Her name is Charis! !

【ブリジットという名の少女】ブリジットマジ天使 第二部【三次創作】

 ←明日から何を糧に生きて行けというのか!&設定資料 →ブリジット三次創作のタイトル決定&ガンスリ劇場(主Ver.)
仕事前に更新。ちょこちょこ書き進めてたらなぜかせっかくバーサーカーより早く完成してしまった。


<第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編
ちょっとしたコネタ
ヒャーリスプロフィール


<第二部>
第一話 イタリア到着の日!【さらばメシマズドイツ】


♂リヒャルドサイド♂


義体は寝ている時に涙を流すという。素体―――まだ人間だった頃の幸せな日々を追想し、少女たちはもう二度と手に入ることのない美しい思い出に涙するのだそうだ。なんとも胸を打つ話だ。それを直視する担当官は、きっと自分たちが犯した罪の重さに身震いしているに違いない。

「そう考えれば、君の担当官になれた僕はかなりの幸運なのかもしれないな、ヒャーリス」

そう呟きながら、僕は隣の座席でヨダレを垂らしながら爆睡するヒャーリスの口元を拭ってやる作業に戻る。せっかくツェンダー夫人に頂いた高級そうなケープにヨダレをつけては大変だ。
本家の義体の情報は断片的なものしか知らないが、ヒャーリスほど神経が図太い義体はそうそういないに違いない。彼女は機内食のサンドイッチをぺろりと平らげて満足したのか(僕の分も食べられた)、外の景色を眺めて一頻り子どものように騒いだらさっさと眠ってしまった。時折ギリギリと歯ぎしりをしながら寝言を漏らす様子は、とてもサイボーグには見えない。監視の目から逃れて気が楽になったのだろう。

「んがが……もう……もうメシマズドイツはイヤだぁああ……」
「ああ?失礼な奴だな、このクソガキは。こいつも元はドイツ人のくせによぉ」
「ははは、仕方ないさ。今から行くイタリアに比べれば、我らが母なるドイツの食文化は軍用レーションにも劣るよ」
「そんなもんなのか。じゃあ、楽しみにしとくぜ」

後ろの座席から顔を出してきたブランクをやんわりと諭す。
僕は学生時代によくイタリアなどに海外旅行をしていたから身にしみているのだが、ドイツの食文化レベルはその経済規模に比べて圧倒的に低い。我々ドイツ人はどうしても合理的に物を考えがちで、食に関しては栄養素を吸収するための行為に過ぎないと見ている。夕食も冷たいパンとハム、チーズだけというのも珍しくはない。「寝る前に暖かいものを食べると血液の巡りがよくなって寝つきが悪くなり身体に良くない」というのが理由で、僕も外国に行くまではそれに何の疑問も挟まなかったものだ。
ヒャーリスがなぜドイツの料理が不味いと自覚しているのかはわからないが、不味いものは不味いのだから仕方がない。イタリアに着いたら豪勢な夕食を食べさせてやろう。きっと感動のあまり「ありがとうリヒャルド様大好きです」と抱きついてくれるかもしれない。うん、そうしよう。
素敵な計画を立案しつつ涎を綺麗に拭ってやれば、見目麗しい美少女の寝顔の出来上がりだ。黒で統一したカットソーワンピースとチュールスカートはアルフォドの妹のお下がりらしいが、なかなか良く似合っている。こうして静かに寝息を立てている様子はまるでおとぎ話の眠り姫のようだ。寝返りと共に漏れる口気はデザートで食べたバニラアイスの香りがして、その甘さについ顔を近づけてしまう。

「―――リ、ジット」

不意に、彼女の長いまつげが震えたかと思うと一筋の涙が零れた。ぎょっと目を見開く僕の眼前で小さな唇が再び震えるように囁く。

「……ブリジット……会いたい、よ……」
「ヒャーリス……」

ブリジット・フォン・グーテンベルト。ヒャーリスが造られる際にモデルとされた、社会福祉公社最強の義体だ。そして、身寄りも仲間もいない孤独なヒャーリスにとっては唯一の肉親的な存在でもある。相手の方はヒャーリスのことなど知らないだろうが、少なくともヒャーリスはそう考えているようだ。
再調整をされる前に熱っぽくブリジットへの想いを語った彼女の気恥ずかしげな表情を思い出し、涙をそっと拭ってやる。まるで小悪魔のようにお転婆に振る舞いながら、彼女は内心で孤独と不安に怯えているのだろう。ある日突然人間を辞めさせられ、周りを見渡せば血の繋がりを持った家族も、同じ境遇を慰めあう仲間もいない。それはとても寂しいことに違いない。普段の必要以上の明るさは、その寂しさから目を反らすための逃避なのかもしれない。
だから、彼女は夢の中で未だ目にしたこともないブリジットの姿を探している。彼女の姉とも言うべき、同じ姿をした少女を求めている。
その健気さに思わず潤んだ涙腺を押さえ、堪える。ヒャーリスが必死に堪えているのに、担当官の僕が泣くわけにはいかない。

「けっ。なーに儚げな美少女気取ってやがんだこのクソガキ様は。さっきまでヨダレだらだら流しながらこのホッペタ汚しまくってたくせにってィイデデデデデッ!?こ、こいつ噛みつきやがった!?目を覚ませリヒャルド!!こいつタヌキ寝入りしてるだけだぞ!!」

叶うのなら、ヒャーリスをブリジットに会わせてやりたい。ブリジットには彼女の姉となり、友人となって欲しい。僕が埋められないヒャーリスの心の隙間を満たしてやってほしい。
だが、ヒャーリスがブリジットと相対するということは、否応なく敵同士として戦うことを意味する。一方はイタリアの極秘暗殺兵器で、一方はその技術を非合法な手段で盗用して造られたドイツの極秘新型兵器だ。
会わせてやりたい。でも戦わせたくはない。いったいどうすることが、ヒャーリスにとって一番いいことなのだろうか……。

「現実を見ろリヒャルド――――!!」



「すいません、ブランク少尉。夢の中でゴリラ味のケーキが目の前に出てきたもので、つい齧り付いちゃいました」
「ゴリラ味ってなんだよ!指が千切れるかと思ったぞ!!」
「チッ。浅かったですか」
「聞こえたぞクソガキ!また再調整されたいのか!!」
「聖闘士(セイント)には同じ技は二度通用しないのです」
「何いってんだこいつは!リヒャルド、お前の躾がなってないせいだぞ!ちゃんと調教しとけよ!」
「わかったわかった。いいから静かにしろよ。ドイツ軍の沽券に関わるぞ」

到着口から広大な空港内を繋ぐシャトルライナーに乗ってメインターミナルに向かう。その狭い車中で、軍服を着た厳つい巨漢が矮躯の美少女にからかわれている様子はかなり目立つ。さっきからクスクスという笑い声が聞こえてきてとても恥ずかしい。YouTubeにでも投稿されようものなら全ドイツ軍の笑いものだ。
額に手を当てて頭痛に堪えていると、ひょいと黒真珠のクリクリとした瞳が僕の顔を覗き込んでくる。

「どうされました、リヒャルド様。そんなfucking Limey(クソったれなイギリス野郎)みたいな沈んだ顔してちゃ幸せがPaddy(アイルランド野郎)のところに逃げちゃいますよ」
「半分は君のせいなんだけどね。でも、まあ……」

言って、彼女を見る。急に見つめられて「なんですか?」と不思議そうに小首を傾げるヒャーリスは、一瞬一瞬を全力で楽しんでいるかのように生命力に溢れて見えた。胸の凝りを溶かす太陽の微笑みに、少しだけ気が楽になる。

「君が元気そうなら、それでいいさ。それと蔑称を使うのはやめなさい。怒られて問題になったら困るんだから」
「了解しました、担当官様。I do not look down on niggers, kikes, wops or greasers. Here you are all equally worthless!(黒豚、ユダ豚、イタ豚を、私は見下さん。すべて平等に価値がない!)ってことですよね!」
「おい、ちっともわかってねえぞコイツ」
「ははは……」

乾いた笑みを浮かべるしかない。なにしろ僕自身が勢いに任せて『君はそのままが一番いい』と認めてしまったのだ。そのせいでヒャーリスには強く言えなくなってしまっている。実際、いたずら好きの妖精のようなとらえどころのない性格はとても魅力的だと思う。しかし、このままではダメだという自戒の念がないわけではない。
初の実戦任務、しかもブリジットのいるイタリアに来れたことに喜んでいるのか、ヒャーリスのテンションは何時にないほどに高い。士気の上昇と言えば聞こえはいいが、肝心の緊張感が皆無ではキャンプ前日の子どもと一緒だ。今回の作戦では命を落とす危険もあるのだ。担当官として、たまには厳しく諌めなければなるまい。
コホンと一つ咳払いをして威厳を強調する。

「いいかい、ヒャーリス。これは正式な任務なんだ。君はもっと緊張感を持ってだね、」
「おい、リヒャルド」
「なんだ、今大事な話をしてるんだが」
「シャトルライナーはとっくに到着してるし、クソガキはさっさとメインターミナルに突っ走っていったぞ。荷物を全部俺に押し付けていきやがった」
「すまん荷物頼んだ!!」
「お前もかよ!!」

軍服が乱れるのも構わず全力疾走で追いかける。まったく、あのお転婆娘め!どうしてこう落ち着きがないんだ!!

「イタリアにぃいいいいいい着いたぞぉおおおおおおおおおお!!!!」

聴きなれたソプラノの大声が群衆のど真ん中から張り上げられた。ああ、頭が痛い。我が従兄弟よ、お前のブリジットも最初はこんな感じだったのか?それとも僕のヒャーリスだけなのか?


♀ヒャーリスサイド♀


「イタリアにぃいいいいいい着いたぞぉおおおおおおおおおお!!!!」

空港のメインターミナルのど真ん中で両手を振り上げて大声で絶叫する。大勢の目線が俺に集中するが、どいつもこいつもほっこりとした可愛いイキモノを見る視線を向けてくるばかりで咎めてくることはない。当然だ。だって今の俺は『ブリジットという名の少女』の主人公、ブリジットそっくりの美少女―――ドイツ初の義体『ヒャーリス』となっているからだ!!
この姿になってイタリアに来るまで一悶着やら二悶着やらあったのだが、それは華麗に流そう。俺は過去に囚われないのだ。大事なのは今!そしてブリジットに会うことさ!ブリジットの結末を知っている俺としては、是非ともブリジットをハッピーエンドに導いてあげたい!さあ、ブリジットという名の少女の舞台となるイタリアに辿り着いたのだし、さっそく張り切って行こう!!!
と思って足を踏み出したら、肩に置かれた義手に動きを止められた。

「こら、ヒャーリス!一人でどんどん先に行ったら危ないだろう!迷子になったらどうするんだ?それに女の子が大声で騒いじゃダメだ!」
「リヒャルド様は私をなんだと思ってるんですか。迷子になんてなりませんよ。Kiss my ass(余計なお世話だ)です!」
「おや、僕に『一人にしないで』と言ったのは誰だったかな?」
「う……。それは、まあ、そうですが」

むう。それを言われると言い返せない。芝居だったとは言え、自分の言葉には責任を持つべきだし。しかし、我ながら恥ずかしいことを言ってしまったなあ。思い出すと顔が熱くなる。
唇を尖らせて黙った俺の頭に優しく手が置かれる。見上げれば、子どもを諭すような目が「返事は?」と言ってきたので、渋々「わかりました」と呟いた。この間の報復とでもいうのか。く、悔しい。
俺を咎められるのは今のところこの人くらいだ。リヒャルド・ウェーバー少尉。ドイツ連邦共和国の元KSK(ドイツ陸軍特殊戦団)のエリート軍人で、ドイツ初の義体である俺の担当官をしてくれてる、ちょいとイケメンな29歳だ。でもサングラスは異常なまでに似合わない。なんでもアルフォドさんの従兄弟にあたるらしい。世間は狭いね。
だけどリヒャルドさんはアルフォドさんにさらにアルフォドさんを混ぜ合わせたような人間だ。要するに、義体との線引きが出来ていないのだ。別名を過保護ともいう。ドイツ人らしい生真面目で頑固な面も相まって融通が利かないせいで、俺が止めてやらなけりゃもうちょっとで軍法会議行きになる危うい場面もあった。俺の偽の身分証明書の名前を『ヒャーリス・ウェーバー』としたところからして、俺のことを妹のように思ってるに違いない。
義体の俺が言える身分ではないかもしれんが、割り切るところは割り切らないと後でダメージがでかいと思う。そういうところが危なっかしくてなんだか放っておけないんだよね。妹も楽じゃないよ。

「なに二人して突っ立ってんだ。ほら、大使館から迎えの人間が来てるぞ。急げよ!」
「ああ、悪い。今行くよブランク」

車両待機場の方から声を張り上げて来るのは、ブランク・ヘンデル少尉。通称ゴリラだ。自他ともに認める脳筋兵士で、三人分のキャリーケースを担いでいても平然としてる。さっき飛行機の中で眠ってたらなんだか失礼なことを言われた気がしたから思い切り噛み付いてやったんだが、指の太さにびっくりした。今回の作戦では俺の副担当官として着いてきた。

「さあヒャーリス、手を」

ゴリラに返事を飛ばしたリヒャルドさんがひょいと手を差し出してくる。すご~く嫌な予感がする。

「……なんですか、その手は」
「君はイタリアに来てからどうにも落ち着きがないからね。担当官としては不安なんだ。だから、手を繋いでおけば安心だ。幸いにも僕はイタリアへは何度も来たことがある。迷子にはならない」

差し出された手を見た途端、『担当官に絶対服従』という条件付けが働いて意思とは勝手に手が伸びる。子ども扱いされるのは少し癪だ。とは言え、ちょっと調子に乗りすぎたかもしれないという自覚もある。今回のカタラーニ博士亡命作戦は俺の目的のためにも大事なものだし、リヒャルドさんをあんまり困らせるのも気の毒だ。ここは素直に従っておいてやろう。
渋々リヒャルドさんの手を握れば、俺の手より一回りは大きい手のひらにぎゅっと包まれる。人肌の温度に勝手に心臓が跳ね上がるのがなんだか腹立つ。ドキッとする時はね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。孤独のグルメでもそう言ってたし。条件付けってこういうところが面倒くさい。

「さあ行こうか、お姫様」
「……そんなSon of a bitch(淫乱野郎)な台詞吐いて恥ずかしくないんですか」
「はは、君が相手なら平気さ」

そう言ってからかうように笑うと、俺の手を引っ張って歩き出す。俺の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれるのがさらに腹が立ってドキドキしてまた腹が立つ。俺がイタリアがアウェーだからっていい気になりやがって!ていうか、リヒャルドさん段々俺の扱いに慣れてきた感があるよね。余計ムカつくわ!
素面で甘いセリフを言えるのは外人さんならではなんだろうが、中身が純日本人である俺にはこっ恥ずかしくて堪らない。歯が浮きそうというか、こそばゆく感じるのだ。これも文化の違いというやつか。ううう、そわそわが止まらないぃい!

「おーおー、仲良く手を繋いじゃって仲睦まじいことで。つーか、リヒャルドが手を繋ぐと大人しくなるんだな。まるで首輪付けられた犬っころみたいだぞ、クソガキ。可愛いところもあるじゃねえか!」
「フシャ―――ッ!!」
「ぎゃああまた噛み付きやがったああああ!!!」

ゴリラは大人しくバナナでも喰ってろ!!ジャングルへ帰れ!!バーカバーカ!!
む?なんだか視線を感じるぞ。誰だこのスーツ着たアゴ髭のおっさんは。

「ほお、この少女が我が軍初の義体ですか。なんというか、その……そう、パワーに満ち溢れていますなぁ。ははは……」
「ご、ご心配なく、グラウン部長。こう見えても任務はしっかりこなせますので。ほら、ヒャーリス。こちらはローマのドイツ大使館の職員で、駐在武官のアウフシュナイター大佐の補佐をされているベネディクト・グラウン部長だ。ご挨拶なさい」

こう見えてもってどういう意味ですかね、リヒャルドさん。聞き捨てなりませんね。
まあ、その話は後でじっくりしようじゃありませんか。今はとりあえずこのグラウンさんに好印象を与えておこう。

「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません、グラウン様。ヒャーリス・ウェーバーと申します。今回の作戦ではグラウン様を始め大使館の方々に多大なるご協力をして頂くことになります。初めての実戦で至らぬ点もあるとは思いますが、この身に託された祖国の名誉にかけて必ず成功を収めますので、何卒最後までよろしくお願い致します」

両手をヘソの前で組んでしっかりお辞儀をしておく。味方が多いに越したことはない。イタリアで動きまわるのなら尚更だ。お辞儀をやめて見上げると、グラウンさんはポヤーッと惚けた顔でこっちを見てた。うむ、反応は上々だな。だけどなんでリヒャルドさんまでボケっとこっち見てるんだ。

「―――あ、ああ。よろしく、ヒャーリス。私がベネディクト・グラウンだ。駐在武官のヘルマン・フォン・アウフシュナイター大佐の補佐として、イタリアでの邦人―――特に軍人の活動を補佐している。“合法でない”活動も含めてね。君の存在は極秘のため、大使館職員にも君のことは教えていない。何かあれば私に直接言ってくれ」
「承知致しました。ご好意に感謝致します」

うむ、と満足そうに何度も頷くアゴ髭。
俺の身分は大使館でもリヒャルドさんの妹扱いらしい。補佐官用の宿舎の一角を義体整備用のピットガレージにこっそり改造してそこで寝泊まりするのだという。問題は、その中にシューマン大佐のスパイが紛れ込んでいないかってことだな。もしいたとしたら、大使館や宿舎にいる時はまた再調整されたフリをしなくちゃいけなくなる。あれ面倒くさいから嫌いなんだよなあ。

「……リヒャルド少尉?どうかされたのですか?」
「へ?あ、いや、普段とのギャップもまたいいなとちょっと萌えを感じておりまして、」
「は?」
「ああいやいや何でもありません!ちょっと疲れが溜まっていたもので!さあ、大使館に行きましょう!!」
「すんません、グラウン部長。ドイツ始まって以来の担当官ってことでちょいとストレス溜まってるんですよ、こいつ」
「は、はあ。それはお気の毒に。では、そちらの車にお乗りください。イタリアではこれがあなた方専用の車となります。私は別の車で先に向かっています」

何だかんだ言ってリヒャルドさんも落ち着きないじゃん。まあ、この一週間作戦の準備で忙しかったしな。
さて、俺たち専用の車とな?極秘任務とはいえ専用の車を用意してくれるとは高待遇すぎるんじゃなかろうか。どれどれ、ちょっと拝見―――うおっ!?すげえ、アウディA8じゃねえか!!最高級スポーツセダンとか専用にしてもらっていいの!?

「感謝します、グラウン部長。じゃあ、ブランク、いつも通り運転頼む。ナビは僕がしよう。ローマの地理は詳しいんだ」
「あいよ。ったく、少しは運転の練習してんのか?」
「ボチボチね。この間はバンパーがいつの間にかなくなってたが」
「おいおい」

すげー。大使館車両ってこんないいの使えるんだ。V8エンジンの4.2FSI、しかも駆動系統はフルタイム4WDとしては世界最高性能のクワトロを装備ときたもんだ!非対称のダイナミックトルク配分システムだから走りも最高なんだよねこの車。ガンメタ塗装とかよくわかってるじゃない!ああ、運転してみてえ!!アウトバーンぶっ飛ばしてみてえ!!!
などと思っていたらリヒャルドさんは自ら運転を辞退してゴリラに譲った。なんともったいない。

「リヒャルド様は運転されないのですか?」
「あー、その、僕はちょっと運転に自信がなくてね」

などとそっぽを向いて後頭を掻きだした。義手だから運転できないのか?でもそれ以外の日常生活はちゃんとこなしてるみたいだしなあ。

「ちょっとも何もあるかよ。こいつに車の運転は絶対させられねえのさ。天才的に運転が下手なんだ。というか、機械全般が苦手なのさ。豆粒みたいなこいつの自家用車も今じゃイラクで自爆テロに使われたみたいにボロボロなんだぜ?」
「ぶ、ブランク!」
「What the fuck!!(んなアホな!)そんなのでよくKSKに入れましたね、リヒャルド様」
「こいつはポイントマン(前方全域の警戒制圧要員)としてはKSKでもトップクラスだったんだよ。銃撃戦じゃ右に出る奴はいなかったんだ。まあ、こいつが運転する車には誰も乗りたがらなかったが。そうそう、日本の駐在武官がKSKに視察に来た時に知らずにこいつの運転するジープに乗っちまった時はもう傑作でな!?」
「ブランク、もういいだろう!その話は勘弁してくれ!僕はちゃんと練習してる!それでいいじゃないか!」

顔真っ赤にして必死に誤魔化そうとしているあたり、よほど下手くそなんだろう。なんでもできる完璧人間かと思ってたらそういう苦手分野があったんだな。いいじゃない、可愛げがあると思うよ。
でも、もったいないなあ。代われるのなら俺が運転したいよ。グレードはレギュラー仕様か。ますますもって気に入った。そのくらいのグレードの方がハイパフォーマンス仕様のS8なんかよりチューンのしがいがある。S8はたしかにV10エンジンでスポーティだけど最高グレード過ぎてイジる余地がないからつまらんのだ。ふむふむ、こいつはノーマルチューンなのか。見た感じ、防弾ガラス以外は特に改造されてないな。足回りもノーマルのままか。ホイールも純正のままじゃあ、全力のパフォーマンスは出せそうにない。ホイールも要交換だな。こいつはいじり甲斐がありそうだ!大使館のガレージ使わせてもらって改造しまくってやる!

「……君は車が好きなのかい?」
「そう見えますか?」
「車を見ながらヨダレを垂らしてたら誰だってそう思うよ。ほら、口を出しなさい」
「んむぐぐ」

おお、いつの間に。なんかそのハンカチ俺のヨダレでベトベトになっちゃったな。申し訳ない。
そして何を隠そう、俺の趣味は車いじりなのだ!ヘっヘっヘっ、腕がなるぜ!

「……何を企んでいるのかは怖いから聞かないけど、無茶をしたらダメだぞ、ヒャーリス」
「サー、イエッサー!!」
「だから絶対わかってねえぞコイツ。ずっと手を握ってろよ。もしくは首輪でもつけとけ」
「そ、そういうプレイは僕の趣味じゃない!」
「………」


♂リヒャルドサイド♂


「ブランク、もういいだろう!その話は勘弁してくれ!僕はちゃんと練習してる!それでいじゃないか!」

僕の必死の叫びに、ブランクが「へいへい」と肩を上げて鼻を鳴らした。これでも気にしているのだ。愛車の日本製のミラはもはや見る影もないほどにボロボロになってしまったが、それでもまだ一年持っている。新記録更新中だ。
だがブランクが余計なことを言ったせいでヒャーリスに格好の悪いところを見せてしまった。これでは威厳どころの話ではない。ゴリラには人間の機微が理解出来ないのか。

「ホイールはAEZのForgeAにして……車高もガンガン下げて……ガラスもフルスモークにして……ブレーキパッドもスポーツディスクパッドにして……マフラーもスーパースプリントにしてサイレンサー外して爆音出すようにして……ボトムラインにもエアロパーツでサイドスカートつけて……」
「ひゃ、ヒャーリス?」

なにやらヒャーリスが車を食い入るように見つめながら呪文をぶつぶつと唱えだした。機械には詳しくないからよくわからなかったがおそらく車関係の言葉だろう。グラウン部長から借り受けた車をつぶさに観察するその瞳はキラキラと輝いている。まるでショーウインドウ越しにオモチャを見つめる少年のようだ。うわ、ヨダレまで垂れてるじゃないか。
もしかして、ヒャーリスはこういう車を見るのが好きなのだろうか。

「……君は車が好きなのかい?」
「そう見えますか?」
「車を見ながらヨダレを垂らしてたら誰だってそう思うよ。ほら、口を出しなさい」
「んむぐぐ」

ハンカチで口元を拭ってやる。すっかりベトベトになってしまったが、まあヒャーリスのだから特に嫌ではない。とは言え、彼女の趣味を発見できたのは喜ばしいことだ。義体の趣味嗜好を知ることは担当官にとって重要なことだと思う。車好きというのは女の子らしくない趣味ではあるが、ヒャーリスらしいと言えばらしい。車を買い与えるほどの余裕も権限もないが、眺めさせるくらいなら問題ないだろう。だが……。

「フロントバンパーもヘッドライトもドアミラーも変えて、ステアリングホールももっとかっこ良くしてインパネもシルバーに塗ったりなんかしてナンバープレートもフレームをメタル素材に変えて電飾つけて、それからそれから……ふひひひ……」

自分が目を据わらせながら独り言を延々と漏らしていることにおそらく気付いていないのだろう。ニヤニヤとした笑い方が「とてつもなく嫌な予感がするぞ」と第六感をひしひしと刺激している。

「……何を企んでいるのかは怖いから聞かないけど、無茶をしたらダメだぞ、ヒャーリス」
「サー、イエッサー!!」

本当に大丈夫だろうか……。ふ、不安だ。イタリアの担当官たちよ、お前たちはこういう時はいったいどんな対処をしているんだ?はあ、相談できる先達がいないというのはつらいな。少しだけヒャーリスの気持ちが理解できた気がする。

「だから絶対わかってねえぞコイツ。ずっと手を握ってろよ。もしくは首輪でもつけとけ」
「そ、そういうプレイは僕の趣味じゃない!」
「………」

い、いきなり何を言い出してるんだこのゴリラは!変態め!ジャングルに帰れ!!



「ブランク少尉、少し寄り道して頂けますか?」
「あん?どうした、小便でもしたいのか?」
「黙ってろブランク。どこに行きたいんだい、ヒャーリス。お腹でも減ったのかい?」

ローマ市内にあるドイツ大使館に向かう途中、運転席と助手席の間から顔を出したヒャーリスが寄り道を要求してきた。女の子にとんでもないことをのたまったブランクを黙らせて、助手席に座った僕が尋ねる。大使館に着けば、彼女の自由はまた制限される可能性がある。ちょっとくらいはワガママを許してやってもいいだろう。
しかし、満面の笑みを浮かべた彼女が寄越した要求はとんでもないものだった。

「社会福祉公社の本部の前を通って欲しいのです」
「「なにいいいい!!??」」


♀ヒャーリスサイド♀


「頭を下げるんだ、ヒャーリス。見られるとまずい」
「ったくよぉ、冗談じゃないぜ。着いて早々敵情視察なんて常識はずれもいいところだ」
「どうせいつかは公社の偵察はしなければならなかったんだ。早くに済むと思えばいいだろう。よし、少しだけスピードを落としてくれ。不自然でないようにな」
「あいよ。ったく、注文が多いお客さんだぜ」

リヒャルドさんとゴリラが前を見据えながら互いに目を合わせず会話をしてる。その押し殺した小声を耳にしながら、俺はこっそりと目だけを覗かせて窓の外を見た。
そこには、夜の帳が落ちてすっかり暗くなった世界に、荘厳な存在感を放って居座る巨大な修道院が広がっている。二人を驚かせてしまったが、社会福祉公社の本部はローマ郊外にあるからちょっと寄り道すれば見ることが出来る。お願いを聞いてくれるかは不安だったが、リヒャルドさんがゴリラを説得して何とかなった。リヒャルドさんには感謝してる。
それにしても、でかい。ひたすらでかい。さすがは社会福祉公社の本部だ。この中には演習場やら狙撃場まで揃ってるらしいからその敷地の広さが窺える。東京ドーム何個分なんだろう。

「この中に―――この中に、ブリジットがいる」

口腔内で静かに呟けば、すぐそこにブリジットがいるという実感が湧いて全身をゾワゾワした武者震いが走る。腹の底が高揚感でムラムラして熱くなる。動悸と呼吸も加速度的に早くなってきた。ブリジットが近づいている、そんな感じがする。
ようやくだ。ようやく、こんなに近くまで来たぞ、ブリジット。今は敵同士だけど、必ず君を助けよう。そして、最高のハッピーエンドを迎えさせるんだ。それまで、どうか待っていてくれ。

「対向車が来た。公社の人間かもしれん。そろそろ怪しまれるぞ」
「わかった。ヒャーリス、もういいかい?」
「はい、満足しました。ありがとうございます、リヒャルド様、ブランク少尉。この御恩は絶対に忘れません」
「クソガキのくせにやけに殊勝じゃねえか、気持ちわりいな」
「気にしなくていいぞ、ヒャーリス。さあ、大使館に行こう」

ゴリラがアクセルを踏めば、対向車はあっという間にすれ違った。振り返れば、その“黒のアルファロメオ”は公社の門を潜って行った。公社の関係者だったのだろう。
気づけば、動悸も呼吸も収まっていた。なんだかあのアルファロメオがすれ違う時がピークだった気がする。気のせいだろうか。


♀?????サイド♀


「……アルフォドさん、今の車は?」
「大使館ナンバーだったな。乗ってるのはドイツ人みたいだった。こんな郊外を通るなんて珍しいな。気になるのか、ブリジット?」
「……いえ、別に」

なんだったのだろう、今の心臓の震えは。胸を押さえれば、まだ微かにドクドクと早鐘を打っている。あの大使館の車とすれ違う時が一番動悸が激しかった。
気にはなったが、アルフォドに心配をかけたくなかった。すでに俺は任務中にテロリストに腹を撃たれて気絶するという醜態を晒してしまっている。これ以上の失態を犯すのは悔しい。それに、公社の門を潜れば異常はすっかり鳴りを潜めた。もう大丈夫だ。
車から降りれば、親友たちが待っていてくれた。

「「おかえり、ブリジット」」
「ただいま、トリエラ、リコ」

二人の笑顔を見ると安心する。だけど、リコを見るとなぜか涙腺が熱くなるのを感じる。なぜなのだろう。
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>上条信者さん
お待たせしました第二部です。暴走列車ヒャーリスはありとあらゆる欝フラグを破壊してハッピーエンドへ至る一本道を踏み固めていきますよ!お楽しみに!

凄いww 

一斉投稿ですかぁ?感想が書ききれんではないかwww

ブリジット側も何かを感じているようですね、今から楽しみです。

 

「僕のヒャーリス」発言とか「首輪」についての過剰反応とかニヤニヤしすぎて自分の顔が残念なことに(笑)
リヒャルドが頼んだら内心はどうあれ普通にしてくれそうではありますが。
ブリジットとのすれ違いというのも良い展開です。
二人が対面するのはいつの日か。
次回の更新も楽しみに待っています。

 

>悦さん
最近、よく筆が進みます。何かに背中を押されてるみたいです。これが神が降りたという状態なのか。詰まって苦戦してた数か月前が嘘のようです。
ブリジット視点を書く時は自分でもドキドキしてしまいました。僕なんかがブリジットを操っていいのかと緊張しますね!
同じ姿だからなのか、それとも同じ世界から来たからか、互いに何かを感じているようです。これが後々フラグになるのかは……僕の背中を押す神のみぞ知る。

>ふぉるてっしもさん
リヒャルドさんは完全にガンスリ劇場のアルフォドさんになってますねwwwあの担当官にしてこの担当官あり。血縁関係とは恐ろしいものです。
>普通にしてくれそう
僕もそんな気がしますwwwでも後が怖そう……。
さてさて、本人たちが気付かない間に邂逅を果たしましたが、果たして二人が面と向かって対面するのはいつの日になるのか。どのような会話が繰り広げられ、ヒャーリスがどこまで暴走するのか……それはその時までのお楽しみ!!

 

せっかくバーサーカーから来ましたが、白銀もアナタの作品だったんですね!気付きませんでした!
それにブリジットの三次創作まで・・・・・!
どれも楽しく読ませていただきました。現在で更新チェックしてる小説のトップスリー独占です!
ブリジットという名の少女は出だしからシリアス全開で鬱になりそうだったので敬遠していたのですが、今から読んできます。が、本家さんの方にはヒャーリスが居ないのだと思うと、物足りないというか何というか。

 

>っpさん
トップスリー独占!?うほっ!嬉しいこと言ってくれるじゃないの!ありがとうございます!!
『ブリジットという名の少女』は本当にオヌヌメですよ!ぜひぜひ読んでみてください!たしかに欝になりますが(笑)、最後には何とも言えない満足感と読了感を満喫することができます。ヒャーリスが紛れ込んだら全部台無しになっちゃうようなシリアスにどっぷり浸ってくださいねwww
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