二次創作

アルペジオ試作&悩み【改】

 ←大昔に書いたTS小説が発掘されたので晒す。後半エッチなので注意です。 →【未完】第四次聖杯戦争に“セイバー”が召喚されました。【少し更新10/28】
アルペジオの映画を見て執筆意欲が生まれたこともあるけど、一番は、冬コミ提出用のTS小説が詰まってしまったことからの逃避です。今さらになって僕は自分の限界に直面しました。書きたいけど表現しきれないんです。ダメです。自分が何を書きたかったのか、そもそも本当に書きたいものだったのか、ただの独りよがりにすぎないんじゃないのか、そんな気がします。テーマを大きく変更して書きなおす必要があります。でもどうすればいいんだろう……。





『イ405』
第二次大戦時の旧日本海軍潜水艦伊405の形状を模した“霧”の潜水艦である。イ400シリーズ(イ400、401、402)の末妹にあたり、メンタルモデルも酷似している。シリーズ最終型のため巡航潜水艦としての基本性能は姉妹の中でもっとも優れており、イ405自身も最強の自負を心に秘めていた。元々は総旗艦ヤマト直属の隠密部隊として世界中で活動していたが、イ401の離反と人間の艦長を得てからの快進撃を耳にして密かにライバル心を募らせていた。その所属が東洋方面巡航艦隊に移され、艦隊旗艦コンゴウからイ401の尾行を命じられると、彼女は生まれ持った逸り癖から命令を逸脱してイ401に対して単艦で攻撃を仕掛けてしまう。人間の艦長という“|装置《ユニット》”は基本性能の差を埋められるほどのものではないと判断したからだ。しかし、高度な戦術を駆使する401による痛烈な反撃を受け、暗い水底に沈むこととなった。命令違反に憤るコンゴウによって救助の声を阻まれ、深海に沈む孤独と恐怖に押し潰され、「なぜ自分には艦長がいないのか」と絶望しながら朽ちようとしていた。ついにメンタルモデルが砕け散る刹那、謎の少年の声とともに彼の魂と接触するイレギュラーな現象が生じ、奇跡の復活を果たすこととなった。
だが、その復活の形が彼女の願いと完全に合致しているかは定かではない。


『イ405-改』
 その名の通り、復活したイ405が改造を施された|特殊《・・》潜水艦である。本来のイ400シリーズは索敵性能に主軸を置いた装備を充実させており、索敵範囲・精度だけなら超戦艦級にも匹敵する(ちなみに、イ401は千早群像の意向と度重なる改造・移植によって純然な戦闘潜水艦となっている)。本艦もそれらの性能をそのまま引き継いでいるが、|とある戦闘《・・・・・》によって|徴収《・・》した兵装を装備したことで、通常の潜水艦では考えられない戦い方を出来るようになった。
 なお、原因不明の事象によってメンタルモデルは以前とはまったくかけ離れた人格を形成しており、非常に人懐っこく自由奔放で、一言でいうと|少年のような《・・・・・・》性格をしている。服装も、可憐な見た目にそぐわしい姉妹たちの装いとは異なり、サイズの合っていないあずき色のジャージなどおよそ色気のないものを意識的に好む。スカートなど女性らしい服装は特に避ける傾向が目立つ。
奇妙な馴れ初めから人間の艦長を座乗させている。粗野だが人情深い彼とは相性が良いらしく、広い艦内に二人っきりながら良好な関係を保っている。しかし、稀にセクハラじみたちょっかいを出される時があり、それに関してのみはぐったりと辟易しているようである。















ワンッ。
耳元で犬の声が弾けた。鋭さのカケラもない吠え声は小型犬特有のものだ。

ワンッ。
 
|呼んでいる《・・・・・》。ただ吠えているのではない。俺にはその声の意味がすぐにわかった。なぜなら、この鳴き声はかつての|友だち《・・・》のそれだからだ。

ああ、お前か。久しぶりだな。

胸を締め付ける懐かしさにふっと目を開くと、綿あめのような毛並みの犬がじっと俺を見下ろしていた。目も眩むような真っ白な世界を背景に、同じくらい真っ白な柴犬がどんぐり|眼《まなこ》で仰臥するかつての友を親しげに見下ろしている。豊かな白い毛並みから漂う太陽の匂いも、まるでニコニコと微笑んでいるかのような表情も、最期の姿そのままだった。
家柄のせいで友人を得られず寂しい思いをしていた幼少の頃、見かねた祖母が与えてくれた最初の友だち。由緒正しい軍人の家柄というのは大勢の人間に制約を課させる。そんな縛りの中で子犬を手に入れ俺に与えるために周囲を説得するのはさぞ難しかったろうに、祖母はそんなことはおくびにも出さずにそっと俺の手にこいつを抱かせてくれた。人懐っこい子犬は嫌がりもせず、俺の鼻先をチロリと舐めるとニコニコと楽しげに首を傾げた。俺はその無垢な温もりを泣きながら抱きしめた。ずっと大切にすると祖母に誓い、貫徹した。俺たちはいつも一緒だった。小さな身体で俺の後ろを健気に追いかける白毛の子犬を弟のように思っていた。そういう契約だったのか、犬の世話について周囲の大人は一切手を差し伸べようとはしなかった。俺は歳相応に精一杯の世話をして、気の優しい子犬は病気で命を落とす最期の刻までそれに応えてくれた。
どうして、名前を忘れてしまっていたのか。力を求めるあまり必死になりすぎて、本当に大事なものを見失っていたのかもしれない。他者からの無償の慈しみを体現する人生最初のプレゼントであり、友を得る喜びと失うつらさを俺に教えてくれた存在。そして、死んだ後もこうして俺に会いに来てくれる最高のパートナーだというのに。

ワンッ。

「さあ、起きろ」。そう言っている気がした。干しブドウのような鼻先を俺の横顔に何度も押しつけてくる。行け、行け、と急かし立てているようだ。せっかく久しぶりに会えたのに、どうしてそんなに素っ気ないんだ。お前が死んで何年たったと思ってる。いろいろ話したいことがあるんだぞ。しかし、訝しる俺をなおも急かしてくる様子は明らかに切羽詰っいるようだった。
いったいどうした? そんなに慌てて、何があったっていうんだ。……いや、そもそも俺はここで何をしているんだ? 大切なことを忘れている気がする。俺は、俺はたしか、大事な何かを、いや、|誰か《・・》を守ろうとしていて――――。



突如、額の内側で閃光が走り、一つの光景が像を結んだ。
眩しい太陽を背に、純白の長髪が風に大きく凪いでいる。陽光を反射する長髪はキラキラと輝いて、まるで天使の羽のようだった。
いつもニコニコと笑っていて、人懐っこくて、儚げな、俺の大事な|潜水艦《パートナー》。



ワンッ。

「|あの娘《・・・》が待ってる。早く行ってやれ」。たしかにそう言ったように聞こえた。

―――ああ、そうだった。思い出させてくれて、ありがとな。

友の頭に手を置き、万感の思いを込めてくしゃっと手の平全体を使って撫でる。瞬間、世界が音を立てて揺らぎ、意識が現実に向かって引き戻されていく。名残惜しいが、懐かしい邂逅はこれで終わりのようだ。
そうだ、最後に断りを入れておこう。拝借する前に、一応先代に許可を取っておくのが筋だろう。艦番号で呼ぶのは味気ないし、アイツのふにゃっとした笑顔にはこの名前がよく似合ってる。
靄のように薄れていく友の顔を見つめ、そっと問う。

なあ、お前の名前をアイツに譲ろうと思うんだけど、いいか?

もう鳴き声は聞こえない。笑っているような顔も見えない。視界は白から無に代わり、瞼の裏の闇になる。後頭部と背中に現実の振動を感じる。意識の覚醒が近い。
ふと、親指の先をチロリと舐められたような感覚があった。「いいぞ」。そう言ってくれた気がした。それで十分だった。











|新石川島播磨重工業《NEW IHI》製ターボシャフト・ガスタービンエンジン4基が吸気の雄叫びを上げ、8千トンの巨躯を8万馬力もの機関出力で驀進させる。波を切り裂いて突き進むその姿は傍から見れば勇壮そのものだが、内情はまったく異なる。乗員の誰も彼も一切の余裕はなく、汗にまみれたその顔は絶望に打ちひしがれていた。
なぜなら―――彼らは今、|追われている《・・・・・・》からだ。

『| 接 触 《INTERCEPT》3秒前―――STANDBY―――| 衝突位置到達 《MARK INTERCEPT》!!』

ズズン、と遥か後方で重い爆発音が響いた。対艦ミサイルの弾頭部に搭載された100キロに達する強力な炸薬が|空中《・・》で紅蓮の大火輪を咲かせ、黒雲の天井を赤く照らした。数秒遅れで空気の波を伝播した衝撃波が艦橋部を力任せに叩きつけ、鋼鉄の艦が悲鳴を上げる。

『最後のスーパーハープーン、着弾寸前で信号途絶! 全弾、撃墜!』
「ぜ、全弾だとッ!? 発射した62発が全て同時に撃ち落とされたのか!?」
『間違いありません! 敵艦の重力子反応、尚も健在! 本艦に向けてまっすぐ突っ込んできます! 20ノット……40ノット……し、信じられない加速です!!』
「……ッ!!」

耳に入る報告は悉く状況の悪化を示すものばかりで、宮津は耳を塞いで現実から逃れたい衝動に襲われた。多數の乗員の命を預かる艦長の重責が辛うじて軽挙を抑制したが、それで事態が好転するわけもない。眼前のレーダー画面には、33ノットの高速を誇るはずの『磯風3』の艦尾に今にも食らいつかんとする影がハッキリと表示されている。レーダーアンテナが一回転する度に、両者の間合いはぐんぐんと狭められて行く。地獄の底まで付け狙うような猛追には、感情を持たない“霧”らしからぬ怨念じみた殺気が感じられた。

「敵は“損傷した漂流艦”じゃなかったのか!? こんなこと聞いていないぞ、司令部は何をしているんだ―――……!」

事前に統制日本空軍より提供された衛星画像から、目標は魚雷艇のような小規模艦艇であると推測していた。少なくとも|海面から上《・・・・・》の部分はたしかにその程度の大きさだったし、それ故に新型魚雷での撃破が可能だと判断したのだ。たとえ霧の中では脆弱な部類に入る艦であっても、人類の敵を人類のみの技術で打ち倒せたならそこには大きな意義がある。それは各軍が自らの必要性と有用性を誇示するための政治であり、人類の意地でもあった。その結果―――虎穴に忍び込んだ愚か者を待っていたのは、虎より遥かに恐ろしい化け物の|顎《あぎと》であった。

『第二装薬室でガス発生! 第三分隊防火員は至急|酸素呼吸器《OBA》を装着し非常対処―――』
「甲板見張り員は対空見張りを厳となせ! 繰り返す、甲板見張り員は―――」

 怒号が交錯するブリッジは混乱を極めていた。おそらくは|水密扉《ハッチ》の向こう、艦内各所のクルーたちも怯えの極限にあるに違いない。鳴り止まない爆音と警報が耳朶を叩き、赤く明滅する照明に追い立てられる中、過負荷で焼けた装置から有害な煙が吹き出してきて、|面体《マスク》していても目や喉の粘膜に激痛の爪を突き立ててくる。「次の瞬間には自分は死ぬのでは」という恐怖から目を逸らすように目の前の作業に必死に集中するしかない。全乗組員の緊張は限界寸前まで張り詰め、それを察した宮津の皮膚は引き裂けんばかりに突っ張っていた。

「そ、相対距離17キロを割りました! 肉眼で視認できる距離です!!」

レーダーが再び後方を策敵し、表示された相対距離がついに17キロを割る。艦橋から肉眼で視認できる距離―――水上艦にとっては懐に入られたにも等しい、絶望的な至近距離だ。喉元に迫りきった正体不明の敵を前に、先に恐怖に取り乱したのは宮津ではなく彼よりわずかに経験の劣る副長の竹中だった。硬直する宮津の手から艦内マイクをもぎ取り、青ざめた頬を震わせる。

「砲雷長、ミサイルの次弾装填はまだか!?」
『やっていますが、あと2分はかかります!』
「それでは遅すぎる! もっと急げ! 全員死ぬぞ!」
『り、了解!』

 眼の色を変えて唾を飛ばす竹中が冷静さを欠いているのは目に見えてわかったが、誰にもそれを非難する余裕はなかった。唯一の上官である宮津ですら、竹中の狼狽は痛いほど理解できた。
最新鋭の軍艦は、攻撃兵器の発展と効率の観点から“一撃必殺”の思想を念頭に置いて設計・建造されている。『磯風Ⅲ』もその例に漏れず、敵よりも早く照準し、初弾で仕留めることにこそ全ての装備と兵器が傾注される。その戦法が通じない敵と相見えるということは、即ち“敗北”を―――221名の乗員全ての死を意味する。

『ソーナーより艦橋、敵艦の機関音及び推進音の照合完了! イ401と酷似しています!』
「イ401……“蒼き鋼”か!?」

その報告から最初に想起されたのは、“蒼き鋼”―――若者たちが駆る霧の潜水艦、イ401だった。宮津ほどの階級になれば、


ならば、『磯風3』は霧の艦と誤認してイ401を攻撃してしまい、イ401はこちらを敵と認識して反撃をしようとしているのかもしれない。その誤解を解けば、この恐ろしい逃走劇は終わりを告げるはずだ。
だが、優秀なソーナー員の答えはその僅かな期待を両断する。

『いえ、似ていますが、イ401とは|音紋《ピッチ》音が若干違います! |敵味方識別信号《IFF》にも一切応じません! おそらく、イ401の同型艦です!』

イ401に同型艦がいることは、モデルとされる太平洋戦争時のイ号400型が数隻建造されていたことを考えれば自然に推察できる。

イ401は霧の戦艦すら撃沈してみせた。


第二分隊 電測員




宮津考える。勝てない。

見張り員「何か光―――」

後方より突き上げる振動。





場面転換。

嗜虐的な意思

機関砲

急接近


対空見張りを厳と為せ

















『―――ワたシノ艦長。ツイニ手に入レた。わタしを使ッテくれル人。私ノため二一緒に沈んデクれるヒト……』





 覚醒した直後、その暖かさを塗りつぶすように鼓膜に滑りこんできた|女《・》の声は、救われない霊魂の慟哭だった。“死”そのもののような冷えきった呻きが脳みそにズルリと舌を這わせ、全身の産毛が総毛立つ。強烈な悪寒が生命の危機を訴え、俺は反射的に半身をガバリと引き起こした。

「―――こ、ここは……?」

 見開いた目に飛び込んできたのは、暗闇だった。夜闇ではない機械的な暗闇に俺は横たわっていた。反響する声と四方から迫るような圧迫感から、そこが8メートル四方ほどの空間であることがわかる。オゾン臭が滞留する室内は凍てついていて、吐く息が空気を白く濁らせる。硬質な床面からは一定のピッチを刻む機関の振動が伝わり、ここが|何か《・・》の内部なのだろうことを容易に想像させたが、目を凝らして全貌を掴もうとすれども光源といえば四方の壁面でわずかに点滅する電子機器の発光のみ。人間の立ち入りを想定していないサーバー・ルームのような風体だ。どうして俺はこんなところにいるんだ?
未だ意識が弛緩して朦朧とする中、最後の記憶を懸命に手繰り寄せる。呼吸をすると喉の粘膜が火傷でひりつく。肺が膨らむ度に、全身が打ち身をしたようにキリキリと痛む。胸中に滞留していた空気はわずかに焦げ臭い。俺はたしか、霧の漂流艦の情報を盗み聞き、目黒基地から脱走して、|霧の潜水艦《イ405》に辿り着き、海軍の護衛艦に襲撃され、魚雷が着弾し、金色の光を見て、そして―――。

「|アイツ《・・・》は……アイツは、どこだ……!?」

記憶が戻った途端、気に掛かったのは自分のことではなく|彼女《・・》の安否だった。しかし、慌てて胸元を探っても、“アイツ”―――メンタルモデルの少女の姿は無かった。最後の瞬間まで抱きしめて守っていたはずなのに、あるのは裾の焦げたジャンパーだけだ。まさか全て妄想だったのかと両手で手繰り寄せれば、微かに布に残る温もりと甘い残り香をハッキリと知覚して拳を握りしめる。夢ではない。“霧”とは思えないほどに親しげで無邪気で可憐な少女が、さっきまで確かにこの腕の中にいたのだ。少女の存在を確信できた歓喜と今彼女が腕の中にいない喪失感が身体の奥底で渦を巻き、全身がカッと熱くなる。自身が置かれている状況を知るよりも、今はあの少女を再び胸にかき抱いて安堵を得たかった。

「おい、イ405! どこにいるんだ!? 無事か!?」

衝動的にあげた声は四方の分厚い壁に冷たく弾かれる。まさか、最後の魚雷攻撃で吹き飛んだのか……。
その瞬間を想像しようとして、心が激しく拒絶した。不安で胸の内側が灼けつくようだ。俺は明らかにあのメンタルモデルを失うことを恐れている。当初はただ現状を打破するための“力”を欲していただけだったのに、気づけば俺はそれ以上のものを手に入れ、失ったことを悔やんでいる。己の異常を理性が反芻するも、それを無視して少女に呼びかける。

「お前が沈む時は俺も一緒だって言っただろうが―――頼む、応えろ、イ405!!」




『―――|私《・》はこコにいルわ、艦長』



闇の中から滲み出るように、少女は目前に現れた。すらりと伸びた四肢はどこも欠けていない。艶やかな肌にも傷一つ見られない。輝く銀色の髪を背に流し、純白の裸体は美麗そのもの。姿形は寸分違わず同じに見える。―――だが、|違う《・・》。「無事だったか」と歓喜に綻びそうになった唇を引き締め、猜疑の目で睨む。|これ《・・》は、俺が求めている少女ではない。
じっとこちらを見据える少女は、先までの生命力に満ち溢れた雰囲気とは一変して無機質な冷気を纏っていた。別人―――いや、それ以上の差異を感じる。まるで人間と|そうでないもの《・・・・・・・》のような。のっぺりとした陶器人形のような白い顔に亀裂が走る。それが笑顔だと理解するのに数秒を要した。強烈な違和感が胸の内でじくじくと疼き、拒絶心となって腰の銃把に密かに手を伸ばす。

「お前は、誰だ」

上擦った声で威嚇したこちらを薄い目で見つめ、俺を“艦長”と呼んだ女がノイズの音吐で囁く。

『イ405。アなタノ|艦《ふね》よ』

 精彩を欠いた双眸がニタリと愉悦に歪む。やはり、違う。こんな昏い目をする奴ではなかった。もっと純粋な、濁りのない瞳だった。『こコはワタシの|艦内《なか》』と恍惚に蕩けた表情で自身の下腹部を愛おしそうに擦る。

『あア―――、ナンて心地が良イノ! 艦内に誰カヲ入れルコトが、人間というユニッとヲ装備すルことがこンなに気持チガイいことなんて知らナカった! ずルい、ズルいわイ401! こんな感覚を独リジメにしてイタだなンテ……!』

身悶えして矯正を迸らせた女が闇を引きずって近づいてくる。ひたひたと這い寄る足音が、媚びるような淫らな声音が、鼓膜をぞわりと怪しく舐める。尋常ではない人外の接近に本能が金切り声をあげ、半身が思わず弓のように仰け反った。
これこそが“霧”なのか。他者とコミュニケーションをするためのただの|意識体《マイク》。人間の戦術を真似るためのただの|道具《ツール》……。先ほどまでの爛漫とした少女は俺を騙すためのまやかしに過ぎなかったのか。霧本来の姿とはこんなにも一途でおぞましいものなのか。騙されたのかと憤懣を覚える一方、どうしてもあの眩い少女が紛い物だったとは思えず、願望を込めて問う。

「答えろ、イ405。さっきまでのお前と、今のお前、どっちが本当のイ405なんだ?」
『|どちら《・・・》……? 変なコトを言うのネ、艦長。私ハ私ダケよ? |私だけ《・・・》がイ405ヨ?』

とろんと熱に侵された瞳で不思議そうに首を傾げる。恋人の他愛ない嘘に付き合うような微笑はとても芝居をしているようには見えず、思考に無視できないザラつきを挟んだ。先ほどまでの記憶や、自身の不調―――もう一人の自分を把握できていないらしかった。



―――どうもオレ、イ401と戦って一回沈められたらしいんだ。その時に混ざっちゃったみたいでさ―――



刹那、少女の台詞が脳裏に蘇り、ハッとした閃きが額で弾ける。もしや、その際に負った深刻なダメージはメンタルモデルの人格構造にまで影響したのではないだろうか、と。言わば二重人格障害のように、“霧”らしくない爛漫な少女も、“霧”本来の幽鬼のような女も、どちらもイ405なのだ。どちらかの人格が表に出ている時は、もう一方の人格が眠りについているのだろう。そう考えればこの変貌にも説明がつく。
二度とあの笑顔が見られなくなったわけではないとわかり、緊張が少しずつ解れていく。

「コインの裏表、みたいなもんか」
『……? ふふ、おかしナ艦長。人間の言動ッて本当に予想がツカない。面白イわ。もう寂シくなイわ。もウ寒くナくなルワ。もう退屈シナイわ』

イ405は俺の足元に膝をつき、雄を誘う女豹のように腰をくねらせながら青白い手を伸ばしてくる。胸や尻を惜しげも無く晒して近づいてくる様子は下品なストリップショーだ。自身の“女”を利用するような蠱惑的な腰使いに、透き通っていた宝石が濁っていくような言い知れぬ不快感が募る。アイツの印象が眩しすぎて、大きすぎるギャップに心が抵抗を示している。しかし、“霧”を使いこなすためには慣れなければいけない。あの千早群像もこの不気味な接触を乗り越えたに違いないのだから。
肉体が腰を引こうとするのをグッと耐え、青白い手を頬で受け止める。血の通いを感じさせない指が、その華奢さからは想像もつかない乱暴な力加減で頬や顎をざわざわと這いまわる。その間も、イ405の黒い双眸は真正面から俺の目を見詰めて外れない。“目は口ほどにものを言う”と言われるが、一対の空洞のような瞳からは何の感情も読み取れない。人間でないとわかっているとはいえ、一度とてまばたきもしないのが不気味だ。アイツはもっと自然にパチパチと目をしばたかせて愛嬌があったし、頬に触れる手つきだって人間の脆さをちゃんと心得ていて優しかった。


少なくともあからさまな敵意は無さそうだ。おどろおどろしい雰囲気を纏ってはいるものの、素直に艦内に招き入れたり、自分から俺を艦長と呼んだりと従順そうではある。裏だろうが表だろうがコインはコインじゃないか。それにその内、また犬っころみたいな伸びやかな少女に戻ってくれるかもしれない。
そう自分に言い聞かせ、たじろぎながらもイ405の裸の肩へと腕を伸ばし、

「う―――ッ!?」

目の前まで迫ったその双眸を目の当たりにして、一瞬のうちにギクリと身体が強張った。|まるで死体だ《・・・・・・》。どろりとどす黒く濁った眼球が、打ち捨てられた死者のそれだった。

俺を見ているようで俺を見ていない。

すがりつく色を隠さない昏い目が、危うげに緩んだ口もとが、良くない予感をひしひしと湧き立たせる。

『ソう―――暗クて冷たい世界デモ、貴方と一緒ナラきッと退屈しなイ。もうアドミらりてィ・こードなンて関係ない! 人間モ、霧も、誰も彼も|水 底《みなそこ》沈めてしマエば、ずっと寂シクなンてナいもノ!!』
「お、お前はいったい―――うッ!?」

 転瞬。バチンと風船の破裂に似た音を立てて、正面に眩い閃光が灯った。眼神経を突き刺す痛みに耐えて光源を見やれば、3メートル四方のホログラム・パネルが暗闇にぽっかりと大口を開けていた。何か画像を表示させようと色彩を微細に変化させていくパネルが光を溢れさせ、闇を押し広げて空間の全容を照らしだす。最低限の機器類が効率的に配され、空間を俯瞰できる位置には無骨なシートが一つだけ備えられている。護衛艦の艦橋とCICを混ぜ合わせたような構造―――まさに潜水艦の司令室そのものだった。

『さア、早ク命令シテ、艦長! |アレ《・・》を沈メろッて、命令しテ!!』



獲物を追い掛け弄んでいるよう




あからさま







命令がないと動けない

何かが邪魔してる



コイツは、この世に未練を残して死んだ亡霊だ。
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~ Comment ~

NoTitle 

ずっと続きを待っていた作品です。
ぜひとも!ぜひともアルペジオ二次、完結させてください!!

 

続ききた!これで勝つる!

NoTitle 

スランプですねぇ・・・
自分はそんな時魔女宅式を使います。
自分は主さんの作品大好きですんでくじけず頑張ってください。
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