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 ←【8/28改訂】輝けケアキュア☆紫陽花の季節(中編)【書いてて楽しい!頑張るぞ!】 →アルペジオ二次創作試作(Depth 4)
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輝けケアキュア☆紫陽花の季節(後編試作)(12/13更新。もう少しで投稿予定)

 ←【8/28改訂】輝けケアキュア☆紫陽花の季節(中編)【書いてて楽しい!頑張るぞ!】 →アルペジオ二次創作試作(Depth 4)
『輝けケアキュア☆紫陽花の季節(中編)』を投稿しました!後編完成まであと少し!キュンキュンするような小説にできるように頑張るぞいっ!!



(前書き部分)
 いつだっただろう。アパートに帰ってきた青年が、「ただいま」と声を投げかけてきた。いつもの底抜けな明るさとは一変して、まるでイタズラを働いた幼子が親の顔色を窺うような、おずおずとして小さな声だった。ルキナは、下目遣いになっていく青年の様子に訝しさを覚えながら、かと言って特に何も考えることもせず、「……おかえり」とぶっきらぼうに返した。
 たったそれだけなのに、青年は、それがこの上ない幸運なことのように背後に虹を咲かせる勢いで微笑んだ。どうしてそんなに大袈裟な反応をするのか、その時のルキナにはわからなかった。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
 後になって、誰かと「ただいま」「おかえり」の会話を交わしたのがとてもとても久しぶりだったことに気がついた。そして、青年にとってはきっと初めての出来事だったのだろうと、察しがついた。
 そしてその日からずっと、小さな「ただいま」とぶっきらぼうな「おかえり」は繰り返された。
(終わり)


フランス語には「avoir des papillons dans le ventre」という表現がある。直訳すると「お腹の中に蝶々がいる」。その意味は、「恋が芽生える」である。




(本文)

 また数日も経つと、ルキナの容態は安定して、手助けがなくとも一通りのことを一人で出来るようになった。すると青年は、早朝と夕方と深夜に出かけるようになった。中古のオンボロ自転車に乗って急いでどこかへ行って、しばらくしたらまた帰ってくる。新聞配達や、その他のバイトを掛け持ちしているらしかった。それでも仕事の合間を縫ってはルキナの様子を気にかけて一時的に帰ってくるし、夜に帰宅すれば炊事洗濯をしながらルキナの世話をして、絵のスケッチをいくつか描いたりしていた。一体いつ寝ているのか、ルキナは内心で首を傾げた。そして、どんな時でも、青年はニコニコと満面の笑みを携えていた。
 寝る前に、青年は古本屋で買ってきたらしい使い古しの参考書に何ごとか書き込んでいた。何をしているのか尋ねたルキナに、青年は「教師になるための勉強をしてるんだ」と説明した。

「美術教師をしながら、子どもたちに絵を描くことの楽しさを教えたい。自分の絵も描いて、コンクールに出展して、賞も獲りたい。そうして、僕自身が楽しんで絵を描く姿を見せて、子どもたちにまた絵を描くことの素晴らしさを伝えたい。美術教師、いいだろう? 僕にとってはこの上ない天職だと思うんだ」

 たしかに天職だと思った。だが、そこへ至るまでの道のりは険しい。今、青年がやっていることは控えめに言っても並大抵の努力ではない。おそろしく大変に違いないのに、はにかみながら夢を語る青年は、そんなことなど苦にも思っていないかのようだった。実際、青年にとっては本当に苦ではないのだろう。どんな時も、青年は心から楽しそうだった。誇らしげに、嬉しげに、「絶対に実現するんだ」と意気込む青年の顔を、ルキナは直視できなかった。夢を語る青年を疎ましく思ったからではない。そんな青年を|疎ましいと《・・・・・》|思わなくなった《・・・・・・・》自分自身を認めたくなかったからだった。
 少し前の自分なら、きっとどんな汚いことをしてでも青年の夢を挫けさせようと、性根の曲がった嫌がらせの一つや二つを実行していただろう。悔しがる青年を足蹴にして嘲笑っていただろう。しかし今は、とてもそんな気にはなれなかった。青年の悲しそうな顔を想像すると、それだけで胸が罪の意識で締め付けられた。誰に対してだって───自分に対してだって、どうなろうと罪の意識なんか芽生えなかったはずなのに。何故、己の心理がそんな反応をするのか、ルキナは理解できなかった。少年の|性意識《ほんのう》|が、自分の|今の性《・・・》|を自覚することにまだ抵抗を示していた。

 そんな自身の内面の変化から目を背けるように、ある日ついに、ルキナは青年に強い口調で問うた。

「どうして、私を|匿う《・・》の?」

 青年が弾くように眼を見開いた。青年はあまりテレビを見ない。だけど、このご時世だ。ルキナは、自分の映像が街頭テレビで流されるのを何度も観た。ほとんど、ケアキュアたちを足蹴にして甲高く高笑いする映像だった。それを見上げる大衆の反応は、すべてルキナへの悪態だった。少年として街を歩いていた時、人々が唾棄するような口調でルキナの噂をしているのを何度も聴いた。人々を護る正義のケアキュアたちに対して、散々な嫌がらせや妨害をしてきたルキナの悪名は広く知れ渡っている。青年だって、彼女の容姿は知っているはずだ。だからこそ、青年は倒れたルキナを病院に連れて行かなかった。常識的にはそうすべきはずなのに、警察などに突き出したりもせず、それどころか常に薄手のカーテンを閉めて外からルキナの姿を見咎められないようにしていたのだ。ルキナに対し、当然尋ねるはずの名前を今まで問い質さなかったのは、彼女が“ルキナ”であることを知っていたからに違いない。そもそも、今までまったくテレビを見ようとしなかったのも、ルキナが映ることをわかっていたからかもしれない。明らかに、青年はルキナの正体に見当がついていて、世間から匿おうとしていた。ルキナも、当初からその疑問を脳裏に過ぎらせていた。「本当にロリコン野郎で、欲望を満たす目的のために誘拐されたのかもしれない」とも考えたが、自暴自棄になっていた彼女は「どうにでもなれ」とやさぐれていた。だが、青年の人柄に触れ、予想していた青年の目的が不明瞭になっていくに連れて、ルキナの混乱は増すばかりだった。汚れた欲望のままにメチャクチャにされていた方が、まだ納得ができていた。

「なんで、そんなに優しくするの? 私が誰なのか、何をしてきたのか、アンタだってわかってるくせに」

 言ってしまって、知らず、汗ばんだ両の手がシーツをぎりと握り締めていた。鉄面皮で冷静を装っても、ルキナの心中は今まで経験したことのない感情の渦でムチャクチャに波立っていた。親からの否定の言葉なんて聞き飽きた。殴られる痛みも平気になった。社会からの否定も慣れっこだ。“帰れ”だの、“消えてしまえ”だのはもう耳に染み付いた。否定したければすればいい。嫌いたければ嫌うがいい、と。───だが、目の前の青年からは否定されたくなかった。その矛盾がルキナの胸の内を冷たい竜巻となって荒らしていた。
 青年は、なんと言えばいいかと言葉を選ぶように逡巡していた。その間にも、ルキナの脳内では青年が何度も彼女を罵り、部屋から追い出す最悪の想像が再生されていた。見る間に顔色が蒼褪めていく。意識せず、ルキナは下唇を強く噛み締める。青年から否定される想像を浮かべる度に、背中は汗ばみ、腹底は冷え、今まで感じたこともない恐怖感が足先から這い上がってくる。地面が崩れていくような絶望感が体温を奪う。そんなことになれば、もうきっと立ち直れない。何故かはわからない。でも、本当にもう、彼からも見捨てられたら、これ以上生きたいとは思わないに違いない。正体のわからない恐怖感に、ルキナは初めて“怯え”を感じた。

「ええと、自分でも笑っちゃうような理由なんだけどね」

 そう前置きして、意を決した青年は何故か照れくさそうに頬を指先で掻く。やがてその口がゆっくりと開かれる。優しい彼は決して自分を追い出すことはしないと青年を信じる一方で、今までの自分の悪行が脳裏に蘇り、『都合のいいことを言うな』ともう一方の摩れた自分がせせら笑う。次に発せられる台詞を座して待つことに堪えきれず、ルキナは思わず腰を上げて青年の前から逃げ出しそうになり、


「君の絵を、描いてみたかったんだ」


「……は、あ?」

 不意打ちとも言い難い、予想外に過ぎる回答に、ルキナは脱力してペタンとその場に座り込んだ。安心してポカンとしたルキナの表情を呆れだと早とちりした青年は「どう取り繕っても仕方ない」と苦笑しつつ後ろ頭を掻く。

「僕は画家志望だ。芸術家の端くれさ。君が知ってるかわからないけど、芸術家ってのは変人だ。こういう人種には世間のことはよくわからないし、あんまり興味もない。君の正体や、君の行いも、君が皆からどう思われているかも、僕は気にならない。ただ僕は、初めて君を目にした時、こう思ったんだ」

 言って、青年はルキナの紫色の前髪を指先でそっと搔き上げる。そこに顕わになった少女を、本当に美しいものを見つめる陶酔の表情で見つめる。

「“ああ、紫陽花のようなこの娘を描いてみたい”って」

 まっすぐな言葉と、瞳が放つ熱っぽい輝きに、ルキナは急にそわそわとした気恥ずかしさを感じてさっと投げるように目を逸らした。

どうして、たった今、自分は目を逸らしたのだろう。
どうして、青年から求められることをこんなにも嬉しく思うのだろう。
どうして、「出て行け」と言われなかったことにこんなにも安心を覚えているんだろう。
自分が青年にとって必要だとわかったことで、どうしてこんなに満ち足りたような気持ちが膨らむのだろう。
どうして?どうして?どうして───?

わけもわからず勝手に高鳴り始めた心臓の動悸を抑え込むように胸の前で腕を組み、尖らせた唇でなんとか答えを紡ぐ。

「……べつに、いいけど」

 ルキナのぶっきらぼうな答えに、青年は心の底からの笑みを浮かべて喜びを示した。「ああ、よかった。嫌われたらどうしようかと思ってた」。
 「それはこっちのセリフ」という声が胸の内から喉のすぐ下まで湧き上がってきて、それを抑え込むためにルキナは全身全霊の力を使わなければならなかった。腹の中でたくさんの蝶々が飛び回っているようなそわそわとした落ち着かなさから逃げるように、ルキナはガバリとその場に立ち上がると長髪を閃かせて風呂場へ歩みだした。

「お風呂、入ってくる、から」
「あ、ああ。わかった」

 前髪を触る青年の指先から逃げるように風呂場へと踵を返す。変にたどたどしくなってしまった自分の台詞にさらに気恥ずかしさを覚える。これ以上青年に見つめられていたら、自分が自分でなくなってしまうという焦燥感があった。目には見えないけど確かにそこに横たわっている一線をもう少しで超えてしまいそうな予感がした。その線を踏み越えてしまったら、その線が何なのかを認識してしまったら、きっと自分はもう元に戻れなくなる。
 心のどこかでは、その線の正体も、その線を超える意味もすでに理解して、|自己の性別《・・・・・》を自覚し始めている自分がいる。そんな自分自身を、この奇妙な下っ腹の火照りとともに洗い流さなくてはいけない。早急に、絶対に。
 ふと、青年が背後から付いてくる気配に気づいて、足を止めて背中越しにジロリと睨んだ。

「なに」
「え、なにって、いつも君がせがむように洗ってあげようかと……」

 青年に下心はなかった。あったとしても、欲望の獣は鋼の知性でなんとか封じ込めていた。ルキナの求めに応じて目隠しをして身体を洗っていただけで、悪気もなく、罪もない。むしろ被害者の側だ。だが、今のルキナは、なぜか青年と風呂に入るのを嫌だと思った。当然のように一緒に入ろうとしている青年に対し、今まで訪れなかった正体不明の苛立ちが眉根を機嫌悪そうにギュッと寄せさせた。青年に裸を見られたくないという羞恥心が、少女としての経験が欠如した思考回路を通って不快感へと変換され、そのまま青年へとぶつけられた。

「ロリコン。変態教師」
「ええっ!? そんな、理不尽な、それにまだ僕は教師になってもない───」

 ショックを受けて立ち止まった青年を脱衣所からぐいと押し退け、ルキナは扉をピシャリと締めた。まるで思春期の娘が父親と風呂に入ることを拒否するような一幕だった。ルキナの“裸を見られたくない”という意識の変化は、まさしく青年を異性として認識しているが故の|年頃の少女として《・・・・・・・・》当たり前の反応だった。ルキナは、この日を境にして青年と風呂に入らなくなった。自分と青年が“異性”なのだと無意識の内に認識しての決定だった。

 ところで、その日の風呂は、ルキナにとって恍惚の癒やしの空間ではなく苦難の場となった。シャンプーの適切な量がわからず、闇雲にベチャベチャと塗りつけて乱暴に擦ったため、風呂場も髪も恐ろしく悲惨なことになった。自分自身で髪を洗うことがこんなに大変だとは思ってもいなかった。ガシガシと雑な扱いを受けた髪は、キューティクルの艷やかな輝きを失い、見るも無残なスチールウールと化してしまった。それを見た青年は、ルキナよりも深く残念がった。「なんてもったいないことを」と嘆くと、いつもより強気になってルキナの肩を掴み、髪は今後も自分に洗わせて欲しいと詰め寄った。不意に近づいてきた青年に赤らんだ頬を悟られないように顔を逸らしながら、ルキナは渋々了承した。こんなに簡単に他人に弱みを見せてしまう自分自身の変化に、ルキナは内心で呆気にとられていた。気味が悪いともチラと思ったが、それでもやはり、本能は不快を感じていなかった。


 そして、さらに数日後。内面の著しい変化を除き、ルキナはほぼ完全に回復を遂げた。以前は少年だったルキナからしてみれば、少女の肉体は柔らかくて細くて頼りないものに映ったが、それでも若干のダルさを除けば健康そのものにピンピンしていた。血色の良くなった頬はほのかにピンクに染まり、白肌はマシュマロのようにしっとりとして張りのある質感を湛えて、体力の十分な復調を主張している。その様子を見て、青年は嬉しそうに頷いた。ルキナを|描《えが》く準備が整ったのだ。
 青年は穏やかな秋晴れの日を選んだ。窓辺から余計な物をすべて取り除き、丁寧にノリを効かせた真っ白なカーテンのみを背景に、ルキナを小さな椅子に腰掛けさせた。そうすると今度は、だらしのない猫背気味の背筋をピンと凛々しく伸ばすように指示した。まるでマネキンをポージングするように、ピタリと足先までくっつけた脚を柳のようにさらりと斜めに流して長い脚を強調させると、モナリザのように身体の中心線を正面から少し斜めにさせ、最後に臍の下でそっと手を重ねさせた。青年のテキパキした注文に従ってポーズをとってみると、見た目の少女の姿によく似合うものとなっていた。ルキナはその姿勢に言いようのない恥ずかしさを覚えた。「このポーズのままだと本当に女になってしまったみたいだ」とムズムズした不安まで覚え始めて、焦ったルキナは体勢を変えようと身じろぎした。

「動いちゃダメだ。じっとして」

 しかし、青年のいつにない鋭い声に制止され、思わず動きを止めた。ムッとして抗議の視線を送ろうと青年に目を向けた途端、キャンバス越しにこちらを見つめる真剣な目に気圧される。まるで憤怒しているように目を据わらせ、時おり目尻と鼻にギュッと皺を寄せながら、ルキナの髪の毛一本の|そよぎ《・・・》さえ見逃さまいとギラギラした眼差しをぶつけてくる。肉体の表面だけでなく、重く厚い花弁をこじ開けて内面までも如実に描き出そうとするかのようだ。鬼気迫るその様子に、「これが芸術家なのか」とルキナは驚いた。対象の美を、表面上だけではなく本質に至るまで分析し、キャンパスに描き出そうとしている。その無遠慮ですらある目つきは普段の柔らかな雰囲気とは別人のように違って、どこか“男らしさ”すら感じさせた。

「……うん、わかった」

 渋々、というより条件反射のような返事をして、ルキナは再び佇まいを正した。ややもすれば「わかりました」と言ってしまいそうなほど、軽々しく抵抗できない迫力があった。一瞬で終わるはずの記念撮影のポーズを延々とさせられているような感覚に、ルキナは早くも疲れ果てそうになった。

 ……だが、しばらくすると、同じ姿勢を続けることにも慣れてきた。より正確に言えば───|好きになっていた《・・・・・・・》|。
 涼し気な風になびく真っ白なカーテンが背をさわりとなぞる。羽根布団に包み込まれるような秋晴れの陽が暖かい。描画に没入した青年は一言も声を発さず、どちらがモデルかわからないほどに座ったまま、首と手だけを俊敏に踊らせている。

(なに、この感覚)

 しゅっと鉛筆がキャンバスをなぞるたび、胸の内側に指をねじ込まれるような言いようのないゾクッとした感覚が背筋を走った。甘美な痺れが耳と頬を紅潮させ、そして下半身の熱溜まりにストンと落ちていく。下っ腹の深いところがぐつぐつと熱かった。まるで、スプーンで底をかき混ぜられるカップココアになったみたいだった。身体の奥の奥までカツカツと音を立てて引っ掻き回されるような甘い快楽にクラクラとした目眩すら覚える。意識がぼんやりと遠のき、火照った肉体がとろかされてしまいそうな錯覚に朦朧とする。「もうやめて」と泣き出したいのに、「もっとして欲しい」と懇願する自分がそれを留める。いつの間にか、すでに抵抗など考えられないほどまでルキナは追い詰められていた。

(なにこれ。なにこれ。どうにか、なりそう)

 ルキナは|描かれる《・・・・》|という行為に溺れてしまいそうだった。気付くのが遅かった。|描かれる《・・・・》|とは|支配される《・・・・・》|と同義なのだ、と今になってわかった。その瞬間、自分という肉体も精神も、彼だけのモノにされてしまう。モデルになるということは、つまり、身体も心も他人に差し出し、自由にさせてしまうということなのだ。
 青年の視線と自分の視線が結び合い、潮に流されるように惹き込まれていく。激しい奔流に呑まれ、あっぷあっぷと喘いでいるのに、ルキナはこの状況に熱中していた。青年という濁流が渦を巻いてルキナの華奢な心と体を翻弄する。遠慮もなく内側まで侵入され、覗きこまれ、指先で削るように引っかかれる。節くれだった力強い男の指が何かを探すような手付きでグリグリと内側をまさぐり、探し当てた部分を円を描くような仕草で刺激する。そのたびに、鐘を打つように頭の内側が痺れ、燃える血は逆流し、ジンジンとした昂ぶりが全身の末端まで広がる。それが不快なのかそうでないのか、判断する理性はとっくに押し流されてしまった。
 心と心が絡み、繋がり合い、まぐわっている感覚に押し包まれる。1秒1秒が永遠のようで、その無窮の感覚を青年と共有している気がした。呼吸までも同調しているような一体感が二人の間に流れている。寂しい者同士、お互いの孤独を慰め合っているのでは無い。断じて違う。お互いに求め合っている、お互いに|高め合っている《・・・・・・・》|という根拠のない確信すら、心の晴れ間に垣間見せられた。



「───君は、モデルの才能もあるんだね」



 その一言を掛けられて、ルキナは背後で日が暮れかけていることにようやく気がついた。夢中になっていたのは青年だけでなく、むしろ我を忘れていたのは自分の方だった。そのことに気づいて、ルキナは途端に顔を真っ赤に染めた。分けもわからず手足を振り乱してベッドに飛び込み、「疲れた」と言い放つとそのままシーツを頭からすっぽりと被って青年から隠れた。耳たぶが霜焼けでもしたようにカッカと熱い。顔が赤いのは夕日の反射だと都合よく勘違いしてもらえただろうか。先ほどまで、青年に描かれることにうっとりと陶酔していた自分を思い出し、さらに熱が増す。とてもではないが、今は顔を合わせられない。

「ゴメン、疲れさせちゃったよね。つい描くことに没頭してしまった。普段は花や景色を描いているから、加減がわからなかったんだ。大丈夫かい?」

 ルキナのベッドダイブを誤解した青年が申し訳なさそうに頬を掻く。こちらの様子を心配そうに伺う視線をシーツ越しに感じる。その雰囲気はさっきまでの芸術家然としたものとは打って変わって優しげで険がない。本当に別人のようだ。どちらが青年の本性なのだろう。両方なのだろうか。

「……だいじょうぶ」

 呂律が回らない舌を懸命に動かす。全身の筋肉が茹で上がって弛緩してしまったようだ。こんな醜態を晒す自分が情けなくなり、チラチラと沸き起こった怒りが青年にも向けられていく。「もう二度とモデルなんてしてやるもんか」と言い放ってやるためにルキナはぐっと膝に力を入れて、

「でも、ほら。これを見てくれないか」
「……?」

 






しかし画家志望の夢を諦めず、ひたすら努力していた。傷が回復すると絵のモデルになってくれとせがまれた。渋々承諾して完成した作品を見て、青年は最高傑作が出来たと飛び上がって喜んだ。その絵は確かに良く出来ていた。TS魔法少女は、忘れていた感情を思い出し、小さく微笑んだ。

TS魔法少女と、それを拾った画家志望の青年の奇妙な共同生活が一ヶ月ほど続いたある日、青年が自分の絵を売り込みに出掛けた。TS魔法少女は青年の部屋にいて、「自分は何をしているのだろう。何をしてきたのだろう」と自問しながら膝を丸めていた。すると、窓の外、街の方から悲鳴と爆発が聞こえた。


魔法の気配に心身が反応し、慌ててテレビを付ける。テロップが流れ、『青年画家が魔人に人質にとられた』という速報を目にした瞬間、TS魔法少女は自分でもわからない衝動に駆られて玄関を飛び出した。石を踏んだ裸足に血が滲み、息が苦しくなり、喉が掠れて肺が痛んでも、TS魔法少女は走り続けた。


現場には魔法少女達がすでに駆けつけていたが、人質のために派手に戦えず、苦戦していた。しかも魔人は画家から夢のエネルギーを吸い取って力を増していた。青年の手から一枚の絵が滑り落ち、広がる。そこに描かれた少女の見知った顔に魔法少女達は驚く。その背後から、「待て!」と大きな声が響いた。

振り返ると、ブカブカのTシャツを羽織った悪の魔法少女が荒い息を吐きながら魔人を睨みつけていた。握った両手は怒りに震えている。魔人は嘲笑う。「俺に歯向かうのか。それもいいが、そうするともう元には戻れないぞ」。TS魔法少女は、一瞬足りとも迷わず、「キャハハハ」と心からの嘲笑を迸らせる。



「その人の夢に──私の大切な人の夢に比べれば、そんなこと、くっだらな~い!」。嘲笑うような口調に涙を浮かべ、覚悟を決めた少女が腕を高く掲げる。目も眩む紫色の輝きが柱となって彼女を包み、次の瞬間、かつて他者の努力と理想を全否定していた魔法少女が、他者を救うために立ちはだかっていた。

それでも苦戦するTS魔法少女。魔人と契約したため、同じ属性の攻撃では効果的な打撃は与えられない。歯噛みする背中に、複数の手が添えられる。振り返れば、正義の魔法少女達の頼もしい笑顔。「誰かの夢を護りたいと願うのなら、貴方はもう正義の魔法少女よ!」。

「私が──?」。次の瞬間、TS魔法少女の装束が眩い輝きを放ち、ウェディングドレスのような豊かな装飾が花開く。それは、正義の魔法少女にしか与えられないパワーアップフォーム。「これで五人揃った!」。正義の魔法少女達に混じり、横並びになる。
(途中)




失うものなんて自分には無い。だから、怖いものも無い。でも、今は、何かを失うことに恐れ、心から怯えている。その理由には、きっと手を伸ばせば簡単に届く。でも、伸ばす勇気がない。正体を知ってしまえばもう戻れなくなるという本能的な直感が、“何か”を───誰かを直視することを拒んでいた。




夢を持たない私でも、誰かの夢は守れる。守ってみせる。

導火線に火がついたような笑み

誰かの夢を護りたいという願い

アンタだってテレビくらい見てるはず。だったら、私が誰なのか、知ってるんでしょう?


私に夢なんかない

捨てばち

あなたのために生きていきたい

握ったままの手じゃ、なにも掴めないよ

耳鳴り

連撃

奇跡

君と出会えた

朝日を受けた露のように爽やかに消える


気がかり
姿を見せない
心配
敵の心配
でも……

名乗り
口上



すがりつく

「私の絵を、完成させて」
「……何を、言って、るんだい? もう、この絵は、完成、してるじゃないか……そう、もう終わって……」
「いいえ、してないわ。ねえ、お願い、私を見て。今の実物(わたし)を見て」

無気力に弛緩していた表情筋が見る見る引き締まる。その瞳いっぱいに映り込むのは、花嫁姿のルキナだ。

「───まだまだ、完成にはほど遠いな」
「ええ、ほど遠いわ」



 ふと覚醒し、重いまぶたをゆっくり持ち上げてみる。ぼんやりと曖昧な視界に、硬い床で何度も寝返りを打ちながらも苦労して眠る青年が映り込んだ。
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~ Comment ~

 

デジャビュかもしれないけど
最後のシーンからTSF支援所の画像と本文を連想して懐かしかった
イーゼルに置かれたキャンバスに手を伸ばす男性、その後ろから覗き込む座った男性と同じぐらいの身長の少女、はにかむ笑顔、服装はワンピース
王道で青春、完成した展開・骨組みだけでかなりグッときます。
あとはどれだけ台詞、肉付けでキュンキュンせられるかですね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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