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Her name is Charis! !

Her name is Charis!! 第二部 第三話 前編

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映画『ブラック&ホワイト』を見てきた。クリス・パインは09年版『スタートレック』のジェームズ・T・カーク役で初めて見たけど、けっこう好きなハリウッド俳優です。野性的というか、言動に子供っぽさや若さや粗雑さがあって、でも憎めない爽やかさも持ってる。今回もそんな役でした。CIAトップエージェント同士の本気の恋のバトルは見応えがありました。これは当たりだった。サントラも欲しくなるようなBGMと音楽だったし。

さて、Her name is Charis!!も第三話に差し掛かった。そろそろブリジットやアルフォドさんと絡ませたいですね。
連休は5月2、3、4日を頂きました。その日を使って小説をどんどん書き進めたい。家族に強制的に連れだされなければ、の話だけど……。



第三話・前編
大使館での一日目の日【ついでにフラグも幾つか】


♀ヒャーリスサイド♀


『私に必要なのは、こんな銃じゃないよ。アルフォド』

えっ。ちょ、ちょっと待って。なにこの状況。なんで俺ラストシーンにいるの?

『ごめんなさい。迷いは捨てれそうにないけど、持って行く覚悟は出来た。やっぱりあなたは死んじゃ駄目だ』

最初からクライマックスってレベルじゃないよ!涙腺弾け飛ぶからマジでやめてそのセリフ!

『だってあなたは、私の幸せそのものだから。――――最期くらい、それくらい守り通してみせる。全部壊してしまった私だけど、これだけは譲れない』

わあーっ!?待て待て待て!なんで死んじゃおうとしてるの!?君を死なせないようにこの世界に来たのに、そりゃないよ!!

『さようなら。私の愛しい人。さようなら、私の大切な友達。私は―――』

うおおおお!!そこから次の台詞は、


………
……



「―――言わせねーよ!? って夢オチかよ!ファック!!」

ベッドから跳び起きたら、そこは昨夜寝た俺の部屋でしたとさ。
しかし、嫌な夢を見てしまった。あのエンディングは泣けるけど切なすぎんだよ!俺のガラスのハートには厳しすぎる!夢で見たブリジット死亡エンディングを回避するためにも、頑張らなくては!!
ところで今は何時だ?……なんだ、まだ4時じゃないか。もう一眠りできそうな時間だけど、変に目が覚めちゃって寝付けそうにないなあ。ちょっと散歩でもするか。パジャマのままだけど別に問題無いだろう。そういえば渡された服の中にスケスケのエロいネグリジェがあったんだが、あれはツェンダーおばさんの仕業なんだろうか。妻の役とかさせるから変な誤解をされるんだ。後でゴリラの荷物の中に紛れ込ませておいてやろう。

「うーむ。洋館ってのは真っ暗だとお化け屋敷みたいで怖いな。フランケンシュタインとか出てきそう。って、俺がフランケンシュタインみたいなものか。HAHAHA!」

ペタペタと薄暗い廊下を歩く。人気のない一階はひっそりとしてて俺の声と足音しかしない。この邸宅は三階に大佐とその家族、二階に補佐官の部屋があって、一階は会議とか応接用の部屋ばっかりなのだ。俺だけハブられててなんか寂しいが、整備ガレージの近くの部屋がここしかないから仕方ないか。
俺に宛てがわれた部屋は、義体整備用に改造されたガレージからすぐ近くにある。昨夜もガレージで身体のCTスキャンを撮ったり簡単なメンテナンスをしたりした。俺の身体は本家の義体と違って機械部品が多用されてるから、大それた手術をしなくてもパーツ交換が可能なのだ。自分がプラモデルになってしまったようで気味が悪いが、おかげで整備が楽になってるんだから贅沢は言えない。修復が簡単な分、薬の使用量も少なくて済んでるし。
ひょいとガレージを覗いてみる。色んな機械が持ち込まれたそこは特撮モノの秘密基地みたいに近未来的なゴテゴテした空間になってる。男の子として、こういう一室には胸を高鳴らせずにはいられない。「一号、発進!」とか言ってあちらこちらのスイッチをしこたま押してみたくなる。でも、何やらパソコンで作業してる人間が残ってるからそれは出来なさそうだ。残念。

「おっ。ずいぶんと早起きだな、ヒャーリス」
「あれ、リスト兵曹じゃないですか。まだ寝てないんですか?」

義体の洗脳処置の責任者のリスト兵曹だった。俺が日本のお勧めアニメをたくさん教えてやったらめっちゃ仲良くなったオッチャンだ。さすがクールジャパンだぜ。

「シューマン大佐の命令を無視して君の再調整を無効にしたんだ。いつバレるものかとヒヤヒヤしてまともに寝れないよ」
「うっ。も、申し訳ないです」
「ははは、冗談さ。私もベッケンバウアー伍長も大佐が嫌いで、君のことは好きだ。
それに、君という義体は我が国初の試作体なんだ。何があっても―――例えば条件付けが上手く定着しなくても、誰を責めることも出来ないさ」

それを聞いて安心したぜ。今度別のアニメを紹介してやるからな!

「ありがとうございます、兵曹。この御恩は忘れません」
「“忘れません”か……。義体の君が言うとなんだか切ないな。本家の義体は薬の影響で記憶を失くしていっているらしいし、同じ技術で作られた君もそうなるかもしれない」
「兵曹がそうならないようにして下さると私は信じてますよ」
「はは、責任重大だな。何はともあれ、まずはカタラーニ博士の亡命が先だ。博士の知識と技術と経験が手に入ればうちの研究もだいぶ進むだろう。そっちは君たちの領分だから、任せたよ」

リスト兵曹に「お任せあれ!」と応え、ガレージを後にする。せっかく俺のために頑張ってくれてるんだから邪魔をしちゃいけない。
大使館で俺の整備をしてくれるスタッフはドイツ本国の義体調整病棟から派遣された顔見知りばかりだった。おかげで、ここでは演技をしなくて済む。とは言え、あのシューマンの野郎が監視の目を送り込んでいないとは思えない。必ず誰かが繋がってるに違いない。ああ、めんどくさい。コナンくんみたいな頭脳が俺にもあればいいんだけど。

「リヒャルドさんの部屋はここか。ずいぶん立派な部屋だよなあ。なにこの格差、ムカつく!」

こっそり二階に上がってリヒャルドさんが宛てがわれた部屋の前に立つ。荷物を運ぶのを手伝った際に一度見たんだが、俺の部屋の三倍はでかい。義体には小さな部屋がお似合いってか!兄妹って設定なんだからもっと優遇してくれてもいいだろうに!
扉の隙間から光が漏れてる。リヒャルドさんもまだ起きてるのか。なんか腹が立ったからノックせずに開けることにする。一人でパソコンを前にマウス片手でイケないことしてたら思いっきりからかってやる!

「こんばんは!ヒャーリスちゃんの突撃隣の晩ごはんです! って寝てるのかよ!サノバビッチ!」

こちらに背を向けるリヒャルドさんは机に突っ伏して眠っていた。机の上にたくさんの資料が散らばってて、飲みかけのお酒もある。きっと今回の作戦について考えてたんだろう。夜くらいちゃんと寝ればいいのに、仕事熱心だなあ。
とりあえず起こしてやってベッドで寢らせてやろう。横になって眠るのが人間一番だよ。肩をゆさゆさ揺らしてやれば起きるかな?

「リヒャルド様、風邪引いちゃいますよ。ベッドで寝ないとお体に障ります」
「ぅう……ヒャーリス……?」
「そうですよ。いつもニコニコあなたの傍に這い寄る義体ヒャーリスちゃんです」
「く…とぅる…ぅ……ぐぅ~」

なにその狙ったような寝言!―――じゃなくて、風邪ひくっつってんのにまた寝ようとしてるよこの人!ほんとに元特殊部隊か?
やれやれ、毛布でもかけといてやるか。今の俺のパワーなら抱き上げてベッドへ放り投げることも出来るんだが、それだと男のプライドが傷つきかねないからな。それは勘弁しといてやろう。世話が焼ける兄貴だこと。

「……ヒャー、リス」
「あわわわっ」

また寝言を呟いて、机の上でリヒャルドさんがおもむろに手を伸ばす。手にぶつかった酒のグラスが落ちそうになったから慌ててそれをどけてやる。この部屋の調度品は高そうだから汚したら大変なことになりそうだ。
ふと、視界に入ったクシャクシャになった資料に『義体』という文字が見えた。

「あれ、この資料って……」

全部、俺についての資料だ。『KPABW B-E1の耐用年数について』―――要するに俺の寿命だな。それはとても興味がある。えーっと、小難しい専門用語はわからんから抜かして最後のまとめの文章だけ読むと……『KPABW B-E1の耐用年数は未知数だがそれほど長くはないだろう』ってことか。
うーん、ブリジットを助けるまで万全のままでないと困るんだよなあ。その前に寿命が来てしまったらこの世界に来た意味が無い。やっぱりカタラーニ博士を連れ帰ってドイツ側の義体技術向上させてもらわないと不安だ。自分の面倒も見れない奴が他人の面倒なんて見れないんだし。

「自分の面倒も見れずに机で居眠りする人が、私の面倒なんて見れるんですか?まったく」

毛布を肩まで掛けてやってから頬を少し抓ってやる。リヒャルドさんは相変わらず子どもみたいな寝顔を浮かべたままだ。よっぽど疲れてたんだろう。お疲れさん。

「それじゃあ、私はこれで―――」
「頼む、死ぬな。ヒャーリス」
「―――はい?」

踵を返しかけて、後ろで呟かれた縁起でもない台詞に目を丸くする。どうやらこれも寝言のようだが、内容が内容だったのでどんな表情をしていやがるのかと横合いからそっと顔を覗いてみる。
リヒャルドさんは、泣いていた。

「ヒャーリス、逝くな。傍にいてくれ。離れないで、くれ……」

目尻からポロポロと大粒の涙が零れて資料を濡らしていく。「男が泣くもんじゃない!」と頬を抓ってやろうかと思ったが、美形の人間が泣く姿は目を奪われるものがあって思わず見入ってしまった。これが世に言う「ただしイケメンに限る」というヤツか。
しっかし、これじゃあどっちがどっちに依存してるかわからないな。リヒャルドさんはシスコンの気があるに違いない。俺のほうが心配になっちゃうよ。ヒルシャーさんみたいにトリエラの代わりに任務をこなそうとして負傷する、なんてことにならないだろうか。
……うわあ、そんな展開が簡単に想像できるよ。マジメすぎるのも考えものだ。

「リヒャルド様もなかなかのchick(軟弱なひよこちゃん)ですね。手が掛かるんだからもう」

手近に転がってたペンをとって資料にガリガリと乱暴に書き込みをして、ガシガシと乱暴にリヒャルドさんの顔をパジャマの袖で拭ってやる。イケメンだからっていつまでも泣いてるのは情けないぞ。男ならシャキっとしろシャキっと。
立ち去る前に、リヒャルドさんの耳元でそっと囁いてやる。

「私はいなくなったりなんかしませんよ。私の担当官なら、もっと男らしくなってくださいね?」
「……わかった、よ。ヒャー、リス……」

おお、涙が止まった。それでこそ男だぞ、リヒャルドさん!!
さーて、この人はもう大丈夫そうだし、それじゃあもう少し散歩の続きでもしますかね。


………
……



「―――どうしてなのよ?信じられる?この私が―――ちょっと聞いてるの、グラウン!?」
「は、はい、マルガレーテ様。うぷっ」

三階から金切り声が聞こえてきた。この声はマルガレーテとグラウンのおっさんだな。本当は三階は立ち入り禁止なんだが、ちょっと階段から顔を出すくらいはいいだろう。俺の強化された聴覚ならこのくらいの距離で十分聴こえるのだ。

「リヒャルドは絶対にモノにして見せるわ。簡単には落とせなさそうだけど、あれだけの上物は二度とお目にかかれないに違いないもの」
「は、はあ。うぷぷっ」
「ほら、もう一杯飲みなさい。ジャパンのSAKEよ。なかなかイケるわよ」
「マルガレーテ様、も、もう限界です」
「なによ、付き合い悪いわね。そうだ、アンタはどうしてあの上物が私に食いつかなかったと思うかしら?あっちはイケメンで器量良さ気なエリート軍人、こっちは家柄の良い高官の美人娘。明らかにお似合いじゃない。普通なら食いつくはずでしょ?」

お互い呂律が回ってないし、ベロンベロンに酔っ払ってるみたいだ。けっこう酒飲んでるな。日本酒は度数が高いのに、あのネーちゃんすげえなあ。

「は、はあ。おそらく、KSKを脱退した事件が原因かと……。ドイツ人をテロに巻き込んだジャコモ・ダンテの暗殺任務の際に民間人を巻き添えにして死傷させ、自身も大怪我を負っています。そのトラウマを引きずっているのではないかと」

……マジで?そんなことあったの?つーか、リヒャルドさんもジャコモ・ダンテと因縁あるのかよ。
俺がポカーンとしているとマルガレーテがあっはっはと耳がキンキンする声で笑い出した。

「それも考えられるかもしれないけど、きっと違うわ。―――ズバリ、あの妹が原因よ」

え、俺?

「ヒャーリス、ですか?」
「そうよ。あの見るからにお転婆そうな妹。あの娘を見てる時だけ、リヒャルドの目は情熱に燃えていたわ。私にはわかる。
ねえ、あの二人は全然似てないけど、血の繋がりはあるのかしら?」
「い、いえ。詳しくは知りませんが、なんでも義理の妹らしく、血の繋がりはないとか……」
「なんですってぇ!?義理の妹ォ!?」

ひいい、耳が痛い!聴覚が人並み以上に尖すぎるのも考えものだ。思わず階段を転げ落ちそうになってしまった。


ギシッ


やべっ、物音立てちゃった!

「誰!?誰かそこにいるの!?隠れてたら殺すわよ!正直に姿を現しなさい、殺してやるから!」

どっちにしたって殺されるじゃないか!うひーっ、こわっ!くわばらくわばら!物陰に隠れとこう!

「……いない、か」
「ま、マルガレーテ様、あまり騒ぐと大佐やご夫人が起きてしまいます。どうぞお静かにお願いします」
「ふん、わかってるわよ。いい、グラウン?可愛くてお転婆な義理の妹なんて、世の男たちが切望する究極の願望よ。リヒャルドも例外じゃないかもしれないわ。二人の関係とか、ヒャーリスについてとか、詳しく調べて教えなさい!わかった!?」
「わ、わかりました」
「じゃあ、今日はもう帰っていいわ。私はもう少し呑むから。今日は付き合ってくれてありがとう。おやすみなさい。また明日ね」
「お、おやすみなさいませ」

バタン、と扉が閉まる音がした。覗いてみると、グラウンのオッサンがフラフラしながらこっちに歩いていた。顔色も悪いし、足取りも完全に千鳥足だ。あの状態じゃあ、階段を降りさせるのは危ないな。オッサンは職員だから私室はこの邸宅にはないんだよな。客室で一晩過ごすのか?どちらにしても今の状態じゃ辿り着けそうにない。どいつもこいつも世話が焼けるぜ。

「グラウン部長、肩を貸しますよ。さあ、腕を」
「う、うう。済まない」

オッサンを支えながらゆっくりと階段を降りる。どうしてここにいるのかと怒られるかと思ったが、酔っててそれどころではないらしい。俺のこともわかってないっぽいし。
そうだ、この機会に色々聞いてやろう。人は酔っていると饒舌になるのが当然の摂理なのだ。これから仲良くなる上で貴重な情報を入手しといてやろう。

「大変ですね。どうしてグラウン部長がマルガレーテ様の相談役になっているのです?まるで執事のようでしたよ」
「ああ……。実はね、私には妹がいるんだ。その妹と似ているからつい話を聞いてあげたくなるのさ」
「初耳です」
「だろうね。他人には話したことがないよ」

おお、さっそく貴重な情報ゲットだぜ!

「妹とは、両親の離婚のせいで幼い頃に離れ離れになってほとんど生き別れも同然だった。幼いながらにマルガレーテ様にそっくりの勝気な娘だったよ。つい最近、向こうから連絡をとって来て再会したんだが、やはり勝気なままだった。美しくて、自尊心が強くて、向上心に溢れていた」
「たしかにマルガレーテ様にそっくりです」
「ははは、だろう?実はあの娘も軍に入隊していて君を―――うっ!?ひゃ、ヒャーリスじゃないか!?」

やっぱり気付いてなかったのか。酒は飲んでも飲まれるなってありがたい格言はドイツにはないのか?

「ど、どうしてここに!?なぜ私と一緒にいる!?」
「何故も何も、グラウン部長が階段を降りるにはあまりに危なっかしい足取りをされていたから助けて差し上げたのです。差し出がましいことでしたか?」
「い、いや……。何でもない。ありがとう、ヒャーリス。ここからは自分で行くよ」
「お気をつけて」

言って、左右にフラフラしながら客室に歩むグラウンのオッサンの後ろ姿をじっと観察する。ふーむむ。変に動揺してたし、気になることも言ってた。もしかしたらもしかするかもしれない。要注意だな。
さて、時間は……5時半か。中途半端に余ってるなあ。どうして潰したもんか―――あ、そうだ!!

「ふひひひひ!今のうちに改造・・してやろう!待ってろよアウディちゃん!!」



♂リヒャルドサイド♂


彼女は、僕の腕の中で死のうとしていた。
傷と血に塗れた細い身体から徐々に熱が失われていく。弾むようだった息遣いも段々と弱まり、小さくなっていく。

『ヒャーリス、大丈夫だからな。すぐに救援が、ブランクたちが駆けつける。絶対に助かる。僕を信じろ』

自分の生命力を分け与えるように彼女を強く抱き締める。せめてこれ以上体温が下がらないように必死に抱擁する。本当に生命力を分け与えることができたらどんなに良かったか。できることなら僕の命を彼女に捧げたい。彼女を生かすことが出来るのなら、僕の命などくれてやる。

『リ、ヒャルド、様。私は、幸せ、でした』

掠れたような小さな声が、最期の言葉を紡ぐ。

『私は、あなたのために戦えて、あなたのために傷ついて、あなたのために死にます。とても、幸福です』
『違う、そんなのは幸せじゃない!それは兵器の役割だ、君は女の子だ!』
『では……私は何を幸せにすれば良かったのですか?兵器であり少女でもある義体の幸せとは、何なのですか?』
『それは……』

その深淵の瞳は、かつてローマの夜道で僕に向けられた苦悩の瞳だった。
僕は結局、彼女に義体の幸せを答えることが出来なかった。悩める彼女を救うことが出来なかった。惚れた女が苦しんでいるのに、ついに手を差し伸べることが出来なかった。
ああ、神よ。我が主よ。どうか時間を巻き戻してください。もう一度チャンスをお与えください。お祈りを欠かさなかった。常にあなたに信仰を捧げてきた。だからお願いです。彼女を幸せにするために、彼女の疑問に答えるために、もう一度チャンスをお与え下さい。

『リヒャルド、様?どちらに、いらっしゃるのですか?目が、見えなくなりました』
『そんな……!ダメだ、頼むからやめてくれ!そんなこと言わないでくれ!』

彼女の身体からガクリと力が抜ける。血が抜けた身体はあまりに軽くて冷たい。

『申し訳、ありません。何も、聞こえません。聞こえないのです。何も、感じない、です。リヒャルド様、私を置いて、どこへ行ってしまったのですか?』
『いるぞ、ここにいる!君を抱きしめてる!ずっと君の傍にいる!だから頼む、死ぬな。ヒャーリス!!』

どんなに叫んでも、もう僕の声は届かない。星空のように美しかった瞳が濁ってゆく。呼吸が少なくなる。声が小さくなる。

『寒い。痛い。寂しい。悲しい。嫌だ、死にたくない。一人で死ぬのは嫌だ。義体になんかなりたくなかった。普通に生きたかった。嫌だ、嫌だ、嫌だ―――ぁ―――……』
『……ヒャーリス?』

目尻から、つうと雫が伝い落ちる。それが、彼女が最期にこの世に残した感情の欠片だった。もはや彼女が動くことはない。僕は彼女を笑顔で死なせてやるどころか、寒くて痛くて孤独に震えて泣いたまま逝かせてしまった。最低の人間だ。最悪の男だ。

『ヒャーリス、逝くな。傍にいてくれ。離れないで、くれ……』

動かなくなった彼女を掻きむしるように抱き締める。彼女ともう二度と会えないなど、もう二度とあの笑顔を見れないなど、信じたくなかった。
腰に回した指先が、コツ、と何か当たる。
僕が与えた、デザートイーグルだった。
彼女が僕の贈り物を大切に肌身離さず持ち歩いてくれたことに感動し、感謝する。これは今使うべきなのだ。
デザートイーグルの銃口を己の眉間に突きつける。僕の信仰では自殺は禁じられている。しかし、彼女を護ってくれなかった宗教には何の意味もない。引き金に親指を引っ掛け、力をかける。
ヒャーリス、今から僕もそっちに行くよ。君を一人にはしな―――

『リヒャルド様もなかなかのchick(軟弱なひよこちゃん)ですね。手が掛かるんだからもう』
『―――えっ』

唐突に、デザートイーグルがひょいと取り上げられる。気づけば、腕の中にあったはずの彼女の亡骸は忽然と消えていた。この手を染めていた彼女の血も跡形もなく消えている。
呆気にとられながら、僕は銃を取り上げた少女を見上げる。
太陽を背にしたヒャーリスが、太陽のように明るく笑う。

『私はいなくなったりなんかしませんよ。私の担当官なら、もっと男らしくなってくださいね?』

涙が拭われ、身体が暖められていくような感覚を覚える。

『わかったよ、ヒャーリス』

僕の返事に、ヒャーリスが暖かく微笑む。全身を包み込むように暖かい微笑みは、まるで毛布のようだった。


………
……


「……本当に毛布だったのか」

突っ伏していた机から半身を持ち上げると、ズルリと背中を滑って毛布が床に落ちた。
眠気まなこで自分の置かれた状況を見回して、記憶を引っ張りだす。そういえば、僕はヒャーリスの資料を復習して暗記しようとしていて、つい眠ってしまったのだ。強いブランデーを飲んだのがまずかったのか。

「しかし、なんて夢を見てしまったんだ……」

夢の内容を思い出そうとするだけで胸が苦しくなる。ヒャーリスの寿命について不安になる資料を読んでいたことと、昨夜にヒャーリスが義体の幸せについて問うてきたせいだろう。とにかく嫌な夢だった。最後にはなぜかヒャーリスが生き返ってくれたが、それでも正夢には絶対にしたくない夢だった。
そこまで考えて、この毛布が誰によってかけられたのか疑問が浮かんだ。自分が机に向かっている時はこれは被っていなかったはずだ。ブランデーのグラスも片付けられている。

「いったい誰が……ん?」

見ると、手元の資料に見知らぬ乱暴な書き込みがされていた。ヒャーリスの寿命についての資料だ。一番最後の総括の部分に赤ペンで記されたそれを見た瞬間、僕はこれら全てが優しい妖精の仕業であることを悟った。

「ぷっ、ははははは!まったく、君には敵わないよ、ヒャーリス」

恥ずかしいところを見せてしまったものだ。早く汚名返上できるように精進しなくては。
でもその前に、まずはベッドでちゃんと睡眠をとろう。妖精の忠告は素直に聞くべきだ。




『KPABW B-E1の耐用年数は未知数だがそれほど長くはないだろう。

大丈夫。リヒャルド様と私なら、どんな不可能も可能になります。でも人前では泣かないでくださいね。泣くならせめて私の前だけにしておいてください。
わかったら、さっさとベッドで眠ってください。それではPeace out(おやすみ)です!








<Her name is Charis!! 第一部一覧>
第一話 前編
第一話 後編
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話 前編
第六話 中編
第六話 後編

<ファッキング☆ガンスリ劇場>
シリアス好き?ひゃあ、ブラウザバックだ!【なんぞこれ】
H&Kさんに怒られても文句は言えない【ガンジーですら助走をつけて殴るレベル】

<Her name is Charis!! 第二部一覧>
第一話
第二話 前編
第二話 後編


<名状しがたいオマケ的な何か>

ちょっとしたコネタ
ヒャーリスプロフィール
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 前編
ブリジットはどこに行ったのかを妄想した 後編
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~ Comment ~

無理はせんといてな! 

>いつもニコニコあなたの傍に這い寄る義体ヒャーリスちゃんです

なるほど、ブリジットにはにじり寄るわけか。
「みぃぃいいいいいつっっっけたぁぁああああああああああああああああ!!!」ってな感じで。
・・・・・何この子こわい。どんなシリアスシーンでも思わずツッコまざる得ない。


お休み返上で実家でゴーヤの苗を手入れしてます上条信者ですが、それでも休み時間を削って投下を確認しておりますとも!
次回も楽しみにしてます!

家族サービスは連休最大の天敵 

そういう自分は未だ学生やってるんですがw
正直ガンスリとか殆ど知らないんですがそれ抜きにしても面白いwww
ニャル子さんがラヴクラフト最大の誤算ならヒャーリスはガンスリ最大の誤算だと思いますwww

ヒャーリスのプロフィール見てふと思った事:あのノリ且つM60で男撃ちが好きな彼女なら全身アーマー装備してジャガーノートや人狼ごっことかやりかねないんじゃなかろうか?w

 

いやあ、ネタ豊富だなァ
ニャル子さんかわいいよね!

ていうか相変わらず温度差がグリーンランドとサバンナの昼間くらいありますな、それでいてかみ合ってるんだからまた…

だがそれがいい!

 

>可愛くてお転婆な義理の妹なんて、世の男たちが切望する究極の願望よ。
マルガレーテさん、本当に色々な意味で男心を分かっているお方です(笑)
ここで、「消しなさい」ではなく「調べなさい」なところが人が良い感じがします。
あと、冒頭の部分で切ない気持になりました。
「ハッピーエンドに!」と言っているから大丈夫だと分かっているのだけれど、所々のフラグでビクビクしてしまう(笑)
次回の更新も楽しみに待っています。

 

>上条信者さん
ゴーヤのお手入れお疲れさんです!!いつもコメントありがとうございます!!ブリジットを見つけたらきっと貞子みたいにどこからともなく現れてベタベタまとわりつくんでしょう。さすが変態淑女だぜ!
次回もお楽しみに!see ya!!


>ゼミルさん
原作を詳しく知らなくても楽しめる。僕はそのお言葉に何よりも勇気づけられます。そう言って頂けるということは、このSSを相応のレベルに仕上げることが出来ているということですから。ドイツが生み出した常識はずれな義体、ヒャーリスのご活躍に乞うご期待ですよ!

>全身アーマー装備してジャガーノートや人狼ごっこ
ふひひ……実は僕も似たようなネタを考えておりましてね!僕たち気が合いますね!!


>名無し人生さん
おお、「せっかくバーサーカー」の生みの親とも言うべき名無し人生さんじゃないですか!思えば、ブログで実験的にせっかくバーサーカーの一話をうpした際に「いいんじゃない?」というコメントをあなたがくれたことでせっかくバーサーカーは軌道に乗り始めたんですよね。ありがたい話です。

>ニャル子さん可愛い
同士よ!心の友よ!主人公がなぜあそこまで拒否するのか理解できない!僕ならとっくに誘惑に負けてるね!


>ふぉるてっしもさん
『ブリジットという名の少女』ではあらゆるフラグが欝展開に繋がっていましたから、その三次創作であるこのSSでもビビるのは無理ないかもしれません。しかしご心配なさらず!どんなにシリアスにブレようがヒャーリスの手にかかればすぐにスッキリサッパリなギャグ展開にひっくり返りますから!それでもヒャーリスなら……ヒャーリスならきっとなんとかしてくれる……!
マルガレーテさんはけっこう良い人です。この人を交えたお話も一つ作ってみたいと思ってます。ヒャーリスの良き友にしてライバルみたいな存在にできたらな、と漠然と考えとります。
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