白銀の討ち手

己の妄想をネットという広大な海へ送り出すことに若干躊躇いつつも実行してみるブログ。現在は『白銀の討ち手』という灼眼のシャナの二次小説をarcadiaさんにて執筆中。

【プレゼント企画】 アンケートのご協力依頼!! 【件さんに感謝】(追記 30' 2/6) 

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 いつもお世話になっている件さんに、拙作のキャラクターのグッズを作成して頂ける件について、こちらの記事にて随時情報を更新していこうと思います。まずはアンケートの実施を行いたいと思いますので、後ほどご協力のほど、よろしくお願いいたします。(19' 12/31)


【追記】

 いざ結婚するぞとなると、やるべきことが想像を超えてありすぎて、一ヶ月経つのがあっという間でした。かなり遅くなってしまいましたが、上記の件についてアンケートを実施したく思います。記載順は、番号、拙作名、キャラクター名となっております。アンケート回答についてはどれを書いて頂いても構いません。


①『白銀の討ち手』 サユ
②『殿下は従者の愛を、従者は世界の革命を願う』 綾狩
③『エルフになって勇者と一緒に魔王を倒しに行くお話』 トゥ
④『素晴らしい変化を貴方に』 朝香 楓


 以上の4つです。拙作のキャラクターのチョイスにつきましては僕が担当させて頂きました。ご協力して頂ける方が一人でも多くいらっしゃれば、幸いです。ご協力のほど、どうかよろしくお願いいたします。(30' 2/6)

今年一年、お世話になりました&結婚のご報告 

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 まずは、2017年締めのご挨拶をば。今年も皆様にはお世話になりました。多くの方に感想やメッセージなどを頂き、それらを大事な糧にして創作活動を続けてくることが出来ました。
 どんなに忙しくても、疲れ果てていても、小説のことを考えない日はありませんでした。アイデアを思いついては忘れない内にメモ帳やスマホに書き残して、いつか書く時のためにと備えていました。なかなか結果に結びつくことはありませんが、おかげで妄想が絶えない日はありません。妄想するのはとても楽しいです。シャナの二次創作、Fateの二次創作、ガンスリンガーガールの三次創作、さらにはオリジナル、それらの妄想をしては一人ニヤニヤとして、こっそりメモ帳にアイデアを書く……何よりも楽しいです。小説として形にして皆さんにお披露目することができればもっと良いのでしょうが、僕ももう30歳となりまして、時間と体力の限界が少なくなっていく中でなかなかそれも実現できていません。2017年で思い残すことと言えば、たった一つ、それだけが後悔として悔やまれることです。「どうせ趣味なんだから」の一言で片付けてしまえよ……という心の中の悪魔の誘惑に抗いながらも体は正直に負けちゃってるくっころ物書きとなっております。いや~、思い返せば小説を書き始めたのが18、19歳くらいですから、もう10年以上経ったんですね。まったく成長していない。これで一時は書籍化を目指すと息巻いていたのだから、若さって凄い。自分が老いたと思ってしまうとそこからどんどん老いてしまうとは同年代や諸先輩から聞いているのですが、それでも過去の自分を振り返ると恥ずかしさと羨ましさが湧いてきます。でもその分、成長してきている。それは間違いない。……と思いたい。

 さて、続いてプライベートなご報告です(プライベートじゃない報告なんてあるのかという話ですが)。

 結 婚 し ま す

 ええ、マジです。本当に結婚します。もちろん、ディスプレイの中にいる二次元上の存在ではなく。

 日にちは決まっていませんが、式も開きます。実は数日前に、彼女にプロポーズして、頷いてもらえました。奇妙な感覚です。実感が半分ほどしか湧いていません。婚約者が出来たなんて。一年前の同じ日には、一年後にこんなことになるなんて想像もしていませんでした。でも、嬉しいです。つい半年ちょっと前までは、「リア充爆発しろ!」って散々罵ってたのに、今では同棲のビジョンを二人で描いています。毎日のように会ってはドライブしたり温泉行ったりご飯を食べたりしています。愛車のミニを派手にぶつけてしまったりしましたが、なんだか全然、惜しくないんです。悲しいんですけど、でも、彼女が出来なければこの愛車はずっとガレージでピカピカに磨かれたまま、遠出に使われることもなく、宝物のように飾られていただけだったでしょう。でも今は、一万キロ以上を走って、タイヤも交換しないといけなくなるくらいに使い込まれて、ついにボッコリ装甲が凹む羽目になりました。それってきっと、車にとって最高の人生であると思うんです。だからちっとも惜しくないです。こんな考え方にだって、彼女が出来る前には絶対に出来ませんでした。まさか自分がこんなに寛容になれるなんて……。

 

 とまあ、僕自身のご報告は以上です。びっくり驚きのアンケートのご協力依頼がございますが、それは次の投稿にて。

 最後に、あらためて2017年は本当にお世話になりました。ハーメルンや当ブログで拙作に感想をくださった方、メールにてメッセージを送って下さった方、評価をポチっと押してくれた方、皆さんに感謝です。今年も大変お世話になりました。皆さまにとって来年2018年がさらなる飛躍の年となりますことを、心から願っております。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

そのエリカ、猟犬につき(後編の後編)の試作 

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『貴女は、私の夢だからよ』



 “どうして、いつも私を助けてくれるの?”。

 二人っきりで整備する|Ⅵ号戦車《ティーガー》の中。何気ない質問を装った―――でも、心の奥底でずっと気になっていた私に問い掛けに、その人はいつになく真剣な表情で、そう応えた。


 その人は、本当に強かった。まるで戦車乗りになるために生まれてきたようなその人は、お姉ちゃんでさえ、ここぞという時に頼りにするくらい強かった。でも、どうしてか、勝利の花道は必ずお姉ちゃんや私に譲ってしまっていた。まるで、“|ここが私の定位置《・・・・・・・・》”とでも言うように。その気になれば、今すぐにだって相応の地位を掴める実力者なのは間違いないのに。その人に頼りっきりの私たちに愛想を尽かして他校に赴けば、あっと言う間に頂点に登り詰められるのに。一歩踏み出せば大きな可能性を掴めるのに、その人はどうしてか、その一歩を決して踏み出そうとしなかった。真っ先に勝利の栄光を掴める位置にいながら、常に一歩下がって私たちを優先させてくれた。

 もちろん、そのことに不満なんて無い。その人のおかげで、お姉ちゃんは2年生に進級してすぐに黒森峰の隊長となって国際強化選手にも指定されたし、私も副隊長に昇格して、二人してお母さんにも褒めてもらうことができた。ほんの少し前までは、戦車道でお母さんに褒めてもらえるなんて想像もできなかったのに。
 「誇らしい」と微笑んでくれるお母さんを前にして、思わず涙が流れるくらいにとっても嬉しかった。だけど、モヤモヤとした複雑な気持ちも抱いてしまった。だって、まるでその人を踏み台にしてしまっている気がしたから。自分の戦車道を見つけるキッカケを与えてくれた大切な友だちを、都合よく利用してしまっているような気がしたから。そんなこと、絶対にしちゃいけないのに。むしろ、私に前に進む勇気を与えてくれた恩を何としてでも返したいのに、その人は頑なに首を横に振って、逆に私の背を凱旋門に向かって押してくれる。自分が受けるべき賛辞を私に譲って、その人はそっと影から私を見守ってくれていた。そこまでしてくれる義理なんて無いはずなのに。


『―――西住みほ、貴女は私の夢そのものなのよ』


 そんな私の感情をまたも容易に見抜いて、その人は日頃の斜に構えた態度を脱ぎ捨てて、真っ直ぐに私の目を見つめてきた。何時になく生々しい感情を露わにした瞳は、まるで好きな女の子に気持ちを伝えようとする男の子のように純粋に煌めいて、当然のように私の胸は高鳴った。


『貴女をこうして見守ることが出来るのは、私にとってこれ以上ない喜びなの。貴女が、誰も見たことのない|より良い物語《・・・・・》を歩む姿を見ることは、その物語を他ならぬ自分自身が手助け出来ることは、私にとって文字通り夢のようなことなの。』

 

 

 狭く薄暗い戦車の中が、厳かな聖堂のようにその人の声を何重にも反響させ、私の心に染み込ませる。語尾が微かに震える声音は熱っぽく湿って、今までにない感情の発露を滲ませていた。今、この人は、もしかしたら誰にも見せたことのない|本当の自分《・・・・・》を曝け出してくれているのではないかという錯覚すら抱いてしまうほどに。

 

 

 『私のことを振り返る必要なんて無い。なぜなら、こうして、逸見エリカとして貴女と一緒に戦車道を極められることは、私にとって何物にも代えがたい夢のようなことなのだから。進み続ける貴女の背中を見ることは、私にとって至上の夢なのだから。|私のような《・・・・・》|人間が《・・・》、|一つの人生と《・・・・・・》|引き換えにしても《・・・・・・・・》、ようやく得られるか得られないかの最高の夢物語。―――だから、貴女は私の夢そのものなのよ』


 呼吸もおかずに一気呵成に告げられたその台詞は、まるで、聞く者の浅はかな迷いを吹き散らす巫女の祝詞のようで―――客観的に聞けば、想い人への熱い|告白《プロポーズ》のようだった。そのことに思い至ったのは私が最初で、次にその人だった。年上の貫禄じみたものを匂わせていた引き締まった表情が、こちらのポカンとした様子に訝しげに変わり、そして一瞬で同年代の女の子に戻った。銀髪に縁取られた頬がボンッと音を立てるようにピンクに染まり、切れ長の瞳がくるくる回転する円盤みたいに大きくなる。


「か、勘違いしないでよね! 別に、気負ってほしくて言ったわけじゃない。アンタが聞いてきたから答えてあげただけ。だから、」


 不意に、いつものぶっきら棒な物言いに戻ったその人が、爪先でペチッと軽く私の額を弾く。



「私がアンタら姉妹に気を使って成果を譲ってるんじゃないか、とか穿って考えなくてもいいってことよ。私は、私自身の夢のために今こうしてるの。私の望む全てが今こうして手の中に存在し、現実として叶ってる。気にされるようなことなんて何一つとしてないわ。後ろのことなんて気にしてる暇があったら、アンタはただ前を向いて、ズンズン進んでればいいのよっ」

 

 

 言って、その人は私の視線から逃げるようにぷいっと身体を逸らせて、そのまま目の前の照準器に力いっぱい顔を押し付けた。それでも照れ隠しを見るも無残に隠しきれていないピンク色の横顔に、私は心の底から微笑みを浮かべた。|防弾窓《ペリスコープ》から差し込む夕日が銀髪を黄昏色に染めて、とても美しかった。

 私は、この人の親友になれて―――逸見エリカの夢になれて、幸せ者だと思った。

 

 

 

 

 

 

「……だったら、最高の夢にしてあげないと、親友失格だよね」

「西住隊長? 何か仰いましたか?」

 

 こちらを振り返った、耳の良い黒長髪の砲手―――砲手が黒長髪だとなぜか落ち着く―――に何でもないと首の動きだけで応える。この想い出は、誰かにひけらかすようなものじゃない。私たち二人だけが秘めているべき宝物だと思うから。

 

「一度停車してください。外に出ます」

 

 今はここにいない、でも確かにそこにいてくれる親友に背を押され、私は衝迫に身を任せて立ち上がる。突然、頭上の指揮官用ハッチに手をかけた私を驚きとともに見上げた通信手に視線を返し、出来る限りゆっくりした口調で指示を下す。

 

「みほさ―――いえ、西住隊長。でも、外はすごい雨ですよ。せめて|雨衣《コート》を……」

「構いません。それより、全車にも前進停止を命じて下さい。この距離なら雷の影響を受けません。停車を命じたあと、私に繋いで」

「や、|了解《ヤヴォール》っ」

 

 強い雨風の中でも、無線通信は正確に私の言葉を届けるだろう。雷の直下では、何キロも離れていれば支障をきたすけど、最初から密集していれば影響は最小限に抑えられる。そう、|最初から《・・・・》。

 打てば響くような動作で操縦手がクラッチに足を滑らせ、通信手が|喉頭マイク《タコホーン》に指示を吹き込む。それぞれの無駄のない動作を横目に流し、私はハッチから雷雨荒ぶる外界に半身を乗り出した。途端、まるで夜のような暗闇と嵐のような豪雨に身を包まれる。どんよりとした晦冥の中、大粒の雫が|司令塔部《キューポラ》の甲板を容赦なく叩き、砕け散った飛沫が黄白色の光を反射して後方をキラキラと舞っていた。身体ごと振り向いた後方、雨飛沫の向こう側で、|黄白色の光《ヘッドライト》を放つ16輌のキャタピラがこちらと完璧に同じタイミングで停車するのを視認し、私は口元を思わず緩める。操縦手や通信手然り、17輌の整然とした動き然り、唐突な指示にも混乱せずにこうして鍛錬の成果を前に出せるのは、一人ひとりが優れた戦車乗りという証に他ならない。これもおそらく、訓練試合のたびに|怖い怖い銀髪さん《・・・・・・・・》に延々と追い回された結果なのだろう。

 くすっと笑みを零したあと、瞳を閉じ、私はほんのひと時の間、雨が顔を濡らす心地よい冷たさに意識を傾けた。きっと、あの人も今、同じことをしているという奇妙な確信があった。雨に身を委ねて、あの人も私のことを思っている気がした。遠雷をすり抜けて、あの人の美しいローレライの歌声までも耳に掴める気がした。

 

 

 

―――行くわよ。火を入れなさい。みほが待ってるわ。

 

 

 

「西住隊長、17輌全車と通信繋がりました。|作戦通り《・・・・》、密集隊形のおかげで雷の影響はほとんど受けていません。いつでもどうぞ」

 

 私の意識を引き戻したのは、あの人の声をした幻聴か、それとも通信手の言葉だったのか。どちらでも構わないと思い切り、私は空に向かって目を見開く。速く流れる風雲、激しく降り注ぐ雨、時折世界を一閃する稲妻。『決勝戦は雷雨になるわ』と予測したあの人の言葉は正しかった。やれ犬だ何だとひどいアダ名をつける人もいるけど、その生得の直感は、ヒトを超えて尋常じゃない。もっとも、それを信じて|雷雨を念頭に置いた作戦《・・・・・・・・・》を立てた私に偉そうなことは言えないのだけど。

 何も言わずただ雨に打たれるままの隊長を不審に思ったのか、各車のハッチから次々と車長が顔を出してくる。様子を伺う17対の視線が自身に集中したのを見計らい、私は首のマイクを触れる手に力を込める。大気中に電荷が満ちた状態でも、|この時のため《・・・・・・》に強化した近距離無線通信は私の声をクリアに届けてくれる。

 

『みんな、状況はわかっていると思います。30分前に、仲間の1輌が川に落ちました。さらにそこへ、ダージリンさん率いるグロリアーナ本隊の猛攻を受け、現在、私たちは陣形総崩れの体を成し、三方から迫るグロリアーナチームに追い詰められ、眼前の狭いクレーターに逃げ込もうとしています。相手は強襲浸透戦術を習得し尽くしていて、こちらの先手を打ってきます。本当に本当に強いです。間違いなく、強敵です。ですから、みんなにはもう一度、私たちの状況を説明したいと思います』

 

 そこで一度切り、全員に言葉が行き渡るのを待つ。彼女たちの表情は一ミリも変わらない。従容として直立する様は、まるで戦車の化身のようにほんの少しも揺らがなかった。その悠然とした力強い姿に、私は炎を浴びたように熱く勇気づけられる。この一年間、一緒に成長してきたのはあの人と私だけじゃない。みんなで成長してきたんだ。

 仲間たちの信頼に応える覇気を声に漲らせ、私はカッと目に力を込めて、全身全霊で告げる。

 

『|全て作戦通り《・・・・・・》です。|最初から今まで《・・・・・・・》、|全て《・・》。これもみんなのおかげです』

 

 誰が予想するだろう。誰が思い至るだろう。あの伝統ある黒森峰が、あの由緒ある西住流が、|こんな作戦《・・・・・》を執るなんて。私自身、信じられない。でも、あの人は言ってくれた。私には私の戦車道があると。私にしか出来ない、私だけの戦車道があるのだと。その戦車道を、誰よりも、他ならぬ私よりも信じてくれているのだと。

 仲間たちの目を一人ひとり見詰める。勝利への決意に静かに燃える表情が、私を信頼して浮かべる笑みが、私の心を限界以上に奮い立たせてくれる。限界など無いと錯覚するほどの途方のない力が、今、この胸の中に確かに実存している。隊長という重責を|楽しい《・・・》と思えるほどの余裕が、この手の中に確かに握られている。

 

 

 

―――さあ、作戦開始よ。

 

 

 

 またもあの人の幻聴が間近に聞こえる。きっと、幻聴じゃないのだろう。あの人も、まさにこの瞬間、作戦通りに事を進めようと濁流を掻き分けて踏み出し始めている。危険な役回りを飄々として受けてくれたあの人が、難しい作戦を難なくこなし、喜々として大好きな|戦場《いくさば》に駆けて来ようとしている。無線が通じなくても|理解《わか》る。あの人が私を信じているように、私もあの人を信じているから。

 

『それでは、“ゴボゴボ作戦”から第二段階の“ガブガブ作戦”に移します。各車、行動を再開して下さい』

 

 後方16輌、|前方1輌《・・・・》の各車長が旋風のような動きでハッチの中に滑り込んで各々の闘牛を鞭打てば、放射された排気炎が大気を揺らしてエンジンの咆哮を上げる。

 私は今、何の疑いもなく、自信と共に私の戦車道を歩むことが出来ている。だったら、あとはただ|証明《・・》するだけ。あの人の夢が、西住みほという夢が、誰も見たことのない最高の夢だと、全ての人に胸を張って誇れる夢なんだと証明するだけ。それが、あの人からの底知れない友情へ果たすべき、私の義務なのだから。

 

 

 

―――|戦車 前進《パンツァー・フォー》。

 

 

 

 視界の隅に、銀色の髪が靡いた気がした。ティーガーⅡの凄みある形容が激流を物ともせず驀進し、勢いを殺すこと無く川辺に上陸したかと思いきや、そのまま躊躇うこと無く鬱蒼とした林に突っ込んでいく。目指すは|第一の目標《・・・・・》。|黒森峰《こちら》の残存戦力18輌を三方から包囲するために、6輌編成に|別れてくれた《・・・・・・》グロリアーナ別働隊。

 

『|戦車 前進《パンツァー・フォー》』

 

 ティーガーⅠ【|改《・》】が再び大地を踏み締めて進み始める。|特別な装甲《・・・・・》を纏わせた愛機は、ティーガーⅡの姉妹機そのものだ。一見すると不必要な装甲にも、車両の配置にも、全て意味がある。その意味が結実するまで、あと少しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、全てのことが一瞬のうちに起こった。

床で誰かのカップが砕け、紅い紅茶が飛び散る。

尊敬する隊長が叫ぶ。

 

 

 

 巨大な風船が眼前で破裂し、衝撃音に身体全体を包み込まれる。奥歯がガチガチとぶつかり、オレンジペコは否応なしに座席に叩きつけられた。


(続く)

小説アイデア。ファンタジー世界。勇者(♂)と魔物(TS)の話。(11/20加筆修正)(誰かタイトルを授けてください!お願いしますなんでもしますから!) 

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 人間を心から信じ、護る勇者。その人間への信頼を傷つけようと、ある魔物が傷つき弱々しげな少女に化けて、勇者一行が立ち寄る予定の小さな村に忍び込む。魔物はそこで自らが人間によって酷い目に遭わされ、それを見た勇者が人間に対して幻滅するように仕向けるつもりだった。
 ところがその村は誰も彼もが優しく、少女の姿をした魔物は労られ歓待され、あれよあれよという間に老夫婦に引取られてすっかり村の一員になってしまう。自分が知る意地の悪い人間との激差に混乱する魔物。そこに勇者一行が現れるが、その村はなんとよりによって彼の生まれ故郷だった。



↑というのをTwitterにアイデアとして書いた直後にいろいろ浮かんだので、↓にまとめます。



 物語の舞台はファンタジー世界。人間たちの世界が、魔王率いる魔物たちに侵略されつつある。そんな中、聖剣を手にした勇者とその仲間たちが、魔王を倒す旅をしている真っ最中。

 主人公はとある魔族。中性的な容姿をしていて、紺色の肌に額から伸びる二本のツノがなければ痩躯の青年にしか見えない。魔物に犯された人間の女から生まれた魔族と人間のハーフで、物心がついた後数年は人間の世界に身を置き、地方都市の暗く汚い裏路地で母親に育てられる。しかし、“魔族と交わって生まれた子供”ということで親子は迫害を受け続けた。どこに行っても排外的な人間によって乱暴に追い出され、唾を吐き捨てられた。母親の故郷は遥か遠く、そこまで帰られる金銭的なゆとりはなかった。夫になるはずだった男は、魔族に犯された母親を「汚らしい」とあっさりと捨てた。頼れる物もいない都市で、親子の身よりは呆気なく失われてしまった。若い母親は昼夜問わず働くも生活は常に苦しく、ついに重い病気を患ってしまう。しかし周囲の誰も母親を助けてくれず、母親は見る見るやせ細り、苦しみながら目の前で病死した。それが人間を見限るキッカケになった。人間全体に強い不信感を抱き、以後は自身の血の半分を恨み、魔族の側に立っていた。

『ああ? “勇者”だぁ?』
『ああ。そいつの名前は、なんだったかな、セイランだったか、センガンだったか。まあいい。とにかくかなりの強者らしい。そいつはなんでも魔王様のお命を狙っている不届き者で、人間たちからは勇者様と呼ばれているらしいぞ。ひひ、生意気な奴だ』

 ある時、人間の尖兵として魔族と戦う人間の青年の噂を聞いた。その青年の、お伽噺の勇者そのもののような清廉潔白な立ち振舞いの話を聞いて、胡散臭さと忌々しさを覚え、ゾッとしたサムネを覚える。ハーフは人間のおぞましさをよく心得ていた。

『……いいこと思いついたぜ。これが成功すれば、魔王様に取り入れるかもな』
『あ? おい、今なんつって―――あ、お、おいっ!?』

 ハーフは意地の悪い思いつきを閃いて、実行のために翼を夜空に広げる。ハーフは決して戦闘力に秀でているわけではないが、とある才能があった。今回はそれが大いに役立つと考えたのだ。
 数日後、星を背に夜空から見下ろすのは、勇者一行が向かう先にある小さな村だった。豊かな都市群からは遥かに遠い、山々に囲まれた平野にポツンと存在する田舎村。街灯などとは無縁の村はわずかな灯りしかなく、発見するためにしばし飛び回らねばならないほどだった。ハーフが勇者一行の辿るルートを調べたところ、約1ヶ月後に至るだろう地点の周囲にはその村しかなかった。魔王城への道筋からは大きく迂回することになるが、勇者たちは必ずここに来ると確信していた。

『ふん、なんだ、ここは。なんてつまらない、ちっぽけな村なんだ』

 その村については、ひと目空から観察しただけでその小規模さが窺えた。人間離れしたエメラルドグリーンの双眸が我知らず嘲笑に歪む。子どもが走り回れる程度の広場を中心にして、簡素な木造の家々が転々としている。どれもほとんど同じ大きさで、2階建ての方が少ない。幅を利かせているのは家よりも田畑だが、それらの面積もたかが知れている。それらを広く囲う、獣や魔物の侵入を防ぐ防護柵は、よく手入れされているが見るからに貧弱だ。見た感じ、人口は200人に届かないだろう。戦闘力が低い自分でも大した妨害に合わずに大暴れできそうだ。ちょっと強い魔族の群れが来たら間違いなく一時間と経たずに生きる者のない地獄に変わる。そうなっても面白いが、もっと面白い企みがある。
 コウモリのような翼を折りたたんで近くの森に降り立つと、目を閉じて魔術を行使する。数秒後には、ハーフは姿を変え、成年に満たない少女の形態へと変化していた。だが、普通の少女ではない。飢えて限界まで痩せ細り、頬には頬骨と血管が浮き出ている。落ち窪んだ目元は如何にも不健康そうだ。栄養失調で脱色した淡黄色の長髪に、白を通り越して透明に見えるような病的な肌。昨晩の雨で出来た足元の水たまりを覗き込めば、月を背景にして少女の顔が映り込む。

『ふん、こんなものか』

 自身の魔術の腕前にニヤと笑みを零す。狙い通りの風貌だった。化ける前の自分の顔立ちをそのまま女にして幼くしたような感じだが、コケた頬と紫色に変色した唇は今にも倒れて野垂れ死にそうに見えた。ある目的のために、わざとこうして見窄らしい少女へと化けたのだ。ハーフは変化魔術を得意中の得意としていた。このおかげで人間たちに紛れて情報を収集し、勇者一行の行き先を調べることが出来た。

『あとは、服だな』

 独りごちると、衣服をわざと破いて肌のほとんどを露出させ、その辺の野茨に身体を擦り付けて傷だらけになる。少女特有の薄っぺらな皮膚はいとも簡単に鮮血を吹き出し、思わず顔を顰める痛みを発する。風貌までは変化できても、衣服や怪我までは操作できないのが欠点だった。水たまりの底から掬った泥を塗りたくり、泥だらけになる。一気に全身から不衛生な臭いが立ち昇りだした。傷口に泥が染みて鋭い痛みを発し、さらに失血と寒気が背筋を這い登ってきて華奢な肩がぶるりと震える。

『この程度の出血で気分が悪くなるなんて、なんてひ弱なんだ。だから人間は嫌いだ』

 完璧を期するためとはいえ、自らに流れる血の半分の脆弱さを見せつけられたことにハーフは舌打ちをして地に唾棄した。本来、この魔術は自分を真の魔族の姿に近づけるために独学で学び始めたものだった。それだけに人間に化けるというのはプライドを一分一秒ごとに傷つけるもので、あまり進んでやりたくはなかった。

『まあ、一ヶ月程度だろう。勇者を名乗る人間に絕望を見せ付けられるのなら、我慢してやるさ』

 変化魔術にも段階があり、ただ蜃気楼のように他人の姿を自分に投影するものから、自身の肉体そのものを分解・再構成する高度なものがある。今回行使したものは後者だ。これは長期間変化し続けたりすると元に戻れなくなる危険がある。魂が器の形に馴染んで元の姿を忘れてしまうのだ。一年間猫の姿に変化していたら、それっきり戻れなくなった馬鹿な魔族を知っている。しかし、今回の自分の場合は長くとも一ヶ月程度だろうからと、あまり心配はしていなかった。
 こうして無力で弱々しい少女となると、“彼女”となったハーフはよろよろと力ない足取りで村へと向かう。最初はわざと足を引きずる風を装っていたが、やがて疲労によって本当に足が棒のようになった。額に玉のような汗が浮かび、首筋に流れる。変化魔術が完璧過ぎたのだ。『これだから人間は』と口汚い罵倒で毒づく間、彼女の脳裏に結ばれるのは今まで見てきた悪しき人間たちの横暴な振る舞いだ。彼女の知っている人間は、他人の弱みに平気で浸け込むおぞましい生き物でしかない。母親を見殺しにした、情け容赦のない心の荒んだ種族だ。目の前の村の人間たちも同じように、見窄らしい少女が助けを求めても、誰も彼もが逆にさらに奪えるものは全て奪おうと襲いかかるに違いない。そうして人間の暴力性と残虐性を引き出し、勇者に見せつけることで、彼の人間を想う心を引き裂いて、『そら見ろ、人間に救う価値なんて無いんだ』と嘲笑うつもりだった。上手くいけば、魔王やその配下に気に入られて、そのまま取り立ててもらえるかもしれない。ぜえぜえと喉を掠らせながら、彼女は青ざめた顔でほくそ笑んだ。


 ところが、村について早々に彼女の目論見は躓いた。


 村の門を叩き、掠れるような声で助けを求める。小さな覗き窓からこちらを見つけた門番の目がギョッと見開かれる。すぐに扉が開き、村の中では一番力自慢なのだろう中年の農夫が腕を掴んで引っ張り込む。「汚らしい女め、村に近づくな」と罵られるか、飢えた男たちの慰みものにされるかのどちらかだと思っていたが、後者のようだ。『さあ本性を見せろ人間め』と内心でほくそ笑んでいると、彼女の剥き出しになっていた肩にさっと服が掛けられた。土の臭いと体温が染み付いたそれは農夫がたった今まで来ていた上着だった。ポカンとする彼女を、自分が泥だらけになることも厭わずに農夫はさっと抱き上げる。彼は大声を上げながら必死の形相で全力で走り出した。向かった先では農夫の妻やその隣人たちがパタパタと寝巻き姿で集まってきて、かき集められるだけの物資をかき集めて手当を始めた。口々に「大丈夫だったかい」「ああ、嘘でしょう」「気をしっかり持つんだよ」と元気づけられながら、沸かした湯に浸した清潔な布で全身を拭かれ、傷を手当され、口にミルク粥を運ばれ、暖かなベッドに放り込まれて手を握られたまま寝かしつけられる。『こ、これはきっと人間の罠だ。体力をつけさせて長く利用するためにわざとこうして歓待する振りをしているんだ。オレ様は騙されないぞ』。
 とりあえず寝たふりをしてその晩を過ごし、翌日、翌々日と様子を窺う。だが扱いは変わらず、村民たちの態度は優しかった。「誰かに襲われたのか」「他に家族はいるのか。無事なのか」。「助けに行こうか」と親身に問われる質問に、彼女は億劫になって『何も覚えていない』と記憶喪失を装った。村民たちはますます親切になった。困惑しっぱなしの彼女は、しかし勇者一行が来た際にはなんとしてもこの人間たちの汚い本性を暴き出して勇者に目にもの見せてやると決心し、まだそこにいることを決める。

「今日から貴女はうちの娘よ」
「さあ、何も心配はいらない。ゆっくりしなさい」

 そんな彼女は、村の外れに居を構える老夫婦に引き取られることになった。まだそれほど老いてはいないのだろうが、柔らかく落ち着いた佇まいが、良い意味で歳を重ねて達観しているような印象を夫婦に纏わせていた。老夫婦は、事情も知れぬ痩せ細った少女を一目見るだけで、嫌がる素振りなど一切見せずにそれどころか快く彼女を受け入れた。そして“カティ”という名を与え、本物の娘のように可愛がった。家庭的な老婆の料理は質素ながら非常に美味で、貧しい生まれだった彼女は初めて口にするまともな食事に驚き、ついつい食べすぎた。がっつき過ぎると、かつては街に出て教師をしていたという老爺が「これこれ、女の子がはしたない」と窘めながら丁寧にマナーを教えた。老婆は、昔死んだ娘が着ていたという服を彼女に与えて着飾り、裁縫や料理、花の愛で方などを教えた。老爺は穏やかな態度と洗練された訛のない言葉で、読み書きなどの基礎的な教育を施した。娘が使っていたという部屋を与え、貴重であるはずの化粧道具、本、ペン、紙などを与えた。『敵であるオレ様に知識を与えることを後になって後悔するがいいさ』と、負けん気の強い性格だった彼女は“カティ”であることを受け入れ、教えられることを貪欲に呑み込んだ。

「おはよう、カティ。元気そうだね。お二人は元気かい?」
「やあ、カティ。今日も綺麗だね。ほら、今朝取れた野菜をあげよう」
「カティお姉ちゃん、今日は何して遊ぼうかしら?」

 カティはあっという間に回復した。元々、変化魔術を行使する前はピンピンしていたこともあり、栄養を取り戻した金髪は夕日を浴びる稲穂畑のように輝き、肌は冬の朝日のように真っ白で、健康的にふっくらした頬は少女らしいピンク色が差している。唯一、化ける前と変わらないエメラルドグリーンの瞳は、溌剌とした端正な顔つきに深い神秘性を与えて、カティを魅力的な美少女として際立たせていた。

「おはようございます、カーリーンさん。ええ、おば様もおじ様も元気ですわ」
「ありがとうございます、バッツィさん。さっそくおば様と戴きますわ。お礼のパイを楽しみにしててください」
「それじゃあ、トーリーちゃん。今日はお花の冠の作り方を教えてちょうだい」

 カティは一ヶ月で村の一員となっていた。人間の本性を引き出すために、まずは親密になって裏の顔を探り出そうとした。きっと誰もが、裏ではカティを排除したいと願っていると考えた。しかし村民たちは、カティが知っている底意地の悪い人間とはまるで正反対だった。カティの真の目的など露とも知らず、生まれた時から知っていると言わんばかりに気さくに話しかけ、受け入れた。本性を現せと近づけば近づくほど、彼らの善の面を見せ付けられて内心ウンザリするばかりだった。
 その内、生まれて初めて自室というものを与えられ、カティはそこで過ごす時間が少しずつ増えた。老爺から文字の読み書きを教わり、老婆から本を読んでもらった。そうして得た知識で、読書という趣味に目覚めた。最初はほとんどが挿絵の幼児向け絵本だったが、自分でも知らない要領の良さが功を奏し、今は挿絵の方が少ない本を読めるようになった。上手い料理を食べること、上手い料理を作ること、勉学によって自分の成長を目に見えて実感することは楽しかったが、特に読書という行為はそれらよりも頭一つ抜けてカティを夢中にさせた。村にやってきた目的を忘れてついつい没頭してしまうこともあった。本など、文字が羅列しているだけの、記録を残すためだけの面倒くさい紙の束としか思っていなかった。だがそれは違った。カボチャ半分の重さにも満たない本の中には、別の世界が広がっていた。嫌な記憶や荒んだ俗世を忘れさせてくれる未知の世界が内包されていた。その世界に飛び込むことは、カティには純粋な喜びだった。新しい本を与える度に目を輝かせてそれを胸に抱き締めるカティに、老夫婦は微笑ましげに笑い合い、次はどの本を進めようかと楽しそうに吟味した。
 
『それに―――なんだか、懐かしい』

 与えられたその部屋は、どこか懐かしい匂いがして落ち着いた。そこにいて静かに目を瞑ると、ずっと昔に忘れてしまった誰かに抱かれているような気がした。膝の上に座って、頭を撫でてもらっている気がして、穏やかな気持ちになれた。


 ある晩、カティは遠い昔の記憶を夢に思い起こした。死ぬ間際の母親が、棒きれのようになった手でカティの頬を撫でる。もはや名前すらも覚えていない、記憶から締め出したいつらい記憶の象徴。消え入りそうな声で子守唄の一説を呟いて、カティの目を見つめる。自らの死期の訪れを悟り、この世に残すことになる我が子の将来を案じての子守唄だった。

「“幸せにおなり、どうか幸せにおなりよ、愛する子よ、愛する子よ、どうか”―――………」

 つうっと涙を流し、唐突に、その手がズルっと力を失う。「お母さん?」とその手を拾い上げるが、反応しない。生命が抜け落ちた眼球が自分を映す。天井近くを飛んでいたハエがそこに止まる。母親は何も反応しない。眼球の表面をハエが啄む。反応しない。反応しない。自分は一人ぼっちになった。自分にもハエが集る。反応しない。反応しない―――。

「カティ」

 ハッと目を見開くと、枕元に母親がいた。生きて、微笑んでいる。いや、それは老婆だった。似ている、と思った。幻覚と重なった目鼻立ちに共通する部分をいくつも見つけられた。幻覚と老婆の奇妙な一致が尾を引いて意識を混濁させる中、老婆は玉の汗を浮かべるカティの額を自らの裾でそっと拭く。バクバクと動悸する心臓を抱えながら、カティは悪夢を久しぶりに見たこと、他人が近づいても気付かないほど警戒を解いてしまっていたこと、そして、安心して眠りに落ちるほど老夫婦に心を許してしまっている自分を理解してショックを受けた。老婆の隣には老爺もいて、彼の手はカティの手をそっと握っている。カティによって力いっぱい握りしめられた手は蒼白になっていたが、老爺はそれを顔に出さない。うなじを垂れる不快な汗を、老婆が拭き取る。

「貴女の苦しげな声を聞いてね。こんなにうなされて、可哀想に。きっとイヤな夢を見たのね」
「おば、さま。おじ、さま。オレ、いえ、わ、私は」

 何でもないフリをしようと反射的に笑おうとしたカティに、老爺が首を振る。「何も言わなくていい」という意志を視線だけで伝えると、幼子を寝かしつけるように髪を撫でる。分厚く力強い手の平の人肌が心地良い。老婆は月夜に流れる雲のように澄んだ声音で子守唄を歌い出した。そこに老爺の優雅なバリトンも加わり、子守唄は思わず耳を澄ましたくなる見事な音楽となった。

「“幸せにおなり、どうか幸せにおなりよ、愛する子よ、愛する子よ”」
「“いつまでも、いつまでも、草原を踊る子馬のように、風に舞うトンビのように”」

 なんと奇妙なことに、それは遠い昔に母親が聞かせてくれた子守唄と同じだった。しかし、今は驚きよりもさざ波のようなゆったりとした眠気に身を委ねたかった。警戒が解され、身も心も預けていいという安心感に包まれる。荒く上下していた胸元がだんだんと落ち着きを取り戻し、瞼がゆっくりと意識に幕を下げていく。落ち着きを取り戻したカティを見て、老夫婦は心から安堵のため息をついて互いに身を寄せ合う。

「―――なんてこと。本当にあの娘にそっくり。ねえ、あなた。まるであの娘が帰ってきたみたいだわ」
「―――ああ。ああ。きっと偶然なんかじゃない。運命なんだ」

 老夫婦の囁く声が聞こえたが、その意味に思考を巡らす前に眠りに滑り降りていった。ベッドから母親の匂いがした気がした。完全に眠りに落ちる寸前、かつてこの部屋の主だったという、老夫婦が失った娘のことを思った。どんな女だったのだろう。気付いていない断片がたくさんあって、そこに何か答えが隠れているという予感がした。『まあ、たまには、いいか』。その予感をあっさりと手放し、カティは全てを忘れて寝息を立てた。
 迎えた翌朝はこれまで感じたこともないほどに清々しかった。まるで心を洗濯したように軽かった。熟睡したのは母親の胸に抱かれなくなって以来初めてだった。

「カティ、大丈夫かい?」

 老夫婦が心から心配そうに声をかけてくる。ずっと枕元で付き添っていたせいで瞼下にクマを浮かべた二人に、『これくらいはくれてやる』と、カティは剥き出しの感情を見せてやることにした。それはそれは美しい微笑みに、老夫婦はカティを抱擁して応えた。イヤではない。それをイヤだと思わない自分自身も、不思議とイヤではなかった。人間など、情けをかけてやる価値もない、魔王様によって一人残らず殺されてしまえばいい種族だと思っていた。今でもそう思っている。でも―――自分を抱きしめる二人がそうされるのは、想像したくなかった。


 一ヶ月と半を過ぎた頃、ついに勇者一行が村にやってきた。カティは庭に張ったロープに洗濯物を干しているところだった。その手を止めて、遠くに見える勇者の横顔を呆然と見た。すっかり忘れてしまっていたのだ。『本来の目的を忘れるとはなんてことだ。何も準備できてない』と手を握りしめて臍を噛む。
 村の中心広場で、勇者はやけに親しげに村人たちと接している。腰に刺した綺羅びやかな聖剣が、如何にも“私は勇者です”と主張している。しかし、その外見はそこら辺の優男のようだった。“勇者は剣の使い手で魔法にも精通している歴戦の猛者”と噂で聞いていたが、年齢は意外なほど若く、今のカティよりほんの数歳年上といった程度だった。身長も手足もひょろ長いが、筋骨隆々といえるほど膨らんではいない。まだ少年の面影が匂う顔立ちは童顔で、ヒゲを生やしても到底似合わないように見えた。勇者は同年代の若い農夫と肩を叩き合い、初対面にしては砕けすぎている表情でその他の村人たち一人ひとりと握手を交わす。そして旅の仲間たち一人ひとりを人々に紹介し、紹介に預かった仲間たちは誇らしげに挨拶して拍手を受ける。誰も彼もが勇者を慕っていることがわかる。一見して勇者の人柄が知れる情景に腹を立てていたカティは、『いや待て』と考え方を変えることにする。『こうなったら、昔からここにいる村人を装って、勇者に近づいてやろう。そうして無防備になったところで弱みを掴み、その情報を魔族に伝えるなりなんなりして利用してやろう』。カティはニヤと人気のないところに笑みを向ける。老夫婦にはほんの少し心を許したとは言え、人間への恨みが消えたわけではない。
 さあどうやって近づいてやろうかとじっと様子を窺うと、不意に村人の一人が手を仰いで、「あっちを見ろよ」と言わんばかりに勇者を促した。その手がなぜか自分を差しているように見えた。声は聞こえないが、紹介されているような雰囲気を感じ取った。促された勇者がこちらを見る。カティは首を傾げながら勇者を睨みつけていると、歴戦の直感から勇者は自分に向けられる視線を明確に感じ取った。勇者たちのいる中心部からこの村外れまでまだ距離があるというのに、勇者の視線はピタリとカティのそれと交差する。そして、その象牙色の目がカッと見開かれた。

『この距離でオレが魔族だとバレたのか!? そんなはずは……!』

 一瞬、自らの思惑がバレたのかとギクッと肩を強張らせる。それを悟られないように、必要以上に親しげな微笑みを顔に貼り付け、まるでお姫様がするような深々とした会釈を勇者に返した。笑いかけてやるのも頭を下げるのも不愉快だが、勇者の心を引き裂くためには仕方がない。
 会釈していた頭を上げて、ちらりと様子を覗く。勇者は丸くした目をそのままにして動かない。勇者と同年代の農夫が、なぜか石のように立ち尽くす勇者の背中を肘で突っついた。何かを言われたらしい勇者が、その時ばかりは思春期の少年のように顔を真っ赤にして抗議し、逃げ出した農夫を追いかける。農夫が勢い余って干し草の山に頭から突っ込み、勇者もそれを追って干し草に身を沈める。それを見ていた勇者の仲間たちが腹を抱えて笑い出す。まるで昔からの友だち同士のようだ。おかしい、ここは勇者一行が旅の途中に立ち寄った村のはず―――。

「ふふ、立派なお役目を背負っても、昔と変わらずやんちゃな坊やね。カーリーンのところの坊やとは昔っからあんな感じだもの」

 背後から近づいてきた老婆が気になる台詞を口にする。キョトンとするカティになみなみと紅茶を注がれたカップを手渡し、老婆は「そうだったわね」と手をポンと叩く。

「そういえば、カティが会うのは初めてだったわね」
「“が”?」

 現実より先に、第六感が老婆の答えを察した。背中から汗が吹き出て、自分が決定的なミスをしていたことを悟らせる。わざわざ魔王城への直接ルートから大きく外れるコースを取ってまで、勇者はなぜこの村へと向かっていたのか。その目的まで調べようとしなかった過去の自分を悔やむカティに、老婆は驚愕の真実を告げる。

「あれはセイラム。この村の出身で、今は勇者をしているわ」

 カティは額を抑えて天を仰いだ。


 

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どもども。主(ぬし)です。駄文書きです。趣味は映画と小説とニコニコ動画です。灼眼のシャナやFate/zeroのSSなどを書いてます。小説の小ネタや、短編SS、映画のレビューやちょっとした雑記などを掲載していこうと思います。

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