Her name is Charis! !

Her name is Charis!! 第二部 第二話 後編

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またまた仕事前の更新。見直ししてないから流れに齟齬があるかもしれない。でも書くことが大事だと思うから書き続ける。



♂リヒャルドサイド♂

「ああ、お嬢様。こちらは補佐官のウェーバー少尉とブランク少尉、そしてウェーバー少尉の妹です。紹介しましょう、こちらはアウフシュナイター大佐のご息女のマルガレーテ様で―――」

隣でブランクが息を呑む音が聞こえた。それも仕方ないほど、彼女の容貌は素晴らしかった。年齢は22歳かそこらだろう。あらゆる所作に張りのある若々しさが見える。しかもただ美しいだけでなく、地に突き立つ柱のように姿勢よく佇む姿からは確固たる意志の強さが窺えた。そういう意味で、マルガレーテ・フォン・アウフシュナイターは我が祖国の精神をもっとも純粋に表現した女性かもしれない。さすが大佐のご息女なだけはある。
はたと、彼女の視線が僕だけに向けられているのに気付いた。なんだ?

「ウェーバー様……素敵……!」
「は?」

想像通りの高い音域の声が熱っぽく囁かれた。周囲が呆気にとられる中、見る間に顔を上気させたマルガレーテがグラウン部長を押しのけてズンズンと近づいてくる。規則正しい足音は父親とまったく同じで、なぜか威圧感を覚える。
目鼻立ちのはっきりとした美顔がずいと僕の眼前に近づく。背はヒャーリスより少し高いくらいだが、剣刃のような賢しげな輝きの瞳はまったく別物だ。そのギラつく瞳が、狙った獲物は逃がさないと宣言している気がした。

「ウェーバー少尉、ファーストネームはなんというの?」
「り、リヒャルドです。マルガレーテさん」
「マルガレーテ、でいいわ。それで、リヒャルド少尉はしばらくこの館に滞在されるのかしら?」
「期間は正確には決まっておりませんが、数週間、長くても一ヶ月程度かと……」
「あらそう。時間はあまり残されていないのね。その方が燃えるわ」
「それはどういう意味で……?」
「ふふ、わかっているくせに。ところでリヒャルドは夕食は済ませたのかしら?もしまだなのだとしたら、これから私とご一緒しない?」

いつの間に呼び捨てで呼ばれるようになっていたのかわからないが、それを不快にさせない積極性はマルガレーテの長所だろう。口紅を塗っていないだろうに真紅に艷めく唇が誘惑するように笑みを浮かべる。口に獲物の血をつけた狼を彷彿とさせる笑みだ。我知らずゴクリと唾を飲み込んでしまう。
間違いなく、マルガレーテは僕に好意を覚えている。しかも只ならぬレベルの好意だ。このまま流されるままに食事を一緒にすればそのままベッドに直行ということも十分に考えられる。たしかに彼女は美しいし、魅力的だ。知的な彼女とはきっと会話も弾むに違いない。古い考えだが、家柄で見ても少将の息子と大佐の娘なら釣り合いは十分にとれるし、互いに将来性の見込める関係を築けるだろう。担当官になる前の僕なら、彼女の父親の恐ろしさを知っていても迷わず頷いて夕食を共にしたに違いない。
しかし、今の僕には大事な妖精がいるのだ。僕が護ってやらなければ悪い大人に利用されてしまう、儚くも可憐な妖精が。

「申し訳ありません、マルガレーテさん。自分には先約が―――……ヒャーリス、どうしてそんなに僕を睨んでいるんだい?」

君のことは忘れてないよ、と伝えようとしてヒャーリスを振り返れば、彼女はじと~っと何やら物言いたげに細められた目で僕を睨んでいた。形の良い眉が眉間に寄せられて、不機嫌が限界値に達していることを示している。その隣で腕を組むブランクも不満気にしかめっ面を浮かべている。
無言のヒャーリスが僕のキャリーバッグを強引にもぎ取る。

「ブランク少尉、私の愛しいお兄様はマルガレーテ様ととても大事なご用事が出来たようです。お部屋に荷物をおいてから、私たちはグラウン部長も混じえてお肉をお腹いっぱい食べに行きましょう」
「そうだな、そうするか。行きましょうぜ部長。美味い店を教えて下さいよ」
「い、いえ、大佐のご息女を放って夕食に行くわけには」
「ははは、美男美女の仲を切り裂くわけにはいかんでしょうよ。俺たちだって腹が減っては戦も出来ませんぜ」
「ひゃ、ヒャーリス!ブランク!ま、待ってくれ!」

どんどん廊下を遠のく二人の背中に叫ぶ。二人がまったく同じタイミングでゆっくりと振り返り、貼りつけた笑顔で微笑む。

「「どうぞ、朝までごゆっくり」」
「誤解だ―――!!」



「おいこらクソガキ!そのラザーニャ俺ンだろうが!なに勝手に食ってんだ!」
「もがもががもがが!!」
「わかんねーよ!だったらてめーのキッシュよこしやがれ!」
「もががが―――!!」
「……だからさあ、恥ずかしいからやめてくれないか、君たち」

料理の上でフォークとナイフの近接格闘を繰り広げる二人を前に、僕は何度目かわからない大きな溜め息を吐き出す。もう夜遅いから客がそれほどいないのは幸運だったが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。私服に着替えて正解だった。軍服だったら問題になっていたかもしれない。
マルガレーテからの熱烈なお誘いを必死の思いで回避した僕は猛ダッシュで二人の後を追いかけ、予定通りプリモの店に連れて行くことに成功した。ヒャーリスの機嫌がなかなかよくならなかったので苦労したが、料理に舌鼓を打ち始めれば先ほどまでのムスッとした不機嫌顔は跡形もなく吹っ飛んだ。どうやら僕の紹介したこの店を気に入ってくれたらしい。
出てくる料理を次から次に胃に流しこんでいく様はまるで掃除機でも見ているかのようで、見ているこっちの腹が膨れそうだ。だがそれ以前に、幸せそうに咲いた満面の笑みですでに僕の胸はいっぱいになっている。

「ヒャーリス、ラザーニャをブランクに返しなさい。僕のをあげるから」
「マジですかリヒャルド様!愛してます!
というわけで、私の担当官様の恩情によってラザーニャは目出度く返還されることになりました。心から感謝するべきです」
「おい!このラザーニャもう半分も残ってねえじゃねえか!そっち半分よこせ!」
「Fuck that(冗談じゃない)です!ガツガツムシャムシャ!」
「一口で食いやがった!?」
「恥ずかしいから……なんかもういいや」

注意しようとして、諦める。周囲の奇異の目線もあまり気にならなくなってきた。慣れとは恐ろしいものだ。
それに―――ヒャーリスに『愛しています』と言われて紅潮した頬を隠さないといけなかったから、それどころでもなかった。さっきまで拗ねていたと思ったら今度はさらりと愛情を伝えてくるのだから、調子が狂う。妖精の扱いは本当に気を揉むものだ。
彼女が機嫌を損ねたのは、僕がマルガレーテと親密になりかけていたからなのか。それで嫉妬をしてくれたというのなら……僕の恋は脈ありということになる。


「ブランク少尉、リヒャルド様が俯いてニヤニヤしてます。きっと少尉の顔を見て笑ってるんですよ」
「ばーか。お前のせいだよ」
「んぇ?」
「お前も大概鈍い奴だよなあ。リヒャルドも苦労しそうだぜ、こりゃ」
「???」



「俺は運動がてらに散歩して帰る。お前らは二人で帰っといてくれ」

店を出ると、ブランクは早々に僕たちを置いて姿を消した。大使館まではそれほど距離がないのに遠回りして帰るというのは、要するに“空気を読んだ”ということなのだろう。彼なりの気遣いに心のなかで感謝して、僕は「わかった」とだけ返した。

「帰ろうか、ヒャーリス」
「……はい、リヒャルド様」

僕が手を差し出すと、ヒャーリスはやはり少し迷ってから手を取る。恥ずかしそうに視線を逸らす様子は普段の彼女からは想像できないほどいじらしく、そのギャップがたまらなく愛おしい。僕が手を繋げば大人しくなる、というブランクの言は真実らしく、手を繋いだヒャーリスは常のハイテンションぶりが嘘のようにトテトテと無言で僕の後ろを着いてくる。今度から彼女の制御に困ったときは手を繋ぐことにしよう。

(いっそのこと首輪でも―――いやいや、僕にそんな趣味はない。僕はノーマルだ。……ん?)

不意に、ヒャーリスが動きを止めた。見た目よりずっと重い彼女に引っ張られて思わずつんのめる。握る手の冷たさに振り返れば、彼女はその神秘の瞳で僕を真っ直ぐに見つめていた。覗きこめば逆にこちらの心を見透かしてくる神秘の深淵に視線を縫い止められる。
突然の変貌に戸惑う僕に、ヒャーリスが小さく囁く。

「ねえ、リヒャルド様」

さざ波のような声音が胸を揺らし、心に直接染み込んでくる。

「義体の幸せって、何だと思います?」

ドクン、と心臓が震えた。

「義体は主人のために戦って、敵を殺して、主人のために傷つくのが喜びです。主人のために死ねるのなら本望です。私もそう“設定”されています。他人から見たらそれはとても歪んだ幸せです。でも、例え植え付けられた紛い物であっても、義体にとってはそれがもっとも幸せなことなのです」

とつとつと淀みなく語る彼女は、まるでヒャーリスでない別の何かのようだ。先ほどまであんなに元気に食べて、はしゃいで、笑っていた無邪気なヒャーリスはどこかに隠れ、人間の心を揺り動かす妖精が僕の手を握っている。

「ねえ、リヒャルド様。義体の幸せって何なのでしょう?」

神秘の瞳が、苦悩を湛えて微かに潤んでいた。

「ヒャーリス、もしかして君は……」

幸せを、感じることが出来ていないのか?
幸せそうに振舞っていても、心のどこかで空虚感を感じているのか?
『主人のために戦うことが幸福』という条件付けが邪魔をして、人並みの幸福を幸福だと認識できないのか?
彼女の心中に渦巻く苦悩を垣間見た気がして、その恐ろしさに恐怖する。ヒャーリスは僕に見えないところで、たった一人で自身を縛る鎖にもがき苦しんでいる。
何か言ってやらなければならない。助けてやらなければならない。戦うことだけが幸福ではない。人並みの幸せを幸せだと感じてもいいと諭してやらなければならない。
そう決意して僕が口を開くのと、ヒャーリスが笑顔を咲かせたのはまったく同時だった。

「―――なーんちゃって!なに辛気臭そうな顔してるんですか!冗談に決まってるでしょう?私がそんな悲劇的な悩みを抱えるようなsmart-ass(お利口なクソ野郎)に見えますか?」
「ヒャーリス、無理をしなくてもいい。僕は君の担当官だ。君を支えてみせる。そう誓った」
「だーから、大丈夫ですって。心配性ですねえ、リヒャルド様は。そんなことだとすぐに禿げちゃいますよ?」

捲し立てるように言い放つと、彼女は僕の手をぐいと引っ張って前を歩き出す。こちらから彼女の顔が見れなくなる。おそらく、わざとそうしたのだ。自分の顔を見られないように。本当に、彼女はどこまでもいじらしい。

「……義体の幸せが主人のために戦って傷ついて死ぬことなのだとしたら、」

ヒャーリスの小さな手を強く握る。

「僕は君に幸せになってほしくはないよ、ヒャーリス」

彼女は答えなかった。俯いたまま黙って前を歩く彼女は、きっと泣いていたのかもしれない。



♀ヒャーリスサイド♀



なに恥ずかしいこと言ってんだ俺!そしてなに恥ずかしいこと言っちゃってんのリヒャルドさぁあああああああああああん!!
死にたい!死にたい!死にたい!!恥ずかしくて顔が上げられない!!ゴリラがいなくてよかった!!いたらきっと証拠隠滅のために殺してしまっていた!!
ブリジットや他の義体たちを救うための計画を考えてて、ふと「そういやあ俺が勝手に命を助けてあげても義体たちは幸せに思わないのかなあ。それだと意味ないのかなあ」とか不思議に思ったからついなんとなく聞いちゃっただけなんだよ!!ほんっとごめんなさい!お願いだからもう忘れて!!
こんなことならほんとにマルガレーテと一緒に飯食いに行ってもらってればよかった!!腹が減ってたからってついイライラしてあたってしまったのが悪かったのか!!
は、早くこの記憶を忘れたい!!誰か助けてくれ―――!!


<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編

<名状しがたいオマケ的な何か>

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ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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たしかにアスミスで脳内再生しても何の違和感もない!今度から僕もアスミスを念頭に置いて書こう!!

……もっとニャル子に近づいちゃうじゃないか!!

そうだなぁ・・・ 

まぁ、今さら感漂う疑問ですよね。
義体の幸せって何?なんて、養豚場のブタって幸せ?って聞いてるのと似たようなもんですしね。
子供の頃は幸せなんて、お腹いっぱいなら今にも死んでイイくらいのもんだったのに、どうしてタッパが伸びると複雑になっちゃうんですかね?

そんな目の前の疑問はオパーイにでも詰め込んで、理不尽なクソッ垂れ共に義体CQCの恐ろしさを名状しがたい感じに知らしめてやるんだヒャーリス!

 

>上条信者さん
仰るとおりで。原作を読む前はこんなことには僕もヒャーリスも悩んでいなかったと思うのですが、原作を読んだ今では「義体の幸せとはなんぞや?」という疑問が浮かんでいます。まあ、深いことを考えないでこれが最良だという方法を選べばいいだけですよね!!

ヒャーリス「私の義体CQC百式!名状しがたいデザートイーグル.AEのようなもの!!」

 

義体の幸せ、確かにブリジットがある意味で一番悩んだところでもあります。どうすれば少しでもまともな世界に出来るのか。それを考えすぎて、彼女は自滅したわけですから。
  • #164 エトムント・ヘックラー 
  • URL 
  • 2012.04/26 01:31 
  •  ▲EntryTop 

 

>エトムント・ヘックラー さん
今後の展開ために非常に参考になるお言葉でした!!
ブリジットは「少しでもまともな世界にしたい」
ヒャーリスは「ブリジットをハッピーエンドにしたい」
この両者のベクトルが捻り交じり合い、どんなラストを迎えるのか!じわじわと浮かんできましたよ!ありがとうございます!!
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