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せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ! 番外編 試作(後篇 7/18更新)

 ←せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ! 番外編 試作(中編)(8/19変更。あと少しなり) →せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ! 番外編 試作(RX)
 後篇は、メモ帳からwordに打ち込む作業を続行して行けば完成。なので投稿は中編の完成を待ってからになります。



10年と5ヶ月後  お茶濁し回なんだ。本当に申し訳ない。 (後篇)

‡成長した桜ちゃんサイド‡

2-13より抜粋 ―

 

 間桐家の応接間は、妖怪バグ爺さんの趣味だったのか、広いくせにどんよりとしていて監獄みたいだった。そういうのはこれからもここで暮らしていく雁夜おじさんや桜ちゃんの精神衛生上とっても良くないから、ムダに分厚いカーテンをひっぺがして全部雑巾にしてやった後、窓辺に物を置かないように家具の配置換えをしたり、壁に必殺バーサーカーパンチをかまして採光兼換気用の窓を拡張したりしました。もちろん、家の強度を維持するための耐震化工事も同時進行です。

 というわけで、とび技能士と建築士とリフォームスタイリストとインテリアコーディネーターの資格を持つ俺の手に掛かれば、陽の光をふんだんに取り入れた暖かな応接間の出来上がりってわけですよ。カーテンは間桐家のシンボルカラーを尊重しつつ、地中海のようなコバルトブルー色にしました。生地は薄いけど断熱性は抜群なスイス製なので、昼間は日光だけで十分明るい! キャンドルスタイルの照明器具はそのままにして管球の明度をグレードアップしておいたから、夜は古風で上品な雰囲気を保ちつつも部屋全体が明るくなるでしょう。カーテンと濃藍色の絨毯とのグラデーションも完璧です。黒檀のテーブルもマホガニーの椅子も家具用ワックスでピッカピカに磨き上げた後にみつろうクリームをしっかりと塗りこんだので、家具たちが喜んでいるみたいに美し~く輝いてる。

最後に、だだっ広いテーブルの上にちょいと手を加えたバロック様式のアンティーク燭台を載せれば―――――なんということでしょう!(サザエさん風) おどろおどろしいお化け屋敷の一室が、まるで一流ホテルのような洋風応接間に早変わり!

 

― 抜粋終わり

 

「久しぶり、桜ちゃん」

 

 女の子、だった。手足はスラリと長く背は高いけど、目鼻立ちは幼い。年の瀬は私より少し下くらい。アジア系の顔立ちなのに、肌は気味が悪いといえるほどにのっぺりと青白いく、眼は白目まで赤に染まっている。頬の皮膚に幾筋も走る線は亀裂のよう。ひと目で“暗闇しか歩けない化物”―――死徒とわかる。見た目と実年齢はきっとかけ離れているに違いない。

 だけど、ニカッと歯を見せる仕草はいかにも人好きのする少年少女の笑顔で、優しく緩んだ目尻は相手を労る年長者の気遣いと余裕がうかがえる。容姿だけ見れば不気味なのに、その内面は南国の爽やか海のよう。その差異と、何より暖炉のような赤い瞳が|あの人《・・・》を思い出させて、私の中で固まりかけていた警戒感を暖かく溶かしていった。

 

「……あの、どちら様でしょうか」

 

 それでも、理性を働かせて尋ねる。久しぶりと言われても、私はこの娘を知らないし、死徒の知り合いもいない。自ら魔術を捨てたといっても、間桐を狙う者は必ずいる。お義父さんやその知り合いたちの存在がこの冬木全体を護る抑止力となっているけど、油断は禁物だといつもお義父さんから教わってきた。

一歩、相手にわからないようにそれとなく足を引いて距離を取る。目の前の女の子はその動作を難なく見抜き、むしろ喜ばしいという風に受け止めて微笑んだ。包み込んでくれるような雰囲気がますます彼に似ていて、混乱を助長される。この娘はいったい何者なんだろう?そのヒントは、もう一歩引いて彼女の首から下を視界に入れたことで自ずとわかった。テレビで何度か見たことがある制服を着ていたから。

 

「……えっと、もしかして警察とか自衛隊の人、ですか?」

「ご明察。日本国航空自衛隊でパイロットしてます、小林シャーレイ特務一佐です。後ろは仰木二佐」

「仰木二佐です。突然のご訪問申し訳ありません」

 

 胸ポケットの上に冠された翼の金飾り―――たしか|徽章《きしょう》というはず―――をくいっと摘んで、小林シャーレイさんが砕けた敬礼で再度微笑む。黒い詰襟の制服は、きっと特注の極小サイズのはずなのに、身体の輪郭にピシッと張り付いて様になっていた。「特務は余計でしょ」とシャーレイさんに釘を刺して、傍らに直立して控える男の人―――仰木さんが紹介に応じてこちらに小さく会釈する。シャーレイさんと同じ濃紺の制服に身を包む仰木さんは30代後半くらいに見えるけど、なんとなく苦労人な付き人という感じで少し老けて印象を受ける。お目付け役やボディガードというより、ホームズに無理やり付き合わされるワトソンみたいな。見た目は親子ほど離れているのに、接し方から見て立場は見事に逆らしい。死徒が自衛官で、パイロット? ていうか、そもそも死徒って日中は動けないんじゃなかったかしら? 眉をひそめて見上げれば太陽が「その通りじゃよ」と答えるように燦々と輝いていて、私はますます混乱して頭痛すら覚える。

 まず一生のうちに一度知り合うことがあるかないかという人たちの訪問に目を白黒させる私に、シャーレイさんは「ごめんごめん」と後ろ頭をポリポリと搔く。男の子のような粗雑な仕草はやはりあの人のよう。彼が羽織っていた柔らかな空気と何でもやってのけてしまいそうな全能感は真似しようとしてできるものじゃない。だというのに、目の前の少女はそれらを身に纏い、奇妙なまでによく似ている。姿形はまったく違うけど、明らかに|根幹《・・》が通じている。なんだかまるで、|同じ根から分かれた枝葉《・・・・・・・・・・・》のような―――

 

「戦争に行くんでしょう、桜ちゃん」

 

 突然、死角から放たれた言葉が思考を一撃し、心を叩き揺らす。驚愕にギョッと硬直して、かつて彼の兜の目庇に燃えていた一対と同じ瞳を見つめた。

“戦争”―――私にとって心当たりは一つしかない。数カ月後にこの地で始まる聖杯戦争。私が彼のために参加しようとしている、魔術師によるルール無用の殺し合い。でも、どうしてそのことを知っているの?

私の声にならない声を旧知の仲がするように容易に汲み取ったシャーレイさんが穏やかに口を開く。

 

「ずっと見てたの。ツテを使って、冬木のことも、貴方たちのことも、前の戦いも、その結果も。だからわかったわ。桜ちゃんが次の戦いに参加することも、そのために|あるサーヴァント《・・・・・・・・》を望むことも、それが叶わず困っていることも」

 

訳知り顔で責めたり諭したりするような、そんなお座なりな口調は微塵もない。本心から私のことを気にかけて、理解してくれている目と声で、確信に迫りながらさらに続ける。

 

「召喚するサーヴァントはもう決まっている。なのに、喚び出し方がわからない。そうでしょう?」

「……はい。その通りです」

 

 もう、「どうして知ってるの」なんてくだらないことを聞く気はなかった。怖いくらい事実を見透かされているのに、恐怖は湧いてこない。その代わり、肌をヒリヒリと刺す“予感”がする。彼女が放つ全能感が、“この人は|答え《・・》を持ってきた”と私に訴えている。見れば、後ろに控えている仰木さんも彼女に全幅の信頼をおいてじっと待機している。その彼に、シャーレイさんが促すようにちらと目配せをした。打ち合わせしていたのだろう、仰木さんは即座に懐から紙袋を取り出してシャーレイさんに手渡した。途端、ゾクッとした気配が背筋を走った。呼吸が早まり、視線が勝手にそれに釘づけになる。予感がする。彼に近づけるという、予感が。まさか、これは―――

 

「|触媒《・・》よ、桜ちゃん」

 

 期待の核心をついて、シャーレイさんはその袋をまっすぐに差し出してくる。受け取ろうと持ち上げた腕が震える。

 

「これを召喚魔法陣におけば完成よ。望むサーヴァントが現れる。あとは、貴女自身を鍛えるだけ」

 

 召喚魔法陣。希望に浮き上がりかけた心に鎖が絡まり、再び海深くに沈みかける。魔法陣は、彼がすでに埋めてしまって、すでに存在しない。でも、シャーレイさんはまたもや心中を鋭く読み取ると、首を振って力強く否定する。

 

「必ずあるわ。彼は貴女のために隠しただけ。私だったら必ず魔法陣を残してる」

 ただ見聞きした情報からの推測とは次元が違う、まるで本人のような、確信に満ちた物言いだった。なんで、そんなに私たちのことを理解しているのだろう。

 

「貴女は、いったい―――」


 唐突で突飛な黒電話の音が、私の言葉尻を遮った。我が家の電話とは違う、電子的に再現された音色。それは仰木さんの胸ポケットから発せられていた。一瞬で眉間を険しく寄せ、胸からケータイを取り出す。スマホじゃない、今時珍しい二つ折りのケータイだった。やけに分厚くて、飾りっ気もなく、メーカーのロゴも刻まれてない。「ちょっと失礼」と仰木さんは私に断り、見たこともない機種のそれを耳に当てる。相手の声はまったく漏れ聞こえてこない。私が目を丸くして様子を見守る中、みるみる表情が緊張に引き締まっていく。

 

「……了」

 

 「もしもし」の一言も、相槌もなければ、「さよなら」もない不思議な通話はあっという間に終わった。瞬く間に用の無くなったケータイを元のポケットにしまい、仰木さんはそれまでと違う、硬質で張り詰めた声でシャーレイさんに「お話し中申し訳ありません。非常呼集です」と耳打ちした。

 シャーレイさんは何も言わず、振り返りもせずに背中だけで次を促す。高圧的な、突っぱねる様な雰囲気はなく、二人の間にある抜群の信頼関係がそうさせるのだと思った。


「人型サイズのボギーが大陸から日本海上空を抜けて高速で飛行しているのを偵察衛星が感知しました。すでに日本領空に侵入しつつあります。23分前に国家安全保障会議(NSC)より機密防衛出撃命令(ゴースト・アラート)が発令。総監より、一佐へ直々に迎撃命令が下されました」


 専門用語ばかりで内容はわからないけど、話しぶりから状況が切迫しているということは肌で感じ取れた。この人たちだけの問題ではなく、たぶん、もっと大きなことが発生している。


「でも、私のF-2は壊れちゃったし、他にも東アジアにはインターセプターはいるでしょ。だいたい、私は今休暇中なんだけど?」


 唇を尖らせて、抗弁する振りをする。口調はむしろ天の邪鬼のように状況を楽しんでるようにも見えた。


「すでに在韓米軍のF-35とプレデタ―が追撃にあたり、どちらもまんまと振り切られました。韓国軍によると、F-15Kのフル・アフターバーナーでも追いつけなかったそうです。目標はマッハ3.5を超えて4に達しつつあります。厚木から上がった空中警戒管制機(E-767)が分析し、死徒(S)と判定されました。必然的に、対抗できるのは東アジアでは一佐ただ一人だけとなります」


 そこまで言って、仰木さんは言いにくそうに言い淀みながら付け加える。


「……実は、知らせると絶対に無断で引っ張り出して飛ばすだろうから秘密にしていたのですが、一佐専用のF-3Sはロールアウトしてすでに最終チェックに入っています。調整は現在こちらに向かっている『かが』の甲板で行うとのことです」


「わお」。驚きのため息を、それとは真逆の期待に満ちた笑みで漏らした。まるで時が来るまで隠されていたクリスマスプレゼントを見つけた子供みたいなキラキラした目で振り返り、そのキラキラを浴びた仰木さんが心底不安そうに顔を曇らせたのが印象的だった。


「でもでも、かがの甲板はVTOL用には設定されてなかったでしょ? 焼けて使い物にならなくなるわよ?」


 試すような問いに、仰木さんは委細承知とばかりに頷く。


「偶然にも、『かが』は明朝にエンジントラブルを起こし、呉港に緊急ドッグをする予定になりました。穴埋めは『いずも』が速やかに引き継げるよう手配が進んでいます。……最後に、統幕より伝言です」


 少しだけ逡巡し、諦めて、告げる。


「“好きにしろ”と」


 それは、獣の手綱を解き放つ言葉だった。

 「へぇ」、と。子供のようにキラキラしていた目が、変わった。緩んでいた口端がニチッと鋭角を描き、獰猛な笑みを形作る。赤い瞳はそれ自体が光を発するようにギラついて、白い肌に走る亀裂までもドクドクと脈動する血管の如く微動して見えた。敵意を向けられたわけでもないのに、肉体が勝手に怖じて肌がヒリヒリと痛くなる。仰木さんも思わずゴクリと喉を鳴らす。

 戦いに赴く前の戦士のような迫力は、きっと勘違いじゃない。話の内容はほとんどわからなかったけど、これだけははっきりと理解出来た。つまり、彼女はこれから、殺し合いに赴くのだ。

 仰木さんが「失礼します」とこちらに一礼すると、慌ててはいないけどもの凄く急いでいるといった素早い動きで身体を反転させ、門の前に停車していた車に走る。ボンネットの上を滑るように乗り越えて運転席に飛び込むのは、さながら映画みたいだ。


「ごめんね、桜ちゃん。急用が出来たの、行かなくちゃ」


 首だけでこちらを振り返る。無用に怖がらせないようにと、見た目相応の柔らかな表情に戻して、申し訳なさそうにペロッと舌まで出して。そこには明確な、年上としての大人の分別があった。決して自分のせいではないのに、その細やかな気遣いが余計に懐かしさを喚起させる。


 「一佐、お早く!海保の巡視艇が冬木港に着桟します!」


 ゥオン、と鞭を入れられたエンジンが目覚めて、窓から顔を出した仰木さんが叫ぶ。「はいはい」とシャーレイさんが踵を返して歩み出し、途端に私は焦る。まだ肝心なことを聞けていない。


「ま、待って下さい!魔方陣は、彼の魔方陣はどこにあるんですか!?」

 

 掴みかけた希望を必死に手繰り寄せるような私の叫びにシャーレイさんは髪を靡かせて再び振り返る。太陽に輝く黒髪が、まるで彼の兜を飾っていた鬣のように美しく艶めいた。


「何もかもを変えた彼が、唯一変えることのなかったものを探しなさい!」




―――どうして、今まで気が付かなかったのか。答えはずっと目の前にあったのに。


 全身が痺れる高揚感が、空腹も疲労も力づくで吹き飛ばした。頭痛がするほどの覚醒感で目の後ろが燃えるように熱い。玄関も開けっぱなしに、私は無我夢中で廊下を疾走していた。家の中を走り回るなんて行儀が悪い、なんて普段の理性は微塵も働かない。ポチの「きゅっ!?」と驚く声を置き去りにして、私はさっき通ってきたばかりの廊下を手足を振り乱して逆走する。

 この家は、10年前とはまったく異なっている。私たちのために、彼がほぼ全てを作り変えてくれた。それらが、走り抜ける視程の限界に映っては後ろに流れて行く。

地中海のようなコバルトブルー色のカーテン

濃藍色のふかふかの絨毯

明るいキャンドルスタイルの照明器具

丁寧に磨きこまれた黒檀のテーブルもマホガニーの椅子


そして、以前と何も変わらない、バロック様式のアンティーク燭台。

全てを変えた彼が、唯一変えなかった物。

 

 テーブルの上に身を乗り出して、ひったくるように燭台をつかみ取る。頂点に不気味なガーゴイルを象った、西洋風の陰気な燭台。でも、裏返して見た底部に刻まれていたのは、本体とは少しも相容れないテーマと意匠の刻印だった。


―――旗を織る鶴。


 直径5センチもないスペースに印刷したように精巧に彫られた文様は、輪郭の細い鶴が機織り機に向かって懸命に旗を織る姿だった。有名な昔話の一場面を描いたのだろうそれは、洋を基調とする間桐邸には少しも馴染んでなくて、まるで目の前にある和室(←ルビ)のようだった。





 自然と思い出す。和室に籠もって作業を始めた彼の様子を覗こうとしたお義父さんがデコピンで追い払われた一幕を。あの時、彼は何を見られたくなかったのか? この和室で何をしていたのか? なぜ、わざわざ場違いな和室なんて造ったのか。必ず、何か意味があるはずだ。

 肩を上下させたまま、息を呑んで和室に通じる襖を開ける。カラカラと落ち着く音とともに視界に飛び込んできたのは、床の間に飾られた鶴の水墨画(←ルビ)。左隅には流れるような草書体で“芭佐加”と署名されたそれをめくり、漆喰の壁を注意深く目でなぞる。


「……これだ」


 果たして、それはあった。同系色に塗られ、とても巧妙に隠された、小さくて丸い窪みがあった。一見すると、よくあるような何の変哲もない施工漏れ。でも、完璧な彼にとってはあり得ないはずの不備。子どもの頃なら見つけられないし、大人になったら

見過ごすだろう、まるで今の私の目線に調整したかのような高さにポツンと存在する窪みは、直径5センチ程度の大きさだった。そう、ちょうど、この手に握る燭台の底と同じ。

 直観の導くまま、緊張に震える手をもう片方の手で抑え、燭台の鶴を窪みに押し付ける。途端、驚くほど正確な精度で適合した凹凸が吸い込まれるようにピタリとハマった。でも、それまで。何も起きない。うんともすんとも言わない普通の壁の感触が腕を伝って脳に届き、希望に暗闇を落としかけ、


「お願い、バーサーカー……!」




ガゴン!! ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ……!!




 壁の窪みがさらに奥へ引っ込む衝撃と、次いで間桐邸全体を軋ませる振動が再び心の雲を打ち払った。振動の発生源である背後を振り返ると、敷き詰められた畳の中央が重苦しい音を響かせながら沈み込み、地下へ通じる石階段がゆっくりと姿を現した。見たことのある古めかしい階段は、タールを流し込んだような暗闇へとドボンと呑み込まれていて、身体が勝手に竦み上がる。漂う闇の陰影に、死んだはずの間桐臓硯の邪悪な気配を見た気がした。

 れることなどできない10年前の地獄。魂にまで刻まれた苦痛と汚辱の日々。一生、私を蝕み続ける最悪の記憶が、この先にヘドロのように沈澱している。

 でも―――|だからどうした《・・・・・・・》というのだろう。


「ポチ、先を照らして」

「キュウッ」


 頭頂のスピネルを発光させたポチが私の肩にぴょんと跳ね乗る。

 この暗闇を用意してくれたのは、彼。美味しい料理のように、新しい家のように、素晴らしい人生のように、そしてこの恋心のように、常に最高のモノを与えてくれた彼が、この時のために用意したもの。なら、恐れる必要なんてない。それに、今の私にとって黒は彼の鎧の色。彼を象徴する色なのだから。

「甘いわね、お爺様」

 ふっと不敵に笑みを浮かべ、私は一歩、力強い足取りで石階段に踏み出す。暗闇に潜む臓硯の顔を足蹴にして、歩みを止めずにスピネルの光で暗闇を切り裂いて突き進む。過去の亡霊がどんなに触手を伸ばそうと、私は意に介さない。だって、恋する女の子は盲目なのだから。貴方なんて、眼中に無いわ。

 ずっと分厚い石床に密閉されていたからか、地下は思いの外綺麗に保たれていた。センサー式の照明は10年の時を経ても完全に機能していて、私の入室を感知してたんぽぽ色の優しい光を部屋の隅々まで満遍なく降り注がせる。不思議なことに、部屋にはクモの巣一つ見当たらない。スンスンと鼻を効かせてみると、ツンとしたミントの残り香が壁や調度品に染み付いているのがわかった。きっと虫除けのためにハーブで念入りに燻蒸したんだろう。部屋の四隅に置かれた大きめの麻袋には『業務用シリカゲル』と表記されていて、私が立ち入るまで湿気とカビを防いでいてくれたことがわかる。記憶にこびり付いている地下室の光景は、ただ粗雑にくり抜かれて岩と土が剥き出しになっていて、いつもじめじめと不快な湿気に淀んでいた。だけど、目の前に広がる地下室はまるで違う。デコボコだった壁も床も精緻に整えられ、上品な墨色のセラミックタイルが敷き詰められている。
 私を助け出してくれたあの日に崩壊したはずの地下空間は、修復され、整理され、今日この日のために大切に保たれていた。この、魔法陣と共に《・・・・・・》

「これが、彼が召喚された魔方陣……」


 10年も経つのに、かりやおじさんの血はまるで昨日塗りつけられたようにそのまま残っていた。冷たい石の床に燃える血液で刻まれた陣をそっと指先でなぞって、その理由が分かった。乾ききった血の上に透明な顔料が塗られて、劣化を完璧に防いでいた。

 ここで彼が召喚されて、全てが変わった。運命も歴史も人生も、悲しく終わりかけていた全てがここで息を吹き返した。私の10年の恋に火が付いた。彼に恋をしてよかった。彼しか見てこなくてよかった。やっぱり、彼は私を理解してくれていた。いずれ私がこれを必要とすることをわかってくれていたのだ。万感の思いが込み上げてきて、目の前がじわりと涙で滲みそうになる。でも、今はまだその時じゃない。泣くのは、彼と再会を果たしてからよ。


「魔方陣は、見つけたわ。そして触媒も……」


 この手の中に、ある。興奮で真っ赤に火照る頬を自覚しながら、あらためて紙袋を目の前に掲げて観察してみる。まるでA4ほどの冊子のような手触り……というかまさにA4の冊子そのものにしか思えない手触りに、思わず首を傾げてしまう。光に透かして見ると、表紙はかなり色彩豊かだ。まるでコンビニに置いてある雑誌のようなカラフルさ……というかそのものにしか見えない現代的な色遣いに、さらに首が曲がる。いいえ、違うわ桜。これはきっと、遥か昔、伝説の時代に綴られた魔道書。或いは、名も知れぬ黒き鎧の英雄について、その生涯を語った古代の書物に違いないわ。そう、ここには、私が喉から手が出るほど求めた、彼に辿り着くための鍵がある。

 そこはかとない不安に揺らぎかけた心を情熱の力でムリヤリ建て直し、紙袋の封印ーーー如何にも安っぽいテープーーーを千切り、中身をゆっくりと慎重に取り出す。1センチ、2センチと書物が顔を出し、そのゴシック体の印字が目に飛び込んできてーーーーーー


「……………ユーキャン?」


 ユーキャンだった。生涯学習のユーキャン。『学ぶ喜びをあなたに』。テレビCMでよくやってる、資格取得語のための通信教育教材。

 


アイデア


戦闘機の素材

炭化ケイ素

マルエージング鋼



(途中)

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