二次創作

アルペジオ二次創作試作

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 途中の言い回しを変えただけで大きく進んではいません。これも仕事場でチェック用です。





『イ405』
第二次大戦時の旧日本海軍伊400型潜水艦五番艦『伊405』の形状を模した“霧”の潜水艦である。イ400シリーズ(イ400、401、402)の末妹にあたり、メンタルモデルも酷似している。シリーズ最終型のため巡航潜水艦としての基本性能は姉妹の中でもっとも優れており、イ405自身も姉妹最強の自負を心に秘めていた。元々は総旗艦ヤマト直属の隠密部隊として世界中で活動していたが、イ401の離反と人間の艦長を得てからの快進撃を耳にし、密かに姉へのライバル心を募らせていた。その所属が東洋方面巡航艦隊(通称“黒の艦隊”)に移され、艦隊旗艦コンゴウからイ401の尾行を命じられると、彼女は生まれ持った逸り癖から命令を逸脱してイ401に対して単艦で攻撃を仕掛けてしまう。人間の艦長という“|装置《ユニット》”を過信した故の判断だった。結果として、彼女は高度な戦術を駆使する401によって自力での修復が不可能なほどの痛烈な反撃を受けることとなった。救助の声を発するも、命令違反と人間の有用性を訴えたことに憤ったコンゴウによってその声は無視され、人智未踏の海溝に沈んでしまう。深海に沈む孤独と恐怖に押し潰され、「なぜ自分には艦長がいないのか」と絶望しながら朽ちていくイ405。ついにメンタルモデルが砕け散る刹那、謎の少年の声とともに彼の“魂”と融合するイレギュラーな現象が生じ、奇跡の復活を果たすこととなった。
だが、その復活の形が彼女の願いと合致しているかは定かではない。


『イ405-改』
 その名の通り、復活したイ405が改造を施された|特殊《・・》潜水艦である。本来のイ400シリーズは索敵性能に主軸を置いた装備を充実させており、索敵範囲・精度だけなら超戦艦級にも匹敵するほど(ちなみに、出奔後のイ401は千早群像の意向と度重なる改造によって純然な戦闘潜水艦となっている)。本艦もそれらの性能をそのまま引き継いでいるが、日本統制海軍艦から徴収した|とある兵装《・・・・・》を装備したことで、通常の潜水艦では考えられない戦い方を出来るようになった。
 なお、原因不明の事象によってメンタルモデルは以前とはまったくかけ離れた人格を形成しており、非常に人懐っこく自由奔放で、一言でいうと|少年のような《・・・・・・》性格をしている。また、艦内に自分専用の個室を作って暇な時はテレビゲームに勤しむなど、通常のメンタルモデルとは一風異なる特徴が見られる。服装の好みも、可憐な見た目にそぐわしい姉妹たちの装いとは異なり、サイズの合っていないあずき色のジャージなどおよそ色気のないものを意識的に選んでいる。スカートなど女性らしい服装は特に避ける傾向が目立ち、勧められも頑として断るようだ。
奇妙な馴れ初めから、イ401と同じく人間の艦長を座乗させている。粗野だが人情深い彼とは相性が良いらしく、広い艦内に二人っきりながら良好な関係を保っている。稀にセクハラじみたちょっかいを出される時があり、それに関してのみは辟易しているようだが、艦内から追い出そうと思えば出来るのにしないという時点でお察しである。









ワンッ。
耳元で、小型犬の声が弾けた。

ワンッ。
 
|呼んでいる《・・・・・》。ただ吠えているのではない。俺にはその声の意味がすぐにわかった。なぜなら、この鳴き声はかつての|友だち《・・・》のそれだからだ。

……ああ、お前か。久しぶりだな。

胸を締め付ける懐かしさにふっと目を開くと、綿あめのような毛並みの犬がじっと俺を見下ろしていた。目も眩むような真っ白な世界を背景に、同じくらい真っ白な柴犬のどんぐり|眼《まなこ》が情けなく仰臥するかつての友を見下ろしている。豊かな白い毛並みから漂う太陽の匂いも、まるでニコニコと微笑んでいるかのような親しげな表情も、最期に見た時の姿そのままだった。
堅苦しい家柄のせいで友人を得られず寂しい思いをしていた幼少の頃、見かねた祖母が与えてくれた最初の友だち。由緒正しい軍人の家柄というのは大勢の人間に制約を課させる。そんな縛りの中で子犬を手に入れ俺に与えるために周囲を説得するのはさぞ難しかったろうに、祖母はそんなことなどおくびにも出さず、そっと俺の手にこいつを抱かせてくれた。人懐っこい子犬は嫌がりもせず、俺の鼻先をチロリと舐めるとニコニコと楽しげに首を傾げた。俺はその無垢な温もりを泣きながら抱きしめた。ずっと大切にすると祖母に誓い、貫徹した。俺たちはいつも一緒だった。小さな身体で俺の後ろを健気に追いかける白毛の子犬を弟のように思っていた。そういう条件だったのか、犬の世話について周囲の大人は一切手を差し伸べようとはしなかった。俺は歳相応に精一杯の世話をして、気の優しい子犬は病気で命を落とす最期の刻までそれに応えてくれた。
どうして、名前を忘れてしまっていたのか。現状を打破する力を求めて必死になるあまり、本当に大事なものを見失っていたのか。他者からの無償の慈しみを体現する人生最初のプレゼントであり、大切な者を得る喜びと失うつらさを俺に教えてくれた存在。そして、死んだ後もこうして俺に会いに来てくれる無二の親友だというのに。

ワンッ。

「さあ、起きろ」。そう促している気がした。干しブドウのような鼻先を俺の横顔に何度も押しつけてくる。行け、行け、と急かし立てているようだ。せっかく久しぶりに会えたのに、どうしてそんなに素っ気ないんだ。お前が死んで何年経ったと思ってる。俺はこんなにでかくなった。いろいろ話したいことがたくさんあるんだ。しかし、訝しる俺をなおも急かしてくる様子は明らかに切羽詰っいるようだった。いったいどうした? そんなに慌てて、何があったっていうんだ。
……待て、そもそも俺はここで何をしている? 大切なことを忘れている気がする。俺は、俺はたしか、巨大で力強い何かを得ようとして、いや、小さくてか弱い|誰か《・・》を守ろうとして、腕の中に抱いて、そして――――。



額の内側で閃光が走り、一つの光景が像を結ぶ。
遮るもののない洋上。眩しい太陽を背に、純白の長髪が風に大きく凪いでいる。陽光を反射する長髪はキラキラと輝いて、まるで天使の羽のようだ。
いつもニコニコと笑っていて、人懐っこくて、儚げな、俺の大事な|潜水艦《パートナー》。



ワンッ。

「|あの娘《・・・》が待ってる。早く行ってやれ」。たしかにそう言ったように聞こえた。

―――ああ、そうだった。思い出させてくれて、ありがとな。

友の頭に手を置き、万感の思いを込めてくしゃっと手の平全体で撫でる。瞬間、世界が音を立てて揺らぎ、意識が現実に向かって引き戻されていく。名残惜しいが、懐かしい邂逅はこれで終わりのようだ。
そうだ、最後に断りを入れておこう。|拝借《・・》する前に、一応先代に許可を取っておくのが筋だろう。艦番号で呼ぶのは味気ないし、アイツのふにゃっとした気の抜けた笑顔にはこの名前がよく似合ってる。靄のように薄れていく友の顔を見つめ、そっと問う。

なあ、お前の名前をアイツに譲ろうと思うんだけど、いいか?

もう鳴き声は聞こえない。笑っているような顔も見えなくなった。視界は白から無に代わり、瞼の裏の闇になる。後頭部と背中に現実の振動を感じる。意識の覚醒が近い。
ふと、親指の先をチロリと舐められたような感覚があった。「いいぞ。大事にしてやれ」。そう言ってくれた気がした。それで十分だった。











|新石川島播磨重工業《NEW IHI》製ターボシャフト・ガスタービンエンジン4基が吸気の雄叫びを上げ、全長189メートルの巨躯を8万馬力もの機関出力で驀進させる。波を切り裂いて突き進むその姿は傍から見れば勇壮そのものだが、内情はまったく異なる。乗員の誰も彼も一切の余裕はなく、汗にまみれたその顔は絶望に打ちひしがれていた。

なぜなら―――彼らは今、|追われている《・・・・・・》からだ。

『| 接 触 《INTERCEPT》3秒前―――STANDBY―――| 衝突位置到達 《MARK INTERCEPT》!!』

ズズン、と遥か後方で重い爆発音が響いた。対艦ミサイルの弾頭部に搭載された100キロに達する強力な炸薬が|空中《・・》で紅蓮の大火輪を咲かせ、曇天を赤く照らし上げる。数秒遅れで空気の波を伝播した衝撃波が艦橋部を力任せに叩きつけ、鋼鉄の艦が耳障りな悲鳴を上げる。

『最後のスーパーハープーン、|着弾寸前《・・・・》で信号途絶! 全弾、目標到達前に撃墜されました!』
「ぜ、全弾だとッ!? 発射した62発が全て同時に撃ち落とされたのか!?」
『間違いありません! |強制波動装甲《クラインフィールド》の展開も確認! 敵艦の重力子反応、尚も健在! 本艦に向けてまっすぐ突っ込んできます!』
「……ッ!!」

耳に入る報告は悉く状況の悪化を示すものばかりで、宮津は耳を塞いで現実から逃れたい衝動に襲われた。多數の乗員の命を預かる艦長の重責が辛うじて軽挙を抑制したが、それで事態が好転するわけもない。眼前のレーダー画面には、35ノットの高速を誇るはずの『磯風3』の艦尾に今にも食らいつかんとする影がハッキリと表示されている。レーダーアンテナが一回転する度に、両者の間合いはぐんぐんと狭められて行く。地獄の底まで付け狙うような猛追には、感情を持たない“霧”らしからぬ生々しい殺気が感じられた。

「魚雷艇クラスの“霧”は|強制波動装甲《クラインフィールド》を装備していないんじゃなかったのか!?」
「畜生、これのどこが“漂流艦”なんだ…!」

 ブリッジに詰める幹部たちが動揺の滲む声を口々に漏らす。事前に統制日本空軍より提供された偵察衛星の画像から、目標は魚雷艇のような小規模艦艇であると推測していた。少なくとも|海面から上《・・・・・》の部分はたしかにその程度の大きさだったし、それ故に陸海軍共同開発の新型魚雷による撃破が可能だと判断したのだ。たとえ目標が霧の中では脆弱な部類に入る艦であっても、今まで煮え湯ばかり飲まされてきた仇敵を人類のみの力で打ち倒せたなら、そこには大きな意義―――“霧”への反撃に陸空軍が寄与した事実―――がある。それは陸海空軍各々が必要性と有用性を誇示するための政治であり、意地でもあった。その結果、白羽の矢を帯びて虎穴に忍び込んだ愚か者を待っていたのは、虎より遥かに恐ろしい化け物の|顎《あぎと》であった。

『第二装薬室でガス発生! 第三分隊防火員は至急|酸素呼吸器《OBA》を装着し非常対処―――』
『甲板見張り員は対空見張りを厳となせ! 繰り返す、甲板見張り員は―――』

 怒号が交錯する艦内は混乱を極めていた。おそらくは|水密扉《ハッチ》の向こう、艦内各所のクルーたちも怯えの極限にあるに違いない。鳴り止まない爆音と警報が耳朶を叩き、赤く明滅する照明に追い立てられる中、過負荷で焼けた装置から有害な煙が吹き出してきて|面体《マスク》していても目や喉の粘膜に激痛の爪を突き立ててくる。「次の瞬間には死ぬかもしれない」という恐怖から目を逸らすために目の前の作業に必死に集中するしかない。全乗組員の緊張は限界寸前まで張り詰め、それを察した宮津の精神と皮膚は今にも引き裂けんばかりに突っ張っていた。

「そ、相対距離が20キロを割りました! 30ノット……40ノット……信じられない加速力です……!」

レーダーが再び後方を策敵し、表示された相対距離がついに20キロを割った。それは艦橋から肉眼で視認が可能になるほどの近距離であり、遠距離戦を得意とする最新鋭の水上艦にとっては懐に入られたにも等しい。喉元に迫りきった正体不明の敵の圧力に、先に恐怖に取り乱したのは宮津ではなく彼よりわずかに経験の劣る副長の竹中だった。硬直する宮津の手から艦内マイクをむしり取り、青ざめた頬を震わせる。

「砲雷長ッ、ミサイルの次弾装填はまだか!?」
『やっていますが、あと2分はかかります!』
「それでは遅すぎる! もっと急げ! 全員死ぬぞ!」
『り、了解!』

 眼の色を変えて唾を飛ばす竹中が冷静さを欠いているのは目に見えてわかったが、誰にもそれを非難する余裕はなかった。唯一の上官である宮津ですら、竹中の狼狽は痛いほど理解できた。最新鋭の軍艦は、攻撃兵器の発展と効率の観点から“一撃必殺”の思想を念頭に置いて設計・建造されている。『磯風Ⅲ』もその例に漏れず、敵よりも早く照準し、初弾で仕留めることにこそ全ての装備と兵器が傾注される。その戦法が通じない敵と相見えるということは、即ち“敗北”を―――221名の乗員全ての死を意味する。

『ソーナーより艦橋、敵艦の機関音が識別できました! 敵は潜水艦です! 半潜水状態で航行している模様! 艦体はかなり大きい―――サッカーコートなみのデカブツです!』
「大型潜水艦、だと……!?」

 司令部が目標を小規模艦艇と見誤ったことの合点がいった。衛星画像に写っていたのは海面からわずかに覗いていた潜水艦の|艦橋構造物《あたま》だけだったのだ。“霧”を監視しようと高度を落として静止軌道に乗った偵察衛星のほとんどが光学兵器によって撃墜され、残った貴重な衛星を地上に近づけることが困難になったため、些細な危険すら冒せないのが統制日本軍の実情だった。

「敵の艦種はわからないのか!?」
「推進音データ照合完了! コンピュータは敵艦をイ401と判断しています!』
「イ401―――“戦艦殺し”か!?」

その報告から真っ先に想起されたのは、“蒼き鋼”―――若者たちが駆る霧の潜水艦、イ401だった。『磯風3』はイ401を“霧”の艦と誤認して攻撃してしまい、イ401はこちらを敵と認識して反撃をしようとしているのかもしれない。その誤解を解けば、この恐ろしい逃走劇は終わりを告げるはずだ。
だが、優秀なソーナー員の答えはその僅かな期待を両断する。

『いいえ、似ていますが、イ401とは|音紋《ピッチ》音が若干違います! イ401が搭載しているはずの|敵味方識別信号《IFF》にも一切応じません! おそらく、イ401の同型艦だと思われます!』

イ401に同型艦がいることは、モデルとされる太平洋戦争時のイ号400型が数隻建造されていたことを考えれば自然に推察できる。
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