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せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ! 番外編 試作(RX)

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  後篇の次の『RX』です。なんでタイトルがRXなのかは本文中でわかるようにします。イリヤのために父が選んだ最強の英霊、“黒い仮面の騎兵”。いったいその正体は……!?


その時、不思議なことが起こった!(ナレーション:マサムネ)




10年と5ヶ月後  お茶濁し回なんだ。本当に申し訳ない。 (RX)

‡可哀想じゃない銀髪の子サイド‡

 

 

「みんな、そんなに私を臆病者に仕立てあげたいのかしら! “トオサカとマキリから尻尾を巻いて逃げた臆病者だ”って!」

 

 子どもじみた抗弁だと理性が諌める。皆を困らせてしまうと後悔が頭をよぎる。しかし、その自覚を無視できるほどの若さと矜持、そして何よりも|憧憬《・・》がこの少女にはあった。

腰まで届く銀髪を翼のように羽ばたかせ、少女がすっくと立ち上がる。華奢な身体に気合を充溢させ、目の前で如何にも心配そうな顔を揃える|家族たち《・・・・》に泰然と向き合う。

 

「みんなの言いたいことはわかる。危ないって言いたいんでしょう? それなら、リンもサクラも同じはず。同じリスクを前にして、彼女たちはそれでも意志を曲げてない。だというのに、どうしてこの私が曲げられるというの? お父様とお母様の娘である、この私が!」

 

 負けられない。“年上だから”という矮小な意地ではない。過酷を極めた第四次聖杯戦争を生き抜き、その呪われた歴史に終焉を齎した英雄を両親に持つという己の生い立ち故の矜持が彼女をライバルと張り合わせる原動力となっている。

かたや、|あの伝説の男《・・・・・・》と互角に渡り合い、聖杯戦争というバトルロワイアルを闘いぬいた末に汚染された聖杯の暴発を未然に防いだ父親。かたや、聖杯の器として一度は肉体を失うも奇蹟の復活を遂げた母親。そして両者をして、アインツベルン本城を強襲し、行く手を阻まんとする大魔術師ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンの妨害を乗り越えて我が子を奪還せしめた逸話を有す。

聖杯戦争はおろか近代魔術史に名を刻む二人の血を継いだ自分が、どうしてここで|退《ひ》けるというのか。怖じるなど、己の肉体に流れるこの血にかけて断じてありえない。

 見た目は10代に差し掛かった程の童女だが、その横顔は年齢相応の思慮深さに引き締まりながらも若者特有の直情的な気概に紅潮していた。

 

「ですが、お嬢様!」

 

相変わらず心配性なメイド―――少女にとっては家族の一員―――がそれでもと食い下がる。少女と同じホムンクルスである彼女は、|霊的結合《レイライン》を介してサーヴァントから流れ込んでくるフィードバックがどれほどの苦痛を伴うのかをより生々しく知悉している。特に少女は特別なホムンクルスの実子かつ、第五次聖杯戦争に向けての強化処置によって通常の魔術師よりもサーヴァントとの適合性能は遥かに高い。両親の離反によって行程の半分も完了せずに強化措置から助けだされたとはいえ、その性能の高さは依然揺るぎなく、代償もまた比例する。操り人形の糸が痛覚神経に直接繋がれ、人形が揺れ動く度に神経を引きずり出されるが如き負担を一身に受けることになるのだ。

 また、少女が聖杯戦争に参加するデメリットはもう一つある。

 

「聖杯戦争が始まれば、お嬢様は英霊の魂を注ぐ“小聖杯”の役割を強制されてしまいます! 万が一にでも他の者が勝利を手にすることとなれば、お嬢様の御命は……!」

 

 冬木の地で行われる聖杯戦争において、英霊召喚などの運用システムは円蔵山の地下空洞に敷設された大聖杯が司るが、敗れた|英霊《マレビト》の魂を蓄える“器”となるのは小聖杯―――即ち|少女の心臓《・・・・・》なのだ。前回の聖杯戦争では彼女の母がその役目を担い、意識も肉体も焼失して聖杯の器と成り果てた。通常のマスターであれば、戦争で敗れたとしても言峰教会に保護を申し入れ、生き永らえることも出来る。しかし、少女はそれが出来ない。戦争に勝利し、自身の|使い道《・・・》を選ぶ権利を勝ち取れなければ使い捨ての器としての末路しか残らない。

 

「わ、|私《わたくし》がマスターになります! 私も魔術士の端くれ、マスターとして十分に戦えますわ! その間にお嬢様は避難なさって下さい!」

「逃げよう。聖杯の力が及ばないところまで逃げよう。私がずっと守るから。小聖杯が行方不明になれば、聖杯戦争は途中で破綻する。そうしたら戻ればいい。自分から怖い思いをすることなんて、ない」

 

 ハラハラと涙を浮かべるメイドと眉をハの字に寄せて愛用の|   《ハルバート》を持ち出してきたメイドの嘆願に、少女は手のひらを突き付けて頑なにそれを制す。

 

「|だからこそ《・・・・・》よ。どの道、今回の聖杯戦争から逃げられたとしても、次の戦争が、また次の戦争が始まる。いつまでも逃げられるとは限らない。小聖杯の替わりが用意できるまで追いかけっこは続く。そんなのはイヤ。私の命の使い道は私が決める。他の誰にも好きにはさせない。それに、この家の誰よりも私がマスターとなった方がずっと勝算が高いわ。お父様もお母様も、もう全盛期のようには戦えないはずよ」

 

理路整然とした主張に、少女の父と母は数瞬口を蠢かせたが反論できずに終わった。

男にとって、争いの絶えない現世に絶望し、聖杯による理想世界の実現に真命を賭していたのは10年も昔で、「娘のためにもう少し世界を諦めないでみよう」と希望を見出してからは良き父親の役目に徹している。女は、一度死んで生き返った結果、聖杯の外装品という束縛から解放されて平凡な寿命を重ねる幸福を得たが、10年の歳月を経る中で母性を培う一方、魔術師としての力量はぐっと衰えてしまった。無論、二人がここまで力を失った背景には、処置を施される度に短命になる可能性が高くなる我が子を一刻も早く救い出さんと肉体及び魔術回路への負荷を度外視した激戦があり、当事者である少女はそれを最高の誇りとしている。

自分たちの非力と聖杯の復活を予測できなかったことへの自責の念に駆られ、両親が悔しげに臍を噛む。忸怩に沈む彼らの肩に、小さく、けれども力強い手が置かれる。

 

「二人とも誤解しないで。私は“仕方がないから”と状況からお仕着せられた消去法で自分が戦うことを受け入れたんじゃない。そうすべきだから――――いいえ、私が|そうしたい《・・・・・》から、|そうする《・・・・》の」

 

だからこそ、少女は他人を責めないし、誰かに|資格《・・》を譲らない。栄光を掴み取る資格は他ならぬ己にこそあるのだと自負しているからだ。

ハッとして顔を上げた父と母が思わず息を呑む。不幸な境遇であるはずの娘は、不幸など意に介さぬと鷹揚とした微笑みを浮かべていた。

 家族に見守られながら育つ少女は、無条件に注がれる愛情を知っている。命をかけて己を守ろうとする家族の姿を通し、自己犠牲の尊さを知っている。父親の過去を聞き、正義とは何かを知っている。|本来の正史《・・・・・》であれば淀んだ感情に振り回され絶望的な結末を迎えるはずであった少女は、このIFの歴史において普通の日常こそが何物にも替え難い幸福であることを悟り、若々しい熱意と希望に燃える正しき魔術士として大きく歩み出している。

 

「みんなもわかっているはず。この街は|あの人《・・・》の抑止力で護られてる。そのおかげで、この街はアインツベルンはおろか聖堂教会も魔術協会も迂闊に手を出せない中立地帯となってる。そのおかげで私たちの普通の日常がある」

 

聡明な少女は自らの境遇をよく理解していた。アインツベルンの追手を恐れずに暮らせる現在の安寧は、“あの人”―――間桐 雁夜が過去に打ち立てた栄光の傘によって成り立っていることを。

 

「そう。あの人の、決して表の世界では語られない偉業あればこそ」

 

それまで事実を淡々と述べていた少女の頬が熱情にカッと火照る。熱を帯びた瞳に映り込むのは、かつてサーヴァント・バーサーカーを騎士の如く伴って戦場を悠然と闊歩した|伝説の男《・・・・》の背中だ。

 

 

かの者は、第四次聖杯戦争の直前まで凡庸な一般人としか認識されていなかった。しかし、一旦戦争が幕開けすると突如としてその眠りを醒まし、瞬く間に戦略的主導権を握った。敵対するマスターはおろか名も知らぬ市民を慮る余裕すら見せながら次々に戦術的勝利を勝ち取っていくと、最後にはあらかじめ予見していたかのように聖杯の汚染を看破し、躊躇いもなく破壊を選択。同盟を結んでいたセイバー陣営と協力し、聖杯に固執するアーチャー共々これを打ち倒した。この事実を持って戦争が終了すると、なんと魔術協会からの客員教授としての招待や各方面からの誘いの一切を拒否。用は済んだとばかりに魔術士の道をあっさりと見限り、凡百の身分へと再び眠りについたのだ。

たった2週間足らずの間に誰も成し得なかった栄光を手に入れてそのまま後手に放り捨てた男は、不可解な行動の真意を明確に語ることはなかった。だが、どこかでポツリと零したとされる呟きは魔の世界に大きな波紋を呼んだ。

 

 

『俺はアイツとの思い出の詰まったこの街が好きなんだ』

 

 

“アイツ”が誰のことを指すかは今を持って不明だが、問題はそこではない。間桐 雁夜の興味は愛する生まれ故郷の平和にしかなく、聖杯戦争の終結のみに辣腕を振るった理由もまたそこにあるのだとしたら―――その冬木市に手を出せば、眠れる虎は間違いなくその瞼を憤怒に開いて巣穴から飛び出してくるだろう。

当代で並ぶ者無しと称されたロード・エルメロイはあっという間に病院送りにされ、魔術士の天敵と恐れられた衛宮 切嗣さえ手も足も出ず、人型の修羅と恐れられる代行者であった言峰 綺礼に至っては|真っ向からの肉弾戦《・・・・・・・・・》で敗北した。そのような|   《モンスター》に自ずから挑む命知らずはいない。

さらに、彼の抑止力を頼った衛宮 切嗣とその一行が冬木市の武家屋敷に本拠地を構え、彼の師であり義母でもあるナタリア・カミンスキーも招きに応じて近所に引っ越し、切嗣の弟子であり生粋の暗殺者である久宇 舞弥も近くの商店街に住居兼店舗を構え、元代行者の言峰 綺礼は同じく代行者であった娘を冬木市に呼び寄せ……と芋づる式に人類最強クラスの者たちが近隣に集結することとなり、気付けば“冬木の地に触れるべからず。触れれば戦争が起きる”との暗黙の了解が広がることとなった。

 

このような魔の者共すら恐れる人外の中心にあって今なお不動の存在感を放ち続ける男こそ、間桐 雁夜その人なのだ。

 

ちなみに、雁夜本人は謙虚な性格のためか人外集団に関わることを強く拒否し続けているが、彼と戦ったことを誇りとする者たちが殊更にその逸話を流布していくため、当人の意志とは関係なく冬木市における最重要人物として各方面から見做される結果となり、彼の邸宅には市長から新参魔術士まで様々な人種が緊張の面持ちで挨拶に訪れる。また、毎年冬には『第四次聖杯戦争参加者の会』と呼ばれる催し事が開かれ、戦争時は鎬を削りあったライバルたちが一同に会して互いの健闘や現状などを讃え合う場が言峰教会に設けられるが、「今年こそ行くものか」と参加を固辞する間桐 雁夜が遠坂家当主と衛宮家当主によって無理やり会場に引きずられてくる光景は毎年の恒例行事となっている。

 父に連れ添ってその会合に参加したことのある少女は、名高る強者たちに囲まれて顔面をピクピクと引き攣らせるその姿を目にして、|果てしない畏敬の念《・・・・・・・・・》を抱いた。両親から間桐 雁夜の逸話を聞かされて育った少女は、その青ざめた顔がフェイクであると見破ったのだ。一見すると「早く帰りたい」とぶつぶつ呟く情けない青年だが、その顔の皮一枚下では凡人が想像もしない知慧に漲っているのだろう。頼むから誰も話しかけるなと言うように会場の隅っこに痩身を押し込めるのは、そこが最も|観察しやすい《・・・・・・》場所だからだ。怯えるようにキョロキョロと泳ぐ目は、狼狽えているようで実は参加者の仔細を熟視しているに違いない。

 

「かつてお父様が目指し、私のために諦めた“正義の味方”の夢を、私が引き継ぐ。間桐雁夜が成し遂げたことを、私が再演するのよ」

 

誰よりも叡智に長け、人知れず数えきれない命を救い、比類なき偉業を成し遂げたというのに、対価も求めず、賞賛も受けず、権力も欲せず、ただ人々の安寧を影から見守る。言うは易しだが、身を持って実行できる人間は限りなく少ない。確固とした規範を持ち、己の力量とそれを振りかざす時と場合を明確に弁え、敢えて周囲に振り回される道化を演じて人々の心の結束を図る。彼こそ、紛れも無く冬木の地を守護するに相応しい伝説の男―――少女にとっての|お人好しの英雄《ヒーロー》なのだ。

 

「護られてばかりなんか私の性に合わない。今度は私自身が伝説を打ち立てて、皆を護る。お父様の夢を引き継ぐ。聖杯がまだ汚染されていればまた壊すわ。何度だって手に入れて壊してみせる。“正義の味方は諦めない”、そうでしょう、お父様」

 

 その、じっと父親を見詰める一途な瞳に、男は過ぐる日の己の面影を見た。アリマゴ島で誓おうとして出来なかった願い。大海原、眩い陽射しの中でようやく誓えた願い。

 懇願する愛娘の頬をそっと撫で、父親は心の底からの微笑みを浮かべ、愛妻の肩を抱き寄せる。 

 

「―――さすが、貴方の血を継いだ子だわ。ヒーローを目指すだなんて」

「―――ああ。たしかに君の血を継いだ子だ。意志の強さがそっくりだ」

 



 おしどり夫婦そのままに朗らかな両親の態度に、てっきり反対されると危惧していた少女はぱちくりと目を丸めた。呆気にとられる娘に、父親は種明かしをするように愛おしげな笑みを浮かべる。


「わかっていたよ、イリヤ。君がマスターとして戦いに参戦することも、僕ら家族が反対するかもしれないと懸念を抱いていることも。だから、先に、父さんと母さんの気持ちを伝えよう」


 誰よりも優しい我が子の神を撫でつけ、その体温と感触を手に確かめる。容姿は母似、瞳は父似。そこに自らの血潮の存在を、連綿と受け継がれる魂を実感し、父親は万感の思いを凝縮させ、告げる。


「行きなさい、イリヤ。サーヴァントを駆り、聖杯を手にしなさい。僕たちは君の勝利を信じてる」


 少女は無意識に父親の手を強く握った。何かが流れ込んでくるのをはっきりと知覚する。力、経験、魔力、技術、それら全てを合しても足りぬ膨大で熱い何かが、重なった手を介して怒涛の如く流れ込んでくる。

 「旦那様、何を根拠に!」。メイドたちが抗弁しようと口を開き、少女の母がそれを先んじて制す。


「根拠は、私たちの子どもだから。そして、貴方たちが育ててくれたから。この子を形作ったのは、私たち二人だけじゃない。セラ、リズ、貴方たちの知性と力も、この子は然と受け継いだ。目の前にいるこの子は、私たち4人そのもの。私たちの想いの結晶なのよ」


 二人はハッとして少女を見つめる。対する少女は、何も言わずに親友(メイド)の手をそっと取り、じっと見つめ返した。その強い瞳は、もう子どもではなかった。それで十分だった。二人はもう何も口にすることはなく、頭を垂れて愛する主人の飛躍的な成長に感じ入り、より一層の敬愛を強めた。



(途中) 

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