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【試作】輝けケアキュア☆紫陽花の季節 6話【12/9更新】
ここまで書きました。ブログにも感想を下さる方がいて、本当に嬉しいです。「ようし、書くぞ!」という励みになりますし、「よし、これでいいのか!」という自信に繋がります。感謝です!!
※
『若い女性の指先にてんとう虫がとまったら、それは結婚が近いという印し』
ベルギーに古くからある言い伝えより
「ご愁傷さま、まだ生きてるわよ」
『ルキナ死す!?』のテロップが流れ去り、次の話題のテロップが画面下部にぴたりと固定されたところでルキナはテレビの電源を切った。こっちの気も知らないで、好き勝手言ってくれるものだ。リモコンを乱暴にベッドに放り投げ、その後を追うように自身の身体を投げ出す。くたびれたスプリングがギギッと音を立て、同年代の平均より軽い肢体をかろうじて受け止めた。ルキナは、瀕死寸前のダメージを与えられたことが嘘のような身軽さに自分でも驚いた。ケアキュアたちと戦っていたのはほんの一か月ほど前のはずなのに、なんだか当の昔だったように感じる。自分でも不思議なことに、ルキナはその頃を“懐かしい”と思い始めていた。ふぅ、と気だるげなため息をつき、仰向けになったルキナは自らの右手を掲げてじっと見つめる。
『お前なんかに───お前らなんかに、オレの何がわかるんだ!!』
その手には、ケア・アストレアが差し伸ばしてきた手を払い除けた痛みがいまだに生々しく残っていた。ショックを受けたアストレアの沈む表情を思い出し、チクリとしたトゲのような痛みがルキナの心に刺さった。その後悔という名のトゲは、ルキナの心が青年の無償の優しさによってほぐされていくごとに深く深く食い込んできた。
「……夢なんて……」
夢なんて、ない。夢を描くことも、希望を願うことも、とうの昔に諦めた。野垂れ死んでも誰も気にしない虫けらのような自分は、日々を生きるだけで精一杯で、希望に満ちた夢を描く余裕なんかこれっぽっちも無かった。自分には何もない。夢を考えるための下地すら無い。空っぽのビーカーからは何も生まれはしない。それは今も変わらない。……けれど。
首を傾け、視線だけで部屋を見渡す。所定の位置に整理された絵の具、綺麗に掃除されたパレットと絵筆、古びた|小椅子《スツール》、たくさん折り重なった和紙に似たキャンバス地、使い込まれた付箋だらけの教員試験の問題集、部屋の隅にきちんと畳まれた青年の布団。|欅《けやき》で造られた古めかしい|画架《イーゼル》に置かれた描きかけの絵。それらから滲み溢れる青年の努力の匂いが狭い部屋を満たしていた。
「………」
我知らず、ルキナは夢遊病者のようにふらりと立ち上がると、吸い寄せられるように青年の布団のうえに上半身を預けた。自分のベッドをルキナに施したために、この一ヶ月、薄っぺらい敷布団で寢らざるを得なくなった優しい青年の体臭が染み付いていて、ルキナはそれを不快に思うよりむしろ安心感を覚えた。布団をか細い両腕でギュッと抱きしめ、数瞬ほど躊躇った後、おずおずと頬擦りをする。どうして自分がそんなことをしているのかわからないが、|そうしたい《・・・・・》と本能が思ったのだ。青年の匂いに包まれていると、眠くもないのに瞼がトロンと落ちて、目の焦点がぼやけてくる。風呂でのぼせたように頭がぼーっとするのに、胸はキュッと緊張に締め付けられて息苦しさすら感じる。自然に頬が紅潮し、下っ腹がトクトクと熱っぽく疼く。はっきり明文化できない理解不能の感情が蝶々となって体内を羽ばたき、その羽根が下腹部の大事な大事な臓器を何度もかすめているようなくすぐったさに内ももをすり合わせてもじもじと身悶えする。
「夢なんか持ってない。でも、」
青年の枕元、窓枠の下の日陰になるところに、乾くのを待つ色とりどりの花々の絵が置かれている。自分に夢なんて無い。けれど、|叶ってほしい夢《・・・・・・・》は、ある。心の底から応援したいと思える夢がある。彼の夢を誰かに邪魔されたらと思うだけで、まだ相手もいないのに憎悪の炎がチラチラと|燻《いぶ》り、瞳の奥で暗紫色の輝きがロウソクのように揺らいだ。まるで嫉妬に喉を唸らす雌猫のようだという自覚は、女になって間もないルキナには到底わかるべくもなかった。他でもない自分が誰かの夢の実現を願うようになることも、想像もつかなかった。ろくに知りもしない他人の夢を守ってやりたいだなんて、そんなの、まるで、
『チェンジ、ケアキュア!この力は、大切な誰かの夢を守るために!』
ケアキュアたちの熱い|口上《名乗り》が、まるでそこにいるように鼓膜に蘇る。赤の他人の夢を守ってやるなんて、理解できなかった。気色が悪いとさえ思っていた。自分の面倒をみるだけでいっぱいいっぱいだったルキナには未知に過ぎた。しかし、今ならケアキュアたちの思いに手が届く気がした。
『ねえ、ルキナ。貴女にも、夢があるはず。そうでしょう?』
もう一度、ルキナは自分の右手を見つめた。そして、その先にケア・アストレアの微笑みを幻視した。もしもあの時、差し伸べられた手を取っていたら、どうなっていたのだろう?
開け放たれていた窓から一匹のてんとう虫がひょいと立ち寄って、ルキナの指先にちょこんと羽を休めた。以前のルキナであれば、鬱陶しい虫けらだと指で弾いてぞんざいに追い払っていただろう。だが今は、そんな気にななれなかった。むしろこの可愛らしい命を無性に愛おしいとも思えた。白く細い中指の先端を歩き回るてんとう虫を眺めながら、ルキナは自分の善への変化を実感しつつ、ぼんやりとあてどないことを考える。もしもあの時、ケア・アストレアの手を取っていたら……|仲間《・・》に入れてもらえただろうか?、と。無論、そんな調子のいい話が通るわけないことなど、社会の底辺を味わってきた自分が一番よくわかっている。今さら仲間になど認めてもらえるはずがない。それほどの酷いことをたくさんしてしまった。過去の負い目が心に重く伸し掛かり、ルキナの表情が後悔に暗く沈む。けれど──それでも──もしも仲間に入れてもらえるのだとしたら──あの輝く4人の列に、自分も加わってみたい。ルキナは心からそう思った。そうなった自分を想像して、“悪くない”と思えた。そんな自分を見て、青年はどう思うだろうか。“誇らしい”と思ってくれるだろうか。
ふと、てんとう虫が羽を広げ、|画架《イーゼル》に飛び移った。自然に目線をそちらに転じたルキナは、|画架《イーゼル》に立て掛けられていた描きかけの絵画と|目があった《・・・・・》。頬をほんのりと紅色に染めた少女が一途な瞳で気恥ずかしそうに微笑みながらルキナを見つめていた。極めて精緻に描かれた少女の絵は、鏡となってルキナの内面までも映し出している。“大切な誰かを守るために”。今なら理解できる。彼の夢を守るためなら、どんなことだってできる。
その“恋する少女の絵”に触発されて、ルキナは今までずっと目を背け続けていた自分の素直な感情に、ようやく目を向ける勇気を得た。
「オレは───ううん、|わたし《・・・》は、あの人のことを───」
「本当ですか、先生!? はい、はい! ありがとうございます! 喜んで末席に加えさせて頂きたいと思います!」
押し入るようにした帰宅した青年の弾むような声に、ルキナの鼓動はきっかり3拍分は止まっただろう。おずおずと自らの甘い想いに向かい合おうとしていたルキナの物思いは、タイミング良くも悪くも当の青年によって無残に中断されてしまった。
「聞いてくれ、僕の作品が絵画展に展示されることになったんだ!」
青年、気色満面の笑み
「高校の恩師からの連絡でね、世界でも有名な画家が僕の作品を目に留めてくれて、見込みのある若手芸術家の作品を集めた絵画展に僕の作品を加えさせてほしいと言ってくれてるらしいんだ!」
(作成中)
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