敵を初弾で仕留めることにこそ全ての装備と兵器が傾注される。それが通じない相手と相見えるということは、即ち“敗北”を―――70名の乗員の死を意味する。


『ソーナーより艦橋、敵艦の推進音の照合が終わりました! イ401と酷似しています!』
「イ401……!?」

その報告から最初に想起されたのは、“蒼き鋼”―――若者たちが駆る霧の潜水艦、イ401だった。ならば、『磯風3』は霧の艦と誤認してイ401を攻撃してしまい、イ401はこちらを敵と認識して反撃をしようとしているのかもしれない。その誤解を解けば、この恐ろしい逃走劇は終わりを告げるはずだ。
だが、優秀なソーナー員の答えはその僅かな期待を両断する。

『似ていますが、イ401とはピッチ音が若干違います! |敵味方識別信号《IFF》も感知できず、こちらからの呼び掛けにも一切応じません! おそらく、イ401の同型艦です!』

イ401に同型艦がいることは、モデルとされる太平洋戦争時のイ号400型が数隻建造されていたことを考えれば自然に推察できる。

ヒュウガ撃沈

勝てない

見張り員「何か光―――」

突き上げる振動












振動で目が覚める。





『―――ワたシノ艦長。ツイニ手に入レた。わタしを使ッテくれル人。私ノため二一緒に沈んデクれるヒト……』





 鼓膜に滑りこんできた女の声は、救われない霊魂の慟哭のようだった。“死”そのもののような冷たい声音が脳みそにズルリと舌を這わせる。強烈な悪寒が生命の危機を訴え、俺の意識を強制的に再起動させた。

「ぐ―――こ、ここは……?」

 見開いた目に飛び込んできたのは、暗闇だった。夜闇ではない機械的な暗闇に俺は横たわっていた。反響する声と四方から迫るような圧迫感から、そこが8メートル四方ほどの空間であることがわかる。オゾン臭が滞留する室内は凍てついていて、吐く息が空気を白く濁らせる。硬質な床面からは一定のピッチを刻む機関の振動が伝わり、ここが|何か《・・》の内部なのだろうことを容易に想像させたが、目を凝らして全貌を掴もうとすれども光源といえば四方の壁面でわずかに点滅する淡い蛍火のような電子機器の発光のみ。人間の立ち入りを想定していないサーバー・ルームのような風体だ。
未だ覚醒途中で朦朧とする中、最後の記憶を手繰り寄せる。俺はたしか、目黒基地から脱走して、霧の潜水艦に辿り着き、メンタルモデルと遭遇し、海軍に襲撃されて、4発目の魚雷が命中して、その熱に焼かれて、そして―――

「アイツは……アイツは、どこだ……?」

胸元に手を当てて探るが、“アイツ”―――メンタルモデルの少女の姿は無かった。最後の瞬間まで抱きしめて守っていたはずなのに、そこにあるのはジャンパーだけだ。まさか全て妄想だったのかと慌てて手繰り寄せれば、微かに残る人肌の温もりと甘い残り香をハッキリと知覚して拳を握りしめる。やはり夢なんかではない。霧とは思えないほどに親しげで、無邪気で、表情豊かだった少女が、確かにこの腕の中にいた。少女の存在を確認できた歓喜と今傍にいない空虚に全身が熱くなる。自身が置かれている状況を知るよりも、今はあの少女を再び胸に抱いて安堵を得たかった。
出会ったばかりの、しかも人間ではないメンタルモデルを失うことに大きな抵抗を感じている己の異常を理性が反芻するも、それを無視して少女に呼びかける。

「おい、イ405! どこにいるんだ!? 無事か!?」



『―――|私《・》はこコにいルわ、艦長』



闇の中から滲み出るように、少女は目前に現れた。銀色の髪を背に流し、肌は純白、裸を晒す容姿は美麗。姿形も聞き知った声も、寸分違わず同じに見える。だが、|これ《・・》は俺が知っている少女ではない。先ほどまでの明るく人間じみていた雰囲気とは一変して虚ろな冷気を纏っている。
強烈な違和感に目を見張って警戒するこちらを薄い目で見つめ、俺を“艦長”と呼んだ女がノイズの音吐で怪しく囁く。

「お前は、誰だ」
『イ405。アなタノ|艦《ふね》よ』

 精彩を欠いた双眸がニヤと愉悦に歪む。こんな昏い目をする奴ではなかった。もっと純粋な濁りのない瞳の少女だったはずだ。『こコはワタシの|艦内《なか》』と恍惚に蕩けた表情で自身の下腹部を愛おしそうに擦る。

『あア―――、ナンて心地が良イノ! 艦内に誰カヲ入れルコトが、人間というユニッとヲ装備すルことがこンなに気持チガイいことなんて知らナカった! ずルい、ズルいわイ401! こんな感覚を独リジメにしてイタだなンテ……!』

身悶えして矯正を迸らせた女が闇を引きずって近づいてくる。ひたひたと這い寄る足音が、媚びるような淫らな声音が、耳朶をぞわりとなぞる。尋常ではない人外の接近に本能が悲鳴を金切り声をあげ、半身が思わず仰け反った。
これこそが“霧”なのか。先ほどまでの爛漫とした少女は俺を騙すためのまやかしに過ぎず、霧本来の姿とはこんなにも一途で悍ましいものなのか。騙されたのかと憤懣を覚える一方、どうしてもあの眩い少女が紛い物だったとは思えず、願望を込めて問う。

「答えろ、イ405。さっきまでのお前と、今のお前、いったいどちらが本当のイ405なんだ?」
『|どちら《・・・》……? 変ナコトを言うのネ、艦長。私ハ私ダケよ? 私がイ405ヨ?』

とろんと熱に侵された瞳で不思議そうに首を傾げる。恋人の他愛ない嘘に付き合うような苦笑はとても芝居などには見えず、思考にザラつきを挟んだ。自身の不調を―――もう一人の自分を把握できていないらしかった。


―――どうもオレ、イ401と戦って一回沈められたらしいんだ。その時に混ざっちゃったみたいでさ―――


刹那、少女の台詞が脳裏に蘇り、ハッとした閃きが額で弾ける。もしや、その際に負った深刻なダメージはメンタルモデルの人格構造にまで影響したのではないだろうか、と。言わば二重人格障害のように、爛漫な少女も、幽鬼のような女も、どちらもイ405なのだ。そう考えれば少女の変貌にも説明がつく。二度とあの笑顔が見られなくなったわけではないとわかり、緊張が少しずつ解れていく。

「コインの裏表、みたいなもんか」
『ふふ、おかしナ艦長。面白イわ。もう寂シくなイわ。キっト退屈シナイわ』

イ405は真正面に膝をつき、女豹のように腰をくねらせながら青白い手を伸ばしてくる。自身が“女”であることを意識した蠱惑的な身のこなしに、透き通っていた宝石が濁っていくような違和感が募る。本能も未だ拒絶感を訴えてはいるが、きっとすぐに慣れるだろう。おどろおどろしい雰囲気を纏ってはいるものの、素直に艦内に招き入れたり、自分から俺を艦長と呼んだりと従順そうではあるし、裏だろうが表だろうがコインはコインなのだ。それにその内、また犬っころみたいな伸びやかな少女に戻ってくれるかもしれない。そう自分に言い聞かせ、イ405の手を取ろうと腕を伸ばし、

「う―――ッ!?」

目の前まで迫ったその双眸を目の当たりにして、一瞬のうちにギクリと身体が強張った。瞳孔が開ききった眼球が、完全に|死者《・・》のそれだったからだ。すがりつく色を隠さない昏い目が、危うげに緩んだ口もとが、良くない予感をひしひしと湧き立たせる。

『ソう―――暗クて冷たい世界デモ、貴方と一緒ナラきッと退屈しなイ。もうアドミらりてィ・こードなンて関係ない! 人間モ、霧も、誰も彼も|水 底《みなそこ》沈めてしマエば、ずっと寂シクなンてナいもノ!!』
「お、お前、いったい―――うおッ!?」

 転瞬。バチンと風船の破裂に似た音を立てて、正面に眩い閃光が灯った。眼神経を突き刺す痛みに耐えて光源を見やれば、3メートル四方のホログラム・パネルが暗闇にぽっかりと大口を開けていた。何か画像を表示させようと色彩を微細に変化させていくパネルが光を溢れさせ、闇を押し広げて空間の全容を照らしだす。最低限の機器類が効率的に配され、空間を俯瞰できる位置には無骨なシートが一つだけ備えられている。護衛艦の艦橋とCICを混ぜ合わせたような構造―――まさに潜水艦の司令室そのものだった。

『さア、早ク命令シテ、艦長! |アレ《・・》を沈メろッて、命令しテ!!』







コイツは、この世に未練を残して死んだ亡霊だ。

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~ Comment ~

NoTitle 

待っていたぜ、待ち続けていたぜ

大好きだぁぁああ!! 

やつほぃ!!バーサーカー!!
正座待機しつつ雪見大福を食してたかいがあったぜ♪
ちなみにセブンイレブンの金のアイス 生チョコ雪見大福はうまいてす(聞いてない)

 

ほ、ほら100人の友より1人の親友の方がいいじゃないですか……
まあ、エンキドゥは原文読むととんでもないDQNですが。

NoTitle 

持ち上げられすぎて雁夜さんの胃がマッハ

NoTitle 

だからAUO涙ふけっt(鎖でキュッ
まぁエルキドゥってゆう男の娘的な親友いましたけどねぇ。なんか最後が悲しいらしい

ちなみに掃除終わりません(涙
来月からは本格的に引っ越しの準備やんないといけないからせめて整理整頓ぐらいしないといけないのに、気づくとマンガ読んでネットやってますorz
明日、というか今日は朝から就活の説明会に合説(合同企業説明会)、明後日というか明日は合説の二日目と忙しくて…一人暮らしの準備もせにゃならんし…

そろそろやんないとやばい。あと一週間しかねぇっす!
そしておじさんの対外的な株が何故か急上昇してるけど全部バーサーカーのせい。バーサーカーのせいだから仕方ない。諦めなさい(結論

NoTitle 

待ってましたァ!
あっはっは。珍しくシリアスにはじまったと思えばこのザマ。
貴方は本当にセンスあふれる方ですな。

英雄王と書いて、世界のボッチと読む
征服王と書いて、世界の友達と読む
騎士王と書いて、世界の貧乳と読む
すべては家庭的な湖の騎士によって...

完成稿、楽しみにしています。

NoTitle 

諸君!最新話がきた……。
無敵の廃読者諸君、最古参の初読者諸君。
満願成就の最新話が来た!勘違いの世界へようこそ!!
(imiwakannnee)

 

きっと神父が弄りまくるんだろうな~。ほら、他人の不幸は蜜の味の人だから。

NoTitle 

これは深海棲艦ですわ

NoTitle 

これは声にエコーかかってますわ

NoTitle 

4月から部署がまた変わった!といっても同じ建物の同じ階だけども…。


>名無しさん
>久遠さん
>からしばさん
お待たせしてしまって申し訳ない!ニコニコ超会議前にはきっちり更新したいです!

>東京都庁職員さん
>名無しさん
僕の作品の中でのギルガメは、エンキドゥが死んでしまった一因が自分にあるのではとちょっぴり後悔していて、イスカンダルの配下たちを見たことで、エンキドゥは果たして死んだ後も自分を好いてくれているのかと悩んじゃったりしています。孤独な身の寂しさを突きつけられて悄気げているギルと、生まれてこの方友だちなんて出来たこともない綺麗な綺礼の組み合わせを書いていきたいです。

>ゴッゴーズさん
雁夜おじさんは、今は超過剰評価ですが、少しずつそれに見合う力をつけていく予定です。原作ではボロカスな運命を辿ってしまった分、二次創作では精一杯輝いてもらいます!

>イザナギさん
頑張って、新社会人!
引っ越しはつい面倒くさくなって片付けとか後回しになっちゃいますよね。僕もしばらく、持ってきたダンボールを開けないまま押入れに置いてました。結局中身も捨てちゃいましたし。一人暮らしは、慣れれば楽しいです。一年目は掃除の大切さを身にしみます。ありがとう、母ちゃん……。僕は就職には不安しかなかったですが、いざ働き出してみるとそれほどでもないです。ネットで騒がれているような意地の悪い上司や先輩、後輩は見たことないです。希望を持って、会社選びをしてくださいね!

> さん
艦これのMAD動画を見てみると、たしかに深海棲艦って感じになってますね。カタカナで喋ってるところとか特に。「ヲ!」とか言わせたほうがいいのかもしれない。
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