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【もうすぐ完成】2-16 世界で一番メシが不味い国はどこでしょうか?ヒントは「イギリス」 2-16【更新9/27】

 ←輝けケアキュア☆紫陽花の季節 3話を更新しました & 4話試作 →漫画『ブレイクブレイド』の二次創作。タイトルは『Made in America』。
(前書き)

「おはようございます。世界のメディアザッピング、今日はこの話題からです」
「おはようございます。今日はイギリスから驚きのニュースが飛び込んできました。なんと、あの有名な伝説の王、アーサー王が実在したという証拠が発見されたのです。しかも───」


(前書き終わり)


切嗣とセイバーが間桐邸を訪れる、数時間前


‡バーサーカーサイド‡

「ン゛ン゛ハァ゛ア────ッンハッンハッンハッンハッハ───────!!!!」

 これ誰の笑い声だと思う?これね、雁夜おじさんの笑い声。どうやって発声してるんだろうね。ていうか凄いテンション。うわあ、引くわあ。

「バーサーカーが無理やり食べさせた料理のせいだと思うよ」

 あ、桜ちゃん、見てたんだね。あらやだ恥ずかしい。おや、その手に持っている物はもしかして。

「うん、完成したよ。『セイバー陣営ご一行様、ようこそ間桐邸へ』の看板。いっしょうけんめい色も塗ったんだ。見てみて!」

 うんうん。とても立派な出来栄えです。漢字もしっかり書けてるし、字もキレイだ。桜ちゃんはこの歳ですでに成績優秀者の片鱗を見せていたんだね。このほのぼのとした字体に、きっと切嗣さんたちも喜んでくれることでしょう。この看板に相応しいように、俺もエプロンじゃなくて、もっと従者っぽい服装でお出迎えしないとね。従者っぽい服か……う~ん、なにがいいかなあ。執事服?いやいや、こんな全身鎧の大男がぴっちりしたブラックの燕尾服なんかを着てたら凄く違和感があるんじゃないだろうか?悩むなあ。教えて、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ大先生!届け俺の問いかけ!電波ビビビビ~!




───んなこと、ワシに聞かれても………



はいわかりました!答えは得た、大丈夫だよゼルレッチ俺もこれからメイド服で頑張って行くから!



───ええ……




 そうと決まればメイド服を作らねば!間桐家には使用人用の簡素なメイド服があったから、それを仕立て直せばいけるだろ!おや、雁夜おじさんもマリオみたいに飛び跳ねて俺のメイド服アイデアを喜んでくれてるようです。拳が天井の梁材にぶち当たってるけど痛くないんだろうか。そういえば、夜に樹を相手にボクシングの真似事もしてたね。ふふ、愉快な人だなあ。原作からだいぶ離れた性格になっちゃってるように見えるけど、いったい何があったんだろうね?

「セイバーがなんだ!アーサー王がなんだ!僕のサーヴァントは最強なんだ!正体は知らないけど最強なんだ!誰だろうとどんとこいやぁっ!!ほわいどんちゅーどぅーゆあべすと!!??」
「もう、雁夜おじさん、あんまり騒いだらせっかくバーサーカーが仕立て直してくれた背広が台無しになっちゃうよ。天井に当たるくらい垂直ジャンプなんかしちゃって。髪もせっかくきっちり整えてもらったのに」

 ははは。だいじょうぶ、またきっちりセットしなおせばいいのさ。夜間学校に通って取得した理容師資格とユーキャンのスタイリスト資格がこんなところで活きるなんて思ってもみなかったよ。でも、こんなに元気になってくれちゃって、俺も気合入れて精が付く料理を作った甲斐があったってものさ。

「ねえねえ、いったい何を食べさせたらこんなに元気になっちゃうの?雁夜おじさん、空中で腰をカクカクさせながらジャンプして天井に穴を開けて二階まで飛び出していっちゃったよ。マンドラゴラでも食べさせちゃったの?」

 やれやれ、あんなにはしゃいじゃって、まったく仕方ないおじさんだ。あとで修理しておこう。でもね、桜ちゃん。そんなハリーポッターじみた|非現実的《ファンタジー》な植物なんかなくたって、ちょっとの料理の知識と、アーチャーから奪ったSクラスの宝短剣と、このスキル『|騎士は徒手にて死せず《ナイト・オブ・オーナー》』があれば、普通の食材でも十分に元気3000倍マックスフルハイテンションハイポーションを作ることが出来るんだよ。
 さて、ここでネタ晴らし。雁夜おじさんに|喜んで食べてもらった《無理やり口に突っ込んだ》料理は以下の通り。

 まず|喜んで食べてもらった《無理やり口に突っ込んだ》のは、『九条ねぎと大分県産ニラと炒めた豚レバーの甘辛焼き』。レバーは滋養強壮を高める効果があることはよく知られているけど、豚のレバーは特に凄い。肉体を十全に動かすにはビタミンB1が不可欠なんだけど、豚肉は100グラムを食べるだけで1日に必要な量を摂取できると言われている。そして必須アミノ酸をバランスよく含んだ良質なタンパク質もとれる。しかも脳の活性化や神経の正常化に効くビタミンB12も豊富。特に豚レバーは脂肪分が少ない上、抗酸化作用や生殖機能の改善に効くビタミンEの宝庫だ。これでおじさんの疲労回復は完璧だし、テンションも爆上げってわけ!もちろんネギは、ニンニクやタマネギと並んでスタミナのつく野菜として有名だよね(ニンニクはタマネギの親戚って知ってたかな?)。抗酸化作用の強いβカロテンやビタミンC、ビタミンEが豊富で、体内から活性酸素を減らして血管や臓器を若返らせてくれるんだ!これでおじさんの肌艶も10台の頃のようにつやっつや!さらに、ネギの持っている硫化アリルは消化を促進したり食欲を増進させたりするのはもちろん、疲労回復やスタミナアップ効果のあるビタミンB1の吸収を高めてくれる。つまり、ビタミンB1を多く含んだ豚肉との相性は最高ってわけ!
 次に|喜んで食べてもらった《無理やり口に突っ込んだ》のは、『広島県産牡蠣の味噌チーズホイル焼き、食べる直前にレモン汁をどうぞ』。海のミルク、牡蠣。美味しいよね。特に広島県産の新鮮な牡蠣は最高だよ。牡蠣には、骨の強化やイライラの改善に効くカルシウムはもちろん、粘膜を正常に保つ効果のあるビタミンA、スタミナ増強や抗酸化作用のあるビタミンB2がパンッパンに含まれてるんだ。これでおじさんのスタミナは爆上げよ!そこにカルシウムやタンパク質が豊富なイタリア産パルメザンチーズとオランダ産ゴーダチーズ、そして大豆を使った岐阜産の豆味噌をケチらずにどーんと載せて、アルミホイルに包んでオーブントースターでチーン。食べる直前に、同じく広島県産の瀬戸内レモンをギュッと絞る!クエン酸に疲労回復効果があるのは有名だよね。味噌とチーズのまったりした濃い味を酸っぱいレモンが和らげてくれるんだこれが。簡単だし、美味いし、栄養豊富で、一石三鳥よ。
 最後に|喜んで食べてもらった《無理やり口に突っ込んだ》のは、シンプルに『アメリカ産アンガス牛肉のリブロースを使ったローストビーフの野菜巻き。ハーブと赤ワインソースを添えて』。いやね、なんと言っても牛肉に勝る良質な動物性タンパク質はないのよ。安物のサプリとかプロテインを飲むくらいなら質のいい牛肉をバクバク食ったほうがよっぽど頑健な肉体を作ることが出来る。エネルギーを生み出すビタミンB1がこれでもかってくらい含まれてて、疲労回復やスタミナアップに最適なのよ。“風邪ひいた時は上等なステーキを食え”、ってのはある意味正解なんだね。病気に抵抗するためのエネルギーをどんどん作ってくれるし、筋肉は強化され、マッチョ街道まっしぐらってわけ。そしてエネルギー生産を補助してくれるビタミンB群や、吸収のいいヘム鉄、そして生殖機能を高める亜鉛といった肉体を強化してくれる栄養層がこのルビーのように赤い肉の中には満載なんだ。ちなみに、なぜ国産牛ではなくアメリカ産牛かというと、|脂身《サシ》が多い国産牛はローストビーフに不向きだからなのだ。ローストビーフには脂身が少なくて上質な赤身を備えたアメリカ産が最適ということは知る人ぞ知る知識だ。ソースは赤ワインベースに、ニンニクとショウガを混ぜたオリジナル。ニンニクもショウガもどちらも勢力増強に効果てき面だ。ちなみに、冷蔵庫から取り出した後に15℃程度の日陰に置いてゆっくりと常温に戻しておくと、調理後の肉が柔らかくなってなお良い。ローストビーフのしっとりとした触感を楽しめる。そうそう。豆知識だけど、ローストビーフってのはイギリスが生んだ最高の料理と言われているぞ。え?ほかにイギリスが生んだ最高の料理はなにかって?うるせえ!紅茶で溺死させるぞ!!

「ンンンンンンハハハハハハハ!!ぜんぶ美味かったぞ!バーサーカー!!」
「あ、玄関から戻ってきた。お帰り、おじさん」
「ただいま桜ちゃん!助走なしのジャンプで6メートルも飛び上がれたのは生まれて初めてだよ!いや、実に美味かった!力が、力が満ち溢れてくる!今ならなんでも出来そうだし誰にでも勝てそうだ!!」

 よかったよかった。こんなに元気な雁夜おじさんを見ることが出来て、俺もこの夢を見ている甲斐があるってものさ。夢でも嬉しいよ。涙がちょちょぎれそうだ。原作だとクソ雑魚エンドだったもんね。今じゃ、なんだか威厳オーラというか、ラスボスが発するような闘志満々な圧がダダ漏れだもん。いやはや、セイバー陣営との会談を前に弱気になってるおじさんになんとかガッツをつけてもらおうと作ってみたんだけど、予想以上の効き目だね。でもおじさん、会談のことちゃんと考えてる?

「ん!?ああ、セイバー陣営が同盟を持ちかけてくるかもしれないって話だろう!?」

 そうそう。それそれ。
 原作で言えば、そろそろアーチャー陣営とセイバー陣営が同盟を結ぶだの結ばないだのといったお話をする頃合いだ。遠坂時臣がアイリスフィールを教会に呼びつけて、一時的な同盟を結ぶ代わりに「言峰綺礼を国外退去させる」という条件をつけられるくだりだね。でも、この夢の世界ではそうはならず、呼びつけたのはセイバー陣営で、呼ばれたのは俺たちバーサーカー陣営だ。同じようなタイミングで接触を申し込んできたということは、原作と同じように同盟の申し込みということは十分に考えられる。というか、それくらいしか思いつかない。んで、「もしかしたら同盟結ぼうよってお誘いかもしれないから、その時は素直に手を組んだほうがいいかもよ」と雁夜おじさんにお勧めしといたのだ。
 というのも、ギルガメッシュに対して俺(ランスロット)は相性が良いとされている。原作でもそう評されてたし、実際、コンテナターミナルでの初戦でも身体の動くままにしてたらなんとかなった。夢だしね。だから有利には立ち回れるだろうけど、それでもアイツは強敵だから、防御と回避は問題なくても攻撃の決め手に欠ける。それに、相性の悪いランサーは倒せているにしても、ライダーの|王の軍勢《アイオニオン・ヘタイロイ》はやばい。俺だけじゃとても太刀打ちできない。だから、こいつらと渡り合えるだろう|約束された勝利の剣《エクスカリバー》を保有するセイバーと共闘したほうが、これからの戦いを有利に進められるだろうと考えたわけだ。そして最後にセイバーと俺だけが残ったとしても、俺の願いは『雁夜おじさんと桜ちゃんが元気で生きていくこと』なので、別にさぱっと消えてセイバー一人だけになっても悔いはないというわけだ。もちろん、呪われた聖杯が最後に大火災を引き起こす危険は忘れていない。二人がそれに巻き込まれて焼け死んでしまっては意味がないので、その対策として|すでにアイツから《・・・・・・・・》|奪っておいたアレ《・・・・・・・・》を使うことにしている。まあ、俺の夢なんだし、なるようになるでしょ。

「……ムハハハハ!同盟な!考えておいてやろう!ムハハハハ!!」
「ぐるる~?(´・ω・`)」

なんか含みのある間があった気がするぞ。大丈夫かなあ。



‡とある王さまサイド‡


「はふ、はぐ、はふっ!はふっ!」



 頬張る。ただひたすらに頬張る。入らない、ではない。入れる。気道に混入する危険も考えず、がむしゃらに掻っ込む。二本一対の棒───箸というアジアの食器───を器用に使いながら、口腔の容量限界など知らぬとばかりに次から次に大口を開けて眼前の料理を放り込む。そして全身全霊の力をその細い顎にこめて無我夢中で咀嚼する。舌を懸命に動かし、その表面の味蕾を余すところなく働かせ、分析器にかけるが如く、構成する食材の一片に至るまで味わう。前歯、奥歯、犬歯、すべての歯を使って感触を楽しむ。粒のそろった小ぶりの白い歯が裁断機のように音を立ててガッツガッツと噛み合わされる。柔らかいものはホロホロになるくらいにとことんまで柔らかく、硬いものは適度な歯ごたえを感じられるよう絶妙に調理されたそれらを、力を込めて、心を込めて、丁寧に満遍なく味わう。



「おい、セイバー」


 居並ぶ料理皿の上を箸が迷うことはない。それは、彼女が時代も場所も違う遥か極東のマナーを諳んじているからではなく、本能が次の獲物をすでに定め、肉体を真っすぐに突き動かしているからだ。剣を振るうが如く箸を躍らせ、美しい金髪を振り乱し、まるでご馳走を前にしたがんぜない子供のように目を輝かせてもっしゃもっしゃと頬を膨らませる。その様子は金獅子というより、さながらゴールデンハムスターである。


「セイバー、聞こえてないのか。おい、セイバー」


 魚の干物に手を伸ばす。箸の先端をその肉に差し入れた途端、ふっくらとした肉がほろりと崩れ、湯気が沸き立つ。品のいい魚の油の匂いにまた食欲をそそられる。そのまま、くいっと先端を持ち上げれば、身離れの良い肉がそこに乗っかる。抗しがたい魅力に一瞬たりとも抵抗できず、すかさずそれを口に頬張る。


「~~~~っ!!」


 すこぶる見栄えの良い涼しげな美貌が、ふにゃんとトロけた。魚の干物は、彼女の王国でもよく食べられていた。しかし、これが同じ食べ物だとは露とも思えなかった。旨味、旨味、旨味。肉の一切れ、細胞の一つ一つにまで旨味がぎゅっと詰まっていて、噛みしめるたびにそれが口腔内で爆発し、舌を殴打する。一噛みごとにジュワッ、ジュワッと凝縮されたジューシーな油が広がる。ただの干物のはずなのに、コニャックを掛けて火を転じたミディアムレアの極上ステーキにも匹敵する、いや、それ以上の美味を魂に痛感する。

 だが、しかし、味が濃すぎるという一抹の不安を覚えた。何かが足りない。この口の中に、何かが足りない。



───俺を食え……



「はっ!?だ、誰です!?その声はいったい!?」

「いったい誰の声を聞いているんだ」


 持ち前の直感スキルAによって、彼女は音にならない声を聴いた。なんと、それは目の前に置かれた椀から発せられていた。銀色に輝く穀物……お米だ。炊きたてを誇る艶がなんとも美しく、芳醇で豊かな香りをこれでもかと放っている。そのお米が、「俺を食らえ」と語りかけているのだ。言葉は不要、もはや遠慮はせぬ。茶碗を手に取り、まだ干物が口の中に残っているにも関わらず、米粒の塊をぐわっと勢いよく頬張る。



|完成した《・・・・》。



 鼓動がきっかり3拍分は止まっていただろう。まるで落雷の直撃を喰らったような、それくらいの衝撃だった。完成だ。これで完成なのだ。欠けているものなどあるものか。口内で火の玉が爆発したような驚きに、さしもの彼女の意識もグラついた。胃腸までもが驚天動地してビクビクと揺れ動く。もはや足りぬものはない。この口の中で、一つの|完璧な世界《アヴァロン》が誕生したのだ。この国の食事とは、この『お米』を主軸として考案されているのだ。おかずはお米を引き立て、お米はおかずを引き立てる。互いに補い、高め合い、天界へと繋がるスパイラルを煌めかせて究極の美味を形作っている。東の端っこに浮かぶ島国で、食事は一つの極地に到達していたのだ。筆舌に尽くしがたい喜びと驚きに打ち震える彼女の前には、まだ多くの種類の料理が並んでいる。「次はどれを食べようか」と心をワクワク躍らせながら、目の前の調理法どころか料理名すら知らぬ未知のそれを大きめの一口サイズに切り分ける。一見すると、得体のしれない素朴な茶色の物体だ。それがサクッと表面の衣が小気味の良い音を立てて割れ、中からほわほわ~っと熱々の湯気が立ち昇る。サクサク、ほわほわ。擬音だけですでに楽しい。香辛料、おそらく胡椒をまぶした牛肉と豚肉の匂いが鼻孔をくすぐる。だが、そこに油っぽさは微塵もない。彼女の鋭敏な嗅覚は、瞬時にナツメグの種子の香りを嗅ぎ分けた。これが挽肉の油っぽい臭みを打ち消し、逆にその風味を増幅しているに違いない。さらに、その嗅覚は、赤みを残した肉汁から染み出すタマネギの甘く香ばしい匂いに混じって|葡萄酒《ワイン》特有の芳醇なコクも察知した。


「セイバー。おーい、セイバー。僕の声が聞こえないのか?え、ほんとに?」


 なんということだ。どれだけ隠し味を埋め込めば気が済むというのだ。料理人は、料理の際に一切の骨惜しみをしなかったに違いない。口に運ぶ前からその味を想像してゴクリと喉が鳴る。鼻孔が大きく開き、食欲を誘う塩気、そしてどこか懐かしい、食べたことのある食材の匂いを肺いっぱいに受け入れる。しかし、正体がわからない。嫌になるまで食べたはずなのに、あまりの変貌ぶりに正体が突き止められない。なんだ、このワクワク感は。まるで宝探しをしているようではないか。彼女は胸をときめかせる己に気付いてハッと悟った。これは、彼女の生きた時代と彼女が興した王国の原始的な調理技術では到達し得なかった、|高み《・・》なのだ。言ってみれば、宝だ。好奇心と食欲の権化と化した彼女は、その宝を勢いよく頬張る。


「セイバー!おい!」


 肩を掴まれてガクガクと揺らされる彼女の視界に、一群の白鳩が羽音を響かせて空を舞った。それは幻覚だった。美味という、生命が求める最上級の喜びを知覚した脳があまりの情報量を処理しきれずに見せた、至福の象徴だった。顎を上げ、「ほう」と吐息を漏らして口腔内の熱を冷やす。その切れ長の目尻からつうっと頬を伝い落ちたのは、一筋の涙。その涙は止まることを知らず、清流のようにとうとうと流れ続けた。彼女は、感動していた。外はカリカリ、中はふっくら。言葉で言うのは簡単だろうが、バランスを取るのは至難の業だ。至高にして巨大な神の天秤だ。この料理は、それを見事に実現している。まるで職人によって作られた業物のようだ。この一つ一つが、彼女の聖剣にも匹敵する、この世に二つと無い至宝なのだ。ふるふると身体を震わせながら、隣に座る己の主人のことなど意識外に放り出して、ひと噛みひと噛みを愛おしげに、大切に楽しむ。

 そんな彼女を前に、食卓を隔てて正面にいる眼帯の男が口端を少しだけ引き攣らせて問いかける。


「……口に合っているようで何よりだ。失礼だが、歴史には疎いもので教えてほしい。貴女の王国でそれを食したことは?」

「いいえ。恥ずかしながら、我が王国ではこのような美食は存在しなかった。この素晴らしい料理はなんという名なのですか!?」

「僕のことは無視か」

「コロッケ、というものだ」

「“ころっけ”……コロッケという料理なのですか。して、これはどのように作るのです?大変に興味が湧きました」

「ああいいよコロッケだよそうそうコロッケ。どうぞ気が済むまで食べてくれ。僕の分も欲しけりゃやるよ」

「どうも切嗣(ひょいぱく)」

「そこは会話するのか」

「なに、作り方は簡単さ。私でも作られる。牛肉と豚肉のミンチ肉と玉ねぎ、そしてたくさんのジャガイモを混ぜて油で揚げたものだ」

「ジャガイモ!そうか、ジャガイモだったのですね!どうりで、覚えのある味のはずだ!しかし、ジャガイモをこのような馳走に変えられるとは……!!」

「はいはいジャガイモジャガイモ。ああ、僕のサーヴァントがこんな食いしん坊だったとは」


 呆れ顔で手を振る主人のことはやはり意識に入らない。彼女の脳裏に浮かんでいるのは、かつての己の王国の食事風景だ。

 彼女が王として生きた時代、その食事水準はとても酷かった。今でも酷いが、輪をかけて酷かった。もしもここに、未来の赤い弓兵がいたならば、「500人のカウボーイの投げ輪に首を絞め上げられて吐き出したゲロのほうがまだマシだな」などと吐き捨てたに違いない。実際、彼女もそう思い始めていた。この料理に比べれば、かつて自分が食べていた料理など、料理とは呼べない。そう、ゲロだ。ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ。祖国は誇り高い王国であるという自負は揺るがねど、食事のレベルはライダーやアーチャーの王国の方が上だったかもしれない。いや、間違いなく上だったろう。時代はずっと後なのに。

 そもそも、彼女の王国も、その後に発生した国家も、料理に関しては無頓着だった。まずい食材だって調理法が良ければなんとかなる。ひどい調理法でも食材が良ければなんとかなる。だが、まずい食材にひどい調理法が合わさればどうなるか。どうにもならない。救いようがない。あるのはエブリデイメシマズだ。

 まず、食材の下処理などしない。「臭みを消す?なにそれ英語でおk」である。野菜を水に通すなんてこともない。土がついてる?火が通ればいいじゃない。むしろ何でもかんでも火を通さないと安心できない。焼き加減とか関係ない。さらっと炙る、なんて発想はない。とにかく芯まで焼くのだ。味付け?テーブルの上に塩コショウがあるから各自お好みで。料理中に味なんか付けないわよ。|これ《・・》である。今も昔も変わらない。かつての王国での調理や食事風景を思い出し、そのおぞましさを自覚して身震いする。目の前の料理とのギャップがありすぎて目眩すら覚えるほどだ。

 異様に硬く味気ない、むしろなぜか酸っぱいライ麦のパン。肉はそこらの山に放牧している何を食べたかわからない豚や、頭の上を飛んでいた鳩。釣ってから日にちが経過して腐ってきたので急いで塩漬けにしたニシン、もしくは乾ききって薪と見分けがつかなくなったその燻製。そこらの川から捕まえた亀を叩き潰した真緑色のタートル・スープ。そして種類と量と栄養素に乏しいカッスカスの野菜。白パンを食べたいが手に入らない時は見栄を張るためにライ麦パンに石灰を混ぜてこれみよがしに食べたりする始末である。ジョンブル魂は伊達ではない。


「このニンジン、茹でただけにしか見えないのに、どうしてこうも甘いのか。味付けをしなくとも野菜そのものがほんのりと甘い。まったく信じられません」

「そうかいそうかい。じゃあ僕のも」

「どうも切嗣(ひょいぱく)」

「せめて言い終わってから手を出せ」


 歴代の統治者たちは、特に野菜が育たないことに頭を悩ませた。それは彼女も同じであった。ようやく統一戦争を終わらせて王国を治めても、長く続いた戦乱によって民草は皆極限まで飢えていた。早急に腹を満たしてやる必要に迫られるが、そこに立ち塞がったのはよりによって彼女が救った国の大地である。かの地は、基本的にほとんどが酸性土壌であり、多い降水量のせいで栄養素は流されていくために土地が肥えにくく、それゆえに植物が育ちにくい。さらに、日照時間が短く、気温も寒いというトリプルパンチなので、土地の改良もままならない。つまり、気候風土のせいで土地が極度に痩せていて野菜の育成に適していないのだ。というわけで、まともに育つのはマッシュルームなどのキノコ類と、豆と、そしてジャガイモだった。

 彼女はジャガイモには並々ならぬ思い入れがあった。ジャガイモには多くの民の命を救われたからだ。成長は早く、病気に強く、寒冷地でも育ち、栄養豊富で、その栄養素は加熱に十分耐えるので、とにかく育てて食べまくった。戦場で勇猛果敢に戦った少壮気鋭の若武者たちが、一心不乱にその業物を振るって火星のように貧弱な土地を耕しに耕し、ジャガイモを植えに植えまくった。その甲斐あって、民草の飢えは満たされ、餓死者は急激に減少した。そこまではよかった。


『お母さん、あたし、たまにはジャガイモ以外のごはんが食べたい……』

『しーっ!円卓の騎士様たちが作ってくださったのに、なんてことを言うの!』

『でも、でも……ぅ、うえ~~ん!』


 しかし、食べ過ぎた。他に食べるものがないとはいえ、誰もかれも、もう飽き飽きだった。ジャガイモを見るだけで嫌気がさした。物悲しい気候風土のせいで、民族性は質素倹約を旨とするものに変わっていき、ストア主義というお固いストイック精神に結びついてしまった。「ジョンブルたる者、贅沢は敵である」と公然と語られるようになり、栽培技術や調理技術が高められる風潮もついぞ生まれなかった。しまいには、「マッシュ、マッシュ、なんでも潰せば食べられマッシュ、はいドーン!」。そう、|これ《・・》である。食材もなく、まともな調理法もない。どん詰まりである。行くも地獄帰りも地獄。前門の虎後門の狼。四面楚歌ならぬ四面ジャガイモ。飽きていないのはあの|太陽馬鹿《イケメンゴリラ》くらいだった。神から譲り受けた聖剣ガラティーンで自らの領地を隅から隅まで耕し、次々にジャガイモ畑に変えていった。気づけばジャガイモ生産量王国1位、出荷量王国1位、特産品ジャガイモオンリー文句あるか領主様の誕生である。「貨幣経済?なにそれ美味しいの?ウチはジャガイモで払うけどいいよね?」とガラティーンを大上段に構えながら要求するのでどこの商人も頭を抱えていた。ジャガイモの余剰在庫も抱えていた。貨幣とジャガイモが市場で行き来する始末である。領民はそんな領主を心から慕い、密かに“ポテトゴリラ様”と呼んでいたという。

 今まで、あの騎士が作る料理といえばジャガイモばっかりだった。思い出すだけで胸焼けがしてくる。焼きポテト、煮ポテト、刻みポテト、そのままポテト。そのままポテトに至っては取り立てを土がついたまま皿にゴロリである。「食べにくいなら潰しましょうか?」と素手でジャガイモを握りつぶしてニッコリ笑いかける。それをベチャリとじかに手渡された平民の少女の死んだ魚のような目は忘れられない。凄まじい握力で皮ごと潰されたジャガイモを両手いっぱいに掲げて、「あ、ありがとうございます」と唇を震わせる少女は今にも泣きそうだった。なんてことをするんだ。なんだか無性に腹が立ってきたぞ。民草の心が私から離れたのってアイツのせいもあるんじゃないか。人の心が分からない、ってむしろアイツのことじゃないのか。


「(ぱくっ) ~~~!!」


 そんな怒りも、もう一口コロッケを頬張れば望外の幸せに霧散する。たちこめていた暗雲が、日の出とともに爽やかな風に吹き払われたような清々しい心境に、感情がわけもわからずに昂ぶる。熱したガラス球が思い切り息を吹き込まれたように心がわっと膨らみ、すべての思考に限りない余裕が生まれる。歓喜と興奮に、内なる活火山が爆発する。単なる生命維持のためだけのエネルギーの補給ではない。そんな簡素でお粗末なレベルとはわけが違う、もっと高尚な喜びに、全身に力が充実するのを感じる。


「うま……うま……」


 丹念に、丹念に、味わう。肉体がもう十分だと諭して飲み込もうとするのを3度も拒否した後、ようやく渋々として承諾する。ゴックンと、音を立てて飲み込む。瞬間、豪雨のように降りかかる後悔。喉を通っていくことすら惜しい。眼の前には半分になったコロッケのみ。これが堪らなく寂しい。その途方もない寂しさを埋めるように、コロッケを今度は少し小ぶりに切り分け、食す。そして間髪入れずに、傍らの茶碗を手にとってホカホカの米を口に放り込む。そしてこの身に再来する生命力の横溢に、知らずに拳は握られ、総身が武者震いのように震える。全身の細胞という細胞が喜びに雄たけびを上げ、体内は歓呼の暴風が吹き荒れる。サーヴァントである今、この肉体には食事など必要なく、マスターからの魔力供給で事足りる。だが、それだけでは到底得られない活力と覇気の漲りを感じる。どんなことがあっても乗り切ることが出来るという根拠のない自信がマグマのように湧き上がってくる。


「───うお、ぅおおお、うお゛お゛お゛お゛う゛う゛お゛お゛ぅ゛!!」

「が、ガチ泣き」


 机に突っ伏し、泣いた。アシカのように喉を引くつかせてオウオウと鳴いた。隣に座るマスターが顔を引きつかせてドン引きするなか、握った拳で机を何度も叩きつけ、恥も外聞もなく泣いた。


(|なんて羨ましい《・・・・・・・》んだ!)


 |うまいものを《・・・・・・》|腹いっぱい食べる《・・・・・・・・》。それが、それだけで、どれだけ人間の身体は、心は、救われるか。自分はわかっているようで何もわかっていなかった。これが、このような|饗膳《きょうぜん》を生み出す技術と文化が我が王国にあれば、民草をどれだけ救えたことか。腹を満たすだけではなく|心を満たして《・・・・・・》やれば、どんなにか人々を救えたことか。|私は《・・》、|どんなに救われたことか《・・・・・・・・・・・》。

 今まで、王国が滅びた原因は、自分という不完全な王を戴いてしまったせいだと思っていた。自分の舵取りが誤っていた故に招いた悲劇の結末だと思っていた。選定の剣を引き抜くべきは自分ではなかったのだと、相応しいのは自分以外の誰かだったのだと|思い込もう《・・・・・》としていた。そうして己の運命から|逃避《・・》しようとしていた。だが、違った。それは驕りにも等しい。たとえ誰が王になろうと、聖剣に選ばれようと、そこからどんな過程を辿ろうと、王国は滅亡したに違いない。|原因《・・》は別にある。

 至上の美味を摂取した脳が明敏に回転する。思考が鮮明になっていく。聖剣のように研ぎ澄まされていく。はるか高みまで昇華していく。後悔、懐疑心、悲哀、余計なものが老廃した皮膚のように剥がれ落ちていく。見えなかった真実が見えてくる。見たかった真相が見えてくる。


 ただ戦を止めるだけでは駄目だった。だから秩序を作り上げた。いいや、それでは足りなかった。だから腹も満たしてやった。それでも不十分極まれり。味気のない食事で腹を満たしても、心は完全に満たされない。それでは民を救えていなかった。救ったことにはならなかった。肉体という殻は救えても、もっと大事な中身まで救えていなかった。今ならわかる。自分は、民たちに極めて最低限の救済しか与えられていなかった。与えられる状況に無かった。与えようにも与えられるものが無かった。いくら何でも、食べ物が不味いことまでは自分のせいではない。メシマズの責任まで取らされてたまるものか。

 「私なんかが王になったせいだ」と自分を責めていたのは、とんだ思い違いだった。|誰が王になっても《・・・・・・・・》|同じだった《・・・・・》のだ。誰が王になったところで、きっと結末は変わらない。私という王が誰に挿げ変わろうと、かつてのままのメシマズキングダムでは辿り着く結果は変わらない。では、どうすればいいのか。

 だから、セイバーは食べる。食べて食べて、その素晴らしい味と栄養を記憶海馬に刻みつける。いつか己が|再現《・・》できるように。


 (|誰が王になっても《・・・・・・・・》|耐えられる国《・・・・・・》にしなければならない)


 その答えは目の前にある。日々の楽しみ。活力の源。明日への希望。つまり、|うまい飯《・・・・》だ。豊かな食文化だ。





(途中)



「同盟は、お断わりする」
「「な───」」

驚く切嗣とセイバー。きっぱりと言い放った間桐雁夜は敢然として表情を微動だにさせない。ふとセイバーは彼の傍らに控えるバーサーカーに目をやり、

「ぐ、ぐるる……?」

 バーサーカーもまた「マジで?」と言いたげに己のマスターを見つめていた。


(ここでいったん区切る)


貴殿のサーヴァントと同様、私のサーヴァントにも聖杯に託す願いがある。それをみすみす譲るような真似はしたくない。
彼の願いがなにかは知らない。だが、その願いは成就させてやりたい。マスターの最低限の務めだ

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