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今日で27歳になりました。そして「エルフになって~」の試作。

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久しぶりのブログ更新。せっかく頂いたコメントも放置してしまっている。申し訳ないです。Twitterをしているとこちらの更新が滞ります。
ああ、小説をじ~っと書いていたい。休みがほしい。たまの休日に仕事の電話をかけてこないで欲しい。「君、なんで休みの日に電話に出ないの?仕事やる気あるの?」って、休日だからに決まってるでしょうが。休みの日も肌身離さずケータイ持ち歩くもんかよ。上司の人たちは今までそれでやってきたんだろうけど、それに慣れきってて、それが当然だと思ってるフシがあるから本当に怖い…。法律を守ろうぜ。コンプライアンスって言葉、今どきの流行りみたいなもんじゃないのさ。

それはともかくとして、9月29日を持ちましてついに27歳になりました。わーパチパチパチパチ。コンビニでケーキ買ってきて食べよ。







そして「エルフになって~」の最新話試作。ほとんど進んでないですが、内容はだいぶ詰めていけてると思ってます。





「黙りなさい。この、救いようのない、愚か者どもめ」

背筋を凍らせる低い声がこの少女から発せられたものだと、果たしてこの内の何人が理解できただろうか。皇国中を駆けずり回ってもあと一つ手に入るかわからない上等な長机がミシリと痛々しい音を立て、ようやく俺たちは、少女が―――ただの少女ではない伝説のエルフが、これ以上ないほどに怒りを露わにしていることを悟った。
拳を握りしめたトゥが一同をギロリと圧する。華奢な双肩からは立ち昇る気配は触れれば首を断ち切られそうな威圧感を放ち、ファレサ伯爵を数歩後ずらせた。戦慄の眼光は、ぐるりと回って意外にも俺にまで向けられた。まさか自分にまで怒りが下ると思っていなかった俺はギョッと目を見張って鋭いそれを受け止める。肩越しに俺を睨み上げる視線はクアムに対してよりも強く、先ほどまで胸中に滞留していた失意を吹き散らすほどだった。
俺はまた彼女の怒りを誘う失敗を犯してしまったらしい。その原因に心当たりがなくただ狼狽えるしかない俺にフンと小さく鼻を鳴らし、彼女は再び正面に顔を向ける。きっと呆れられたのだ。彼女の期待を裏切り、あまつさえその原因にも察しがつかない自分に腹立たしさを覚える。

「……僭越ながら、愚か者とはどういう意味ですかな、エルフ様?」

ゴクリと唾を飲み込んだ軍師のフィリアス子爵がさも不快げに問う。見れば、クアムや騎士団の幹部たちも似たような表情でこくこくと頷いている。物心ついた時から自分勝手な“正しさ”を権力で押し通し、それがまかり通ってきた連中だ。面と向かって「お前は間違っている」と突きつけられることに馴れずに面食らっているのだ。しかも、突きつけてきた相手が伝説上の存在と言えども|献上品《美少女》の形をしていれば、連中が気分を害するのは当然といえば当然だった。もちろん、トゥは献上品ではないし、献上品のように従順でもない。

「愚か者は愚か者です。貴方方は、自分たちが未熟な|野伏せり《・・・・》の寄せ集めに過ぎないことを、魔王軍がとても洗練された軍隊であることをまったく理解できていません。このセシアーヌ皇国が置かれている状況は果てしなく劣勢で、絶望的です」

 幹部たちが困惑にざわりと色めき立つ。かく言う俺も、トゥが確信を持って告げた台詞に驚いていた。魔王軍をひと目も見たことのない彼女がどうしてその練度と戦況の行く末を把握できたのか。おそらくは、目の前の勢力図を見澄ましただけで俺たちにはわからない何かを察したのだろう。
 「貴方たちの末路は、これです」。トゥがずいと身を乗り出し、華奢な指先で騎士団を示す黒い積み木をピシリと弾く。積み木は乾いた音を立てて魔王軍の真正面まで転がり、パタリと倒れる。赤い積み木に囲まれた様子はまるで血だまりに沈む死体だ。倒れた黒い積み木を通して|本番《・・》の戦況を透かし見て、我知らず慄然の汗が頬を伝う。
 
「はっきりと言ってあげましょう」

トゥの不機嫌な目が積み木から外れ、幹部騎士たちを貫く。何を言われるのか察して身を固くした壮年の男たちに、耳触りの良い少女の声で、鉄拳のように厳しい台詞を言い放つ。

「今の貴方方は、逆立ちしようが空を飛ぼうが水に潜ろうが、勝利の可能性など万に一つもありません。待っているのは騎士団の|自滅《・・》と人類の全滅です」

まるで教本に載った常識を諳んじるようにきっぱりと告げた。白銀色の双眸は確固たる論拠を見据えて強い輝きを放ち、ハッタリだと薄笑みで詭弁を弄する余裕すら跳ね除ける。

「さ、さ、さに―――然にあらずッ!!」

怯えを振り払うようにファルコ伯爵が癇癪を起こした。堀深な額の下で目玉が剥き出しになっている。
収入源の多くを頼っていた飛び地の農耕領を魔王軍に滅ぼされたことで、伯爵家は来年度の税の支払い―――その税の大部分はガーガルランド家に流れる―――すら捻出できるか怪しいとの噂だ。己が一番槍を担うことで来年の税負担を少しでも容赦してもらわねばならない身としては、トゥの言葉はあまりに厳しく、受け入れ難い。

「わ、我らが|自滅《・・》ですと? 神聖不可侵にして精強なる我が討伐軍が、言うに事欠いて自滅ですと!? いったいどんな根拠があってそのような荒唐無稽なことを仰るのか!?」
「ファルコ伯爵の言に賛同致しまする! 1000年の歳月をかけて精錬された我ら皇国騎士団が……よりにもよって野伏せりに等しいですと? 我らが汚らしい魔王軍に劣り、あまつさえ自滅するですと? 荒誕極まるお話だ! その所以があるのなら今すぐにご教示願いたい!」

矜持を傷つけられた幹部たちが瞠目し、目の前にいるのが伝説の存在であることも忘れて憎々しげに喚き立てる。大の男たちが大声を上げて少女を問い詰めているというのに、俺の目には、追い詰められているのは男たちであるように見えた。事実として、やはりそれが正しかった。部屋に渦巻く逆鱗の気配を物ともせず、トゥが幹部たちを静かに睥睨する。そして、なぜだかどこか寂しそうに答えを紡ぐ。


「私の国が、そうなったからです」


「……君の、国が?」

 唐突に静まり返った部屋に俺の問いだけがポツリと落ちた。思いもよらない解答に呆然と問い返した俺を振り仰ぎ、トゥが小さく頷く。争いとは無縁そうな少女の| 顔 《かんばせ》に暗い影が差した気がした。

「先ほど私の世界について話しましたね、カーク」
「あ、ああ。エルフの世界には大小たくさんの国々があって、様々な人々がいる、と」
「ええ、そうです。約60年前、私が属する国は、その国々を―――|世界を敵に回して《・・・・・・・・》戦いました。後に“世界戦争”と呼ばれるその| 大 戦 《おおいくさ》は6年間続き、私の国は完膚なきまでに焼かれ、振り続ける敵の炎によって大地は隅々まで焦土と化しました」

この可憐な少女を生み育んだ国が、焼かれた―――?
俺は勝手に、彼女の故郷はセシアーヌが遠く及ばぬ天上の国だと思い込んでいた。完璧な為政者と優れた領民によって成り立つ、究極の魔術と光り輝く財宝に溢れた世にも美しいエルフの王国なのだと。厳然とした法と秩序によって律せられた、争いとは無縁の理想郷なのだと。
しかし、「仕方がなかったのです」と呟いた彼女の口からぽつぽつと語られるのは痛ましい真実だった。

「世界が広く、国が多くとも、それが豊かと同義であるとは限りません。人が多ければ、着るものが要ります、水が要ります、食べ物が要ります、建材が要ります、鉱石が要ります、燃料が要ります、贅沢品が要ります。国民を養うために、限られた資源を多くの国々が奪い合いました。強い国が弱い国を食い物にし、強い国でさえもっと強い国に食い物にされます。国が奪われるのです。次第に世界は不信で満ち、互いに睨み合い、隙を探り合うようになりました。常に力を追い求め続けなければ簡単に付け入られます。弱肉強食のうらぶれた時代で、我が国もまた生き残るために必死でした」

エルフの世界は決して輝ける黄金郷などではなかった。セシアーヌがぬるま湯に思えるほどに、酷烈で無慈悲な世界だったのだ。この世界の| 戦 《いくさ》とは次元が異なる国と国による『戦争』を突き付けられ、激昂していたはずのファレサ伯爵は胸を塞がれた様子で口を噤み、トゥの話に聞き入っている。伯爵だけではない。その場にいる全員が、伝説や言い伝えではない|生《なま》の戦争を脳裏に浮かべて動揺に息を呑んでいる。

磨き抜かれた宝玉のような少女の口から告げられる悲話は触れれば触れそうなほどに現実味を帯びていて、平和という名の怠惰の沼に浸りきっていた俺たちの心を激しく揺さぶり続ける。

「|御国《みくに》の……御国の兵は、どうなったのですか」

 息を詰まらせたような声音で、もっとも若い上級騎士が問うた。セシアーヌに存在する全ての種族を相手取って戦いを挑むなど、いくら自信過剰な騎士団にも言い出す者はいない。だが、トゥの国の戦士たちはそれを行った。そうしなければならなかった。生まれ故郷を、妻子を、親兄弟を、朋友らを護るために、絶望を抱いたまま立ち向かわなければならなかった。そんな彼らと今の自身の立場に共通するものを見出したらしい幹部を見やり、トゥは抑揚のない目と声で応える。

「勇敢なる我が兵らは果敢に戦いました。国力の差を技術と練度で補い、当初は互角にまで持ち込みました。しかし、物量差から考えて最初から勝利を収められないことは目に見えていました。“如何に引き分けるか”……そのような状況だったのです。しかし、日に日に戦局は泥沼化し、領土は削られ続け、いつの間にか趨勢は“如何に負けるか”に変わっていきました。国が滅ぼされないために、より良い条件での敗北を模索するために、敵の譲歩を引き出すために、敵の進軍を一秒でも遅らせるために、兵たちは命を賭して抵抗を続けました。故郷に帰ることの出来た者はほんの一握りです。家族に別れを告げて|負けるための戦い《・・・・・・・・》に赴く彼らの苦悩と無念は計り知れません」
「なんと―――なんと、残酷な……」

 フィリアス子爵が声を軋ませた。誇りも名誉もなく、得るものすらない。赴けば二度と帰って来られない虚しい戦いに身を投じる恐怖を脳裏に思い描いたのだろう。先ほどまでの威勢は微塵もなく、青白い横顔を震わせるばかりだ。この男のような貴族騎士にとって戦とは、圧政に耐えかねて蜂起した領民の弾圧や、異種族との諍いや、野盗の討伐と同義だ。潤沢な装備の私兵を有する彼らにとって、それらは当然のように勝利できる程度のものでしかなく、自身の名誉を嵩上げし、貴族社会での地位を引き上げるための“手段”でしかない。ほんの一秒を稼ぐためだけに命を捨てる覚悟を決めるなど、派手な矜持を誇示したがる貴族には到底受け入れられないのだ。

「い、如何ほどですか」

その隣で、顔面を蒼白にした若い騎士が再び問う。それはその場の誰もが気にかかり、だが言い出すのは窮すことだった。

「その凄惨な大戦で、いったい如何ほどの者がこの世を去ったのですか?」

答えるトゥの声音が一段低く、小さくなる。

「戦死した兵士は230万人、亡くなった無辜の民は80万人。世界全体では5000万を超える人々が命半ばにして戦火に巻かれながら亡くなりました」
「「「 5000万!? 」」」

 幾人かの掠れた声が重なった。その中には衝撃に蹌踉めいた俺も含まれている。
ここに居並ぶ幹部騎士たちはセシアーヌ皇国において押しも押されぬ一等貴族、即ち大領主たちだ。彼らが自領に住む人類と亜人類を残らずかき集めたとしても、1000万にすら遥か遠い。
たった6年の間に5000万もの魂が精霊神の御下へ消えていくほどの戦争とはどれほどに熾烈なのか。おそらくは剣や弓によるものではない。皇家直属の魔術師が足元にも及ばないような高度な魔術の応酬に違いない。夜闇を切り裂く魔の火球が豪雨のように降り注ぎ、一夜の内に幾つもの国が灰と化していく。
もはや個人の蛮勇が戦況を左右することはない。蹂躙される側はただ座して死を待つだけの、無慈悲で惨憺たる地獄―――。



――――逃げろッ、カーク!!
 


(うっ……!?)

その様子を思い描こうとした刹那、かつて嗅いだことのある陰鬱な臭気が鼻腔を抉った。思いもがけず記憶に蘇っただけで吐き気に目が霞むほどの悪臭。10年前、魔王軍によって全てを奪われた、あの時の記憶だった。

|燃えてはいけないモノ《・・・・・・・・・・》が燃えていく壮絶な光景が脳裏に蘇り、全身が汗ばみ、鬼胎が骨身を凍らせる。あれほどまでの惨状を目にした者は果たしてこのセシアーヌに二人といるのか。

森林が、川が、田畑が、家々が、動物たちが、容赦無い炎に巻かれ、穢されていく。
凶刃が人々の営みを容赦なく切り裂き、生きながら食い殺される人々の阿鼻叫喚が耳を劈く。
つい先ほどまで笑顔を交わしていた者たちが物言わぬ肉塊となって壁や地面にぶちまけられ、足の踏み場を奪う。
むせ返るような泥と血と臓物の臭いがそこら中から漂い、正気と気力をごっそりと削る。
悪夢すら霞む様相を後景に羽織り、金色の髪の|地獄《・・》がゆっくりと近づいてくる。
 恐怖に震え上がるこちらをローブの下の金色の眼球で冷たく睥睨する地獄の権化―――魔王。
奴によって、我がユイツ・アールハント子爵家の領地は一夜の内に炭とかした。

あの地獄の何倍もの恐懼と絶望が、トゥの国を襲ったのか。


「―――トゥ、君はまさか―――」

 エルフは常若の存在だという。ヒトを成長させ、老いさせるには容易い10年の歳月も、エルフにとっては些細なものかもしれない。ならば、この麗しの少女はその目で見てしまったのだろうか。自らが生まれ育った故郷が無残に焼き尽くされ、人々が黒い炎に炙られるおぞましい状景を、その宝石のような瞳に映してしまったのだろうか―――。
俺の呟きに一瞥を返したトゥが、途端に不機嫌そうに片眉を上げて唇を尖らせる。

「……もしかして、今、私の年齢が60歳以上だと考えましたか?」
「え?」
「私がそんなお年寄りに見えますか? 戦争は私が生まれる前に終結しました。今では復興も終えています」
「そ、そうなのか。よかった」
「やっぱり考えていたんですね。失礼な人です」

 彼女は直接、戦争を経験したわけではないらしい。トゥが俺と同じ苦しみを背負っていないのだとわかって心の底から安堵する。そして、トゥが少なくとも60歳には達していないことがわかって少しだけ安心する。本当は幾つなのか尋ねてみたいが、女性は年齢を知られるのを好まないと友人から忠告を受けたので気が引ける。トゥならば躊躇いもなく教えてくれそうな気もするが、これ以上機嫌を害してしまうのは怖いのでやめておこう。
 二重の理由でホッと胸を撫で下ろす俺に怪訝そうに鼻を鳴らし、トゥが地図上の黒い積み木―――騎士団を記号化したもの―――を摘んだ。現在、騎士団が集結している首都にそれを置くと、「御覧なさい」とゆっくりと前線に移動させていく。赤子が這うような緩慢な移動速度は、彼女が知る戦争の| 理 《ことわり》に基づいてのものなのだろう。じれったくなるようなそれに男たちの視線が傾注される。

「私の国もこのセシアーヌと同じ島国でした。島の中での戦いの経験はあっても、それを超えた長距離の進軍の経験は少なく、手探りの状態で戦争に踏み切ってしまった失敗は否めません。遠く馴れない地で戦うことがどれほど険しいことであるのか、想定が甘かったのです」

直接、戦火を生き抜いたわけではないにしても、その言葉の説得力が薄れることはない。彼女の世界の戦争とは、俺たちが今まで経験してきた百人規模の小競り合いとは比べ物にならないし、何よりも、何百年も前の言い伝えや古い文献でしか知識を知り得ない俺たちと違い、彼女が知る戦争はたった60年前のものだ。この皇国の誰よりも彼女は戦争について詳しい。

(“エルフは人類の及ばない膨大な知識を有する”、か。確かにその通りだ)

エルフについての伝承が真実であることを改めて思い知らされ、自然に胸が熱くなる。伝説そのままの英雄と行動を共に出来る栄光を誇っただけではない。思いもがけないトゥの知慧に一縷の希望が見いだせたからだ。彼女が―――“伝説の|救世主《エルフ》が戦乱の現実を語れば、或いは騎士団も無謀な遠征を取りやめるのではないか、と。
現に今も、幹部騎士たちはトゥの論理だった説明にじっと耳を傾けている。

「私の国の敗因の一つこそ、長距離の進軍に不慣れだったことによる|戦線の断裂《・・・・・》。すなわち、補給という軍隊において実はもっとも重要である行為を二の次にしたが故の失策です」
「お、お待ちください。|もっとも重要《・・・・・・》ですと? 最前列に居並ぶ騎士たちの剣槍盾よりも肉やワインが勝敗を分けると仰るのか?」
「その通りです。守勢のみに集中できるなら補給のことはさほど考えなくても済んだでしょうが、此度のように進軍するとなればそうはいきません。戦線が伸びれば伸びるほどに補給の重要性は増していきます。私たちがそのことを思い知ったのは戦況が悪化の一方に転がり落ち始めた時でした。今の貴方方はまさにその二の舞を踏もうとしています。いえ、補給を各貴族家の自己責任としてしまっているのでは、私たちよりも悪い結末を迎えるでしょう」

 騎士団の幹部たちは、いつの間にか黙してトゥの言葉に耳を傾けていた。トゥの言葉にはそれだけの力と裏付けが備わっていたからだ。皆が皆、初めて耳にする“戦争の常識”に真剣に耳を傾けている。
その様子をおもしろく思っていないのは、自身の計画を頭から否定されているクアムだけだ。トゥに吸い寄せられていく幹部たちの背中を見渡し、これ見よがしに機嫌悪げに舌打ちをする。やはり、奴は己の過ちを認めることはできない。母の胎内に精霊神の寵愛を置き忘れたのだ。
熱弁を振るうトゥの傍らに控えつつ、じっとクアムを睨みつけて下手な動きに出ないように牽制しておく。自身に向けえられた視線を疎ましく思ったか、それとも己が求めるエルフに低級騎士が近づくことを良しとしなかったか、クアムの眉間に亀裂のような深い皺が刻まれる。あの男が俺と視線をぶつけ合うことに熱中してくれている間は、奴がトゥを黙らせようと暴挙に出る心配はない。

「仰る通り、我が騎士団にとって此度の進軍は初陣となります。ですが、それが原因で自滅するとは些か腑に落ちませぬ。セシアーヌから進軍してヘルダオの牧草地の辺りで接敵するまで、伝令用の早馬なら不眠不休で走れば一ヶ月と掛かりませぬ。各々の貴族家が我先にと戦場に行き競えば、到着に要する月日はその程度であるはず。ならば、たった一ヶ月分の補給に固執する必要など……」
「それは進軍とは言いません。そも、討伐軍は貴方方のような馬に乗った者ばかりではないでしょう。馬匹を持たない者たちの方が多いはず。歩兵、家臣団、傭兵、民兵、魔術師団、さらには身の回りの世話をする家来。これら全員が馬のように早足であるはずがありません。貴方方は疲労困憊となった騎兵のみで敵と相対するつもりなのですか?」
「た、確かに」

 質問をした者が納得して飲み込んだのを見届け、トゥが次の動きに出る。緩やかに進む黒い積み木の後ろに、別の小さな積み木が次々に置かれていく。まるで荷を満載した馬のように、進軍速度は急激に落ちた。

「これが本来の貴方方の速度です。想定の5倍以上は遅いと考えなさい」
「5倍以上……!?」
「ええ。問題はまだあります」

黒い馬は這いずるような速度で魔王軍に向かって歩を進めるが、小さな積み木はその度に振り落とされて散らばる。これがいったい何を意味しているのかわからず、皆が一様に訝しげな表情を浮かべた。

「進軍当初は一つに固まっていた軍も、慣れぬ進軍を続けるに連れて足並みに乱れが生じていきます。馬に乗る者、乗らぬ者。体力に優れる者、優れない者。軽装備の者、重装備の者。その上、それぞれの貴族家が思いのままに休息を取り、好き勝手に陣を作り、独自の補給に頼って行動していれば―――」
「なんと、討伐軍が……!?」

 誰かの驚愕の声の通り、輿地図には首都から戦場まで伸びる縞模様が描かれていた。進路上に点々と置かれた積み木が縞模様となって大蛇の表皮の様相を呈している。最初は整然とひと塊に固まっていた軍が、気づけば幾つもの小集団となって進路上に点在していた。

「個々の貴族家が勝手気ままに補給を得ていれば、足並みがまちまちになるのは自明の理です。2万5千の軍は、敵陣に到達する頃にはわずか数千の兵ごとに分裂した小集団の群れとなっているでしょう。そうなれば―――」

 トゥによって進められた最先端の集団が、ついに赤い積み木の大軍―――魔王軍に接敵する。翼のように拡がった敵軍との差は10倍どころではない。そこから貴族によって支配された騎士団が抱える弱点に感付き、「あっ」と思わず声を漏らした。

「10分の1の差でも心許無いのに、数十分の一となればもはや勝利など不可能です。戦争では数が物を言います。討伐軍が分散すればするほど、魔王軍にとっては小群を倒せば良いだけとなり、各個撃破の格好の標的となります。また、この魔王軍の配置―――“陣形”も忘れてはなりません」
「|ジンケイ《・・・・》?」

 中年を過ぎた騎士がぽかんとして聞き返した。トゥのこめかみがピクリとひくつき、彼女の苛立ちを示す。あの男は、大層立派な鎧を纏っているくせに肝心の戦法についての造詣は少しも持ち合わせていないらしい。陣形についての研究はほとんど為されていないとはいえ、この体たらくではそこらの野伏せりの方がよほど役立ちそうだ。その間抜け顔を早く仕舞え、と内心で拳を振るう。

「隊列のことです。横一列、縦一列よりもより効果的に兵を配置して敵に当たるための戦術、といえばわかりやすいでしょう」
「は、はあ。そうですな。確かに、わかりやすい」
「わかっていただければ結構です。では、貴方と、そこの貴方。私が騎士団を進めるので、魔王軍の両翼を閉じて下さい。翼を折りたたむように、内側に閉じるのです」
「し、承知致しました」

 少女に顎で使われる上級騎士の姿に滑稽さを覚えたのも束の間、「おお」と膨れ上がったどよめきに誘われて俺も輿地図に目を向ける。そこには、四方を赤い輪に囲まれて身動きの取れなくなった黒い積み木の集団があった。突撃しか知らぬ騎士団は、鳥の羽根に抱かれるように、完全に包囲されてしまっていた。

「“|鶴翼の陣《・・・・》”」

 初めて耳にする用語だが、使い込まれて洗練された言葉であることはすぐにわかった。

「敵を誘き出し、懐に入ってきたところを包囲して殲滅する容赦の無い陣形です」



~今のところここまで。キリがいいところで切りたいけど、イマイチいい場面転換が思いつかない~
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~ Comment ~

 

危ない、危ない。主さん、お誕生日おめでとうございます。
仕事は折り合いを着けないといけないから難しい物ですね。
今回は久しぶりのエルフになってで面白かったです。
次の更新待っています

Re: タイトルなし 

>ルクレールさん
大変なお仕事でお忙しい中、ありがとうございまっす!m(__)m
僕の会社は中小企業でありながら歴史はけっこう長いので、変な慣習というか旧態然とした意識が濃く残ってて、それに合わなくなった若い社員の離職率がハンパないです。何とかならないものか…。

エルフになってを読んでいただき、ありがとうございます。いつも感謝です。最近、全ての作品の更新が滞ってしまっています。早く更新したいです。

NoTitle 

遅くなりました、おめでとうございます。
自分は就活をどうすんべ、と焦っとります(滝汗
親には自分の夢――小説家になりたい旨を伝えており、応援もしてもらっておりますが、やっぱりそれまで職にはついとけと言われました
最近読んだ海外の小説(もち翻訳済み)の作者は14歳から書き始め、27歳でデビューしたそうです。自分もそのくらいには世に出る作品を作りたいなぁと思いますが、さてうまく行くかどうか…
とりあえずやりたいことと書くものを絞らないと。二次も含めて3つ同時に長編書くなんて自分の能力に合わないことをやってるもんで首が回んないです
自分もブログ更新せな。動画とかも作ってたら書く暇ががが

エルフの続き、楽しみにしております。頑張ってください!

 

美しい変化を貴方に、の続き、何故書かないのですか?
面白いのに。

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