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ファンタジー×ロボット×TS(仮) ※さらに追加

 ←うふふのふ。久し振りのブログ更新! →新作短編小説を投稿しました。
何かが出来始めている。愚作になるかどうかは自分次第だ。









 これは、青年がまだ|エルフになる前《・・・・・・・》の物語。




 西暦《anno Domini》3000年代初期、人類は科学に継ぐ新たな基幹技術―――|魔法文明《・・・・》を宇宙に芽吹かせた。
科学技術によって生命の謎を解明し尽くした人類は、自分たちの|内側《・・》に神秘のエネルギーが存在することを突き止めてみせた。それは個人差はあれど誰もが持っているものであり、遥か昔には“|魔力《マナ》”、あるいは“| 氣 《プラーナ》”や“|霊力《スピリット》”などと称されていた生命のみが有するエネルギーであった。文明を築いて3千年を経て、ついに人類は常に付き纏う足枷だった動力資源問題を文字通り“己の力”で解決する技術を手に入れたのだ。
すでに|宇宙空間跳躍《ワープ》まで開発して|開拓地《フロンティア》を掘り尽くし、種族規模の倦怠感に沈みかけていた人々は、その内なるフロンティアを多大なる歓喜と熱意を持って受け入れ、急速に発展させた。身近な家電製品から宇宙船に至るまで、魔力を動力とする| 魔力加速炉 《マナ・ジェネレータ》を採用した新製品が次々に市場を出回った。また、すでに発展の極みにあった遺伝子工学は瞬く間に人類という種族を|魔法技術《マナ・テクノロジー》に相応しいものへと強化させていった。次の世代はより多くの魔力を生み出せるように、さらに次の世代はもっと多くの魔力を生み出せるようにと際限なく驀進し続けた。生命倫理などどこ吹く風のダイナミックな勢いは、倦怠に立ち止まっていた時間を取り戻そうとするような白痴的なまでの生気に漲っていた。

 西暦4000年代に差し掛かった頃、早くも|魔法技術《マナ・テクノロジー》の進歩は行き詰っていた。人工的に魔力を製造する研究も徒労に終わり、切り札に思われた|魔力増幅器《マナ・ブースター》の効率化もすでに極限に達していた。
特筆して当時の人々を落胆させたのは、人類の遺伝子操作が限界を迎えたことだ。どんなに遺伝子的な改造を施しても、人間一人が生み出せる魔力の質や体内に保持できる量が、ある世代から横ばいのまま向上しなくなったのだ。それは「猿の延長線上の動物風情が調子に乗るな」という神からの痛烈な皮肉であるように思えた。造物主からの手痛い掣肘を加えられた人類が次の|段階《ステップ》に進むための技術革新を得るまでにはしばらくの停滞を要した。しかし、後の歴史を考えればその数百年の停滞こそが人類にとってもっとも豊かで安定した時期であったと言える。

 西暦4000年代半ば、|日本共和連合国《ジャパンユニオン》の研究者が発表した分厚い論文が世界的な物議を醸した。恋人を事件で失ったことを契機に命を削る勢いで研究に没頭していた彼は、|魔法技術《マナ・テクノロジー》はおろか遺伝子学、化学、医学、薬学、ロボット工学、数学、システム科学、建築学などなど多岐にわたって精通した“若き万能の天才”と讃えられていた。ある日突然、その彼が、薄汚れた白衣を振り乱し、非常に独創的かつ過激な解答とそれを実現させるための非の打ち所のない理論を世界に向けて発信したのだ。


『|人間《われわれ》がこれ以上先に進めないのは、我々を創った造物主そのひとが旧い考えに固執した時代遅れな頭でっかちだからだ。ならば、次は|我々自身が創造神《・・・・・・》|となればいい《・・・・・・》。突破口を開く|優生種《・・・》を我々が創ればいい。その方法を僕が教えよう』


 それは|魔法技術《マナ・テクノロジー》に適応した|より優れた種族《・・・・・・・》をヒトの手で一から創造するという、造物主の皮肉に対する荒々しい挑戦状であった。
 驚くべきことに、当初の人間社会はその大胆な発想の転換を是として柔軟に受け入れた。西暦2000年代半ばにはヒューマノイド・ロボットとの共存を果たしていた人類は新たなる種族の誕生も歓迎するだけの器量と自信に満ちていた。無論、この現象にも停滞していた数百年の遅れを取り戻そうとする集団焦燥が働いたであろうことは否めない。

 最初に神に対して挑戦状を叩きつけた男が、数多くの謎を心に秘めたまま人知れずひっそりと天寿を全うしたちょうど同じ年、彼の用意した理論を元にして、人類の生存圏で初めて魔力に特化した種族が北ヨーロッパの地で誕生した。ヒトの数十倍に至る魔力を|胎《・》内に収め、ヒトの数十倍に勝る精確さで魔力を制御するその種族は、一つとして無駄のない端整な容姿と新雪の如き|白純《しらずみ》の肌、ピンと後ろに尖った耳の特徴から、ヨーロッパ・ゲルマン神話に登場する半神族―――『|エルフ《・・・》』と命名された。
エルフは若い女性体のみが創造された。交配を防いでエルフの数をコントロールし、かつ人類に不要な敵愾心を持たれないためであった。立ち籠める濃霧を蹴散らしてくれる美貌の妖精の出現に人々は熱狂した。

だが、それも最初の数年間だけだった。エルフは人間を|必要以上《・・・・》に凌駕してしまっていたのだ。

 エルフが人類社会に参入していくに連れて、魔法文明は飛躍的な向上を見せた。清廉潔白な性質を与えられたエルフは造物主たちに懸命に奉仕し、政治・医療・司法・環境・軍事などあらゆる分野で貢献を行った。一部の特権階級はエルフの保有数をステータス・シンボルとして誇示するなど非人道的な扱いを強いたが、造物主を敬愛する彼女たちは直向きに受け入れた。
文明がステップを着々と上がる一方で、その|階《きざはし》を登れない人々は確実に社会の隅へ淘汰されていった。|魔法技術《マナ・テクノロジー》が根底に敷かれた文明において、最初からそれに適合してデザインされた種族と、20万年以上も回り道をしていた種族とでは差が生じてしまうのは自明の理だ。それすらもわからないほどに人類は理性を失っていたのだ。すでに理性を失っていた人々がエルフを迫害するようになるまで、さほど時間はかからなかった。各地で身勝手なデモが起こり、危険な暴動に発展し、少数のエルフやエルフを創造する施設、それらに関わる人間が暴力の捌け口とされた。
自然、エルフはじわじわと人間に対して負の感情を萌し始める。自分たちの都合で生み出しておきながら、都合が悪くなると力で排除しようとする野蛮な人々を、彼女らは疎ましく思い出した。
その負の感情が『適者生存、優勝劣敗』のイデオロギーを掲げる社会的ダーウィニズムと化学反応を起こした西暦5000年代初頭、人類史上最悪の没落が始まった。『|優生種の反乱《エルフ・ウォー》』である。「なぜ人類より優れた私たちが人類の奴隷とならねばならないのか」、という疑問は当然のものであった。
勿論のこと、これを予測していなかった人類ではない。エルフにはゲノムレベルの|安全装置《ロック》によって造物主への反抗禁止と寿命制限が植え付けられていたはずだった。しかし、奇妙なことにそれらは反乱を率いる|原初の《オリジナル》エルフが早々に解除してみせた。これにはエルフの境遇を憂いた人間の協力者がいた可能性や、彼女を設計した日本人研究者の故意だったという説もあるが、それらは噂の域を出なかったし、噂話に耽る余裕も無かった。
すでに全人口の何割かを占めていたエルフの猛攻を前に、人類の軍隊は多大なる犠牲を伴って対抗した。特に、彼女たちの貢献によって建造された人型巨大兵器『アルミュール』―――フランス語で『鎧』を意味する―――を駆るエルフの脅威は凄まじく、重戦車は卵の殻でも踏み付けるように粉砕された。種の存続を掛けた両者一歩も引かぬ戦いは地球規模に発展し、その苛烈さは想像を絶するものだった。全宇宙でも数少ないであろう単一種族の文明は、積み重ねてきた数十万もの年数とはあまりにかけ離れた短い期間で衰退の坂を転がり落ちていった。

100年後、国一つと引き替えの果てに|原初《オリジナル》にして最後のエルフを反物質爆弾にて根絶するに至り、荒廃した地球を見回した人類はようやく悟った。造物主となるには自分たちは未熟に過ぎたのだ、と。

 そうした惨状から、人々が母なる星から目を逸らすことを選択するのは必然であるように思えた。戦争によって資源が使い果たされたこと以上に、虚しく忌まわしい記憶に満ちた星で平気な顔で住み続けられるような胆力を辛うじて生き残った彼らは持ち得なかったのだ。
地球に残ることを選んだほんの僅かな人々に見送られ、彼らは後ろ髪を引かれる思いに胸を締め付けられながら外宇宙の植民惑星へと|旅立っ《ワープし》ていった。二度と帰ることのないであろう灰色の星を後にして。







そして、さらに1000年以上の歳月が流れた。


西暦6000年代―――。
もはや|キリスト紀元《anno Domini》という由来すら誰も知らぬ遥か未来でも、人類は不屈の精神で万物の霊長の地位を保っていた。しかし、そこにかつて外宇宙へと足を伸ばした偉大なる種族の面影は無い。過ぎ去りし栄光のわずかな残り火を不鮮明な形で継承しながら、人類は新たな歴史を歩んでいた。
西暦6322年。|統一王国歴《・・・・・》298年。この年、歴史の大海は激動の時代に向けて再び大きくうねり出そうとしていた。
だが、それにはまず一人の若き騎士の終焉を経なければならない。




統一王国歴298年 10月20日
|ガメニア三国《トライガメニア》連合王国、セリオス山脈



 ショック・アブソーバーが相殺しきれなかった衝撃がコックピットを突き抜ける。巨大の手に|叩《はた》かれたような轟音が耳朶を打ち、頭蓋に加わる遠心力に引っ張られた首が水飴のように捻じれそうになる。ひん曲がった関節がゴキゴキと耳触りな音を響かせ、ハーネスが腹部を潰さんばかりに食い込む。チューブのように絞られ逆流した胃液が足元にぶちまけられるが、汚れた口元を拭う余裕などない。目眩に赤黒く明滅する視界で計器が次々に破裂してガラス片を散らす。今ので姿勢指示計と水平位置指示器が死んだ。それらは経験と勘で補うしかない。敵味方識別装置は付いたり消えたりを忙しなく繰り返している。不幸中の幸いか、敵味方の識別は気にしなくてもいい。もう|識別する意味がない《・・・・・・・・・》。

『どうしたどうしたぁ、動きが鈍いんじゃないのか、リン!?』

甲高く歪んだ声に重ねて再度の衝撃。|朱《あか》い影―――敵味方識別装置では|味方《・・》のはずの機体―――が右に左に走ったかと思いきや、激震とともに左側面モニターが音を立てて砕け散った。これで左右と後方の外界情報は完全に塞がれた。残ったモニターは前面と上下方モニターのみだが、俺の視界と同様に頻繁に砂嵐がチラつく画面はいつ消えるかもわからない。後は|磁場索敵装置《レーダ》を頼りにするしか、と心中に独語した途端、タイミングを見計らったかのようにレーダが“|お手上げ《エラー》”を表示した。ギョッとしてコンソールに伸ばした手に冷たい雫がポタリと落ちる。雨がコックピットにまで入り込んできている。|基幹骨格《バイタルフレーム》も損傷を受けたらしい。この|機体《アルミュール》のコンソール・モジュールは防水処理の評判がすこぶる悪い。このまま浸水が続けば他の機器もショートしてしまう。

「冗談じゃない、後ろはランビア川に落ちる崖だぞ!?」

高さは優に150メートルを越える高い崖だ。レーダまで失われては正確な距離が掴めない。|敵《・》はわざとこの位置に俺を追い詰めたに違いない。最初の不意打ちで後部カメラを破壊したのもこれを狙っていたのだ。少しずつ|甚振《いたぶ》って、最後にランビアの激流に突き落として機体ごと証拠を隠滅する気だ。

「踏ん張れ、エタンダールッ! 貴様、それでも|騎士隊《シュヴァリエ》専用アルミュールかッ!?」

機体に向けて激昂し、両手の|操縦桿《スティック》を強く握りしめる。総進が燃えるように熱くなり、手の平に握り込むように備え付けられた|魔力受給石《マナ・レシーバ》がその怒りを受け止める。怒りのエネルギー―――“魔力”を吸い上げたジェネレータがその機関音を一気に高音域まで引き上げる。たたらを踏んでいた全高8メートルの巨人が|乗り手《パイロット》の叫びに応え、地に足を食い込ませてその場にズンと踏み止まった。
唯一余喘を保つ機関出力計が現状で望める最大出力に到達したことを伝えるが、それでも相手が相手なだけに頼りない。“|騎士隊《シュヴァリエ》”用に建造されたこの|機体《アルミュール》は|魔力加速炉《マナ・ジェネレータ》の性能こそ軍の|量産機《ミステール》や|量産指揮官機《シュペル・ミステール》に倍するものの、大戦後に設計されて大した実戦を経験していないために各部にデリケートさが目立つ。だからこそ、|蒼の最新鋭機《ミラージュ》―――俺の愛機が次の時代を担う機体となるはずだった。
フットペダルの踵部分を踏み込み、エタンダールを数歩下がらせて間合いを取る。相対距離は60メートルといったところか。豪雨でぬかるんだ地面の感覚がフットペダルを伝って足裏を|ズルリ《・・・》と滑る。

「遅い……!」

操作に対して機体の反応が著しく遅れている。機体の老朽化を考慮しても鈍すぎる。左脚部から金属の擦れる異音が聞こえる。先ほど剣の一撃を喰らった膝部が原因に違いない。

『ははは―――王女様の覚えめでたいリン・ガーランド様ともあろう騎士様が、ずいぶんと格好が悪いじゃあないか! そうは思わないか、マドスン!』
『隊長閣下の仰るとおり。同じ騎士隊としてなんと情けない!』

 卑怯者め、と返してやりたかったが、機外スピーカは潰されているし、送音マイクは胃液にまみれて足元に転がっている。これではあの悪辣な男を罵るどころか舌戦での時間稼ぎも出来ない。あの男を―――フォーサイス・ドゥ・スコット公爵の汚らしい口を閉じさせるには実力を持って行うしかない。
 せめてもの意思表示にと|操縦桿《スティック・レバー》を操作して剣を中段に保持しなおし、フットペダルを強く踏み込んで迎撃態勢を取る。やはり鈍い。ミラージュの敏捷性に比べれば達人と素人だ。

「ミラージュであったなら、こんな無様な戦いは……!」

 今さら言っても始まらないが、それでも歯噛みせずにはいられない。機体さえ同レベルであれば、フォーサイスに後れを取るなど断じてありえない。それは奴も理解している。理解しているからこそ、ミラージュに緊急点検が発生したという欺瞞情報を流し、老朽機で哨戒任務に出撃せざるを得ないように仕向けたのだ。その上で、自分は|朱の最新鋭機《ラファイエット》を駆り、さらに子分を引き連れてくるなど騎士の風上に置けない卑劣漢だ。……もっとも、その虚報を信じてノコノコと出て行った俺も十分に戯け者だが。

『黙っているところを見るに、送音機器が壊れたようだなぁ。そうさ、貴様など口を閉じてその美人面で男色家のチャーリー伯にでも可愛がってもらえばよかったのだ。騎士隊でこの私と肩を並べ、あまつさえ小癪な密告で我が公爵家を貶めようなど、男爵家の次男坊風情が片腹痛いわぁっ!』

 前部モニターを殺意を込めて睨みつける。劣等感を刺激されたこと以上に、爵位を鼻にかけて不正を行うことに何の負い目も感じていない態度に|腸《はらわた》が煮えくり返る。このような上っ面だけの浅ましい人間が公爵として大きな権力を振りかざしているから、この王国は腐敗する一方なのだ。
 このまま俺が殺されてもフェアな調査は行われしまい。公爵の権力によって『反乱軍に殺された』などと適当な理由をつけて闇に葬られるだろう。俺が告発した不正をそのまま俺の罪として公表する腹積もりかもしれない。そんなことになれば我が男爵家にも悪意を持った災いが及ぶ。幼少から世話になっている兄上に迷惑はかけられない。意地でも斃れてなるものか。

『隊長閣下、元はといえば小官めの失態により発した些事である故、不始末の片付けは私めドン・マドスンにどうかお任せ頂きたい』
『良かろう、マドスン子爵。口封じは己の手でやるが良い。私とてラファイエットの珠肌につまらん傷を負わせたくない。手負いの女モドキとは言え、相手はリンだ。油断するなよ』
『くくっ、御意に……』

 ラファイエットの鋭角なフォルムが後ずさり、豪雨に隠れる。酩酊したような声遣いと共に正面にあらわれたのは、マドスン子爵の|発展型《シュペル》・エタンダールだ。華美に過ぎるゴテゴテとした装飾が|乗り手《パイロット》の人格を物語っている。だが、今はマドスンの詰めの甘さに感謝しよう。“手負いの女モドキ”が雄獅子より恐ろしいことを身をもってわからせてやる。
 シュペル・エタンダールが左腰部に帯びた大剣を仰々しく抜き放つ。緩慢にすら思える大きな動作は奴の余裕の表れであり、俺にとっての突破口だ。

『リン、貴公も不器用な男だ。大人しく我々と轡を並べていればこのようなことにはならなかったのに。このご時世、軍や騎士隊の物資の横流しなど公然の秘密ではないか。とかく地方の軍は微々たる給金に苦しんでおる。多少の|旨み《・・》がなければ、このような厳しいお役目など誰もせぬ。そんな社会の仕組みもわからぬとは、しょせん腕っ節だけのお坊ちゃんだな。青臭い、青臭い』

何とでも言うがいい。青臭いから何だというのか。王様は裸だと真実を唱えるのはいつだってその青臭い子どもだ。そも、年上とはいえ俺と貴様は同期入隊ではないか。領地が我が家の2倍あるからという程度でよくもまあそこまで偉ぶれたものだ。
憤激と呆れで頭に血が上るが、それに反比例して精神は鏡面の如く冷たく冴え渡る。感情を己の完全な制御下に置いてこそ、魔力は鋭く洗練される。左手のスティックレバーのスイッチを素早く指で叩き、前面モニターに延々と羅列される無数の警告を全てカット。気休め程度に見映えの良くなった視界に視線を走らせ、脳ではなく脊髄に蓄積された経験で、|この場で最適な《・・・・・・》挙動を決定する。

『なに、貴公がいなくなった後の騎士隊のことは気にするな。私が閣下を補佐し、軍の猿どもを蹴落として、王国にて比類なき力を持つ一大組織へと成長させることを約束しよう。副隊長には、私からよくよく事情を説明しておいてやる。なに、気にするな。同期の誼ではないか』

どうして|副隊長《カレン》の名前が出てくるのだ。彼女に何の関係がある。常に俺に対してつっけんどんとした硬い横顔が頭を過るが、これといった感慨は浮かばなかった。いや、騎士団の原則である『|勇気《クラージュ》・|名誉《オヌール》・|正義《ジュスティス》』に唾を吐きかけた者の言葉などいちいち気にかける価値すらない。豚の鳴き声の方が何万倍も聞き心地が良い。
 シュペル・エタンダールが相変わらず緩慢な遅さで剣の切っ先を正眼に構えてくる。狙われているのはエタンダールの喉元―――要するにパイロットである俺の頭だ。

『せめてもの情けだ。苦しむこと無くあの世に送ってやる。雄大なるランビアの流れに消えるがいい』

上等だ。掛かって来い。こちらも切っ先を正眼に上げて敵の喉元を狙い、返答の代わりとする。
 マドスンが口を閉じ、ピタリと沈黙が落ちる。緊張に鼓膜が突っ張る感覚を覚える。戦闘前の昂揚に鼓動が早まり、口の中が干上がる。ドウドウと装甲を叩きつける豪雨のざわめきだけが威圧的にコックピット内に響く。
機動力などの性能は、エタンダールに軽量化及び各種強化を施されたシュペル・エタンダールが部がある。機体の損傷具合も、満身創痍なこちらに対しあちらはほぼ無傷だ。真正面からの立ち回りでは圧倒的にこちらが不利。だが、|その程度《・・・・》では真の騎士には臆する理由足り得ない。
 ヒリヒリと張り詰める睨み合いの中、互いに一撃を繰り出すタイミングを探る。不意に、山の向こうで遠雷が轟いた。自然界の膨大な|魔力《マナ》の暴発に、機体の|魔力変圧器《マナ・コンバータ》が異常をきたす。これを利用しない手はない。瞬時に判断すると|推力桿《スロットル・レバー》をわざと最低値にまで引き下げる。続けて今まで辛うじて姿勢を保たせていた反重力発生器の唸りが低まる。傍から見れば雷に狼狽えて膝が砕けたような格好だ。
さあ、マドスン。初めて俺に勝利できるチャンスだぞ。どうする―――

『もらったァああああああああ!!!』

「それでこそお前だ、間抜け野郎!!」

 早すぎる勝利の絶叫をあげて間合いを急激に詰めてくるマドスンに対し、即座にスロットルを引き上げて姿勢を立て直した俺は敢えて敵の半分ほどの速度でエタンダールを走らせる。つま先で地を駆けるシュペル・エタンダールとは正反対に、踵でしっかと地面を踏みしめる。

 ズンッ、ズンッ、ズンッ、ズンッ、ズンッ、ズンッ
 ズシン、ズシン、ズシン

前方モニター、一つ目の巨人が地を蹴る度に運動エネルギーを蓄積し、押し寄せる風圧さえ錯覚するほどの迫力で肉薄してくる。その光景を前に俺は不敵な笑みを刻む。シュペル・エタンダールは軽量化されている分、機動力が高い。そして、奴の趣味の悪い装飾で重心が不安定になっている。重心が不安定かつ軽い機体が|こんな地面《・・・・・》で全力疾走すればどうなるかなど、火を見るよりも明らかだ。
 シュペル・エタンダールのつま先が、ついに先ほどまで俺がいた|ぬかるみ《・・・・》に踏み込む。

「―――今だッ!」

相対距離が10メートルを切ったところでコンソールに拳を思い切り振り下ろす。赤いスイッチが誤操作防止カバーごと叩き潰れ、同時に踝部に設置された緊急固定用の|鉤爪《クロ―》が火薬の炸裂によって飛び出した。ズドンと砲撃に似た音を立てて鋼鉄のクロ―が地面に深々と突き刺さる。ガリガリと地面を抉る激震がコックピット全体を怒涛の如く突き上げる。フレームと悲鳴を上げ、コンソール・モジュールから幾つもの部品が火花を散らして脱落していく。強制的にブレーキをかけられたエタンダールの上半身がガクンとつんのめり、半瞬を置いて停止する。そのタイミングでスティックレバーの最下部のボタンを小指で押し込み、駆動部のトルクを|固定《ロック》。

『―――馬鹿者ッ! 避けないか、マドスン!!』
『え―――ぉお、おおおおおッ!!??』

 こちらの意図を悟ったフォーサイスの上擦った怒号は雷鳴にかき消された。
フォーサイスの眼前。世界を染めるほど強烈な雷光に照らし出されたのは、大地を踏み締めて前方に剣を突き立てる巨人と、その剣先に向かって|自ら倒れ込む《・・・・・・》巨人の姿だ。
 脳内物質の分泌によって引き伸ばされた瞬刻の中、ゆっくりと迫るシュペル・エタンダールの頭部にマドスンの恐怖と絶望の顔が透かし見えた。一瞬後に襲い来る衝撃に奥歯を噛み締めながら、冷嘲に呟く。

「泥の上で走ると転ぶぞ、|お坊ちゃん《・・・・・》」

 次の瞬間、腹底まで突き抜けるような衝撃が機体をあらゆる方向に揺さぶった。匙を投げたショック・アブソーバーが大振動を直接肉体に押し付ける。コンソールから噴き出した炎が崩壊寸前のコックピット内部を赤々と照らし、見開かれた網膜を灼く。鼓膜を弄する轟音と同時に残っていた全てのモニターが砕け、勢い良く散逸したガラス片が反射的に逸らした頬を浅く切り裂いてヘッドレストに突き刺さる。10トンを超える重量物との衝突に|基幹骨格《バイタルフレーム》がメキメキと音を立ててたわみ、カタログスペックの限界値を遥かに越えた負荷が各駆動部を押し潰した。スティックレバーを通し、|剣身《ブレード》がズズズと硬いものを貫いていく感触を覚える。ゴン、とコックピットの装甲に重いモノが当たる鈍い音を最後に振動は止まった。再びドウドウと叩きつける豪雨のざわめきが辺りに落ちる。湾曲した装甲の隙間から曇天が覗き見えた。暗闇を映すだけのモニターでは目視することは叶わないが、確信を持って言える。

「―――苦しむこと無くあの世に送ってやったぞ。感謝しろ」

俺の剣は、奴の身体ごとシュペル・エタンダールを貫いたのだ。
いつの間にか止まっていた呼吸を再開し、口端を釣り上げる。マドスンは騎士隊の訓練を怠り、不正に捻出した時間を自領地近くの地方軍と結託した軍事物資の横流しに費やしていた。反乱軍の鎮圧にもほとんど参加せず、私腹を肥やすことに邁進する体たらくだった。騎士としての心構えと経験の差が勝敗を分けたということだ。総身の血管に勝利の昂揚が走るのを知覚するが、まだ早いと理性で制す。まだ一騎、もっとも厄介な敵が残っている。
トルクのロックを解除してフットペダルとスティックレバーに力を込める。シートのすぐ後ろでマナ・ジェネレータが苦しげに喉を鳴らし、エタンダールが負傷兵の如くおずおずと立ち上がる。駆動部を固定していたからまだ辛うじて動けるが、もしそのままシュペル・エタンダールの突進を受け止めていたら間違いなく全壊していた。いや、機体だけではない。俺自身の肉体も限界に差し掛かっていた。|識閾《しきいき》下から疲労が泡沫の如く沸き上がってくる。体力以上に精神力の喪失を下っ腹に知覚する。ヘドロが絡みついたように身体が怠い。魔力を消費しすぎた。

「だが、まだだ!  まだ斃れてなるものか、諦めてなるものか!!」

 裂帛し、スティックレバーを胸元までグイと引き寄せる。五指に割り当てられたボタンを踊らせてマニピュレータを胸元の装甲に引っ掛ける。曇天が覗いていた隙間がみるみる広がり、果物の皮をめくるように装甲を|拉《ひしゃ》げさせていく。ダメ押しにモニターとコンソール・モジュールを力任せに蹴り飛ばせば、視界を邪魔していた分厚い装甲は根本から引き千切れ、轟音とともに大地を強打した。外気に曝け出された体表に瀑布のような雨が降り掛かり、濡れた綿服が不快な重さを増していく。

『……さすが、田舎侍の分際でミラージュを与えられただけはある』

そら、本命の登場だ。
大きく開けた視界、豪雨の向こうから一切の油断を廃した昏い声が忍び寄る。その方向、正面に視線を向ければ、朱く鋭い輪郭がじっとこちらを睥睨していた。雨に揺らめくシルエットは血に|塗《まみ》れた悪鬼のような禍々しさを放っている。前頂部からツノのように突き出た指揮官用アンテナが余計にそう思わせるのかもしれない。

「ラファール―――」

『|朱の最新鋭機《ラファール》』。世界に冠たる我がトライガメニア王国の王立陸軍兵器開発局が満を持して開発した、第5世代型強襲殲滅用|人型巨大兵器《アルミュール》。俺の『|蒼の最新鋭機《ミラージュ》』の兄弟機でもあり、精鋭を誇るトライガメニア|騎士隊《シュヴァリエ》の次期主力アルミュールの座を争うライバルだ。傑出した機動力を誇るミラージュとの決定的な差異はその圧倒的な膂力だ。新開発の大出力|魔力加速炉《マナ・ジェネレータ》を搭載したラファールは史上初めて二振りの重剣を帯びるアルミュールとなった。その威容は凄まじく、容赦を知らぬ嵐のように反乱軍の旧式アルミュールを叩き潰していく光景は味方であっても悪寒を覚えたほどだ。それが敵となった今、もはや悪寒では済まされない氷のような緊迫感が俺を支配していた。
 ズン、と朱い輪郭が大きく踏み出す。一歩一歩地を踏みしめる慎重な足取りはマドスンの覆轍を踏むまいとする警戒故だ。性根に蝿が集ろうと、やはり腐っても騎士隊の隊長、同じ手が通用する相手ではない。
何か奴を喫驚させて不意を打てるものはないか。数メートル下についと目を落とし、コックピットを貫かれて腹這いに倒れ伏すシュペル・エタンダールを見やり、その手に握られた大剣―――エタンダールと同規格―――を視界に据える。これで隙を突くことはできないか。

『どうした、リン。その剣を拾うがいい。それともまさか、それを使って私の不意を突こうなどと目論んだわけではあるまいな。もしそうならば、私も|鼎《かなえ》の軽重を問われたものだ』
「……! 言われなくとも拾ってやる!」

 これも見破られた。考えを見透かされた悔しさに歯噛みしつつ、機体を屈ませてシュペル・エタンダールから剣を乱暴にもぎ取る。それを見計らってラファールも背部にマウントされた両の剣をスラリと抜き放つ。|超硬合金《タングステン》の巨塊から削り出された世界で二振りだけの重剣はエタンダールのものの2倍の重量と破壊力を有する。それをまるで有るか無しと言わんばかりに軽々と振るってみせるラファールの埒外の膂力を見せつけられて肌が粟立つ。対峙するこちらは、駆動部の各所から軋みが聞こえて今にも膝をつきそうだ。ただでさえ防水性能の低いコックピットも雨晒しで、いつショートを起こして機能を停止するかわからない。機が訪れるのを待つ猶予はない。かといって退路がないのでは逃走することも叶わない。例え|万全の状態《ミラージュ》で挑んでも良くて互角な相手に、満身創痍の老朽機で勝てる見込みなどありはしない。
 ラファールが挑戦者を差し招くように両腕を開き、剣を左右に突き出す。羽ばたく直前の翼のようなその姿勢は、二刀流を得意とするフォーサイスが編み出した独特の構えだ。今まで、あの構えを打ち破って生きたまま懐に潜り込めた者はいない。一歩でも間合いに踏み込んだら最後、巨大な|鋏《はさみ》に真っ二つに両断されるからだ。数分先の己の凄惨な死体が脳裏をよぎり、怖気となって首筋をそそけ立たせる。かの『優生種の反乱《エルフ・ウォー》』で恐ろしいエルフと対峙した古代の勇者たちも、かくの如き恐怖を背負って絶望的な戦いに身を投じたのだろうか。

「ガーランドの先祖よ、エルフの猛威から無辜の人々を救済せし猛者よ。この不肖な末裔にどうか勇気をお分け下さい」

 閉眼して独り言ち、旧時代の戦人の雄姿を想像する。幼少から、行き詰まった時にはいつもこうしていた。想像の中の力強い背中が恐怖を風化させ、勇気を与えてくれるからだ。ガーランド家の始祖は迫り来るエルフと戦った兵士だ。先祖たちが絶望的な戦いから逃げずに勝利を掴んだからこそ、今の人間の世がある。彼らが命を賭して護った世界を、このような堕落した支配者にのさばらせてはならない。恐怖を誇りで克服し、豪雨に負けじと喉を震わせて大喝する。

「この身体を流れる血にかけて、お前を倒す! いざ推して参る、フォーサイスッ!!」
『おうさ! いざかかって参れ、リン・ガーランド!!』

 生への未練を自ら切り捨て、生命力すらも魔力に変えてマナ・レシーバを握り締める。コンバータ計の魔力圧が限界値に達したと同時にフットペダルを一気に踏み込む。蹴り出した勢いを殺さぬままに流れる動作でスロットル・レバーを押し込み、反重力発生装置を|全開に引き上げる《フル・スロットル》。瞬間、轟音を置き去りにして、エタンダールはミラージュに勝るとも劣らない瞬発力を発揮して自らを|射出《・・》した。衝撃波と風圧が剥き出しの体表を強かに殴りつけ、急激な重力加速度に晒された眼球に刺すような激痛が走る。石礫と化した雨粒が皮膚を次々に穿ち、裂けた唇から滲んだ鮮血が口腔に流れこむ。この血だ。先祖から連綿と受け継がれたこの血こそが俺に力を与えてくれる。
 乾いた喉に血を飲み下し、それすら身体を燃やす魔力に変えて、エタンダールが地を駆ける。

「おおおおおおおおああああああ!!!」

一塊の砲弾となった巨人が剣を突き出して肉薄する。眼前には今まさに|鋏《はさみ》を閉じようとする不動のラファールが立ち塞がる。






(続きはまだ)
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