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【最新話試作】勇者パーティーをクビにされた村人♂、女騎士になる【あともう少し】

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(なんて、美しい人なんだろう)

 

 火の粉を散らせ、颯爽とローブを背に羽織る女騎士の幻想的な姿に、私は殺されかけていた事実すら忘れて心の底から見惚れてしまった。

 背後の満月さえも脇役に押しのけてしまう神秘的な存在感に思わず息を呑む。月光に負けじと輝く豊潤な金長髪。思わずたじろいでしまうほど完璧な美貌。くびれた華奢な腰と豊かな肉付きは砂時計のような曲線美を躍動させる。そんな、美の女神も裸足で逃げ出す見た目とはまったく対称的な硬さを秘めた、エメラルドグリーンの瞳。まるで男性のような硬質さを宿す双眸は、悲しみと慈しみ、そして強さを奥に秘めて複雑な煌めきを放っている。

 およそ男女という枠を超えた、ヒト型が到達しうる究極の美の結晶人を前にすれば、同性であろうと心を奪われずにはいられない。所作一つひとつが絵画じみていて、まるで内なる魂から煌々と光が溢れ出ているかのようだ。

 

(なんて、強い人なんだろう)

 

 ただ美しいだけではない。並外れた身体能力、卓越した剣技、無敵の装備、出会ったばかりの近衛兵を一つの群生生物のように操る神がかり的に見事な指揮。それら前衛はながたとしてのスキルのみならず、馬車や滑車に通じた工学技術や一流の商人顔負けの知識といった後衛サポートにまで秀でている。まさに完璧という言葉を体現する理想の騎士だった。

 今もって私は彼女の素性も知らない。でも、この人は信頼できると確信していた。なぜなら、この人は誰よりもまっさきにシリルの遺体を弔ってくれたから。王家に仕える廷臣とはいえ、メイドは平民出身の女性と決まっている。そのためにシリルに対して心無い態度をとる騎士や貴族は絶えなかった。私の近衛兵たちでさえ、最初の頃は長年の習慣からぞんざいな対応をしていた。悪気があったわけではなく、生まれ持った身分やクラスが人生を左右するこの世界では致し方の無いことだった。

 でも、彼女はシリルの遺体を大切に抱きかかえ、丁重に埋葬してくれた。戦友でもなんでもない、生きている内に言葉を交わしたこともないシリルが御世に旅立てるようにと本心から祈ってくれた。そこには身分の違いなど介さない思いやりが確かにあった。

 

(19歳……いえ、18歳かしら?)

 

 長い手足と、経験の積み重ねを感じさせる奥行きのある双瞳が見た目の年齢を大人びさせているが、よくよく見れば齢の頃は私とほとんど変わらないことがわかる。まだ大人になりきれていない顔立ちから、少なくとも20歳には達していないと思えた。けれど、その落ち着いた佇まいは如何にも地に足がついた大人そのもので、どれだけの経験を積めばその歳でその域に達せられるのかと思わず問い詰めたくなる。王国選り抜きの家庭教師に教えを請うたとはいえ、しょせん受け売りの知識しか知らない私が逆立ちしても敵わない“生の体験”が身の内に充溢し、全身から自信となって溢れている。

 表面的ではなく確固とした根拠に裏打ちされた言動にこそ人は説得力を感じるし、そういう言葉こそ人を導くに足る力を持つ。この女騎士には人の上に立つ“格”を感じた。

 

(どうして、こんな英雄のような人が仲間から追い出されてしまうのかしら?)

 

 恭しく跪いて私をこの王国ガメニアの姫だと見事に言い当ててみせた女騎士は、名をクリスティアーナというらしい。ティアナと呼んでほしいと願った彼女は、なぜか家名を名乗らなかった。ミスリルらしき最高級の装備と手本のような騎士叙任の作法を見ても、歴史ある名家生まれで高い教養を備えていることは明らかだ。

 他者を慮る物腰は余裕があって柔らかいけど、貴族的な大仰さや優雅さはなく、物心ついた頃からの教育で研ぎ澄まされた武人的な洗練さや突き放すような厳格さはない。むしろ、互いに助け合おうとする細かい心配りと最低限の動作で最大限の効果を得ようとする無駄のない動きには、シリルのような平民の雰囲気を感じる。そのことから、ティアナはかつて人品卑しからぬ身分ではあったが、事情があって平民に格下げされてしまった家の出なのではないかと私は予想した。おそらくは武家だろう。彼女が幼い頃に平民になっていたのなら、これほどの武人が無名であることも、私が顔を覚えていないことも頷ける。あえて家名を口にしなかったことには理由があるに違いない。

 

(きっと、なにかあったんだわ)

 

 仲間から放逐されたと語る際、俯くティアナが見せた悲哀の欠片を私は見逃さなかった。何があったのかは想像するしかない。けれど、この実力と美貌だ。実家や以前の仲間との間で、さぞや不快な出来事が起きたのだろう。ティアナの真っ直ぐな正義感や誠実さからして、彼女がトラブルを引き起こす人間とは思えなかった。むしろ真っ直ぐ過ぎる正義感や誠実さが仇となったのかもしれない。不条理なこの世界では出る杭は打たれてしまう。ティアナなら尚さらだ。ともかく、傷心の女性、しかも恩人に対して今は不躾に尋ねるべきではないと思った。

 

(私は幸運だ。これほどの武人かまだ誰にも仕えていないなんて信じられない)

 

 話を聞けば聞くほど、ティアナには運命を感じずにはいられなかった。それと同時に、これほど有能な人材を野放しにしていた王国と、これほどの類稀なる逸材をまんまと手放したという彼女の元仲間に、感謝と呆れという相反する感情が募った。元仲間に追い出されたティアナには気の毒だけど、私にとってはこの上ない幸運を寄越してくれたも同然だから。

 今夜、大事な人たちを奪われてようやく理解した。私には“力”が足りていない。救いも、願いも、理想も、悪意を持った武力で潰されてしまえばひとたまりもないということを知った。力を伴わない声は存在しないに等しい。だけど、今の私にはその“力”を体現する強い味方ティアナがいる。それに、アルバーツという精神的な柱を失った近衛兵にとっても、彼女は必要不可欠な存在だ。

 

「私の馬をどうぞ、ティアナ隊長・・。隊のなかでもっともガタイの良いやつです。姫様とご一緒に乗って頂いても問題なく快走してみせるでしょう」

「しかし、グレイ殿の愛馬であろう、本当に良いのか?」

「構いません。姫様の馬車を牽いていた馬もおれば、父の軍馬もおります。余っているくらいですよ」

「そうか。かたじけない。グレイ殿のお言葉に甘えよう」

「いえ。隊長に跨ってもらえるなんて、こいつも喜びますよ。それと“グレイ殿”はやめてください。貴女が隊長なんです。姫様がそうお命じになったし、俺もその方がいいと思います。だから、俺のことはどうか副隊長とお呼び下さい」

「ああ、わかった、グレイ副隊長。新参者が指揮権を横から簒奪する形になって許してほしい。これからよろしく頼む」

「と、とんでもない!俺こそ、貴女のようなお美しい───じゃなくて勇壮な騎士のお傍に立てるなんて最高───じゃなくて、とても名誉なことです!」

 

 わははは、とアルバーツがいつに無く調子の高い笑い声をあげる。違和感があると思ったら、いつの間にか愛用の無骨なヘルムを脱いで素顔を晒していた。「近衛兵足るもの常在戦場。ヘルムはよほどのことがないかぎり外しませぬ」と堅苦しいことを言っていたのに。今はそれどころか、時おり手櫛で前髪をささっと整えている。ティアナがグレイから目を外した隙に、ああでもない、こうでもないと前髪をいじる。いじり終わったら顎周りを撫でてヒゲの濃ゆさをしきりに確かめている。

 隊長が戦死したのだから、順当に考えれば副隊長であったグレイが繰り上げされて隊長の役を担うはずだった。そこへ、命の恩人とは言え会ったこともない少女がやってきて隊長に任ぜられたのだ。任命したのは私だけど、そのことをグレイが面白く思わないのではないかと心配していた。けれど、ティアナはそんなグレイを気遣って角が立たないように接してくれている。私の心配は杞憂のようだ。でも、グレイのモジモジとした態度を見るに、もしかしたらそれ以上に厄介なことになっているような気がする。

 急に身なりを気にしだしたグレイの行動に首を傾げて、ふと彼の父親であった近衛兵隊長のアルバーツが彼を私に紹介した時のセリフを思い出した。『剣の技量は確かです。が、私に似らず生真面目で、二十歳を過ぎても交際の一つもしたことがない修練一筋の堅物です。婦女子との会話もろくにしたことがございません』。

 

(………グレイ、あなた……)

 

 「もっと遊びを教えるべきでしたなあ」とアルバーツの呆れ声が耳元にこだまする。私の心中の呟きが聞こえでもしたのか、はたまた私のじとっと細めた視線を察知したのか、グレイがハッとして背筋を伸ばすとわたわたと慌てて近衛兵たちに指揮を飛ばし始める。

 

「さ、さあっ!先はまだ長い!ティアナ隊長のもと、必ずや王都ウォキンガムに辿り着くのだ!」

「「「おうっ!」」」

 

 上擦った声に、近衛兵たちがいつも通りの気合の入った咆哮で応える。けれど、彼らが兜の下で茶化すように頬を綻ばせているのは明らかだ。

 アルバーツの采配で、私の近衛兵には血気盛んな若武者ではなく30代から40代前半の熟練兵が峻別されている。20代は、兵学校を主席で卒業した若き武人にしてアルバーツの息子でもあるグレイのみだ。彼らにしてみれば、私は自分の娘と同年代だし、グレイもまた長年慕っていた隊長の一人息子とあって他人とは思えない存在なのだ。そして、今年22歳になるグレイの目には、ティアナは年齢の近い絶世の美少女として映っていることは世間知らずの私にもよくわかる。

 遅れてきた思春期そのものの反応を隠しきれないグレイと、彼を温かく見守る近衛兵たちを見回し、私も思わずふっと微笑みをこぼす。それは安堵から生まれたものだった。親友、父親、隊長。私たちはそれぞれにとって大切な人を失った。絶望のとば口まで追い詰められた。まさに悪夢のような辛い夜だった。けれども、私たちは自分を見失うことはしない。誰にも私たちの心を完全に打ちのめすことは出来ない。なぜなら、私たちはティアナという新しく強い希望の光を得たのだから。

 宵闇が薄れ、東の空が白み始める。光差すその方角には、まさしく私たちが目指すガメニア王国の王都ウォキンガムが待っている。

 

(天国から見ていて、アルバーツ、シリル。貴方たちの死は、絶対に無駄にはしない)

 

 山脈を照らす曙光に拳をギュッと力ませる私の肩に、そっと手が置かれた。振り返れば、優しさを帯びたエメラルドグリーンの眼差し。この瞳はどれほどの不条理を前にしてきたのだろう。何度も何度も悔しくて悲しい思いに打ち据えられてきただろうに、それでも他人を思いやる心を手放さなかったティアナの眼差しが私をひたと見据えていた。

 形の良い朱色の唇が悠揚迫らぬ落ち着いた声音を発する。心を暖かく包むこむような響きに、意識せず“兄”という単語が想起される。

 

「姫様、まずは体制を立て直すことが先決です。ここから少し東南に進んだ穀倉地帯にメア・インブリウムという合同村があります。ほぼ街といって差し付けない賑やかで活気のある村です。そこへ行きましょう」

「ですが、私たちは一刻も早く王都へ行かねばならないことがあるのです。早駆けすれば一週間もせずに辿り着けるはず。立ち寄っている暇など……」

「当初の計画とは大きく狂っているはずです。馬車を破壊され、ほぼ全ての物資が失われました。食料や衣服から馬の餌料、予備の武器もです。剣も盾も馬車の下敷きになり、燃えてしまってもはや使い物になりません。近衛兵たちの装備もかなりのダメージを負わされています。糧食もなく装備も心もとないとあっては、どんなに士気が高くとも王都まで強行軍を続けるには不安が大きすぎます。メア・インブリウムを過ぎてしまうと規模の大きな村も街も望めません。補給と整備のチャンスはここだけです。『勇者』のクラスを持つ超人ならさておき、我々のような普通の人間は士気だけでは戦えません」

 

 “普通の人間・・・・・”?貴女が?

 どこの世界の普通の人間が飛来する矢の雨を叩き落とせるのだろう。全員の胸中に浮かんだ疑問を露と知らず、ティアナは説得の言を紡ぐ。

 

「幸いなことに、メア・インブリウムには腕のいい鍛冶屋もおります。一日あれば、人数分の剣を鍛え直すくらいは可能でしょう。一度仕事を頼んだことがありますが、相応の金さえ払えば良い仕事をする一端の職人です」

 

 ティアナの言うことはもっともだ。焦燥に逸って冷静でなくなっていた。僧兵の模造デミミスリルによる槍撃で近衛兵たちの剣盾や鎧はひどく破損させられているし、彼ら自身も生死をかけた戦いをなんとかくぐり抜けた直後なのだ。装備の修繕と合わせて、疲労困憊の彼らを休息させなければ、王都への道半ばで歩みが止まってしまう。そこを狙われてしまえば今度は抵抗できないかもしれない。メア・インブリウムが最後の補給のチャンスということも理にかなっている。記憶の地図を俯瞰すれば、たしかにこの村から王都への間には街らしい街はない。

 ティアナが持つ兵站の重要性への理解と地理への広範な知識について、何度目かわからない感心をして目を丸くする私に、ティアナが追い打ちをかけてくる。

 

「それに、姫様のお召し物も替えていただいた方がよいかと。そのような高級な衣服は間違いなく目立ちます。このままでは如何にも“裕福なご令嬢のお忍び旅”と宣伝してまわっているようなものです。そこへ護衛の少なさと装備の貧弱さを見れば、不届きな野盗や山賊が黙ってはいないでしょう。非礼な物言いになりますが、穀倉地帯と王都の間は不毛の一帯で、王国の治世があまり行き届いておりません。賊の隠れアジトもあるほどです」

「ティアナ隊長、そういえば勇者一行がそこを通行する際にそういった破落戸ならずものを退治したはずでは?」

「ん?ああ、たしかに去年に通りがかった際に山賊のアジトに遭遇して大立ち回りをしたが、周辺の治安のために駆逐してしまおうと言ってもハントも誰も耳を貸さずにすぐに立ち去ってしまったから中途半端になってしまって、」

「え?」

「ア゛ッ!?ち、違う!そういう噂を耳にしたまでだ!勇者一行による山賊退治は完全なものではなかったから、連中がまた息を吹き返している恐れは十分にある!いらぬ危険まで背負うことはないと言いたいのだ!」

 

 不自然に声を荒げたティアナが目をグルグルと瞠らせて力説する。その勢いに負けたわけではないが、「なるほど、たしかに」と顎に手を当てて納得する。馬車と装備を失った今、あえて高貴な身分であることを喧伝しながら王都へ向かうのは余計な危険に身を晒すことになりかねない。それを防ぐために身分を隠すような変装をすべきという進言は的を得ている。ついでに近衛兵たちも装備を一新するついでに服装を変えれば、私の命を狙う追手への目くらましにもなる。目立たない格好で大街道に出てしまえばこっちのものだ。

 だけど……一つ、気がかりなことがある。

 

「ティアナ、その、言いにくいのですが、私たちには先立つもの・・・・・が……」

 

 馬車はほぼ全て燃えてしまった、とティアナは言った。であれば、金品もまた同じ灰への運命を辿ったに違いない。王族とはいえ自分の領地を経営している身なのだから、この国の隅から隅まで貨幣経済体制が敷かれていることくらいはちゃんと知っている。代金を支払わなければ対価を得ることは出来ないのは自明の理だ。メア・インブリウムで服や剣がいったい幾らで取引されているのかまでは知らないけど、人数分を購入するとなるとそれなりの金額になるだろう。その証拠に、近衛兵たちも気まずそうな表情で互いに目を合わせている。庭師の次男坊から近衛兵隊長にまで努力で上り詰めた叩き上げのアルバーツならともかく、他の者たちは己が『剣士』のクラスであると神託を得たときから剣の腕一つを極めてきた。そんな彼らにしてみても、無一文の状態で放り出された経験などあるはずもない。

 自分のせいだ、と気落ちして肩を落とす。火急の件だったため、急遽荷物をまとめて少人数で出発したし、途中にどこにも立ち寄る予定はなかったから、非常時のためのお金はシリルがわずかに持っていただけだった。今考えれば想定不足にも程がある。家宰かさいの  はもっと準備をするべきと諫言してくれたのに、それを聞き入れずに飛び出してしまった。

 私が第三王女であることを知らしめて必要なものを徴出してしまうという手も考えられるけど、それは私の矜持が許さない。民草に理不尽を強いることはしたくない。それこそ山賊と同じになってしまう。そもそも、王家の身分をひけらかすような華美な装飾を私が好まなかったこともあって、私が王家の一員であることを証明できる物品は、ティアナが目にした馬車の毛氈くらいなものだ。それらをまるまる失ってしまった以上、私が王女であることを証明するものがなくなってしまった。というわけで、王女としてはとても情けない話なのだけれど、私はまったくの無一文なのだ。

 己の未熟を突きつけられて自己嫌悪に浸りそうになる。

 

「姫様、ご安心ください。私に一計があります」

 

 わだかまる負の感情を討ち晴らす力強いセリフに顔を上げれば、ティアナが不敵な笑みを浮かべて自信満々に胸を張った。ミスリルの胸当ての内側で豊かな乳房が鞠のように弾む。

 

「私は長らくパーティーの裏方をやってきましたので、資金繰りについては多少の心得があります。錬金術師のように無から有を生み出すことは出来ませんが、1から10を生み出すくらいはやってみせましょう。なに、一夜にして姫様を金満家にしてみせますよ」

 

 なんと贅沢な裏方がいたものだ、という近衛兵たちの心の声が聞こえた気がした。宝の持ち腐れもいいところだ。ティアナが属していたというパーティーには適材適所という考えが欠如していたのだろうか、と私たちは戸惑いを覚える。若干一名はティアナが身体を反らせたことでスカートから顔を出した白い太ももに気を散らされてそれどころじゃないみたいだけれど。

 でも、信じられる。ティアナは根拠もなくうそぶいたりはしない。大言壮語を言わない人間だからこそ、今のティアナの自信に満ちた笑みからはそれだけの説得力が滲み出ていた。

 

「他でもないティアナがそう言うのなら、信じましょう。皆も良いですね?」

「もちろん!いざ、メア・インブリウムへ!」

 

 無一文の私をお金持ちにしてみせるなんて、いったいどんな魔法を使う気なんだろう。頼りがいのある笑みを見せつけるティアナに、あらためてこの才知豊かな女騎士を叙任できた幸運に心から感謝する。ティアナがいれば不可能なんて無いと思える。

 そう、不可能なんて、ない。勇者だって倒せる・・・・・・・・かもしれない・・・・・・

 一度、勇者を見たことがある。この世界で唯一『勇者』のクラスを神から授かったとされる少年、ハント。

 国王であるお父様に挨拶をしにやってきたという伝説の勇者をひと目見ようと、私は上階の窓から彼を覗き見たのだ。最初、意外なほどに勇者が幼いことに驚いた。私とほとんど年嵩の変わらない少年だった。剣技をお父様に披露するために模擬試合を行ったときなど、その剣舞の冴えに大きく喉を鳴らしたことを覚えている。圧倒的なパワー、圧倒的なスピード、圧倒的な動体視力。でも、それまで・・・・だった。

 ハントは、一緒にいた少し年上の男の人に頼り切っていた。あれは兄だったのだろうか。少なくとも従者ではなかったようだった。ハントは、些末なことはそちらに任せて、自分は剣を振るってチヤホヤと褒め称えられることが嬉しくて仕方のないようだった。果てしなく強いのだろうけど、中身は未熟という印象だった。あれでは自分の力の使いみちも自分では判断がついていないかもしれない。彼がなんでも容易く両断する業剣なのだとしたら、兄のような男の人は鞘のようなイメージだった。あの男の人がいなくなってしまえばどうなるのかと一抹の不安すら覚えたことを思い出す。ハントに比べれば、強くて、多才で、人格者でもあるティアナの方がよっぽど勇者に相応しい。

 

(ティアナなら、たとえお兄様が切り札・・・を───勇者・・を差し向けてきたとしても、対抗できる)

 

 お兄様───ミネルヴァ第一王子は、事あるごとに勇者一行に支援の手を差し伸べてきた、実質的なスポンサーだ。

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