白銀の討ち手 旧ver.

白銀の討ち手IF~白と赤のコムニオ 第一話~ (作:黒妖犬様)

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きーん、こーん、かーん……
 HRの予鈴がなる中、私は前を歩く先生の後を付いて行く。朝の静かな学校の廊下を歩き、目的の教室の前まで来ると、先生はそこで立ち止まって振り向いた。
「では“平井さん”、先生が先に入って説明してきますので、呼んだら入ってきてくださいね」
「はい、解りました」
 先生の言葉に、私は笑顔浮かべてそう言った。すると先生は教室の中へと入っていく。
 途端、先程までざわめいていた教室内が静かになる。
「はい、ではHRを始めます、でもその前に今日は皆さんに転校生を紹介します。入ってきてください」
 先生の説明を聞くと、静かになっていた教室内にまたざわめきが生まれる。そしてそのざわめきは私が教室の中に入る事で更に大きくなった。
 予想はしていたけどこれは面白い、特に坂井悠二の隣に居るシャナは、私を見るなり驚いて、そして睨んできている。
 うぅん、嫌われてるなぁ…
「はい、静かに! 驚くのも解るけどまずは転校生の自己紹介聞いてね、では自己紹介お願いね」
「はい、えっと、“平井サユ”です、名字から推察出来ると思いますが、平井ゆかりの“双子の妹”となります。姉共々よろしくお願いします」
 私が自己紹介を終えると、まるで時間が止まったかのように教室が静かになる。しかしそれは一瞬で、次の瞬間には――
『ええぇぇぇぇぇえぇぇ!!』
 殆どの生徒が声を上げた……ご近所迷惑だよ…お隣の教室の方々、すみません…
 そしてふと悠二とシャナを見ると、これが見事に驚いていた。二人とも同じように目を見開いて、口をぽかんと開けている。普段見られないシャナのそんな姿に、私は思わず小さく笑ってしまった。
「平井さんって双子だったの?」
「確かによく似てるなぁ…」
「うわぁゆかりちゃんと一緒でちっちゃくてかわいい」
 …ちっちゃくてかわいいは止めて…たしかにその通りだけど……
「はいはい、騒がない! 平井さん、いえ、サユさんは今まで体が弱く、田舎の遠い親戚に預けられていたそうです、一年ほど前から徐々に回復し、最近になって普通に生活できるようになったそうなので、本人の希望で、お姉さんと一緒の学校に通う事となりました。
 そのような事情ですので、皆さんはなるべく助けてあげて下さい、以上。
 ではサユさんの席は、お姉さんの隣でいいわね? 何かあったらお姉さんに聞けるし」
「はい、かまいません」
「それでは席に着いて、すぐにHRを始めますので」
「はい」
 私はそう受け答えすると、シャナの隣の空いている席に行ってそこに座る。そして隣に座るシャナを見ると。
「よろしく、“お姉ちゃん”」
 私は笑顔でそう言った、その瞬間、シャナの手にあった教科書が握りつぶされた……ちょっとやりすぎたかな? 内心苦笑する私だけど、このちょっとした悪戯心は、直ぐに後悔する事になった。



 教室中が静まり返っている。ギシギシと言う擬音が聞こえてくる様だ、まるで金縛りの中無理矢理動こうとする様な……それは私だけではないだろう、見渡すと教室中の生徒が机に伏せ、顔を手に持った教科書で隠している。
 一言で言って……空気が…重い…
 シャナの教師切り、この光景も見るの久しぶりだな…けど……記憶よりもシャナさんが容赦ないのは決して私の所為ではないですよね?
 そして現在の獲物は英語教師、私の記憶通り、先生が書いた英文の問題点を指摘する。そして最後に……
「あんた、そんなんで人に教えようなんていう意欲があるの? その程度で教師をやられるなんて、こっちが迷惑よ……」
 容赦のない一言、実にシャナらしいけど…あの、シャナさん…私の記憶だと、そんな事言ってなかったよね? 明らかに『不機嫌です』オーラが漂ってるし…私の所為じゃ……ないよね?
 先生の方も明らかに意気消沈、これは“また”フォロー入れておく必要あるかな…
 そう、一時限目からこんな調子で教師切りをしているので、私は授業が終わった後こっそりとその先生の所まで行って、何とかフォローを入れているんだけど…それでもやっぱり堪えたのか、『ありがとう』と元気なく答えるのがせいぜいだった…まぁ中には無理に笑顔を浮かべて私の頭を撫でた人も居たけど…そう言う表情をされると罪悪感がですね…いや、まぁ一応私が原因かなぁって言う自覚あるし…うん…
 まぁそんな調子で、四時限目も無事? 終了した、さて、またフォロー行かないとな…
「あ、サユちゃんちょっといい?」
 教室を出ようとした所で呼び止められ振り向く、そこには坂井悠二が居た。
「あ、はい…なんですか?」
 あれ? なんで私に声を掛けるんだろう? たしかシャナを誘って中庭に行くはずなのに…
「あ、いや…僕も一緒に行こうかと思って」
「は?」
 突然の言葉に私は間の抜けた様に答えてしまった。それを見て笑う坂井悠二。
 うぅ、は、恥ずかしい…
「あぁごめん、ほら、シャナの起こした騒動で、先生たちにフォロー入れてたでしょ? 僕も人事じゃないからね、一緒に行こうと思って」
「え、って、見てたの!?」
「あ…うん…」
 うわぁこっそり行ってたんだけど、見られちゃったんだ…まぁそれはともかく、冷静になれ…
「まぁ見られてたのなら仕方ないですが、それよりも“シャナ”とは?」
「え、あぁうん…ほら、サユちゃんの隣の…」
「……“炎髪灼眼”に名前があるとは初耳ですね」
 なるべく落ち着いて話す、私が干渉した事で私の時とは変わってくる、それは解っている筈だ。なるべくボロを出さないようにしないと…
「あ、うん…今朝僕が付けたんだ、シャナはゆかりさんじゃないからね…」
「そうですか……」
「あ、それよりもやっぱりサユちゃんってフレイムヘイズだったんだ」
「そうです、と言うよりも昨日会ったはずですよ、それよりも私の事はサユでいいです、というよりもちゃんを付けて呼ばないで下さい」
「あ、ごめん…小さかったからつい…」
 っな!
「小さいって、それを言うなら“シャナ”だって十分小さいでしょ、なんで私にはちゃんをつけるんですか?」
「シャナはなんかそう言う雰囲気じゃないから…それよりも今“シャナ”って自然に出てきたけど…」
 し、しまった!
「え、ええ…固有名詞が無いのは不便な事ですから使わせてもらいます、それにシャナと言う名前は“炎髪灼眼”に合っていると思います」
「いや、それは嬉しいんだけど…それにしては自然に……」
「何か問題でもあるんですか?」
「…いえ…ありません……」
 私が睨むと、坂井悠二はそれ以上言わなくなった。
 よし、何とか誤魔化せたかな……
「ではそういうことで、あと先生の所には私一人で行きますから付いて来なくてもいいです」
「あ、はい…じゃぁ今日の昼一緒に食べない? ちょっと聞きたい事あるし、シャナも誘うつもりだけど…」
「はい、それは構いません、フレイムヘイズの居る場所なら解りますので先に行ってて下さい」
 私はそう言うと、坂井悠二の返事を待たずに教室を出る。それにしても……
「びっくりしたぁ…」
 変わる事は覚悟していたけど、よもや坂井悠二から私に接触してくるなんて…いや、それ自体は予想内だったけど…過去の自分にちゃん付けで呼ばれるなんて…
「いい道化だったぞ、我がフレイムヘイ……」
「うるさい…」
 テイレシアスが全て言い切る前に、胸元のペンダントをぺちんと叩く。まぁシャナと坂井悠二への接触は成功だね。



「……フレイムヘイズの居る場所なら解りますので先に行ってて下さい」
 そう言うと、僕の返事も聞かずにサユちゃんは教室を出て行った。嫌われてるのかな? なんか話し方もおかしかったし…まぁお昼一緒に食べてくれるって言ってたし、いいか…それじゃシャナを誘って中庭にでも……行こうと思ったんだけど、なんでしょう? シャナから物凄いオーラが漂ってくる……
「あ、あの…シャナ?」
 勇気を出してシャナに声を掛ける、けど…
「お前、自分の立場解っているのか?」
 更に怒気が膨らんで言うシャナ…どうしよう…
「お前、自分が“ミステス”で、狙われている立場だって解っているの?」
「わ、解ってるよ…」
「じゃぁあのフレイムヘイズと何話してたの?」
「え、聞きたい事があったからお昼一緒に食べないかって…」
 そう言った瞬間、シャナの表情が更に険しくなる。これはまずい…
「あ、あんたねぇ…」
「そ、それよりもシャナ、君にも聞きたい事があるんだけど、一緒にお昼食べない?」
「はぁ?」
 僕があわててそう言うと、シャナは『正気か?』と言わんばかりの表情で僕を見る。
「ちょっとまってよ、それってあのフレイムヘイズと一緒にって事でしょ? ことわ…」
「いや、構わん」
「アラストール?」
 シャナの言葉を遮って、アラストールが答えた、シャナはその言葉に怪訝顔で言う。
「我も『贋作師』に聞きたい事があるからな」
「…アラストールがそう言うならまぁいいけど…」
 アラストールの言葉に、渋々といった感じで答えるシャナ。た、たすかった…
「じゃ、じゃぁ行こうか…」
 僕はそう言うと、シャナを連れ出す。中庭にでも行こうか…それにしても、シャナとサユちゃんって仲悪いのかな? 少なくてもサユちゃんはそんな感じじゃなかったけど…
 いまさらながらだけど、二人を一緒に誘ったのって、間違いなんじゃないかと思う……



 職員室に行って一応さっきの英語教師にフォローを入れておいた、もはや職員室では私はお馴染みで、職員室に入ると暖かい目で見られた。
 しかしあの英語教師はダメかもしれない…職員室に入って見つけると同時に、私は掛けるはずの言葉が出なくなったのだ…だって、口から魂でてたし…あれって存在の力なのかなぁなんて思いながらも声を掛けたけど、やっぱりと言うか反応が無かった…取り合えず元気出して下さいと一言言って出てきたけど…うん、ダメだねあれは…
 まぁそれはもぉいいとして、フレイムヘイズの気配を読み取る為に意識を集中させる。するとシャナの気配を感じる事が出来た、どうやら中庭に居るようだ。とすると無事悠二はシャナを連れ出したのかな?
 そう思って中庭に出ると、そこには予想通り、シャナと坂井悠二が中庭のベンチに座っていた。
「あ、サユちゃんこっち」
 私を見つけるなり坂井悠二は立ち上がって手を上げる。そんな事しなくても解っている…ってかまだちゃん付けするのかあんたは…
 私は二人の所まで行くと、坂井悠二の隣に腰掛ける。すると私とシャナで坂井悠二を挟む形となった。まぁいいか…
「…それがサユちゃんのご飯?」
「そうですけど…なにか?」
 坂井悠二は私がコンビニ袋から出した物を見て言う、その中身は、すあま、三色団子、みたらし団子、チーズケーキにスナック菓子。
「……それがご飯?」
「な、別に自炊が出来ないわけじゃないから、時間がないから仕方なくコンビニで…」
「いや…それはいいけど…それはご飯とはいえないんじゃ…」
「う…」
 言いたいことは解る、けどこの体になって以降、どうしても甘いものに目が行ってしまう…注意しないで買い物するとなぜかこうなってしまう…無意識に甘いものを買ってしまうのだ…
「まったく、年頃の少女がそのような食生活でどうする?」
「う、うるさいよ、テイレシアス」
 まったく、テイレシアスは事ある毎に私をからかうんだから…そう不貞腐れていると、くすっと笑い声が聞こえる、そっちに目を向けると…坂井悠二が私を見て笑っていました……
「あぁごめん、つい…」
 恥ずかしくなって俯く私に、申し訳なさそうに言う坂井悠二。けどそれだけで終わらなかった…
「…可愛らしくて…」
 何をのたまうの、こいつは! なに? 過去の自分に可愛らしいって言われるって!?
「あ、ごめん、まさかそんな反応するとは思わなくて…顔赤いけど大丈夫?」
 うるさい! この時本気で過去の自分に殺意が湧いた…
「そうからかうな、我がフレイムヘイズは初心で乙女な所が……」
「テイレシアス、だ、ま、れ……」
 うぅ…視界がぼやけてるのはけして涙なんかじゃないよ…
「ははは…それよりも、話し方、それがサユちゃんの普段なの?」
 そんな私を見て乾いた笑みを浮かべて言う坂井悠二、誰の所為でこうなってると思っているんだ…まぁいい…
「そうだけど…なにか?」
「いや、さっき教室での話し方おかしかったから…出来れば普通に話して欲しいなって…」
 うぐ…
「わかった…努力する…」
「ところで、ゆかりさんの双子の妹ってどういう事? ゆかりさんに妹が居たなんて知らないんだけど…」
「うむ、それについては我も聞きたい、どういうつもりなのだ、『贋作師』よ」
 坂井悠二の言葉にアラストールも同意する。
「そうだね、まず平井ゆかりの妹って事だけど、あなたが知らないのは当然だよ、もともと平井ゆかりの妹なんていう存在は居なかったんだから」
「え、居ないって…それじゃ転校手続きとかは…」
 私の言葉に坂井悠二が疑問を挟む。それはそうだろう、もともと存在しない人間が、どこから“転校”してくると言うのか。
「問題ないよ、確かに平井ゆかりの妹と言う存在は居なかったけど、今現在はちゃんと平井サユと言う存在があるのだから、平井ゆかりの妹としてね…」
「どういう意味だ? まさか存在を作ったなんて言うのではないだろうな?」
 私の言葉に答えて来たのはアラストールだった。さて、ここからが面白いところだ……
「その通り、存在を作ったの、今は確かに平井ゆかりの双子の妹、平井サユは存在している」
「ばかな! 存在に対する認識を挿げ替えるならともかく、個人と言う存在を作り出すだと!? 貴様、一体どんな宝具を使った!?」
「くくく、これだから頭の固い頑固ジジイは…くくく」
「何がおかしい、『贋作師』!」
 テイレシアスの言葉が癇に障ったのか、声を荒げるアラストール。
「テイレシアス、話が先に進まないでしょ…まぁアラストールの疑問に答えると、宝具とか特別な物は一切使ってないから」
「どう言う事?」
 私の言葉に、今まで沈黙していたシャナが答えた。どうやら興味が出てきたらしい。
「結論から言うと、別にフレイムヘイズじゃなくても出来る…つまり普通の人でも出来る方法だよ」
「普通の人間が、個人と言う存在を作れると言うのか?」
 アラストールの言葉に、頷いてから話を続ける。
「坂井悠二、だったよね? さっき疑問に思った事、もう少し拡大して考えてみて」
「え、ああ…平井さんの妹なんて聞いた事ないって事だろ? うぅん…そう言えば、存在としてちゃんと居ると言っても、それをちゃんと証明する人間が居ない…」
「そう、田舎の遠い親戚の所に居た、じゃぁその田舎ってどこ? 遠い親戚なんて凄く曖昧だと思わない?」
「たしかに…でも転校して来たって事は戸籍が……ってまさか……」
 そこまで言ってようやく理解できたようだ、たぶん今の私は凄くいい笑顔だろう。
「……なんて無茶を……」
「そうでもないよ♪」
「一体どういうことよ?」
 私がやっと事を理解して頭を抱える坂井悠二、一方シャナはわからず不機嫌な顔をしている。
「……戸籍、書き換えたな……」
「そう、今の世の中、存在なんてデータで管理されてるからね」
 私がここに来て最初にやった事は、学校にどうやって入り込むかだ。別にシャナのように適当なトーチの存在に割り込んでもいい、けどそれだとそのトーチによって行動が制限される場合がある。ならば都合のいい存在を作り上げればいい。
 そう考えた私は、まず役所に行った、そこでデータを管理するポストに居るトーチの存在に割り込む。実際その光景は他者から見たら異常だっただろう、小学生にしか見えない、いいとこ中学生の少女が、戸籍を管理するポストに付いている事になるのだから。
 そして私は早速戸籍を書き換え、平井ゆかりの双子の妹、平井サユを作った。だけどこのままだと不正となって偽造が発覚する。そこで適当な存在の力を宿した人形に、私の認識を移した。もとより小さな存在の力のため、誰も見向きもしない。そしていずれその存在は消えて、不正をした人間なんて居なくなる。
 しかしそれだと、その人間がした不正行為事態が消える。だから私は平井サユとして、さまざまな人間に関わった、学校、近所の人たち、転校手続きのために役所の人たちにも関わった。
 そうしているうちに、不正を働いた人間の存在が消える。しかし私はすでに平井サユとして、世界に認識されているため、平井サユと言う戸籍は残ったと言う訳だ。
 私がそこまで説明すると、みんな驚いて言葉を失っていた。それもそうだろう、これだけの事をするのに一週間かかったんだ、それなりの反応してくれないと困る。
「無駄な労力を…」
 それは酷くないですか? アラストールさん…
「でもちょっとまってよ、それが何でよりにもよって平井ゆかりの双子の妹なのよ! 私は昨日平井ゆかりになったのよ、都合よすぎるじゃない!」
「む、言いたいことは解るけど、私が平井ゆかりの妹と言う立場を選んだのは、平井ゆかりの家族全員がトーチになっていたため、私の仕掛けの後に来て、そういう言い方はないんじゃない?」
「っな、私が悪いみたいに言わないでよ! 大体そんな面倒な事しなくても、私みたいに平井ゆかりに成り代わればいいでしょ? アラストールが言ったように無駄な労力じゃない」
 まぁ言いたいことは解るけど…本当の理由はこの反応を見たかっただけなんだよね…ま、それはともかく…
「まぁ確かにそうだけど、これからの事も考えてね…それにトーチに成り代わるって言うのも不都合な事があるしね…」
 多少ぼかして言う、まぁこれで問題無いでしょう。
「ふむ、お主等が何を考えているのかは解らぬが、ひとまずの疑問は解けた、それでいいとしよう…だがそうすると“ミステス”が現れる前にお前たちはここに拠点を置こうとした事になる…つまりこの“ミステス”はお前たちの当初の目的ではなかったと言う事になるな…何が目的だ?」
 さすがアラストール…でもそんな事予想内だよ。
「まぁすぐに解る事になると思うけど…一番の目的は宝具だよ」
「やはりか…だがそれはこの“ミステス”ではない、つまり今この町にいる徒か? お主、今現在ここに居る徒が何者か知ってるな?」
「正解、フリアグネ、そう言えばもう解るんじゃない?」
「『狩人』か、そして宝具のコレクターでもあったな…なるほど、お前たちが狙っているのは『狩人』が集めた宝具か」
「そう言うこと」
「そしてあわよくばこの“ミステス”の中身か?」
「結果的にそうなれば、そうなるね…」
「ふん、まぁいい、それだけ解れば十分だ」
「あの、ちょっといいかな? さっきから気になってたんだけど、シャナとサユちゃんのペンダントって通信機かなにか?」
 私とアラストールの会話が一区切り付いたとき、坂井悠二がそう切り出した。その言葉に受け答えするシャナとアラストール。
「ん?」
「どうしたんだシャナ?」
 神器の説明から紅世の世界など一通り話し終えた所で、シャナが後ろの視線に気づく。あの三人、またか……
「アラストール、誘いを掛ける、もしかしたら乗ってくるかもしれない」
「うむ、いいだろう…」
 シャナはそう言うと立ち上がる、そして…
「…封絶」
 その瞬間、シャナが作った封絶が学校を支配する。
「これは昨日の…まさか敵が!?」
 坂井悠二が驚いている間に、シャナは次の行動を起こす。一足飛びに後ろの茂みを越える、それを見て慌てて坂井悠二が後を追う。
 さて、今頃は後ろの三人を見つけているだろう…私はどうしようかな?
 二人について行く理由はないから…そう言えばまだ何も食べてなかったっけ?
 昼を食べていない事に気付いて、取り合えず三色団子を口に運ぶ。
 うん、やっぱり美味しい♪
 上機嫌でぱくぱくと食べて行くと、シャナの作った封絶が解かれる。
 もう解いたのか、と思いつつもチーズケーキを口に運ぶ手は止められない。
「あ、あれ? サユちゃん一人だけだぞ?」
 徐に聞こえてきた声、普通なら聞こえない声でも、私なら聞こえる。その声に振り向くと、茂みから顔を除かせている三人と目が合った。
「あ、あはははは……」
 私と目が合うと、佐藤と田中が苦笑いを浮かべて出てきた、その後ろに呆れた表情で付いてくる池。
「あぁえぇっとサユちゃん?」
 たどたどしく言う佐藤、緊張してるのかな?
「何でしょうか?」
「えっと同じクラスメイトなんだけど…」
「はい、記憶にあります」
「そうか、よかったぁ…えぇっと…美味しい?」
 佐藤が私の手の中にあるチーズケーキを見て言う。この間も隙を見てはそれを口に運んでいる。
「はい、とっても」
 自然と口から出る言葉…この体に随分影響されてるなぁ…私…
「そっか、えっと…一応自己紹介しておくよ、俺が佐藤啓作こっちが田中栄太、後ろに居るのが池速人」
「よろしくお願いします」
「おい自己紹介くらいさせろよ」
 勝手に全員の自己紹介をした佐藤に対し、田中が文句を言う。ふむ、こういう立場でこの三人を見るのは結構楽しい…
「まぁそれはともかく、さっき坂井と平井さん、えっと君のお姉さんと一緒だったと思うんだけど…」
 もめる二人を他所に、池が私に話しかけてきた。
「はい、先程まで一緒に居ましたけど、お二人は私よりも先に食べ終えて教室に向かいました」
「なにぃ!」
 私の言葉を聞くと、田中がいきなり声を上げる。それに思わず驚いてしまい、不覚にもケーキを落としてしまった…
『あ…』
 それを見て声を上げる三人…ケーキが…
「ご、ごめん…」
「いえ、いいです…」
「いや、でも…何も泣かなくても…」
 泣いてなんかないですよ…ただ潰れたケーキを見ているとなぜか自然にね…

「あのごめん、明日でよかったら代わりの買ってくるから」
 そう言って私と同じ目線になるまで腰を屈めて頭を撫でてくる田中…うぅまさか田中に頭撫でられるなんて……
「まったく、それにしても転校して来たばかりのサユちゃんを放置して二人で先に戻るなんて…ゆるせん!」
 あれ? えぇっと…
「しかも坂井のやつ! 美少女姉妹に囲まれて食事など、まさに両手に花状態だったじゃないか!」
 …あぁ…まぁたしかに…
 呆然とする私に構わず、田中はそのまま続ける。
「こんな心優しいサユちゃんを、坂井のやつ!」
「へ? 心優しいって?」
「あぁ、サユさん、お姉さんがコテンパンにした先生を元気付けてたでしょ?」
 なぜか怒りに燃える田中に代わり、池がそう教えてくれたけど…
「見てたんですか?」
 …私の行動全然こっそりじゃなかったの?
「ただでさえ転校生と言う立場なのに、問題を起こした平井ゆかりの妹、注目を集めないわけないだろう?」
 テイレシアスが私だけに聞こえる程度の声で言う。
 確かにその通りだよね…うかつだった…
「本当にかいがいしく姉のフォローをする姉想いの妹…クラス中が感動したよ…」
 しかもクラス中ですか!?
 芝居がかって言う佐藤の言葉に衝撃を受ける私…あぁもうすでにクラスでの私のポジションが決まったのか…
「こんないい子を放置して行くなんて、坂井には天誅を食らわせねば!」
 そう言う田中に対し私は…
「あぁうん、行ってらっしゃい、私は一人で教室に戻れるから大丈夫ですよ」
 そう言うしかなかった…ごめん坂井悠二、私にはどうする事も出来ない……
 昼休みが終わった後、なぜか自分の机に突っ伏している坂井悠二の姿を見つけた……



 窓の外を眺めると、沈み行く夕日が空を赤く染めている。
 HRが終了して、教室内に居た生徒たちは一人一人、それぞれの放課後の時間へと向かう。
 私は自分に宛がわれてた席に座り、その場景を眺めていた。
「そろそろ…かな?」
「フリアグネか?」
 そんな教室内の場景を眺めつつもらした呟き。その呟きに、テイレシアスが答えた。
「うん、前回はこのタイミングだった」
 私は席を立ちながら言う。もっとも今回も同じとは限らないけど。
「そうか…どうする?」
「静観する、とは言え死人を出すつもりは無いけどね」
 前回は皆無事だった、今回もそうであると思いたいけど、念には念をだ。しかしテイレシアスはそんな私の言葉に沈黙してしまう。どうしたんだろう?
 不思議に思いながらも教室を見渡し、適切だと思う場所に移動する。向かう先は教室の後ろの出入り口、放課後で生徒が教室を去ろうとしてるため、一番人が多い場所。
「あれ? サユちゃん?」
 私の行動に疑問を持った坂井悠二が声を掛けてくる、しかし私はそれを無視して壁際に行き、壁を背にしてその場に止まると、手を後ろで組み、教室内を見渡す。
 その私を不思議そうに見ている坂井悠二、しかし次の瞬間――
 キィィィィィン…
 耳鳴りの様な音と共に、薄白い炎が空間を支配する。
「来たわね…」
「うむ、間違いない、フリアグネの炎だ」
 シャナとアラストールが落ち着いて言う、しかしその言葉を聞いて、坂井悠二は慌てだす。
「ほ、本当に!? 今、ここに!?」
「本当に、今ここに来たわ」
 坂井悠二の言葉を、シャナは落ち着いて返すと、夜笠を翻し、贄殿遮那を構える。その姿に見惚れる坂井悠二。うん、傍から見るとマヌケなんだね…
「ちょ、ちょっとまって、皆がまだ…他の所でできないの?」
「封絶を使ったのは向こうよ、言うなら向こうに言って」
「そ、そんな…」
 シャナの言葉に愕然とする坂井悠二、しかし直ぐに顔を上げると、私を見る。ってまさか…
「サユちゃんお願いだ、みんなを助けて」
 私のところまで駆け寄って言う坂井悠二。
 やっぱりかぁ…まぁ予想は出来た事だけどね。
 私は慌てる坂井悠二をなるべく落ち着かせるように、静かに言う。
「落ち着いて、幸い教室内に生徒は殆ど残っていない、この教室内だけならそれほど被害は出ないし、向こうも派手な事は控えると思う」
 そう、フリアグネの最終目標が『都食らい』なら、派手な事をしてトーチを消す危険を冒すとは思えない。
「でもそれじゃぁこの教室に居る人は……」
 それでも安心できないのか、見るからに狼狽している坂井悠二。
 なんだろう、昔の自分って言うのは解っているんだけど…情けない…
「だからここに居るの、ここが今一番生徒の数が多く、そしてこの壁の向こうにも生徒が居るから」
 私のその言葉通り、今この場には教室を出ようとしている生徒たちが居る。もちろん私の後ろにある壁の向こう側は廊下、教室を出た生徒が多く居る。もちろん教室の前の出入り口も人はいるけど、シャナが居る場所、おそらく一番被害が出る場所からは距離が離れている。だからこそ一番守らないといけない場所はここなのだ。
「それよりも外…来るよ」
「え?」
 私の言葉に坂井悠二が振り返る。その視線の先には窓ガラスに張り付いた一枚のトランプ…レギュラーシャープか。
 ガラスに貼り付けられた一枚のカード、そこから一枚、また一枚と数を増やしていく。
 さて、どうする? このままだとレギュラーシャープによる一斉攻撃が始まる、たしかにこの位置なら“殆どの”生徒を守る事はできる…しかし…
 ふと視線を向ける、その先には坂井悠二に話しかけようとして止まったままの吉田さん…他の生徒なら位置的に大丈夫だ、けどどう頭の中でシミュレーションを繰り返しても、彼女だけは救えない…前回と同じなら大丈夫、それにこれは坂井悠二とシャナにとってのターニングポイントの一つでもある、ならなるべく余計な事はしないで……余計な…事?――
 何が余計な事なんだ? 何度も感じたはずだ、前と同じになるとは限らないと、今考えれば坂井悠二の時、零時迷子は偶然だ、今回もたまたまその偶然が起きただけだ。なのに私は他の偶然も起こると思っているのか? 前はたまたま犠牲者が出なかっただけだ、私はどこかで前と同じ状況になると思っている、それは私の甘えだ…なら、できる限りの事をする――
「坂井悠二! 彼女をこっちに運んで!」
「え!? よ、吉田さん!!」
 私の言葉で気付いたのか、慌てて吉田さんに駆け寄り彼女を抱きかかえる。しかし坂井悠二がこちらに来る前に、レギュラーシャープの一斉攻撃が始まった。
 窓を突き破り、鉄砲水の様にそれは吉田さんを抱えた坂井悠二に襲い掛かり、恐怖で立ち竦む坂井悠二を捕らえようとする。しかしその直前で、シャナは夜笠を翻し、坂井悠二を守る盾を作る。
 夜笠による盾は堅牢で、レギュラーシャープの一斉攻撃などでは揺るがなかった。その攻撃を防ぎながらも、シャナのその灼眼の双眸は常にその本流を捉えていた。
 そして手に持った大太刀の切っ先を、その本流へ向けると力強く踏み出し、刃を付き立てる。その鋭い刺突は、本流の核を正確に貫いた。
 次の瞬間、轟音と共に爆発が起こり、衝撃が教室を支配する。
 私は咄嗟にレギュラーシャープを作り出すと、それを前方に展開して衝撃を防ぐ。ある程度距離を離したにも関わらず、その勢いは凄まじく、展開したレギュラーシャープが崩れかかる。それを存在の力を上乗せする事で無理矢理維持した。
 衝撃は一瞬の事で、直ぐに教室内に静寂が戻る、それと同時に私が展開したレギュラーシャープも、乾いた音を立てて霧散した。
 教室内は予想以上に被害が出ていて、私は直ぐに坂井悠二と吉田さんを探す。
 最初に見つけることが出来たのは坂井悠二だった。シャナの夜笠の影に居たためか、目立った外傷はなく、小さく呻き声を上げている。しかし、爆発の直前まで抱えていた吉田さんの姿が見えない。爆発の衝撃で手を離してしまったのだろう。
 私は直ぐに辺りを見渡し、吉田さんを探す。
「――っ!」
 瞬間私は声を失った。爆発の衝撃で飛ばされたであろう吉田さんを見つけることは出来た、しかし彼女は一緒に飛ばされた机の下敷きになっていた。
 思わず飛び出しそうになるのを必死に堪える。そう、それは『サユ』がする事ではない、『坂井悠二』がしなければいけないことだ……
「う…こ、これは……」
 気が付いたのか、坂井悠二が小さく呻きながら起き上がる。そして教室内を愕然と見渡し――
「あ、よ、吉田さん!」
 机の下敷きになっている吉田さんを見つけて顔面が蒼白になる。そして反射的に駆け出すと倒れている彼女の所まで行き、彼女を下敷きにしている机をどかすと、彼女を優しく抱き上げる。
「よ、吉田さんしっかりして、大丈夫?」
 気が動転して、必死になって吉田さんに呼びかける坂井悠二。それに対し私は小さく深呼吸をして、心を落ち着かせると、改めて吉田さんを見る。
 正直酷い怪我だ、骨折はもちろん内蔵も傷めているだろう…通常空間ならまず助からない、けど今は封絶内、これなら…大丈夫――
 危なかった、今のは坂井悠二が吉田さんを抱きかかえなければ、あの爆発の衝撃でもっと悲惨な状況になっただろう、封絶内なら解く前に直せばいいが、その力が問題だ、もしこれ以上酷くやられていたら、今の坂井悠二の存在の力だけでは直しきれないかもしれない…いや、そのときは私が直せばいい、けどそんな事よりも、最悪存在の力を食われる事だってあったんだ。
 本当に、今更ながら自分の考えの甘さに苛立つ。
 歴史にIFは無いとはよく言ったものだ、いくら過去を振り返っても、歩んだ過去を変える事は出来ない、IFは未来にこそあるものだ。たとえるならそれは無限の迷路か、それとも未開拓の樹海か、目の前に道と言えるものなどない、無限のIF……選ぶは最善の道、最良でなくてもいいのだ、もとより最良など無いのだから――
「テイレシアス、少し方針を変えるよ」
「ほう…」
 私の言葉にテイレシアスは楽しげに答えた。
 今までは自分の記憶通りに事が進むのなら静観するつもりだった、目的はあくまで零時迷子を目当てに集まった徒、その徒が持つ宝具だったから…けど――
「自分で言っていながら忘れてたよ、『白銀の討ち手、サユ』としてこの世界に干渉しよう」
 そうだ、手が届く所に助ける事が出来る人が居て静観するなんて、私らしくない――
「くっく、いいだろう、好きにやるがいい、我がフレイムヘイズサユよ――」
 テイレシアスの言葉を聞くと同時に、視線をシャナへと向ける。丁度その時シャナは、巨大な人形と化した燐子と対峙していた。しかしそこから小さい人形が飛び出してくる。
「もらったわよ、フレイムヘイズ」
 その燐子は勝ち誇ったように言いながら、坂井悠二に迫っていく。直ぐにシャナもそれを阻止しようとする、しかし――
「っが…」
 燐子が漏らす苦痛の声、その原因となったのはシャナによるものではない、その燐子を貫き、動きを止めたのは、私の手の中にある白銀の大太刀だった。
「……またあんたなの? 手出しする必要が無いって解ってるでしょ、なら手出ししないで」
 そう悪態をつきながらも、贄殿遮那を捕まえ、動きを封じていた燐子を軽々切り捨てるのはさすがだ。ま、それはともかく…
「そうは言うけどね、必要を感じたから手を出したんだけど」
「っな、どういう事よ!」
 私の言葉に食って掛かるシャナ、気持ちは解らなくも無いけどここは言わせてもらう。
「暴れすぎだよ、この惨状を直すのに誰かをトーチにするつもり?」
 私のその言葉に、坂井悠二が反応する。それはそうだろう、この言葉に一番恐怖を覚えているのは坂井悠二なのだから。
「だ、誰かをトーチにするってどう言う事?」
 怯えながらも言う坂井悠二を、シャナは一睨みすると、直ぐに視線を私に戻す、そして何かを言おうとするが、その言葉が出るより先に、圧倒的な存在感がこの場を支配した。
 その存在感に、私とシャナは同時に外を見る。そこには白いスーツを着込んだ、線の細い美男子、フリアグネが居た。
「おやおやこれは…子猫同士のじゃれ合いの場かな? こんにちわおちびさん達…逢魔が時にふさわしい出会い…かな? 災厄の前に子猫のじゃれ合いとはなんとも微笑ましいものだね」
 む、前回と違うのはやっぱり私の影響か? まぁそれはそれでいい…前は散々な目に合わされたのだ、ここで少しくらい意趣返ししてもいいだろう。
「気障な物言いだね、大魔時だからと言って災いが起こるとは限らないでしょ、それともあなた自身が災いとでも言うの? ならば初始に戻って国作りを薦めるよ」
 少し見下した様に言う、派手な事は出来ないと解っているからこそ、遠慮の無い物言いができる。しかしそれでもフリアグネの表情は崩れない。
「ほう、それはそれで感興を覚える提案だね、だが初始に戻らずともここでやって見せよう、もっとも私は無王で終わるつもりはないがね」
 私の言葉に笑みを浮かべながら軽く返すフリアグネ、遠まわしに無能だと言ったんだけど、さすがにこの程度じゃダメか…なら…
「そう? でももっと相応しい場があるんじゃないの? 夜の街で女性相手の接客業のほうが余程向いていると思うけど?」
 常々思っていた事を、この場で遠慮なく言う。さすがにここまで言えばその美男子の仮面も崩れるだろう。
 しかしそんな思惑とは裏腹に、フリアグネは呆れたといった感じの仕草をすると、態とらしくため息をついた。
「はぁ…やれやれ口の悪いおちびさんだ、そのような可愛らしい顔で言う言葉ではないな、レディーならもっと優雅で上品でなければ…」
 フリアグネの言葉に、私は一瞬頭の中が真っ白になった。
「っな、か、可愛らしい…レディーって…」
 一瞬遅れて理解が追いつく、しかし混乱するだけで、返す言葉が出てこない。
「くっくっく…顔を赤めて、ますます可愛らしいではないか」
「うぐっ…」
 っくそぉ…こんなはずじゃぁ……
「何を遊んでいるんだお前は」
 シャナの呆れた声と同時に、アラストールの溜息が聞こえてくる。うぅ、遊んでるわけじゃないもん…
「ほう、炎髪灼眼…なるほど、そちらのお嬢さんが『天壌の劫火』のフレイムヘイズか……噂にたがわぬ美しさだな」
 シャナに視線を移し、感嘆のため息と共に言う。そしてその視線はまた私にと戻ってくる。
「しかしこうまで似たフレイムヘイズが居るとはね…さてこちらの可愛らしいお嬢ちゃんは誰のフレイムヘイズかな?」
 か、可愛らしい…お嬢ちゃん…なんでシャナの感想は美しいで、私は可愛らしいなの!?
「ふん、貴様の声は相変わらず聞くに堪えない悪声だな…」
 何も言い返せない私に代わり、テイレシアスが話す。しかしその言葉には嫌悪の感情が伝わってくる。フリアグネも、テイレシアスの声を聞くと、今までの薄い笑みが消えた。
「ほう、その声…まさかこんな可愛らしいお嬢ちゃんの王が、汚らしい『贋作師』だったとはね…すると、このお嬢ちゃんは、君が作った炎髪灼眼の偽者ということかな?」
 む、確かに私の体はテイレシアスの贋作によるものだけど、シャナの偽者になった覚えはない。私は言葉を返そうと口を開く、しかし――
「戯(あざ)るなよ、『狩人』如きが…偽者などと我がフレイムヘイズを侮辱するな」
 私の口から出ようとした言葉は、テイレシアスが怒気を含む声によって遮られた。
 どうしたんだろう? テイレシアスなら、私の体を最高の作品だと言って誇ると思っていたのに。
「そこまで怒りを露にするとは、そのフレイムヘイズを大層気に入っているようだね…君に気に入られるとは、よほど……」
 フリアグネがそこまで言った所で、何気なく動かしたその視線が、床に向けられる。その視線の先には、私が無意識に捨てた人形。それに視線が止まった途端――
「マ、マリアンヌ!!」
 突如その表情が悲しみに歪められると、体全体でその悲況を表して言う。
「ああ、ごめんよ私のマリアンヌ、こんな怖い子と戦わせてしまって…」
 ここまでされると、まるでお芝居でも見ているようだ。しかし一頻り悲しんむと、その手にはいつの間にか一枚のカードが指に挟まっていた。それをぴっと引くと、床に散らばったレギュラーシャープが浮かび上がり、フリアグネの元に集まる。
 フリアグネに集まったレギュラーシャープは、指に挟まれた一枚のカードに収縮する。残ったのは半ばほどまで焦げた一枚のトランプだった。
「へぇ、私の自慢のレギュラーシャープを、腕っ節だけどここまで減らすとは…」
 先程までの悲観を感じさせずに言う、しかしいつの間にか腕に収まっている人形を見ると、まるで怪我をした幼子を見る様な表情になる。
「ああ、全く、フレイムヘイズはいつも酷い事をする」
 またしても芝居くさい事を言うフリアグネ、それに答えるように、人形の燐子は、ボロボロになった体で懸命に詫びようとする。
「申、し訳、ありま、せん、ご主人、様」
「謝らないでおくれ、マリアンヌ。君を行かせた私も悪いんだ。
 まさか剣1本で、ここまでひどいことをされるとは思っていなかったんだよ」
 そう言うと、フリアグネはやさしい笑みを浮かべ、ボロボロの人形に息を吹きかける。するとボロボロの人形の燐子に存在の力が供給され、その姿が元通りになる。
「さあ、これで元通り。慣れない宝具なんか持たせて、ごめんよ」
 マリアンヌを抱き寄せ、頬擦りをしながら言うフリアグネ。
 なんか、黙っていれば本当に夜の街で人気になりそうな美男子が、少女の人形を愛でる姿って言うのは…気色悪い……
 しかしそんな仕草も、直ぐに獲物を狩る『狩人』へと変わる。その双眸はシャナを捕らえていた。
「うふふ、昨日と今日で分かったよ。君はフレイムヘイズのくせに、炎をまともに出せないようだね。
 戦いぶりが、いかにもみみっちいな」
 その言葉にシャナはぴくっと眉を吊り上げる。
「……なんですって?」
 そんなシャナの反応が面白いのか、フリアグネの表情にまたあの笑みが戻った。
「何せ、かの”天壌の劫火”との契約者だ。 どんな力があるかと警戒していたのに……その、かなりの業物らしい剣の力を借りて、ようやく内なる炎を呼び出している程度とはね。
 違っているかな?私の宝具への目利きは、かなり確かだと自負しているのだけど」
「……」
 シャナの沈黙を肯定と受け取ったのだろう、フリアグネの笑みがまた深くなる。
「しかし、もう一人の戦いも見られると思ったけど…あの爆発を防いだアレ、まさかとは思っていたけど、契約した王が『贋作師』と言う事で納得したよ。
 まさかあの一瞬で私のレギュラーシャープを贋作するとはね…『贋作師』が大層気に入るわけだ…
 けど、肝心な戦闘は見れず終い、さてどうしたものか…」
「ふん、そんなにも我がフレイムヘイズの力を見たいのなら今ここで貴様を討滅してやってもいいのだぞ」
 フリアグネの言葉にテイレシアスが答えた。けど普段の彼らしくないような…
「『天壌の劫火』よ、ここは引いてもらうぞ、こ奴は我らが討滅する、よいなサユよ」
「へ? あぁ…うん、いいけど……」
 本当にどうしたんだ?
 私が不思議に思ってると、シャナはテイレシアスの言葉を無視し、一歩前に出る。しかしそれを止める声があった。
「『贋作師』がああ言うのだ、ここは引くぞ」
「っ! それはいいけど、どう言う事なの、アラストール…」
 小さくやり取りをするアラストールとシャナ、私も興味あるのでそれに聞き耳を立てる。
「フリアグネは宝具のコレクターだ、そのため『贋作師』の作る宝具の贋作を、他の誰よりも見下していたのだ」
 ……なるほど、なっとく……アラストールの説明は確かに説得力があった。
「そう言うことか、テイレシアスの気持ちも解らない訳じゃないし、いいよ、ここでフリアグネを討滅する」
「ふふ、やれやれ怖いお嬢ちゃんだ、こんな所で暴れて、そこのミステスが中身ごと壊れたら本末転倒ではないか。
 それでは困るのでね、別に急いでる訳でもないし、もっとやり易い状況を作ってからまた伺うことにするよ」
 フリアグネはそう言うと坂井悠二を、いや…坂井悠二と言う宝具の器、ミステスを、獲物を前にした狩人の瞳で見る。
「ふふ、本当に楽しみだ、何が入っているのかな、その中…うふふ」
 その視線に耐え切れず、恐怖で竦む坂井悠二。
 フリアグネは気味の悪い笑みを浮かべながら、陽炎の揺らぎのように、黄昏の空に溶けて行った。
 そして気付けば、その姿も圧倒的な存在感も消えていた。

「…あれが、『狩人』フリアグネ…」
 暫くその空を見ていたシャナが徐に口を開いた。
「そうだ、多数の宝具で幾人のフレイムヘイズを屠ってきた、強力な“王”だ」
「うん、感じた…でも負ける気はない――」
 シャナらしい言葉だ。
 私はその言葉を聞くと自然と笑みが浮かぶ。
「それより、封絶内を直すわ、そいつ、使うから」
 シャナは贄殿遮那を仕舞うと、坂井悠二が抱きかかえている吉田さんを見て言う。
「使うって……まさかさっき言ってたトーチにするって――」
「そうよ、焼べる薪が無ければ炎は燃えないでしょ、死に掛け一人ならそいつ一人で治せるから――」
「そう言う問題じゃないだろ! それって吉田さんが僕みたいに死んでトーチになるって事だろ?」
 シャナの冷徹な一言に、坂井悠二が感情を高ぶらせて言う。
「じゃぁどうするの? 壊れたまま、傷だらけのまま封絶を解くっての? 言っとくけど、今の因果孤立状態を解いてこの空間が動き出したら、そいつ、確実に死ぬわよ」
 シャナのその言葉に坂井悠二は二の句を上げる事が出来ずにいた。
 傷だらけの吉田さんを見て、悩む坂井悠二の姿に、シャナは苛立ちを隠さずに言う。
「わかった、そいつが知り合いだというなら、他を使うから」
「っな、そ、そう言う問題じゃないだろ!」
「ならどうしろって言うの? それとも貴方の存在の力を使う?」
「え?」
「残り滓でもこれだけを直すなら十分よ、けどその分お前の残り時間は少なくなるけどね」
「――解った、それでいい」
 坂井悠二の言葉にシャナは驚いて目を見開く。しかしそれも一瞬で、直ぐに冷静を装う。
「駄々こねていた割には、随分簡単に決めるのね」
「簡単なんかじゃないよ」
 そう言いながら立ち上がる坂井悠二。静かにそう言ったのが気に入らないのか、シャナは怒りを込めて言う。
「じゃぁなんで残された存在と時間を、わざわざ捨てるような事をするのよ」
「捨てるんじゃない……」
 静かにそう言うと、坂井悠二は俯いていた顔を上げる、そして見えた顔には穏やかな笑みがあった。そして倒れている吉田さんを見ると
「生かすんだ――」
 本当に愛しむように静かに言う。その言葉にシャナは完全に黙ってしまった。
 へぇ…坂井悠二ってあんな表情するんだ――
 過去の自分とは言え、客観的に見ると気付かなかった事が色々見えてくる。本当に優しい笑顔……ってぇちょっとまって、今私何してた!? ま、まさか過去の自分に見惚れて…イヤ、ソンナワケナイデスヨ……
 なんか激しく自己嫌悪してしまう……
 その後、私は修復を全部見ないまま、学校を出た。
 あとはもう大丈夫だろうし、私は次の準備があるからだ。けして坂井悠二から逃げた訳ではない…うん、たぶん…
 学校を出て、夕日で染まる御崎大橋を渡る。こうしてこの橋を渡るのも随分久しぶりだ。
 赤く染まって、波に揺らいでいる真南川を眺めつつ感慨に耽っている。
「ふむ、まるで初めて異性を意識してしまったため、初恋相手に顔を見せることが出来ず悩んでいる乙女のようだぞ」
 人がせっかく感慨に耽っている所に……
「それにしても終に少女らしく異性に興味をもったか、しかし初恋の相手が過去の自分とはな…いや、そんな事はもはや関係ない、お前は恋する乙女なのだから、顔が赤いのは夕日の所為ではあるまい?」
 ……ぴき
 テイレシアスのその言葉に、私の枷が一つ外れる。橋の手摺りに登ると、胸のペンダントを両手で持ち、橋の外側へと突き出す。
「テイレシアス、いくら私でも終いには怒るよ…」
 このままその手を離したくなる衝動を抑え、テイレシアスに警告する。
「落ち着け、顔を赤めて涙目で睨んでも可愛らしいだけだぞ」
 …投げよう、どこか遠くへ……
「冗談だ、真に受けるな」
 ペンダントを持った手を後ろに引いたところで、テイレシアスの呆れたような声が聞こえてきた。
 まったく、いい加減私をからかって遊ぶのは止めて欲しい、今のなんて洒落にならない…
 私は不貞腐れながらも、ペンダントを首に掛け直す。
「それよりもやっとやる気になってくれて嬉しいぞ」
「え、じゃぁあの時、私が静観するって言ったら何も答えなかったのって…」
「ふん、お前の消極的な判断が気に入らなかっただけだ、せっかくあのフリアグネを討滅できると思った矢先だ」
「……拗ねていたんだ……」
「断じて違う!」
 テイレシアスの意外な一面を見て思わず笑みが零れる。
「クス、はいはい、っとそうだ、聞きたいことがあるんだけど」
 私は手摺りに座り込むと、真南川を眺めながら訊いた。
「俺もあるのだがな、まぁ先に聞いてやろう」
「ありがと、最後フリアグネに偽者って言われたとき、てっきり私は、この体を自分が作った贋作だと言って誇ると思ってたんだけど…」
「そうして欲しかったのか?」
「まさか、そうしたら後々ややこしくなる。私は過去でシャナに会った事になるからね…でもそれはその程度、いくらでも誤魔化せる。テイレシアスだってその事は解ってたでしょ? なのになんで?」
 私の言葉にテイレシアスは少しの間沈黙する。そして僅かな沈黙の後口を開いた。
「俺にとっての誇りは贋作したその体ではなく、俺の力を初めて使いこなす事ができたフレイムヘイズ、『白銀の討ち手サユ』だからだ
 それにその体は炎髪灼眼の贋作でも、お前は白銀の討ち手サユだ、ならばその体もサユの体だ」
「――ありがと…」
 その言葉が凄く嬉しかった、目を閉じればその言葉が、私の存在を満たすようだった。
「それで、テイレシアスの訊きたい事って?」
「ああ、方針を少し変えると言ったな? ならこれからどうするのだ?」
 テイレシアスのその言葉に、私は笑みを抑える事が出来なかった。
「ちょっとね、今日の転校騒ぎも面白かったし、もう少しイタズラしてみようかなって」
「くっく、そうか、それは楽しそうだ」
「うん、さて、シャナと坂井悠二、それにアラストールがどんな反応するかな…」
 これからの事を想像して、笑いを堪えるのに凄く苦労した。さて、ここまできたらとことんやろうか――



 隙間から漏れる小さな光しかない狭い空間、そこで使わなくなった玩具や古本の間に、体を縮こませて座っている自分の姿を客観的に想像する。それだけで自然と溜息が漏れた。
 なぜこんな事になったんだろうと自問自答したくなる。こうなった経緯を思い出すと、仕方ないと解ってはいる…しかしそれでも理不尽な思いは消せない。
 薄い扉を隔てた向こう側からは、絶えず衣擦れの音が聞こえる。屋根の上で警戒していたシャナを、部屋に入るように促したのはたしかに自分だけど、まさかこんな事になるとは…
 自分には特殊な趣味はないと言い聞かせても、その音を聞くたびに動揺してしまう。
 そしてふとした弾みで、下にある玩具箱に体重を掛けてしまった。
「痛っ――!」
 丁度なにかの尖った先があったらしく、そこに座る形となってしまった。思わず飛び上がるが、こんな所でそんなスペースがあるはずも無く、僕は押入れの扉を突き破って転がり落ちる。そして最初に見たのは、衣類を全て脱ぎ去って、呆然と僕を見下ろすシャナの姿。その顔が怒りと恥じらいに染まっていく。
「っちょ、これは不可抗力で……」
「う、うるさいうるさいうるさぁい!」
 いつの間にか取り出した大太刀を振り上げるシャナ。これは洒落にならない!
 命の危機を感じた僕は、咄嗟に起き上がって逃げ出す。しかし慌てすぎたため、足が縺れ、前のめりに倒れこむ。その頭の上を通過する確かな存在感。それに恐怖する暇も無く、僕はそのまま前転するように部屋から転がり出て、壁にぶつかったところでようやく止まる。
 そして後から襲ってくる恐怖感、下手をしたら首が飛んでいたんじゃないのか?
「シャ、シャナ、幾らなんでも――」
 幾ら僕に非があるとは言え、あまりの仕打ちに文句を言おうと顔を上げるが、視界に映ったのは先程シャナに持っていた、コーヒーが入った魔法瓶だった。
 目前に迫ったそれを避ける術が僕にあるはずも無く、無常にもそれは鈍い音をたてて僕の顔面へとぶつかった。
 そして勢いよく閉められる部屋のドア…ここ、僕の部屋だよね?
 そんな疑問に答えてくれる人が居るはずもなく、魔法瓶を手にとってため息を吐くしかなかった。取り合えずこの魔法瓶は流しに置いてこよう。
 そして重い足取りで一階へと向かい、台所で魔法瓶の中身を捨てて水に浸けて置く。そうして戻ろうとした丁度その時。
「ゆうちゃん、何を騒いでいたの?」
 突然掛けられた声に振り返ると、そこには母さんが居た。母さん、と言ってもとても童顔で、僕のような高校生を子にもつ親とは思えない。
 そんな母さんが、きょとんとした顔でそこに立っていた。
「あ、母さん、いやこれはその…」
「ダメよゆうちゃん、高校生にもなって夜騒いじゃ、ご近所に迷惑でしょ?」
 母さんは普段からおっとりと言うか、悠々とした性格をしている。だからこのくらいでは騒がないのだが、今回はそれが幸いした。
「あ、うん…気をつけるよ」
 それ以上のことは言わないと解ると、僕は適当に言葉を返してその場を後にする。
 そういえば屋根の上に登ったんだと思い出し、手ぐらい洗って行こうと洗面所に行こうとする。
「あ、そうだゆうちゃん、今度からはこういう大事な事は早めに言ってね」
「え、あ、うん…」
 母さんの言葉に振り向いたけど、廊下に出たため、台所に居る母さんの姿は見えない。何のことか解らないまま適当に返事をしてしまうが、この時ちゃんと訊いておけばよかったと後悔する事になった。
 丁度その時洗面所の前だったので、そのまま扉を開ける、振り向いたまま、余所見していたのが悪かったのか、洗面所に入った瞬間、何かに足を取られた。洗面所は脱衣所と一緒になっているからおそらく洗濯物か何かだろう。そう理解する間も無く、咄嗟に手を出す事もできずに僕はその場に転んだ。
「わ、きゃぁっ!」
 ……今の声は一体…それに倒れた先、固い床ではなく、柔らかくて暖かい…それに何かいい匂い、これはシャンプーに入浴剤?
 混乱しながらも、起き上がるために右手を突く。しかし固い床があるはずのそこにはふにっとした柔らかい感触、そして――
「っひゃぁうん!」
 さっき聞いた可愛らしい声…これってもしかして……
 床との衝突を恐れて目を瞑ったままだが、今目を開けるのはそれよりも恐ろしい…しかし意を決して目を開ける…そこには、シャナがいた――
 頭の中が真っ白になる。なぜこんな所にシャナが? それよりも今シャナに覆い被さっている、これの怒りはさっきの比ではないはず。
 僕はシャナに殴り飛ばされる、いや切られる事を覚悟する。しかしそれは襲ってこない。よくよく見ると、シャナの顔は真っ赤になっているが、さっきのように怒りを露にしていない。いや、それどころか泣いている、半泣きといった感じか。
 さっきとのギャップに、少し冷静になる。見た目は全く一緒だけど、全然違う。これはまさか…
「サユ…ちゃん?」
 僕が言うと、その子はコクコクコクと、小さく何度も頷く。やっぱりサユちゃんか、なんでサユちゃんが僕の家に?
 そんな疑問が頭を過ぎったが、そこでふと今まで右手にある柔らかい感触が気になり、指を動かす。するとサユちゃんが小さな悲鳴を上げて、びくっと体を震わす。これはもしかして…
 僕は恐る恐る視線を下へと移す。すると僕の右手は、サユちゃんの膨らみ始めたばかりの小さな左胸を、すっぽりと包んでいた。
「あ、あわわわわ…」
 理解するのと同時に、僕はその場から飛び退く。あまりの事に立ち上がる事もできずに、僕は尻餅を付いた格好で、後ろへと後ずさる。
 それに遅れてサユちゃんが身を起こすが、その場に座り込んだまま。バスタオルは僕がぶつかった事で手を離れたのか、今サユちゃんの身を纏うものは何一つ無かった。そのため手で必死に体を隠すサユちゃん。その顔は俯いて見えないが、泣いているのが解る。
 ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ……何がって、全裸で泣いている少女、そしてその場に男が一人…これってすごくまずいのでは……
 とにかくこの場を離れないと、そう思って座り込んだまま後ずさりするが、そう進まないうちに背中が何かにぶつかり、進めなくなる。
 そして後ろに感じる威圧感。これは昼間のフリアグネ以上の威圧感だ…振り返るなと頭の中で警告が鳴り響いているが、僕は恐る恐る振り返った。そこには――
「ゆうちゃん、ちょっとお話いいかしら?」
 いつもの笑顔で僕を見下ろしている母さんが居た。しかしにこやかな笑顔を浮かべているが、今の母さんからはフリアグネを圧倒する迫力を感じる。
 そうか、僕はトーチになった事で、まずは神から存在を忘れられたようだ……


 リビングまでつれてこられた僕は、今テーブルを挟んで母さんと対峙する形で椅子に座っている。母さんからの視線が、これほど痛いと思ったのは初めての経験だ。
「さて、どう言う事ゆうちゃん、裸の女の子を押し倒して、あまつさえ胸を触るだなんて…」
 数分の沈黙の後、母さんがそう切り出した。たしかにさっきの状況を簡潔に纏めるとそうなんだけど…それだと僕がサユちゃんを襲ったみたいじゃないか…いや、事故とはいえみたいじゃ許されない事だったとは自覚してるけど…
「あ、あの…」
 僕が返す言葉に迷っていると、入り口から消え入りそうな声が聞こえて来た。その声に振り向くと、そこには薄い緑色のパジャマを着たサユちゃんが居た。やっぱりまださっきの事を気にしているのか、顔を真っ赤にして俯いたまま、僕の方を極力見ないようにしている。これは確実に嫌われちゃったよね…
 それはそうだろう、事故とは言えあんな事をしてしまったのだ、弁解の余地はない…けどサユちゃんの体って未発達なのに柔らかくて気持ちよか…ってぇ何を考えてるんだ僕は! これではまるで犯罪者じゃないか!!
「まぁまぁ、可愛らしいわ」
 僕が激しく自己嫌悪に陥っている最中、母さんはそう言いながらサユちゃんのところまで駆け寄る。
「え、あ、あう…」
 対するサユちゃんは、そんな母さんに圧倒されてか、それとも可愛らしいと言われたためか、顔を更に赤めておどおどする。
 それにしても本当に可愛い、パジャマが少し大きめで、袖が余っているためか、サユちゃんの小さな体が更に小さく感じる。それにしてもサユちゃんって、可愛いって言われる度に動揺しているけど、言われなれていないのかな? こんなにも可愛いのに。
「それよりごめんね、家のゆうちゃんが酷い事して…ゆうちゃんってば、本当に鈍くて鈍感でデリカシーないから…」
 …母さん、幾らなんでもそこまで言わなくてもいいでしょ……
 それにしても母さんはサユちゃんを甚く気に入った様子で、おどおどするサユちゃんを抱き寄せて、頭を撫でている。そう言えば時々娘が欲しいって言ってたっけ?
「あ、あの…」
 そんな母さんに抱き寄せられ、顔を埋めたままサユちゃんが話す。
「さ、さっきの事は、鍵を掛けていなかった私にも非があることですし、その…事故でしたのでお互い忘れませんか…って言うか忘れさせて下さい……」
 うぐ、シャナの様に問答無用で成敗されるのとは違って、こんな反応されると物凄い罪悪感が……
「そう? ゆうちゃんには色々お仕置きしないといけないと思ってたんだけど…」
 幼い子供をあやす様に言う母さん、一体何をするつもりだったんだ…
「あ、それよりも何でサユちゃんが家に?」
 居た堪れなくなって、思わず疑問に思っていた事を口に出す。しかしそんな僕に母さんは非難の視線を向ける。
 僕が悪いと解ってはいるけど、そんな目で見ないで欲しい…
「ゆうちゃん何を言ってるの? ゆうちゃんが誘ったんでしょ?」
「は?」
 母さんの言葉の意味が解らず、つい聞き返してしまった。
「今日学校で言ってくれたはずです」
 僕の疑問に答えてくれたのはサユちゃんだった。まだ顔を赤めて不機嫌そうにしているけど、僕を見て言ってくれた。それよりも学校でって…
「今日私が家のお風呂が壊れたと言ったら、坂井君のお風呂を使ってもいいと」
 え? あ、なるほど、シャナはこっそりと警戒していたのに対し、サユちゃんは正当な理由を作って僕の家に来たって訳か…でも幾らなんでも男が女の子を貰い湯に誘うって無理があるだろう!?
「あ、でも今日早速伺うとは言ってなかったですね、すみません迷惑でしたか?」
 そう言って困った顔を浮かべるサユちゃん、女の子にそんな顔をされたら男は何も言えなくなる…
「いや、僕がすっかり忘れていたのが悪いんだから…」
「もう、しっかりしてよ、ゆうちゃん」
 やっぱりここでも男は弱者なのか……
「それよりも何でゆうちゃんはサユちゃんを貰い湯に誘ったの? お母さんはサユちゃんが来てくれて嬉しいけど、女の子を夜男の子の家に誘うなんて非常識よ、しかも貰い湯だなんて…」
 母さんが困ったようにため息をついて言う。それに関しては僕が聞きたい! もちろんこんな不意打ちで納得させるだけの説明なんて浮かばない。
 僕がそんな様子で焦っていると、サユちゃんがクスクスと小さく笑って言う。
「えっと、私は転校して来たばかりで頼れる知り合いが居なかったのです、それでお姉ちゃんが比較的交流の多い坂井君を紹介してくれたのです。
 お姉ちゃんはいきなり二人もお邪魔するのは失礼だと言って、別の人にお世話になると言っていました。後で迎えに来ると言っていたのですが…」
 そこまで一気に言った後、サユちゃんは僕の方を見る。なるほど、シャナが今ここに来ているのか、いや、ここに居る事に気付いているのかと言っているのか。
「うん、シャナなら今僕の部屋に居るよ」
「まぁいつの間に、お母さん気付かなかったわ」
 僕の言葉に、母さんは驚いた表情を浮かべて言う。それはそうだろう、窓から入ってきたんだから…それよりもさっきから疑問に思っていた事を尋ねる。
「それよりサユちゃん、なんでパジャマなの?」
「あ、これですか? さっぱりした後なのにまた制服着るのも億劫ですので、これで帰ろうかと…ガウンもありますし、それにこんな格好で帰っても、咎める親も居ませんので」
「え、サユちゃんのご両親、留守なの?」
 サユちゃんの言葉に疑問を持って、母さんが訊いた。
「いえ、留守ではなく居ません、家族は双子のお姉ちゃんだけです。今は国の援助で生活している身ですね」
 サユちゃんのその言葉に僕は疑問を持つ、たしか平井さんには両親が…
 そこまで思考を巡らせた所で思い出した、平井さんは家族で存在の力を食われて、全員トーチになっていた事を。
 つまり平井さんの両親が消えて、もともと居なかった事になった穴埋めとして、国の援助で生活していると言う事になったのだろう。
「こんなに小さいのに苦労したのね…」
 母さんはそんなサユちゃんを優しく撫でながら言う。けど撫でられているサユちゃんは、ちょっと不機嫌顔で、
「あの、私高校生なんですけど…」
 そう言う、その姿は一生懸命背伸びしようとしている子供の様だ。
 そんな事を想像したら思わず小さく笑ってしまった。それが聞こえたのか、サユちゃんは顔を赤くして僕を睨む。けどその顔は凄く可愛らしい。
「それじゃあ今夜は家に泊まって行きなさい、もちろんお姉さんも一緒にね」
 ……今何をいいましたか母さんは……
「いいのですか?」
「ええ、私も娘が出来たようで嬉しいわ、使っていない部屋ならあるから遠慮しなくても良いわよ、どうせなら一緒に寝る?」
「ではご迷惑でないのならお言葉に甘えさせてもらいます。あと一緒に寝るのは遠慮しておきますね」
「そう、残念だけど仕方ないわ、そうだ、もし良かったら家で生活してもいいのよ」
「はい、その辺りの事はお姉ちゃんと相談しますね」
 僕をそっちのけで話が進んでいく、いいのかこれは…ってちょっとまって、サユちゃんは恐らくシャナと一緒で、僕の中の宝具をフリアグネに渡さないために来ていると思っていい、それなら貰い湯から僕の家に泊まると言うこの一連の流れは、全てサユちゃんの思惑なのか? もしそうならサユちゃんって凄く恐ろしい子なんだな…
「じゃぁ坂井君、お姉ちゃんのところに案内してくれる?」
「え、あ、うん…こっちだよ…」
 笑顔で言うサユちゃんだけど、この笑顔に騙されているのではと思ってしまう。部屋に案内するまで何も話さないって言うのも気まずいので、その辺りの疑問を訊いてみる。
「あのサユちゃん、もしかして最初から泊まるつもりでパジャマ用意したの?」
「うん、そうだよ、ちなみにここに住むって事もね、その方が後々便利だし。それにさすがに“ああいうの”は着たくなかったからね…」
 ここに住む事まで計算に入れてたのか…ますます恐ろしい子だ……でも“ああいうの”ってなんだろう。
 その事を尋ねる前に、部屋の前まで来てしまったため、それを訊くのは後にすることにしよう。
「ここだよ」
 そう言って僕は部屋のドアを開ける。するとそこには――
「遅い! 一体なにやってたの」
 大太刀を床に突き刺し、ジャージ姿で腕組みをして仁王立ちしているシャナが居た。それにしてもその言葉はあんまりだと思うよ。
「あんたね、昼も言ったけど、自分が狙われているって言う自覚が…って…なんであんたがここに居るのよ!!」
 シャナの視線は僕から後ろに居るサユちゃんに移った。サユちゃんはそれに気付くと僕の前に出る。
「なんでって、そっちと同じ理由だけど」
「同じ理由って…」
「まて、それよりもこの者…」
「解ってるアラストール……ねぇ、何であんたから契約した王の存在を感じることが出来ないの?」
 え、サユちゃんから王の存在を感じられないって…そうだ、よくよく考えれば、フレイムヘイズが僕の家に入った事にシャナが気付かないのはおかしい。
「それは簡単、これだよ」
 そう言って左手の甲を見せる。すると自然とパジャマの袖が下がり、その下にはシンプルなブレスレットがあった。そしてそれは音もなく砕ける。
『っな!』
 するとシャナとアラストールが同時に驚いた。そしてそれは僕にも解った、ブレスレットが砕けた瞬間、サユちゃんから感じた人と違う存在感。
「ふむ、やっと表に出られたか」
 そして聞こえてきた低い男の声、たしかサユちゃんと契約したテイレシアスさん。
「なるほど、気配を消す宝具か」
「そういうこと、ま、その代わりテイレシアスの意識は、神器を通しても表に出る事は出来ないし、自在法や炎の顕現も出来ないけどね。つまり普通の人と同じって事かな?」
 アラストールの言葉に答えるサユちゃん。なるほど、それで気付かなかったんだ、シャナは紅世の徒に対して警戒していたはずだし、普通の人間にわざわざ意識を向けなかったのかな?
「ふん、まぁそれはいいわ、それよりどう言う事か説明してくれるんでしょうね?」
 シャナのその言葉に、サユちゃんは貰い湯を理由にここに来たこと、そして今日シャナと一緒に家に泊まる事になっている事、そしてこれから家で暮らす事になっている事などを話した。
「……あんた、正気なの? それに勝手に私を巻き込まないでよ」
 説明を聞いた後の、シャナの第一声がそれだった。
「正気かって言われれば当然正気だよ、こそこそと警戒するよりも、堂々と警戒したほうがいいでしょ? 少なくてもこれでこの家の人は、私たちがここに居る事を疑問に思わないよ」
「ふむ、それもそうだな…」
「ア、アラストール!?」
 サユちゃんの言葉に、同意するアラストール。そんな彼に驚くシャナ。しかしそれ以上何も言わずにただむくれて黙ってしまう。納得は出来ないけどアラストールの言葉には従うって事かな?
「ま、それはそれとして、私たちが寝る部屋は隣らしいから、寝るならそっちに行くよ」
 隣? あぁそう言えば使っていなかったな、丁度使っていないベッドもあるし…
「隣って、コレを守るのに何でわざわざ別の部屋に行かないと行けないのよ」
 シャナが僕を見て言うけど、コレって言うのは酷くない?
「仕方ないでしょ、人のベッドを占領するわけには行かないし、坂井悠二が襲うなんていう甲斐性が無いとは言え、男女が同じ部屋で寝るって言うのも問題があるでしょ」
 言ってる事はもっともだし嬉しいけど…甲斐性が無いって酷くない? サユちゃんも容赦ないなぁ…
「そんなの、こいつをそこに押し込めておけばいいでしょ!」
 そう言ってシャナが指差した先は、さっき僕が入っていた押入れ。本当に物扱いだな、なんか僕の存在って本当に軽くなっていくんだな…コレがトーチなのか…
「そんなの横暴でしょ、それにフリアグネの襲撃については既に手を打ってある。この近辺に紅世の徒か燐子が接近したら、自動的に封絶が発動するようにしてあるから」
「なんだと! いつの間にそんな仕掛けを」
 サユちゃんの言葉にアラストールが驚いた。確かにサユちゃんが気付かれずにここに来たのはさっき説明されたけど、さすがにそんな仕掛けをしたら気付かないはずが無い。第一さっきサユちゃんは、気配を消せる代わりに力を使えないって言ってた。ならいつそんな事をしたんだろう?
「学校から出て直ぐ、まぁ正確に言うと、学校から出た後、御崎大橋でテイレシアスと今後の予定を話し合って直ぐだね。
 その時はまだ二人ともこの家に居なかったから。んでその後パジャマとか買ってここに来たってわけ」
 サユちゃんの言葉になるほどと納得する。それにしても本当に用意周到だ…
「…随分用意周到ね、でも何でコレの家なんて知ってたの? 私は今日こいつを追ってここに来たって言うのに」
「それも簡単、私は貴方たちよりも前にここに来てたの、名前から住所を調べる事は簡単に出来る。坂井悠二がミステスになった時に既に調べて住所は解っていたの。
 もともとこの町に滞在するためにあの学校の生徒を演じようと思ってたから、制服見て直ぐに御崎高校の生徒だって解ったしね」
 その言葉に関心する。本当に凄い、行き当たりばったりなシャナに比べ、サユちゃんは色々考え、常に先の事を想定している。
 そう関心していると、コンコンとドアをたたく音の後、ドアを開いて母さんが入ってきた。
「母さん、どうしたの?」
「どうしたのって、ベッドの用意しないといけないでしょ? あらあら? まぁ…」
 そう言って入ってきた母さんがシャナを見つけると、満面の笑みを浮かべてシャナ目の前に迫る。その勢いにさすがのシャナも圧倒され、さっきそれを味わったサユちゃんは乾いた笑みを浮かべている。
「貴方がサユちゃんのお姉ちゃん? 双子なだけあって本当にサユちゃんにそっくりで可愛いわ」
「え、な、ええ?」
「でもそれゆうちゃんのジャージよね? 女の子なのにごめんね、ゆうちゃんそういう気配り出来なくって…そうだ、こっちに来て、いいものあげるから」
「え、あの…ちょ…」
 母さんに始終圧倒されてそのまま連れて行かれるシャナ、そんなシャナを見てサユちゃんは笑いを堪えるのに必死になっている。それよりも母さん、シャナが僕のジャージを着ていることに疑問を持たないなんて、さすがと言うべきなのか?



 シャナが母さん…いや、千草さんに連れて行かれて部屋を出ると、途端に部屋が静かになる。予想していた事とは言え、実際に起こってみると笑いが込み上げて来る。シャナには悪いとは思うけど、それでも慌てているシャナが可愛くて面白い。
 そして暫くして千草さんに連れてこられたシャナは、予想通りというか予想以上と言うか…ジャージ姿だったのが、今はフリフリが付いたピンクのネグリジェになっていた。
「え…シャ、シャナ…その姿……」
 坂井悠二の言葉に、シャナはただ顔を赤くして黙っている。借りてきた猫とはまさにこの事だ。
 それにしても、前も母さんがいつの間にかシャナにぴったりのワンピースを用意していたから、念のためと思ってパジャマを自分で買ってきたけど、今のシャナを見てその判断をした自分を心底褒めたくなる。それにしても前はシャナのためにわざわざ用意したと思っていたけど、もしかしてこういう物をこっそりともっていたのでは? と思ってしまう。
「可愛いでしょゆうちゃん、やっぱり女の子はおしゃれしないと」
 上機嫌でシャナの頭を撫でる千草さん、取り合えずシャナ、ご愁傷様…
「それじゃぁゆうちゃん、ベッドの用意したいから手伝って――」
 千草さんがそこまで言ったその時、世界が止まった。私の仕掛けで封絶が発動したのだ。今まで普通に動いていた世界が、この一定空間だけ全ての因果から孤立する。その中で動けるのは私たち三人だけ。
「っ! これって――」
「どうやら掛かったみたいね…」
「そんな! こんな所で…母さんも居るのに!」
「大丈夫、直ぐに終わるから」
 慌てる坂井悠二に対し、私は落ち着いて窓まで歩いて行くと、窓を開けて外に出る。
「あなたが戦うの?」
 しかし積極的に動いた私を不思議に思ったのか、シャナが訊いてきた。
「まぁね、と言うよりも、私が戦わないと、この先どんどん燐子が送り込まれてくるよ」
「どういう事よ?」
「フリアグネがこちらの戦力を推し量ってるからだよ、私はまだちゃんと戦っていないからね、フリアグネも本格的に動けないんじゃない?」
「なるほど、『狩人』らしい姑息な戦い方だな」
 アラストールのその言葉に小さく笑みを漏らすと、私はベランダから外を眺める。するとシャナと坂井悠二が直ぐ後ろまで近づいてくる。
 坂井悠二は不安になって、シャナは私の戦い方に興味を持ってって所かな?
 二人の姿を見ると、私は視線を前に向ける。その先には人型の燐子が四対、しかしそれだけではない事は解る。なぜならこの封絶は私が作ったオリジナルの自在式が組み込まれているから。
 カムシンの使っていた宝具、メケストの自在法の伝道がいいという特性を生かし、本来の能力は排除して手のひらサイズに縮小、そこに自在式を組み込む事でオリジナルの結界系自在法を作り出したのだ。
 今回の仕掛けもコレで作った。そして封絶にリンクさせ、封絶内の気配を察知するように作られている。そこから送り込まれてくる情報で、後方からも二対燐子が迫ってきているのが解る。伏兵…か……
 しかしこの封絶の仕掛けはそれだけじゃない――
「テイレシアス、あれをやるよ…」
「この程度の数相手にか?」
「まぁ警告を含めて…かな? コレはフリアグネにとっては天敵だからね」
「ふ、そうだな、フリアグネがどの様な表情をするか、想像しただけで笑いが込み上げて来る。惜しむべきは実際に見られないことだな」
 テイレシアスの言葉に少し呆れる。まったく、性格が悪くなってない? ま、それはともかく。
「さて、やるよ――」
 そう宣言すると、私は静かに言葉を紡ぎだす。

  ――不浄なる存在(もの)のに哀れみを
     迷いし存在(もの)に導きを――

 それは発動のための始動キーであり、私の想いを乗せた言霊。

  ――Kyrie eleison(キリエ・エレイソン)――

 瞬間、大地に白銀の文様、自在式が浮かぶと、封絶と共に音をたてて砕ける。そしてそれと同時に封絶内に居た燐子の存在が全て消えた。
「な、なに…今の…」
「もしかして、終わった…のか……」
 あまりにも呆気無い幕切れに、終わった実感が持てないのか、呆然とする二人。いや、戦闘らしい事なんてしていないのだ、戦闘が起こったと言う実感すらないのかもしれない。
「あら? どうしたの、ベランダなんかに出て」
 そして突然聞こえてきた声、その声に私はゆっくりと振り向く。シャナと坂井悠二は既に振り返っていて、呆然と声の主、千草さんを眺めていた。
 私はそんな二人に構わず、部屋に戻ると笑顔を浮かべて言う。
「雨の様子が気になってベランダに出ただけです」
「そう、でも濡れちゃうわよ、女の子が雨に濡れるのは感心しないわ」
「そうですね、少しだけのつもりだったけど、少し濡れちゃいました。ごめんなさい」
「いいのよ、でも今度からは気をつけてね。それじゃゆうちゃん、ベッドの準備するから手伝ってくれない?」
「え、あ…うん……」
 未だに呆然としている坂井悠二が、千草さんに促されるまま部屋を出て行く。残ったのは私とシャナだけになった。
「さて、説明してもらおうか」
 二人だけになったのを確認して、アラストールが訊ねてきた。
「ふん『天壌の劫火』よ、我がフレイムヘイズの力を見て、驚いたのか?」
「黙れ『贋作師』アレは一体なんだ? どうやったらあんな事が出来る?」
 テイレシアスの言葉に声を荒げるアラストール。まったく、テイレシアスが私を誇りに思っているって言うのは嬉しいけど、何もアラストールを挑発するような事言わなくてもいいのに……
「私も気になる、説明して、結果だけを見るなら、封絶内の燐子だけが破壊された。どういう訳か、それと同時に封絶も消えたようだけど…」
「シャナの言う通り、アレは封絶内の燐子だけを破壊する事ができる自在法だよ
 ま、詳しい事は坂井悠二が戻ってきてからにしよう。どうせ訊かれるんだから説明の二度手間になる」
 私のその言葉に、シャナは面白くないといった感じでフンと鼻を鳴らす。
 そんなシャナを見ると思わず笑みが零れた。シャナは気付いているのだろうか? 今の格好でそんな事をやっても可愛いだけだと言う事に。
 そして坂井悠二が戻ってくるまでベッドに座って待つ。シャナは動かず、ずっと私を睨んでいる。
 そんな状態だったため、一言も話さないまま、ベッドの準備を終えた坂井悠二が部屋に戻ってきた。
「お待たせ、ベッドの準備できたよ」
 部屋に入ってくると同時にそんな事を言う坂井悠二、先程まで燐子の襲撃に動揺していたとは思えない。
「そう、じゃぁ坂井悠二が戻った所で説明しましょうか」
「説明ってなんの?」
 私の言葉に不思議そうに聞き返す坂井悠二。私は思わず溜息を零してしまう。シャナなんて思いっきり睨み付けているし…
「私はてっきりさっき燐子を倒した方法を訊いて来るのかと思ってたけど…」
「え、あぁそう、アレって一体なにやったの?」
 私が言ってやっとか…
「まぁいいか、さっきシャナが言ったけど、アレは封絶内の燐子だけを破壊する自在法。
 ある宝具を自分なりに改造してね、そこに自在式を組み込む事で封絶とリンクして様々な効果を封絶に付与させる事が出来るの。
 今回のアレは、封絶内の存在に対する因果を一時的に強めたの。もっとも、宝具は贋作だからそんな無茶に耐え切れずに壊れるんだけどね。同時にそれとリンクしている封絶も消える事になる」
 私の説明でシャナは理解したらしく、驚いた表情で私を見ている。しかし坂井悠二は…
「え、存在に対する因果って…」
 理解できてなかったらしい。私が改めて説明しようとすると、それをシャナが遮った。
「お前、紅世の徒とその燐子の事については覚えているの?」
「え、あぁうん、紅世の徒は本来この世界に存在しないため、この世界に存在するために人から存在の力を奪って存在している。そして燐子はその紅世の徒が存在の力で作り出したもの…だよね?」
 坂井悠二の言葉に、シャナは満足気に頷いて話す。
「そう、つまり紅世の徒や燐子は、この世界にとって存在する過程、因果の繋がりが弱いの」
「そこでその存在に対する因果、つまりは存在するための過程の意味合いを強めるとどうなるか…」
「弱い繋がりはあっさりと切れ、この世界に存在する事が出来なくなる、無論紅世の徒など、存在の力が大きければ存在を維持する事はできるだろうな」
 シャナの説明に私とアラストールが続いた。見事な割台詞、案外チームワークいいのかも…
「……ってちょっとまって、それじゃ存在の弱いトーチはどうなるの?」
 坂井悠二のその言葉に、坂井悠二以外の全員の溜息が重なる。
「確かにトーチの存在は小さい、燐子よりもずっとね…けど、幾ら代替物とは言え、もともとその世界に存在していたんだよ? 存在に対する因果を強めても、影響があるわけないでしょ…それは私たちフレイムヘイズも一緒。
 簡単に言えば、存在に対して、『なぜここに存在している?』と問いかけるようなもの、トーチは代替物でもこの世界に存在していて当たり前、けど燐子は本来存在していないものだから、その問いに対して明確な答えを出せず、結果存在を維持できなくなるってわけ。
 第一、トーチにも影響あるなら真っ先に消えるのは坂井悠二、貴方だよ!」
「あ、そうか…」
 私の言葉に納得する坂井悠二。まったく、自分がトーチだって事忘れているんじゃないの?
「それじゃシャナ、隣の部屋に行くよ。坂井悠二に対する警戒なら、またさっきのと同じ物を仕掛けておく。なにか問題でもある?」
「無いな、あれなら襲撃に対して有効だろう」
 私の言葉に答えてきたのはアラストールだった。その言葉にシャナは驚いて胸元のペンダントを見る。
「ア、アラストール!?」
「認めるしかあるまい、この者、ただ『贋作師』の固有能力を使いこなしているだけではない、自在師としても一流だ、『贋作師』の能力をここまで使いこなせる者が居るとは想像すら出来なかった」
 今度は私が驚く番だ。まさかあのアラストールが認めてくれるとは思わなかった。
「ふん、『天壌の劫火』が予想できるはずなかろう、契約した俺とて予想できなかったのだからな」
 む、今度はテレイシアスまで…そう言うのは恥ずかしいから止めて欲しい…
「そんなに人を持ち上げないで、私なんてたいしたフレイムヘイズじゃないんだから…実際シャナと本気で勝負すれば負けるのは私だからね」
 私の言葉に、シャナは驚いて一瞬言葉を失う。しかし直ぐに私を睨んで言う。
「これほどの力を見せて、よくそんな事言えるわね…」
「事実だからね、私にとってシャナのように、一点特化してしかも戦いなれている相手には相性が悪いから…それよりも今日はもう寝ない? さすがに眠いからね」
 今度こそ完全に言葉を失うシャナ、私は気にせず部屋を出ようとする前に、坂井悠二の方へ振り向くと。
「おやすみ、また明日ね」
「え、あ…うん…」
 私の言葉に困惑しながらも答える坂井悠二、私はそれを見て笑いが込み上げて来る。そのまま隣の部屋に入ると、遅れてシャナが入ってきた。
「あんた、どう言う事よ」
「なにが?」
 入ってきて早々、シャナが発した言葉に、私は疑問を返す。
「なにがって、何で自分の弱点をそうあっさりと言うわけ? それとも何か狙いでもあるの?」
「狙いって…私を何だと思ってるの、そんな性格捻くれるような人生送った覚えは……」
 覚えは…あれ? なんか色々と走馬灯の様に過去の記憶が次々と…
「……無くはないけど……」
「なによそれ……」
 お願い、聞かないで……
「まぁそれはともかく、シャナが私の弱点知ったからと言ってどうなるの? 『天壌の劫火』アラストールとそのフレイムヘイズは、特に敵対もしなく、世界を荒らすわけでもないフレイムヘイズを、問答無用で討滅するの?」
「うっ…そ、それは……」
「無論、我らはそんな真似はしない」
 言い淀むシャナに代わり、アラストールがきっぱりと言う。
「でしょ? なら何の問題もないじゃない」
「む……」
 あっさりと言う私が気に入らないのか、言葉を返せなくても睨んでくるシャナ。そんなシャナの視線を気にせず、私はベッドを横切り、窓の傍に立つ。そして窓を開けた。
「なにするの?」
「言ったでしょ、さっきと同じものを仕掛けるって」
 シャナの言葉に答えながら、私はメケストを数個作り出す。燐子を探知し、封絶を張るのに四つ、封絶とリンクして、封絶内の気配察知用に二つ、そしてキリエ・エレイソン、燐子破壊の結界用に四つ、計十個の手のひらサイズのメケストを作り出すと、次々と打ち出す。そしてそれは四方に飛び散り、この辺り一体に結界を形成する。
「これでよしっと」
「あれだけの結界を作り出すのに、その程度の時間しか掛からないとはな…」
 作業を見ていたアラストールが感嘆の言葉を漏らす。まぁ確かに複雑な結界の割には手間が少ないように見えるけど…
「もともと結界の自在式はさっき打ち出した宝具を作るときに予め組み込んであったしね。一度作り出せば、次作るときはそんなに苦労しないし」
「ふぅん…便利なものね…」
「まぁね…っと、毛布一枚借りるよ」
「? どうするのよ」
 用意されたベッドから毛布を一枚引っ張り出すと、シャナは不思議そうに訊いてきた。
「どうするのって、私は床で寝るの」
「なんで?」
「信用もしていないフレイムヘイズと一緒に寝たくないでしょ?」
 シャナの言葉に答えながら、私は毛布を床に敷く。
「別に構わない、あなたはアラストールが認めてるから…」
「シャナ自身はまだ私を認めていないでしょ?」
 その言葉が余程意外だったのか、ぽかんとした表情で私を見るシャナ。
「アラストールは確かに正しい事を言うけど、でもシャナ自身の気持ちも大事でしょ? アラストールの意見を尊重するのはいい事だけど、最後にはシャナの気持ちで決めないと」
「……アラストールはいつも正しい事を言う、アラストールの言うとおりにすれば間違う事はない……」
「それについては否定しないよ、でも正しい事をして後悔するよりも、バカをやって後悔しないって言うことも時にはあるんだよ」
「そんなの解んない、けど、私は貴方の事を嫌っているわけじゃないから、別にいい」
 その言葉に今度は私が呆気に取られた。シャナがこんな事を言うなんて…
「……拾い食いでもしたの?」
「ど、どういう意味よそれ!」
 私の言葉に顔を赤めて組み付いてくるシャナ。本気じゃないのか苦しいわけではない、本当にじゃれ合い見たいなものだ。
「あんな事言われたら信用してみようかなって思うでしょ!」
「え、何のこと…ってちょっとまった転ぶ…」
 じゃれ合っている内に、床に敷いた毛布が足に絡み付いてくる。当然バランスを崩し、ぼふっと二人一緒にベッドに倒れこむ。
「ふぅ、びっくりした…で、何のこと?」
 二人並んで仰向けの状態、横に視線を向けると、シャナの横顔が見える。
「何のことって、いきなり自分の弱点言ったり、手の内を簡単に見せたり…あれってつまり、私たちに敵対する意思も、危害を加える意思もないって事でしょ?」
「…まぁ…ね……」
「…そんな事、ただ言われるんじゃなくて、行動で示されたら敵意向けるのなんて無理でしょ」
 シャナのそんな言葉に少し嬉しくなる。
「同じフレイムヘイズとはいえ、随分とあっさり警戒解くんだね…演技とか思わなかったの?」
「…思った…けど違うんでしょ? 不思議と私も演技じゃないって思えて…でも理解できないから苛立って…」
「……子供みたいだね……」
 その言葉にむっとなって睨んでくるシャナ、ちょっと可愛い。
「はぁ…でも不思議…ううん、変なフレイムヘイズね、あんた…」
「そ? ありがと…」
「…やっぱり変なフレイムヘイズ…」
「まぁいいじゃん、今日はもう寝よう…」
「…そうね、お休み“サユ”……」
「っ!」
 シャナの言葉に驚いて彼女を見ると、もう既に寝息を立てていた…無意識に…かな?
 でも自然と嬉しくなって笑みが零れた…
「お休み…シャナ…」
 そして私もそのまま静かに眠りに付いた。



 広く、暗い空間、床に散らばる玩具や人形を見ると、ここはそれらが販売されていた場所なのだろうか? しかし今はその面影もなく、荒れ放題となっている。
 そんな広い空間の一角に、この空間で唯一の光源がある。それは大きな町の模型だった。その模型を眺める一つの人影、そしてその傍らに寄り添うように居る少女の人形。紅世の王、『狩人』フリアグネと、その燐子、マリアンヌだった。
「ご、ご主人様、今のは!?」
 模型を眺めていたマリアンヌが、突如声を上げた。そんなマリアンヌを落ち着かせるように撫でるフリアグネ。
「どうやらコレがもう一人のフレイムヘイズの力のようだね…恐ろしいよ、今回君を行かせなかったのは正解だったね」
「はい、でもなにが起こったのです?」
「方法は解らないけど、どうやら封絶内の燐子だけを破壊する自在法のようだね、事実トーチは一つも減っていない…」
「そんな、それではご主人様の宝具が……」
「ああ、ダンスパーティーの事かい? そんなものは関係ない、私が一番恐ろしいと感じてるのは、君という存在が、一瞬で消されることだよ…なんて恐ろしい」
 マリアンヌを抱き寄せ、頬擦りをしながら言うフリアグネ。
「でもご主人様、そうなるとどうすれば…」
「私が行って直接手を下すしかないだろう…あんな怖い子が居る所に君を連れてはいけないよ」
「いけません、フレイムヘイズが二人も居る所にご主人様お一人で行くなんて!」
「でもこれしか方法はないんだよ、大丈夫、私にはまだ宝具があるからね…」
 優しく、諭すように言うフリアグネに、それでも食い下がろうとするマリアンヌ。しかしそれは突如現れた気配によって中断された。
「誰かな? 無断でここに足を踏み入れるのは…礼儀というものを知らないようだね…」
 フリアグネがいち早くその気配に対して牽制をする。手にはいつの間にかリボルバー式の拳銃があった。
「やれやれ、随分な挨拶だな、困っているようだからせっかく手を貸してあげようと思ったのだがね」
 徐々にフリアグネに近づいてくる気配、模型の明かりに照らされて、その姿がだんだんとはっきりとしてくる。
 それは三十台位の男性だった。髪は軽くウエーブが掛かっていて、長さは肩まであり。背は高く、恐らく180はあるだろう。黒い神父服に身を包み、首には薄手の長い衣が掛けられていて、その両端はそれぞれ左右の腕に絡めてある。
「その悪趣味な姿、この気配…『儀宗創』ニムロデか…」
「悪趣味とは口が悪い、これは神へ戦いを挑む意思表示として着ているものだよ」
「ふん、偽りの信望を掲げ、多くの混乱を生み出した者が、何の用だ?」
「おや? 君には耳がないのかな? 先程も言ったであろう、手を貸しに来たと」
「『儀宗創』の言葉を鵜呑みにしろと?」
「いや、取引だ…今回君の計画で得られる存在の力、その余りを頂きたい。
 都食らいまでするのだ、その燐子の存在を確かな物にしても余りがでるだろう? 成功報酬、悪い話でもあるまい?」
「……それを信じろと?」
「ああ、私は嘘は言わない…ただ君を利用したいだけだ、そして君は私を利用すればいい」
「…具体的な話を聞こうじゃないか」
「そう言うのであればそれを下げてはくれないか? もっともそれは徒には意味を成さないがな」
 始終笑みを浮かべて言うニムロデに、フリアグネは銃口を下ろす。
「ふむ、では詳しい話だな、まぁ簡単だ、あの白銀のお嬢ちゃんは私が相手しよう、君の計画には一切関与させない事を誓うよ。もし関与してしまうようであれば、都食らいが成功しても報酬はいらない」
「…随分と謙虚な態度ではないか、話が上手すぎて逆に警戒してしまう」
「そう言うな、それだけの自信があると受け取ってくれ、そっちは炎髪灼眼の相手と、都食らいを成功させる事に全力を注いでくれ」
「……いいだろう、その提案に乗ろう」
「ああ、お互いの利益のため、お互いを利用しようではないか…」
 そういい残すと、ニムロデは闇へと消えていった。
「ご、ご主人様、あんなやつのいう事を信じていいのですか?」
 ニムロデの気配が完全に消えた後、マリアンヌが不安そうに言う。
「心配は要らないよ、マリアンヌ…確かに信用は出来ないけど、『儀宗創』は嘘を付かないのは本当だ…ただそれゆえ人を騙すのは得意なのだよ…」
「そ、それって!」
「嘘はないが裏はある…心配は要らない、さっき彼も言ったようにお互い利用するだけさ…そう、何も問題はない…」
 薄く笑みを浮かべて言うフリアグネ。
 フリアグネの言葉通り、ニムロデの提案は彼にとって損失となるものは一つもなかったつまり
「彼は私が失敗しても成功しても関係ないのだよ…なにが目的なのかは解らないけど、彼が白銀のお嬢ちゃんの相手をしてくれると言うのだ、なら私には何の問題もない、これまで通りだよ…」
 そう言って小さく笑いを漏らす。そんな彼にマリアンヌが伴侶のように寄り添った。
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